No.216073

真・恋姫無双 夜の王 外伝4

yuukiさん

平和なお祭り、二日目の終了。
そして夜空には蝶が飛ぶ。
あくまで外伝、期待はしないでください。

2011-05-10 19:56:40 投稿 / 全22ページ    総閲覧数:6401   閲覧ユーザー数:4628

 

予想以上に長くなってしまった、二日目、その2。

まあ、本篇では書けなかった者の活躍や、過去の話など書けて、

書いていて楽しかったけど。

 

外伝なのでオリキャラの出番が多いです。

暇つぶしにどうぞ。

 

 

「さあ、じゃあ次の試合を始めまーす!第八試合、選手の人は上がってきなさい!」

 

「、、、、主、行ってくる」

 

「ああ、行って来い」

 

獅堂の試合が終わり、第八試合が始まる。

試合相手はあの春蘭、明かに緊張した様子の逆狗に『無理をするな』と言おうと思ったが、止める。

 

「逆狗、」

 

「なんだ?」

 

「勝ってこい。大義は我らにあり」

 

「故に勝利も我らが手に、、か。御意に」

 

獅堂と同じように、逆狗もまた笑いながら舞台へ上がっていった。

俺がその様子を見送っていると、横から声をかけられる。

 

「少し無理を言い過ぎなのではないかしら?彼が春蘭に勝てるとは思えないのだけれど」

 

「華琳、、か。なんだ、正体はもうばれたのか」

 

「ええ、前の試合に出ていたのは貴方の側近でしょう?なら、一緒に居るのは一刀、貴方。簡単すぎて考えたとも言えない思考ね」

 

「相変わらずの慶眼だな」

 

俺は仮面の下で笑顔を作る。

華琳もまた、笑っていた。

 

「まあ、元気そうでよかったわ。大陸中を放浪するのはどうなのかしら?」

 

「金には困っているよ。昨日は久々に布団で寝た」

 

「そう、結構大変なのね。毎日、政務に励まなければならない私からしたら、自由を手にした貴方が羨ましくもあったのだけれど、考えものね」

 

「隣の芝は青く見える物。俺としては毎日布団で寝れる華琳が羨ましいよ」

 

「、、、、そう、、ねえ、一刀。貴方は戻りたいのかしら?大陸を支配した王の座へ」

 

一瞬、考えてしまう。

もし、天があのまま分裂などせずに、あるいは高定の反乱さえ防げていたのなら、大陸の勝者は天国であったのかもしれない。

そんな未来を思い描いて、すぐに止める。

 

「無意味な問いだ。無い物ねだりをするほど俺は暇じゃないし、今の暮らしが楽しくない訳じゃない。人の目から見たら、魔王が寝どこにも困る生活をしてるなんて無様に映るかもしれないが、俺は今の生活に幸せを感じている」

 

「無想を追わず、現実を楽しむ。名より実を取るか、貴方らしいわね」

 

「そうか?まあ、華琳がそう言うならそうなのかもな。取りあえず今は、逆狗が春蘭に勝つ様を楽しませてもらうよ」

 

最後の部分は強調し、笑みを浮かべていう。

 

「あら?言うわね。私の春蘭が勝てないとでもいうのかしら?」

 

「ああ、俺の逆狗が負けるとでもいうのか?」

 

「ふふふ」

 

「ははは」

 

そんな会話をしている間に、試合は始まった。

 

 

 

試合場

 

 

 

「でりゃあああ!」  ゴウッ

 

「、、、、、やばい、勝てる気がしない」

 

主に勝てと言われ、勝つ気満々で舞台に上がった俺だが、ものの数秒でそんな気は失せてしまった。

夏候惇の剛撃の前に速さを生かして舞台の上を駆けまわって逃げる事くらいしかできない。

 

「ええい!ちょこまかと鬱陶しい!貴様はゴキブリか!」

 

「くっ、、、よくも人のトラウマを!」 

 

昔に少女にそう言われたことを思い出す。

獅堂には大笑いされ、内心かなりショックだった。

怒りのまま、短剣を続けて遠的する。

 

「くらえ!」

 

シュ シュ シュ

 

「遅い!」

 

 ブンッ バラバラ

 

一撃で全ての短剣が叩き折られた。

なんだ、、あの化け物。

普通、飛んでくる短剣を討ち落とすことは出来ても折れはしないだろうが。

 

「なっ、なんで俺の周りには化け物しかいないんだ!」

 

シュ シュ シュ シュ シュ

 

「誰が化け物だ!大体、貴様が弱すぎるだけだろうが!」

 

 ゴウっ  バラバラバラ

 

またしても一撃で全ておとされ、たたき折られる。

くそ、俺の周りに居るまともな人は公孫賛さんだけだ!

