No.197644

真・恋姫無双 魏end 凪の伝 46

北山秋三さん

天幕に飛び込んだ華琳の目に映る一刀の表情は、驚愕。
やがてその表情は困惑へと変わり・・・。

2011-01-24 20:02:39 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5898   閲覧ユーザー数:4589

「一刀!!」

 

天幕に飛び込んだ華琳の瞳に、驚きの表情を浮かべる一刀の姿が映る。

 

変わらない。

 

ずっと会いたいと思っていた男の姿がそこにある。

 

いくつか年を経てより男らしくなっているが、表情から伺える本質は一刀に間違いない。

 

高鳴った胸が歓喜に踊る。

 

「一刀!!」

 

もう一度、彼の名を呼ぶ。

 

そうすれば彼は答えてくれるはず。

 

消える前と同じように微笑んでくれるはず。

 

しかし────

 

駆け寄ろうとした華琳の足が不意に止まる。

 

もう一度名を呼ばれた一刀の顔に浮かんだ表情・・・それは、困惑。

 

途端、華琳はまるで冷水を浴びせられたような気がした。

 

『記憶が無い』

 

それは事前に聞いていた事。

 

知っていたはずの事・・・。

 

それでも・・・華琳はわずかな可能性に賭けていた。

 

自分が呼べば、一刀は思い出してくれるのではないか。

 

そんな────"ありえない願望"

 

「かず・・・と・・・?」

 

歓喜が、絶望へと変わる。

 

「あ、ああああああああーーーーー!!!!???に、に、に、に、兄ちゃん!!!!!??????」

 

その時、華琳の後ろから大きな声があがった。

 

慌てて振り返った華琳が見たのは、両方の瞳からボロボロと涙を零す季衣の姿。

 

「い・・・きて・・・生きてたんだね!!兄ちゃん!!」

 

「ま────ッ!!」

 

瞬間、華琳に焦りが浮かぶ。

 

季衣には何も説明していないのだ。

 

だが季衣は華琳の手をすり抜け、一刀に抱きついた。

 

「兄ちゃん!!兄ちゃん!!!」

 

泣きながら縋り付く季衣の姿に、わずかに羨望を感じながらも華琳は一刀の表情を見るが、

 

そこにあるのはやはり困惑。

 

華琳がまた一歩近づこうとしたとき、一刀が口を開くのが見えた。

 

何を言うのか。

 

華琳が今一番聞きたくない言葉は、"知らない人を見る目"で言われる言葉。

 

恐怖のようなものが駆け巡る。

 

何より恐ろしいのは、それを季衣が聞いてしまう事。

 

やがて、一刀の口から言葉が発せられたその言葉は────

 

 

「オーウ!ワターシハー、カズトサンデハアリマーン!カズトサンニソックリナ、ガイコクカラキタ

 

『ナギスキー』トイウモノデース!!ヨクマチガエラレルンデスヨ!!hahahahaha!!」

 

「「・・・・・・・・・・・・は?」」

 

ピシリと空気が凍った。

 

冷や汗をダラダラ零しながら両手を肩の所に上げ、やれやれというポーズをしてまるでエセ外人の

 

ようなセリフを発した一刀に、華琳の目が半眼になる。

 

「アナタガー、ソウソウサンデスネー!!ズットゴカイサレテイルノデー、ワターシガー、

 

カズトサンデハナイト、チャントゴアイサツヲシヨウトオモッテマイリマシター!!」

 

冷や汗をかきながら早口で話す一刀に、華琳の心は急速に冷めていった。

 

「ト、イウワケデー、ゴアイサモオワッタノデー、ココハシツレイイタシマース」

 

ペコペコと頭を下げながら天幕を出ようとした一刀の首に、ピタリと『絶』の刃が当てられる。

 

「oh・・・」

 

「か・ず・と・・・?な・に・を・し・て・い・る・の・か・し・ら・・・?」

 

一言一言に殺気の混じったゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音がピッタリ似合う程の怒気は、

 

覇気を大きく上回った。

 

「カ、カズトサンデハアリマセーン!『ナギスキー』デースネー・・・」

 

「へぇ・・・」

 

さっきよりもさらに冷や汗を流しながら弁解する一刀の姿に、華琳の瞳が鋭さを増す。

 

華琳はうろたえる一刀の様子に、自分の事を覚えているのは間違いないと確信した。

 

急速に膨らむ殺気と怒気とは対象的に、冷え込む空気に一刀の顔色が青くなる。

 

「なるほど・・・あなたは一刀では無いというのね・・・」

 

「イ、イエース!『ナギスキー』デスネー」

 

イラッ。

 

ガッと華琳の手が一刀のナニをしっかりと掴む。

 

「ぐおっ!!!???ナゼソコヲツカミマスカー!!!?」

 

「ふぅん・・・違うんだ」

 

「イ、イテテテテテテテ!!!!」

 

ギリギリと力を込められて一刀が悶絶するのを、華琳は表情一つ変えずに見ていた。

 

「ヘルプ!!ヘールプ!!と、取れる!!取れるーーー!!」

 

「か、華琳さま!?兄ちゃんのアレが取れちゃうよ!?」

 

一刀の冷や汗が脂汗に変わるのを見て、季衣が慌てて華琳を止める。

 

仕方なく一刀から手を離した華琳だが、実はしっかりとサイズも確認していた。

 

(絶対に間違いないわね)

 

ナニを掴んでいた手をにぎにぎとしながら一刀を見れば、痛めたナニを季衣が擦ろうとするのを

 

必死に押さえている所だった。

 

そして、焦った一刀は致命的な失敗をする。

 

