No.199277

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第三十五話

よしお。さん

第三十五話をお送りします。

―襲いかかる悪意―

開幕

2011-02-02 14:51:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4199   閲覧ユーザー数:3262

 

 

ようやく朝日が半分程顔を出したかという早朝の時間帯。

ベットでぐっすりと眠っていると自室に誰かがやって来た。

 

「……い。……ごう、起き……」

「ちょっと……しょ……」

「……だよ。……ちゃん」

 

しかもどうやら三人、小声で何か言い争っているらしい。

 

「……どくさい。ここは一気……」

「……で!? ……さいよ!」

「あ、危な……!」

 

(……危ない?)

 

心なしか音量と共に嫌な予感がひしひしと浮き上がってくるのは気のせいだろうか。

きっと幻聴に違いないが、がちゃがちゃと物騒な金属音も聞こえてきた。

 

「ええい、止めるな……!! 巻き込まれ……必殺……」

 

(……殺?)

 

「「逃げてぇぇぇぇ!」」

 

反射的に目を見開いて声の方向へと首を向ける。

次の瞬間、飛び込んできたのは朝起こしに来た美少女でもなく、無骨な鉄塊。

迫り来る『金剛爆斧』――

 

「本当に死ぬ!?」

 

咄嗟に枕元に置いてあった刀を掴み取り、鞘ごと戦斧の一撃を受け止める。

なんとか防ぐのには成功したがビリビリと腕に痺れが走ってこれ以上は持ち堪えられそうに無い。

冷や汗を垂らしながらなぜか笑顔の犯人を怒鳴りつける。

 

「な、なんで起き抜けに襲ってくるんだよ、華雄!」

「む? 私は目覚めの手段を講じただけだぞ、何か気に障るようなマネをしたか?」

「したよ!? どこをどう考えたら斧の直撃喰らわすって発想が生まれたんだよ!」

 

いくら直情的な思考の持ち主である彼女でもこれは非道い。

 

「むぅ、張勲の話ではこれが一番だと聞いたんだが」

 

首を傾げられた。お願いだから人の話を鵜呑みにするクセを直してくれ。

朝っぱらからの暴走に頭を抱えて思い悩む。

 

「なんだなんだ。人がせっかく小用をこなしてやっているというのにその言い草は失礼ではないか」

 

襲いかかるのは失礼ではないと?

 

「小用って……そういや珍しいな華雄がこっちに来るのは」

 

気を取り直して考えてみれば会う事自体かなり久しい。

凪や真桜、沙和の三人が俺の近衛隊に昇進した事で町の警備は美羽、七乃、華雄の三人に任せてあったからな。

進捗状況なんかはいつも七乃さんが報告に来るから城で顔を合わせるのは滅多になかった。

 

「朝方調練場を借りて斧を振るっていたのだが、偶然そこの二人に出くわしてな。自室までの道が分からぬというので案内しておったのだ」

「二人?」

「あの……おはよう……ございます……」

「……ふん」

「あぁー、なるほど。大喬と小喬ね」

 

彼女達が呉からの監視役として赴任してからまだ日が浅い。

増え続ける人民に対応できるよう歪な開発と拡張工事が乱発しているこの城は良く知る者でなければ迷いやすいのだろう。

 

「でも何で俺のところに? 直接部屋に案内してくれてもよかったんじゃない?」

「それは無理だ」

「なんでさ?」

「わたしも迷ってここが何処だか分からん。とりあえず嗅ぎ覚えのある匂いを追ってここまで進んできたのだ」

 

フェロモン的な何かだろうか?

 

「栗のような匂い立ち込める場所へと」

「ぐはっ!!」

「北郷様!?」

「……相変わらず節操の無い奴ね」

 

華雄の場合、邪気無い分ダメージが大きい。

 

「ぐぐっ……反論できないのが辛い。まぁ何はともあれ道案内ご苦労さん。二喬を送るついでに華雄もついてきなよ」

「うむ」

「少し早いけど朝食もいっしょに取ろうぜ。流琉が来てから食のレベルが上がったしおいしいぞー? 二人ともそれでいいかな」

「れべる?……あっ、はい……朝餉については異論はありませんけど」

 

けど?

