No.209086

かげこのお部屋

anuritoさん

「『かげこの玉手箱』の影子ちゃんがスクールカウンセラーになりました!はたして、今どきの子供たちを相手に、彼女の活躍はいかに?」
とゆーよーな内容の学園ドラマ(1時間ドラマ)の第一回分のシナリオです。筆者は、まだまだ続きを書きたかったんですけどネ。
本編は2000年に書いた作品なので、若干、内容に古さも感じられます。
表紙(サムネイル)はコミpo!で作成しました。

続きを表示

2011-03-31 17:20:05 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:921   閲覧ユーザー数:917

 

      ○テロップ

「二〇××年、進行する少年犯罪の悪質化や学校荒廃に対処すべく、政府は、各学校へとスクールカウンセラーの設置を提案、敢行する事にした。その第一弾として、各地の国公立の中学校へと、国が育成した新人カウンセラーたちが、専属として、派遣される事となった」

      ○中学校・校門  (朝)

   体格のいい男性教師・平井と、新米の若い男性教師・早田の二人が、門前に立ち、

   次々に登校してくる生徒たちを迎えながら、門を閉める時間を待っている。

   平井たちは、愛想よく、生徒たちと朝の挨拶を交わしている。

早田「(微笑み)平井先生。この調子ですと、今日も、遅刻者は無さそうですね」

平井「う・・ん」

   平井は、気難しげに、自分の腕時計を見つめている。

早田「どうしました、平井先生?あ、そう言えば、今日からでしたね、赴任してくるのは」

平井「そうなんだが、来るのが、遅いなぁ。事故でもあったのかな」

早田「職員会議までに間に合えばいいんですけどね」

   その時、校庭の方から、生徒のざわめきが聞こえてくる。

   平井たちは、ハッとして、そちらへ目を向ける。

 

      ○同・校庭  (朝)

   登校したばかりの生徒たちによって、人だかりが出来ていて、

   皆、校舎の屋上の方を見上げて、ざわついている。

   そこへ、平井たちがやって来る。

平井「(生徒の一人へ)おい、どうしたんだ」

生徒「せ、先生。屋上に人が」

   生徒に言われ、5階以上ある校舎の屋上の方を仰ぐと、

   確かに、女性らしき人影が見えて、下の方を見下ろしている。

平井「(慌てて)バカな!うちの学校の屋上には、鍵がかかっていて、入れないはずだぞ。

 どうやって、昇ったんだ?」

早田「ま、まさか、生徒が自殺でも・・」

   びっくりした平井は、急いで、校舎内に走り飛び込んでゆく。

 

      ○校舎・屋上  (朝)

   少女のような影子が、手すりに寄り掛かり、気持ちよさそうに、眼下を見下ろしている。

   そこへ、屋上の入り口から、平井を先頭とする教師陣が、慌てて、押しかけてくる。

平井「(叫ぶ)き、君ぃ!落ち着きなさい!もう一度、よく考え直すんだ」

   その声に驚いて、影子が振り返る。

   平井たちは、影子が学校の制服を着ておらず、社会人のスーツ姿なので、少し困惑する。

   狼狽する影子も返答が遅れ、しばしの会話の間があく。

影子「(ようやく、照れた感じで)あのぅ、皆さん、お早うございます。

 私、今日から、ここに赴任してきましたスクールカウンセラーです。

 間野影子(えいこ)です。よろしく、お願いします」

 

      ○タイトル

   「かげこのお部屋」

      ○校舎・廊下

   影子と平井が、並んで、歩いている。

平井「(ブツブツと)全く、着任早々、トラブルを起こさないでくださいよ。

 我が校の屋上は、立ち入り禁止で、鍵がかかってたはずですよ」

影子「あの程度の錠なら、これ一つで簡単に・・」

   すました影子が、先の曲がったヘアピンを取り出し、指先で持ってみせる。

   平井が、急いで、そのヘアピンを取り上げる。

平井「こ、こんなもの、二度と使わないで下さい!」

影子「ごめんなさい。どうしても、屋上から眺めてみたくなっちゃって」

   二人は、突き当たりにまで、やって来る。

   その奥の場所には、ドアがあり、「カウンセラー室」の表札が付けられている。

平井「さあ。あなたの為に用意してあげた部屋は、ここですよ」

   影子は、パッと嬉しそうな笑顔になる。

 

