No.208272

再会

明人さん

北の街に降り立った祐一の前に現れたのが香里だったら……。

2011-03-26 23:20:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:503   閲覧ユーザー数:491

 
 

 雪が降っている。

 

 重く曇った空から、真っ白な雪がゆらゆらと舞い降りていた。

 

 冷たく澄んだ空気に、湿った木のベンチ。

 

「……」

 

 俺はベンチに深く沈めた体を起こして、もう一度居住まいを正した。

 

 屋根の上が雪で覆われた駅の出入口は、今もまばらに人を吐き出している。

 

 白いため息をつきながら、駅前の広場に設置された街頭の時計を見ると、時刻は3時。

 

 まだまだ昼間だが、分厚い雲に覆われてその向こうの太陽は見えない。

 

「…遅い」

 

 再び椅子にもたれかかるように空を見上げて、一言だけ言葉を吐き出す。

 

 視界が一瞬白いもやに覆われて、そしてすぐに北風に流されていく。

 

 体を突き刺すような冬の風。

 

 そして、絶えることなく振り続ける雪。

 

 心なしか、空を覆う白い粒の密度が濃くなったような気がする。

 

 もう一度ため息混じりに見上げた空。

 

 その視界を、ゆっくりと何かが遮る。

 

 「……」

 

 雪雲を覆うように、女の子が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「雪、積もってるわよ」

 

 ぽつり、と呟くように白い息を吐き出す。

 

「そりゃ、2時間も待ってるからな…」

 

 雪だって積もる。

 

「…?」

 

 俺の言葉に、女の子が不思議そうに小首を傾げる。

 

「今、何時?」

 

「3時」

 

「あれ?待ち合わせ時間は3時であってるわよね?」

 

「1時のはずだが」

 

「でも、3時って言ってたわよ」

 

「………」

 

「………」

 

 一瞬、彼女も俺も無言になる。

 

「ひとつだけ、訊いていい?」

 

「…ああ」

 

「寒い?」

 

「寒い」

 

 最初は物珍しかった雪も、今はただ鬱陶しかった。

 

「遅れたお詫びにこれをあげるわ」

 

 そう言って、紙パックのジュースを一つ差し出す。

 

 その紙パックのジュースを見てみる。

 

「ひとつ訊いていいか?」

 

「何?」

 

「これは、飲み物なのか」

 

 そこには、どろり濃厚ゲルルンピーチと書かれていた。

 

 どこぞのどろり濃厚ピーチ味強化版か。

 

 しかし気になることがある。

 

「何?」

 

「どこで買ったんだ、コレ」

 

「家の冷蔵庫の中の奥底の箱に厳重に封印してあったわ」

 

「………」

 

 突っ込みどころが多すぎて俺は思わず無言になってしまった。

 

「それと再会のお祝い」

 

「七年ぶりの再会のお祝いがこれ1つか?」

 

 不満とかそういうのじゃなくて、色々な問題が渦巻いている気がする。

 

「2つ、3つ欲しいの?」

 

「………」

 

「冗談よ」

 

「それより私の名前、まだ覚えてる?」

 

「そう言うお前だって、俺の名前覚えてるか?」

 

 女の子は無言で頷く。

 

 雪の中で…。

 

 雪に彩られた街の中で…。

 

 7年間の歳月、一息で埋めるように…。

 

「祐一」

 

「栞」

 

「なんで妹の名前と間違えるのよ」

 

 彼女は不満そうに言った。

 

「いい加減、ここに居るのも限界だ」

 

「私の名前は」

 

 7年ぶりの街で、

 

 7年ぶりの雪に囲まれて、

 

「行くぞ、香里」

 

 彼女はすこし微笑み。

 

「うん!」

 

 新しい生活が、冬の風にさらされて、ゆっくりと流れていく。

 

 
 

 
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