No.194626

真・恋姫無双 魏end 凪の伝 42

北山秋三さん

「春蘭の夢・前編」です。

2011-01-08 02:35:14 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3838   閲覧ユーザー数:3147

────わたしは、夢を見ている。

 

その夢はもう何度も何度も見ている・・・悪夢。

 

華琳さまと秋蘭と一緒に・・・荒野でぼーっとしている北郷を見つけた。

 

生意気な口を利く弱いヤツだと思った。

 

何を言っているのかちんぷんかんぷんだったが、『天の国』から来たという事だけは分かった。

 

わたしが鍛えてやろうとするとすぐに逃げ出すくせに、他の女だとデレデレする。

 

特に華琳さまに対する態度が気に食わない。

 

まるでわたしと態度が違うではないか。

 

うらやま────じゃない。華琳さまをもっと敬え!

 

だから根性を鍛えなおしてやろうとすると、また逃げ出す。

 

よく華琳さまや秋蘭と難しい話をしていた。

 

・・・わたしはそれを理解できない。

 

話から取り残されている気がして寂しかったが、そういう時は北郷がわたしに話しかけた。

 

それが北郷の気遣いだと知ったのは・・・随分、後。

 

 

 

戦いの時は役に立たなかった。

 

弱すぎて話しにならず、前面に出せなかった。

 

後ろで華琳さまにイチャつくのも気に入らないから鍛えようとしたらまた逃げた。

 

北郷も何やら策を出していたらしいが、それがどれ程か分からなかったが、秋蘭が

 

すごいと言っていたので多分そうなんだろう。

 

わたしにはよく分からなかったが、

 

『春蘭が戦ってくれるから安心できるよ。もしなにかあったら守ってもらえるしなー』

 

という北郷の言葉だけは分かった。

 

────だから、自分を鍛えた。

 

北郷をもっと安心させるように。

 

守れるように。

 

本当に守られていたのは、わたしの方だったと知ったのは・・・随分、後。

 

 

 

段々仲間が増えてきた。

 

それに伴いわたしと北郷の距離が離れている気がする。

 

季衣や流琉は随分北郷に懐いているな。

 

あ。季衣が北郷に抱きついている。

 

イラッ。

 

北郷め・・・あんなデレデレした顔をしおって。ふんっ。

 

・・・・・・あ、いや、別に羨ましいわけではないぞ。

 

シャキッとしない北郷が悪いのだ。

 

その顔がイライラするので鍛えなおしてやろう。

 

────また逃げられた。

 

何という逃げ足の速さだ。

 

また別の日にはまたあっちの女へふらふら。こっちの女へふらふらとしておる。

 

わたしの所へはあまり来ない。

 

最初に北郷を見つけたのはわたしだというのに。

 

距離がまた離れている気がする・・・・・・・・そうだ!

 

華琳さま人形の服を買うついでに、北郷を連れて街へ行こう!

 

秋蘭も誘えばもっと楽しいぞ!

 

これで少しは距離が近くなる。

 

思いついたら吉日と言うではないか。

 

夜明けはまだだが、さっそく今からだ!

 

ふふふっ・・・ん・・・?最近、華琳さまの事と同じくらい北郷の事を考えているような・・・。

 

・・・まさか、な。

 

この時にはすでに私の心に北郷が深く入り込んでいたと知ったのは・・・随分、後。

 

 

 

最近、他の者達が北郷の側にいる事が多い気がする。

 

わたしはないがしろにされていないか?

 

たまに鍛錬に付き合ってくれるが、すぐにいなくなる。

 

わたしには、剣ばかりしかないから駄目なのだろうか・・・?

 

面と向かって話をするのは気が引ける。

 

それに、わたしが口を開けばケンカ腰にしかならない。

 

何とかできないか。

 

北郷の気を引く何か・・・そうだ!料理を作って見よう!流琉のやる通りに作れば失敗は無い筈だ!

 

料理ならば味で勝負だ!

 

ふっふっふ・・・見てろよ北郷!

 

絶対にうまい!と言わせて見せるぞ!

 

ふはははははははははははは!