      ○同・カウンセラー室

   こじんまりとした、小さな部屋。

   片付けられているが、椅子と机以外は、何も置かれていない。

   そこへ、影子と平井が入ってくる。

影子「(はしゃいで)わーい。私の部屋だ。嬉しい!・・でも、何も無いな」

平井「物置部屋だったのを、わざわざ使えるように、掃除だけでもしておいてあげたんです。

 贅沢言わないでください」

影子「まあ、いっか。あとは、自分で整えよっか」

   影子は、さっそく、自分の荷物の中から、ノートパソコンを取り出すと、

   机の上にセッティングを始める。

平井「間野先生と呼んであげたらいいのかな。

 今後は、ここを拠点にして、仕事を行なってください。

 分からない事があれば、職員室へ・・」

影子「(キョロキョロしながら)かげこと呼んで下さい。その方が、呼ばれ慣れてますので。

 ・・あの、コンセントはどこですか?」

   平井は、無愛想に、部屋の一角を指さす。

   影子は、そそくさとパソコンの電源コードをコンセントにつなげる。

   しかし、影子は、まだ何かを探している。

平井「他にも、何か?」

影子「インターネットも繋げたいんですけど、電話回線は?」

平井「(呆れて)あ、あのね・・」

      ○同・職員室

   他の教師たちに囲まれて、平井がブツブツ言っている。

平井「全く、あのカウンセラーは、一体、何なのやら!遊びに来たとしか思えないよ。

 もっと、きちんと養成した人材を派遣してもらわなくちゃ、こちらが苦労してしまうよ」

早田「(にこにこと)でも、可愛らしい女の人で良かったじゃありませんか。

 実は、ボク、気難しそうな老教授とかだったら、どうしようかと思ってたんですよ」

平井「(強く)その方がまだマシだよ!

 あんな、大学卒業したてみたいな娘に、何ができると言うんだい?

 うちの学校、舐められてるんじゃないのか」

   話を聞いていた養護教諭・吉川がクスクス笑いだす。

平井「吉川先生、何か?」

吉川「(可笑しげに)いいえ。何も」

   その時、向こうから、初老の教頭もやって来る。

教頭「(穏やかに)どうだね。新しく赴任したカウンセラーは」

平井「ダメですよ、教頭。あんな子、使えっこありません。

 我が校が、問題が少ないものだから、

 デキの悪い人材を押し付けられちゃったんじゃないんですか」

教頭「まあまあ。平井先生。見かけで判断するのは、良くない事だよ。

 上の決めた事だから、きっと間違いはないはずだ」

平井「でも・・」

教頭「それから、間野くんに頼まれていた電話回線の件、

 明日、簡易工事で、あの部屋まで電話線を伸ばしてもらう事にした。

 あとで、彼女に伝えておいてくれ」

平井「何も、そこまでしてやらなくても・・」

早田「あ、あの、ボクが伝えに行きましょうか」

   早田の言葉を、教頭が鋭く制す。

教頭「(ニヤリと)いや。平井先生は、生活指導の主任だし、

 当分は、間野くんの世話も、平井先生にお願いしようかな」

平井「(顔から血がひく)え・・」

      ○同・保健室

   吉川が、デスクについて、執務に当たっている。

   そこへ、入り口から、早田が入ってくる。

早田「吉川先生ぇ。服破いちゃったんですけど、裁縫道具貸してもらえますかぁ?」

吉川「いいわよ。でも、あたし、忙しいから、自分で縫ってね」

   吉川に裁縫道具を渡された早田が、椅子に腰掛け、自分で上着のほころびを繕い始める。

早田「(奥を覗き込み、小声で)相変わらず、ベッドは一杯ですか。

 保健の先生って、忙しいんですね」

吉川「まあね。ここに来る生徒は、病気の子ばかりとも限らないし。

 あたしはね、実は、カウンセラーの配置に、すごく期待してたのよ。

 これからは、問題を抱えた生徒は、向こうでも見て貰える訳だし」

早田「え?じゃあ、ボクも、向こうに針と糸を借りにいけば良かったな」

吉川「(笑って)まあ!早田先生ったら」

早田「(おどけて)あは。でも、平井先生の態度と言ったら、ひどかったですよね。

 あんなに、かげこ先生の事、嫌わなくたってよさそうなものなのに」

吉川「(楽しげに)あれが平井先生の性格なのよ。

 だって、あたしが赴任した時もそうだったもん。

 大丈夫、あの二人は、きっと、うまくやってくわよ」

早田「そうですか?でも、吉川先生が言うのなら、そうなのかも」

   吉川は、すまして、微笑んでみせる。

 

      ○同・カウンセラー室

   本や小物などが置かれて、だいぶ、人の居る部屋らしくなってきている。

   整理を続けていた影子が、フッと息をつき、椅子に腰掛ける。

影子「(微笑み)早く、インターネットも使えるようになればいいのにな」

   ふと、影子が、半開きの入り口の戸に目をやると、

   こっそりと興味本位の生徒たちが、すき間から中を覗き込んでいる。

影子「(明るく)どうぞ、お入りなさい」

   声を掛けられた生徒たちは、覗くのを止めて、慌てて、逃げ出してしまう。

   影子は、きょとんとする。

 

      ○同・職員室  (昼休み)

   並んだ机で、平井と早田が雑談をしている。

早田「かげこ先生って、給食も、あの部屋でとったんでしょうかね。

 一人で淋しくなかったのかな」

平井「(うるさげに)いいんだよ。あそこが、あの人の職場なんだから。

 カウンセラーなんて、部屋の奥に引っ込んでればいいんだよ」

早田「それって、言い過ぎじゃ・・」

平井「大体ね、生徒の問題行動が見つかれば、

 我々教師が指導に当たって、うまく解決してゆくべきなんだ。

 今までだって、そうしてきたし、これからだって、それでやってけるはずだ。

 カウンセラーなんて、大げさな職業の人間は、学校には必要ないんだよ。

 しかも、よりによって、あんな経験もない年端も行かぬ女性なんかに・・」

   傍を通り掛かった吉川が、話に混ざってくる。

吉川「あら、平井先生。前の会議の時に配られたかげこさんの履歴、見てないんですか?