 

「待てー!逃げるなー!」

 

「うわわわ、」

 

 

 

 

一般参加選手控室。

 

 

「おーっと、魏武の体験こと夏候惇選手!剣を振り回しながら追いかける!ドックバック選手は逃げるしかない状況だー!まあ、紹介文に黒い三連星序列第三位って書いてあるから、ちぃとしても想像通りだけど、もう少し頑張りなさいよ!」

 

 

中央から聞こえるその言葉に、華琳は笑みを作る。

 

「貴方の隠密、押されてるわよ」

 

「、、、逃げ回ってるな」

 

「大丈夫なのかしら?あれ」

 

「うん?敵の心配なんて意外だな」

 

「流石に、あそこまで一方的だと気の毒にもなるわよ。もし春蘭が勢い余って殺してしまったら、私はあの子の首を切らなきゃならないのだしね」

 

「はは」

 

「笑っている場合じゃないわよ?舐めているなら、貴方らしくないわね。もし、春蘭が本気になったら、本気で死ぬかねないわよ?」

 

「舐めているのはどちらかな?」

 

「へ?」

 

俺の言葉に、華琳にしては珍しい驚いたような表情が浮かぶ。

 

「、、、、天国の狗。その実力、舐めてもらっては困るな。華琳」

 

「そうかしら?武人としての実力、彼は春蘭の足元にも及ばないと思うのだけれど」

 

「そういう言が出る時点で舐めている。あれは、、、武人じゃない。根っからの、狡猾無類な隠密だよ」

 

 

 

 

休憩所

 

「いい加減、首にあてた剣を離せよ、根暗。逆狗の試合が見にくいじゃねえか」

 

「黙れ、無駄に首を動かすな、本当に切るぞ。それに、もう試合など見るまでもない。お前の仲間は無様に逃げ回っているだけではないか」

 

「、、ああ、ほんとだ。たっく、相変わらずだな、逆狗の奴。はぁ、ため息が出るぜ」

 

「ふ、弱すぎる味方を持ったものだな?」

 

「ああ、まったくだ。まったく、相変わらず、悔しいが“まだ俺は逆狗に勝てねえみたいだ”」

 

「なに?」

 

「苦手なんだよ、ああいう真っ直ぐ戦わない奴はよ。まあ、隠密だから仕方ねえのか?」

 

 

 

試合場

 

 

「まっ、まってくれ。夏候惇!」

 

「待たん!もう、追いかけっこなど飽きた!一瞬で終わらせてやるから安心しろ!」

 

「わかった、わかったから待て、もう逃げない!」

 

「本当か?」

 

「ああ、本当だよ。、、、、、もう、仕込みは済んだ」

 

「仕込み?」

 

「、、、、、俺がただ、逃げ回っていただけだと思うか?投げた短剣三十、内お前が砕いたのは半数だ。なら、残りの半分、何故お前は砕けなかった?」

 

「砕くまでもなく、外れていたからだ!それがどうした!」

 

「こういう、、、ことだよ!」

 

今、夏候惇を囲ように落ちる短剣、その“短剣に繋がった糸”を思いっきり引っ張った。

 

「なあ!?」

 

瞬間、十五の鉄線が夏候惇の体を雁字搦めに絡め取る。

 

「芸が無くて悪かったな、恋、、いや、大陸二位と対した時の曲芸だ」

 

「きっ、貴様!逃げる振りしてこんなことを!ええい!不意打ちなど卑怯だぞ!」

 

「大会規定を忘れたか?嘘や策は是なんだろう?それに、俺は隠密だ。卑怯な手ぐらい使わなきゃ武人に勝てる訳ないだろう」

 

そう言いながら、俺は四本の短剣を指の間に挟みながら動けない夏候惇に近づいて行く。

勝敗は、決した。

 

 

 

一般選手控室

 

 

「大戦中、獅堂や一蝶と違って活躍しなかったからって、逆狗のこと舐めてただろう?華琳」

 

「ふ、ふふ、確かに私は貴方の隠密を舐めていたみたいね。けど、一刀。貴方もまた、春蘭のことを舐めているのではないのかしら?」

 

「そうか?」

 

「そうよ。、、、魏武の大剣の真骨頂。それは武の大きさでも、逆境を覆す信念でもない。その意味をあらわす言葉はただ一つ」

 

「一つ?」

 

「無法天に通ず。、、、見なさい。常識も、規定も、作法も、その全てを意に介さない者がどれほどの力を持っているのかを」

 

 

 

 

試合場

 

 

 

「おお!これは意外な展開に!なんとドックバック選手の奇策が炸裂したー!夏候惇選手、鉄の糸に縛られ動けない。少し卑怯な気もするけど、ちぃはあんまり嫌いじゃんかな。いっけー!猪をぶったおせー!」

 

 

 

「くっ」

 

「終わりだ、夏候惇」

 

もはや勝負は決まったと思った、しかし、その中、夏候惇は何かを呟く。

 

「華琳、、、見て、、、いる」

 

「何だ?」

 

「華琳様が見ているのだ!無様など晒せない!そう、言ったのだぁぁぁーーー!」

 

ブチ ブチ ブチ ブチチチチッッーー!

 

「なあっ」

 

 

「あーっとぉぉーー!もはやこれまでと思われた夏候惇選手が自分を拘束していた糸を無理力ずくでやり引きちぎったぁぁ!」

 

 

「あ、なあ!?あり得ないだろ、鉄の糸だぞ!引きちぎれる訳、無いだろう!?」

 

「よくも今まで好き勝手にやってくれたな!倍にして返してやるから覚悟しろよ!

