No.186495

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART17~

戯言使いさん

ゼミが受かりました!!!いやっふぅ!!なので、約束通り、続きを書きます!!今回はちょっと長いですよー

前回は作品説明のネタばれ、すいませんでした(´Д⊂
ですが、変に期待してもらうと、裏切ってしまうかも知れないと思い、つい書いてしまいました(;つД`)

2010-11-25 12:43:56 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:8641   閲覧ユーザー数:6146

 

華琳は少しだけ、後悔していた。

 

 

自分を侮辱した罪、それはいつだって首を刎ねて償わせた。

 

 

そして今回も、この男の罪を命を持って償わせようと思った。

 

だが、今回だけは華琳は後悔した。もう少しこの男の話を聞いてから判断してもよかったのではないか、と。

 

 

結果、殺すにしろ殺さないにしろ、もう少しこの男と話がしたいと思っていた。

 

 

 

それは興味。

 

 

 

目の前で、兵士に囲まれながらも殺気をまき散らす北郷一刀に興味が湧いてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「償いは、お前らだ」

 

 

 

一刀が言い終えた瞬間、その場の空気は一瞬にして戦場と化した。

 

七乃を含め、ここにいる全員は一刀のマジギレが初体験である。七乃は以前、斗詩たちから聞いていたので、これが一刀の殺気か、と頭の片隅で理解していたが、他の面々は違う。

 

 

 

これは何だ?

 

 

 

 

意味不明の圧力と恐怖が頭を支配する。そして理解不能の恐怖は簡単に人を壊してしまう。

 

 

「あ・・・・あぁ・・・・・」

 

 

がしゃん、と兵士の一人が刀を落とした。そして悲鳴をあげた。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

しかし、悲鳴をあげるだけである。

 

逃げ出そうにも腰が抜けて歩けなかった。

 

 

「・・・・うっせーんだよ」

 

 

一刀はその白痴のように悲鳴をあげる兵士に近づくと、手に持った鎧刀を大きく振りかぶった。

 

 

「あ・・・・た・・・・助け・・・・・」

 

 

「ん?助けて欲しいのか?それなら、きちんとお願い出来たら助けてやるよ」

 

 

「あ・・・・・助けてください!」

 

 

「・・・・・嘘だよ。ばーか」

 

 

 

ドガ

 

 

 

兜をかぶった頭に、一刀の一撃が落ちる。兜は砕け散り、そしてその兵士は倒れて動かなくなった。あは、とその様子を見て笑う一刀に、その場にいた兵士たちは更なる恐怖が襲った。残虐に笑う姿は、まさに鬼。

 

 

一刀はその倒れた兵士の持っていた剣を取ると、へたり込んでいた七乃に渡す。

 

 

「七乃。手伝え」

 

 

「はい・・・・でも、この数、私だけではちょっとキツいですよー」

 

 

いくら相手が一刀の殺気に怯えていたとしても、数は断然多い。

 

一刀は「はぁ」とため息をつくと、今度は七乃から視線を動かして、周りの囲んでいる兵士を睨んだ。

 

 

「なぁ、あんたら・・・・」

 

 

「ひっ・・・!」

 

 

一刀が兵士を見渡す。

 

 

一刀の視線を受ける度に、まるで幽霊でもみたかのように、不可解な存在を見る目で怯えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の言うことを素直に聞けば助けてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あぁぁぁぁぁぁ!」」

 

 

兵士たちが一斉に玉座の間の出口へと悲鳴をあげながら走って行った。しかし、一斉に走って行ったために、出口はすぐに人でいっぱいになり、溢れた人たちは玉座の間を走りながら逃げ回った。

 

 

「静まれ!」

 

 

華琳が叱咤する。

 

 

だが、兵士の誰一人として華琳の言葉に見向きもしなかった。華琳の言葉を無視するなど、普段であれば恐ろしくて出来ない所業であったが、今現在、兵士たちが怖いのは、一刀だけであって、一刀の恐怖により、頭が真っ白になっていた。

 

 

「季衣!流琉」

 

 

「「はい!」」

 

 

華琳が二人に声をかけると、二人はそれぞれ武器を取り出し、自分たちの周りを走り回る兵士に向かって攻撃を仕掛けた。投げた鉄球と円盤は大きく円を描き、玉座の間で走り回る兵士たちを巻きこむ。

