No.199271

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第三章・第四幕

狭乃 狼さん

北朝伝、三章・四幕でふ。

漢と袂を分かつ事にした一刀たち。

鄴の地を接収に来た、袁紹軍とついに対峙します。

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2011-02-02 14:18:53 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:23381   閲覧ユーザー数:17634

 「……おのれ、あの小童が!」

 

 バシッ!と。

 

 手に持っていたその書簡を、憎憎しげに床に叩きつけ、王允は興奮でその鼻息を荒くする。

 

 それは、一刀から送られてきた、理由の無い罷免には従う謂れが無いとした、勅命に対する拒否文である。

 

 「……少しは落ち着いてはどうだ?司徒よ」

 

 「これが落ち着いてなどおられますか!天の御遣いなどと名乗っているだけでも、十分に不遜だというのに、勅命まで拒否するとは何たる傲慢さか!」

 

 諭すようにして王允に声をかけたその人物に対し、激昂したまま早口で返す王允。

 

 「勅書に罷免の理由を書かなんだお主も、それはそれでどうかと思うがな」

 

 「理由など必要ありますまい?漢の勅は絶対のものなのです!それを断れる者のほうが、どうかしておるのです!」

 

 漢の命を聞かぬものなど、その威にひれ伏さぬ者など、この世に居ること自体ありえないことだと、王允は本気でそう思っている。彼にとっては漢こそが全てであり、諸侯も民草も、漢無くして安寧とした世など過ごせないと。

 

 心底から、信じて疑っていないのである。

 

 「……ならば、その勅に従うものに任せておけば、それで安心ではないですか。……南皮の袁紹に、ね」

 

 「さ、左様でございますな。はっはっは。まったくもって仰せの通りで」

 

 ……こやつには、己の考えというものが無いのかと。その人物は呆れたその目を、王允に向ける。

 

 (……そろそろ、漕ぎ手を変える時期かもな)

 

 所詮、ただ言われたままに舟を漕ぐ、漕ぎ手頭程度でしかないその老人に、そろそろ見切りをつける時が来ているなと。その人物は王允を冷ややかな目で見ながら、そんなことを頭の中で考えていた。

 

 当の王允はというと、自身がそんな風に思われているなどとは露知らず、一人高笑いを続けていた。……己の残り短いその、人生という川のすぐ近くに、間もなく深い滝が迫っていることなど、想像だにすら出来ずに。

 

 

 

 ここから、その場面を冀州へと移す。

 

 

 冀州は基本的に、三つの郡に分かれている。すなわち、

 

 一刀の治める鄴郡、

 

 袁紹の元々の統治域である、南皮郡、

 

 そして、その間に挟まれた形になっている、平原郡、である。

 

 

 -正史とは、そこがまた違う点である。

 

 正史の冀州は、もっと細かく郡が分かれている。例えば、一刀の居る鄴の地。この一帯は、正史では魏郡と呼ばれる地域である。正史での曹操が、後に魏公に就任したのも、この地を抑えて領としたのが、その由来だといわれている(諸説あり)。

 

 そのあたりの違いを知ったとき、本当に別世界なんだな、と。一刀は改めてそう思ったものである。

 

 

 それはともかく。

 

 

 今、その鄴と平原の郡境において、一刀と袁紹が、それぞれに軍を率いて対峙していた。

 

 

 「ご無沙汰ですわね、北郷さん。それにしても、わざわざお引越し前に挨拶にみえるなんて、なかなか礼儀をわきまえていらっしゃいますわね。お~っほっほっほっほっほ」

 

 「……引越し、ですか。一体誰が、どこに引っ越すと?」

 

 一刀達が目の前に来ている理由を、完全に勘違いして高笑いをする袁紹に、一刀はわざとらしくその首をかしげ、そう問い返した。

 

 「そんなもの決まってますでしょう?貴方が、都に、一人で、じゃないですの。……って、あら?その割には随分大所帯ですわね」

 

 「そりゃそうですよ。俺は別に、引っ越したりするわけじゃないですからね」

 