 

「どうやって、千切ったんだ!」

 

「力ずくでだ!」

 

「ふざけるな!」

 

あり得ない、、あり得ていいのか、こんなこと!

呂布と良い、なんで武人って人種の人間はこうも簡単に人の努力を引きちぎるんだ!

無理やり?勝てる道理は俺にあった筈なのに。

無理を通せば道理が崩れる?ふざけるなよ、そんな無茶苦茶が、どうして許されるんだ!

 

「ふっふふふふ、少しだけ私を追い込んだ貴様に見せてやる!そして、貴様に一つ問うてやろう。私の得物、、大剣に見えるか?」

 

「、、、、いや、見えない」

 

「そうだな、だが私は魏武の大剣と呼ばれている。何故だか知っているか?」

 

「、、、俺が知る訳ないだろう。何故だ?」

 

「私の美声で聴かせるより、見せてやろう!我が内に渦巻く闘気を吸って!七星餓狼は本当の姿となるのだ!」

 

「な、なあ!ふざけるなよ!闘気!?そんな物で剣がどうにかなる訳ないだろ、、う」

 

「うおおおおおお!」

 

言い終わる前に、夏候惇の持つ剣に異変が起きる。

淡い光が夏候惇の身より出て、剣に集まり刃の形を成していく。

 

「ふざ、けるな。デタラメすぎるだろう、、こんなの、」

 

「ふっ!これぞ魏武の大剣の真骨頂!我が剣、貴様に受け止めることができるか!」

 

「な、舐めるなよ。そんなでたらめで、俺が、俺が負けるか!天が狗、その牙、狂犬にすら劣ることは無い!来い!」

 

二十の短剣を地面に遠的、俺の前に鋼の糸の壁を作り出す。

 

「その意気は善し!だが、我が魂を闘気に変えて、生まれ変わった七星餓狼!簡単に止められるとは思うなよ!」

 

夏候惇の持つ剣は、さらに大きさを増していく。

ふざけるな、、ふざけるな!こんな、こんな、ものが、この世に。

 

「はっ、はは、、、勝てる訳、ねえよ」

 

「これぞ!剣・魂。一・如!」

 

なんだ、これ?

はっはは、もう、笑うしかないじゃないか、、

 

「我が闘気、我が魂を研ぎ澄まし、天をも切り裂く剣と成す!荘厳苛烈、豪奢精鋭!猛気凛列、剣閃烈波!七星餓狼!闘神圧砕!」

 

主、、貴方はこんな歩く非常識に勝てと言ったのか?

獅堂、、お前なら勝てるのか?

一蝶、、お前は勝つのだろうな、主が勝てといったなら。

俺は、、勝てない、勝てる筈がない。

 

才能という絶対的な壁、それは比べるのが馬鹿馬鹿しくまでに無茶苦茶で、悪い冗談としか思えないほど俺と敵の間に開いていた。

 

「は、はは、ははっははは。そうか、俺は、こんなものに勝とうとしていたのか。馬鹿らしい、」

 

俺は未来永劫、夏候惇には“勝てない”

努力が才能を凌駕するかもしれない?

ああ、それは一線までは真実だろう、しかし、境界線を越えれば別。

辿り着けば、突破の糸口さえ掴めない高く厚い壁があるということを悟るだけ。

 

「なら、もう、良いだろ」

 

俺の視界を、爆発の光が占めた。

 

 

 

 

一般参加控室

 

 

 

立ち上った爆煙を見ながら、華琳はつぶやく。

 

「春蘭の勝ちね。彼も頑張ったけれど、実力差という物は確固として存在するわ。頑張っただけで、勝てるものではないのよ。一刀」

 

「ふ、ふふ、はははは。相変わらずの非常識だな、春蘭は。だがな、華琳、良いことを教えてやろう。逆狗は今まで、“一度も負けたことが無い”。俺と敵対した時すら、な。だから、逆狗は勝てないが“負けない”。絶対にだ」

 

「勝てないのに負けない?どういう意味かしら?」

 

「心法もまた天へと昇る。見ていろ、常識に囚われ、規定を守り、作法を持ち、その全てに縛られるものが俺達とは違う強さを持つということを」

 

 

 

休憩所

 

 

「ふん、結局は貴様の仲間の負けだな。だが、夏候惇相手によくあがいた方だ」

 

「ああ、そうだな。そして今もあがいてんぞ」

 

「なに?」

 

「俺はなぁ、あいつに勝ったことがねえ。何時もいつも、あいつは喰らい付いてくんだよ」

 

「喰らい付くか。あいつはよくあがいた方だが、最後は諦めていたように見えたがな」

 

「、、、あいつはよお。自分で隠密だっていってんだよ、戦うことは本職じゃねえってな。けど、一度として俺との試合も、今回みたいな戦いにも逃げなかった。いや、自分から進んで参加しやがる。どうしてだかわかるか?」

 

「、、、、、、」

 

「勝ちてえからさ。負けないんじゃなくて、勝ちたい。隠密の自分じゃ武人には勝てないって知りながら、挑む」

 

「勝ちたい、か」

 

「自分でも抑えられない己が野心、折りたくても折れない心。あいつは俺とは違う、弱いからもがくんじゃねえ。強いからこそ、もがくのさ」

 

 

 