 

 

「ぎゃぁーーー!」

 

 

兵士たちは季衣たちの怪力の前になすすべなく、たった一撃で数十人が一斉に宙に舞った。

 

 

 

 

 

 

 

その様子を見ていた一刀は、少しだけ感心したかのように声をあげた。

 

 

「・・・・へぇ。やるねぇ。でもガキは大人しくしてろや」

 

 

「あ・・・・」

 

 

一刀が季衣と流琉を睨む。

 

すると、あれほど暴れていた二人が一瞬にして静かになってしまった。いくら武将とはいえ、まだ幼い二人。敵が人間であれば、恐れずに戦えるが、相手は天の使いと言う、不可思議な存在で、そしてあの殺気を垂れ流すほどの強者。二人にとって、一刀は人ではなく、逆らってはいけない怪奇の存在に思えていた。

 

 

「うぅ・・・・うわぁ!」

 

 

しかし、そこは華琳親衛隊。季衣は震える足に活を入れると、武器を振りかぶり、一刀にめがけて放つ。しかし、季衣の武器は大振り。ゆえに、軌道が読みやすく、一刀はそれを真っ正面から受け止めるべく、鎧刀を地面に立て腰を落とした。

 

 

そして、季衣の武器と一刀の鎧刀がぶつかる。

 

 

 

ガン

 

 

 

 

と鈍い音を立てる。

 

そして

 

 

 

「あ・・・・あれ?」

 

 

 

びくともしない一刀に驚く。

 

季衣の攻撃をまともに受けたならば、春蘭であっても体勢を崩していた。それほどの怪力な攻撃なのだ。にも関わらず、一刀は先ほどと同じ体勢のまま。

 

耐えきれたのは鎧刀のお陰でもあったし、ほとんど奇跡に近かった。だが、怪力自慢の季衣の自信を打ち崩すのと、その場にいた武将たちの動揺を誘うのには一回の奇跡で十分だった。

 

 

「七乃!」

 

 

「はい!」

 

 

七乃はすかさず季衣の元へ走り、刀を振りかぶる。

 

季衣はまだ武器の回収が出来ておらず、武器の柄で七乃の攻撃を受け止めるが、攻撃し終えたばかりで体勢が整っておらず、耐えきれなくなってそのまま倒れた。

 

 

「季衣!」

 

 

それを見ていた流琉は七乃に対して武器を振う。

 

そのまま七乃に当たるか、と思われた攻撃は、間に入った一刀の鎧刀のせいで七乃には届かなかった。

 

 

そして、その隙を見逃さず、七乃はすかさず流琉に体当たりを食らわせ、季衣同様、不意打ちにより大きく転倒した。

 

 

 

 

 

 

―――一刀が相手の攻撃を受け止め、その隙を七乃が突く。

 

 

 

 

単純、かつ確実な戦略だった。

 

守備にだけ全力を尽くしている一刀の守りは固い。これも、斗詩と猪々子がくれた鎧刀のお陰だった。

 

 

「んじゃ、とりあえずこいつらの首でも切り落とすか」

 

 

「待て!」

 

 

一刀の殺気が渦巻く中、それでも声をかけて引き留めたのは春蘭だった。

 

 

「姉者やめろ!」

 

 

秋蘭が声をかける。秋蘭は一刀の殺気から軍師たちを守るために、凪たちと一緒に華琳の周りを守っていた。ゆえに、引き留めるにも動くことが出来なかった。だが、秋蘭は仮に動けていたとしても、一刀に戦いを挑もうとは思わなっただろう。殺気への恐怖と言うよりは、理解出来ない存在である一刀が恐怖に感じていたからだ。

 

 

だが、春蘭は違う。華琳のために剣を振るう。そして、何よりの戦好き。一刀の殺気は、恐怖を植え付ける意外にも、春蘭の闘争心に火をつけてしまった。

 

 

 

「我が名な夏候惇!魏武の大剣なり!きさま・・・・私と戦え!!」

 

 

春蘭は自分の武器を構える。そして、すさまじいまでの闘気が溢れだす。

 

一刀の殺気と春蘭の闘気。それが混ざり合い、その場の空気が一変する。

 

 

「・・・・・・」

 

 

