No.191533

真恋姫無双~天帝の夢想~(番外 聖夜の温もり)

minazukiさん

クリスマスイヴです!
今年も一人です!
でも作品の二人はほっこりです!

というわけで番外編です。

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2010-12-24 22:47:19 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:15676   閲覧ユーザー数:11326

(番外 聖夜の温もり)

 

「寒っ」

 

 宴会を終え厠から自分の部屋に戻る途中、一刀は夜の寒さに身震いをした。

 庭の方を見るとそこには白い世界が篝火によって姿を晒しており、この時代でも冬は寒いんだと実感していた。

 吐く息は白く、それを見るたびに楽しい気持ちになっていた。

 いつまでも眺めていたかった一刀だが、さすがに風邪を引きかねなかったため自分の部屋に戻った。

 一本の蝋燭が懸命に部屋を照らしており、寝台には百花が夜着に着替えて座っていた。

 

「雪がいつの間にか降っていた」

「そうですか」

 

 宴会であったため百花にしては呑みすぎたため、今にでも眠りそうな表情をしていた。

 それでも頑張って起きていたのは一刀が戻ってくるのを待っていたからだった。

 一刀が寝台に座るとその肩に全身を預けていく百花。

 

「一刀、冷たいです」

「そりゃあ、寒い中を歩いてきたからね」

「でも、気持ちいいです」

「そういえば、ここは百花の部屋じゃないよね?」

 

 自分の部屋であることは確認済みの一刀がわざとらしく百花に言う。

 

「一刀の部屋です。だからこうしているんです」

 

 一刀と二人っきりの時は甘えてくる百花。

 普段の反動が酒の力も加わって数倍になって現れているため、一刀も無理に引き離そうとはしなかった。

 

「そういえば、俺のいた世界はそろそろクリスマスかな」

「苦しみます?」

「うん、そう言うと思った。クリスマスだよ」

「くりすます?なんだか美味しそうですね?」

 

 一刀はクリスマスがどんなものか自分の知る範囲で百花に話した。

 いつも一刀から天の国の物事を聞く時、百花は参考にしていたが今日は酒が入りすぎて考えるというところまで頭が回っていなかった。

 

「一刀はくりすますがしたいのですか?」

「う~ん、どうだろう。ふと頭に浮かんだだけだから」

 

 その言葉どおり、一刀は懐かしさを覚えても寂しさは感じていなかった。

 この世界で百花達と出会い、生きていく自分がいる。

 まるで元いた世界の方が夢の世界だったんだと一刀は思っていた。

 

「天の国に帰りたいですか?」

 

 その質問は百花にとっていつも勇気がいることだった。

 もしこの世界に、自分に興味を失えば帰ってしまう。

 そうなってしまえば、また昔のようになってしまい、今度こそ立ち直れなくなる。

 

「嫌です。私はいい子でいますからどこにも行かないでください」

「いい子って……。どこにも行くわけないだろう?」

「そう言って一刀は何度も嘘をつきました。だから嫌です」

 

 一刀の夜着を掴み、彼の胸元に顔を埋めていく。

 孤独と暗闇は彼女にとって寂しさと悲しみをもたらし、何度となく涙を流した。

 それでも最後に笑顔になれたのは一刀がいてくれたからだった。

 

「百花には叶わないな」

「雪蓮達には負けたくないですから」

「なんで雪蓮達が出てくるんだ?」

「……知りません」

 

 宴会で雪蓮達と楽しく話をしている一刀を見ていた百花は勢いで何杯も酒を呑んでいたことなど一刀は知らなかった。

 子供のように甘えてきたと思えば拗ねてしまう。

 そんな百花を一刀は苦笑いを浮かべながら、彼女と一緒に寝台に倒れていった。

「じゃあ一刀サンタクロースにどんな贈り物がほしいか言ってごらん」

「……」

「いい子でいるならばどんな贈り物でもしてあげるよ?」

「本当……ですか?」

 

 下から見上げる百花に一刀は彼女の背中を優しく叩いて応える。

 

「じゃあ、今日はこのまま一刀の中で眠りたいです」

「それだけでいいの?」

「はい……。私は一刀にこうして抱いてもらっている時が一番の幸せですから」

 

 一刀がいる場所が百花にとって安らぎが齎される。

 嫌な気持ちも感じることなく、ただ大好きな一刀と一緒にいられる。

 

「ダメ……ですか?」

 

 もちろん一刀はダメだとは思っていない。

 一刀も百花と出会い、こうして何の遠慮もなく触れ合えるのは嬉しいことだった。

 だが、それでは一刀に対しての贈り物にもなってしまう。

 彼がしたいのは百花に対しての贈り物であり、自分が含まれるのは嬉しくあるが本当の贈り物としては少し違うように思えた。

 

「困ったなあ」

「困らないでください」

「すいません」

「じゃあ私が一刀のさんたくろーすになります。だから、一刀も私に欲しいものをおねだりしてください」

 

 二人がサンタクロースになればお互いに贈り物ができる。

 嬉しそうにする百花を見て、一刀は敗北を認めて彼女の提案を受け入れることにした。

 

「じゃあ俺はこのまま朝まで誰にも邪魔をされないで百花といたい」

「はい」

 

 一刀の願望を叶えるかのように百花は彼の唇に自分の唇を重ねた。

 軽く触れ合う唇同士。

 

「来年はきちんとしたクリスマスを皆で過ごそうか?」

「そうですね。その時はさんたくろーすの服を仕立ててみませんか?」

「お、それはいいなあ。百花や雪蓮達のサンタクロース姿もいいかもな」

「雪蓮達もですか?」

 

 少し考えて百花は軽く息を吐く。

 こうしている時ぐらいは他の女性の名前を出して欲しくないのに一刀は気づかないのだろうかと思った。

 

「大丈夫だよ。雪蓮達のサンタクロース姿もいいけど、一番は百花だから」

「一刀……」

 

 こうしていつも誤魔化されてしまうのだが、それでも嬉しい百花は許してしまう。

 

「わかりました。来年は一刀に喜んでもらえるように雪蓮達と相談します。でも……」

 

 ゆっくりと身体をすりあげていき、一刀の顔と同じ位置まで移動した。

 そして蝋燭の僅かな灯りの中で百花はこの世で唯一人に向ける本当に幸せに満ちた微笑を浮かべた。

 

「でも、今年は私だけが一刀のさんたくろーすになります」

「うん。ありがとう」

 

 夜着を身に纏っているサンタクロースの頬に手を当てて口付けを交わしていく。

 ケーキのように甘く柔らかな感触が二人をさらに深くつなげていく。

 やがて唇を離した百花は愛しい眼を一刀に向けながら質問をした。

 

「一刀」

「うん?」

「こんな時には何て言ってお祝いするのですか?」

「そういう時はこう言うんだ」

 

 一呼吸置いて一刀は彼女の耳元でこう囁いた。

「メリークリスマス」

 その言葉を合図に恋人達の夜は甘く温かなものになったのは言うまでもなかった。

(あとがき)

 

クリスマスです。

しかし、原稿が進んでいないのでとりあえず番外を!

次回はお正月までに本編が投下できればいいなあと思いつつ、子供シャンパンを飲みたいです。

それでは次回もよろしくお願いします。


 
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