 あの人、外見は若く見えますけど、本当は、そうでもないんですよ」

   吉川の方へ顔を向けた平井と早田に、吉川はそっと耳元でささやく。

早田「(びっくりして)え〜っ!ほんとですか!」

平井「(動揺して)そ、それじゃ、オレよりも・・」

   その時、入り口から、笑顔の影子が入ってくる。

   このタイミングに、三人の教師は、慌てて、口を閉じてしまう。

   その平井の前へと、影子はやって来る。

平井「(少し、うろたえ)か、かげこさん・・いや、間野先生。なにか、ご用でも?」

影子「(笑って)かげこでいいのよ。実は、平井先生にお願いが・・」

   平井は、落ち着いて、影子に視線を向ける。

影子「まだ、部屋の方に誰も来てくれないんです。

 ちょっと、生徒さん、分けてもらえますか?」

平井「(呆れて)はあぁ?」

      ○同・平井の担任の教室  (朝の会)

   教壇の奥に平井、その横に影子が立っている。

平井「(紹介する)このたび、

 うちの学校に赴任してきたスカールカウンセラーの間野影子さんだ。

 この学校に慣れてもらう為、しばらく、このクラスの副担をしてもらう事になった。

 皆、よろしく頼んだぞ」

   影子が、照れながら、ペコリと頭を下げる。

   全然、先生っぽくない影子の事を、着席していた生徒たちは、興味津々で注目する。

 

      ○同・平井の担任の教室  (昼休み)

   生徒たちに混ざって、給食を配る影子。

   平井の教壇の横に特別席を設け、そこで給食をとる影子。

   寄ってきた女生徒たちと、雑談を交えている影子。

   その姿は、じょじょに生徒たちに馴染んできたように見える。

      ○同・廊下

   機嫌良さそうな影子が、一人で歩いている。

   その後ろから追い付いた早田が、声を掛ける。

早田「(陽気に)かげこ先生。良かったですよね。

 今日から、給食は、皆と一緒に取れたんでしょう」

影子「(早田に目を向け)えと、早田先生でしたっけ?ありがとう、気遣ってくれて」

早田「これから、どこへ?」

影子「カウンセラー室に戻ります。だって、あそこが、私の仕事場ですもの」

早田「なんだ、勿体ないな。

 せっかく、平井先生ところの副担にしてもらえたんだし、

 もっと外でエンジョイしたらいいのに」

影子「でも、いつ、生徒が相談に訪れるか分からないでしょう。

 なるべく、部屋からは離れていたくないんです」

早田「うちの学校は、自慢じゃないけど、模範校だから、

 かげこ先生を煩わすほどの問題生徒は、きっと居ませんよ」

影子「(悪戯っぽく)代わりに、問題教師とかが居たりしてね」

早田「(きょとんと)あれ、先生も、相談に訪ねていいんですか?」

影子「(微笑み)ええ。スクールカウンセラーは、学校の構成員全てのものですもの」

早田「(ちょっとデレデレして)じゃあ、さっそく行っちゃおうかな」

   影子も、可笑しそうに、笑顔で早田を見つめる。

 

      ○同・カウンセラー室

   影子が、デスクについて、パソコンをいじっている。

   そこへ、入り口から、元気に三人の女生徒が入ってくる。

女生徒A「(明るく)お邪魔しまーす」

影子「(微笑み)あら、さっそく、来てくれたのね」

女生徒B「相談事とかは、なーんもなかったんですけど、

 本当に遊びに来ても良かったんですか?」

影子「ええ。ここは、皆の為の部屋よ。どうぞ、くつろいでって」

   女生徒たちが、部屋の中を見回す。

女生徒C「わー、心理テストの本だ。やっても、いいかな」

女生徒B「あー、パソコンもある。凄い!かげこ先生って、機械に強いんですか」

影子「近々、インターネットにも接続する予定よ。

 そしたら、あなたたちにも自由に使わせてあげるわ」

女生徒A「やったー。

 うちの学校のパソコン室って、けっこう、うるさくて、

 自由にインターネットをやらせてもらえないのよね。

 今度から、インターネットをしたい時は、こっちに来ようかな」

影子「いいわよ。ご希望なら、ホームページの書き方も教えてあげるわ」

女生徒B「凄い。先生って、何でも出来るんですね。感心しちゃった」

影子「(照れて)そんな事ないわよ。でも、皆にも、この部屋の存在を教えてあげてね。

 もっと、沢山の人に利用してもらいたいの。

 そう言えば、うちのクラスって、

 平井先生とかが気付いてない生徒同士の問題とかは起きてないのかしら」

女生徒C「(口ごもり)あっ、えっと・・・」

   女生徒Bが、すぐに女生徒Cの体を小突く。

女生徒B「(きっぱりと)何もありません。ねえ、皆」

   女生徒たちが、曇った表情で頷きあう。

   影子は、その不審な様子を、あざとく見逃していない。

      ○同・平井の担任の教室  (ホームルーム)

