No.201811

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十六話

アボリアさん

黄巾党√第十六話です
相変わらずの駄文ではありますが、どうかお付き合い頂けたら幸いです
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有り難いです

2011-02-15 21:38:32 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7111   閲覧ユーザー数:5675

 

「おぉっ~ほっほっほ!!全く、ちょろいもんですわっ!!」

 

天幕に甲高い笑い声が響く。

 

「曹軍、戻ったわ。虎牢関攻めの引継ぎは劉軍と孫軍に――」

 

声と共にその天幕を金髪の少女、曹操こと華琳が訪れ……すぐさま顔を顰める。

 

「――何をやっているのかしら?麗羽」

 

曹操は不機嫌な感情を全く隠そうともせずに豪奢な女性……この、反董卓連合盟主である袁本初こと麗羽に向かって尋ねる。

 

「あら、お帰りなさい華琳さん」

 

「答えになっていないわよ」

 

厳しい声色で詰め寄ると、麗羽はやれやれといった風に肩をすくめる。

 

「何をしているか、なんて見てわかりませんの?」

 

「……そうね。何をやっているかは見ればわかるわ?けれど私が聞きたいのは何故――戦いの真っ最中に酒盛りをしているのか、という事よ!!」

 

激昂しながら華琳が叫ぶ。それもさもありなん、今現在彼女の視界に入ってきた光景とは……大義を懸けた戦の最中、あろうことか作戦本部でもある天幕で馬鹿騒ぎをする諸侯及び、総大将の姿だったからだ。

 

「どういうことか、納得のいく説明をしてもらえるかしら?」

 

威圧感すら感じるその言葉に今まで騒いでいた諸侯達は真っ青な顔になる。が……ただ一人、麗羽だけはフフンッ、と不敵な笑みを浮かべる。

 

「決まっていますでしょう?今の戦況を鑑みて私達連合軍の勝ちは揺ぎ無いですもの」

 

威張るように胸を張る麗羽。

事実、ここまで来る間に野戦で一度、そして汜水関という難攻不落の要塞でも董卓軍を破り、そして今現在、虎牢関においても諸侯の各部隊で昼夜問わずに攻め立てるという作戦で董卓軍を追い込んでいた。

 

「こうなってしまえば後は楽勝。ですからこそ、集まってくださった諸侯の方々への労いの意味も込めて、ささやかな酒宴を催しているだけですわ」

 

「……楽勝、ねぇ」

 

華琳の記憶が確かならば、最初の野戦では袁紹軍は徐栄という将の率いる軍にボロ負けして、曹軍の助けでやっと退けたような有様。先の汜水関でも猛将華雄に苦戦し、ここ、虎牢関でも調子に乗ったところを張遼、呂布の両将軍にやられていたはずだが……

 

(……どうせ、そんな事は微塵も堪えていないのでしょうね)

 

華琳は一つ嘆息。

けれどもそれを糾弾した所で、この弛緩し切った馬鹿共は聞く耳も持たないだろう。

本来ならこんな連合は直ぐにでも見限ってやりたい所だが、そうもいっていられない。

 

(この戦の後。群雄割拠の時代となった時の為、今は風評と人材を集めるのが先決。けれどその為とはいえ……この、時勢も読めずに参加だけしている馬鹿共も利用しなければならないとはね)

 

心中で自嘲し、曹操は踵を返す。

 

「あら?華琳さんはどちらへ?」

 

それを目敏く見つけ、麗羽が問いかけるが……曹操は振り返りもせずに答える。

 

「私は自分の天幕へと戻らせてもらうわ。あと、くれぐれも劉備、孫策の軍の動向だけは最低限見計らっておく事ね」

 

言って、早々に天幕をでる華琳。

そうして暫く歩いた所で……後方から聞こえてくるあの甲高い声の混じる馬鹿笑いにもう一度、深く嘆息するのだった。

 

「……や~っと曹軍が退いたとおもたら、今度は劉備に孫策かいな。敵さんも飽きんとようやってくるわ」

 

場所は虎牢関の城壁上。そこから眼下へと広がる敵兵を見下ろしながら関西弁の少女、張遼こと、霞が愚痴を零す。

 

「うぬぅ……」

 

その側らに立ち、唸り声を上げる華雄。

 

「張遼!!もう我慢ならん。こうなったら打って出て、連合の奴等を蹴散らして――」

 

「だぁほ。それをやって痛い目見たんは誰やとおもとんねん。汜水関での件、忘れたとは言わせへんで?」

 

