No.220269

鳳凰一双舞い上がるまで 雛里√ 5話

TAPEtさん

真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。

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2011-06-02 21:11:30 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:4604   閲覧ユーザー数:3898

雛里SIDE

 

 

「先生」

「どうしたのですか、雛里?」

 

買い物に出たあの日から何日かが経って、私は授業の後先生のところに一人で訪れました。

 

「実は、相談したいことが……」

「……いいでしょう。ほら、入って座って」

「はい」

 

椅子に座ると、先生がお茶を入れてくれます。

先生の部屋は良く将来についての悩み事やいろんな塾での出来事で苦しんでいる娘たちが良く相談に来ます。

それで先生の部屋はいつもそんな娘たちを落ち着かせるためのお茶や、香とかが備えてあります。

それで、ここに来ると心が落ち着いて、嫌なこととか、直ぐに吐き出せるようになります。

 

「……はぁ……ふぅ」

 

深呼吸をして、お茶を一杯飲んでから私は先生を見ました。

 

「どうしたのですか、雛里。朱里も居ないであなた一人で来るなんて珍しいですわね。……もしかして」

「ち、違います。別に喧嘩とかしたわけではないです。今回はそれでなく……この前街であるものを見て、それを相談しようと思って」

「あるもの?」

「はい」

 

私はこの前街で見た、天の御使いについての預言書について、先生に話しました。

 

「そう、そんな話があったのですか」

「朱里ちゃんはあまり信じていない様子でしたし、一刀さんもあまり良しとは思ってない様子でしたけど、私はきっと、その話は一刀さんのことを差しているのだって……」

「あの二人が考えたことは間違いありませんわ」

「……へ?」

 

どういうことですか?

 

「実際に、そのような予言は、大陸の各地で噂されているそうです。どこから始まったのかはわかりませんが、流れ星を乗って乱世を鎮める天の御使いが落ちてくるという予言はここ最近広まってきている予言の一つですわ」

「……先生も、そういうのはないと思っているのですか」

「…そうですね……朱里と北郷さんが言っていた通り、天の御使いというものは本当にあるとしても、本当に乱世を鎮めるほどの力を持つためには、人たちの信望がなければなりません。だけど人の心が弱っているこの時期。そような話が本当だとしても、それを悪用するか、あるいは自分たちの良いように解釈し、民たちが無理な要求をすることもあるでしょう」

「………」

「もし、雛里が思ってるように北郷さんが本当に天の御使いだとしても、それはそんなに簡単な道ではありません。すごく辛く、そして寂しい道になります。今このせかいに一人で落ちてきたばかりの北郷さんが、そのような道を選ぶのでしょうか」

「それは……」

 

そんなふうには、考えたことがなかったです。

たしかに天の御使いという人が居て、その人が乱世を鎮めるとしたらそれはとても素晴らしいことです。だけど、一刀さんはこの世界に来たばかりです。知らないことも多く、まだまだ不安定で、その様子がどこか危ういです。

そんな一刀さんに、天の御使いという大銘を勝手に背負わせようとするのは、一刀さんにあまりにも酷な話です。

 

「もっとも重要なのは北郷さんがどうおもってるのか、本人の意志を覗わなければならないでしょう。ですが、もし北郷さんがその道を拒むとしても、それもまた仕方ないこと。逆にその道を選ぶとすれば、誰かはその道を一緖に歩いてくれなければなりません。辛い道、一人だけでは終わりまでたどり着くことができないでしょう」

「………」

 

一緖に歩いてくれる人……

 

 

一刀SIDE

 

「ちゃんと人の話を聞いてください」

「………聞いている。ここのご飯が美味しくなって話だっただろ」

「違います!というかそんなこと思ってたんですか?」

 

部屋の中で腕立てをしていたら、孔明が入ってきた。

 

「特に昨日の夕飯は塩味が足りなさすぎた」

「それ私が作ったんですけど…!」

「塩もっと使え」

「十分使ってます!それ以上使うと病気になります」

「………その話じゃなかっただろ」

「それはこっちのセリフですー!!」

 

