No.202609

博麗結婚狂想曲

東方二次創作。
博麗霊夢が結婚するようです!?
日本は元々、庶民は神前結婚よりも自宅で式を挙げる事の方が多かったようなのですが。それでも博麗神社で結婚式みたいなことってあまりやっている様子はないなあと思って書きました

2011-02-20 09:57:32 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2622   閲覧ユーザー数:2578

 射命丸文は新しく刷り上げた新聞を手に博麗神社の境内に舞い降りた。

 実際にあの巫女が受け取るかどうかは難しいところではあるが、正攻法で渡すばかりが方法ではない。「どうやら留守だったようなので新聞だけ置いておきました」作戦や「号外です」作戦に「これを読まないと不幸になります」作戦等、色々と手段はある。

 だが、霊夢の姿は周囲には見当たらない。

「あややや、どうやら表には居ないようですね。となると、縁側あたりでしょうか?」

 文は角を曲がって縁側へと向かった。そこにいなくとも、そこから部屋の中の様子を見れば霊夢がいるかどうかはだいたい分かる。

「おや?」

 神社の中から聞こえてくる話し声に、文はぴくりと耳を動かした。

 伊達にこの耳は尖っている訳じゃないと言わんばかりに、文はその場に立ち止まって聞き耳を立てる。この話はきっと面白い話だと彼女の勘は告げていた。

 

“いや……その、ねえ? 結婚だなんて、いきなり言われても……あ、それは……うん、別に嫌っていう訳じゃないんだけどさ。……そりゃあ、嬉しくないって言ったら嘘になるけど”

 

 結婚!?

 その二文字に、文は思わず色めき立つ。

 プロポーズの現場? あの博麗霊夢が結婚するだと? やはりこれは面白いことになりそうだと、文は心の中でガッツポーズした。しかもこれは特ダネだ。今のところ自分の他に誰も気付いてはいないはずだ。

 文はより一層、慎重に気配を消して雨戸の陰に隠れ、そして周囲の様子に気を配る。

「ただ、ちょっとあまりにも突然だったから、吃驚しただけで……色々と準備が……ねえ? ……うん、分かっているわよ。あなたの気持ちは。本当に……昔からそうだったもの」

 文は急いでメモに会話の走り書きを書いていく。と、同時に新聞の見出しと記事の構成を考えた。

(これは、ただの結婚ではないです。場合によっては幻想郷のパワーバランスすら大きく揺るがしかねません)

 その影響力の大きさに、文は新聞を作る者として興奮を覚えた。ひょっとしたら、このネタ一つで天狗の新聞大会で優勝を飾ることも夢ではないかも知れない。

「いいわよ、そんなに何度も頭下げなくても……。うん、こっちの方こそ色々と迷惑かけちゃうかも知れないけど、よろしく」

 霊夢の弾んだ声の様子に、文はにやにやと笑みを浮かべる。

(ふふふ、幸せそうな声ですねえ。まったく、熱々ですか。羨ましいことですねえ。いやはや、しかし随分と上手く、そして長いこと私達の目を隠していたものです。霊夢さん……やりますねえ)

 文はメモに霊夢とそのお相手はデレデレのアツアツと書き足した。

「それで、式の方だけど…………え? それ、お金は大丈夫なの? ちょっとは新生活のために残しておいた方が…………ふぅん、お金は随分前から用意していたのね。馬鹿……無理しちゃって…………まあ、それならいいけど。え? そりゃあ、心配するに決まっているじゃない。私をなんだと思っているのよ? ああ、あとご両親への挨拶とかも…………ええ、一度私も挨拶させて貰うわ。いや……いくら互いに顔を知っているからって……そうね…………最近は色々と…………だけど。……うん、じゃあその日に伺わせて貰うから、言っておいてね」

(なるほど、結婚相手のご両親とも仲は良好なようですね。これはみんなに祝福されて幸せな結婚式になるみたいですねえ。いや~、本当に羨ましいですよ霊夢さんったら、この幸せ者め~っ!)