いきりたつ華雄を霞が諭す。

華雄はその言葉に「うっ」、と言葉を詰まらせるが、

 

「だが、だったらどうするというのだ!防ぐばかりでは戦には勝てん。それに連中は数に任せて昼夜問わず攻めかかってくる。このままでは長くはもたんぞ!」

 

「ああ、もう!!いちいち言われんでもわかっとるっちゅうねん!!せやかてまともにやっても勝ち目がないんもわかるやろが!!」

 

我慢も限界に達したのか、声を荒げる霞。だが、それも華雄の言葉も正論だったからだ。

今自分たちがしている『篭城戦』という戦いは敵の攻撃を凌ぎ、時間を稼ぐ為の戦い方。そしてそれは、例えば時間を稼いだ事で自軍の援軍を待つ。もしくは敵が攻め続けることが出来ないまで耐え凌ぐ我慢比べが必要になってくるのだが……

 

「援軍が来る様な状況や無し。それどころか……」

 

そこまで言って、苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「なあ、ねね。洛陽からの連絡はどないなっとる?」

 

固い表情のまま、霞はねね……陳宮へと問いかけるが、

 

「連絡どころではないのです!それどころか、物資の一つも送られてこないのですぞ!?このままでは……ジリ貧なのです」

 

何時もは強気な態度を隠そうとしない彼女も、どこか言葉に元気がない。

そう。今、一番の問題となっているのは……本拠である、洛陽からの補給が滞っていることだった。

そしてそれは恐らく……

「王允のアホがなんや後ろで細工しとんのやろな」

 

王允。

漢の司徒……三公と呼ばれる最高の位の一つに就き、漢の政務を一手に担う人物。そして腐敗激しいといわれた漢朝廷の中にあって、汚い手を嫌い皇帝陛下に忠誠を誓う清廉の士だったが、いかんせん杓子定規な、固すぎる人物だった。

 

漢の慣例や、皇帝の威厳というものに固執するあまり、より良い国へとする為に制度を変えようとする董卓……月とはそりが合わなかったのだ。

その為度々意見が衝突するようになり、今、この場においても恐らくはそれが理由で自分達の邪魔をしているのだろう。

 

「そんなんどうこう言う前に、この戦で諸侯の連中に負けたら漢の威厳なんてどっかにいってまうのがわからんのかいな」

 

誰に言うでもなく呟く。だが、今はそんな事を考えている場合ではない、と霞は頭を振る。

 

「……しゃー無い、か。ねね。洛陽におる月と詠に伝えたってくれや。今からうちと恋、華雄が時間稼ぎするさかい、そのうちに逃げえってな」

 

霞の言葉にねねが驚きの表情になる。

 

「そ、そんな事をしたら本当に生きて帰れるかわからないのですぞ!?それに、皇帝陛下を残したまま逃げるなんて、月は承認しないのです!!」

 

霞自身も、ねねが言う通りだとは思う。このまま突っ込んでいっても勝ち目はないだろうし、洛陽に皇帝をひとり残したまま撤退すれば、それは諸侯の食い物にされるのがオチだ。月は納得しないだろう。

でも、

 

「せやからこそ、そこを何とか説得するんがお前の役目やろが。悪いけどうちは陛下か月か、どっちかしか助けれんゆうなら……月を選ばせて貰う」

 

「で、でも……それなら、ねねも恋殿にお供を……!!」

 

「あほかい。そないしたら誰が月と詠んとこに行く言うねん?……大丈夫や、ウチ等も死ぬ気は毛頭ないわ。なあ、恋……」

 

言って霞は恋こと、呂布の方を向くのだが、

「……?どないしたん?」

 

話を聞くまでもなく、どこか遠くを見詰めて立ち尽くす恋に問いかける。

いつも寡黙な……というか、何を考えているのか、というか何か考えているのかわからない彼女ではあるが、どこかいつもと様子が違った。

 

「……何か、来る」

 

ポツリと、恋が呟く。

 

「はあ?何かて何やねん?」

 

要領の得ない言葉に霞が聞き返すが、

 

「……多分、人。それも、沢山」

 

「何処にもそんな人影はおれへんけど……まさか、敵の援軍とか言うてくれるんやないやろな?」

 

霞の言葉に、恋はフルフルと首を横に振る。

 

「敵じゃない。……と、思う。でも、沢山、来る」

 

「敵じゃないのに沢山?なんやねんそれ。まさかこんな戦場に商人の連隊でも通る、いうんか?」

 

そこまで言って、霞は嘆息する。

 

「はぁ、……でも、恋の勘はよう当たるからなぁ。……まあええ。とにかく、出撃の準備するからいくで?恋」

 

