No.187207

真・恋姫†無双~恋と共に~ #4

一郎太さん

#4

2010-11-30 01:35:48 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:18835   閲覧ユーザー数:13438

 

#4

 

 

 

携帯で記念写真を撮影した後、俺と恋は畑仕事を手伝っていた。恋が相変わらずの怪力で邪魔な岩を動かしたり、俺が新しい地を開墾したりと、いつも通りの光景が繰り広げられる………はずだった。

 

「た、大変だ!賊が来たぞ!」

「どうした?いつもならそんなに慌てていないだろうに」

 

村の裏にある未開の地に駆け込んできた村人の様子に、俺と一緒に土地を耕していた男が問いかける。

 

「今回は数が違うんだよ!2000人もやってきやがった!」

「っ!!」

 

男たちと恋が村の入り口へ戻るなか、俺は、呂奉さんの家へと戻っていた。呂奉さんに賊の襲来を知らせて、俺は寝室に入る。

 

「初めて抜くのが実戦とはな………」

 

俺は名前も知らない二振りの日本刀を持ち上げると、紐で鞘をベルトに固定した。

 

 

 

じいちゃん、ご先祖様…力を貸してください――――。

 

 

 

 

 

 

俺が走って村の中心へ戻ると、恋はすでに村を出たあとだった。

村の男たちもそれぞれ武器になりそうなものを抱えている。

 

「これまでで、こんな規模の賊が来たことは?」

 

俺は一人の男に問いかける。

 

「いや、今までは多くてもせいぜい500人とかそこらだった………だから奉先ちゃん一人でも撃退できていたんだが………………」

「そうか…。この中で実戦経験のあるものは?」

「いや、恥ずかしい話だが、呂布の嬢ちゃんに任せきりだったし、嬢ちゃんが来る前は、まだ官軍も来ていたんだがな………」

「そうですか………じゃぁ、俺が恋の助太刀に向かいます」

 

俺がそう伝えると、周囲にどよめきが走る。

 

「みんなは万が一の時のために、ここにいてください。もし近くに避難できそうな土地があるなら、そこに逃げることも考えておくように」

「でっ、でも、大丈夫なのか?あんな大群相手に…」

「何言ってるんですか、恋だって現にいま戦ってるじゃないですか」

「そりゃ奉先の嬢ちゃんは滅茶苦茶強いから………」

「とにかく、皆さんはここで待機していてください。それに…大群とは言っても、一度に斬りかかってこれるのは、多くても10人が限界です。それくらいなら何度も相手したことがありますから。………………では、いってきます」

 

俺はそう残して走り出した。4里ほど先に蠢く黒い集団と舞い上がる砂埃が見える。

 

「あそこか…恋なら大丈夫だとは思うが………」

 

俺はいっそう脚に力を籠めた。

 

 

 

 

 

 

「ふっ」

 

恋が右手の戟を振るうと目の前にいる10人ばかりの賊たちが吹き飛ぶ。背後から斬りかかってくる男の剣を避け、突き出される槍を叩き折り、そして振り向きざまに周囲の賊を薙ぎ払う。そうして一刻ほど経ったころだろうか。呂布は戸惑いを見せていた。

 

「(いつもより、多い………)」

 

その通りである。いつもならこれほどの人数はいない。ただ今回は、方天画戟を何度振るおうと、恋の周囲の賊が減る気配がないのである。もちろん、俯瞰すればもの凄い勢いで屍の山で出来ていく様子が見てとれるのだが、大方に隅なし。その渦中にいる恋からは分かりづらいものである。

それにいつもより力が上手く働かない。通常なら何百人相手にしようと疲れを見せない自身の身体が、動いてくれないのだ。

 

だが、それでも恋は止まるわけにはいかない。なぜなら自分の背後に、母が、家族が、そして母親以外で唯一真名を許した男がいるのだから。

と、そこで恋は不調の原因を思い当たる。

 

「(今日…お昼ごはん食べてない………)」

 

如何に空腹であろうと、その働きは一騎当千。しかし、朝食を軽く済ませ、畑仕事をしていた恋の腹は、戦いの最中であろうと、すでに鳴り始めていた。

ただ、この状況で腹の虫が鳴るくらいなのだから、彼らの中に恋の相手たりえるほどの猛者がいないことは明白であった。

 

「………頑張る」

 

 

 

 

 

 

「どけええぇぇぇっっ!!」

 

ようやく追いついた。俺は目の前に広がる集団の渦中に飛び込むと、恋の姿を探す。自身に狙いをつける槍をかわし、斬りかかる剣を薙ぎ払い、男の腹に拳を叩き込む。

 

「どうしたノロマ共………うちの部員でも、もう少しマシな動きをするぞ?」

「なんだと!?てめぇら、やっちまえ!!」

 

簡単な挑発に乗ってくる。だからお前らは弱いんだよ。これくらいの人数なら不動先輩でもいけるんじゃないか?