試合場

 

 

勝てない、勝てる訳が無い、勝てたらおかしい。

けど、

 

「負けない、“負けたくない”」

 

「なっ、まだ立って」

 

張っていた鋼の糸の壁は無意味に吹き飛んだ、足は笑い、息は荒い。

それでも、俺は立っていた。

全身が痛む、けど、耐えよう。

 

「俺の血を知られぬように、全身を黒で隠そう。俺の血を人々に晒さぬ為に、闇夜をかけよう。闇夜の中で敵を討つ、俺の痛み、知る者は一人も居らず」

 

「何を言っている?」

 

負けたくない、勝てない、なら、絶対に倒れない。

痛くない、痛みを隠し、逃げ去ろう。

死なない為に、勝てなくても、生きていれば勝利なのだ。

 

「我が名は狗。誇り高き天の狗。我が生涯に、ただ一度の敗北無し!」

 

耐え忍ぶこと、それが俺の戦い方。

 

「、、、おもしろい!我が一撃、耐えきったか!しかし、次の一撃も耐えられるのか!」

 

「耐えて見せよう!我が名が、負け犬と呼ばれぬ為に!」

 

視界の隅に、蜀陣営にいる公孫賛さんが映る。

余計に、負けたくなくなった。

 

 

 

第八戦、時間超過の為に没試合。

 

 

 

医療室まで運ばれる逆狗を見送った後、俺は華琳に語りかける。

 

「ほらな?負けなかっただろ?逆狗は」

 

「ええ、、、けれど、どうしてあなたの部下はああも自分の体のことを考えない人ばかりなのかしら?」

 

「さあ?どうしてだろうな?」

 

「、、、貴方に似たからだって気づきなさいよ」

 

「何か言ったか?華琳」

 

「いいえ、何でもないわよ。ほら、第九試合も終わったわよ。貴方の出番でしょう?」

 

「ああ、流琉には悪いが、規定通り知雄を振り絞ってくるよ」

 

 

第十試合は最速で終了した。

まあ、当然だろう。

 

 

「はーい!これにて、今日の天下一品武道会は終了いたします。明日の対戦はこのようになっておりまーす♪」

 

 

天下一品武道会

対戦表一覧 

 

第一試合 呉 華雄 対 魏 夏候淵

 

第二試合 蜀 馬超 対 蜀 魏延

 

第三試合 呉 孫策 一般参加 ワンソード

 

第四試合 呉 甘寧 対 一般参加 ミスター紳士道

 

準決勝  第一試合勝者 対 第二試合勝者

 

準決勝  第三試合勝者 対 第四試合勝者

 

決勝   準決勝勝者 対 準決勝勝者

 

 

「この組み合わせを見てどうですか?お三方」

 

「なかなか見どころの多い組み合わせだな」

 

「そうねぇ。好敵手同士の戦いが多いわね♪」

 

「ああ、俺としては典韋相手に圧倒的勝利を収めたワンソードと孫策の戦いを楽しみにしている」

 

「あ~、確かに強すぎだったもんね、ワンソード。流石は黒い三連星序列第一位って感じ」

 

「ああ、武に関しては天下の才を持つであろう二人の戦いだ。これを見ずして何を見る!」

 

「燃えてますね~、華陀さん!所で、その試合の見所は?」

 

「武勇と知略を兼ね備えた孫策が勝つか、はたまたいまだ実力は未知数のワンソードが勝つかだ!俺としては同じ男のワンソードに頑張ってもらいたい!」

 

 

「だ、そうよ、一刀。今の貴方は雪蓮に勝てるのかしら?」

 

「さあ?雪蓮も強くなっているだろうしな、やるまで分からない。けど、俺としては勝った後の準決勝。獅堂との戦いの方が怖い」

 

「あら?彼が思春を破り勝つことは確定なのかしら?あまりなめない方が良いのではなくて」

 

「そうだな、事実、五分と五分だ。だが、勝つよ、獅堂は。あいつと仕合うのは、俺でも怖い。それほどまでに獅堂は強い」

 

「そう、なら明日の試合。楽しみにしているわ」

 

こうして、天下一品武道会一日目は終わった。

 

 

獅堂視点

 

 

 

対戦者の発表が終わった後、休憩室。

 

寝ていて、気づくと再び剣が首に添えてあった。

 

「根暗、おまえ、九戦が終わった後、また戻ってきてたのかよ。ひつこすぎんだろ、なに?お前もしかして俺のこと好きなの?」

 

シュキンッ

 

「どうやら、死にたいようだな」

 

「剣振り下ろしてから言うんじゃねえよ!」

 

心臓がバクバクいっている。

マジであぶねえ、こんなくだらないことで死ぬとこだった、、

 

「つーかよ、根暗。お前逆恨みが過ぎんじゃねえの?俺はよ、規定通り全力で死合っただけじゃねえか」

 

「字が違う時点で、お前は斬られる理由がある筈だ」

 

「はっ、過保護すぎんだよ、根暗はよ。孫権だってガキじゃねえんだぞ?剣持って戦ったんだ、あの程度の怪我は当然だって分かってる筈だろ」

 

「、、、、、お前に言われるまでもない、、、、わかっている」

 

「はあ?」

 

「、、、、、わかっては、いるのだ」

 

「、、あっそ」

 

自覚がある分、マシなのかねえ?