 「じゃ、何のためにここに来ていますの?……あ、もしかして、私に朝廷に許しを請うための協力でも、お申し出になるつもりですの?まあ、お気持ちは良く分かりますわ。”名門”たる私の口添えを欲しがるのは、”庶民”からすれば当然ですもの」

 

 おーっほっほっほ、と。一人で勝手に結論付け、高笑いを周囲に響き渡らせる。その袁紹を見て、はあ~、と。大きくため息をついて呆れる一刀たち。

 

 「……どうやら、本気で分かってないみたいですね。……袁紹さん、俺たちがここに来た理由はね、貴女方に帰ってもらうためですよ」

 

 「~っほっほっほ……って、はい?」

 

 その高笑いを中断し、呆気に取られて首をかしげる袁紹。その後ろに立っていた顔良は、小声でこうつぶやいていた。

 

 「……やっぱり」

 

 「斗詩~。何がやっぱりなんだ?」

 

 「……はあ~。もう一人、現状が分かってないのが居た……」

 

 「??」

 

 本気で首をひねっている文醜を見つつ、大きく肩を落とす顔良であった。

 

 

 「……北郷さん?今のは一体どういう意味ですの?」

 

 「……まだ分かりませんか?ならはっきりと言わせてもらいます。俺は、俺たちは、勅命を断る旨を、都に対して通達しました。なので、貴女に鄴を、みんなを渡すわけにはいきません」

 

 「え?え?え?」

 

 一刀のその言葉を瞬時には理解できなかったらしく、袁紹はその目を白黒させて、思い切り動揺をその顔に表す。

 

 「……俺たちは、無駄な戦いをしたいとは思っていません。ですから、このまま大人しく、帰ってもらうことは出来ませんか?そして出来うるなら、俺たちと手を取り合って、これからの乱世を」

 

 「……っじゃ、ありません、わ」

 

 「え?」

 

 「冗っ談っっではありませんわ!」

 

 「ッ!!」

 

 ようやく一刀の言葉の意味するところを理解したのか、袁紹は大声を上げて、一刀のその提案を拒否した。……それこそ、夜叉の如き、その形相となって。

 

 「勅命に逆らうですって?!貴方はなんていう不遜な事をなさいますの!?四世に渡り、三公を輩出してきた名門として、漢の臣として、そのようなことは決して認められませんわ!!」

 

 (……本初、おぬし……)

 

 その袁紹の台詞を聞き、度肝を抜かれたというか、以外というか、そんな表情をしている李儒をちらりと見た後、一刀は袁紹にこう問うた。

 

 「……その漢の、威光はすでに、消えかかっているのに、ですか」

 

 「だからこそ!ですわ!私たちが漢の威光を取り戻す、そのお手伝いをすれば良いのですわ!そうすれば、亡き少帝陛下も、喜んでくださいますわ!そして、本初よ良くやったと、私の”罪”を許してくださいますわ!」

 

 (罪……?……元直よ、もしや、あの時の事かの?)

 

 (……多分、そうだと思います。気にはしていたんですね、あれから)

 

 それは、虎牢関での戦いの時のこと。

 

 袁紹は、呂布に対するそのあまりの恐怖から、徐庶を人質にとって、一刀に呂布を討つよう命じるという暴挙に出た。

 

 その事を、戦後に李儒-当時はまだ劉弁と名乗っていた彼女から責められ、意気消沈としたまま南皮へと戻り、”罰”を言い渡されるその日を、戦々恐々として待ち続けていた。

 

 (……私としては、あれだけ脅しておけば十分だと、そう思っていたのだがな。……もっと、はっきりとしておけばよかったやもな)

 

 そして結局、罰が何も言い渡されないまま、劉弁は歴史の表舞台から、その姿を消してしまった。

 

 それを知ったとき、袁紹の心に残ったのは、大きな喪失感と虚無感であった。

 

 そして、彼女はこう思うようになった。

 

 『漢の為に全力を持って働けば、きっと、亡き少帝の怒りも収まる、と』

 

 