「……ん」

 

霞の言葉に応えるものの……恋の視線は遠くを見詰め続けていた。

 

 

「袁紹様!!虎牢関の敵側に動きがあった模様。恐らく数刻の後、決戦を仕掛けてくると思われます!!」

 

「あら、そうですの。董卓軍のお馬鹿さん達はとうとう堪えきれなくなったようですのね。……まあ、それも無理は無いでしょうけど」

 

言って、麗羽はほくそ笑む。

 

(どうやら王允さんは上手くやっているようですわね)

 

漢帝国側である彼が協力を申し出てくる、というのは意外な話ではあったが彼も彼なりに董卓という存在が邪魔になったのだという。

自分達としても田舎から出てきた太守上がりが幅を利かせているというのは面白くない。だからこそ、その話は渡りに船だった。

 

(漢の司徒を味方につけたこの戦い。ここで戦功を挙げればいずれは私も三公や、大将軍。……いいえ、いずれは皇帝陛下から譲禅を受け、私が皇帝になるのも夢ではないですわ!!)

 

「袁紹殿。無理は無い、とはどういう意味ですかな?」

 

麗羽の取り巻きである諸侯の一人が尋ねる。

 

「ふふん。大きな声では言えませんが……漢の中枢にも、私に協力するものがいる、という事ですわ」

 

威張って言うと、取り巻き達は更に喜色を浮かべ、

 

「おお、流石は名門、袁家の棟梁様であらせられる!!まさか敵方にも袁家のご威光を放っておられるとは!!」

 

「お~っほっほっほ!!そんな対したことでは御座いませんのよ?」

 

周りからの持ち上げにますます機嫌を良くする麗羽は一頻り高笑いを浮かべると、座っていた床机から立ち上がる。

 

「さて、これよりはこのわ・た・く・し!!連合盟主、袁紹がじきじきに指揮を取り、董卓の軍勢に引導を渡してやりますわ!!連合の皆さん!!やぁ~って……」

 

やっておしまい!!っと、麗羽が叫ぼうとした。

 

その時だった。

 

 

 

「皆~!!私の為に争わないで~!!!……なぁ~んちゃって♪」

 

 

 

……。

 

「……は?」

 

突然響いた声に、麗羽は叫ぼうとした言葉も忘れ、呆けてしまう。

 

 

 

「ちょっと姉さん!!いきなり何叫びだすの!?」

 

「えへへ、ごめ~ん。でもでも、こんな光景を見たら、思わず叫びたくなちゃったんだもん」

 

「もう、おねえちゃんったら。どうせなら、私の為に戦いなさい!!!……の方が言いに決まってるでしょ!!」

 

「えぇ~!?そんなことないよぉ~」

 

「……うん、二人とも。解ったから、ちょっと黙ってような?」

 

 

 

怒声、悲鳴が木霊し、他の音など聞こえるはずも無い戦場全体にに、そんな場違いな声が不思議と響き渡る。

その声のする方を……関の両側に聳え立つ、崖の上を見る。するとそこには三人の女の子と、一人の男が立っていた。

 

「な、なんなんですの……?」

 

困惑する袁紹。そしてそれは彼女一人だけではなかった。

前線で戦う兵士。それに指揮を飛ばす司令官。防いでいたはずの敵軍すらも、その手を止め、その声の主のほうへと目を奪われていた。

そうして彼らに注がれる視線は、最初こそ戸惑いと、困惑の目線だったものの……それは、次第に驚愕へと変わっていった。

「さて、と……気を取り直して」

 

白い服をまとった男が仕切りなおすように言うが、戦場にいる全員はそれに気を配ることは出来なかった。

 

なぜなら、

 

彼らの後ろには、いつの間に現れたのか、黄色い頭巾をつけた男たちが立ち並び、

 

それを取り囲むように、同じく黄色の男達が現れ、

 

更にその後ろにも、そして反対側の崖にも、杖をついた老婆、幼い子供、少女、壮年の男……老若男女問わず、大勢の黄色い頭巾をつけた人々がその後ろへと続き、

 

見渡す限りの、人、人、人、人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人。

 

一様に黄色い頭巾をつけた、黄色い人の群れ。総勢、百万にも及ぶ人間の、二百万の瞳が自分達を取り囲んでいたからだった。

 

「俺達は、黄巾党」

白い男もまた、黄色い頭巾を被り、続けた。

 

「此処に集まる諸侯に、兵に……全員の人間に。この大陸の、民の声を届けに来た!!」

 


 
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