No.199897

真・恋姫無双 ~古の存在~ 第十八話「戦闘狂達の晩餐歌」

東方武神さん

第十八話目。

お待たせしました。なんだか色々とカオスになってきてますが、それぞれにちゃんと意味があってのことですので、ご理解していただけると幸いです。

※この作品にはオリジナルキャラが登場します。苦手な方は戻るを押してください。

2011-02-05 20:44:42 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2526   閲覧ユーザー数:2212

今回の両布陣といえば、連合軍側の前衛は馬騰、孫策の混成軍の鋒矢の陣で固め、中衛は劉備、曹操の二つの隊で箕形の陣で敵を牽制するものだった。

 

先の戦闘で被害が大きい袁紹、袁術等は後衛での待機となっている。

 

一方董卓軍は呂布隊精鋭五千を先鋒とした魚麟の陣で迎え撃つようで、その左右には柵などが建築されていて、破壊しようと容易に近づけば城からの狙撃されるだろう。

 

つまり、呂布隊のいる中央を突破しなければ城には貼り付けない。

 

迂回しようとしても、近くには所属不明の軍がいるため、無闇には通れない。

 

「ッチ、これじゃどうしたって中央しか通れるところはねぇか・・・」

 

厳しい眼差しで前方に布陣する呂布隊を見る女性がいた。

 

「母上、私達は騎馬が主体・・・このまま突撃をかけたとしても、簡単に撃退されるだけだぜ?」

 

その後ろから馬を操りながら近づく少女。

 

名を馬超、字を孟起という。

 

明茶色の綺麗な長髪をポニーテールにしており、顔つき、体つきはほぼ親譲りである。

 

「んなことは判ってんだよ、馬鹿娘。だからこうやって悩んでんだろうが?」

 

口調が粗暴なこの女性の名は馬騰。先程の少女の母親である。

 

子持ちとは思えない抜群のスタイルを持ち、顔は少女よりもボーイッシュである。

 

更に少女とそっくりなその長髪をやや乱暴に後ろで纏めている辺りある意味男らしかった。

 

「これじゃ飛射も使えやしねぇ・・・ったく、あの変な奴等がいなけりゃすぐにでも迂回して食らわせてやるっつーのによ」

 

目線を移して先程から身動き一つしない軍を睨みつける馬騰。

 

その様子を見ていた孫策と周瑜は彼女に近づいていった。

 

「そちらも攻めあぐねているようね、馬騰殿」

 

その孫策の声に馬騰は振り返った。

 

「おうなんだ堅とこの娘じゃねーか。元気にしてたか?」

 

ニヤリとしながら孫策の顔を見る馬騰。

 

「お久しぶりです、馬騰殿。」

 

「ああ、周瑜もな。」

 

その慣れている三人のやり取りの様子に馬超は首を傾げた。

 

「母上、この二人と面識が?」

 

「ん?ああ数回しかあったことはねぇけどな。堅と会った時に後ろをヨチヨチと付いて来てたんだよ。」

 

「母様が馬騰殿と知り合いらしくてね。それで私と彼女、周瑜が連れて行ってくれたのよ。」

 

懐かしむ孫策に馬超はへぇ~と頷いた。

 

「で?昔話するためにここに来たわけじゃねーんだろう?」

 

「えぇ、もちろんですとも」

 

馬騰の問いに周瑜がニヤリと答えた。

 

「それでは作戦をお伝えするので、将を集めてもらえますか?」

 

「・・・・・・ん。来る。」

 

呂布は目をパッと前に向けると、そこには幾千と降り注いでくる矢の嵐が近づいてきていた。

 

「盾隊ッ!!展開するのです!!」

 

陳宮は即座に反応して号令をかけた。

 

すると、呂布隊の近くにいた陳宮隊三千が身の丈位ある盾を持ち上げ、彼等を包み込むように展開した。

 

「恋殿!!此方に早くッ!!」

 

陳宮は呼びかけたが、呂布は少しだけ微笑むと、方天画戟を構えた。

 

その瞬間、矢が雨の如く降り注いできた。

 

盾に打ち付けられる度に鼓膜がビリビリと痺れる。

 

その中でたった一人戟で矢を弾き返す少女の姿があった。

 

「・・・ッハァ!!」

 

戟を素早く振るうたびに巻き起こる旋風により、彼女の周りには一本も矢が突き刺さってはいなかった。

 

その姿は必死に家族を守ろうとする母親の如き姿だった。

 