 だからこそ、その後送られてきた”勅命に従い”、当時平原を治めていた劉備を、その首級を挙げるために急襲した。理由などは、関係が無かった。そうして勅命に従って働くことが、漢の威光を取り戻す最善の道だと信じて。

 

 だが結局、劉備を討つ事は叶わなかった。

 

 たまたまその場に居合わせていた、公孫賛の客将という趙子竜という名の武人に阻まれ、劉備を逃がしてしまう羽目になった。

 

 勅命を為すのに失敗した彼女は、何とか汚名を返上したいと思った。その矢先、今度は鄴の地を一刀から接収し、己の領とするようにという勅が届けられた。

 

 彼女は今度こそ、勅命を果たせると思った。都へ一人出頭する一刀に代わり、ただ、自分たちが駐屯するだけでいいのである。

 

 なのに、いざ出てきてみれば、その一刀は勅命を拒否して鄴に居座ると言い、自分たちには帰れといっている。しかもこともあろうに、朝廷に逆らった自分たちに協力しろとまで言っている。

 

 -出来るわけが無い。そして、許せるわけが無い。

 

 そんなことをすれば、いつまで経っても亡き少帝の怒りが解けることなど、ありはしないから。

 

 彼女は、自分の後ろにいた顔良と文醜に、命を下した。

 

 「斗詩さん!猪々子さん!全軍に戦闘の準備をさせなさい!目の前にいる”逆賊”を討ち、今度こそ、勅命を成し遂げますわよ!」

 

 『りょ、了解です!』

 

 「袁紹さん!」

 

 「うるさいですわ!もう話すことなど何もありませんわ!逆賊北郷一刀!その首叩き落して、亡き少帝陛下の墓前に捧げて差し上げますわ!全軍!攻撃用意!」

 

 おおーーーーっ!

 

 一刀の呼びかけにはもはや聞く耳を持たず、袁紹は攻撃準備の命を下し、自身は本陣へと下がっていく。

 

 「くそっ!結局やるしかないのか……!輝里!」

 

 「はい!徐晃隊・軽騎兵団、左翼に鋒矢陣で!「応!」姜維隊・軽歩兵団、右翼に衝範陣!「はいよ!」司馬懿隊・弩弓兵団、中央にて三段陣に!「……はい」」

 

 徐晃、姜維、司馬懿と、それぞれへの指示を、一刀の声に応えた徐庶が矢継ぎ早に出していく。それを受けた三隊が、一刀たちの前面へとすばやく動いて陣形を整えていく。

 

 そして。

 

 

 『……放てーーーーっっっ!!』

 

 

 大量の、矢の雨の応酬から、戦端は開かれた。

 

 

 

 袁家の兵は、見た目が派手で、数がいるだけ。

 

 そんな風に評したのは、袁紹の友人である曹操である。まあ、曹操本人は、袁紹とは別に腐れ縁なだけで、友人なんかではないとのことではあるが。

 

 それはともかく、その評は適切であった。

 

 

 戦が開始されてから、わずか半刻ほどしか経っていないのであるが、すでにその勝敗は目に見えて明らかだった。むろん、北郷軍が圧倒的に優勢である。

 

 その理由は三つほどある。

 

 一つには、先の評のように、袁紹軍は質より量であったこと。兵一人一人の練度があまりにも違いすぎた。何しろ、袁紹軍には”一人も”、死者が出ていないのである。皆が皆、怪我こそ負って戦闘不能となっているものの、ただの一人として命に関わる程の重傷者は出ていない。全員、北郷軍の兵たちに、”手加減”されていたのである。

 

 命のやり取りをする戦場にあって、相手を殺さずに倒す。それも、将がではなく、一兵士たちが、である。……練度の差の程は、ご理解していただけると思う。

 

 もう一つの理由は、その兵を率いる将にあった。

 

 現在、この場で戦の指揮を取っているのは、袁紹の腹心ともいえる顔良と文醜の二人である。その内、顔良に関していえば、文醜よりはまだ、兵をよく操ってはいる。だが、あくまでも、文醜よりは、である。相手をしているのは徐晃であるが、その彼女の相手としては、あまりにも不足すぎた。

 