取りあえず、俺が孫権の立場だったなら、うざくて仕方ないけどな。

 

「お前さ、どうしてそう、根暗なんだ?」

 

「訳が分からんが、取りあえず斬る」

 

「取り合えずで斬るんじゃねえよ」

 

こんな奴が一国の主力だってんだから、救えねえよ。

まあ、俺が言えた義理じゃねえけどよ。

 

「言い方が悪かったな、なんかよ、お前の忠義は行き過ぎて、、ネトネトしてきもいって

言いたかったんだよ」

 

「、、、、やはり、お前はよほど斬られたいようだな」

 

「事実だろーが。かなり行き過ぎだぜ?お前。んで、孫権にあそこまで思い入れてんだよ、よほど後ろめたいことでもやったのか?」

 

図星だったのだろうか、根暗は忌々しそうに舌打ちをすると顔を逸らす。

まあ、元江賊らしいからな。

呉に降る前、色々あったんだろうよ、孫権と、知ったこっちゃねえけど。

 

「き、貴様はどうなのだ!」

 

「は?俺?何が?」

 

「貴様のような、狂犬がなぜ、あの男に忠義を誓っているのかと聞いている。どう考えても、私にはお前が人に従うような人間には見えないのだがな」

 

「はっ、どうでもいいだろ。色々あったんだよ、色々」

 

「何があったのかと、私は聞いておいるのだが?」

 

剣が首の皮に当たる。

、、、、めんどくせえ、変なこというんじゃなかった。

つーか、なんでこいつはこんなに人の首を斬りたがんだよ。

 

「、、、俺の頼みを一つ聞いてくれるってなら、教えてやるよ」

 

「ふざけるな、何故私がお前の頼みなどと聞かねばならん」

 

「あっそ、じゃ、もう話は終わりだな。俺は帰るよ、孫権によろしく言っといてくれ」

 

俺が欠伸をしながら帰ろうとすると、

 

「、、、、、まて、」

 

「んだよ?」

 

根暗は後ろから剣を首にあて、止めてくる。

だから、なんなんだ?

こいつは相手の首に剣を当てないと会話ができない痛い人なのか?

 

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、教えろ、お前のこと」

 

「頼み聞いてくれんのか?」

 

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、考えてやらんでもない」

 

「そっ、じゃ、少し語ってやるよ。、、、、、、、昔、昔の物語、馬鹿な兵士と、大馬鹿な将がであった物語をよ」

 

 

 

    『雄たけび上げて、守るもんなんかねえ、奪われるのは弱い奴が悪いんだよ』

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

民『お、お願いします。それを徴収されれば私達は暮らしていけません』

 

獅堂『知るかよ、んなこと。行くぞお前ら」

 

兵士『ああ、わかってる』

 

兵士『じゃあな、おっさん。また来るからよ、金ためとけよ。ははっ』

 

民『そっそんな、、』

 

俺は、洛陽で徴収兵をしていた。

 

兵士『はは、見たかよ。あんなに頭下げても無駄だってのに』

 

兵士『でも、いいのか?徴収だって嘘ついて?それに食べる分ぐらい残してやっても』

 

兵士『いいんだよ。どうせばれやしないし。それにあんなおっさんがどうなったていいだろ。なあ、興煜」

 

獅堂『、、、知るかよ。他人のことなんか』

 

あの頃は腐ってやがった。世界がじゃねえ、俺がじゃねえ、俺も世界も両方がだ

 

 

けど、悪事に報いはあった。

董卓って奴が来た時、俺は徴収兵の位を剥奪された。

そんな時、アイツはやって来た

 

  『俺が今日からお前達を率いることになった。よろしく頼む』

 

ガラの悪い俺達を前にしても少しも臆しない、変わったヤローだった

 

そして、圧倒的に強く。

 

獅堂『っっ、、』  ドサッ

 

  『どうした、もう終わりか?』

 

圧倒的に、、馬鹿な奴だった

 

  『興煜、お前。民から無断で金品を奪ってるらしいな』

 

獅堂『だからどうした、あんたには関係ねえだろ』

 

  『関係ないわけ無いだろ』

 

獅堂『は、無駄に正義漢ぶるなよ。どうせお前も宦官達と同じで腹の中では自分のことしか考えてねえんだろうが!』

 

  『お前、、』

 

獅堂『俺を上に突き出すか?良かったな、出世、出来るかもしんねえぞ。ははは』

 

一刀『お前、、辛くはないのか?』

 

獅堂『、、、何がだ』

 

  『無理に悪役ぶって、悪事を働いて。心が辛いんじゃないのか?』

 

獅堂『何言ってんだ?俺みたいなクズに痛む心なんかねえよ。それに俺は好きでやってんだ』

 

  『違うな、お前はそういう人間じゃない。他者を傷つければ心が痛む、普通の人間だ』

 

獅堂『、、、、、』

 

  『どうだ、俺と街に出て誰かを助けないか?困っている民はそこらじゅうに居るぞ』

 

獅堂『ざけんな、何で俺が人助けなんかしなきゃなんねえんだよ』

 