やがて矢の雨が降り止むと、今度は雄叫びと共に地響きを上げながら此方へと向かってくる軍勢が。

 

「陳宮」

 

その言葉で少女の真意がわかったのか、陳宮はコクリと頷いた。

 

「陳宮隊ッ!!盾を構えるのです!!」

 

その号令に素早く反応し、呂布隊の前に数十人が前に出た。

 

「合図するまで決してやるななのです!!」

 

応ッ!!と力強く答える兵士達。

 

徐々に近づいてくる騎兵達。

 

残り三百の距離というところで、向かってくる騎兵たちが突如『消えた』。

 

部隊長らしき人物が慌てているのが遠くからでも良くわかった。

 

落とし穴である。しかも中には杭が無数に突き出してあるもの。

 

間違いなく落ちれば貫かれ即死であり、辛うじて死ななかったとしても、決してでることは出来ない穴。

 

それが巧妙に隠されてあったのだ。

 

そうとは知らず、突っ込んできた騎兵たちは落とし穴に落ち、そして命を文字通り『落として』いった。

 

その落とし穴の数は決して少なくなく、暫くはその光景が止むことは無かった。

 

その自身の計略の成功に陳宮は微笑み、そして次の罠を発動させた。

 

落とし穴に落ちず、そのまま近づいてくる騎兵たちの足元には鈍く光る液体が。

 

そこへ一本の火矢が突き刺さった。

 

次の瞬間、爆発的な勢いで炎が複雑に燃え広がった。

 

それに驚いた馬が転倒したり、兵士を燃え広がる炎に落としたりして悲鳴や断末魔の声が鳴り響いた。

 

後続部隊もその炎を見て近寄ることが出来ず、立ち止まった所を城からの矢で狙撃されていった。

 

炎が弱いところから突っ込んでくる敵もその先に張り巡らされた縄によって落馬し、首を折ったりして絶命したり、立ち上がるところを矢で止めを差されたりした。

 

だがいつまでもそのような都合の良いことは起きず、いつの間にか炎は消え、縄も切り落とされて再び騎兵たちが突撃をしてきた。

 

「日の光は丁度いい位ですね・・・。盾隊ッ!!構えるのです!!」

 

号令と共に兵士達は一斉に盾をひっくり返した。

 

そこには眩いばかりの光が反射されており、近くまで来た騎兵は馬が嘶いたり、転んだりして落馬。

 

敵兵達も動きが一瞬止まってしまった。

 

「今です!!放てぇッ!!」

 

先程の矢の雨のお返しと言わんばかりの矢が彼等を襲った。

 

彼等が倒れていく様を見て、陳宮は自身の策が成功したことに目を細めた。

 

だが彼女は知らなかった。

 

これこそが敵の『策』であることに・・・

 

―――――突撃を開始する少し前・・・

 

「まず最初に、袁紹、袁術から借り受けた兵を敵中央へと突撃させます。」

 

周瑜は周りを見渡しながらそう言った。

 

「何故だ?」

 

「あちらはあの所属不明の軍によって我が軍が迂回するということはないと踏んでいるはずです。それならば必然的に中央から我等は攻めるしかなくなります。そこで、柵を鶴翼の陣のように設け、徐々に道幅を狭くし、そこに呂布隊を置くことによって守りを固めたのでしょう。更にその道中にいくつかの罠を仕掛ければ更にその効果は上がると考えられます。よってこの先には恐らく敵の罠が巧妙に隠されているはずです。」

 

馬超の問いに周瑜は淡々と言った。

 

「ほんじゃその罠を先に袁紹達の兵で発動させて、相手の手の内明かした後で俺達が攻めんのか?」

 

「はい、その通りです。そうすればどちらの陣営も兵の損失を下げることが出来ますし、後々にも支障を来たす事を抑えられると思いましたので。・・・しかし、ここからが問題なのです・・・」

 

「・・・・・・呂布ね。」

 

孫策の言葉に周瑜はコクリと頷いた。

 

「いくら策を練ったとて、奴はその力でねじ伏せてしまうでしょう。何せあの北郷ですら敵わなかったのですから・・・」

 

その北郷という言葉に少しだけ孫策が反応した。

 

「一刀・・・」

 

思い返せば、虎牢関を破壊したあの時の彼は何か別人のようだった。

 

あの柔らかい雰囲気ではなく、むしろ全てを憎み、怒り、そして悲しんでいるような、あの・・・

 

「・・・呂布なら俺が何とかしてやるよ」

 

「母上ッ!?」

 