 これは是非とも、近いうちにどんな風に逢瀬を重ねていたのか、そして今後の新生活の予定なんかも……そう、子供は何人くらい作るつもりなのかとか色々と聞かないといけないだろう。

 きっと、彼女のことだ。ネタに事欠かない新生活を送ることだろう。その未来を妄想しても、文には楽しくて仕方ない。

「あらそう? もう帰るの? もうちょっとくらいゆっくりしていってもいいのに…………ふぅん、それはまあ、仕方ないわね。じゃあ、すぐそこまで送るわ。……遠慮しなくていいわよ。大事な旦那様を妖怪に襲わせるわけにもいかないでしょ?」

 どうやら霊夢の結婚相手はもう帰るようだ。

 文は慌てて縁側から神社の裏……人里へと続く道へと飛んで移動する。そしてその道の脇に並ぶ森の木々の中に身を隠した。手元のカメラの望遠を最大に調整。

 霊夢と男が楽しげに雑談をして神社の脇から姿を現す。

 文は心の中で口笛を吹いた。

 霊夢の脇に立つ男は、彼女よりはいくらか年上だろうか。絶世の美男子と言うほどではないが、見目は割と整っている方だろう。清潔感のある服装と髪型、そして嫌みの無いにこやかな笑顔に、文も好感を覚えた。

(なるほど、これは確かにいい男ですねえ。優しそうな旦那様でなによりです)

 文はカメラのシャッターボタンを押す。

 レンズの中で、霊夢と男が楽しそうに笑みを浮かべていた。ちょっと妬ましくなるほどに、文にはお似合いに見えた。

 霊夢と男のツーショットは、これまで文が撮影してきた写真の中でも、会心の出来になるだろうと彼女は思った。現像が楽しみだ。

(さてと……今夜は徹夜になりそうですね)

 数十秒の間に何枚もの写真を撮影し、霊夢と男の姿が遠くに消えていくのを見届けてから、文は一目散に山へと飛んでいった。

―その翌日、幻想郷は静かに、だが大きな衝撃に揺れた―

 

 

 霊夢は不機嫌に目を擦った。

 早朝……というには少し日は高い。いつもなら確かに起きて境内の掃除をしている時間ではあるのだが、昨夜は夜遅くまで起きていたので、今日はちょっと寝坊していようと思っていた。

「んもぅ……何なのよ、朝っぱらから」

 寝ぼけた頭を二、三度振って体を起こし、霊夢は布団から抜け出す。

 表が騒がしい。「霊夢、出てこい」「説明しろ」「出てこないならマスタースパークをぶち込むぞ」「魔理沙、流石にそれはもう少し待ちなさい」等という声が聞こえてくる。

 この様子だと、二度寝は諦めるしか無さそうだ。

 一旦、洗面所に向かい、取り敢えず顔を洗って髪を整えてから霊夢は寝間着姿のまま表へと出て行った。

「ああもうっ! あんた達、朝っぱら五月蠅いわねえ。一体何ご…………と?」

 霊夢は扉を開けると、目を丸くして絶句した。

 霊夢の姿を見つけるなり、彼女の周囲に境内にいた面々が詰め寄ってくる。

「おい、霊夢。お前……どうして私にも何も言ってくれなかったんだよ?」

「そうよ霊夢。あなたは自分がこの幻想郷でどういう立場にいるのか、少しは自覚するべきです。せめて私に一言くらい言うべきでしょう?」

 開口一番、まず魔理沙と紫が霊夢に非難の声を浴びせた。

 主だったところでは他には早苗とアリスに霖之助、レミリアと咲夜に幽々子と妖夢、そして鈴仙とてゐが霊夢の周りに集まって騒いでいるが、霊夢が聞き取れたのは最初の二人のそれだけだった。なにやら「おめでとう」とかいう言葉も聞こえた気もするが。

 しかも、境内にいるのは彼女らだけではない。他にも霊夢の見知った顔が十何人も集まっていた。

「ちょっ!? ちょっと待ってよ。一体何の事? というか何の騒ぎよこれ?」

 困惑の表情を浮かべる霊夢に、魔理沙と紫は目を吊り上げた。

「しらばっくれるなよ霊夢。この期に及んでまだシラを切るつもりかよ?」

「だからっ! 何の話か分からないって言っているでしょ?」

「分からない? 分からないだって? はっ……お前がこんなにも嘘を吐くのが上手かったなんて、初めて知ったぜ」

「嘘ってなによ嘘って? あんたじゃあるまいし、私が息をするように嘘を吐くわけないでしょうが?」

 今にも掴みかからんばかりの剣幕でまくし立ててくる魔理沙に、霊夢も苛ついた口調で怒鳴り返す。

「いいから、説明しなさいって言っているでしょ? 朝っぱらから人の家に集まって、安眠妨害よ?」

「その胸に聞いてみればいいだろ?」

「全然分からないわよっ!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける魔理沙と霊夢の様子に、紫は嘆息した。

 このままでは埒が開かなさそうだ。

「……霊夢。この話のことです」

「へ? 何よそれ?」

 紫は手にしていた新聞を霊夢に手渡した。

 よく見てみると他の面々も同様に新聞を持っていることに霊夢は気付いた。

 紫から新聞を受け取って、霊夢はそれに視線を向ける。

 その瞬間、霊夢は硬直した。

 

“博麗の巫女・電撃結婚!!”

