No.194260

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第十三話

よしお。さん

第十三話をお送りします。

―呂蒙と共にとある茶店に入る一刀。
そこにはあの二人と、まさかのあのょぅじょもいて?―

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2011-01-05 23:53:59 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5348   閲覧ユーザー数:4329

 

 

 

「ほ、本当に外出していいんでしょうか?何か突発的な仕事があるかも……」

 

「大丈夫だって。やる事やったんだから。一度割り切って休憩しないと気が持たないよ」

 

人通りの多い城下の大通りでビクビクと周囲を警戒し続ける様子に苦笑しながらも歩を進める。

恐らくは孫権に見つかって注意されないかと心配しているようだけど、今日の分の仕事はキチンと終わらせてあるので問題ないはずだ。

もし問題があるとすれば彼女ではなく俺の方がまだ全然終わってないぐらいか。

 

……それはとりあえず置いておくとして、後ろを付いて来るのは同じ呉の仲間である呂蒙だ。

平原の町に到着後、軍の編成、町の状況把握等の文官仕事を全てを俺と呂蒙の二人でこなし、

忙しさに追われ続けたが、その苦労もあって今はいくらか落ち着いた日々を送っている。

 

そこで、俺は久しぶりの息抜きを充実させる為にある目的地を目指している。

そこは町で評判の甘味屋。味は勿論の事、種類も饅頭、菓子含めて数十種類という充実ぶりで楽しくおしゃべりするにはうってつけのお店だ。

前もって呂蒙が好きそうなゴマ団子を用意して貰っているので喜んでもらえるだろう。

そこで大事な話を二つするつもりだ。これからの仕事に関してと人間関係の改善。

 

この地に赴任していくらか時が経ったが、相変わらず孫権は信用してくれないのか一定の距離を保ったまま。

今一緒に歩いている呂蒙もいざ二人きりになるとそそくさと逃げてしまう

思春に至っては前回の記憶があるのに関わらず態度が素っ気無い。

 

 

それでも一応は気遣ってくれるのか、孫権と政策の意見で言い争いになった時には進んで仲裁に入ってくれた。

さすがは将来の嫁の一人。内心とても頼りにしてます。

 

“記憶”では出会わなかった新しい仲間、于吉は中立の姿勢を保ち、誰に味方するでもなく進んで物事には関わろうとしない。

確かに仕事上問題は出ていないがこのままではいずれ問題が起きて軋轢を生みかねないだろう。

 

雪蓮の言葉もあるが北郷一刀にとって仲間とは互いに信頼し合う関係でなければならず、

今のどこか余所余所しい雰囲気は一刻も早く何とかしたい懸案事項の一つで手始めにこうして呂蒙をデートに誘い、

関係改善の足掛かりになればと計画したわけだが……。

 

「……」

 

「ん?」

 

「はぅ!?」

 

思考の途中、なにやら視線を感じて振り返ればそこには慌てて顔を隠す呂蒙の姿。見れば長過ぎる袖の隙間からなぜか赤く染まった頬と困ったような表情が覗く。

不信に思い近づくと更に顔を伏せてイヤイヤされた。

 

「どうしたの?どっか体調でも悪くなった?」

 

本当に無理に連れ出して彼女に負担がかかってしまったら元も子もない。

もしや熱があるのではと額に手を伸ばすと弾かれたようなバックステップで距離を取られてしまう。

 

「い、いえ! どうかお気になさらず!?」

 

半ば裏返ったような声とぶんぶんと手を突き出した全力否定をアピールされてはそれ以上聞けず、

とりあえず健康そうなのを確認するとさっきより明らかに開いている距離を保ちながらも付いて来てくれる。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……はぅ……」

 

「……あのさ」

 

「はぅ!?」

 

いくらかも進まない内に同じ視線を感じて、振り向くとまた同じ反応が返ってくる。

 

「本当に用事とかあるなら言ってよ?無理なんてしなくていいから」

 

「そんな無理なんて!私なんか気にせず進んでください!」

 

「いや、そうしたら一緒に行く意味がないでしょ……」

 