腕を組みながら馬騰はそういった。

 

「前々から一度手合わせをしてみてぇとは思ってたんだ。聞くとこによりゃアイツは丁原の娘だって話じゃねぇか。丁原とは昔何度か戦で仕合ったからな。どのぐらいの実力なのか、知りてぇしな。」

 

「は、母上正気ですか!?少しは年も考えて・・・」

 

「何か言ったか翠?」

 

「あ・・・」

 

見れば馬騰から立ち上るかのような凄まじい殺気が出ていた。

 

「テメェ俺の年が何だって?あ?」

 

「な、ななな何でもないよ母上・・・」

 

「・・・フンッ」

 

不機嫌になりながらも馬騰は孫策達に向き直った。

 

「ってことで俺に呂布の相手させてくれねぇか?」

 

その様子に孫策と周瑜は顔を見合わせ、そして言った。

 

「お願い・・・できますか?」

 

「おうよ!!任せときなッ!!」

 

かくして作戦会議は終わったのだった。

 

そして現在。

 

全ての罠が発動したと見た馬騰・孫策両軍は攻撃を開始した。

 

後方からは、劉備・曹操軍が援護をしてくれるとの事。

 

「ほんじゃまぁ行くとすっかッ!!翠、ちゃんと付いて来いよ!!」

 

「判ってるってば!!」

 

そういうや否や弾丸のように飛び出していく馬親子。

 

それを見た孫策も黄蓋と共に飛び出していった。

 

後に残った周瑜と陸遜は二人揃って戦バカたちを送り出したのだった。

 

「翠!!お前は騎射隊引き連れていけッ!!ギリギリまで近づいて攻撃した後、すぐさま後退しろッ!!」

 

「了解ッ!!」

 

「祭ッ!!貴方は弓兵を率いて城兵を牽制しといて!!」

 

「あい分かった!!」

 

それぞれが己の役割を全うしようと全力を注ぐ。

 

「策よ、お前と共に戦場を駆ける日が来るとはなッ!!」

 

「それは此方のセリフですよ馬騰殿ッ!!」

 

迫り来る矢を叩き落としながら馬を駆る二人は、まるで戦闘狂のような嬉々とした笑みを浮かべていた。

 

「っく!!陳宮隊!!構えるのです!!」

 

二人を見た陳宮が急いで盾隊を展開させた。

 

だが。

 

「っへ、酒落臭ぇんだよッ!!」

 

馬騰は手に持った剛槍『馬龍槍麒麟』の刃を地面に当て、次の瞬間凄まじい力で大量の砂埃を前面に撒き散らした。

 

「!?しまった・・・ッ!!」

 

こうなれば反射された光も砂埃に遮られ、眩い光は届かなくなった。

 

「策!!雑魚は頼んだぞッ!!」

 

「判ったわ!!」

 

そして二人は二手に分かれた。

 

馬騰は呂布の方へと。

 

孫策は城へと。

 

「オラオラオラッ!!死にてぇ奴は前に出てきやがれ!!この俺が直々に殺してやんぜ!!」

 

逃げることなく向かってくる呂布隊に馬騰は叫んだ。

 

すると自らの先には、あの呂布がいるではないか。

 

「アイツが丁原の・・・なるほど、伊達に最強は名乗ってねぇわけか。」

 

見やる先には覇気を纏って此方を見つめる少女。

 

馬騰は馬を降りて呂布と対峙した。

 

「オメェが呂布で良いんだよな?」

 

「・・・・・・。(コクッ)」

 

「丁原がチラッとオメェの事を話したことがあったが・・・なるほど、どうやらそうらしいな」

 

「・・・?お義母さんを知ってるの?」

 

「あぁ、知ってるも何も、アイツとは何度も仕合ったからな。その時にオメェの事を教えてくれたぜ」

 

「・・・・・・そう」

 

そういい終えると、呂布は戟を構えた。

 

その様子にフッと馬騰は笑むと、呂布に習って槍を構えた。

 

「そんじゃ始めっとすっか。」

 

「・・・・・・。(コクッ)」

 

そして、両者は同時に飛び出した。

 

(ここは・・・どこだ・・・?)

 

俺は前後左右どこを向いても黒しか映らないところに浮いているようだった。

 

(ああ・・・そうか・・・俺は今体をあの剣に乗っ取られてるんだっけ・・・?)

 

今にも溶け出しそうな意識を、何とか保ちながら俺は考える。

 

(・・・なんで爺ちゃんは俺にあんな剣を託したんだろう・・・?)