 

「私達がこんな朝早くなにをしていたのか聞かないの?」

 

言いよどむ大喬に変わって小喬が続きを代弁、なぜか睨まれる。

 

「え? なんか企んでるの?」

「ちっ、違うわよ! ただこんな朝から不振な行動をしてたら疑ってかかるのは当然でしょう。私とお姉ちゃんはあんたを認めていない冥琳さまの配下なんだから……」

「んー、でもなー」

「言いたい事があるならはっきり言いなさいよ。あんたの真意を聞き出して“あいつ”にも報告しなくちゃいけないんだから」

「小喬ちゃん! 言ってる! 言っちゃってるよ!?」

「し、しまったっ! い、今のなし! なかったことに――」

「俺自身は周瑜の事信頼してるしなぁ。いらない詮索はしたくないんだ」

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

 

きょとん、と大きくてつぶらな瞳をぱちくりさせる二喬。

そんなおかしい事言ったか?

 

「確かにわだかまりはあるけどさ。いつかきっと分かり合えると俺は信じてる。だからなんの証拠も無いうちに疑ってかかったりはしないよ。それは君達にも失礼だからね」

 

ただでさえ風当たりの強い位置にいる二人に要らぬ波風は立てたくない。

 

「だからこの件は俺と大喬と小喬、華雄だけの秘密ってことで」

 

呆気に取られる二人を無理矢理押して廊下に出る。

 

「器がでかいな、北郷」

 

ニヤリと笑う華雄に苦笑。

 

「能天気なだけだって。ささっ、見目麗しいお嬢さん方、朝食へと参りましょうか」

「ちょっ、押さないでよ馬鹿っ!」

「きゃっ」

 

華琳によればこの二人、最初の外史にしかいなかった存在だから注意しろといわれたけど今はそんなの関係無い。

何事も信じるところから始めないと信頼関係なんて結べないからな。

 

(後で華琳か蓮華にばれたら怒られそうだけど)

 

「……こいつ変わってない……」

「うん。そうだね、小喬ちゃん。……でも私たちはこの人を……」

 

内緒の会話は聞こえない振り。

沈みかけている二人の気分を晴らすように気楽に会話しながら前進、前進。

女の子にはいつだって笑っていてほしいものです。

 

「ふと思ったんだが華雄が人の世話を焼く事自体珍し過ぎるよな、どういう風の吹き回しだ?」

「失礼な。私はただ、この二人が他人ではない気がして思わず力を貸したにすぎん」

 

少しだけ考え込むと

 

華雄……。

 

大喬……。

 

小喬……。

 

三人とも……あっ。

 

「な、なんだ突然。なぜそんな慈しむような笑みを浮かべるのだ!?」

「……なんか急にむかついてきた」

「わ、わたしも胸がムカムカしてきたよ」

 

ごめん。君達の共通点を見つけたらちょっとだけ目から汗が流れてきた。

 

文句はオフィシャルに言ってくれ……真名ェ。

 

 

 

 

 

 

「―――では、これで仮設住宅の件についてとそれに伴う人員移動の報告を終わります」

 

朝の騒動は人知れず収束し、今は軍議の真っ最中。

少しだけ高めの位置に作られた玉座に座って各部署の報告を受け付けていく。

 

俺から見て左に華琳、反対側に蓮華が控え、両脇にずらっと部署の関係者が列を作っているいつもの配置。

今日は特に春蘭や恋といった全武将を集めた会議だ。人で埋め尽くされた光景を見ながら先の議題を振り返る。

 

人民の引き入れは順調で、心配されていた流人と現地の人との衝突も干吉が平原をライブ会場に改造していた経緯も手伝って目立った混乱は出ていない。

拡張工事の手際の良さ、並み居るファン達の抑え方といい平原の兵士の働きも伊達ではなかった。

まるで図ったように干吉の働きは俺達の力となっては事は進んでいく。

 

「次は、うち率いる工作部隊の成果をお披露目する番やな」

 

真桜からは依頼しておいた攻城兵器の開発進歩状況などが説明されていく。

 

「最初は“連装式破城鎚”。そいつの開発終了のお知らせや。懸念されとった“れーる”も一定の精度を保ったまま量産でけたし、試作機含め三台がいつでも実戦配備可能な状態やね。ほんでもう