あまり冗談が通じないな、孔明は。

 

「それで、俺の噂がなんだって」

「変な方向に飛んでるんですよ。雛里ちゃんと私が北郷さんと一緖に出かけた以来から、二股だの三角関係だの、北郷さんが買ってくれたその飾りのこともあって、もう他の娘たちの頭は桃色妄想の香煙です」

「……所詮は噂だろ。孔明がこうして俺に言い付けに来ないで、平然としていれば問題なんてない」

「……北郷さんが思っているぐらいに簡単な話じゃないんです」

「………」

 

孔明は本気で悩んでいるようだった。

以前にも言っていたように、こういう状況が続くと半閉鎖されているこの私塾で、士元…雛里と孔明は更に孤立されるはめになる。

 

「話はわかった。これ以上疑われるような場面を作ることを防がなければならない。今度からこっちに来るな。雛里にもそう言っておけ」

「……ありがとうございます」

「用事が済んだのなら帰ってもらおう」

「……それじゃあ」

 

孔明はそのまま部屋を出て行った。

 

「………ちっ!」

 

何だ、この気持ち悪いモヤモヤさは。

以前一度思った時にはなんともなかったはずが……何故また雛里と親しくしていてはならないと思うとこうもイライラしてくる。

 

「……鍛錬なんてしてられるか」

 

寝よう。

何もかもうざったい。

 

「………」

 

 

 

 

雛里SIDE

 

 

「!朱里ちゃん?」

「雛里ちゃん、ここにはどうしたの?」

 

一刀さんの部屋に行く途中で、何故かそっち方向から戻ってきている朱里ちゃんとばったり会いました。

 

「あの、ちょっと一刀さんと話したいことが……」

「…あの、雛里ちゃん」

「……何、どうしたの、朱里ちゃん」

「…北郷さんに言ってきたの。当分、顔合さない方がいいって」

「……え?」

 

どうしてまたそんな…

その話はもう終わってたんじゃなかったの?

 

「朱里ちゃん、どうしてまたそんな…」

「雛里ちゃんは最近なにも感じてないの?」

「え?何を……」

「最近、私たちが見ないところで、皆騒いでるの。私たちと北郷さんのこと……」

 

…確かに最近、というのはあの時街から戻ってきた以来、他の娘たちが後で話してることが増えたかも。何か私が近くに行くと皆消えちゃうし。

 

「……ただの噂話の話題が必要なだけでしょ?別に迷惑かけられてるわけでも……」

「……………」

「…朱里ちゃん?」

「…………うぅ…」

「…朱里ちゃん?」

「雛里ちゃん………」

「あわっ!」

 

急に朱里ちゃんに抱きしめられて、私は驚きました。

やっぱり今日の朱里ちゃん、ちょっとおかしいです。

 

「朱里ちゃん…どうしたの?」

「…お願い、雛里ちゃん。今は何も聞かないで……北郷さんにも暫く会わないで……雛里ちゃんの友たちとしても一生のお願い……」

「…………」

 

朱里ちゃん、本当にどうしちゃったの……

 

 

 

一刀SIDE

 

「………」

 

俺は得ることを怖がっていた。

手に入れたのは、いつか失わなくてはならない時が来る。

特に、人はそうだった。

人はいつも側にいてくれなかった。

子供を養うべき父さん、母さんも幼い時俺を一人にし世を去り、いつまでも続きそうだった祖父さんとの道場でも日々も味わえなくなって二年。

失うことが怖かった。いや、むかついた。

だから人なんて得ようとしなかった。友たちなんて必要ないと思っていた。

なのに、俺はどうして彼女にだけは興味を持った。

 

「何故……」

 

こんなのは俺のやり方ではなかったはずだ。

何故雛里には心を委ねようとしておいて、今になってはまた失うことを知っていながらもこうも腹が立つ。

 

「……氷龍、お前には分かるか」

 