 

紅蓮と蒼天。この剣のせいで俺は俺で無くなり、そして今では体を奪われてしまった。

 

今までにそういう剣が存在するなんてこと、聞いたことなんて無かった。

 

爺ちゃんはこれを知っていたのだろうか・・・?

 

(・・・・・・わかんないや・・・・・・)

 

一体俺はどうしてこの世界にやってきたのだろう・・・?

 

(・・・――――――――。・・・)

 

(・・・・・・?)

 

そんな時、一瞬だけ女性の声が聞こえた気がした。

 

しかし耳を澄ましてみても完全な無音。自分の心臓の音や、呼吸すら聞こえない。

 

無音。

 

(・・・助けて・・・)

 

聞こえた。

 

(・・・あの人・・・助けて・・・)

 

あの人・・・?

 

(あの人を・・・項羽を・・・助けて・・・あげて・・・)

 

項羽を助ける?

 

(一体誰なんだ、貴女は・・・?)

 

そして気付けば前が光り輝いていた。

 

(私は虞姫。貴方の剣に眠る魂に愛されていた者です・・・)

 

俺はその女性の姿を見て、驚きを隠せなかった。

 

何故なら、その姿は・・・

 

「おい、しっかりしろ!!」

 

「すまん・・・助かった・・・」

 

そんな風に続々と怪我人が前衛から運ばれて来ており、中衛や後衛では治療係や補給隊が忙しく動き回っていた。

 

今だ戦闘が続く中、主力部隊である劉備・曹操両軍が城へと攻撃を開始しようと動こうとした時だった。

 

突然、陣中に伝令兵が入ってきたのだった。

 

「も、申し上げますッ!!所属不明の軍より後方から、同じ旗を持つ軍が進軍中との事!!その数四万!!」

 

「あそこにいる軍は先発隊だったわけね・・・」

 

曹操はその伝令兵を下げさせると、傍らにいるネコ耳フードを被った少女に話しかけた。

 

「桂花、貴女はあの軍をどう思うかしら?」

 

桂花と呼ばれた少女は僅かに身を屈めて、話し始めた。

 

「っは。彼奴等は恐らく漁夫の利を得ようとしているのではないのでしょうか?」

 

「漁夫の利?」

 

「はい。我等連合軍が来る前にあの軍はこの地に攻め入ったと聞きます。しかし、城攻めが芳しくなく、援軍を要請し、今の今まで静観を決め込んでいたのではないでしょうか?」

 

「ふむ、それが貴女の考えなのね?」

 

「はい」

 

曹操はそこで思案に耽った。

 

その所属不明の軍の方向を見れば、確かに先発隊と思われる軍の後方から砂埃が立ち上っているのが確認できる。

 

しかし、腑に落ちない。

 

何故最初から五万の軍勢で攻めず、軍を分けてから攻めたのだろうか。

 

いや、それ以前に何故この連合に参加しなかったのだろうか。

 

あのバカな袁紹は手当たりしだいに召集をかけたと聞いているが、あの軍にはその書状を出さなかったとでもいうのか?

 

・・・いやそれはない。五万もの兵力がある勢力ならば、決して見逃すはずは無い。

 

更に言えば、この私がそのような大きな勢力を見逃すはずは無いのだ。

 

何らかの意図があるのか・・・?

 

わざわざ諸侯達を敵に回してまでする意図とは・・・

 

いやまて、何か見落としてないだろうか。

 

あの北郷一刀という人物は、虎牢関でなんと叫んだ?

 

それにあの牙門旗。昔に実在した武将の物に良く似てはいないか・・・?

 

「・・・・・・。」

 

「あ、あの華琳様?」

 

心配そうに曹操の顔を見つめる少女であったが、再び伝令兵が来るとその表情は微塵も無くなった。

 

「伝令ッ!!我等が連合軍に近づく黒衣を纏った兵一騎が突撃してきますッ!!」

 

「その位、追い払いなさいよ!!」

 

「そ、それが・・・」

 

伝令兵がその途端怯えだした。

 

少女は不機嫌そうに尋ねた。

 

「それがなによ?」

 

「先の虎牢関で行方知らずである北郷一刀らしき人物なのです・・・」

 

「なんですって?」

 

その言葉に曹操が反応した。

 

「詳細は不明ですが、手に持つあの剣の輝きはまさしく・・・黒と赤です・・・」

 

伝令兵は怯えながらも、確かにそう伝えた。

 