  『人を傷つければ心が痛む、だが人を助けるのは心が痛むことは無い。理由なんてそれで良いだろ』

 

獅堂『、、、口ではなんとでも言えるんだよ。そこまで言うなら救ってみろよ。洛陽の民を』

 

  『そうだな。わかったよ』

 

クズの俺を責めずに心配するなんて、本当に馬鹿な奴だった。そして

 

 

兵士『聞いたかよ。なんでも悪事働いていた宦官が何人も殺されてるらしいぞ』

 

兵士『まじかよ。ばれたらただじゃ済まないのに、一体だれが』

 

獅堂『、、、、、』

 

 

獅堂『おい、まさかお前』

 

  『これで少しは救えたか、民を』

 

獅堂『、、、、、』

 

本当にぶっ飛んだ奴だった

 

 

初めて見た他人の為に悪事をやる奴は、少し見たくなった、奴のいう理想郷を

初めて見たんだ

部下に悪口を言われようが気にせず、それどころか俺達見たいなクズと好き好んで一緒に居ようとする将は

 

兵士『さあさあ、もっと飲んでくださいよ、隊長!』

 

  『いい、あんまり酒は強くないんだ』

 

兵士『そういうなって、ほら飲んで飲んで』

 

 

獅堂『たくっ、静かに飲めやしねえ』

 

兵士『私は楽しいですが』

 

獅堂『テメーは、、、確か寛項とかいったか』

 

寛項『ええ、同じ隊ですが話すのは初めてですね。興煜さん』

 

獅堂『ああ、で。なにが楽しいんだよ』

 

寛項『あの人を見ているのがですよ。美しいと思いませんか』

 

獅堂『はあ?なにがだよ』

 

寛項『姿も在り方も、生き方も、美しい。男なのに思わず惚れてしまいそうです』

 

獅堂『、、、、、』

 

少しだけ付いて行こうと思ったアイツに

 

 

そして、

 

獅堂『おい、何処行ってたんだ?連合との戦いの後だってのに』

 

  『少し、洛陽の掃除をしてきた』

 

獅堂『まさか、十常時を?』

 

  『あれは要らないだろ。大陸の未来の為に』

 

見た気がした、汚れた天を真っ黒に染めて洗い流す光景を

 

そして決めた、コイツに、、、付いて行こうと

 

獅堂『おい、お前の名前なんだ?』

 

  『初めて会った時、言っただろ』

 

獅堂『聞いてなかった』

 

  『はあ、そうか。俺の名前は、、』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「一刀、アイツ出会っていろんなもんが変わった」

 

「、、、、、、、、、、、」

 

「悪連れが悪友になって、他人が親友になって、俺は雑兵から将になった」

 

そして、周りに人が増えた

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

獅堂『おい、お前の犬が俺の部屋で寝てやがったぞ』

 

恋 『セキト、、獅堂、ごめん。あと、ありがと』

 

 

獅堂『見て動いてからじゃ遅い。カンで動けカンで』

 

凪 『はい!やってみます』

 

沙和『そんなのむりだよー』

  

真桜『そうや、できるかいな!』

 

 

獅堂『はっ、ほざくなよ。俺に負けたくせに』

 

猪々子『なんだと!あの時は調子が悪かったんだよ!』

 

斗詩『落ち着いてよ二人ともー』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

俺の周りに人が増えて、笑ってやがる。アイツの周りで、、俺の周りで

 

 

「なあ、根暗。この話を聞いてどう思う?俺は、アイツに出会って、俺は変われたか?」

 

変われいれば、良いな。助けられた人がいれば良い

 

「、、、、、、変われているさ、少なくとも江賊であった私より」

 

根暗は剣を下げ、部屋の外へと歩いて行く。

 

「、、、、、私もいつの日か、変われると思うか?お前のように、嘗て争い合った国の、、、次期王にさえ、笑いかけられるほどに」

 

「さあ、なあ。常に笑顔のお前なんて、興味ねえ奴の方が多いだろうけどよ。、、、、俺は、嫌いじゃねえかも知れねえ」

 

「、、、、、、、、、、、、お前の好みなど、、、聞いていない」

 

去ろうとする、根暗の方を掴む。

 

「待てよ、根暗」

 

「何の、、、用だ」

 

「約束、しただろ?頼み聞いてもらうぜ?」

 

「私に何を望む」

 

「はっ、その言い方、エロいことでも期待してんのか?、、冗談だから、剣を下ろせ。なんてことはねえ、道案内だよ。、、、、天兵達の墓が、洛陽にあんだろ?」

 

「、、、、わかった、付いて来い」

 

 

 

 

根暗の案内の元、俺は一蝶の墓の前にいた。

 

「、、、、、無様だな、、こんな狭まっくるしく埋められてよ」

 

墓石の上に酒瓶を笑いながらぶつける。

 

「一つ聞くが、お前は墓参りに来たのではないのか?」

 

「他の何に見えんだよ」

 

「嫌がらせをしているようにしか見えないな」

 

「はっ、黙ってろ。約束してたんだよ、一蝶が死んだら、嫌いだった、安っすい酒浴びせて、大笑いして、、、やるってな」

 

その言葉を、俺はどんな顔で言っていたのだろうか?