 

「ひょうりゅうって誰ですか?」

「!」

「きゃはー」

 

声がする方を振り向くと、部屋の窓側に薄緑色の髪型に、女の子一人が立っていた。

薄い緑色の髪に、孔明や雛里みたいな帽子ではなく、何だかちょっと似合わない大きくて黒いリボンで髪を結んでいた。

 

「……お前は…?」

「あ、はじめまして。カナは徐庶、字は元直で言いますよ。真名は奏里ですけど、奏って呼んでくれたらいいのですよ」

「徐元直?」

 

孔明が居る前に劉備を支え、母を攫った曹操に行く前に劉備に伏龍の存在を教えた男。

まさか元直も女の子で、しかもこの塾の生徒だったのか。

 

「よいっしょっと」

「門から入ってこい」

 

というか何故入ってくる。

 

「きゃは、あなたが北郷一刀さんですね。カナ、実物を見るのって初めてですよ」

「……」

 

おかしい奴だな。

なんというか…すごく独特な感じが漂っていた。

独特というか……

 

「でも、分かるのですよ。カナは人を見間違ったことなんてないのですよ」

「……お前…」

「「俺(カナ)と同じ匂いがするな(のですよ)」」

 

 

 

 

人を拒むわけじゃないのに、人を遠ざける。

一定の距離を置かないと不安になる。

一度警戒を崩してしまうと内外の区切りがなくなる。

そして、失ってしまうことを怖がる。

その故にまた人が自分が決めた距離以内に近づくことを拒む。

 

「カナはわかるのですよ」

「あの元直が……な」

「カナはカナって呼んで欲しいのですよ」

「初見で許すほど軽いものではないと聞いているが」

「キャハ」

 

元直は寝台の私に近づいて上半身だけあげている私の目の前まで顔を近づけた。

 

「カナは好きな人じゃないと真名なんて許す気ないのですよ……一刀さんは初めて見た時からカナの気に入ったんですよ」

「……変な奴だな」

「よく言われるのですよ」

「…ああ、俺もだ」

「やっぱり似たもの同士なのですよ」

「しかも、こうして見ていると、すごく気持ち悪い」

 

同族嫌悪というのか、これ。

 

「キャハハー、言うことが直線すぎるのですよ。そんな男はモテないのですよ」

「何故モテる必要がある。逆にお前はそんな性格をして男に嫌われることを恐れるか」

「そんなものなんて気にしないのですよ」

「理由は?」

「カナは普通の人には興味ないのですよ」

「……そうだな」

 

普通の人間、という意味は良くわからないが、兎に角人を拒む俺たちみたいな人に絡む人達というと、あまり普通の範囲に居る人とは思えない。

例えば及川がそうだった。

友たち一人あらず、そう続くはずだった学校の生活が、あいつがあったおかげで寂しくなかった。

俺が他の連中に当たるように冷たく当たっても、明日になるとまた及川は俺と何もなかったかのように友たちとして接した。

たしかにあれは普通の人間とは言わない。

 

「で、ここには何のようだ」

「あ、そうだったのですよ」

 

奏と言った彼女はパチッと両手を合わせながら言った。

 

「一刀さんは、最近孔明ちゃんと士元ちゃんが生徒たちにどう言われているのか分かってますか?」

「…………」

 

俺は答えなかった。

それは、もし彼女が本当に俺と同類の人間だとすれば、それは俺の答えを求めるような問いではないからだった。

 

「…あの二人が塾で一位、二位を争う娘たちなのは知ってますか?」

「そうだな…」

「そんな着実だった二人が、あなたを連れてきた以来、度々に殿方のあなたと絡まっている姿を見ていて、良しとしない娘たちがいるのですよ」

「……ただの言葉としての戯れを越えているというのか?」

「それはもう…まだ抑えている方ですけど、昨日孔明ちゃん、裏で話していた娘たちと口喧嘩をしていたのに、そこで相手の娘たちに打たれたのですよ」

「…!!」

 