   学級委員が教壇に立って、議題を進めている。

   平井と影子は、窓際に立ち、オブザーバーとして、見守っている。

学級委員「続いて、修学旅行の班決めを行ないたいと思います。

 ひと班が五人ずつで、

 先生の許しが出ましたので、仲の良いもの同志が集まって、自由に班を作ってください」

 

      ○同・カウンセラー室

   平井が招かれていて、影子と対峙して、話をしている。

影子「(鋭く)子供たちに自由にグループ分けをさせてみると、

 その友人構成、派閥みたいなものが露骨に現われてきます。

 人数を規定すれば、数を合わせる為に、グループから優先して外されてしまう子や、

 普段は一緒に遊んでなくても、

 このような時だけ、仲間に入れてもらえる予備友達の関係とかも分かってきます」

平井「(少し、感心して)それを見分ける為に、

 来月の修学旅行の班分けは、生徒たちの自由判断に任せたと・・」

影子「ええ。私も、生徒たちの友人関係の構図が分かって、とても参考になりました。

 それで、この班分けのグループを見て、一つ、気になった事があったのですが」

平井「なにか、おかしな点でも?」

   影子が、パソコンの画面に、生徒のグループ分けの図表を呼び出す。

影子「ほら、ここ。天野くんって、普段は、川崎くんのグループとは混ざってませんよね。

 前回の遠足での自由分けグループの時は、

 人数規定もなく、加藤くんのグループの方へと入っています」

平井「(顔が和み)ああ、天野か。あいつは、いい子だよ。

 明るくて、ひょうきんな奴で、皆から好かれている。

 どの友人グループに誘われても、おかしくあるまい」

影子「(きつく)それは、先生の見る目が浅いから、分からないんじゃありませんか。

 いじめの状況としては、被害者の子供が、完全にクラス内のピエロと化してしまっている為、

 その実態が内部からは気付かなくなってしまっているケースもあります」

平井「(動揺し)まさか・・」

影子「真剣に考えてください。場合によっては、一人の生徒にとっては、

 今度の修学旅行は、辛い思い出になってしまうかもしれないんですよ」

平井「あんたは、何を根拠に、そんな事を言い切るんだ?」

影子「(ズバリと)ここに訪ねてきた女生徒が、こっそり漏らしてくれたんです。

 川崎くんたちの天野くんへのからかい方が、最近、行き過ぎてるみたいだって」

 

      ○同・職員室  (昼休み)

   気難しげな表情の平井が、窓から、校庭を眺めている。

   そこでは、多数の生徒たちに混ざって、川崎や天野たちも、じゃれあって、遊んでいる。

   (名前を呼び合っているので、どれが川崎で天野かが分かる)

   平井の頭には、影子の言葉がよぎる。

影子の声「川崎くんたちの天野くんへのからかい方が、最近、行き過ぎてるみたいだって」

   さらに。

影子の声「いじめの状況としては、

 その実態が内部からは気付かなくなってしまっているケースもあります」

   川崎と天野のやりとりは、

   確かに、川崎が一方的に天野をからかっているようにも見えるし、

   ただふざけているだけのようにも見える。

早田「平井先生」

   早田に声を掛けられ、ハッとして、平井は振り返る。

早田「(にっこりと)どうしたんですか、考え込んじゃって」

平井「(口ごもり)いや、何も・・」

      ○同・廊下

   自分の教室へ行く為、平井と影子が並んで歩いている。

   影子が幼く見え過ぎるので、まるで、教師と教え子みたいに見えてしまう。

 

