No.187241

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART19~

戯言使いさん

さて、物語もいよいよ後半になってきました!!
どうか今しばらく、戯言使いの戯言にお付き合いください。


2010-11-30 10:51:52 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6277   閲覧ユーザー数:5225

 

 

 

宴の次の日。

 

予定とは少し異なったが、一刀と七乃は魏を旅だった。

 

七乃は始終、暗い顔だったが、一刀と魏の武将たちはとても晴れやかな顔をしていて、魏では一刀のことを「軍曹」と呼び、戦闘の師範のように敬っていた。まぁ、それはともかく、一刀や七乃に対しての友情にも似た信頼関係が築けていたことだけは間違いない。

 

 

 

魏を出た二人は、真っすぐ寄り道をせずに斗詩と猪々子が待つ蜀に帰って行った。その途中は特にハプニングもなく、至って安全な旅をしていた。

 

 

 

そして、蜀に着いた二人は桃香に報告する。桃香たちは無事に帰ってきた一刀たちに安心し、呉にもすぐに使者を送って報告した。これで後は、直接、魏と戦争をするだけだ。

 

 

 

となると、一刀たちはもう蜀には用はなかった。

 

元々、無所属なので、戦争に参加する義理もなく、一刀たちは再び旅に出ることを決意した。

 

当然、桃香や呉の蓮華からは城に永住してくれ、と誘われたが、元々は、流浪の身。一刀はその気遣いに感謝しながらも、キチンと断った。

 

 

 

 

そして、旅を初めて初となる、一刀、斗詩、猪々子、七乃の4人旅が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁ・・・・・」

 

 

「もぅ、また欠伸ですか?さっきだって文ちゃんよりも寝ていたくせに、まだ眠いんですか?」

 

 

「なんだかしらね―けど、とにかく眠いんだわ」

 

 

そう言って、一刀はまた欠伸をした。

 

もぅ、と呆れながらも、斗詩は笑顔だ。

 

こう言った無駄な会話が出来ると言うことは、それだけ追われる物のない、自由な時を過ごしていることになるからだ。

 

呉に行ってから今まで、一刀はずっと忙しかった。なので、ようやく仕事から解放され、今は気が抜けているのだろう。それに斗詩も気が楽だった。一刀と猪々子と七乃と言う、以前からの付き合いの仲間だけで旅をしているおかげだ。

 

 

「次は何処に行きましょうか?」

 

 

「あぁん?適当に旅しようぜ。猪々子は?」

 

 

「あたいは何か美味しい物があるとこがいいなぁ」

 

 

「七乃は?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「七乃?」

 

 

「あ、はい。私も適当でいいですよー」

 

 

何やら暗い顔で俯いていた七乃が、はっと顔を起こす。そしていかにもな作り笑いを浮かべている。

 

魏から帰ってきた七乃は、何処か変だ。斗詩は思う。

 

最初は一刀さんと何かあったのかな、と思っていたが、どうやら違うようだ。魏で何かあったのか、と一刀に聞いたが、特に何かあったわけでもないと答えられた。ならば具合でも悪いのだろうか。

 

 

「七乃?熱でもあるのか?」

 

 

一刀は七乃に近づいて、額に手を置いた。さすが一刀。そう言った気遣いは記憶喪失前と同じだ。

 

しかし、七乃は一刀の手が額に触れた瞬間

 

 

 

 

 

 

ばし

 

 

 

 

手を叩いた。

 

照れ隠し?と思っていたが、その顔はとても真剣で、むしろ嫌悪感の色がにじみ出ていた。しかし、一瞬、はっととなると、すぐさま申し訳なさそうな顔になり

 

 

「な、何勝手に触っているんですかー!分不相応にもほどがありますよー」

 

 

と、先を歩いてしまった。

 

 

「俺、七乃に嫌われたのか?」

 

 

「そんなことはないと思いますけど・・・・あれですよ。女の子の日で気が立ってるんです」

 

 

「そっか・・・・・」

 

 

だけど、一刀の表情は変らない。しかしそれは自分が嫌われているかもしれない、と言うよりも七乃が何か大変なことを抱えているのではないか、と心配しているからだ。

 

 

「さ、行きましょう」

 

 

「あぁ」

 

 

「アニキも気にするなよな!」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「アニキ?」

 

 

「ん?わりぃ、まだ眠いせいか、ボーっとしちまった」

 

 

眠い、と言いながらも、一刀は自分の眼元を手で押さえ、まるで立ちくらみでも我慢しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――七乃も一刀も、何か隠している。

 

 

 

 

 

 

斗詩はそれにすぐ気がついた。

 

でも、自分に話してくれないのは、きっと心配をかけたくないと思ってくれているからだと言うことは分かっていた。でも、どうして遠慮するのか、自分たちは家族のような物ではないか、と斗詩は少し寂しかった。

 

だけど、直接二人に聞くことはない。

 

 

 

―――待とう。

 

 

 

待って待って、いつか二人が話てくれるまで待って、そして話してくれた時は、全力で助けになろう。

 

斗詩は距離を開けて歩く七乃と一刀の後ろ姿を眺めながら、そう決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、4人は野宿をすることになった。

 

何かぎくしゃくしている4人。斗詩と猪々子が頑張って盛り上げようとしてくれていたが、なかなか上手く行かず、結局はその日は重い空気のまま、4人は眠ることになった。

 

 

 

 

―――深夜、皆が眠る中、一人体を起こした。

 

 

 

 

 

他の人に気づかれないように音を立てずに起きあがると、こっそりその野宿の場所から離れた場所に移動する。

 

月光に照らされた陰、それは七乃だった。

 

七乃は一人、適当な岩に腰を下ろすと、今日のことを思い出してため息を漏らした。

 

 

「・・・どうしてあんなことを・・・・」

 

 

今日、一刀に酷いことをしてしまった。

 

一刀は自分を心配してくれていただけなのに、あんなことをしてしまったら、嫌われてしまったかもしれない。

 

でも、それはどうすることも出来ない。

 

 

最初は自分を好きだと言ってくれたことが、嘘かもしれないことにショックを受けていた。だが、考えれば考えるほど、違う面が見えてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

作られた人格と言うことは、

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、一刀の皮を被った別人かもしれないと言うことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思うだけで、どうしても嫌悪感が全身を支配する。もし、別人だったら、自分は一刀以外の男に甘えていたことになる。そう思うだけで、全身が穢されたような錯覚に陥る。

 

自分は、一刀が好きだ。でも顔だけではなく、一刀の性格も好きなのだ。しかしその大事な性格の部分が作り物であるなんて、そんなの一刀ではない。それは全く別人だ。

 

 

「うぅ・・・・・」

 

 

耐えきれなくなって七乃は涙を地面に落した。

 

 

 

 

 

「好きなのに・・・・・怖い・・・・・傍に居たいのに・・・・・・触れたくない・・・・・」

 

 

 

 

矛盾する気持ちを抱え、七乃はまた一人で声をあげずに泣いた。

 

 

 

 

 

 

次回に続く


 
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