 

一件、天の世界でいう“ばりすた”の方は、弦の部分が最低限分しか材料を確保できませんでした。歯車や滑車は余っとるから手に入り次第の増産予定やけど、あのアホみたいな射程を考えたらそ

 

う壊れんと思います。そのまま予備として確保しておきたいんですが、ここらへんどうやろか?」

 

過度な敬語を禁止している議席で真桜が流暢に語る。

 

「バリスタの配備数については当初の予定数を目処に準備してくれ。でも仕込み矢の数だけは多めにな。どっちかというとそっちが要だしね」

 

目で華琳と蓮華に判断を仰ぐが軽く頷かれただけで二人とも視線を戻した。

うん、この件については文句無いみたいだ。

この後も軍備関連の報告や新しい指令系統の確認が行われていくが、ここで『北郷』の軍編成について大まかに説明しよう。

 

 

 

まず俺を頭とした本隊『北郷』。

十文字を牙門旗に、いつもの三人組を副官、稟と風を軍師に、星や恋といった蜀軍の武将を加えた混成部隊となっている。

 

次は華琳率いる魏軍残党を再編成した部隊。

大将に華琳を据え、彼女曰く旧魏軍のメンバー+流琉の将配置らしい。

今のところ規模は一番小さいが、袁紹軍領地に潜んでいる兵士達と合流すれば心強い戦力になるだろう。

 

最後に蓮華率いる呉軍。

副官にいつも通り思春、軍師には亞莎を。将の数こそ少ないが、雪蓮が周瑜の説得に成功すれば数は本隊を大きく上回る。

 

都合、三隊。総数五万の兵士が俺の持つ戦力となった。

 

「――では続いて、というより今回の軍議における最重要事項について話し合いたいと思います。―――どうぞ」

 

いつもより大分長かった各部署からの報告が終わり、いよいよ本題へと話が進む。

長くなった原因はこれから発言する彼女達にこの国の内情を少しでも知ってもらえるよう配慮した結果だ。

 

稟に促され、自己紹介と共に懐かしいであろう人物が前に出た。

淡いピンク色の髪をなびかせ、人懐っこい瞳と全体的に丸みを帯びたナイスなプロポーションを持った女性。

一国を担っているとは思えない、はにかんだような笑顔で彼女は微笑み。

 

「みなさん、お久しぶりですっ! 私の名前は劉備玄徳。今回蜀を代表し……ってうきゃーーー!?」

 

豪快にすっ転んだ。

 

「ちょっと大丈夫か桃香! どうやったら何もないところで転べるんだ!?」

 

まったく同意見です。どんがらがしゃーんといかなかった分まだマシだろうけど……。

そんな彼女に真っ先に駆け寄ったのは付き添いで来られた公孫贊さん。

第一印象は普通。後、午前中の三人に刺されないようにしてねというメッセージが浮かんだ。普通に。

 

「ううぅ、痛いよぅ……」

 

劉備さんが頭を押さえながらふらふらと立ち上がる。

 

「桃香様、我らは蜀の代表としてこの場に出席しておるのです。痛い気持ちはわかりますが堪えてくだされ」

「うぅー……分かりました」

 

涙目で頷く彼女に溜息混じりで注意するのは巨大な肩当と大人な魅力が印象的な厳顔さん。その後ろに隠れるようにもう一人。

 

「あ、あの……お怪我はありませんか……ひゃう!?」

 

鳳統ちゃんが心配そうに顔を出したんだが目が合った瞬間、引っ込んでしまった。

 

「これ、軍師殿も。久方ぶりのお館様との再会が恥ずかしいからといって逃げてはしょうがなかろうて。ほれ、桃香様もしゃっきりなさらんか!」

「ふわっ!」

「あわわわ!?」

 

ぐいぐいと二人を前に押し込んで発破を掛ける。その様子を見ているとなんだか……。

 

「遠くに残した母親の姿が甦るなぁ」

 

塾とか面談の時に本人そっちのけで話を進めていく感じっぽい。

 

「お館様、なにか?」

「イイエ、ナンデモアリマセンヨ?」

 

わざとらしく目を逸らす。

両脇から“馬鹿”とか呆れたような溜息が聞こえる。

 

「ええと、こほんっ! 改めまして、蜀を代表して来ました劉備玄徳です。お目通り頂けましてありがとうございます」

「あぁ、こちらこそ来てもらって助かるよ。俺は『北郷』の代表、北郷一刀。この国で……って君たち側はみんな俺のこと知ってるんだっけ?」

 

確認するように目で訴えかけると劉備さんは目を細めて頷く。

 

「もちろんだよ、ご主人様っ♪ ずっとずっと会いたかったんだからね?」

 

(うおっ、すっげぇ可愛い!)

