No.211427

真・恋姫†無双 桃園に咲く 1

牙無しさん

最近プロローグばかり書いている気がする。多分コレで最後。

諸設定等はこちらhttp://www.tinami.com/view/211424

2011-04-13 01:00:25 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3692   閲覧ユーザー数:2995

 

 生まれたときから、死ぬときまで。

 人の一生というものを道にたとえるなら、俺の道は17歳のときにとんでもない方向に逸れてしまったようだ。

 どこかの小説ではないが、トンネルを抜ければそこは雪国だったなんて、活字で見れば文学的書き出しは、当事者になればそうもいってられない。

 真っ直ぐ歩いていたはずなのに、いつの間にか直角・平行どころか元の道とは捻れの関係にまでなったそこは舗装もされていなければ、そもそも道ですらないのだ。

 劣悪な環境。戦いの粉塵逆巻く世界はまさに獣道茨道。

 コンクリートジャングルなんて表現されていても、所詮は平和な箱庭の中で育った人間が生きていけるような場所ではない。

 とはいえ、人間というものは以外に逞しい生物で。

 状況に放り込まれさえすれば、案外なるようになるものなのだ。

 コアラとユーカリが長い歳月の中で食べられ毒されの鎬を削りながら、今になってもどちらも暢気に生き残っているように。

 順応と淘汰、それと応用の繰り返しを人は進化と呼ぶ。

 まぁ、俺がこの世界で生き残れた大きな要因なんて、本当になんでもない理由なんだけどね。

 

 

 模範解答をカンニングしているのだから、少しぐらいは優位に立てない方が可笑しいんだ。

 

 

 

 

 

――滔々と東する水果てしなく

――長江に消えし英雄数知れず

――是非成敗も泡沫に

――青山の一人残りて

――紅の夕日迎えるそも幾度ぞ

 

 

 

 記憶が正しければ、それはそんな詩から始まっていた。

 今よりも去る2000年ほど前の英傑達の物語

 銃も大砲も、ましてやビームなんてSF的な武器は一つも出てこない。

 原始的かつ大掛かりな戦乱の世の中で起きた大望、絆、信義の軌跡。

 実際見たことあるのは史料としての読み物ではなく、それを基にした歴史小説だったわけだが。読み進めるごとに興奮は加速していき、約100年を詰め込んだ片手で余るほどの巻数の本は半月ほどで読み終わった。

 

 憧れがなかったといえば嘘になる。

 布団の中で、広大な中国大陸を縦横無尽に駆け回り、高々に剣を掲げる自分を想像しなかったわけでもない。

 けれどなにもそれを、なんでもない日に、学校へ向かうために走っている途中に、突然、叶えてくれなくてもいいと思うんだ。

 

 

「えーっと……だ、大丈夫ですか?」

 

 目が覚めると、そこには美少女の大きな瞳があった。

 至極ありがちな書き出しだ。ファンタジーとしたなら。

 眠った感覚すらないが、横たわっていたのだから今まで意識がなかったのだろう。どれほどの間かはわからないが。

 

 飛び起きたそこは、何もない。地平線がよく見える荒涼とした大地だった。

 そこから隆起したということが嫌でもわかるほど厳しい岩山が遠く彼方で青い空を指している。

 半分寝ぼけた頭では、状況の理解まで程遠い、現実離れした風景。

 どちらかといえばファンタジーというより、世紀末救世主伝説に近いような気もする。

 そしてどちらにしろ、いつもの曲がり角を曲がった先に広がっていい風景ではない。

 

「……たぶん」

 

 確証を持つことが躊躇われる。

 当然だろう。風景もそうだが目の前の人もまた現実からは隔てられた領域にいたのだから。

 

 桃色の髪、碧い大きな瞳。

 差し伸べられた手も細長ければ、身体の線も細い。

 そのくせ肩を露出させた奇妙な服の胸囲は前面に張り出している。

 どことなく、春めいた空気を感じさせる少女だ。

 そして美少女だった。「ご都合主義ほどに」という接頭語がつくぐらいに美少女だった。

 