 徐晃は自身の率いる軽騎兵を、縦横無尽に戦場を駆け巡らせ、徹底的に顔良隊をを揺さぶった。絶対に立ち止まることなく、常に移動し続け、相手の兵たちを翻弄。無理に倒そうとすることもなく、相手の戦意を落とすことだけを考えての用兵をとった。

 

 そんなことを続けているうちに、顔良隊の兵たちはいつどこから襲われるかわからない状況で、完全に恐慌状態に陥った。兵の士気が落ち、戦闘の継続が難しくなったと判断した顔良は、部隊に撤退を命じて、本隊へと合流していった。

 

 一方、文醜のほうはもっとあっさりと片がついていた。

 

 姜維の部隊と当たった彼女は、相手とぶつかったその瞬間に、すぐさま姜維に一騎打ちを仕掛けてきたのである。部隊の指揮もへったくれもなしに、である。

 

 そんな彼女に対し、姜維は適当に十合ほど武器を交わした後、さっさと逃げ出したのである。で、当然そうとなれば、文醜は勢いに乗ったままその彼女を追った。……罠の可能性など、まったく考えずに。

 

 気がつけば、周囲を完全に包囲されて、文醜はその逃げ道をふさがれた。味方は、五十人ほどの一般兵のみ。終わったなと。本人もそう覚悟を決めたのであるが、その五十人ほどの一般兵が、後方の手薄な部分に突撃を敢行し、彼女の逃げ道を作ったのである。

 

 文醜は逃げるのを良しとしなかったが、彼女の乗っていた馬の尻を、兵の一人が思い切り引っぱたいたことで、その馬が猛然と駆け出した。……その、開いている逃げ道へと。そうして、文醜はどうにかこうにか、本隊との合流に成功した。

 

 ……ちなみに、彼女を逃がした兵たちは、全員が”無事”に捕らえられた。後々、その彼らが大事な役目を果たすことになるのだが、それはまたその時にお話したいと思う。

 

 

 そして、最後の三つ目の理由であるが。

 

 まあ、いわずもがな、というやつであろう。総大将である袁紹、その人が理由である。

 

 本人としては、自分と同様に、兵たちも勅命をこなすことに必死になってくれると、そう思っていた。いや、思い込んでいた。

 

 だが実際には、兵たちにはそんな義理などまったくなかった。……先の黄巾の乱以降、いや、それよりも前から、世の中は荒れ始めていた。それは何故か?

 

 朝廷には、漢王朝にはもはや、求心力というものが全く無くなっていたから。

 

 それが、大多数の民たちの共通した意識であった。では、自分たちは今後、何を信じ、何を頼れば良いのか?もっとも身近なのは、その土地を治めている太守や領主である。だが、その太守が、自分たちが信じられなくなっている朝廷を信じ、そのために命を懸けろといっている。

 

 太守のことが信じられるのであれば、彼らはそれに従い、その身を賭したかも知れない。だが、袁紹はそこまでの、命を賭けるほどの人物かといわれると、まあ、ほとんどの者が否、と答えるであろう。

 

 袁紹は、人目を引く派手な政策には積極的に投資をし、その資金を惜しみはしないのであるが、人目につきにくい、地味な政策-農業とか福祉とかには、ほとんどその興味を示さない。それでも何とかやってこれたのは、”以前”、袁紹の配下に居た荀諶という人物のおかげである。

 

 その荀諶が、袁紹をあの手この手で何とか説き伏せ、僅かながらもそういった方面への投資を行っていたのであるが、その荀諶がある日、突然隠居するといって南皮を去ったのである。そうなれば当然、投資は完全に停止するか、僅かに、細々とした捨扶持程度が、支給されてくるのみ。

 

 農業は廃り、福祉は質が落ち、その影響で人も減り、流通も滞り始める。それなのに、袁紹は勅命をこなす為といって、軍備をどんどん増強し、兵を徴していく。

 

 -もう、南皮の人々は、彼女についていく気を、完全に無くしつつあった。

 

 そこに、どう見ても、筋は向こうのほうが完全に通っている相手との戦である。しかも、その相手は”天の御遣い”と噂される人。太守としての評判も高く、人望もあり、配下の将にも恵まれていて、兵の練度は段違い。