 

蓮華や華琳みたいに綺麗な印象じゃなくて、どこか幼い無邪気な笑顔と膨れっ面すら愛らしい美貌。

清純派メインヒロインを地で行く感じの子だな。

見惚れていると横に控えていた華琳が苛立ち紛れの声を上げた。

 

「劉備。しなを売るのは後にしなさい。あなたたちの目的は一刀のご機嫌伺いではないのでしょう」

「あっ、はい。じゃあお聞きしますね」

 

一つ咳払いをしてから真剣な表情になる。

投げかけられた疑問は当然、この世界の事。

 

いままでの経緯を含め、誤解を招かないように説明していく。

世界の秘密、過去の外史、そして袁紹を操っているであろう左慈の存在。

急ぎ足ながら一通りの説明を終えると劉備さん達は屈託の無い表情で納得してくれた。

 

 

 

 

 

 

「そういったご事情がおありでしたか……どおりでこちらにお越し頂けなかったわけですな」

「うん、ようやく喉につっかえてた小骨が取れた気分だよ。ご主人様はやっぱりご主人様だったね♪」

「……本当は私達の事嫌いになってしまったんじゃないかって不安でしたけど……ふぐっ、良かったです……」

「おいおい、泣くなよ。……まったく桃香といい、手のかかる奴ばっかりだな」

 

ハンカチっぽい布で鳳統ちゃんの目元を拭う公孫贊さんの瞳はどことなく優しい。

 

「それでなんだけど劉備さん、左慈の行動を止める為に君たちの力を貸してほしいんだ。協力願えるかな?」

「もちろん! ……あっ、でも一つだけお願い」

「ん?」

「私の事、真名で呼んで。そしたら全然問題無いよ」

 

甘えるような表情で上目使いになる劉備さん。

なんだそんな事でいいのか。

一瞬、交換条件的な無理難題でも突きつけられるのかと思ったよ。

 

「それくらいなら喜んで、ええと、桃――」

 

―バタンッ

 

「桃香さま!!」

「ほへ?」

 

真名を読んだのは予想外の人物、黒髪に混じった白髪と中性的な顔立ちの女性。確か会議前に騒いで締め出された魏延、だったか?

すっごいこっちを睨んでたから印象に残ってるな。……ん? 後ろに懐かしい顔が二つ顔を出しているような? あっ、引っ込んだ。

尻尾があったらぶんぶんと振っていたであろう劉備さんが呆気に取られた。

 

「貴様! 王同士の会見に無粋に顔を出すとは何事だ!! 控えよ!!!」

 

華琳の激しい叱責を受けても彼女は気にした様子もない。

むしろ劉備さんしか目に入っていないような……。

 

「ええい、そんな事気にしてる場合か! 黙ってろ!!」

「なっ!?」

 

すげえ、華琳相手に啖呵切ってるよ、この

……あとでどうなっても知らんぞ。

 

「大変なんです桃香さま! さっき城壁で暇を潰してたらアレが迫って一大事な感じになりそうなんです!

こんな八方美人へたれ男はほっといてさっさと国に戻りましょう!!」

 

慌ててるのは分かるがさらりと罵倒する必要はあるのだろうか?

 

「取り乱すでないわ、焔耶!!」

 

厳顔さんが躊躇無く拳骨を振り落とす。

 

「ぐはっ!」

「急ぎの用件があるのならば、三行で簡潔に述べんか!」

 

なに? この世界でもそれあるの?