 

結果は────大失敗・・・。

 

秋蘭と流琉のおかげで失敗した料理を北郷が食べることは無かったが、北郷の気を引くという

 

目的は駄目だった・・・酒でも呑んで忘れよう・・・。

 

秋蘭と酒を呑み、その勢いで北郷の部屋に雪崩れ込んだ。

 

そ、そこでままままま、まさか北郷とくちくちくちくち、口付けするとは・・・!

 

は、恥ずかしいではないか!

 

北郷の顔がまともに見れない。

 

だが・・・嬉しかった。

 

しばらくして────わたしは華琳さまに怒られた。

 

大失敗をしたからだったが・・・その結果、わたしは北郷に抱かれた。

 

華琳さまの前で秋蘭と一緒に、ではあったがわたしはそれでも────嬉しかった。

 

それが・・・北郷がわたしを抱いた最初で最後となると知ったのは・・・随分、後。

 

 

 

 

 

秋蘭と北郷に戦いが終わったら、華琳さまの道化になると話したら呆れられた。

 

────むぅ・・・まさか、道化になると華琳さまだけでは無く、他の者にも笑われてしまうとは。

 

盲点だった。

 

わたしには道化になるのはどうやら難しいようだ。

 

ではどうしたらいいだろうか?

 

その日、悩みながら歩いていたわたしの耳に女官達の話が聞こえてきた。

 

どうやら女官の一人が出産の為に仕事を辞めるという事らしい。

 

『育児はある意味本当の戦い以上の激戦だからね~』

 

女官の一人の気軽に言い放ったその一言は、わたしにとって衝撃だった。

 

そうか。戦いが終わってもそれで全てが終わりではないのか。

 

新しい戦いがあったのだ。

 

長い戦いで失われたものはとても多い。

 

戦いが終われば、平和な世になるのだからそれらを取り戻すためにも一人でも多く産み、増やさねば。

 

子供を育てるという事は、当然子供を産まなければならない。

 

ということは"そういう事"をしなければならないという事。

 

ならば相手は一人しかあるまい。

 

ふふふふふ。

 

いい名目がついた。

 

普段であれば恥ずかしいが、戦いが終わった後であれば時間はいくらでもある。

 

北郷も戦いが終わっても華琳さまの側にいると言ってくれた。

 

ならば当然わたしの側にもいてくれるという事。

 

折を見て、いつものように酒を呑んで酔ったフリをして甘えよう。

 

そうすれば・・・アイツの事だ。絶対に手を出す。

 

そうだ!華琳さまと秋蘭の三人同時に懐妊するというのもアリだ!

 

華琳さまのお子様であればさぞ可愛いであろうな~。

 

わたしと秋蘭はどうであろう?わたしたちのように姉妹が産まれたりしてなぁ。

 

子供がいれば北郷も帰ろうなどとは二度と思わなくなるだろう。

 

なにせ時間はいくらでもあるのだ。

 

何度でも機会はくる。

 

なんといい考えだ!

 

夢が広がるな~・・・ふふふふ。

 

北郷との・・・子供か・・・。

 

わたしは新しい希望に心が浮かれるのを自制できなかった。

 

それが叶わない希望だとも気付かず、北郷が苦しんでいたという事も理解できずに。

 

時間なぞ等に無くなっていたと知ったのは・・・その、すぐ後。

 

 

 

 

 

最終決戦を前に季衣と鍛錬をしていると、北郷が華琳さまを探しているようだった。

 

何時も通りの筈の北郷の表情に、心の何かが引っ掛かる。

 

北郷と別れた後もその事が気になり、季衣との鍛錬を切り上げて北郷を探した。

 

────しばらくして、城壁の上で華琳さまと話しをしている北郷を見つけた。

 

何を話しているのだろう?

 

わたしが階段を上がりきる寸前、北郷の声が聞こえた。

 

『・・・俺の役割も、そろそろ終わりなんだと思う』

 

咄嗟に階段の影に身を寄せる。

 

ん・・・?何故わたしは隠れたのだ?

 

二人に近づこうとしていた筈が、話がかろうじて聞こえる所までしか近づけない。

 

『────いきなり消えるのか、────役立たずの道化として、この世界に取り残されるのか』

 

何だ?北郷は何を言っている?

 

心臓の鼓動が煩く、会話がよく聞こえない。

 

消える?

 

誰が?

 

この世界に取り残される?

 

どういう意味だ?

 

『胡蝶の夢・・・』

 

こちょうのゆめ?なんだそれは?