 

 新聞の見出しにはそう、大きく書かれていた。

 そんな時、その場に文とはたてが空から舞い降りてきた。

「おや、皆さん朝早くからこちらにお集まりのようで。やっぱりこの幻想郷の一大ニュース。じっとしてはいられませんか」

 この場に集まった面々の視線を一身に浴びて、文は高らかに笑った。心なしか鼻もいつもよ高くなっているような気がするのは、彼女が天狗だからという理由以外にもありそうだ。

 それとは対照的に、はたてはどこか面白くなさそうな表情を浮かべていた。「私も記事作るの手伝ったのに……手伝ってあげたのに」とぶつぶつと呟いている。記事を作る人手が足りないとかで文に無理矢理駆り出された挙げ句、一晩中自慢されてすっかりふて腐れていた。ここに来たのも、文に無理矢理連れられてのことだった。

 霊夢は新聞に視線を落としたまま、真っ赤になって俯き、わなわなと震えていた。

 そんな霊夢の姿を見て、文はにやにやと笑い、霊夢の周囲に出来た人垣を割ってその中へと入っていく。

「まあまあ、霊夢さん。秘密にしてしまう乙女心は分かりますが、そんなにも恥ずかしがることないじゃないですか。どうせいつかは伝えなくちゃいけない話です。それが少し早いか遅いかだけの違いじゃないですか」

 笑い声を上げ続ける文に、霊夢は答えない。

 そんな霊夢の反応を文は「可愛いですねえまったく~☆」などと思っていた。

「と、おやおや?」

 文は視線を霊夢から外した。

 その視線の先……神社の脇から、一人の若い男が姿を現した。ここまで走ってきたのか、手に新聞を持ってその場に立ち止まり、肩で息をしている。

 その男の姿に、境内に集まった面々がどよめく。新聞にの写真に写っていた霊夢の結婚相手に間違いなかった。

「ほらほら霊夢さん? 愛しの旦那様ですよ? さあさあ、ここは私達に任せて、今すぐ着替えて出迎えてあげて下さい」

「…………くっ……」

 霊夢は呻いた。

 そして、真っ赤になった顔を上げる。

「…………あれ?」

 その霊夢の表情があまりにも意外だったので、文は反応出来なかった。

 

“この馬鹿天狗ううううううううぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~っ!!”

 

「へぶしっ!?」

 霊夢の怒声が境内に響く。渾身の左アッパーが文の顎に炸裂した。

 その瞬間、文の体は確かに宙に浮いた。

 文の視界が雲一つ無い青空一色に染まる。浮遊とも落下とも判断の付かない無重力の中で、文はふと、その空の美しさに魅入られた。

 文だけではない。彼女が宙に浮くその光景を見た誰もが、それを実際の時間よりも長く感じた。

 だが、空高く打ち上げられたかと思うような錯覚も、それは所詮錯覚。その次の瞬間には、文は重力に引かれ、背中から石畳の上に叩き付けられた。

 ヒキガエルのような呻き声と共に、文が石畳の上に転がる。

「な? なな…………はい? え? えええ?」

 顎を押さえ、混乱して疑問符を浮かべ続ける文に、霊夢が近付く。その表情は文からはよく見えない。だが、見えない方がいい気がした。それでも文は恐怖に身を震わせた。

「どこをどうすれば私が結婚するっていうのよ? この馬鹿天狗っ! 馬鹿天狗っ! ふざけるんじゃないわよ。このっ! このっ!」

 まだ起きあがっていない文に、霊夢がげしげしとヤクザキックを叩き込む。

「わあああああああぁぁぁぁぁぁっ!? 霊夢、お前ちょっと落ち着け~っ!」

「ちょっと!? 霊夢? 落ち着きなさい。萃香、霊夢を止めて~っ!」

 突然の霊夢の暴走に、彼女の周囲一体は騒然となった。

「やかましいっ! あんた達、邪魔するって言うなら、まとめて封印するわよっ!」

 霊夢の怒声と共に、彼女の周辺にお札が展開された。

 それから十数分後。

 霊夢は萃香とレミリア、魔理沙に取り押さえられる形でようやく落ち着いた。

 霊夢が暴れながら放つ弾幕に、霊夢を取り押さえるために放たれた弾幕……吹き荒れる弾幕の嵐によって、短時間の内に神社の境内は無惨な姿と成り果てていた。石畳のいくつかは粉々に砕け散り、周囲の木々も傷だらけになっている。