 それよりも一歩後ろ。少し右に視線をずらす。

 目の前の彼女と同じような意匠の服と、同じように目立つ胸のサイズ。

 黒々と艶やかな長い髪を頭の高い場所で結わえ、警戒に染まる琥珀色の瞳は恐らく平素から目じりが上がりがちなのだろう。

 傍らには物騒な武具。薙刀にしては少々大げさな形状の紫紺の刃がキラリと光る。

 これまた美少女。「露骨なくらいわかりやすい」美少女。

 

 今度は左へ。

 燃えるような、は言い過ぎにしろ、赤いボブショートが活発さを際立たせる女の子。

 さっきまでの2人が自分と同い年ぐらいだとしたら、マイナス3~5歳ほどだろうか。

 そしてその女の子の手には似合わない、長い棒。

 穂先で鋭利な金属が太陽に映えて光っていることから、ぼんやりと武器なのだろうと思った。振り回せれば。

 それにしても長い。目測で4メートルほどではないだろうか。

 女の子はおろか、大の男にだって振り回すことなどできないだろう。

 信じられないことに、そんな大槍が天に向かって伸びていて、3分の1ほどの身長の少女に支えられているのだが。

 そんなこの子も美少女。いや、カテゴリーとしては、むしろ美幼女。

 

 そんな色彩感覚のファンタジックな人物を目の前に並べられて、大丈夫といえるほど、能天気にはなれなかった。

 不可思議だ。もっといえば、不自然だ。

 

「……夢?」

 

 一番シンプルな結論がはじき出される。現実逃避かもしれないという発想は、そもそもこれが現実である方がよっぽどリアリティがないということで否定した。

 しかし寝た覚えはない。この風景の前の最新の記憶は、学園へと向かって走っているところだった。

 そこから眠って夢を見ているとすると、今度は違う病気が上げられそうで、どっちにしても今自分は大変な目にあっているのではないだろうかと、不安になる。

 例えば曲がり角を曲がったところで、車と正面衝突をしたとか。

 それで今際の際である肉体をほったらかして、精神だけ妙な場所に飛んでいった。

 その場合、潜在意識ではこんな妙な妄想をしていたのかと、我がことながら呆れてしまうが。

 そういう時は走馬灯を見るものなのだから、衝突の瞬間の記憶は色濃く残るのではないかとも思う。が、そんな目にあったこともないから違うのかもしれない。

 人と車がぶつかる瞬間なんて、あっという間だ。

 そしてこれはどっちにしろ夢を見ているに変わらないようなものだ。

 

「……えっと、ホントに大丈夫、かな? なんか心なしか顔青いよ」

「ちょっとやばいかもしれない。色々な意味で」

 

 左手で胸を押さえる。時を刻むように等間隔で鳴り響く鼓動の音は、不思議と心を落ち着かせた。

 そして落ち着きついでに頬を撫でる風の感触も、手を付いている地面の感覚も、呆れるくらいにリアルに感じられて、更にブルーに落ちる。

 

「あの、さ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 扱いに困ったように顔を見合わせている少女たちへ、恐る恐る、右手を上げてみせた。

 喋るだけでものすごく場違いな心地になるのを押さえながら、ありすぎる「わからないこと」を一つずつ尋ねていく。

 実際、何を尋ねたらいいのかわからないほどなのだが。

 

――ここ、どこ?

――今は西暦2008年だよね?

――君たち妙な格好しているけど、コスプレかなにか?

――あと俺はどうしてこんなところで寝ているの?

 

 矢継ぎ早の質問に3人の少女が代わる代わる答えてくれたが、何一つまともな回答が得られなかった。

 まず言葉が通じるのに、意味が通じない。鏡合わせの様に首を傾げ合う場面すらあった。

 常識というか、世界観そのものが双方の間で違うような、チグハグな違和感。

 質問すればするほど、心の中の警報機がけたたましく鳴り響く。

 石油を求めて地面を掘って、自分の墓穴がどんどん出来上がるような気分だった。

 希望はことごとく砕かれて、嫌な予感がひたすら加速する。

 現実味のない予想が現実味を帯び始める。悪夢としか思えなかった。

 『ユウシュウタクグン』や『邑』という単語に引っ掛かりを覚えるも、まさかなと頭を振るう。

 ことごとくカタカナ語や地名が通じないが、そんなわけはないと浮かんだ考えを振り払う。

 