 

『例えあなたが私たちの前から消えたとしても────』

 

ガツンと頭を殴られたような衝撃がわたしを襲う。

 

華琳さま・・・?何をおっしゃっているのですか・・・?

 

話が理解できない。

 

わたしはとうとう本当に馬鹿になってしまったようだ。

 

北郷が何を言っているのか、華琳さまが何をおっしゃっているのか、まるで理解できない。

 

言葉がただの記号のようにしか聞こえない。

 

わかっている筈なのに・・・理解できない。

 

足に・・・力が入らない。

 

立っていることすらできずに、壁を擦るようにへたり込む。

 

『────華琳と会えなくなるのは────』

 

ナンダコレハ?

 

わたしは何を聞いている?

 

ようやく体を動かすと、壁の影から二人の姿が見えた。

 

北郷は後姿だけだから表情は分からないが、華琳さまの表情は見える。

 

『消えるのなら、────残った私たちに任せておきなさい』

 

華琳さま・・・?

 

何故そのような寂しそうな笑顔を・・・?

 

他の者がみれば、それは何時もの笑顔に見えただろう。

 

だが長い間華琳さまを見てきたわたしは分かる・・・・華琳さまは・・・泣いている。

 

一切表情に出さないが、泣いている。

 

華琳さまのご両親が亡くなられた時と同じだ。

 

『────この世界から消え去る、その一瞬までね』

 

華琳さまのその言葉を最後に、わたしは・・・逃げ出した。

 

力の入らない体を引き摺るようにして、その場から逃げ出した。

 

逃げ出すしか・・・できなかった。

 

嘘だ。

 

北郷は帰る方法が無いから帰らないといっていた筈だ。

 

嘘だ。

 

北郷が・・・華琳さまを置いていなくなるなどありえない。

 

嘘だ。

 

わたしたちの側にいてくれるのではなかったのか。

 

そうだ、嘘に違いない。

 

華琳さまと北郷でわたしを驚かそうとしているのだ。

 

そうに違いない・・・華琳さまもお人が悪い。わたしを驚かせて楽しもうというおつもりだ。

 

────あんな、泣いている華琳さまが?・・・そうでなければこれはわたしの見ている悪夢だ。

 

わたしは急いで寝台に潜り込む。

 

早く目を覚まさなければ。

 

季衣が呼びに来たが眠ったフリをした。

 

怖い。

 

頭がぐちゃぐちゃする。

 

戦いでもこんな恐怖は味わった事が無い。

 

何故わたしはこんなに怖いのだ。

 

理解できない。

 

もっと頭がよければ理解できたのだろうか?

 

『北郷が消える』

 

そんな事が・・・理解できる筈がなかった。

 

目を覚ませ。

 

目を覚ませ。

 

目を覚ませ。

 

・・・・・・・・・。

 

いつの間にか、私は本当に寝てしまっていた。

 

目覚めたのは夜中。

 

自然と目覚めたのではない。

 

悪夢で飛び起きたのだった。

 

恐怖がまた襲ってきた。

 

怖くて、怖くて、秋蘭の部屋に忍び込んだ。

 

気配を感じて起きた秋蘭が、「姉者か、驚かすな。北郷かと思ったぞ」と軽口を叩いたが、私は

 

構わずに秋蘭にしがみついた。そうでもしなければ、私は大声で泣き喚いていただろう。

 

いきなり体にしがみついたわたしに秋蘭は始め驚いていたようだったが、わたしの様子から

 

察してくれたようだった。

 

だが、何を話せばいいのか分からない。

 

だから・・・『夢の話』をした。

 

北郷が消えるという・・・『夢の話』

 

 

お送りしました第42話。

 

ちょこっと予告。

 

北郷が・・・消えた。

 

でも、"約束"をした。

 

だから・・・泣き腫らした瞳の華琳さまに北郷が消えたと聞かされても・・・。

 

秋蘭がわたしにしがみついて泣いていても・・・わたしは、泣けなかった。

 

泣くわけにはいかなかった。

 

その"約束"があるかぎり・・・北郷は帰ってくる。

 

絶対に・・・。

 

そして・・・帰ってきた・・・あの、姿で────

 

「春蘭の夢・後編」

 

では。また。

 


 
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