何故そこまで……

 

「理由は?」

「優等生を装って実は男の人にしっぽを振っている狐女、だそうですよ」

「理屈がおかしいだろ」

「イジメってそういうものなのですよ。もしくは、あまり長い間こんな山奥に閉じ込められていたせいでちょっと狂ったのかもしれないのですよ」

 

お前にそんなことを言われるあの娘たちも少し可哀想だな。

 

「あ、失礼なこと思っちゃうのですよ」

「失礼ではあるが、嘘ではない。俺は嘘は言わない主義だ」

「……じゃあ、聞きますけど、さっき孔明ちゃんが一刀さんに来た時、気づいてなかったのですか?」

「………」

 

いつもと様子が違った。

少なくとも初めての時、単に俺から雛里を守ろうとしていた頃とは違っていた。

それは、明らかに自分が巻き込まれていたから?

だからもっと必死にみえたのか?

いや、まだ何かある。

 

「孔明は恐れていた」

「………」

「が、あの時雛里を俺から守るために俺と雛里を遠ざけようとしていた頃の孔明を考えると、単に昨日の出来事だけで急に態度を変えたというのは何かが…足りない」

「キャハ、…やっぱり、一刀さんはカナと同類なのですよ」

 

奏のその笑い方は、その声が心掻き回すような気分がして、不意に聞かれると、まるでお化け屋敷に入って誰かが顔や首筋にこんにゃくを当てた時に背筋がびびっとする時のような気分になりそうな、そんな少し不気味で怖いものだった。

 

「実は、孔明ちゃんが恐れているのはカナなのですよ」

 

 

「…何?」

 

どういうことだ?

まさか、孔明を虐めたというのが奏お前か?

 

「そうじゃないのですよ。カナは孔明ちゃんのことが大好きなのですよ。孔明ちゃんにそんなことをする雌猫どもと一緖にしないで欲しいのですよ」

「……なら、何だ?そんなに彼女のことを大事に思っているのなら、何故孔明がお前を怖がると言う?」

「…一刀さんは思ったことがありませんか?」

「?」

「自分の手にあったと思ったのに離れていく人を見る時、ああ行かないで欲しいと、ずっと側に置きたいと、そう思ったことってないですか?」

「……あったな」

 

散々思っていた。

 

「つまり、お前にとって孔明がそうだと言うのか?」

「はいなのですよ。でも、孔明ちゃん、士元ちゃんと仲良しになってからは中々カナに会ってくれないのですよ。だから、孔明ちゃんを虐める雌豚たちを懲らしめてあげたらまたカナの元に戻って来てくれるかなぁと思って……」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「カナの孔明ちゃんを虐める雌狐どもは『死ねば』いいのですよ」

「きゃーーー!!血!血ぃ!」

「ちょ、ちょっと、あなた頭おかしいんじゃないの?」

「キャハー」

「元直ちゃん、やめて!!私は大丈夫だからそんなことしないでー!」

「駄目なのですよ。カナは孔明ちゃんを虐める悪い雌犬たちを懲らしめなければならないのですよ」

「元直ちゃん!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……そんなことをして、何の騒ぎも起きなかったのか?」

「場所は人なんて良く通らない所だったのですよ。それに、怪我した娘とか、自分たちがしたことがあるから先生に言いつけることなんてできないのですよ。塾でイジメをした人は直ぐに退学されるのですよ」

「……それを逆に利用したか」

「カナは、孔明ちゃんを守ってあげただけなのですよ。でも、いつまでもあんな雌鳥どもに孔明ちゃんを虐めるいいわけを与えるわけにはいかないのですよ」

「その雌なんとかするのは事々変えないといけないのか?」

 

ってか雌鳥ってなんだよ。どんな害があるんだよ。

 

「だから、孔明ちゃんを守るためには、一刀さんが早くこの塾を出て行ってもらわなければならないのですよ」

「……お前が辿り着いた答えはそこなのか」

「はいなのですよ」

「……」

 