 幸いにも、新たに死んだ者はいない。騒ぎに釣られて集まってきたリグルやミスティア、チルノや三月精のような下級妖怪や妖精は巻き込まれた挙げ句ボロボロになって横たわっていたが。

「え~と、つまりだ……結局のところ、文の新聞の内容は大間違いで、お前は結婚しないってことなのか? 霊夢」

「そうよ」

 羽交い締めにする魔理沙の問い掛けに、霊夢は頷く。ちなみに、その下では萃香とレミリアが霊夢の脚を掴まえている。咲夜はその傍らでレミリアに陽が当たらないように日傘を差していた。

 早苗は隣に立っている男を指差した。彼女は局地的弾幕戦争から男と霖之助の身柄を保護していた。

「じゃあ、この人は霊夢さんの結婚相手ではないっていうことですか?」

「当たり前じゃない」

「そ、そうなんですか?」

 驚いた表情を浮かべる早苗に、男は「その通りです」と照れくさそうに頷く。

 だが、一番驚いた表情を浮かべたのは文だった。

 文は妖夢、鈴仙、そしてアリスに捕まっていた。

「そんな馬鹿な? だって、昨日は私……うぅ、悪かったかも知れませんけど、確かにこの耳で聞いたんですよ? あなた、霊夢さんにプロポーズしたんですよね? 霊夢さんだってあんなに嬉しそうにして……私は絶対に嘘なんか吐いていないです」

 涙目になって訴える文の傍らで、幽々子が新聞を読み直していた。

「う~ん、どっちも嘘を言っているようにも見えないわねえ。とすると、どっちも本当のことを言っているっていうことかしら」

 くすくすと幽々子が笑う。

「どうやら、そういうことのようね」

 それを見て、紫も真相が想像ついたのか、少し顔を赤らめて頷いた。

 そして、はたては疑問符を浮かべていた。

「あの~? つまり、どういうことなんですか?」

「それはきっと霊夢ちゃんに聞くのが一番早いわね」

 幽々子に訊ねるはたてに、彼女はそう答えた。

 霊夢は軽く嘆息する。

「その人は昨日、私に結婚を申し込んだんじゃなくて、結婚式をここでやらせてくれないかって頼みに来たのよ」

「…………え……?」

 文は霊夢の言葉に、目を丸くした。

「ででで……でもですね? 昨日は霊夢さん『いきなり結婚とかそんなこと言われても』だとか『嬉しくないって言われたら嘘になる』とか……」

「ここで結婚式を挙げてくれるような人なんて滅多にいないし、そういうのをやってくれたら…………その……結構大きな収入になるし、でもそんなんだから私も準備とか勉強とか色々とあるからって……そういう意味よ」

 幻想郷でも神前結婚の風習が無いわけでもないが、人里では自宅で結婚式を挙げる人間の方が圧倒的に多い。そのため、霊夢も昨日は夜遅くまで勉強することになった。それで朝寝坊していたらあまり意味はない気もするが。

「ええええ? じゃ……じゃあ、ご両親に挨拶とか……『大事な旦那様』とかは?」

「式を挙げるのに、それを取り仕切る立場の人間が挨拶に行かないわけにもいかないでしょうが? その、旦那様云々ってのは、私にとってじゃなくてこの人のお嫁さんにとってっていうことよ。結婚間近だっていうのに花婿を妖怪の餌食にさせるわけにはいかないでしょ?」

 きっぱりと言ってくる霊夢に対し、文はがっくりと肩を落とした。

 と、同時にその場に集った者は皆、呆れたにしろ安堵したにしろ、苦笑いを浮かべた。

「それにしても、あなたはどうしてこちらで式を挙げようなんて思ったんですか?」

「霊夢ちゃんには昔、妖怪に襲われたところを助けられたことがありまして……その縁で、式を挙げるならここでお世話になろうかと前々から思っていたんです。朝にこの新聞を見た彼女に大泣きされてしまいましたが。それで、俺も慌ててどういうことかとこっちに走ってきたんです」