俺はそんな感想を抱きながら、飛び掛る男たちの上へと跳び、一人の賊を踏み台にさらに跳躍する。

 

「…いた!」

 

見つけた。俺の少し先に幾つもの死体の山が積もり、さらにその向こうに、一人の赤い少女が目に入る。

俺は恋の位置を確認すると、着地地点にいる男の顔を踏みつけ、男が倒れる前にさらに踏み出し、次々と人の上を跳んでいく。

 

 

 

「北郷一刀!助太刀いたすっ!!」

 

 

 

俺は恋のすぐ後ろにいた男を、着地と同時に蹴り上げる。

 

「恋、大丈夫か?」

「ん…でも、お腹すいた」

「………………ははっ」

 

いつも通りの恋に俺は思わず笑い、恋と背中合わせに立つ。

 

「やっぱり恋は強いなぁ」

「…一刀も強い。だから早く帰って、お昼ごはん食べる」

「そうだな。俺も早く呂奉さんのご飯が食べたいよ」

「(コク)………行く」

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

それはまさに鬼神の如き武であった。二人が同時に地を蹴ったかと思うと、目についた端から賊を蹴散らしていく。片方は力任せに薙ぎ払い、片方は流れるような動きで賊たちの間を縫っていったかと思うと、彼らは次々と倒れていく。これなら少し早く終わりそうだ、と恋は思った。

だが、この時恋は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

一刀が、刃を返して攻撃していたことを。

 

 

 

 

 

気がつくと、一刀と恋以外に立っているものはなく、彼らの周りには、倒れた賊たちの山が出来上がっていた。

 

「お疲れ、恋」

「ん…早くご飯食べたい」

「そうだな、さっさと帰って、ご飯食べて昼寝でもしような」

 

二人がふっ、と気を抜いた瞬間だった。

 

 

 

ドスっ

 

 

 

「う…」

 

恋の左肩に、一本の矢が刺さっていた。

 

一刀が、矢が飛来した方を向くと、フラフラの男が弓を構えていた。その顔にはニヤニヤと厭らしい笑みが浮かんでいる。再び恋の方を向く一刀。致命傷ではないが、その肩からは血が流れている。

 

 

 

一刀の中で何かが切り替わった。

 

 

 

 

 

 

「このクソ野郎がっ!!」

 

俺は気がつくと、怒りに任せて男の首を飛ばしていた。

 

何をやっているんだ、俺は!?たいしたことないだと?どの口がそんなことをほざきやがる!何が「守るためなら」だ!結局俺は、自分が傷つくのが怖かっただけじゃないか!人の命を奪う覚悟もないくせに戦場にノコノコ出てきて……峰打ちなんて甘いことしやがって!誰のせいで恋が矢を受けた?誰のせいで恋が傷ついた!?俺だ、北郷一刀!俺のせいで、恋が………。

 

俺は恋の方を振り返ることができなかった。恋は命懸けで戦い、敵の命を奪う。対して俺は、人を斬るのが怖い、自分が傷つくのが怖いからと気絶させただけだ。そんな覚悟の違い。そんな自分が情けなくて、申し訳なくて、俺はただ、自分が切り捨てた男の、首の無い死体を眺めていた。

 

ふと、自分の後ろに誰かが立っているのがわかる。振り返らなくてもわかる、恋だ。だが恋は何も言わない。何を言っていいのかわからないのか、あるいはこんな情けない俺にがっかりしたのか………

 

沈黙が続いたのち、恋が口を開いた。

 

「………一刀、ありがと」

「っ!!……何が『ありがとう』だ。俺は何もできなかった………人を斬るのが怖くて、自分が傷つく覚悟もなくて、そのせいで恋が怪我をした!そんな駄目な人間に、『ありがとう』なんて言葉は必要ない。………………………何が『罪を背負う』だよな。俺さ、この刀を爺ちゃんから貰う時に、『人を殺す覚悟はあるか』って聞かれたんだ。俺は『ある』って答えた。大切な人を守るためなら人殺しだろうと、何でもする、って。でもさ、俺にはそんな覚悟なんてなかったんだ。口だけ格好つけて、一人前になったつもりで、それでこうやって今後悔している………。ほんと、馬鹿だよな………………」

 

恋は何も言わない。…こりゃ、本格的に嫌われたかな。

 

と、頭に暖かいものが触れる。

 

「そんなこと、ない。一刀は、みんなを守った。恋の家族、守ってくれた。それに、人を殺すのは仕方がない。…じゃないとみんな殺される」

「…………………………」

「恋も、いっぱい殺した…一刀は、恋のこと、嫌い?」

「っ!…そんなことはない!」

「恋もそう。一刀が人を殺しても、殺さなくても…恋は、一刀好き」

 

もう堪えられなかった。俺は恋の温もりに身を委ねて、涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

俺と恋は、戦場を後にした。これでやっと昼飯にありつけるな、なんて他愛無い会話をしながら。恋の怪我は大したことはなく、骨や腱に矢が届いてないことは僥倖だった。

 

そうして、村までの帰路を半分ほど進んだところで、その異変に気がついた。

 

「一刀……煙」

「え?…村の………まさか!?」

 

俺と恋は同時に走り出した。

 