「動くッ!!前よりも思うが侭に体が動くッ!!フハハハハハハハハッ!!」

 

太公望を猛スピードで走らせ、突撃していく一刀。

 

「くっそ、誰か奴に射かけろ!!」

 

散々の忠告を無視する一刀に部隊長が痺れを切らしたのか、弓兵達に合図した。

 

「放てぇッ!!」

 

その瞬間何十もの矢が一刀目掛け向かってきた。

 

が、一刀はそんなこともお構いなしにそのまま突っ込む。

 

「そのような矢、かわすまでも無い。そこを退かぬのならば・・・切り捨てるまでよッ!!」

 

両手に握り締めた真紅と黒死に気を纏わせ、その禍々しい姿に兵たちは恐れをなした。

 

「クソがぁ!!」

 

兵たちはそれぞれに剣や槍を構え、一刀を馬から引きずり降ろそうとする。

 

「ならば死ぬが良い。望よッ!!」

 

一刀は太公望に呼びかけると、それに反応して太公望は高く飛んだ。

 

「ハァッ!!」

 

一刀は剣を振るうと、そこから真空刃が生み出され、地上へと降り注いだ。

 

ドガガガガガガガガンッ!!

 

巻き込まれた兵たちは皆胴体を切断されたり、首や腕、足、更には武器までもが全て切断された。

 

無論地面に当たった真空刃の衝撃で吹っ飛び、死んだ兵士も多数いた。

 

そんな惨状に目もくれず、一刀はただ一点へと走る。

 

「感じる・・・感じるぞ。お前がすぐそこにいるッ!!」

 

向かう先には砂埃舞う軍勢。

 

更に速度を上げようとした矢先、突然目の前に堰月刀が現れた。

 

「ッチ!!」

 

一刀はそれを器用にかわし、そして相手を見やった。

 

「・・・・・・」

 

そこには此方を睨みつける一人の少女がいた。

 

その隣には赤毛が目立つ、小さな子供と、槍を持った切れ長の目を持つ少女も佇んでいた。

 

「・・・ほう、関羽に張飛、それに趙雲か。」

 

一刀は太公望から降りて剣の切っ先を彼女達に向けた。

 

「こ奴の仲間・・・だったか?しかし俺には何も関係ない。立ち塞がるならば、切り捨てるまでよ」

 

「・・・ご主人様を返して貰おうか」

 

たった一言だけだったが、その言葉には激しい怒りが込められているのが判った。

 

「ッフン、こ奴の何が貴様等に影響を及ぼしたのかは知らんが・・・断る」

 

「ならばここで取り押さえ、主を正気に戻すッ!!」

 

そういって三人は一斉に飛び出してきた。

 

「お兄ちゃんを返して貰うのだッ!!うりゃりゃりゃりゃりゃーッ!!」

 

張飛が矛で目にも止まらぬ速さで突いてくる。

 

そこに注意を惹き付けられていると・・・

 

「そこだぁッ!!」

 

いつの間にか後ろに回っていた関羽が横一閃に堰月刀を払う。

 

一刀は飛び上がって回避すると、その真下から特徴的な槍が突き出してきた。

 

「貰った!!」

 

「・・・甘いな」

 

だが一刀は空中で軽功を使うと、体を回転させながらその槍を在らぬ方向へと蹴り飛ばした。

 

更に地面に着地するや否や、瞬時に堰月刀と矛を左右の剣で弾き飛ばしカポエラーのように二人に向かって蹴りを繰り出した。

 

「ぐぅあッ!!」

 

「にゃにゃにゃー!?」

 

「あっ!!」

 

気付けば三人とも一刀に軽くあしらわれてしまった。

 

「命だけは取らないでおく。二度と俺の目の前に立ち塞がらぬことだな・・・」

 

そう言って一刀は太公望に跨り、走り去った。

 

後に残った三人は表情こそ違ったが、同じ言葉を言った。

 

『くそぉ・・・』

 

呂布と馬騰は再び激突した。

 

既に何十合と打ち合い、そして何十回と飛び退いたことか。

 

お互いの力はもう限界をとっくに超えており、立っているのもやっとなものだった。

 

「・・・へ、へへへ・・・しぶてぇ奴だなテメェも・・・俺ぁもうクタクタだぜ・・・?」

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

お互い肩で息をしており、流れ落ちる汗も尋常ではないほどかいていた。

 

「これまで・・・何十合と打ち合ってきたが・・・そろっと終いにしねぇ・・・か・・・?」

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・(コクリ)」

 