たしかに、もう傷も治った。

ここに残る理由はない。

ただ………

 

「…………断る」

「キャハ?」

「俺もまだここでやらなければならないことがある。それに、俺のせいで起きたことなら、俺にもその始末をする義務があるはずだ」

「だから、一刀さんが居なくなれば、全部丸くおさまるのですよ」

「それはどうだろうか」

 

状況は単に俺を言い訳にした起こっていることに過ぎない。

ここの生徒たちはずっと前から、二人にとって悪感情を持っていたのだろう。

幼い年でこの私塾で揺るぎのない首位の位置を保っている孔明と雛里。

彼女たちへの嫉妬が俺という事件によって解放される言い訳を得たのだ。

 

「一度解放された恨みを抑えることはできない。イジメなんてそういうものだ。一度起きたら終わらないし、止まらない」

「なら、カナが全部殺して終わらせるだけなのですよ」

「お前がそんなことをしたところで孔明が喜ぶとでも思っているのか」

「関係ないのですよ。カナはただ、孔明ちゃんがいつもの孔明ちゃんのままで、カナの近くに居てくれればいいのですよ」

「……歪んでやがる」

 

やはりおかしい、こいつ。

何故平然なかおをしてそんなことが言えて、しかも実行できる。

 

「そう、そう。いい忘れたのですよ」

「?」

「カナは孔明ちゃんしか守ってあげないのですよ」

「……何?」

「でも、カナが孔明ちゃんを守ってあげていることを知ったら……妬みの的は士元ちゃんに全部向かっちゃうかもしれないのですよ」

「……!!」

 

雛里……

 

 

 

雛里SIDE

 

「朱里ちゃん…大丈夫なのかな」

 

すごく不安そうな顔だった。

あんな朱里ちゃん、会った時から今まで一度も見たことない。

 

私がこの塾に来たのは五年前のことでした。

村が盗賊たちに襲われて、お父さんやお母さんもそこで私を守って亡くなってしまいました。

 

その後、あっちこっちを官軍に保護された後、水鏡先生にあってここに連れてこられました。

その時、初めて朱里ちゃんに出会ったのです。

朱里ちゃんはとても優しい娘で、まだ両親を失った悲しみの中にいた私を良く慰めてくれました。

今の私が居るのは、全部朱里ちゃんのおかげです。

だから、朱里ちゃんが苦しんでいる時、私も朱里ちゃんの力になりたいです。

 

「えっと……確かこれと……これと…」

 

今は倉に入って、朱里ちゃんが落ち着けるような香を作るための材料を探しています。

 

ギィィーー

 

タン!

 

「……あわ?」

 

今のって、もしかして…

 

倉の扉がある方に行ってみると、

 

「!」

 

扉が閉まってます。

 

ガタッ

 

ガタッ!

 

外から閉ざされてます。

 

タン

タン!

 

「誰かー!中にまだ人入ってますよ!開けてくださいー!」

 

クスクス

 

クスクス

 

「!」

 

外で、誰かが笑っているような声がします。

まさか……私が中に居るのを知って態と扉を………

 

「……!!」

 

なんで…どうしてこんなことを……

 

「開けてー!!お願い、開けてください!!」

 

クスクス

 

ククク

 

楽しんでる……私が困っている姿…怖がっているのを、楽しんでいる。

酷い……私は何も……

 

「何をしている!」

「!」

 

この声は……

 

「な、何ですか。どうしてあなたがこんなところに…」

「それはどうでもいい話。今重要なのは中から人が扉をたたきながら開けてくれと叫んでいるにも関わらず、君たちが外で笑いながらそれを楽しんでいる状況だ。そう思わないか」

「っ!」

「中に誰を閉じ込めたのか知らないが、大人しく扉を開けて散れ。確かこの私塾で他の生徒を虐めることは退学に値していたな」

「ッ…!!あ、あなたとは関係ないでしょ!」

「俺はそうは思わないがな……お前はそう思うか?」

「キャハー、とっても関係あっちゃいますよ」

「ひっ!」

 

この笑い声は……元直ちゃん?

