No.205095

ゆる色びより第1話Scene1

フェリスさん

オリジナルの小説を書いてみました。とりあえず1話目はScene5までの予定です。というか、小説自体は直しを除けばもう書き終わってるのですが……。各Sceneにイラストを1枚入れようと思ってるので、そっちを頑張って早い所続きを載せれるようにしたいです。

2011-03-05 20:50:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:474   閲覧ユーザー数:412

   Scene1 ある晴れた日の小道

 

 

 雨の日も晴れの日も私は好き。

 

 窓枠を、葉を、傘を滴る雨の雫を眺めながら、ひっそりとした街の気配の中にしとしとと静かに響く雨音を聴く。人の心を癒す、唄うような雨音が、雨の日の醍醐味だって思う。

 

 晴れの日は活気づいた人たちの声に、私も元気をもらって外に飛び出す。燦々と輝く太陽は、私がどこへ行くにもついて来て、道を明るく照らしてくれる。陽気は心をうきうきと躍らせる。

 

 今日はそんな晴れの日だった。私は弾む心に身を任せ、

 

 ――校内を冒険しまくっていた。

 

 私の名前は橡結夏(つるばみゆいか)。入学したての高校一年生で、未だに特定の部活には入ってない。というか、入学して一週間ほど暇があればあちこち歩き回ってるというのに、一向に全貌が分からないこのおっきな学校を見る方が楽しくて仕方ないのだ。

 

 いっそのこと、さんぽ部かたんけん部でも作っちゃおうかな?

 

 私は苦笑しながら、校舎裏の道を歩く。幾つもある校舎の裏は意外とスペースがある。幅五メートル程の地面の道を挟んで反対側は、丸っこく切り揃えられた低い木や大きく伸びた木、その間を埋めるように背の低い草が生えていた。手入れはしっかりとされているようだけど、裏道は裏道、人影なんかは全然ない。ましてや今は放課後だし――

 

 ……って、あれ?

 

 そう思った途端に人影が目に飛び込んで来た。道の少し先、綺麗な長い髪を風に揺らす少女がいた。私はあちこちに注意が散漫してたし、彼女の方も低木の傍でしゃがんで黒猫を撫でていたからお互いに気付かなかったみたいだ。

 

 あの人って、確か同じクラスの――

 

 いち早く気配に気づいた黒猫が私の方を向き、にゃーって一鳴きすると彼女もようやく私の方に気付いたみたいで、立ち上がって振り向いた。

 

 

 振り向く動作に合わせて腰まである髪が、陽光を反射させながら大きく閃く。背は私より頭一つ高い。まあ、私って小さいから彼女は女子の平均くらいなんだけどね。

 

 ……まだまだ伸びるもん。

 

 可愛らしい顔立ちで、その瞳は彼女の物静かな印象を語るようにとても綺麗に澄んでいて――

 

「?」

 

 今更になって、彼女が私をじーっと見つめていることに気付いた。あれ、もしかして睨まれてるのかな? わ、私何かしたかな?

 

 内心であたふたしている私の気も知らず、彼女は足を踏み出した。歩いて来る、なぜか私の方に。

 

 思いがけない状況に、オドオドびくびくする私の目の前で立ち止まった彼女は、私のおでこ辺りに向かって手を伸ばす。おでこに感じる手の感触につい目を閉じてしまったけど、それは一瞬で手はすぐに離れていた。恐る恐るまぶたを持ち上げると、視界の真ん中に細い指で葉っぱを摘む手があり、すぐ上から呟くような声が落ちてきた。

 

「……これ」

 

「……ふえ?」

 

 自分でもびっくりする程の間の抜けた声だと思う。

 

「ついてた」

 

 端的な物言いだった。でも突き放した感じはせず、無表情ながらも優しさが滲んでいるような気がして、ようやく私は冷静さを取り戻すことが出来た。私は葉っぱを受け取りながら、

 

「あ、ありがとう。たぶん、さっき木の中に頭突っ込んだ時のが……」

 

「……えっ?」

 

 彼女はキョトンと少しだけ口を開いて小首を傾げた。私は慌てて思いっきり手をパタパタと振って、

 

「ううん、何でもないの!」

 

 乾いた笑い声を上げながら、誤魔化した。いくら私でも、面白いものは無いかなって草むらの中に入り込んだ時にポケットから落ちそうになったケータイの空中キャッチに成功したと思った瞬間木の根っこに足を引っ掛けて転んでそのまま低木の中に頭から突っ込んだなんて、同級生の女の子に知られるのはかなり恥かしい。全部払ったつもりだったんだけどまだ残っていたみたい。

 

 誤魔化しが成功したのか、はたまたそんなに興味が無かったのか、彼女はそれ以上は何も言わなかった。代わりに、彼女について来ていたらしい、さっきまで彼女にかまってもらっていた黒猫が足元でにゃーと鳴く。なんでだが分かんないけど、彼女を急かしているような気がした。

 

 彼女もそれに気付いたようで、

 

「うん、行こ。もろへいや」

 

 黒猫に手を伸ばし抱きかかえた。人に慣れているのか、首輪をしていない黒猫は大人しかった。

 

 ……って、今の猫の名前!? な、なんで? なんで、もろへいや?

 

 あまりの独創的かつ大胆不敵なネーミングセンスに打ちひしがれる私の頭は動作不良を起こしていた。そのため、

 

「ほ、……じゃあ私行くね、橡さん」

 

 彼女の言葉に反応し遅れてしまい、気付いた時には彼女は背中を向け数歩歩いた後だった。

 

「あっ、うん。また明日」

 

 慌てて大声で返してみたのだが、彼女は特に反応もなくそのまま後ろ姿は遠ざかって行った。角を曲がり校舎の陰に隠れてしまうと彼女の姿は完全に見えなくなった。何となく私は見えなくなるまで目で追っていた。

 

 ……なんていうか、不思議な感じの子だなぁ。でも、優しい人だ。

 

 私は頬を緩めながら、手の中にある小さな葉っぱをゆらゆらと揺らし、ふふっ、と今度は確かに小さな声を漏らして笑った。しばらく眺めてから、肩にかけたお気に入りの(よく子供っぽいって言われる)小さなポシェットの口を開いてパステル調の手帳を取り出す。適当なページを開き、そっと葉っぱを挟んで静かに閉じる。いそいそと手帳を収めながら、一つ気になった。

 

 あれ? そう言えば、私の名前をなんで覚えてたんだろう?

 

 ただでさえ読みづらいことで好評な名前だから、少し気になった。でも考えても分かんないし、まあいいかな?

 

 自分の中で結論を出すと、私は陽光差し込む小道を歩き始めた。太陽の色がオレンジ色に変わりかけていたけど、下校時間まではまだまだ時間がある。

 

「さぁて、次はあっち行ってみよっ♪」

 

 その日、入学してから一週間も経ったその日、私はクラスメイトの女の子、椚木秋(くぬぎあき)さんと初めて喋った。


 
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