No.206004

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・六話

月千一夜さん

ども、お久しぶりですw
第一章六話、公開です
今回は七乃さんのお話
短いですが、少しでもお楽しみいただければ嬉しいですww

2011-03-10 22:12:01 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:12213   閲覧ユーザー数:8471

暗い・・・暗い森の中

私の胸元で眠る“大切な人”

だけどその寝顔は、とても安らかとは言えない

 

“恐怖”“不安”

様々な感情が入り混じった、とても苦しそうな表情

私はそんな“大切な人”の体を強く抱きしめ、震える声でこう言ったのだ

 

“大丈夫です”と

 

根拠なんてないし、保証もできない

だけど、それでも言わなくちゃいけなかった

この身に変えてでも、守りたかった

 

私の胸元で眠る、“大切な人”のことを

我儘で世間知らずで・・・だけど、本当はとてもお優しい心を持つ“大切な人”を

 

 

 

 

『大丈夫です・・・私が、絶対に“美羽様”のことを守りますから』

 

 

 

 

それが、私の全てだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 第六話【お母さん】

 

 

 

「ん・・・」

 

 

その日、一刀はいつもよりも早くに目が覚めた

窓の向こうに見える空は、まだ微かに暗い

しかし、もう一度眠る気にはなれなかった

だから彼は、のそのそと体を寝台から起こす

 

 

「・・・?」

 

 

その瞬間、彼の耳に何か・・・風を切るような音が響いた

彼はその音に引き寄せられるよう、部屋の窓を開け放った

そこに、“彼女”はいた

 

 

 

 

 

 

「はっ! っやぁ!」

 

 

まだ日が昇り切っていない空の下

彼女・・・七乃は、一心不乱に二振りの剣を振っていたのだ

そのたびに、“ヒュン”と風を切る音が響いていく

 

 

「・・・」

 

 

彼はその光景を、黙って見つめていた

七乃はそんな彼のことに気づく様子もなく、ひたすら剣を振り続けている

その集中力は凄まじく、額から流れる汗を拭う様子もないほどだ

 

 

「はぁっ!」

 

 

“ヒュン”と、何度目になるかわからない音が響く

それから、彼女はようやく“ふぅ”と息をついた

 

どれくらい時間が経ったのだろうか

空は、すっかり明るくなっている

そんな中、彼女は近くに置いてあった布で汗を拭い・・・そこでやっと、窓から顔を出す一刀のことに気づいた

 

 

「一刀さん、起きてらしたんですか?」

 

「ん・・・おはよう、七乃」

 

 

“はい、おはようございます”と笑う七乃

彼女はそれから、少し気まずそうな表情を浮かべ一刀が顔を出す窓へと近づいていく

 

 

「あ~、その・・・もしかして、見てました?」

 

「ん・・・」

 

 

その言葉に、彼はコクンと頷く

それを見て七乃は、“そうですか”と頬を微かに赤く染めた

 

 

「その・・・今見たこと、皆さんには内緒にしておいてくださいね?

私ってほら、こんなことするようには見えないじゃないですか」

 

 

“お願いします”と、七乃は苦笑する

それに対し、一刀は無言で頷いた

彼女はその返事に、“ありがとうございます”と胸を撫で下ろす

 

 

「それ・・・」

 

 

ふと、一刀が何かを指さした

それが自身の腰に差してある剣だと気付いた七乃は、その二本のうちの一本を手に取り笑みを漏らす

 

 

「安物なんですけどね・・・貯めたお金で買ったんです」

 

 

“持ってみます?”と、差し出された剣

彼はそれを、無言で受け取った

瞬間、僅かに眉を顰めた

 

 

「・・・重い」

 

「あはは、それはそうですよ

なんたって、剣なんですから」

 

「返す・・・」

 

 

差し出された剣を、再び腰に差す七乃

彼女はそれから、ニッコリと微笑み彼を見つめた

 

 

「さぁ、今から朝食の準備をしますね♪

一刀さんも、お腹が空いたでしょう?」

 

「ん・・・」

 

「それでは、皆さんを起こしておいてもらえますか?」

 

「わかった・・・」

 

 

そう言って、窓から顔を引っ込める一刀

そんな彼のことを笑顔で見送り、彼女は歩き始める

 

