No.207968

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十八話

アボリアさん

黄巾党√第十八話です
本来ならばこのお話と次回分のお話を併せて一話になる予定でしたが、少々話が長くなりすぎる事。そして更新の間隔が開きすぎてしまった為に前後編に分けて投稿させて頂きます
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると幸いです
追記 この度の地震 被害に逢われた方々に深くお見舞い申し上げます
まだまだ復興には遠く、近隣の県などに住まわれている方々もも何かと不便な事が多いでしょうが、一刻も早い復興を心よりお祈り申し上げます

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2011-03-24 23:00:28 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8559   閲覧ユーザー数:6713

連合軍 虎牢関攻め先鋒、劉備軍本営

 

 

「あわわ……ど、どうしようか、朱里ちゃん……」

 

「ど、どうしようって……」

 

震える声で身を寄せ合い、二人の少女が本営の中に設えられた天幕から崖上を見上げる。

少女達は臥龍、鳳雛と並び称される劉備軍の軍師……名を、諸葛亮、龐統。真名を朱里、雛里といった。

 

「このままじゃ、不味いよね?」

 

言って、朱里は自分達の前方、味方の兵達へと視線を移す。

その様子は目に明らかなほどの動揺が走っており、今尚続く黄巾達の声に戸惑いの色が隠せないようだった。

 

「うん……。今は愛紗さん達が何とか抑えてくれてるけど、このままじゃ、いつ離反者が出てもおかしくないよぉ……」

 

弱々しく雛里が漏らす。

あの、戦場でも聞くことが無いほどの大声。それに加え、本来なら家族であり、仲間であるはずの民達からの戦に対する非難で、最早殆どの兵達は士気を奪われていた。

それに加え、劉備軍の特徴は、主君である劉備こと、桃香の人望、求心力から来る絶対的ともいえるほどの結束力なのだが……だからこそ、他の軍の兵よりも尚更に悪い方向へと向かってしまっていた。

 

劉備様がそんな不義の戦をするはずが無い。だが、あれほどの人数が嘘を言っているとは思えない。ならば……もし、この戦が間違っているなら。劉備様も知らなかっただけなら、早々に戦を止めるべきなのでは?これ以上、戦を続けるべきではないのでは?

 

そういった、兵の戸惑いがありありと出てしまっているのだ。

 

「でも、ここであの人達の言う通りに旗を降ろしたら……」

 

「うん。連合軍と董卓軍の真ん中にいる私達は、両方から狙われちゃうかもしれないよ」

 

今、劉備軍が布陣している位置……連合軍、先鋒という位置が何より不味かった。

むやみに民の声に耳を傾ければ裏切りとして連合軍の非難を一斉に浴びかねないし、そうなればその不和に乗じて董卓軍が出てくる可能性も捨てきれない。

だからといえど……民を敵に回すことは、主君の大徳、そして自分達の信念からして選ぶべくも無い。

となれば、

 

「今は傍観に徹する以外に策は無い、よね?」

 

傍観。今は我慢に徹し、連合及び董卓軍の動きを見計らうべき時だ。と朱里は言う。

 

「……私もそれしかないと思う。桃香様も、ちゃんと説明すれば分かってくれると思うから……」

 

雛里も朱里の考えに首肯。その結論を以って主君、桃香の元へと二人が向かおうと……

「諸葛亮様!龐統様は居られますか!?」

 

「はわっ!?ひ、ひゃい!?」

 

「あわわ……!?」

 

唐突に現れた兵士に驚き、声が上擦る。

だが兵士もそんな軍師達に慣れているのか、動じることなく言葉を続ける。

 

「今しがた、我等の陣に黄巾から矢が射掛けられまして。その矢に、お二方宛の文が」

 

「文……ですか?」

 

訝しげに首を傾げる朱里と雛里。だが、兵士の次の言葉に二人は更に驚く事になった。

 

「はぁ、ちなみに相手方の名は『水鏡』と記されていたのですが……」

 

「は、はわわっ!!貸してくだしゃい!!」

 

慌てた様子で、伝令の兵から手紙をひったくる様に受け取る。

そのまま伝令の兵を外へと帰すと、二人は恐る恐るといった呈で、その文へと視線を落とした。

その文には……こんな事が書かれていた。

 