 

「――暇つぶししてたら西側に旗

 

    ――色は金、数は不明。徐々にこちらへ

 

       ――袁紹軍が攻めてきました

 

                  ――死ね北郷」

 

(三行目だけでいいし、四行目いらないよね)

 

突っ込みは心の中にしまっておくが一気に場は騒然となった。

 

「お待ちください。この見晴らしの良い地理で目視できるまで発見できなかったというのは些か不可解――」

「たちの悪い冗談は好まん。嘘だと思うなら見張りの者にでも確認を取ればいい。まあ私の目は特別いいからな、発見できるかは分からんぞ」

 

稟の疑問にふんっと腕を組んで魏延がそっぽを向く。

その物言いに再度、厳顔さんの額に青筋が走るがその前に指示を飛ばす。

 

「――凪、急いで哨戒の人と共に西門から出て相手の規模を確認。真桜と沙和の二人は七乃さん達と合流して街に避難勧告を」

「「「了解(や)(なの)!」」」

 

咄嗟の命令に疑問を挟む素振りも見せず三人が駆けていく。

 

「一刀!? 一度確認を取ってからでも遅くは……」

「駄目だ。本当なら事は一刻を争う。魏延が嘘をつくとも思えないし、準備しておいて損はない」

 

蓮華の意見をあえて無視。彼女の意見を全面的に信じる事にした。

 

「先手を取られたわね……」

 

唇を噛む華琳も俺と同じように頭の中を思考が駆け巡っているらしい。ぱちぱちと瞬きの回数が多くなっている。

 

「春蘭、秋蘭。こっちへいらっしゃい」

「「はっ」」

「警戒と牽制のために手勢を率いて西門前に隊列を作りなさい。こちらに準備が出来ていると見せかけるのよ」

「「御意!」」

「っ! 思春! こちらも兵を出せ! 魏軍に遅れをとるな!」

「承知」

 

不幸中の幸いか、この玉座の間に全員が揃っていたおかげで伝達の必要が無い。

しかも両隣にはあの曹操と孫権だ。的確な指示がどんどん下される。。

そんな中、困惑したように蜀の人たちが立ち尽くしていたので玉座を降りて話しかけた。

 

「ごめん劉備さん、こんな事態になって。ここは戦場になる。急いで平原から離れてくれ」

「え、でも……」

 

なにか言いたげな様子で言いよどむ。

すると居並んだ会議の列から蜀に縁のある人物が歩み出てきた。

 

「心配するお気持ちはわかりますが焦りは禁物ですぞ、主」

「星か……。抜け駆けして以来久しぶりじゃの。息災か?」

「ふふっ、毒を吐かれるな桔梗殿。それより今急いでここを離れるのは感心しませんな、少し様子を見たほうがよろしかろう」

「何を言っているんだ。ささっ、桃香さま。私がお守りいたしますから早くここを出ましょう」

「あわわっ、そ、それは駄目です焔耶さん、ここは星さんの仰る通りにしないと囲まれてしまいますよ」

「囲まれるって……」

「相手は 西側から 迫っておるのですぞ。蜀はどの地に本拠地を置いているか、地図でも見れば一目瞭然ですな」

「「あっ……」」

 

ようやく合点のいった俺と魏延。

 

「勘違いして恥ずかしいなー焔耶は。やっぱり脳みそ足りてないんじゃない? くふふっ」

「たんぽぽ!? 貴様ぁ!!」 

 

ひょっこり顔を出したたんぽぽの突っ込みに切れたのか追い掛け回しぐるぐると旋回する二人。

あー、なんか薄く記憶が戻ってきたような気がする。こんな光景確かに見覚えがあるぞ。

 

「まあ、そういった状況ですから避難は戦いが終わってからですな。なに、心配せずともこれだけの将が揃った我らは一当てくらいでビクともしませんぞ」

 

自信満々に胸を張る星。

なんかもう目が爛々としてヤル気充分だな。

 

(しかし、西か……)

 

冀州がある北ならともかく、どうしてこっち側からなんだろうな?