 

「“重い”、かぁ・・・」

 

 

その途上、ふいにこぼれ出た言葉

彼女は同時に、足を止める

その両の手は、腰に差してある剣へと添えられていた

 

 

 

 

 

「私の剣は、重くなんてありませんよ一刀さん・・・情けないくらいに、“軽い”んです」

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「よし、今日の診察は終わりだ」

 

「ん・・・ありがと」

 

 

“どういたしまして”と、医師である華佗の笑い声が響く

そうして、毎日の日課でもある華佗の診察は終わった

あれからもう、十日は経っただろうか

毎日の散歩のおかげもあってか、体力も少しずつだがついてきた

もうすぐしたら、走ることも問題ないだろうと華佗は嬉しそうに言う

その言葉に一番喜んだのは、やはり美羽であった

そんな彼女の姿は、今日はない

変わりに彼の傍にいたのは・・・

 

 

「それでは、街に出発しましょうか一刀さん」

 

「ん・・・」

 

 

七乃であった

 

基本、一刀の散歩には誰か一人が必ず付き添うことになっている

大分回復したとはいえ、未だ万全ではないからだ

それならばと、美羽は自分がついて行くと言ったのだがそうもいかない

何故ならば、彼女にも“大事な用事”があるからだ

それ故、一刀の街への散歩には四人が交代でついていくことになった

そして、今日は七乃の番というわけだ

 

 

「それじゃ、俺ももう行くかな」

 

「はい、今日もありがとうございました華佗さん」

 

「また、明日」

 

「おう、また明日な」

 

 

手を振り、一刀達の家をあとにする華佗

その背中を見送り、二人もいそいそと準備を始めた

といっても、持っていくものなどあまりないのだが

財布、手拭いといった程度だ

 

 

 

「さて、それでは行きましょう♪」

 

「ん・・・」

 

 

そうして、二人もまた家をあとにする

鮮やかな青空の下、並んで歩きながら・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「賑やか」

 

「はい、今日も賑やかですね~」

 

 

一刀の言葉に、彼女は笑顔のまま頷く

二人の言うとおり、天水の街は今日も活気に溢れていた

他の都市に比べこの街はそこまで大きくはないのだが、それでもそこいらの都市に負けず劣らずの賑わいを見せている

そんな街の様子に感心しつつ、七乃は隣を歩く一刀を見つめた

見つめた先にいる彼は、相変わらず無表情のままで

彼女は、人知れず苦笑を漏らした

 

 

(やっぱり、酷いみたいですねぇ・・・)

 

 

そして、彼女は思いだす

あの日・・・華佗が、一刀を初めて診た日のことを

 

 

『うむ・・・特に、異常はみられないな』

 

 

その言葉に、安堵する美羽達をよそに・・・彼女はただ一人、その表情を僅かに曇らせていたのだ

彼女は見たのだ

華佗が一瞬、僅かに表情を歪ませたのを

それだけではない

彼女に、彼の“嘘”は通じない

 

 

(他人の“嘘”なんて、簡単に見抜けますからね~

なんせ、散々嘘をついてきたんですから)

 

 

だからこそなのかもしれない

彼女は、一刀と出会い戸惑ったのだ

彼と出会い、彼と暮らすようになってから・・・彼女は気づいた

 

彼は、嘘をついていない

いや・・・“嘘という言葉の意味を知らない”

それは彼女にとって、初めての経験だった

今まで様々な人を見てきた

その全てが、何かしら嘘をついていた

だがしかし、彼は違う

 

“純粋”

この言葉に、限りなく近い存在

彼女にとってそれは、自身の“主”である少女と同じように感じたのだ

 

 

 

 

 

「七乃・・・」

 

「ん、あっ、はい」

 

 

ハッと、彼女は我に返る

考え事に夢中になっている間に、どうやら目的の場所についたようだ

“いけない”と、彼女は自身の頬を軽く叩く

そんな彼女のことを不思議に思いながらも、一刀は“いつもの場所”に座り込んだ

街の子供たちが遊ぶ姿がよく見える、この街の中心辺り

そこにある、大きくて立派な木の下

そこに座り彼は、いつものように空を見上げる

七乃も、彼の隣に座り込んだ

 