 

「なんだかさっきから、私の知らない言葉ばかりー。お兄さん、一体何者なのかな?」

 

 押し黙ってしまった隙を縫うように、質問したのは桃髪の少女だった。

 「何者であるか」という問いに、おそらく哲学的な深い意味は含まれていない。

 単純に素性を尋ねられているのだろう。多分、きっと。

 

「そんなに不審かな? 俺は北郷一刀。聖フランチェスカ学園2年……だけど」

 

 自己紹介をしたところで、3人が難しい表情になることは、なんとなく今までの話の流れから予測できた。

 自慢ではないが、どこにでもありふれた高校生である自覚がある。

 少なくとも、素性を尋ねられるくらい特別な何かがあるわけでもない。

 それでも訊かれたということは、それほど今の状況か、その中にいる自分が異常なのだろう。

 ついでにこのまま尋ね返すと、何か取り返しのきかないことになる気もしたが、結局沈黙に耐えかねるように名前を聞き返した。

 回答は中央、左、右の順で。

 

「私は劉備。字は玄徳!」

「鈴々は張飛なのだ!」

「関雲長とは私のことだ」

 

 言葉を、失った。

 ある意味で予想していたような、違って欲しかったような、内臓がグルグルとかき混ぜられるような感覚に陥る。

 熱烈なファン? いや電波? せっかくこんなに可愛いのに、三人揃って電波?

 必死に否定するための理由を考えるが、ここにいる理由の説明に何一つならない。

 荒野、岩肌の剥き出しな山脈、黄色い砂。

 

「お兄さんって、どこの出身?」

「出身は……東京都台東区、浅草だけど」

 

 答えながら、すべての話の筋を通す簡単で、空想めいた推測をどうにか避けようと頭を働かす。

 最早目は合わせられない。逸らした先にある荒れた大地同様、心の潤いがなくなっていく。

 ユウシュウタクグン、邑。

 

「あさくさー? そんな邑あったっけー?」

「いや、聞いたことがないな」

 

 日本を知らないのだから、浅草がわからないのも当然のことなのだろう。

 ここまで徹底されていると、そろそろ観念したくなってくる。

 劉備。玄徳。張飛。関雲長。

 

「どこの州だろ?」

「……多分、州じゃない」

「州じゃない?」

「例えば、州ってどんな州があるのかな?」

「えっと、幽州や荊州、あと冀州。あっ、州じゃないってもしかして洛陽とか長安から来たの?」

 

 大真面目な表情で口から飛び出す地名に、心当たりがあった。

 遡れば、幽州啄郡の段階からだ。

 同時に、否定の理由付けに疲れた脳がとうとう白旗を揚げた。

 起こしていた上半身をおもむろに倒す。

 乾いた笑いが零れた。なんだかあまりに馬鹿げていて、理解が追いつかない。

 そういうときに笑ってしまうのだと、初めて身をもって体験した。

 

 幽州・荊州・冀州・洛陽・長安。

 劉備・関羽・張飛。

 

「となれば、あれは蒼天……か」

 

 寝転んだまま、真っ直ぐと視線の先へ人差し指を伸ばしす。

 遮蔽物や比較対象のない青空の高さを、言いようのない絶望感とともにかみ締めていた。

 このままでは自分のほうが、蒼天より先にショック死するんじゃないだろうか。

 今の自分の状況。ワープやタイムスリップなんて次元ではない。

 

「パラレル……ワールド?」

 

 冷や汗で額に張り付いた前髪をクシャリと掻く。

 単純な時間逆行では説明できない事象。

 諸所引っかかる部分があるけれど、間違いない。

 紀元前2世紀末より始まる物語の舞台と登場人物。

 物語のプロローグとしてはばっちりだ。

 

 どうやら、三国志『らしき』世界に今自分はいるらしい。

 

 

 

「……あくまで、俺が白昼夢をみているとかじゃなければ。だけど」

 

 現実離れした美貌の少女たちに覗き込まれて、再び不安が再燃した。

 そっちの方が、未だに現実的な気がする。


 
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