何時も通り、人を馬鹿にしていた笑みを浮かべていたと思ったが、根暗は俺の顔を見っと目をつぶり、

 

「そうか」

 

と、それだけ言った。

俺が手を合わせる訳もなく、立ったまま墓石を見下ろす。

 

「なあ、一蝶。根暗が言うには俺はよ、変われてるらしいんだわ。昔から俺を知ってるお前もそう思うか?」

 

『変われていますよ』

 

「お前ならそう言ってくれんのかな、笑いながら、言って欲しかったなぁ」

 

「、、、、、、、、」

 

笑顔であろうとしているのに、、涙が頬をつたう。

 

「お前とあってよ、一刀とあってよ、本当に色んなことがっあったよな。色々あってよ、俺もお前も、始めの俺から見たら笑えるくらい。きっと色々変わってんだぜ?」

 

俺は人の為に剣を握れるほど、優しくは無かった。

 

「始めて人を助けた時のありがとうの言葉が嬉しかった」

 

雄たけびを上げるほど、守りたい物もなかった。

 

「お前と酒を飲むのは好きだった」

 

誰かの為に優しい言葉を駆けられるほど、俺は強くなかった。

 

「安心しろよ、一刀のことを分かってやれる奴も増えた。世は平和になった、これでアイツはもう、一人じゃ無い」

 

だから、一蝶。

 

「地獄の底で寝ててくれ。、、、お前が死んだことが、、、悔しくてたまらねえ。、、けど、仇も討てねえ」

 

今日は戦場以外で根暗を見た。

昨日は笑うガキ達を見た。

一昨日は平和を謳歌する民を見た。

 

明日も、きっと素晴らしい物が見られる。

 

「俺は、、、お前を犠牲にしたこの平和が、好きでたまんねえんだ」

 

俺は涙を流し笑いながら、そう言った。

 

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、本当に、不器用な男だ」

 

 

 

視点、一刀

 

 

時は経ち、場所は移り、洛陽のはずれにある墓石の前に俺は居た。

 

「ん?なんだ、獅堂も来てたのか。ふ、あいつらしい手向けだな」

 

墓石の上に盛大にぶち負けられた酒、一見すると嫌がらせのように見えるが、これがあいつの友に対する対応だ。

何を思って此処に居たのかは俺には分からない。

しかし、その時の獅堂はおそらく、笑っていたのだろうと思う。

何時ものように、昔のように、本当に楽しそうに、死んだ友の墓を見ていたのだろう。

 

「死ぬ時は笑っていたい。なら死んだ後も笑って送ってやるか」

 

そんなことを呟きながら、持ってきた花を添え、手を合わせる。

 

「一蝶、報告が遅れて悪かった。お前がそんなになるまで頑張ってくれたのに、俺は負けたよ。無様に、無残に、完璧に負けた。ごめん、お前が見たかった世界を見せてやれなくて」

 

後ろから、誰かが近づいてくる音がした。

 

「秋蘭か?」

 

「、、、ふ、ばれていたか。そういうお前は一刀で良いのだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

秋蘭もまた、花を持ち、来ていた。

しゃがみ、手を合わせる。

 

沈黙が訪れた。

 

「何も言わないのか、一刀。私がこうして墓の前で手を合わせているということに」

 

「何を言う必要がある。秋蘭みたいな美人に手を合わせてもらえるとは、一蝶も隅に置けないな」

 

「、、、、私が、殺したのだぞ」

 

秋蘭は、表情を変えずにそう言った。

 

「、、戦争だったんだ。敵であった。誰が悪い訳じゃない」

 

「そんな言葉で、本当に納得しているのか?」

 

「、、、ああ、するしか無いさ。しなきゃ、いけない。でないと、俺はもう一度世に大戦を齎さなきゃいけなくなる。ようやく出来た、璃々がただ笑っていられる世界にだ」

 

そんなこと、許される筈もない。

 

「相変わらず、強いな、お前は。、、、少なくとも、私は姉者を失っていたらと思うと、そんな冷静な言葉は吐けない。殺した者を、私は必ず殺すのだろう」

 

「強くなんてないさ。俺は弱いから、負けたんだ。負けて失った、多くの仲間を」

 

立ち上がり、辺りを見回す。

死した天兵たちの墓が、周りに渦巻く。

これが、俺の殺した者たち、俺が失った命の数。

守れなかった、“守らなかった者達”

 

「こいつらは、ただ死んだ訳じゃない。平和を願って、死んだんだ。仲間を傷つける者の盾となり、平和の為の剣になった」

 

「、、、、そうだな」

 

「なら、俺は、“生き残った俺たちは”。天の将兵を、俺の友を、愛した仲間を、愛した民を、命を駆け平和を願った全ての者の為に」

 

することは、復讐でも、泣き詫びることでもない。

 

「天に向かって笑い、心の奥から笑い、死んだ者達の分も、、、平和を楽しもう。たとえ身勝手だと言われても、死んだ者たちが、また生きたいと思える世界を作る為に」

 

「一刀、、、、お前、泣いているのか」

 

天に向かって笑っている筈だった。

心の底から笑っている筈なのに。

この平和な祭りを、存分に楽しんでいた筈だというのに。

涙が、零れて行く。

 