 

「げ、元直!お前どうしてここに…」

「一刀さんの言う通りなのですよ。カナがここに居る理由なんてどうでもいいのです。今重要なのは、一刀さんはあなたたちが誰か知らない反面、カナは貴様らが誰か全部知っているというのですよ」

「…!あんた…まさか、そんなことをしてただで済むと思ってるわけ?私のお父様が」

「こんなことを知ったら退学されて実家に戻る前にあなたと縁を切るでしょうね。水鏡女学院で破門された者に、残された道なんてないのですよ」

「……くっ!!」

「キャハー、でも、今回は孔明ちゃんとは関係ないですし、このまま散れば許してあげるのですよ。ただし、もう一度したら……覚悟した方がいいのですよ」

「そ、その時はあんたもただじゃ済まないわよ!」

「キャハ、馬鹿な雌犬ですね。同じ塾に居ることが恥です…カナがそんなことを気にすると本当に思ってるのですか?」

「………ちっ!覚えておきなさいよ」

「わすれてください、の間違いだろ」

「なぁっっ!」

 

 

 

「……失せろ。虫けらども」

 

 

 

 

元直ちゃんの声が聞こえたと思えば、最後には一刀さんがすごく冷たい声でそう言って、その後何人かが早足で走っていく音がしました。

 

そして、

 

ガタン

 

ギイイイィィー

 

「あ」

「…大丈夫か、雛里」

 

扉が開いて、一刀さんが立っていました。

 

「一刀…さん……」

「……済まない。俺のせいでこんな目に…」

「一刀さーん!!」

「!」

 

もう何も考えずに一刀さんを抱きつきました。

 

「怖かったです!うぅぅ……!」

「……もう大丈夫だ…もう連中もこれに懲りたらこんなことは二度としないだろう」

「うぐぅ……えぐぅ……」

 

たった数分閉じ込められていただけなのに、すごく怖かったです。

暗い部屋に閉じ込められて、外では私が苦しむ姿を見て楽しむような笑い声が上がっていて……こんなの…こんなのおかしいです。

 

「えぐぅ………ふえええ……」

「………」

 

一刀さんは、何も言わずに泣いている私を見てくれていました。

 

 

 

一刀SIDE

 

何か…しなければいけないとは思った。

でも、手が出せなかった。

自分が抑えられそうになかった。

 

「…落ち着いたか」

「……くっ……うぅっ……」

「…雛里」

 

ゆっくりと…少しずつ手を伸ばして彼女の頭の後に手を乗せてみた。

泣いていて、少し興奮状態だった雛里の体温はとても暖かくて、落ち着く気分になった。

 

って、何を馬鹿なことを…

彼女を慰めるはずではなかったのか?

 

「……いや」

 

奏の言う通りかもしれない。

俺にできた一番のことは、彼女たちとできるだけ触れ合わないこと。

だけど、状況はもうそれで済むような段階を超えていた。

 

「…済まない。本当に…何もかも」

 

お前をこんな目に合わせたのも。お前に出会ったことも。お前に会えないことに奇妙な苛立ちを覚えていたことも……。

お前は……!

 

「……!!」

「…一刀さん?」

「こんなの……俺らしくもない」

「え?」

 

雛里から離れる。

 

「……一刀さん?」

 

雛里がまだ潤いが残っている目でこっちを見ていた。

 

「……お前を見ていると調子が狂う」

「………」

 

 

だけど……

 

「もう失いたくない」

「一刀さん、どうしたんですか?」

「得るものがなければ失うものもない。だから俺は…人との触れ合いを避けていた……当然だろ。人間としての当然な自己防御本能だ」

「………」

「…お前と一緖にいると自分がおかしい」

 

調子が狂う。

自分が自分じゃなくなる。

 

「……これでもうイジメとかはされないだろう…これで終わりだ」

 

ここを出る。

この塾から離れる。

 