‘‘拝啓 親愛なる教え子 朱里 雛里へ

二人共、元気でやっていますか?貴女達の噂は、少しではありますが聞かせてもらっています。

どうやら徳の高い、良い君主に恵まれたようで。好々です。

世の中を良くする為と旅立った貴方達二人が、力のある者の元でもなく、野心に塗れた者の元でもなく、至弱なれど志を持った人の元へと仕えられた事をわが身の如く嬉しく思います。

ただ、一つ。

至弱の夢を輝かせる為、至強へ上るを悪いとは言いません。無名を有名にと、風評を得る事も良いでしょう。

ただ……その為の手法が言いがかりをつけ、大勢を以っての、不義の戦いだった事だけが残念です。そう、あまりに残念であり、悲しい話です。

 

あまりに悲しいので私は……ある教え子二人の、あまり公にはしづらい趣味の事を声高に叫んでしまうかもしれません♪

 

八百一に興味津々で、男と男の組み合わせを好み、果ては自ら書にしたためてしまうような性癖について、黄巾の声に乗せ、全軍に知らしめてしまいましょう。

ついでに学校に残していった、貴女達の書についても全力で写本し、全国へ出回らせるのも良いかも知れません。

その二人はとても優秀なので、いずれその名が広まる事になるでしょうが……その噂も一緒に広まっていってしまう事になるでしょうね。

そう考えるとその二人には気の毒かもしれませんが、それも不義に加担した罰、ということで。

……まあ、それは置いておいて。

私としては、可愛い教え子と対立するのは悲しい限り。ですから貴女達の心に、不義を良しとしない気持ちがあるのであれば、即刻旗を降ろして貰いたいです。

さすれば、劉備軍がもしその後、連合、董軍のいずれに攻められようとも黄巾が全面的に支援、共闘する事を誓いましょう。

……ここまで言えば、言いたい事は分かりますよね?

それでは良き対応を待っています 草々

 

追伸

この手紙は読み終わり次第、自動的に消滅……とかはしないので、その二人の尊厳を守りたいなら焼却処分することをお勧めしますよ。   水鏡‘‘

……。

 

ガタガタ

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

「はわわわわわ……!!」

 

「あわわわわわ……!!」

 

臥龍、鳳雛とまで謳われた二大軍師。その二人は文を読み終えた瞬間から、尋常でないほど狼狽する。

 

「ど、どど、どうしよう朱里ちゃん……っ!?」

 

「どど、どうしようっていわれても……っ!!」

 

一瞬、偽物であれば、という疑いが頭をよぎる。が、筆跡から見て、間違いなく本人の物で間違いないし……何よりそんな話を知っている時点で本人に決まっている。

 

そして、自分達の知っている恩師であるならば……絶対にやる!!面白半分で本当にやってしまう!!

そうなったら最後。自分達……もとい。ある二人が世間的に抹消されると同義!!

 

「はわわわわわ……」

 

半ば錯乱しながらも朱里は大陸でも五指に入る頭を最大限に使い……ある決断に至った。

 

「雛里ちゃん!!桃香様に、この場は旗を降ろすよう進言しよう!!」

 

「え、そ、それは不味いんじゃ……」

 

「大丈夫!!」

 

必要以上の大声で朱里は続ける。

 

「手紙の通りなら黄巾党からの支援がある。それに皆が牽制しあう中、私達がいち早く旗を降ろせば周りにも影響がでると思うの。同じように動きを伺っている諸侯からも賛同する人達が出てくるだろうし。そうすれば当面、董卓軍にだけ注意を向けて連合側には最低限の備えだけですむと思う!!というか……」

 

自分達が桃香様を輝かせる為、これからも表舞台に立とうと思うのなら……これしかない!!

 

そう、朱里の目が雄弁に物語っていた。

 

「……うん。分かったよ朱里ちゃん!!」

 

「うん!!それじゃ、急ごう雛里ちゃん!!」

 

二人は急ぎ足で―とはいえ、手紙を篝火の中に捨て、それを確認したのち―大急ぎで天幕を出た。

主君の為。平和の為。そして何より、

 

自分達の……もとい、とある二人の未来の為に……!!