      ○同・平井の担任の教室

   平井と影子が入ってくる。

   ざわついていた生徒たちが、急いで、自分の席へと向かう。

   しかし、まだクスクス笑う声が聞こえてくる。

   平井が、教壇の所にまでたどり着くと、その理由が分かる。

   黒板にいたずら書きがされていたのだ。

   マンガチックだが、平井らしき男を影子らしき女が尻に敷いているイラストである。

平井「(すぐ怒って)誰だ!こんな絵を描いた奴は!」

   生徒たちの間で、さらにクスクス笑いが広がる。

影子「先生。そんな、怒るほどの事でも・・」

平井「ダメだ!こんな事を書くなんて!」

影子「でも、まんざらウソでもないし・・」

平井「ヘ?」

   生徒たちが、さらに大笑いする。

川崎「(いきなり)ほら、天野!お前だろ。早く、謝れよ!」

天野「(おどけて)えー。ボクじゃないよ〜」

平井「(呆れて)天野!また、お前の仕業かよ。ちょっと、こっちに出てこい!」

   腑に落ちない顔つきの天野が、しぶしぶと立ち上がり、教壇の方まで向かう。

   それを、ニヤニヤしながら、川崎が眺めている。

平井「(天野へ)いいか、天野。

 いい加減、ガキじゃないんだから、こんな下らない冗談は卒業しろよ。

 こんな絵を描いて、そんなに楽しいのか」

天野「(口ごもり)でも〜」

影子「(急に)先生、ちょっと待って!(鋭く)川崎くん。あなたも、こっちにいらっしゃい」

   突然、影子に呼ばれた川崎が、驚きながらも、前に出てくる。

   二人の生徒が、黒板のいたずら書きの横に並ぶ形になる。

影子「(ビシッと)川崎くん。この絵を描いたの、ほんとは、あなたでしょう」

川崎「(うろたえて)ええ?かげこ先生。そんな、ひどいよ〜」

影子「少なくても、天野くんが犯人じゃない事だけは確かね。

 だって、絵の書かれている位置が、天野くんの目線より、かなり高いもの。

 でも、川崎くんの身長の目線だったら、この絵の位置は、ほぼぴったりだわ」

   影子の鮮やかな推理に、つい、生徒間で唸り声があがる。

   川崎も、驚いて、反論が口から出て来ない。

平井「(すぐに)川崎!お前、なんて奴なんだ!

 自分のした事を、天野に謝らせるつもりだったのか!そんな汚い人間だったのかよ!」

   平井の怖い剣幕に、川崎がたじたじになってしまう。

平井「さては、先月、廊下の窓ガラスを割ったのも、お前だったんだな!

 これも、犯人を天野に押し付けちゃったんだろう!」

川崎「(大弱りで)確かに、この絵はオレだけど、ガラスは違うよ」

天野「(横から)せ、先生。ガラスを割ったのは、ほんとにボクです」

平井「(声を張り上げ)いいから、黙ってろ!おい、川崎!お前、いい加減にしろよ!

 そうやって、いっつも、天野の事をいじめてるんじゃないのか。

 天野がお人よしだからって、調子に乗るんじゃないぞ!」

影子「(うろたえて)平井先生。もう、そのぐらいで止めてあげたら」

   影子の制止で、平井も何とか平静を取り戻す。

平井「(不機嫌に)まあ、いい。お前たち、席に戻れ」

   放心しかけている川崎と、オロオロしている天野が、自分の席へ向かう。

   影子は、心配そうな表情で、二人の姿を見守っている。

      ○同・保健室

   吉川が、デスクについて、執務に当たっている。

   そこへ、入り口から、やつれた感じの影子が入ってくる。

吉川「(パッと笑顔で)あら、かげこ先生!珍しい!」

影子「(穏やかに)こんにちわ。お邪魔だったかしら」

吉川「そんな事ないわよ。お互いさまよ。

 あたしも、そのうち、先生の部屋には、お邪魔したいと思っていたし」

影子「(クスリと笑い)ありがとう」

吉川「どうしましたか。元気が無いようだけれど」

影子「私、やり過ぎちゃったかしら。少し、反省モードなのよ」

吉川「さては、平井先生と何かあったのね。大丈夫よ、心配ないったら」

影子「それも、あるんだけどさ・・」

吉川「(クスクス笑いながら)平井先生って、案外ナイーブなのよ。

 強がってるけど、まだ親しくない女の人と話すのが、すごく苦手なのよ」

影子「(パッと)あ!やっぱり、吉川先生も気付いてました?

 そうよ!私も、すぐ、その事が分かっちゃって」

   二人は、可笑しそうに笑いあう。

吉川「(和んだところで)かげこさんって、なぜ、カウンセラーになる気になったんですか。

 このお仕事って、けっこう、大変でしょう」

影子「(しんみりと)でも、相談に乗ってあげて、その人の笑顔を見る事ができたら、

 この仕事をしていて、とても良かったなぁ、と思えるでしょう。

 吉川先生だって、

 ケガをした生徒さんの治療をしてあげたあとは、同じ気持ちになるでしょう?」

吉川「えっ。そうだけど・・」

影子「(にっこりと)じゃあ、それだけで理由は十分なのよ。でしょう?」

吉川「(一緒に微笑み)かげこさん。あなたって、いい人なのね」

影子「(照れて)ごめんなさい。話し込んじゃって。私、もう行くわ!」

吉川「あら。保健室に、何か、用があったんじゃないの?」

影子「あ、そうだった!栄養ドリンクがあったら、飲ませていただけないかしら」

吉川「(きょとんと)え?」

      ○同・平井の担任の教室

   顔を真っ赤にした川崎が、天野の胸ぐらを掴んで、部屋の一角へ押しやってる。

川崎「(怒鳴る)天野!きさま、先生に何か言っただろ!それで、オレが怒られたんだぞ!