「うぅ!?」

 

理由も分からずこの後も同じやり取りが繰り返され、気が付けば予定より大分時間を費やし茶店に到着した。

甘い香りが立ちこめ、全ての席はお客で埋まる盛況振り、その中で一つだけ机がポツンと空いている。

 

(揚げたてをご馳走してあげたかったんだけどな)

 

場所は確保出来ているが、恐らく注文しておいたゴマ団子は冷めてしまっている時間だろう。気を利かせたのが裏目に出てしまったかもしれない。

やはり女の子と付き合うときはもっと真摯な心構えで望むべきという神のお達しか。

 

「すいませーん、予約した北郷ですけどー」

 

気を取り直し、店員を呼ぶと奥の方から給仕服の女性がこちらの気付き声を上げる

 

「あぁー!やっと現れたのー!てっきりもう来ないかと思ったの!」

 

「ごめんね。ちょっと事情があって時間がかかっちゃったんだ」

 

「ぶぅー。遅れるのはいいけど、そのせいで注文の品は冷めちゃってるの。そこは自業自得と思って諦めるの」

 

「それはもちろん了解してるよ。ただ追加でまた作ってもらえるかな?用意してもらった分はきちんと食べるから」

 

「それなら良いの!少々お待ちくださいなの」

 

飲食店には似つかわしくないアクセサリーで身を包んでいる店員の少女はお茶を差し出し、くるりと回ると再び奥の方へ入っていく。

とりあえず注文は終わったので席に着き、一口啜る。すると呂蒙がテーブルに置かれた団子を見て遠慮がちに尋ねる。

 

「あの、一刀様。もしかして……」

 

「ん? あぁ別に呂蒙が気にする事じゃないよ。甘いもの多く食べたかったからちょうどいいぐらいさ。それよりほら、なんでも好きなものを選んでよ」

 

遅れたのは確かに彼女が原因だが、それで責任を感じて落ち込まれては意味が無い。やや強引に話を進める。

 

「ここは種類が豊富で有名だからね、ネタ狙いでおもしろい菓子もあるみたいだし思い切って頼んでみる?この火中点心甘栗とか」

 

「あ、あの……」

 

「あーでもヘタなもの頼んで残したら申し訳ないよなー。やっぱ普通っぽいのでまずは攻めてみようか?」

 

案の定、責任を感じて小さくなり始める彼女に話し続け場を保つ。とりあえずはなんでもいいから別の話題にどんどん切り替えていって気分を変えてもらおう。

洛陽での話や呉で療養していた時の話など、話題に関しては事欠かなかったが、生真面目な彼女の頭の中では世間話と重い話は別テーブルで処理されているのかどうにも反応が芳しくない。

そこで一旦、話題を打ち切って本当は後で話そうと思ったもう一つの真面目な話を振ってみた。

 

「ところでさ、話は変わるんだけど俺達はこの平原の地を治めようとしてるよね、今は順調だけど後から問題になりそうな事があります。それはなんでしょう?」

 

「?問題、ですか?」

 

「そう、表面化してないからまだ軍議には上げてないけど、いずれ対応しないといけない問題。

ヒント……じゃなかった。周りを観察すると分かりやすいと思うよ?但し、顔を動かさず目だけで見てね」

 

切り替え作戦の第一弾は成功。周りを伺う呂蒙の顔には先程までの暗い表情は無い。目だけがキョロキョロと動き、真剣に考え込んでいるようだ。

やがてその動きが止まるともう結論が出たのか、おずおずと口を開く。

 

「もしかして……民のみなさんの事ですか?」

 

「正解。じゃあ具体的にどんな問題かは分かる?」

 

「えっと……はい……身なりが酷い人はいないですし、暗い話題も聞こえてきませんから貧困や生活の不自由が起こっているわけではないですよね。

……だとすると残るのは……心の問題ですか?」

 

「さすがは孫権お墨付きの軍師、大正解。民衆がまだ俺達を受け入れていないところが今回の問題なのさ」

 

「そ、そんな!たまたまです!」

 

 

 

