No.212267

恋姫外史の外史 その1−3【嫌いなんて】

後編です。
携帯電話から投稿できたので3編ともそうしたのですが、文章が切れてたりとかなにかしら不具合が起きていたらすみません。
以前までの謎のページ数の多さは謎のままにしておいてください。
あと、ちょっとだけ文章を修正しました。

2011-04-18 03:56:49 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1292   閲覧ユーザー数:1239

おかしい。

七乃が見つからないのもおかしいけど、もっとおかしいのは――

「――広すぎじゃろ!」

あれからずっと走ってるのに、全然端っこにたどり着かない。

壁も扉も見当たらない。

部屋が広すぎる。

誰じゃ、こんな広い部屋にしたのは。

造ったやつにあとで文句を言ってやるのじゃ。

あれからずっと暗い中を走ってる。

玉座からはだいぶ離れてるから、明かりもない。

暗い。

北も南も東も西もわからない。

真っ暗。

右も左も上も下もわからない。

真っ暗な闇。

急に怖くなって、妾は足を止めた。

「七乃ぉーっ!」

どこかに向かって叫ぶ。

どこかの闇に吸い込まれる。

「妾はここじゃぞぉーっ!」

また、どこかに向かって叫ぶ。

どこかの闇に吸い込まれる。

七乃……どこに行ったのじゃ?

それより、ここはどこなのじゃ?

こんな真っ暗で広いとこ、妾も知らない。

知らない場所。

暗くて。

真っ暗で。

真っ暗な闇の中で。

怖い。

「七乃ぉーっ!」

七乃はどこにいるんじゃ?

七乃は怖くないんじゃろうか?

妾は……怖い。

妾は走りだした。

闇を蹴って、闇を踏んで、闇に向かって。

「なな――」

闇につまづいて、転んだ。

顔を打ったはずなのに全然痛くない。

すぐに起き上がろうとして、起き上がれなくなった。

上も下もわからないから、自分が立っているのか、倒れているのかもわからない。

動けない。

どうすることもできない。

「……じゃあ、ハチミツを持ってくるのじゃ」

妾の声が聞こえてくる。

しゃべってないのに。

知らない間にしゃべったんじゃろうか?

「ダメです」

――七乃!?

七乃の声も聞こえてきた。

急いで起き上がろうとして、今は動けないことを思いだした。

すぐそこに七乃がいるのに。

「ダメじゃない!今すぐ持ってくるのじゃ!」

また妾の声が聞こえる。

妾はしゃべってないぞ。

「持ってきません」

違う。

これは、さっき玉座で七乃と話してたときの声なのじゃ。

「もぉっ!なんでそんなにいじわるするのじゃ!」

確かあのとき、妾はイライラして七乃に怒ってたのじゃ。

そのあと、七乃も怒った感じでハチミツとりに行って……

「七乃は妾が嫌いなのか!?」

違う。

その前に妾が言ったんだった。

なにを言ったかも今思いだした。

「そんなことありませ――」

「そんなことある!」

言ったらダメじゃ。

「そんな七乃――」

言ったらダメなのじゃ!

「妾も嫌いじゃからな!」

妾の声が辺りに響いて、響いて、散々響いてから……消えた。

七乃の声も聞こえない。

そうだった。

妾が嫌いって言ったから七乃は……

そんなつもり、これっぽっちもなかったのに。

そんなこと本気で思ったわけじゃないのに。

目から涙が溢れた。

ぼろぼろ涙がこぼれる。

いなくなるなんて思わなかった。

そう思ったから何度も何度も、嫌い嫌いって言って。

言えばいなくなるって知ってたら、そんなこと言わなかったのに。

ひとりになった。

ひとり。

ひとりなんてイヤなのに。

ひとりになるなんてわかってたら、そんなこと言わなかったのに。

帰ってきてほしい。

誰でもいい。

今なら孫策でも麗羽でもいいのじゃ。

でも、一番帰ってきてほしいのは……

七乃……

こぼれた涙が水たまりをつくる。

七乃……

この部屋を涙でいっぱいにすれば、そしたら帰ってくるんだったら、いくらでも泣くのに。

七乃……

泣いたって意味がないのに、止まらなかった。

声を出しても、それも意味のないことだとしても、名前を呼ばずにいられなかった。

動けない体で、力いっぱい叫ぶ。

「――モォォオオオッッ!」

……変な声が聞こえた。

誰かの大声かと思ったけど、今叫んだのは確かに妾だった。

水たまりが目に入る。

動かない体でそこを覗き込む。

そこに映ってるはずの妾の顔が……牛になってた。

「――モォォオオオッッ!?」

○●○●

 

「……さま」

牛が……

「……お嬢さま」

牛に……

「お嬢さま」

「うし……」

「うし?」

妾はゆっくり目を開いた。

……開いたってことは、閉じてたのかや?