 

所変わって、虎牢関攻め最前線、劉備、公孫瓚連合部隊

そこには両部隊の長……劉備と公孫瓚の姿があった。

 

「……やっぱり、今すぐに戦いをやめるべきだよ」

 

そう言ったのは劉備こと、桃香。

 

「そうは言うけど、言うほど簡単にはいかないんだよ。桃香」

 

桃香の言葉に、宥めるように答えたのは公孫瓚。真名を白蓮といった。

 

「でも白蓮ちゃん。この戦いは、董卓さんが悪い。暴政で民が苦しんでる。それをどうにかする為の戦いだった筈だよ?」

 

なのに、と呟きながら、桃香は手に持った文へ――桃香自身は知る由も無いが、奇しくもここにはいない二人の軍師へ文が来たのと同時刻に射掛けられた――かつての師、盧植からの矢文へ視線を落とす。

 

「でも違った。董卓さんは悪く無くて、民の皆は、戦いなんて望んで無かったんだよ。だったらこれ以上、争い合う理由なんてないよ。」

 

真剣な眼差しで桃香が詰め寄る。だが、対する白蓮は肩を竦めて続ける。

 

「だから、そういう話じゃないんだって。仮にそれが本当に先生の書いた文で、そこに書いてある事や黄巾の連中のいってる事が全部本当だとしてもだぞ?戦をやめるってのは簡単な事じゃないんだ」

 

連合に名を連ねている事もそう。一人足並みを乱せば、それは叛乱行為として周りから叩かれる。

兵士や将にしてもだ。

命を懸けて戦ってきた戦いが間違っていた。そんな事を言われれば動揺するどころの話では済むはずもない。

 

「言いたい事は私にだって分かるさ。そうするべきだとも思う。けど……」

 

「ねえ、白蓮ちゃん」

 

白蓮の言葉を遮り、桃香は視線を崖上へ。黄巾党の集団へと向けると、語りかけるように話し始めた。

 

「私はさ、つい最近、平原の相なんてお役目を貰ったばっかりで。難しい駆け引きや、そういう事がまだちゃんと解ってないのかもしれない。でも、これだけは分かるよ」

 

白蓮の方向に振り返る桃香。

 

「間違っていたなら。それをしっかりと認めて、受け入れて……謝って。行動で示さないといけないと思うの。それは相とか太守とか、役職以前に人として当たり前の事だよ」

 

「桃香……」

 

「もちろん、あの人達の言う事全部が正しいかは分かんないし、もし本当だとして、謝って済む問題ばかりじゃないのは分かってる。でも、それでも、本当の事が見えないまま、ただただ分からないままで戦いを続けるのだけは間違ってるよ。……違うかな?白蓮ちゃん」

 

言いながら、白蓮の目をジッと見詰める。

 

桃香の視線に白蓮は一瞬たじろぐが、それでも首を横に振った。

「それが正論なのは分かるさ。でもな桃香。今動く事は兵達まで危険に晒すことになるんだぞ?」

 

「それは……でも」

 

「言葉に耳を傾けるのはいいさ。でもな。軍を率いる以上、私達を信じて付いて来てくれている兵達の命を守ることも私達の責務なんだ。だからこそ……」

 

白蓮が言いかけた、その時。

 

「「桃香様!!」」

 

叫びつつ、猛然と桃香達の下に駆けつけたのは軍師である朱里と雛里だった。

 

「え、どうしたの!?朱里ちゃん、雛里ちゃん」

 

普段の大人しい印象からかけ離れた慌てように桃香は動揺するが、それも構わない勢いで二人が続ける。

 

「と、桃香しゃま!!この件、今すぐ旗を降ろし、黄巾の民の大義に乗りゅべきだと思いましゅ!!」

 

「え!?……うん、私もそれが正しいと思うんだけど」

 

予想だにしない進言に、戸惑う桃香。心情としてはその進言に従いたい所なのだが……

 

「さっき白蓮ちゃんにも言われたんだけど。連合の人達を敵に回すような事にはならないかな?」

 