見事正解した彼女に笑いかけると、褒められるのが恥ずかしいのか真っ赤になって謙遜するが、この数瞬で気付くとは。

注意深く見渡せば周りの客はちらちらとこちらを覗く仕草が見て取れる。敵意や害意ではなくもっと軽い感じの、悪く言えば値踏みするような視線が集まってきているのだ。

無論、ここだけの話じゃない。この雰囲気はこの平原に来たときからずっと感じていた。息抜きと称してよく遊びに来る俺と違って引き篭りがちな呂蒙や城からあまり出ない孫権はこれに気が付い

 

ていなかったようだが。

 

「でもなんで……。私達はそんなに無理を強いてるわけじゃないですよね。治安も問題無い筈ですし……徴兵も最低限に抑えていますよ?」

 

「そう、だから心の問題なんだ。世策に関しては俺達は十分やってるはずさ。でも実際、人心の方は付いてきてないんだ。なぜなら」

 

もったいぶった言い方に半ば身を乗り出すような前傾姿勢で近づく呂蒙。先程の恥じらいも忘れモノクルから真っ直ぐな視線が投げかけられる。

とりあえず話の切り替えには成功したな。真剣な瞳に影は無い。話題は何であれ、まずは彼女との間にある遠慮を取り除かなくては話にならない。

椅子に座りなおし背筋を伸ばすと疑問に答えるべく続きを切り出す。

 

「……劉備が居たから。徳高い王として有名な彼女が治めていたからこそ起きる問題だったんだ。孫権も劉備に劣らず善政をしいてるけど、二人には大きな違いがある。

それは統治者としての在り方。劉備は民と同じ目線に立って国を動かしていたからまず最初に人心を得ていた。そこから政が評価されて人が集まってきた経緯がある。

だけど孫権は王として民の前に立つ存在。政策や争い事を収めていくことで崇められ人心を得るやり方だから、劉備の人柄を慕って集まった人達にとっては多少の善政では魅力としてあまり感じら

 

れないんだろうね」

 

加えて治安もいいこの地では争いそのものも少なく、武勇による名声も立てれない状況が続いている。

 

「本来なら時間が立てば解決する問題だけど、今の大陸の情勢から考えればいつ戦禍に巻き込まれてもおかしくはないだろ?その為にも、一刻も早い人気取りが必要なのさ」

 

実際戦うのは呉の兵士だけじゃない。この町の人達の協力は必要不可欠だ。

 

「それで、まあ今日はそこらへんを話し合おうかなと思うんだ」

 

再びお茶を口に運び、喉を潤す。

 

「……さすがです」

 

「呂蒙?」

 

「さすが孫策様がお認めになった御方。そこまで考えていたなんて……普段の気の抜けた姿がまるで嘘のようです!」

 

「……まあ、うん。とりあえずどんな方向性でいくか考えようか……」

 

「?」

 

彼女に悪気は無い。気が付けば少なくなったお茶を一気に飲み干すと、妙に渋く感じるのはなぜだろう?

 

 

 

 

 

 

一息つき、しばらく意見を交わすがなかなかうまくは纏まらない。ただ、一番効果的なのは孫権が前に出てのパフォーマンス活動だろう。

劉備より優れていると民衆の前でアピールできればいいんだが、彼女の性格からして劉備と同じ手段じゃ時間がかかるし、うまくいくかどうか微妙だしなぁ。

どうしたものかと二人して頭を捻っていると明るい声とともに香ばしいゴマの香りが一緒になって運ばれてくる。

 

「はーい、おまっとうさん。注文の品やでー」

 

テーブルに置かれた揚げたてのゴマ団子。見るからにおいしそうだ。このまま悩み続けても妙案が出るとも限らないし、ここは甘いものを取りながらの小休止といこう。

 

「呂蒙。考えすぎは良くないよ、すこし頭を冷やして、また考えようか」

 

いまだ思案顔の彼女に声をかけるが、聞こえていないのかブツブツと呟きが止まっていない。

真面目すぎる性格に苦笑いし、彼女の再起動を待つ。その間に冷めたほうの団子を口の中で咀嚼し、再び辺りを見渡す。

相変わらず様子見の視線は止まっていないが、気付かれないよう眺め続けていると、なにやら視線が別の方向にも傾いてる。

その先を目で追うと、奥の方にうず高く積まれた皿と蒸篭の山がテーブル一杯に広がっているではないか。

しかも微妙に揺れ続け、カチャカチャと音がする。

 

……まさかアレだけの量を食っているのか?