「行くのか、、、一刀」

 

「ああ、秋蘭。最後に聞かせてくれ、一蝶は最後の時、笑っていたか?」

 

秋蘭は黙ったまま、頷きを返す。

 

「笑っていた、笑顔のまま勇敢に死んでいった」

 

「ならば、善し。秋蘭、お前も笑え。一蝶の生きざまを笑いながら、誇って生きてくれ」

 

「わかった、、、、そうしよう。お前の他に、初めて心動かされた男に敬意を表して、な」

 

笑いながら、泣きながら、けど、後悔などせずに、俺は友の屍を越えて行く。

 

 

 

 

深まった夜の中、墓場に立つ男が一人。

 

「蘇」

 

男の一言で、地面は盛り上がり、墓石は倒れて行く。

 

「嘗て天を駆け、黒と灰の鳳旗を振りし英雄達よ。死を欺き、今再び剣を握れ。我らの王の大義の為に」

 

「「「「「「「、く、ああ、あああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」」」

 

死した者が、嘗て死んだ筈の鳳薦隊の兵士たちが、そこに居た。

 

「ふ、ふふふ。無念だったでしょう、悔しかった筈です。道半ばで息絶えた、その事実が。ならば、私と共に再び、歩みましょう。あの御方の為に!再び、黒天の世を成すために!」

 

「「「「「「た、大義は、、、我らにあり!」」」」」

 

「ふは、ははっはは。そうです、それで良い。私の友達よ、蘇りし英雄達よ!何れ、北郷一刀が私たちに合流するでしょう。それまで、貴方がたはこの祭りの喧騒にまぎれているといい」

 

男の言葉で、鳳薦隊。

大陸最強と言われた部隊の兵士たち、二百は街の中へと消えて行った。

 

「駒はそろいました。我が友たちの武勇と人形たちの数量、それがあればこのふざけた晴天に再びの夜が訪れる。ああ、まっていてください、北郷一刀、必ず、私は貴方の大義を叶えさせてみせましょう」

 

 

夜空を見上げ、呟いていた男の背後から少女の声がかかる。

 

 

「一蝶、いえ、この今は于吉と呼んだ方が良いのでしょうか」

 

「そういう貴方は哀、いえ、管路と呼ぶべきですか」

 

男は振りかえり、少女を見つめる。

少女もまた、男を見定めていた。

共に理の内に住まない二人が、相対した。

 

「なぜ、貴方は思い出してしまったのですか?やっと全てを忘れて、左慈と共に外史で生きて行くことが許されたというのに。何故、今さら、思い出したのですか?」

 

「何故、ですか。簡単ですよ。あの人救うため、北郷一刀を勝利に導く為に、私は此処に居るのです。これこそ、天命と信じましょう!」

 

「天命ですか、、貴方は完全に于吉となった訳ではないようですね。天命など、于吉が最も嫌っていた言葉ですし。よかった、まだ、貴方にも一蝶の心が残っているようで」

 

少女は安堵のため息をつくと、男の目を見て言う。

 

「一蝶、無意味な真似は止めなさい。戦いは終わったのです。もう、戦乱の世ではないのです。貴方がしていることを、一刀様が喜ぶと、本当に思っているのですか?」

 

「、、、ええ、喜ばれないでしょうね。けれど、それもなお、私はあの人の為に戦を起こしましょう。戦場こそ、あの人が一番輝く場所なのですから」

 

「なぜそこまで、一刀様の勝利に固執するのです。確かに天は勝てなかった、けれど、一刀様は今、確かに笑っているのですよ?」

 

「、、、私は、死の直前まであの人の勝利を思い、死にました。そして死の間際、誓ったのですよ。死してなお、あの人に仕えようと」

 

「それは、間違っています。その思い、誓いが、今かろうじて残る一刀様の幸せを踏み躙るということぐらい、貴方ならば分かるでしょう!一蝶!」

 

「黙れ、哀!管路という力を持ちながら、己が平穏の為に傍観者で有り続けた貴方にどうこう言われる云われはありません!」

 

「っっ、それは、、、」

 

男の目は血走っていく、嘗ての笑みはもうその顔には無い。

認めない、認められないのだ、こんな平穏、自分がいない平和など認められる筈が無いのだ。

 

「私は、北郷一刀が負けた世界など、認めない。“これがこの外史の答えなら、全て消え失せてしまえば良い”。北郷一刀がいない物語などに、興味はないのですよ」

 

そう言うと、男は少女の前から立ち去っていく。

 

「一蝶、、本当に分かっているのですか?このまま行けば、貴方は一刀様に、、、殺されるかも知れないのですよ」

 

「、、、、、わかっています。しかし、それでもなお、私は一刀様の為に生きたいのです。いえ、再び、死にたいのですよ。ただ、あの人の為に、ね」

 

笑い方など忘れた、平和を愛した心も腐った、ただ外史を導く傀儡と成り立てた。

しかし、それでもなお、忘れないものもある。

 

狂うほどの、、、、、忠義、そして、愛情。

 

夜の蝶は、夜空を舞う。

狂いながら、ただ一人の男の勝利だけを望み、叶える為に。

 


 
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