雛里、お前から逃げる。

 

 

 

 

 

 

奏里SIDE

 

がらっ

 

「!雛里ちゃん?」

「……」

「!」

 

カナが入ってくるのを見て、士元ちゃんが来るのだと思っていた朱里ちゃんは寝床から起きて迎えようとしたけど、カナだということに気づいて、また寝床に腰を下ろしたよ。

 

「元直……ちゃん」

「キャハー、士元ちゃんなら今一刀さんと一緖にいるよ」

「…!どうして……」

「倉に閉じ込められていたところを、一刀さんが助けてくれたの。カッコイイよね。孔明ちゃんと士元ちゃんが惚れるのも無理ないよ」

「!私はそんなんじゃ…」

「うん、知ってる。孔明ちゃんがその人のこと好きじゃないって」

 

知ってるよ。解ってるよ。

孔明ちゃんがそんな人が好きなはずがない。

だって、

孔明ちゃんはカナのことが好きなんだもの。

士元ちゃんとずっと一緖にいるのも士元ちゃんが自分がなければ一人になってしまうのが可哀想だからよ。

 

「でも、もう大丈夫だよ」

「…どういうこと?」

「もう士元ちゃんには一刀さんがいるよ。だから、孔明ちゃんはもう士元ちゃんを守ってあげる必要なんてないよ」

「っ!!」

 

寝床に座っている孔明ちゃんを押し倒して上から孔明ちゃんを見る。

 

「だからね、士元ちゃんがもう孔明ちゃんが守ってあげなくても良いようになると…」

 

またカナと遊んでくれるよね。

友たちになってくれるよね。

 

「孔明ちゃんはまたカナのものだよ」

「…………元直ちゃん」

「孔明ちゃん、好き」

 

好き、

 

カナは孔明ちゃんのことが大好きなの。

 

だから、カナのことを見て……

カナだけを見て……

 

 

 

あとがき

 

二つ説明することがありますね。一つはこの外史の一刀のことと、そしてオリキャラ元直こと奏里(通称)のカナのことです。

 

一刀が雛里を今更避ける理由ですが、

一刀は既に両親と祖父を失っています。

自分が心を委ねていた数少ない人たちの死の重なりは、一刀に新しい縁を作ることの恐ろしさをその魂にまで刻みつけました。

学校時代にも及川以外に友たちがいなかったのもそのせいですし、二年前の祖父の死はより決定的に一刀が雛里を避けようとする理由になります。大事だからこそ離れようとする。というか人が自分にとって大事になる状況をつくらないようとしているのですね。自分が傷つかないために。

 

 

 

カナというキャラを考えたのは無真(旧)の頃からでしたね。

ちょっと狂ってるキャラを作るために頑張った結果がこれです。

元、元直は黙々シリーズで言うと紗江さん並の頭の切れ方をしているキャラに書きたかったのですが、無真では単なるお母さんの死を見た衝撃で狂ってしまった子になっています。

……まぁ、その設定はここでもあるわけですが……

 

カナというキャラの設定に付いて言いますと、

カナはこの塾に来る前にお母さんと一緖に住んでいました。

お母さんはある貴族の男との間でカナを産みましたが、カナが生まれた直後その貴族の男から捨てられある小さな村にてカナと一緖に素朴な余生をおくっていました。

この頃のカナはまだ狂ってもいないで、とても母思いのいい娘でした。

 

カナは知りませんが、偶然その街を通っていた水鏡先生はカナの才能を見て、母に彼女を自分の元で勉強させるように勧めます。が、過去の傷を持ちながらも今までカナのお母さんが生きていたのは誰でもなくカナの存在があったため。お母さんはその提案を断ります。

だがその後、元のカナの父がカナを奪うために自分たち母女を探しているということを知った母は、自分の存在がカナの未来を邪魔していると感じ、カナが市場に出ている間家の中で頸を絞めて自殺します。

 