俄然興味が湧いてしまい、体を捩って凝視する。皿の隙間から時折見える髪の色は珍しい金色。

忙しなく動く頭頂部はやけに低く、とてもあの量を完食できる体型には思えないな。

更に観察しようと身を乗り出すと、先程の店員はなにか用事があるのか近づき話しかけてきた。

 

「あんさんら、もしかして呉の将軍さんやったりする?」

 

「……一応そうだけど」

 

「おぉ!ちょうどええところに来てくれましたなぁ。ちょーっと頼みたい厄介事があるんやけど……」

 

なしを作る店員の視線が俺と同じ場所に注がれる。

 

「あの客の事なんやけど。よーく皿見てもらえます?」

 

「皿?」

 

言われるまま、相手が見えないほど高くなった皿の塔を観察してみた。

 

「注文の品全部、残してあるやろ?」

 

「うおっ。ホントだ」

 

確かに積まれた皿と皿の間に潰れた菓子類が挟まっており、どれも一口、二口程度しか食べた形跡が無い。

 

「随分と豪気な喰い方やけど、ちゃんと金払ってくれるか心配になってきてん。相手が相手やし迂闊に強く出れんくてなぁ」

 

溜息交じりに肩を落とす。

 

「困っとったトコにちょうどあんさんらが来てくれて助かったわ。もちろん、これくらいの民の悩みぐらい解決してくれるやろ?」

 

いや、任せた!みたいな感じでウインクされても。

第一、相手は一体誰だ?武人とか出られても俺は勝てないぞ?

渋る顔で彼女に向く。その表情にこちらを伺うような素振りは見えない。前に来たときには見かけなかったからどこかから流れてきたのかな?素直に頼られている感じがする。

 

少し考えてみるが、これはチャンスじゃないだろうか。

わざわざ孫権を呼ぶほどじゃないが、厄介事の対処はイメージアップに直結する。

 

「よし、任された!」

 

答えとともに席を立ち、目的のテーブルへ向かう。呂蒙はまだ俯いたまま考え込んでいるのでとりあえず、そのままにしておいた。

まずは相手を見極める。自分で対処出来る相手ならよし、もし手に負えなかったその時は臨機応変に対応しよう。

いざテーブル近くまで来ると皿の揺れる音以外に小さい声が漏れてくる。

耳を澄ませて聞くと、子供のようなトーンだ。

加えて特徴的な口癖がちらほらと出てくる。

 

「……」

 

猛烈に嫌な予感がこみ上げてきた。

 

 

 

 

 

 

おそるおそる正体を確認しようと身を乗り出すと、そこにはボロボロと溢しながら食べ続けるお子様の姿。

こちらにはまだ気が付いていないのか一心不乱に菓子を掻きこんでいる様はまるでリスのようで微笑ましくもある。

微笑ましくはあるが。

息を吸い込み口を開く。

 

「袁術ッ!!」

 

「ひゃわっ!?」

 

突然の大声に、袁術と呼ばれた少女はもんどり返って椅子ごとひっくり返ってしまう。

崩れる音と今の声で店中の注目が集まるのが分かる。

 

「な、なんじゃいきなり!無礼であろう!!」

 

彼女の立て直しは意外とは早く、すぐに立ち上がり抗議の声をあげる

 

「妾を誰じゃと思うておる!袁一族の一人で荊州太守である袁術であるぞ!図が高い!」

 

その内容に客がざわめく。名門の一族がこんなところにいたら誰だってそうなるだろう。

その中でいまだ不遜の態度で立つ俺に彼女は苛立ちを剥き出しにする。

 

「まだ分からんか!妾に対する無礼、さっさと詫びぬか!」

 