 

 

村に近づくにつれ、その様子をだんだんと把握できる。

 

 

 

襲われていたのだ、俺たちの村が。

 

「まさか、別の賊が!?」

 

俺は村に入ると同時に近くにいた賊と思しき男を斬りつける。もう刃を返すなんて甘いことはしなかった。手に人の肉を切る感触がまとわりつくが、今は気にしている場合ではない。

村の中はまさに阿鼻叫喚だった。家々は燃え、地面には何人も村人が血を流して倒れている。中には腕や脚がない者もいた。男も女も、大人も子どもも関係ない。少し遠くを見ると、数人の賊が男を槍で突き殺した光景が目に入る。

 

「………」

「待て、恋!」

 

俺は走り出そうとする恋を止めると、その肩を掴み、こちらを向かせた。

 

「恋、聞いてくれ。俺は村の生き残りを探す。恋は怪我をしているし、村の人を攻撃しているとき以外は賊を無視して、呂奉さんのことを最優先に考えるんだ」

「っ…」

 

怒りで周りが見えていなかった恋だが、呂奉さんの名前を出すと、びくっと反応を示し、すぐに頷いた。俺と恋は二手に別れる。俺は先ほどの賊の方へ。恋は村外れの自宅の方へ。

 

恋には実際にああ言ったが、賊の笑い声以外悲鳴すらも聞こえない状況では、生存者は絶望的かも知れない。意外と冷静に状況を分析している自分が嫌になる。それでも俺は走り、そして刀を振り続けた。

 

『呂布ちゃんもすげぇが、北郷の兄ちゃんもなかなかやるなぁ!』

 

一緒に木を切りに行ったおじさんが倒れている。

 

『で、一刀ちゃん。いつ奉先ちゃんと祝言をあげるんだい?』

 

一緒に山菜を採りに行ったおばさんが子どもを抱えたまま倒れている。

 

『お兄ちゃん、今日もだるまさんがころんだやろー!』

 

あぁ、あの子は確か最初に懐いてくれたんだっけか………。

 

死体を槍で突いて下卑た笑いを浮かべる男、家屋の中から貴金属を持ち出す男、家から奪った酒を酌み交わしている男たち、村人以外はすべて斬り伏せた。

村を一通り回り、家屋で声をかけ、そして俺は、生存者がいないことを確認してしまった。

 

「くそ………」

 

何人の賊を殺しただろうか。10人を超えたところで数えるのをやめた。あるいは既に100人を超えているのかもしれない。

そうして俺は、村の中にいた賊を壊滅させ、村外れへと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

呂奉さんの家に近づくにつれ、賊の骸もちらほらと目に入った。

 

「ぅぅ…」「いてぇよぉ……」

 

恋はよほど急いでいたのだろう。通常なら一撃で葬れるはずが、致命傷ではあるが、しかし気を失うことを許されぬ状態の賊が目に入る。俺の足はそういった輩を目にする度に速まり、ついには走り出した。

 

 

 

そして、見た。…見てしまった。

 

 

 

血を流す呂奉さんと、地面に座りこみ、彼女を抱える恋を。

 

 

 

俺は恋のそばにしゃがみ、その肩を抱く。

 

「一刀…お母さんが………お母さんが………………」

「………………………………」

 

俺に掛けられる言葉はなかった。と、そのとき、呂奉さんの目が、わずかだが開かれた。

 

「…おかあさん?」

「れ、恋…一刀さん………よかった、無事だったのですね」

「はい…」

「一刀さん、村の方は………?」

 

問われ、俯く俺を見て、呂奉さんは察してくれた。

 

「そうですか………恋?」

「っ…なに、お母さん?」

「私は…もう、無理みたい、です」

「そんなこと、言わないで…まだ、お母さんに恩を返してない………」

「いいえ…ゴホッゴホッ!………恋は、いっぱい返してくれましたよ。私の、ご飯、を食べてくれた。一緒に寝て、くれた。村でも、人気者になって………それだけで、お母さん、は、幸せでした………」

「…いやだ………お母さん」

「恋………聞くんだ」

 

俺は、双眸に涙を溢れさせる恋の肩を抱く腕に力をこめた。

 

「聞き、なさい。お母さんはもう、恋のそばには、いられません。これからは、自分の力で、生きていくのです」

「………」

「一刀さん…」

「…はい」

「恋のこと、よろしく、お願い、します。ゴホッ………どうか、この娘が…純粋な心を、もう二度と、失わない、よう………に………………」

 

そう最期に呟き、呂奉さんは目を閉じた。

 

「…おかあ、さん?」

「………………」

「一刀、お母さん、起きない」

「あぁ、呂奉さんは…もう、目を覚まさない」

「っ………」

 

それきり恋は言葉を発することもなく、俺に抱きついて胸に顔をうずめ、涙を流す。

 

恋を抱きしめながら、俺も涙を流した。

 

 

 

 

 

いつの間に降り始めたのだろうか。小雨のパラつく中、恋と俺の無言の慟哭が響き渡った。

 

 

 

 


 
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