 

 そんな状況で士気など揚がるはずも無く、兵たちは次々と逃げ出し始めた。

 

 残ったのは、彼らをむなしく鼓舞する、袁紹の声のみ。

 

 戦闘開始から、一刻。その趨勢は決したのであった。

 

 

 「な~んで、皆さん戦おうとしないんですの!?これは勅命ですわよ!勅命に従わなければ、私たちは」

 

 輿の上で、逃散していく兵たちを見ながら、彼らの行動が全く理解できず、袁紹はそう叫んだ。

 

 「麗羽さま~、もう無理ですよ~。兵隊さんたち、戦う気力なんか、これっぽちも残ってません~」

 

 「み~んな、逃げちまったな~。ま、しゃーないか。姫の下じゃあ、これ以上付き合う義理は無いもんな~」

 

 「ちょっと、猪々子さん?!それ、どういう意味ですの?!」

 

 ぎろ、と。

 

 頭の後ろで腕組みをしながら、そんなことをポツリとつぶやいた文醜を、袁紹がものすごい形相でにらみつける。

 

 「文ちゃんのことはともかく、これからどうするんですか、麗羽さま?もう、ここじゃこれ以上戦えませんよ?」

 

 「うぬぬぬぬ……っ!!し、仕方ありませんわ、この場は退却して、南皮に戻って態勢を立て直しますわ!斗詩さん?平原においてきた沙耶さんと狭霧さんに、私たちが撤退する時間稼ぎをするよう、お伝えなさいな!」

 

 「ええっ!?そ、そんな、無茶ですよ!沙耶さんたちは五百しか兵を連れていないんですよ?!そんなこと、死ねといっているようなものじゃ」

 

 「私のために死ねるんなら、あの二人も本望ですわよ!ええ、そうですとも!そう思ってくれるに決まってますわ!!」

 

 殿(しんがり)というより、ただの壁。

 

 それを、現在平原の街に残って事後処理をしている、張郃と高覧の二人にさせるよう、袁紹は顔良に伝令を出させた。そして、自身は一目散に、本拠である南皮へと撤退していった。

 

 その袁紹軍の様子を見た、一刀たち北郷軍の陣では。

 

 

 「……追撃をしろ、と?」

 

 「はい。……このまま捨て置けば、またいつか、袁紹さんはこちらを攻めて来るでしょう。……その為に、残り少ない若者たちを無理にかき集め、更なる負担を民たちにかけて、です。……それは、一刀さんの望むところではないでしょう?」

 

 「……」

 

 撤退する袁紹軍を追い、南皮まで攻め落とすべきだと、徐庶は一刀にそう具申した。……普段、朗らかで穏やかな彼女ではあるが、こういう時だけはその感情を封印し、冷静に戦況を判断して、冷徹にその場で最適な策を献策してくる。

 

 だからこそ、彼女が名参謀といわれる所以であり、一刀が彼女を一番に信頼している、理由である。

 

 「……わかった。けど、その前に、平原にだけは寄っておきたい。……いいね?輝里」

 

 「はい。……そう言うと思ってましたよ。……あ、でもその前に後一つだけ、オハナシしておきたいことがあるんですが」

 

 に~っこりと、これ以上無いくらいの笑顔を見せ、一刀にそれを向ける徐庶。

 

 「……な、ナンデショウカ?カガリさん?」

 

 「……大した事じゃないですよ。……”これ以上”は、赦しませんから。……ワカリマシタネ?」

 

 「………………ハイ」

 

 

 

 「……の、仲達よ?」

 

 「……なんでしょう」

 

 「元直は、”いつも”あんな感じなのか?」

 

 「……大体は。……ま、頑張って下さい」

 

 「は、はは、は……。と、とんでもない恋敵じゃの……」

 

 

 と、にっこり微笑む徐庶の隣で、蛇ににらまれた蛙の様になっている一刀を、その頬を引きつらせつつ見ている李儒であった。

 

 

                                  ~続く~

 

 


 
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