喧々囂々どんなに捲くし立てられても事実を知っている俺にはその脅しは効かない。

だから、ただ一言だけ口を開く。

 

「……孫策に言いつけるぞ?」

「……」

 

ピタリと、本当に一瞬で、彼女全ての動きが止まった。

目だけがすごい勢いで浮いている。

実際に会ったことはなかったが、袁術は雪蓮に大分脅され、何処かへ逃亡したと聞いていたがまさかここにいたとは。

 

不思議な巡り合わせに少し驚くが、目の前の状況を見逃すわけにはいかない。

負けて放逐された袁術に、これだけの量の菓子代を払えるとは到底思えないからだ。

 

「……どこへ行こうと言うのかね?」

「うぅっ!?」

 

こっそり逃げようとしていたところを捕まえる。

 

「三分間待ってやる。その間にとりあえずいままで食べた分の金を払ってくれるか」

「……」

 

……やっぱりか。大方、袁家の名前を出して踏み倒そうとしていたんだろう。露骨に目を逸らされる。

 

「もう一度孫策に灸を据えてもらうか?」

「ぴぃっ!?」

 

今度はガチガチと怯えるように震え始める。……一体なにをしたんだ雪蓮。前回色々厄介だったとかで念入りにお仕置きしたとは話していたけど。

ここまでくると可哀相でもあるな……。

不憫に思い慰めの言葉をかけようとしたその時、彼女の瞳に涙が溜まり始めた。

 

「ちょっ、まさか!?」

 

「……び、びえええええええええん!!!!!」

 

耳を劈く大音量。お子様の必殺技、ガン泣きが発動してしまったっ!

 

「お、落ち着け、袁術!」

「びええええええええん!!!!」

 

まったく泣き止む気配は無く、なおもシャウトは続く。

宥めようとあれこれ手を尽くすがうまくいかない。

時間が立つごとに周りの視線が痛くなってきた。

なんか俺が悪いみたいになってない!?

 

なおも時間は過ぎるが事態は好転しない。

まさかの展開に動揺し、何をすべきか混乱してきた。

と、とりあえずは泣き止ませないと……。

彼女に触れようとした瞬間。後ろ、店の入り口から叫び声が上がる。

 

「お嬢様!!」

 

そこに立つのは帽子を被った黒髪の女性。その姿を見るや否や袁術が脱兎の如く駆け出した。

 

「あ!ちょっと待て!?」

 

完全に意表を突かれ、するりと横を抜かれてしまう。

 

「ななのぉ!!怖かったのじゃあぁ!」

「お可哀想に。私が来たからにはもう平気ですよぉ」

 

飛びついた袁術を抱き締め、撫で始める。その優しい抱擁とは裏腹にこちらを直視する目は険しい。

 

「よくもお嬢様を泣かせましたね。あまつさえトラウマである孫策の名を出すとは、何たる外道!その罪償ってもらいます!」

 

ビシリとカッコつけられるが、なぜ俺が悪役側に?

それに……。

 

「孫策の名って……まさか結構前から見てて、放置してないか?」

「……」

「……七乃」

 

沈黙は解なり。主従ともにどこかずれてるな。

 

「まさか、また困った妾を見て楽しんでいたのか?どうなのじゃ七乃?」

 

しかも常習犯だった。

 

「……そんなわけあるはずありませんよ。私は、忠実な、美羽様の、部下です」

 

目が泳ぎまくっている。誤魔化し方まで一緒だった。

そこで先から黙っていた依頼主、店員さんが口を出す。

 

「漫才はええからさっさと金、払ってもらえます?」

 

もっともな言い分だった。救いを求める袁術に、七乃と呼ばれた女性は余裕の笑みを零す。

おもむろに懐に手を入れ、何か球状の物体を取り出した。

 

「無理。だってお金ありませんから。お代はこれで勘弁してください、ねっ!」

 

それをいきなり地面に叩きつけると一気に白い煙が噴出し、一面を覆い尽くしていく。

 

「うおっ!?いったいなんや!」

「きゃーなの!?」

 

突然の事態に動揺する店内は無理に逃げ出そうとする者や、パニックになった連中で阿鼻叫喚の騒ぎに陥る。

くそ、煙幕なんて持ってたのか!?