流石の呂布も決着の付かない仕合に疲れたのか、すぐに同意した。

 

「よっしゃ・・・そんじゃこれが・・・最後の一合だ・・・」

 

「・・・・・・」

 

両者はゆっくりと、しかし力を振り絞って己が得物を握り締める。

 

そして、同時に飛び出した。

 

「オォォォラァッ!!」

 

「ハァァァアァッ!!」

 

お互いの得物をかち合わせ、歯を食いしばり、相手を睨み付ける。

 

その時だった。

 

二人を取り囲み、固唾を呑んで見守っていた呂布隊の一部が吹き飛んだのだった。

 

「ギャアアアァァァァァ・・・・」

 

突然のことで呂布隊の兵士達は何が起きているのか判らなかった。

 

だが、それを起こした張本人を見た途端、パニック状態へと陥った。

 

誰であろう一刀である。

 

再び突撃を開始した一刀は柵を薙ぎ払い、一直線へと突き進んできたのだ。

 

その様子を見た呂布と馬騰もいつの間にか飛び退いていた。

 

「ッチ、こんな時に誰だアイツは・・・」

 

「・・・・・・一刀」

 

「あん?一刀ってぇと、劉備軍のとこのか?だがアイツは生き埋めになっちまってるはずだが・・・?」

 

そんな二人には見向きもせずに、遂に所属不明の軍へと辿りついた一刀は、太公望から降りてニヤリとした。

 

「紀信、周苛、夏侯嬰・・・やはり貴様等か。通りで奴の匂いがするわけだな・・・」

 

その一刀の目の前には、一人の少女と二人の女性。

 

「アタイ達の正体が判るってことは・・・もしかしてアンタ項羽?」

 

「にしては随分とまた美形ね」

 

「・・・もしや貴方もこの世にでてきたのですか?」

 

彼女達は一刀から発せられる殺気に気付きながらも話を続けた。

 

「相変わらず姦しい奴等だ・・・。貴様等のその首、奴の前に出せば少しは面白みがあるか・・・?」

 

「それは褒め言葉として取っておいて上げるわ、項羽。大方私達への『復讐』が目的なんでしょうけど、そこんところどーなのよ?」

 

「無論だ。貴様等のせいで、虞は・・・虞は・・・ッ!!」

 

「はっはっはーそいつはお門違いってもんじゃないか、項羽?確かに私達があの時攻めたからこそ結局アンタも虞姫さんも死んじゃったけどさ。だけどそういう風に私達に思われ行動されたのは、やっぱりアンタのやり方が間違ってたってことじゃないのかい?」

 

「黙れ女狐。コロコロと寝返っては何食わぬ顔でそこにいる貴様などに言われたくはないわッ!!」

 

「そんなこと言われてもねぇ~?これが私なんだから仕方ないってもんよ」

 

「項羽さん・・・昔のように語り合うことは出来ないのですか・・・?」

 

「出来ぬ。貴様等が虞を死に追いやったのは紛れもない事実。俺は虞の為にこの手で奴を殺さねばならぬのだ。それは貴様等とて同じことよ・・・」

 

そこで一刀はもう話すのも億劫だと言わんばかりに剣を振った。

 

「何故死んだはずの俺がこうしてまたここに現れることが出来たのかは知らぬ。が、貴様等がこの場にいることでようやく納得した。俺は、こうして復讐の機会を得ることが出来たのだからな」

 

「やるしかないみたいだね」

 

「そうみたいだな。全く、退屈していたところだったから丁度いいな」

 

「仕方・・・ないみたいですね」

 

それぞれの得物を構え、対峙する四人。

 

しかし誰も気付かぬところで『それ』は見ていた。

 

彼等の上空には、一人の人物が此方を見下ろしていた。

 

その見下ろしている人物が一体何者なのか、この場ではまだ誰も知る由は無かった・・・

 

あとがき

 

第十八話をお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

 

ここら辺からようやくタイトルネームの由来が明らかになっていくと思います。

 

是非お楽しみに。

 

あと、次回予告で知らせたある場面は今回は無理でしたので、次回に持ち越しです。

 

宣言通りにならず、申しわけございません・・・

 

最近は雪も降らず、穏やかな天候が続いていますが皆さんどうお過ごしでしょうか?

 

くれぐれも体調管理にはお気をつけてくださいませ。

 

それではまた次回でお会いしましょう。

 

願わくば、そう遠くない日に会えるように・・・

 


 
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