 早苗の質問に、男は答えた。

「なるほど。義理堅いんですね。彼女さんは今も気が気じゃないと思いますけど」

「しかしあれですね。霊夢ちゃんが結婚するかもっていう話が出ただけでこんな大騒ぎになるなんて、彼女はみんなに愛されているんですね」

「いつも人の話は聞かないし、自分勝手やって……僕の店に来るときも大概、厄介事を持ち込むのだがね。不思議な娘だよ」

 男と霖之助は小さく笑みを浮かべた。そして、早苗はそのうち博麗結婚異変なんてものが起こるのだろうか等と考えていた。

「というかこれ、結局……全部悪いのは文じゃないの」

 呆れたようなはたての呟きに、周囲の温度が一気に下がった。物理的な意味ではなく、精神的な意味で。

 文の表情が凍る。

 あんぐりと口を大きく開けて、文ははたてを見た。その目は「あんた、何て事言ってくれちゃうんですか?」とはっきり言っていた。

「そう言えばそうよねえ」

「まったく、人騒がせな天狗だぜ」

「そうよねえ、いつもいつもあること無いこと書いてくれてるみたいだし」

 震える文に、殺気だった表情で少女達が詰め寄っていく。

「ちょ……ちょっと待って? 待って下さい。私だって悪気があった訳じゃ……そ、その……仕方ないじゃないですか? あんな誤解するような会話している方が悪いですってっ! あぅ……聞いて下さいよ……」

 文の言葉が届いていないかのように、彼女詰め寄ってくる少女達は無言だった。

 博麗神社に文の悲鳴が響き渡った。

 そしてその夜。

 ボロボロの姿で、文はふて腐れていた。

「ほら文、そっちの写真を持ってきて。それからそこの記事、さらっと嘘を書くんじゃないの。せめて印象が最悪にならないように私に書かせて下さいって土下座してきたのは文の方でしょ? あの後、閻魔様にもこってり怒られたじゃない。そっちがそんな態度なら、私が書いてもいいんだからね? 閻魔様にも言うわよ? ほら、さっさと書き直すっ!」

「は~いはいはい。……何で私がこんなことを。二日続けて徹夜なんて……」

「あんたが、とんでもない大誤報をやらかすからじゃない。まったく、何が大スクープよ。きちんと裏付け調査をしないからこんな目に遭うのよ」

 上機嫌ではたては花果子念報の記事を書いていく。書いているのは文々。新聞の誤報とそれが招いた神社での騒ぎである。文がふて腐れるのも無理のない話だった。あまつさえ、この誤報で新聞大会の優勝どころか最下位争いに叩き落とされたことだろう。酒でも飲んで寝てしまいたいのが文の正直な気持ちだった。

「謝罪文だったら文々。新聞にも書くつもりだから、そんなにニュースにもならないと思うんですがねえ」

「何言っているの? あんたのことだから、どうせ記事の端にちっちゃく書いておしまいにするつもりでしょ? そんなことやっていると、新聞の信用が無くなるわよ」

 文は嘆息する。実際、謝罪文についてはそのつもりであった。

「はあ……同じ新聞業界の仲間なんですから、そこはもうちょっと手心を加えた方がお互いのためになるとは……思いませんか? はたてだって、誤報を絶対にしないとは言い切れないんですよ? そのときは私だって……ねえ?」

「思わない。そんなことしたら私の方まで信用無くすもの」

 きっぱりとはたてに断られ、文は机に突っ伏する。

 その一方で、はたてはこの記事一つで今年は新聞大会で上位入選も夢ではないと胸をときめかせ続けていた。

 

 

 後日、博麗神社では無事に結婚式が執り行われた。もっとも、物珍しがってお祭り好きの妖怪や妖精が紛れ込んだり、見物したりしていたのだが。まあ盛り上げ役になったという意味では、ある意味貢献したかも知れない。

 文とはたては、その結婚式をネタにそれぞれの新聞で特集記事を書いた。そこには式を執り行う霊夢の様子や幸せな夫婦の様子が詳細に、そして楽しげに書かれており、評判は上々であった。

 その影響で、博麗神社も人里に住む人間にちょっぴり身近に感じられ、信仰が以前よりも多く得られるようになったそうな。

 天狗の新聞の影響力も、善し悪しであった。

 なお、一時期はランキングぶっちぎりで最下位に叩き落とされた文々。新聞であったが、この記事で下の上~中の下くらいには持ち直した。花果子念報は初の上位ランキング入りとなり、しばらくの間、はたては鼻を高くする日々が続いた。

 

 

 ―END―

 

 

 


 
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