しかもなぜか布団の中にいる。

開いた目の前に、真っ暗闇はなかった。

そこには、真っ暗じゃない暗い世界の中に、胸の辺りまで同じ布団をかけた七乃がいた。

「……七乃?」

「大丈夫ですか?すごくうなされてましたよ」

七乃じゃ。

「怖い夢、見てたんですか?」

七乃がいる。

「お嬢さま?」

「……七乃ぉ」

考えるより先に、気づいたら七乃に抱きついていた。

七乃の体はあったかくて、柔らかくて、ふかふかで……いつもの七乃なのじゃ。

それを確かめたら、急にまた涙が出てくる。

「……すごく怖かったんですね」

背中に手のひらが当たる。

妾ほどじゃないけど、七乃も強く抱きしめてくれる。

「大丈夫ですよ。私がいますから。だから、安心してくださいね」

その七乃が、七乃のほうがいなかったんじゃろ……

それを言おうと思ったけど、それより先に言わなきゃいけないことがあった。

「ななのぉ……」

「はい」

「ごめん、なのじゃ……」

七乃の寝間着をぎゅっと握る。

「嫌いなんて、言って……ほんとは、嫌いじゃない、のに……本気、じゃないのに……だから嫌いに、なってほしく、ない……七乃にだけは、嫌いに、なんか、なってほしくない、のじゃ……」

ぎゅっと、ぎゅうっと握る。

「……知ってましたよ。本気じゃないことくらい」

七乃が髪をなでてくれる。

いつもみたいに。

それが、気持ちよくて……ほっとして……

「そのくらいのことで、嫌いになんてなれませんよ」

おそるおそる、布団の中で見上げた七乃の顔は、いつもより優しい顔に見えた。

それから手のひらで、とんとんと背中を叩いてくれる。

「もう怖い夢見ないように、今日はずっとこうしてますからね」

目をつぶって七乃の胸に顔を埋める。

まぶたの隙間から溢れる涙が全部吸い込まれていく。

あんなになんでも吸い込んだ暗闇でも、涙だけは水たまりをつくったのに。

「七乃……」

まだ、言わなきゃいけないことがあるのじゃ。

「はい」

でもこっちは……今は言えなかった。

言おうとしたけど、こんなときでも恥ずかしくて、言えない。

こんなときだから恥ずかしいのかもしれないけど。

今はただ、あったかくて、柔らかくて、ふかふかな七乃に体を寄せる。

とんとん叩いてくれる手のひらに気持ちを預ける。

ずっと、ずぅっとそうしてると、だんだん頭がぼーっとしてきて……なんにも考えられなくなってきて……また眠たくなってきて……

あれっ?また眠たくってことは……さっきのは……夢……だったの……か、や……?

●○●○

 

「お嬢さまぁ、そんなに早く歩かないでくださいよぉー」

「七乃こそ急ぐのじゃ!もうあんな村に、これっぽっちも用事なんかないのじゃ!」

そう言って妾はせかせかと足を動かす。

「だって、お金払う前に黙って食べちゃ怒られますって」

妾は足を止めて、七乃のほうを向いた。

「そこがわからん!なんで七乃は試食できたのに妾はできないのじゃ!?」

「たまたまですよ、たまたま。今日は試食できなかっただけで」

「そんなの納得できん!」

両手を振り上げて七乃に抗議する。

……すると、空っぽの妾のおなかがくぅっと鳴った。

「怒ると余計に空いちゃいますよ?」

「むぅ……それなら、もう怒らん」

妾はくるりと振り返って、今度は目の前の道をゆっくり歩きだす。

「出発する前に、せめて食材くらいは買わせてもらいたかったのに」

「仕方ないじゃろ。あんな田舎村にいたって意味ないし。一秒でも早く出たかったんじゃもん」

「それは確かにそうなんですけど。――もう食料無いんですから、次の村に着くまで我慢しないといけませんよ?」

「昨日ハチミツ買ったから、それでじゅうぶんなのじゃ」

たまにはガマンもしてやるのじゃ。

「ちなみに、次の村にはどのくらいで着くのじゃ?」

「うーん……早くても明日の朝くらいじゃないですかねぇ」

……さっそく後悔なのじゃ。

なにか重いものを背負ったみたいに、肩も足もずんと重くなってしまった。

「大丈夫ですか?」

「あんまり大丈夫じゃないのじゃ……」

妾はまた立ち止まると、今度は振り返らないで、道の先をじっと眺めた。

七乃の言うとおり、見渡しのいい道の先には、まだまだ次の村が見えてきそうになかった。

村どころか、しばらく歩いても景色すら変わりそうにない。

「七乃は大丈夫なのかや?」

「私ですか?」

「その……おなか空かないのかや?」

「……大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「うむ。それならよいのじゃ」

空を見上げる。

雲がひとつもない、よく晴れた空。

顔どころか、足のつま先まで見えてる太陽がまぶしい。

妾は決心して、後ろを向いた。

言うなら今しかない。

「七乃」

「はい」

「あの……な……」

決めたのに、なかなか言えない。

七乃は不思議そうな顔で妾を見ている。

あんまり見られると、恥ずかしくてもっと言えなくなる。

「んと……」

七乃の足をじっと見る。

七乃もじっと待ってくれてる。

じっとできない妾の指は、服の端っこをいじってる。

「えと……」

言わなきゃ。

昨日、言えなかったことを。

ほんとのほんとは……妾も言いたいから。

いじるのをやめて、手をぎゅっと握る。

「七乃」

昨日、嫌いって言ったぶんだけ。

昨日まで言えなかったぶんだけ。

今日からこの先、何回も何十回も何百回も言おうとしてるぶんも、全部込めて。

「大好きじゃぞ」

七乃を見上げる。

七乃のちょっとびっくりしたような、でもそれだけじゃないような顔。

「……私もですよ。お嬢さま」

そのあとに見せた、昨日は見られなかった笑顔。

こんな短い言葉で見られるんだったら、これまでもたくさん言ったらよかったのじゃ。

言ってみたら、思ったより恥ずかしくなかったし。

それに、思ったよりいいもんじゃな。

そういえばいつの間にか、あの変なもやもやもなくなってる。

どきどきもない。

なんでじゃろ?

「私も、大好きです」

あるのはひとつだけ。

あの空と同じ、まぶしい太陽みたいな気持ちだけだった。

 


 
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