蜀領に面した西側に物見や砦を配置しなかったのを狙ってわざわざ迂回してここまで来たと考えるのが妥当だけど。

 

(このタイミング……。まるでこちらの動向をあらかじめ知っていたかのような動きのような気も……)

 

……駄目だ、判断材料が少なすぎる。ただの偶然かもしれないな。

 

「仕方ない……劉備さん、戦いが終わるまで窮屈かもしれないけど我慢しててね」

 

一言だけ告げて踵を返す。

 

「全軍、戦闘配置! 袁紹軍を迎え撃つぞ!!」

 

右手を振り上げ、十文字の羽織が大きく揺れる。

高らかに宣誓した言葉とともに、気持ちを戦いへと切り替えた。

 

この一戦から本当の意味でアイツと対時する事になるんだ。負けてはいられない。

決着に向けての緒戦は守る側から始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

一刀達が戦いの準備を進める数日前、薄暗い部屋の中で一人の女が内側から劈く痛みに声を抑え耐えていた。

 

「……ガァッ!……ギッ!……フッ!!」

 

何度も掻き毟ったのか繋がったはずの右肩は傷だらけで皮膚が捲れて痛々しいまでに赤く腫れている。

この女こそが一刀達の宿敵。長坂橋で恋に右腕を切断された左慈の姿だった。

 

「ほん……ごうッ!!!」

 

苛立ち紛れに床を蹴り抜き、とうとう怨嗟の叫びが木霊する。

 

この痛みも。

 

この虚しさも。

 

全てはあの日貴様がいらぬ正義感を出した事で生まれたのだっ!!

 

必ず償わせる!

 

必ず殺し尽くしてやる!!

 

身を焼く激痛さえ己の糧にしようと左慈の瞳が狂気に染まり、その有様はどこかの少女と同じように屈折しているかのように感じられる。

 

「ぐっ……」

 

痛む肩を押さえる左慈が何者かの気配を感じ取。

一瞬、かつては仲間ともいえるあの女の姿が思い出されたが自虐するようにその妄想を切り捨て声をかける。

 

「貴様か」

「は、はい。左慈さん……あの、替えのお水を用意しましたわ」

 

光の届かない室内に入ってくるのは名門袁家の当主として名高い袁紹だった。

普段の高飛車な態度はなりを潜め、怯えというよりは困惑した様子で左慈に近づいていく。

 

「また苦しんでおられていたのですね……やはり一度医者に診てもらったほうが……」

「俺に構うな」

「しかし……」

「構うなと言っている!!」

 

苛立った左慈が何かを投擲する。

それは袁紹の頬を掠め赤いスジを残して壁に突き刺さる。

鋭い破片。歪な輝きを放つ痛みの原因だ。

 

「……出過ぎたマネでしたわね」

 

だが袁紹は嫌な顔一つせず頬を軽くぬぐっただけで目の前の女と向き合う

 

(――この女はいつもこうだ)

 

傀儡の一つでありながら妙にこちらを気遣い、機嫌を取ろうとしている。

しかも最近はこちらの反応を感じ取って引く事を覚えやがった。

付かず離れず、それでも世話を焼き続ける邪魔な女だ。

 

「……で、なんのようだ。くだらない用件ならばくびり殺すぞ」

「汗を……その、拭きに参りましたの。以前も苦しそうにしていましたし、これぐらいは……」

 

おどおどと忙しなく手が動くくせに目だけはしっかりとこっちを見据えてやがる。

 

「ちっ、好きにしろ」

「は、はい!」

 

何が嬉しいのか桶に汲まれた布を絞って汗ばんだ体を拭い始める。

無闇に干渉してくる行動といい、やたらと俺に向ける赤らんだ表情といい、傀儡の行動はまったく理解できない。

人形は人形らしく、ただ役目をこなせば良いだけだろうが。

俺の不満を知る由も無く、この傀儡――袁紹はせっせと汗をふき取る。

 

「……ちっ」

 

二度目の舌打ち。

軋む体がなぜかこの時だけ鈍く感じられた。

 

 

 

「おおー、すっげえ乙女してんな、姫は」

「ちょっと文ちゃん。覗き見なんて失礼だよ!」

「いいじゃんかぁ少しぐらい。ほら見てみろよ、しおらしい姿も結構いけるぜ」

「もー、ばれたりしても知らないよ」

 

左慈と袁紹が密室で篭っているのを文醜、顔良二人は扉の隙間から観察していた。

 

「結構いい雰囲気なんだよなー。うーん、これで相手がもっと良い奴なら喜んで後押しできるんだけど相手があれじゃ、姫が報われないよな」

「年齢、経歴一切不明。安心して推挙できる人間じゃないもんね」

 