 許さない!許さないぞ!」

   川崎は、天野をガンガンと壁に叩き付けている。

   うろたえた天野は、怯えてしまい、まるで抵抗できない。

   まわりには、弱って眺める同級生の人だかりができ始めている。

 

      ○同・カウンセラー室

   影子が、机について、パソコンをいじっている。

   そこへ、入り口から、慌てて、女生徒が入ってくる。

女生徒B「かげこ先生!大変です。川崎くんたちが・・」

   その剣幕に驚いて、影子はバッと立ち上がる。

 

      ○同・平井の担任の教室

   女生徒らに導かれて、平井と影子が、急いで、飛び込んでくる。

   部屋の隅では、なおも、川崎が天野に暴行を続けている。

   その間に、すぐさま、平井が割って入り込む。

平井「(どやす)川崎!何してるんだ、きさま!」

   たじろいだ川崎が、後ずさりする。

平井「どこまで卑怯な奴なんだよ、お前って奴は!なんで、すぐ天野ばかりを苛める?

 恥ずかしくないのかよ。きさまは、人間のクズだ!」

   川崎は、泣きそうな表情になっている。

平井「さあ、天野に謝れ!すぐ謝るんだ!」

   川崎は、半泣きで、バッと教室から走り出ていってしまう。

   憤慨した様子の平井は、川崎を追い掛けるかわりに、天野の方へ体を向ける。

平井「(毅然と)天野。大丈夫だったか」

   天野は、ひどく困惑し、うろたえている。

天野「(ボソリと)先生。もう、いいよ」

   天野は、のろのろと自分の席の方へと向かう。

   生徒たちの人だかりがざわついている。

   平井は、どうすればいいか分からなくなり、立ち尽くす。

影子「(弱った表情で、平井へ)先生・・」

 

      ○同・男子トイレ

   その個室の一つに、川崎が閉じ篭もっている。

   顔を真っ赤にして、グスグス泣き続けている。

 

      ○同・カウンセラー室  (夜更け)

   やつれた感じの影子が、机について、パソコンをいじっている。

   ふと、彼女は手を休め、暗く、ため息をつく。 (FO)

      ○国道  (登校時)

   川崎、天野のグループが、一緒に歩いている。

   天野一人が、重たそうに、皆の鞄を持たされている。

   その様子を、意地悪そうに川崎が見つめている。

 

      ○中学校校舎・男子トイレ

   個室の中へと押しやられた天野目がけて、川崎がバッとバケツで水をかける。

   びしょ濡れになった天野を引っ張りだして、

   川崎たちは、面白がって、その濡れた服を勝手に脱がし出す。

 

      ○同・平井の担任の教室

   隅の方で、川崎のグループが、無抵抗の天野相手に、プロレス技をかけて、遊んでいる。

   その技は、どんどん、危ないものにエスカレートしてゆく。

   級友たちは、その様子を、遠巻きに、不安げに見過ごしている。 (FO)

 

      ○同・廊下  (夕方)

   影子が、一人で静かに歩いている。

   すでに生徒たちは、下校したあとで、すれ違う相手は誰も居ない。

   平井の担任の教室の前までやって来た影子は、ふと、中へと入ってみる。

 

      ○同・平井の担任の教室  (夕方)

   人は居ない。

   黒板いっぱいに落書きがされている。

   天野の裸姿のイラストのまわりに、「天野のバカ」「死ね!」など、悪口の数々。

   イラストは、川崎が書いたものに見える。

   それを目にした影子の表情が、暗く曇る。 (FO)

      ○同・職員室  (放課後)

   影子が、静かに入ってくる。

   見ると、平井の前には、川崎と友人たちが立たされていて、うつむいている。

   叱られていた様子。

   ちょうど説教が終わったところらしく、川崎たちはゾロゾロと平井の傍から離れだす。

   出てゆく途中で、不安げな顔の影子とすれ違うが、

   川崎は影子の方をジロリと睨みつける。

   川崎たちは出て行ってしまい、影子は平井の元へ歩み寄る。

影子「(穏やかに)先生。また、川崎くんたちの事を叱りつけたんですか」

平井「(強く)当たり前だ。あいつら、また天野の事をいじめてたんだぞ。

 懲りない奴らだ。何度、怒られたら、気が済むのやら」

影子「(鋭く)いじめる側には、いじめる側のプライドがあります。

 ただ、頭ごなしに叱るだけでは、何も変わりませんよ」

平井「(声を張り上げ)じゃあ、あんたは、いじめをしているのが分かっていると言うのに、

 黙って見ていろと言うのかい!

