No.194222

【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(4)

川木光孝さん

【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

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2011-01-05 21:10:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:404   閲覧ユーザー数:398

 

【ニワサキ】

 

 

庭先では、風乃と南国紳士が、

縁側で並んで座っていた。

 

殴りあう様子もなく、

平穏な空気が流れている。

 

「あ、あの…ごめんなさい。

 紳士さん。

 わたし、戦うつもりはないの」

 

「どうしたのですか、風乃様?

 戦わないのですか」

 

「戦うって言ったの、あれは嘘。

 実は紳士さんとお話したいことがあったの」

 

「話?」

 

「どうして、白雪を捕まえようとするのかなって。

 紳士さん、とても必死だから」

 

「雪女たちに依頼されたからです」

 

「依頼されただけ?

 …何か報酬があるから

 頑張っているんじゃないの?

 お金とか。サービスとか」

 

「ある程度の報奨金は出るそうですが、

 私はそれが目的ではありません」

 

「何か目的が?」

 

「治安を乱さないためです」

 

「治安?」

 

「私は、妖怪と人間のトラブルを仲裁し、

 沖縄の治安を守っています」

 

「ふむふむ」

 

「人間にも悪い奴がいるように、

 妖怪の中にも、悪い奴はいっぱいいます。

 白雪様を捕まえようとして、手段を選ばない奴だって

 いるでしょう」

 

「ふむふむ」

 

「白雪様を捕まえるためなら、

 人間の一人や二人ぐらい巻き込んでもいい。

 そう思う妖怪も大勢いる、ということです」

 

「ふーむ」

 

「妖怪が周囲の人間に危害を加える前に、

 白雪様を保護し、雪女たちに引き渡したいのです。

 沖縄の治安を、守るために」

 

「ふうん…本当かなぁ」

 

「どうしたのです」

 

「紳士さんのウソつき。

 だって昨日、思いっきり戦ってたじゃない。

 人間であるこのわたしと!」

 

「風乃様は、人間ではありません」

 

「ええっ!?」

 

風乃の心に、電流入りの矢がつきささる。

 

「トラックにひかれて無事。

 先祖の霊の力を使う。

 妖怪と普通に話す。

 次々と繰り出すボケ。

 これだけそろって人間といえるのでしょうか」

 

「わたし人間だよ! 足あるよ!

 ほら!

 わたし人間だよ!」

 

涙目になった風乃は、

脚の付け根から、つま先まで、

素足のすべてをさらした。

 

「風乃様が幽霊だとは言っていません。

 それより、早く脚をしまってください。

 庭先ですよ。はしたないです」

 

紳士は、動揺する様子もなく、

きわめて冷静に言い放った。

 

「いや! わたしが人間であると

 認めてくれるまで、絶対脚は隠さない!」

 

「はいはい。

 風乃様はにんげんですよにんげんです」

 

棒読みの紳士であった。

 

 

 

【ニワサキ2】

 

「やったー! わたし、人間!

 わたし、人間!」

 

風乃は、自分が人間であると紳士に認められ、

うれしそうに庭をはしゃぎまわっていた。

うれしそうな声は、自然と大きくなる。

 

今は、朝の6時30分。

大声をあげるには、少々迷惑な時間帯であった。

 

「こら! うるさいぞ!」

 

隣の住宅から怒鳴り声がしたかと思うと、

住宅の2階から何かが飛んできた。

黒い影。

それは、風乃のちょうど真上に落ちてくる。

 

「うわぁ!」

 

バサリ!

黒い影が、風乃の上に覆いかぶさる。

 

「風乃様!」

 

紳士は、あわてて風乃にかけよる。

 

「うう…

 布団がふっとんできた…」

 

風乃は地面に倒れ、その上を布団が覆いかぶさっていた。

風乃は、頭だけ、布団の外に出した。

 

「風乃様、お怪我はないですか」

 

「ないけど…

 なんだか、この布団、ふかふかで気持ちいい!」

 

「羽毛布団ですか」

 

「あー気持ちよすぎて、寝てしまいそう…」

 

風乃の両目は、少しずつ細くなっていく。

 

「そのまま寝てくれると助かります。

 ですが…

 外で寝ると風邪をひきますよ」

 

※この羽毛布団は50万円ぐらいです。

 

 

 

次回に続く!


 
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