「どうした!?何か言ってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ。夏候惇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずん、とまた周りの武将たちの体が重くなった。

 

更に一刀の殺気が強くなったのだ。それは味方である七乃も同様で、今すぐ逃げ出したい気持ちになるほどの殺気だった。

 

 

「ふははは!温いぞ!!」

 

 

しかし、春蘭はその殺気にも関わらず、身動き一つせず武器を構えていた。

 

 

「こちらからいくぞ!」

 

 

ぶん、と春蘭は武器を振るう。

 

季衣たちのように大きな武器ではないので、軌道が読みにくい。一刀は自分の体を鎧刀に隠すようにして取りあえず凌ごうとするが、

 

 

「・・・えっ?」

 

 

思わず出てしまった声。

 

 

「ふん!少しはやるようだな!」

 

 

一刀の鎧刀は春蘭の攻撃を見事とに受け止めていた。季衣たちの攻撃に比べれば衝撃は軽い。しかし、何か変だ。春蘭は一度しか剣を振っていないにも関わらず、なぜか一刀には数回の衝撃が襲ってきていた。

 

 

 

 

―――一度の攻撃に、複数の斬撃。

 

 

 

一回目しか見えなかった。残りの不特定多数の斬撃は目で認識することが出来なかった。

 

しかも、その一撃一撃が重い。耐えきれたのはこの鎧刀のおかげで、もし生身で一度でも食らえば、簡単に死んでしまうような強さ。それを、一瞬にして数回。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・くそ、どうすりゃいいんだ。

 

 

 

 

一刀は思った。

 

目の前の春蘭、つまり夏候惇は強い。それは歴史が証明しているし、今現在、対峙して分かる。当然、一刀が勝てるわけがない。そして、七乃との共同作戦でもおそらく勝てない。なので、更なる殺気で戦意喪失させようとしたのに、逆に盛り上がっている。

一か八かで戦ってみるか?いや、やめとけ。守ることしか出来ない俺が、殺されるのは時間の問題だ。だけど、逃げるにも策がねぇ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

パンパン

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい。ここまでにしましょうねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

張り詰めた空気の中、手を叩いて気の抜いた声を出したのは七乃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七乃は武器はしまい、一刀と春蘭の間に入る。

 

 

「やめておきましょうねー、私たちはただの使者ですー。殺し合いをしにきたわけじゃありません。一刀さん、取りあえず、落ち着いてくださいね」

 

 

ぱちん、とウインクする七乃。

 

訳が分からないが、取りあえず七乃の言う通りに何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。すぅっとその場の空気が軽くなった気がした。

 

 

「はい。そして夏候惇さんも落ち着いてくださいねー」

 

 

「しかし・・・・!」

 

 

「まさか、戦う気のない人に剣を向ける・・・・なんてしないですよねー?魏の武将ともあろう人が、無抵抗の人を斬るなんてねー」

 

 

「う、うむむ・・・・」

 

 

「それに、これはお互いのためですよー。もし、本気でやっていたなら、おそらく一刀さんと私も死にますが、魏の武将の半分ぐらいは道連れにしてたと思いますよー」

 

 

にっこり、と笑う七乃。

 

 

その言葉に春蘭は当然、怒りだす。

 

 

「お前ら二人ごとき、私だけで十分だ!」

 

 

 

 

 

「あら、一刀さんはあの蜀の五虎将全員と対峙したんですよー」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

魏の武将たちの間で動揺が走る。

 

 

蜀の五虎将は大陸中でも有名な武将ばかりだ。その武将たちと、しかも五人全員を相手にしたとなると、さすがに疑いたくなるほどの武勇だ。

 

 

 

「結果は・・・・言わなくても分かりますよねー?ここに五体満足でいる一刀さんが何よりの証拠です。そして、その強さにほれ込んだ桃香さんや愛紗さんが、真名を許して下さったんですよー。しかも、一刀さんを鬼神とまで言って慕っているんです・・・・曹操さん、桃香さんの手紙に書いていませんかー?神様だって」

 

 

 

「・・・・確かに、『北郷一刀さまは戦乱を鎮めるために降り立った神』と劉備の字で書かれているわ」

 

 

 

華琳の言葉に、更なる動揺が武将たちの間に走った。

 

 

 

 