何とか季衣を宥めた一刀の一言────

 

「おーぅ・・・キイサンハヤサシイデースネー」

 

 

その言葉を一刀が発した瞬間、再び華琳の『絶』が一刀の首にピタリと当てられる。

 

「今・・・季衣・・・と言ったわね」

 

一刀は「しまった!」という顔をしてしまった。

 

ギギギギギ・・・とオイルの切れたロボットのように首を動かし、華琳を見ればそこにあったのは、

 

『壮絶な笑み』

 

「どうして・・・外国から来たと言うあなたが、季衣の真名をしっていたのかしら・・・?」

 

僅かな油断だった。

 

『失われた外史』

 

そこで知った季衣の真名。

 

風の時は知らなかった事もあって大丈夫だったが、華琳が突然アレを掴んだ衝撃でうっかり口から

 

出てしまったのだった。

 

「ネェ・・・ナ・ゼ・カ・シ・ラ・・・?」

 

瞳からハイライトが消え、冷たい声で話す華琳に、一刀は本能的に絶体絶命を悟った。

 

「ワ・・・ワタシ、ワカリマセーン」

 

それでも一刀がシラを切ろうとした瞬間────

 

「こ・ん・の・・・ばかーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

「ぐはぁっっっっっ!!!!!!」

 

華琳の強烈な右のアッパーが一刀の顎を貫き、一刀が空を舞う。

 

くるくると舞った後、ぐしゃりと地面に落ちて気を失った一刀に季衣が駆け寄る。

 

「大丈夫?兄ちゃん・・・」

 

「ぅぅ・・・」

 

「放っておきなさい、季衣。後で拷問にかけるわ」

 

と、華琳がふんっと鼻息を荒くした時、外が騒がしい事に気がつく。

 

「敵襲ーーー!!敵襲だーーー!!!」

 

外から聞こえた声に、華琳は短く舌打ちをして『絶』をしまう。

 

「季衣、一刀を逃がさないように捕まえていなさい!」

 

「え、え!?は、はい!!」

 

季衣が一刀を天幕を作るための縄でぐるぐる巻きにするのを確認すると、華琳は天幕を飛び出る。

 

「誰か!誰かある!!」

 

急ぎ自分の天幕に戻りながら叫ぶ華琳の元に、数人の兵が走り寄って来た。

 

「状況は!?」

 

「はっ!!・・・黄巾党の本隊と思われる者達の奇襲です!」

 

歩きながら聞いた兵のその言葉に一瞬眉を顰める。

 

「本隊は離れていた筈ではなかったの?」

 

「それが・・・偵察の者の話では、近くの平原に突然現れたと・・・」

 

罰せられるのを覚悟で申し訳なさそうに話す兵だが、華琳はそれを即座に信じた。

 

何しろ、つい先ほどその突然現れた妖術遣いを名乗る男を知っているのだ。

 

「では、一番から四番までを動員!情報を集めなさい!」

 

「は、ははっ!!」

 

ずんずんと突き進む華琳の命を聞き、兵達が素早く次の行動に移る。

 

走り去る兵達の中には、僅かに笑顔を浮かべる者さえいた。

 

何しろ、今まで沈んでいた華琳の覇気が急速に戻っていたのだ。

 

そればかりか先ほどの命を下す華琳の姿は、まさに水を得た魚のように潤っている。

 

そう・・・"失われていた者"が戻ってきたかのように。

 

『天の御遣いが再び地に降り立った』という噂は兵にまで聞こえている。

 

そして華琳の表情。

 

"間違いない"と確信するに充分な程だった。

 

 

「うふふふふ・・・」

 

天幕から離れた所にある森の中で、"いつもの姿"の愛紗が一人嗤っていた。

 

いや、一人ではない。

 

その腕には、誰かかがぶら下がるような形で吊り下げられている。

 

捕らえられているのは、気を失った風。

 

そこにもう一人がふわりと突然現れた。

 

「朱里か、どうだった?」

 

「はい、見つかりました。これが管輅さんの成れの果てです」

 

そう言って同じく"いつもの姿"で現れた朱里の手にしていたのは、青い石。

 

「見つけるのに少々手間取りましたが、見つけてしまえば早かったです」

 

「ふん。管理者と言えど、突然の事態には弱かったか」

 

「仕方ありませんよ・・・"二代目"となってから、まだ六年ですから」

 

クスクスと嗤う。

 

「でも、これである程度条件は揃いました。本来は後二人は必要ですが、管輅さんが

 

こちらの手にある以上、些細な問題となりました」

 

クスクスと嗤う愛紗の横で、朱里もさも可笑しそうに嗤う。

 

「さぁ、終焉の始まりだ」

 

愛紗のその言葉を最後に、二人の姿も掻き消える。

 

その場に、半分に砕かれた宝譿を残して・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その半分に砕かれた宝譿の中から小さい宝譿が飛んでいったのを、誰も知らない。

 

その宝譿の名は、『宝譿ver.2』

 

後に、真桜から『嘆賞宝譿』と名づけられる名機だった。

 

 

 

 

 

 

そして────

 

「あっ!しゅ、春蘭さま!?目覚めていたんですか!?」

 

「か・・・華琳さま・・・ガクッ」

 

「しゅ、春蘭さまーーーー!!!」

 

 

お送りしました第46話。

 

さて。もうじきバレンタインですねぇ。

 

ということで、何かを考えています。

 

絵にするか、外伝にするか・・・。

 

むぅ。

 

準備するにしろ、早めにしなくては・・・。

 

詳細はまた後日。

 

ではまた。

 


 
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