そのまま、静かに時間は流れていく

相変わらず無言のまま空を見上げる一刀に、子供たちの姿を見つめる七乃

そんな中、ふいに・・・

 

 

 

「七乃は・・・お母さん?」

 

 

一刀が、小さく呟いたのだ

その言葉に、七乃は首を傾げた

 

 

「あの、どういう意味ですか?」

 

「あれ・・・」

 

 

言って、彼が指を差した先

子供たちの様子を見守る、母親たちの姿があった

その光景を見つめ、一刀は再度呟く

 

 

「似てる

七乃が、美羽や夕・・・祭を見てる時と、似てる」

 

「そう、ですかね?」

 

 

そう言われ、もう一度よくその光景を見つめる七乃

だがしかし、よくわからない

彼女は“多分、違うと思いますけど”と苦笑した

 

 

(それに・・・私には、そんな資格ありませんしね~)

 

 

心の中で小さく呟き、彼女はまた苦笑した

“辛い目に合わせてしまった”

“彼女の居場所を守れなかった”

何度も後悔し、苦しんだことを思い出しながら

 

 

『な、七乃

恐いのじゃ~!』

 

『大丈夫ですよ、美羽様

私が、サクッと何とかしちゃいますから』

 

 

“あの日”、全てを失った日のことを思い出しながら

 

 

 

 

 

「違わない・・・」

 

「え・・・?」

 

 

しかし、そんな彼女の思考は彼の言葉で止まってしまう

唖然としたまま見つめた先、一刀は無表情のまま言葉を紡ぐ

 

 

 

「美羽が、言ってた

皆、“家族”だって

家族っていうのは、あんな感じだって

それに・・・」

 

 

 

 

 

~七乃は、そう・・・さしずめ、妾たちの母上じゃな♪~

 

 

 

 

 

 

「・・・そう、ですか」

 

 

七乃は、小さく呟く

その表情は、笑っているようにも・・・また、泣いているようにも見えた

 

 

「なら、お母さんである私は・・・家族の為に、美味しいご飯を作ってあげないとですね」

 

「ん・・・」

 

 

言って、彼女は立ち上がる

その頬を“何か”が伝い、落ちていった

それが何なのか、彼にはわからない

だから、彼は何も言わず立ち上がった

 

 

「さて行きましょう、一刀さん」

 

「・・・わかった」

 

 

そして、二人は歩き出す

その足取りは、ひどくゆっくりだった

だが、今の自分たちにはちょうどいいと思える

 

 

(こんな私でも、お母さんみたいだと・・・そう言ってもらえるなら

案外こんな毎日も、捨てたものではないのかもしれませんね~)

 

 

護身用だと言い、持ってきていた二振りの剣

それに触れながら、七乃はフッと微笑む

 

 

(一刀さん、私の剣って・・・とっても軽いんですよ

情けないくらい、軽いんです

大切な人に、恐い思いをさせてしまうくらい)

 

 

 

 

~だけど・・・~

 

 

 

 

「そんな私でも、必要としてくれる人がいる

だったら・・・私はきっと、この剣に“想い”をのせられると思うんです」

 

 

聞こえないよう、小さな声で呟く

それから、彼女はその足を早めた

 

 

「さぁ、今日のご飯は美羽様の好物でも作ってあげましょうか

一刀さん、お買い物手伝ってくださいね?」

 

「ん・・・やる」

 

 

 

青空の下

並んで歩く二人

その姿は、さながら本当の“家族”のように見えていた・・・

 

 

 

★あとがき★

 

ども、お久しぶりです

第六話公開です♪

 

今回は“七乃”にスポットをあてたお話となりました

み、短く纏まってしまった

もっと長くしたかったのにorz

 

ともあれ、七乃のターンはひとまず終了

彼女の歩く道のりが、微かに明るくなったところで

 

次回は華y・・・夕さんの予定ww

彼女もまた、ある問題を抱えていた・・・

 

 

 

 

現在はミクシィをご覧の御方ならわかるかもしれませんが、“穏√”の漫画【江南陸家伝】を描いているため時間がなかなかとれませんww

さらにアルカディアかなろうかブログに載せる予定の“華伝”などの執筆もあったり

 

あ、死ぬかもしんないwwwww

 

それでは、またお会いしましょう♪


 
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