舌打ちし、テーブルを掻き分け、敢えて視界の悪い中を突き進んでいく。その際、ガツガツと色々な物体に当たっているが今は気にしていられない。

痛んできた体を無理に進めていくと煙の向こうで二人が逃げようとしている姿が視界に飛び込んでくる。

 

「わわっ!もう追ってきおったのじゃ!」

「美羽様!ここは一旦、二手に分かれて逃げましょう。合流場所は前と同じところですよ!」

 

煙を抜け、逃がすものかと、手を伸ばすが今一歩のところで逃げられてしまう。

しかも言っていた通り、それぞれが別の路地に入り込み、姿はすでに見えなくなってしまった。

 

「ぐっ!どっちを追うべきだ!?」

 

捕まえるのが簡単そうな袁術を追うか、それともまたこんな事態にならないよう黒髪の……多分、張勲であろう人物を先に確保すべきか。

あまり長い時間は考えていられない。どちらを追うにしても距離を離された分、発見の難易度はどんどん上がっていってしまう。最悪揃って逃がしてしまうのだけは避けたい。

見つけやすいのは―――袁術だ!

瞬間、ある閃きが浮かび目標を袁術だけに絞る。この予想が正しければ、すぐ確保できるはずだ。駆け出そうと地面を踏み込んだところで後ろから、叫び声がした。

 

「あんのクソガキィ……。もう許さへん!直々にとっちめたるわ!」

 

見れば茶店の店員さんが、いまだ煙立つ店内から巨大な武器を持って出てくるではないか。

それを一言で表すなら、ドリル。天元突破なドリルそのものを槍につけたシロモノだ。

 

「せっかくの路銀稼ぎの仕事場をこんなにしおってからに。いくら名門の人間でも絶対に許さへん!」

「そうなの!許すまじなの!どこ行ったのだーなの!」

 

最初に会った店員も仰々しい二振りの剣を両手に掴んで憤慨している。

なぜそんな物騒な得物を持っているのかは置いておいて、どうやらこちらと目的は同じようだ。しかも武器を構えている様は素人とは思えない。ならちょうどいい。

 

「二人とも、手を貸してくれ!」

 

本格的な戦闘をするわけじゃない。せめて追跡だけでも協力してもらおう。

手短に状況を説明し、俺が袁術、店員さん達には張勲を追うよう指示を出し、二手に分かれる事にした。

すぐに路地裏の道に入り込み、地面を注意深く観察し始めた。

慣らされた土の上には、小石や砂利の他にちらほらと予想通りの物も点在している。

 

よし!

これを追っていけばすぐ見つかるはずだ。

俺はそれを目印に脚を進めていった。

 

 

 

 

 

 

「まさか、呉の将軍に会うとは予想外でしたぁ」

 

家と家の隙間に身を隠した張勲は溜息をついた

袁術が引き起こす厄介事はいまさら咎める気など無いが、今回は危なかった。念のため持っていた煙玉が無ければどうなっていた事か。

相手の名は分からなかったがこのままでは孫策に通告されてしまう恐れがある。それだけは避けたい。

 

「でも、こんな事もあろうかと、保険は用意してあるんですけどねー」

 

ニヤリと口を歪めた先に、一人の女性が佇んでいた。

大きな戦斧を担いでこちらに一瞥くれるが愛想は無い。

 

「お給料分はキチンと働いてくださいね?」

「……ふん。追っ手を無力化すればいいのだろう? 任せておけ。まあ、歯ごたえがある相手がくるとは思えんがな」

 

つまらなさそうに吐き捨て、辺りを警戒し始める。

瞬時に殺気が路地に満ち溢れ近くにいた犬が慌てて逃げ出していく。

 

「とはいえ私では勝てないので、よろしくお願いしますよー。華雄さん?」

 

そう呼ばれた女性は、やはり面白く無さそうに、顔を向けただけで返事とした。

 

 

 


 
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