ですが、母の思いの他、母の自殺した姿を見たカナはその状況を飲み込めず、結局狂ってしまいます。

後ほどまたその村を通ることになった水鏡先生は家の中一人で餓死寸前まで行って母の後を追おうとするカナを連れ、塾の朱里ちゃんと一緖に居させることで彼女を癒しました。(この時期まだ雛里ちゃんは居ません)が、結果的には母に対しての盲目的なきもちが朱里ちゃんに向かい、朱里ちゃんには少し苦しみな状態となっています。

 

 

というのは大体の裏話です。

カナの母が死んだ理由は無真では話していませんが、大体上のような設定として自分の頭に残してあります。カナというオリキャラは紗江ほど結構曹家に恨みがあります。あ、あの貴族の男というのは宦官であった華琳さまのお祖父さんの養子の一人です。もちろん華琳さまと直接問題があるわけではありませんが、……おっとこれ以上はいけませんね。

 

カナの話であとがきが大体うまってしまいましたね……余談ですが、カナという真名はおとぼくの周防院奏から来てます。口調もそっちからとってます。キャハハーというのはとったわけじゃありません。狂人っぽい笑い方を真似したつもりです。どう受け入れられるかはわかりませんが……

 

あ、次のページには昔無真に書いていたカナが見たお母さんの自殺光景を見せようと思います。

光景と言ってもまあ一人ことですけどね。

自分はなんでこんな暗い話は良く思いつくのか自分で自分が憎らしいです、こういう時は。

 

では、また次回にて…

 

ノシノシ

 

 

 

 

 

 

 

蛇の足ー1(無真 29話にて)

 

元直の過去

 

 

カナ「お母様!ただいま戻りました」

 

カナ「お母様?どこにいるんだろう。今日はせっかく市場でいい桃を安く買ったから、お母様と一緒に食べようと露天商も早く閉まって帰ってきたのに...」

 

タッ

 

タッ

 

 

がらり

 

カナ「お母様...?おかあ...さ、ま?」

 

 

カナ「...?」

 

カナ「お、お母様、何でそんなに高いところにいるんですか?あ、あんなところに椅子なんかおとしちゃって。その首に付けた縄は何です?そんなところにいたら危ないですよ。早く降りてきてください」

 

ギィ

 

ギィ

 

カナ「おかあ...さま?」

 

 

 

ギイ

 

ギィ

 

 

元直の過去 その2(無真 30話にて)

 

やめて

 

「かわいそうに...」

 

やめて

 

「母親が自殺したそうよ?」

 

言わないで

 

「あの母も無責任だわ。こんな幼い子を残して自殺なんかして...」

 

聞きたくない

 

「あのね、もしあなただけ良ければ内の娘にならないかしら?」

 

そんな同情は要らない。

 

「そんなところに女の子一人で住むと危ないよ?」

 

ほっといて。

 

「死体と一緒に住むとか気持ち悪い」

 

あなたと関係ないじゃないの。

 

「その人を渡しなさい」

 

私の邪魔しないで。

 

「こら、何をしているんだ!退け!」

 

お母様をどこに連れて行くの?

 

「あんたが何をしているのか、解ってるの?」

「ああああ、血、血が、し、死ぬ!!」

「落ち着け、掠っただけだ!」

 

あぁ

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ

 

 

私とお母様をほっといて。

 

 

私を一人にして。

 

 

 

元直の過去ー3(31話にて)

 

 

「...」

 

 

ギイイィ

 

 

お腹すいた。

 

もう食べるもん、残ってないね。

 

「...」

 

お母様、私、もうダメみたい。

 

ゴメンね、私、もうソコに行っていいよね?

 

...

 

 

..

 

 

 

 

??「先生、こっちです!」

??「あら、もう大部弱っているわね。このままだと本当に危ないわ。朱里。これを上げるから何か患者が食べる物を買ってきて。私は湯薬を作るから」

朱「わかりました!」

「...ダレ?」

水境先生「もう大丈夫だよ?あなたお名前は?」

「名前...

 

 

...カナ」

 


 
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