しかも真性の残虐さを秘めている。

どうしてこんな非道の女に袁紹が惚れたのか二人には分からなかった。

 

「どこかであたいらの知らない、感動的な出会いでもあったとかか? ……左慈はともかくそんな光景、破天荒な姫に似合わない気がしねえ?」

「……それは失礼だよ文ちゃん」

 

(確かにあの性格ならどんな良い雰囲気でも高笑いで足蹴にしてしまいそうだね)

 

とは間違ってもいえない顔良であった。

 

「ちぃ! もうちょっとくらい優しくしろって……斗詩。押すなよ、苦しいだろ」

「え? 私寄りかかってなんか無いよ気のせいじゃ……!!」

「どした……お前は!?」

 

振り向く二人が見たのは ここにいるはずの無い人物。

その者は覗きをしていた顔良達には目もくれず悠然と部屋の中へ入っていく。

 

あきらかに異形。普段の姿とは似ても似つかない幽鬼のような出で立ちに誰も口を挟めない。

絶句する袁紹達をよそに左慈だけが亀裂のような笑みを浮かべた。

 

「……ようやくジョーカーが手の内に入ったか。……上出来だ。絶望の流砂はこれから始まり、引くも進むも必ず誰かを失う蟻地獄。そこへ招待してやるぞ、北郷一刀」

 

狂笑する左慈に謎の人物は反応しない。

ただくすんだ瞳で愛しい誰かの名前を呟くだけだった。

 

 

 

<つづく>

【華雄の本気】

 

 

 

「おい、起きろ北郷」

「んん……あ、あと……」

「五分と言わず一分で起きろ」

 

 

 

 

「……一年……」

「長いわっ!?」

 

―ドガッ

 

 

◆         ◆          ◆

 

どうも、おはようございます。

頭にコブが出来ていますが、(アッチも)元気な北郷一刀です。

時代の最先端をゆくギャグに華雄さんは見事にツッコミを入れてくれまして。

せめて素手でツッコミして欲しかった。さすがに武器で小突かれるのは予想外だった。

 

 

 

「むぅ、まだ怒っているのか」

「……怒ってない」

 

 

 

もう怒りはひいてたけど華雄の困ってる姿を見たくて拗ねてる振りをした。

 

「――それで、いったい何の用だったんだ?」

 

聞くと、華雄が不機嫌そうな顔になる。

 

「……む。用が無ければ来てはいけないのか?」

「いや……そんなことはないけど」

「まあいい。訓練をつけてやろうと思って――」

「おやすみなさい」

 

―ガバッ    (シーツを被る音)

 

 

―ガバッ    (シーツをはぎ取る音)

 

 

「きょ、今日は休みなんだよぅ、寝かせてくれよぅ……」

「ダメだダメだ! お前は一国の主だぞ? せめて自らを守れる程度の力を付けてもらわねば……」

「いや、華雄が守ってくれるでしょ」

「!?」

 

瞬間、華雄の顔が赤く染まる。

 

(そうか……! 私はこの男に……(力を)求められている……! ――華雄、脱ぎます……)

 

バッ、と衣類を脱ぎ捨て、すぐに一刀の隣に横たわる。

急な行動に吃驚せざるを得ない。

 

「な、なんで裸!?」

「ふ……愚問だな、か、一刀……お前が私を求めているんだろう」

「……」

 

今日はマジで休みたいんだよ……。

先日、某三姉妹に根こそぎ注いでしまったせいで既に体力が限界だ。

 

「今日の私は一味違うぞ? 以前丸めこまれて以降抱いてもらってないがゆえに……

つまり、欲★求★不★満★だ」

「……OH」

 

うん。さらば我が休日。

 

「日ごろ溜まった鬱憤、その身で解消させてもらおう」

「アッーーーーー!?」

 

―ズボボボボボボボッ!!!

 

 

―アッーーーーーーーーー!!!

 

 

―チュッ! チュッ!

 

 

―ッッ!!!!

 

 

―パンパンッ

 

 

―ウッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―チュンチュン...

 

 

 

翌日、非常にご機嫌な華雄と見るも無残に吸われた様子の一刀が目撃された。

<このお話は本編とは関係ありません>


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
44
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択