 それが、あんたの得意とするところのカウンセリングなのかい!」

   びっくりした早田が、慌てて、二人の仲介に入る。

早田「(及び腰で)まあまあ、二人とも落ち着いて。仲がいいほど、ケンカする、って事で。

 えへへ」

   早田の言葉で白けたのか、平井も影子も沈黙する。

   平井を睨みつけてる影子は、涙目になっている。

影子「(感情を殺し)私、行きます」

   影子は、平井にサッと背を見せ、歩き去ってしまう。

 

      ○中学校・校庭  (放課後)

   帰る為、天野が、校門の方むかって歩いている。

影子「(呼ぶ)天野くーん!」

   後ろから、笑顔の影子が、走って、寄って来る。

   追い付いた影子の方へ、天野が振り返る。

影子「(息を切らしながら)良かった、間に合って。

 どうかしら、天野くん。これから、カウンセラー室に来てみない?

 私、ちょっと、あなたとお話をしてみたいんだ。どう?インターネットだって、あるのよ」

   天野が、沈んだ表情で、影子の方をジッと見る。

天野「(ボソリと)先生、ほっといてくれよ。ボクなんか・・」

   天野は、影子に背を向け、うつむいて、歩き出してしまう。

   残された影子は、がく然とし、目を潤ませて、立ち尽くす。

 

      ○立体歩道橋  (夕方)

   影子が、その途上の手すりに寄り掛かり、ぼんやりと、眼下の車の往来を眺めている。

   ひどく落胆し、考え込んでいる様子。

      ○中学校・校庭

   そのど真ん中で、他の生徒たちが見ているというのに、

   川崎たちが笑いながら、天野の事を袋だたきにしている。

   天野は、うずくまり、必死に川崎たちの暴力を堪えている。

   そこへ、影子が、走って、やって来る。

影子「(叫ぶ)やめて!もう、皆、やめて!」

   影子が、急いで、天野の前に立ち、自らが盾となる。

   その為、川崎たちは、怯んで、動きが止まってしまう。

影子「(泣き声で)お願いだから、もう止めてね」

   そして、影子は、うずくまる天野の上に、身をかぶせ、

   その状態で、グスグスと声を出して、泣き出す。

影子「(泣きながら)ごめんね。本当に、ごめんね」

   その様子に気まずくなった川崎たちは、おろおろと、この場から離れていってしまう。

   影子にのし掛かられた天野が、ゆっくりと身を起こす。

   影子は、なおもベソをかき続けている。

   そんな彼女の姿を見て、

   うろたえた天野も、ためらいつつも、後ずさりして、逃げ出してしまう。

   残された影子は、泣きながら、うつむいてしまう。

      ○中学校校舎・カウンセラー室

   机に座った影子の前で、川崎が、ふてぶてしい態度でつっ立っている。

川崎「(虚勢をはって)なんだよ、先生!あんたもオレに説教するつもりなのかよ。

 もう、うんざりだよ!」

影子「(優しく)違うわ。お話を聞いてもらいたいの。

 (ほほえみ)・・私の事。私の小さかった頃の事」

   川崎は、ちょっと、顔をしかめる。

影子「(目を潤ませ)小学生の時だったわ。皆に嫌われているクラスメイトの女の子がいたの。

 無愛想で、何の抵抗もしようとしなかったから、いつも、皆でいじめていたわ。

 もちろん、私も、その中に混ざって。それが当たり前のように思っていたし、

 そんな事を続ける事に、おかしいとは誰も思っていなかった。

 そしたら、ある日ね、交通事故に遭って、その子が死んじゃったのよ。突然の事だった。

 その子の机の上に花瓶の花が飾られていたのは、今でもはっきりと覚えているわ」

   ここで、影子が間を置く。川崎も息を飲む。

影子「(声をひそめ)でもね、あとで分かったんだけど、

 その子が死んだのは、実は、事故だからじゃなかったのよ。

 飛び込み・・。自殺だったのよ。

 私たちのいじめは、その子を自殺するほど、追い詰めていたのよ。

 そんな事に、全然、気付いていなかった。私は、人殺しの一人だったのよ」

   衝撃の告白に、川崎はがく然とし、顔が引きつりだす。

影子「(悲しげに)その事を知ってから、私は、今でも、その子をいじめている夢を見るの。

 やってはいけない、やめなくちゃ、とは思っているんだけど、

 夢の中では手を止める事ができないの。目覚めた時、私はボロボロに泣いているわ。

 もう二十年も昔の事なのに、今でも、私は、その事で苦しんでいるのよ。

 きっと、これからだって。

 一人の人間の人生をズタズタにして、未来を奪っちゃったんだもの。

 その気が遠くなりそうなほどの罪深さに責めさいなまされる気持ち、

 あなたには理解できる?」

川崎「(怒鳴る)そ、そんな話、もう止めろよ!」

影子「気に触った?それなら、私の事、殴ったって、いいのよ。

 だって、私は、叩かれたって仕方の無いような事をやってしまった人間なんですもの。

 どうぞ、殴っていいのよ」

   影子が、目をつぶり、川崎の方へ、そっと自分の頬を差し向ける。

川崎「(叫ぶ)わあーっ!」

   川崎は、走って、この部屋から出て行ってしまう。

   その後ろ姿を、影子がボッと見送っている。

 