「あわわ……そ、それは予想済みでしゅ……です。ですが、我々がいち早く動けば、事の成り行きを伺っている他の諸侯達にも影響がでてきましゅ。そして――」

 

徳が高いと評判の劉備軍が動く事でそれに追随する者も出て来る。そして汜水関からの戦いで武勇を見せた関羽、張飛がいる事で連合も迂闊には手を出せない。万が一の時は黄巾党と共闘することも……云々。

 

慣れない早口に噛み噛みになりながらも二人は思いの丈をぶつける様に熱弁を奮った。

 

「――でしゅから、兵のみなしゃんへの懸念は無用と思われましゅ!!どうかご判断くだしゃい!!」

 

「うん。分かった。……どうかな?白蓮ちゃん」

 

伺うように白蓮を見詰める桃香。

 

「……ああ、分かったよ。そこまで言われたら何も反論は無いさ。それに、どうせ私が頷かなくても自分の旗は降ろすつもりなんだろ?だったら付き合うさ」

 

肩を竦めながら言う白蓮。それを見て、桃香は笑みを浮かべる。

 

「ありがとう白蓮ちゃん。じゃあ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。みんなに通達をお願い!!」

 

「「御意でしゅ!!」」

 

こうして劉備軍は、依然動きを見せない連合軍の中にあって、ただ一つ動きだしたのだった。

「好々。どうやら盧植殿の方も上手く取り計らってくれたようですね」

 

眼下に広がる光景に水鏡は満足気に笑みを浮かべる。

 

その笑みは劉備軍、公孫瓚軍に動きがあった事に所以するものだったがもう一つ、『群集心理』という狙いもあったからだ。

人間というものは人と違う行動をする事に忌避感を抱く。集団の中、その思惑を抜きに一人率先して行動する事は中々に難しく、それが集団に背く事であれば尚更だ。

それ故、黄巾の民の訴えに理解や賛同を示す者がいたとしても、『連合』という集団である以上迂闊には動けず、事態が膠着してしまう恐れがあった。

しかし、というべきか。だからこそ、始めの一歩を踏み出した者がでたという結果が何より重要だった。それが義軍と名高く、武勇智勇共に売り出し中の軍、北の果てとはいえ刺史よりも位の高い州牧の軍ともなれば影響力としてはかなりのものとなる。

 

(とはいえ……あの娘達には少しばかりやりすぎたかも知れませんが)

 

教え子たる二人に送った手紙の内容を思い浮かべ、水鏡は苦笑を浮かべる。

まあ、交渉の基本は飴と鞭ともいうし。弱みなんてものは握られる方が悪い訳だし。非常事態だし。うん、自分は悪くない。

そう、心の中で自己弁護をしながらも水鏡は今後の展望に思考を馳せる。

劉備、公孫瓚の行動という楔は、連合の一枚岩とも呼べない連帯関係に深い亀裂を生んだ。それにより、仁義や気骨を持った諸侯。もしくは兵の心を纏められない将、黄巾の数や声に恐れを抱いた諸侯が少なからず劉備達に呼応するのは間違いない。

 

(しかし……)

 

それを含めても全体から見たら二割か、三割に届かない程度の数だろう。無論、時間が経てばその数は増えていくだろうが……万が一、その前に連合が武力行使に動いてしまう可能性を考えると、あまり宜しくない。

勿論それに備えての武装、戦闘訓練はしている。けれども自分達の目指す勝利は諸侯と争い、勝つという事では……そんな小さな事ではなく。あくまで民の心で乱世を治める事なのだ。

その為にも。敵味方問わず、犠牲などは望むべくも無い。

 

(その辺りはもう一つの、楔次第でしょうかね。あちらは張角ちゃん達の言葉と……あとは、相手任せになりますか)

 

もう一つについては決して確実とはいえないもので、しかしそれが上手く行けば無血の解決さえあり得るが……まあ、それはそれ。

 

(人事は尽くし、策も弄し、後は相手任せ。これ以上は考えても徒労でしょうかね)

 

水鏡は一つ息を吐くと、空を見上げる。

 

願わくば……この無為な戦と、それを行う者達に。あの子達の心が届くようにと願いを込めて。

 


 
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