      ○同・平井の担任の教室

   隅の方で、また川崎の友人たちが、天野にプロレス技をかけて、遊んでいる。

   傍に川崎もいるが、躊躇した感じで、遊びには加わっていない。

   友人たちの笑い声と共に、やっている事もどんどんエスカレートしてゆく。

   川崎の耳に、笑い声や天野の悲鳴が鳴り響く。

   川崎の表情が、どんどん、苦悩したものに変わってゆく。

   ついに、川崎が動き出す!

   友人を突き飛ばして、川崎は、かばうように天野に寄り添う。

川崎「(半泣きで)おまえら、もう止めろよ!」

   友人たちは、びっくりして、動きが止まってしまう。

川崎「(怒鳴る)ダメなんだよ、こんな事をしちゃ!絶対にダメなんだよ!」

   川崎の豹変した態度に、友人たちはもちろん、遠巻きに見ていた級友たちも、

   助けられた天野さえもが、あっけにとられてしまっている。

   友人たちは、いじめる事を止めてしまうが、

   泣き顔でうつむく川崎は、なおもブツブツ言い続けている。 (FO)

      ○同・廊下

   女生徒たちが歩いている。

女生徒A「ねえ。修学旅行の下調べ、しようか」

女生徒B「そうね・・。

 あ、確か、かげこ先生のところ、インターネットが繋がったって、言ってたわ」

女生徒C「じゃあ、かげこ先生のところへ行ってみましょう。

 インターネットで、行く場所を調べましょうよ。先生も、いろいろ教えてくれると思うし」

   遠くの場所で歩いていて、彼女たちのお喋りに聞き耳を立てていた教頭が、

   つい、にっこりと笑顔になる。

 

      ○同・屋上

   風の強い中、早田と吉川がたたずんでいる。

吉川「(不安げに)ここって、立ち入り禁止の場所だったはずよ。よく、入れたわね」

早田「(得意げに)かげこ先生に教わったんですよ。これを使えば、いいって」

   早田が、ヘアピンを取りだし、吉川に見せる。

早田「どうです。ここって、気持ちがいいでしょう。なんか、解放されたような気分で。

 吉川先生にも、この事を、ぜひ、教えてあげたかったんです」

吉川「(笑って)ありがとう」

早田「かげこ先生も、癒しの場所に使えないかな、って言ってましたよ」

吉川「(クスクスと)すぐ、かげこ先生のお話ね。あの人も、連れてきたら良かったのに」

   早田が、含み笑いで、首を横に振る。

早田「(意味あり気に)だめ、だめ。かげこ先生は、今ちょうど、自分の部屋にいます。

 平井先生と一緒にね」

 

      ○同・カウンセラー室

   机の上のパソコンの画面上に、インターネット回線を通じて、

   パッと「かげこのお部屋」と言うタイトルの表紙ページが現われる。

影子「(嬉しそうに)できたぁ!」

   影子が、思わず、椅子から立ち上がってしまう。

   傍には、平井が居て、パソコンの画面を眺めている。

影子「先生。私ね、この学校で巡りあった生徒さんたちの事を、

 いっぱい、このホームページに書いていこうと思っているんです。

 もちろん、先生方の事もね」

   平井は、不思議そうに、影子の姿を眺めている。

   気にしない影子は、窓辺へと寄り、気持ち良さそうに、外からの風を浴びる。

影子「私、子供の頃は、ずっと、いじめられっ子だったんです。

 小学生、中学生、高校に入ってからも。

 いつも、いじめられるのは、私ばかりで、本当に沢山いじめられました。

 だけど、ずっと我慢してたんです。

 私だけ辛い思いをすれば、それで済む事なんだ、と思って。

 でもね、高校を卒業して、いじめの生活から離れてみたら、

 私は、急に、ある事に気付いたんです。

 実は、私は、<影子>と言う一人の少女に対しては、

 ずっと残酷な事を強いらせ続けていたんだって。

 そしたら、たまらなく悲しくなっちゃって・・。

 私みたいな可哀相な人間を二度と作ってはいけないし、一人でも多く救ってあげたい。

 だから、私は、この仕事を、自分の天職に選ぶ事にしたんです」

   影子が、平井の方へ振り返り、微笑む。天使のような微笑みである。

   平井も、つい、微笑みで返してしまう。

影子「皆、ほんとは良い子ばかりだと思うんです。

 ただ、自分に素直になれないだけ。自分の本当の素晴らしさが分からないだけ。

 そんな子供たちの良い部分を引き出せてあげたら、どれだけ素敵だろう、と思います」

   影子が、首を傾け、ニコリと笑んでみせる。

   パソコンの画面上に「END」のマークが現われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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