もちろん、戦ってもいないし、向こうが一刀を神だと思っている理由は、殺気と説教の合わせ技によるものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――つまり、七乃が言っていることは真っ赤な嘘。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが逃げるために考え出した、七乃の策だった。

 

このことを嘘だと知っているのは一刀のみ。

 

 

ここに居る武将は、並外れた一刀の殺気を経験し、そして、季衣たちの攻撃を受け止められるほどの力を見て、そして桃香の手紙と言う第三者からの証言を知っている。つまり、嘘のような話でも、信じるにたる証拠がそろっているのだ。

 

 

 

 

「さて、それでも続けますか?」

 

 

 

 

 

七乃の言葉にみなが黙った。

 

 

 

 

 

 

「私はやるぞ!」

 

 

「春蘭!あかんって!」

 

 

とそれでも一刀に突撃しようとする春蘭を、霞が止めにはいる。

 

 

「離せ!もし、本当ならば、これほどの武将を前に私が逃げるわけがなかろう!」

 

 

「あほ!うちらはこれから呉と蜀と戦争するんや!もしあんたにもしものことがあれば、華琳が困るで!」

 

 

「うっ・・・・」

 

 

霞の説得にいまいち納得出来ない春蘭。それでも、武人として、そして華琳を愚弄した罪を自分で処罰したいと思う気持ちが残っている。

 

 

「・・・・さがりなさい。春蘭」

 

 

華琳が静かに言った。

 

華琳はまだ一刀の強さを信じかねている様子だが、仮にも本当ならばここで武将たちを失うのは辛い。今引き返すなら、被害は最小限に抑えられる。危ない橋は渡れない。華琳らしい考え方だった。

 

 

「んじゃ、俺たちは帰るぞ」

 

 

「はいはーい」

 

 

一刀は鎧刀をしまうと、そのまま堂々と玉座の間を後にしようとする。あくまで堂々と。本当は心臓が早く脈打ち、今すぐ走りだしたいが、強者としての威厳を出すために、胸を張って出ていく。

 

 

「・・・・待ちなさい」

 

 

しかし、呼びとめる声が一つ。

 

 

 

内心、ぎくっとする一刀と七乃。

 

 

 

 

声の主は華琳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ?」

 

 

「ねぇ、怒らないから、私にあんなことを言った理由を教えて」

 

 

「あぁん?」

 

 

「「お前は王として優秀でも、人間としては未熟だ。俺はあんたみたいに妥協しない」・・・ねぇ、その理由を教えなさい」

 

 

一刀は少し安心したようにため息をついた。

 

 

「なんだ、そのことか。曹操、お前、言ったよな?人間は一人でも生きていけるって」

 

 

「えぇ。当然よ」

 

 

「確かにその通りだと思うぜ。むしろ、一人でここまでのし上がってきたお前は素直に尊敬する。でもな、いくら裏切られるのが怖いからって、何もかも全部一人でやらなくてもいいんじゃねーのか?」

 

 

「それはあなたが経験したことがないからよ。私に敵は多いわ」

 

 

「かもな。でもな、そうじゃねーやつもいるってことを知れよ。あくまで、桃香や雪蓮はお前と同等の存在になれるやつだと思うぜ?」

 

 

「そんなの・・・・」

 

 

「だから、別に従順な部下なんかじゃねーんだよ。あいつらはお前を友として足る存在かを、この戦いで見抜こうとしている。なのにお前は相手を服従させることばかり。誰もお前の傍にいねーんだよ」

 

 

「・・・・・」

 

 

「なぁ、人間は一人で生きていける。そうだろ?」

 

 

「・・・・えぇ」

 

 

「人は一人でも生きていける。

 

 

 

 

 

 

でもな、

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しくは生きていけないんだよ。一人じゃな」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しく生きたいなら、友が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドキドキして生きたいなら、惚れた奴を作ればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんで、もし安心して生きたいなら、部下じゃなくて、家族を作れ。

 

 

 

 

 

 

俺がもし王なら、大陸平和なんかで妥協しねーよ。せいぜい、死ぬまでせいぜい、幸せに生きてやるよ」

 

 

 

 

 

 

「私は王よ。民の幸福のために大陸を統べる必要が」

 

 

 

「あぁん?自分一人すら幸せにできない奴が、民を幸せに出来るかよ」

 

 

「・・・・・」

 

 

「王としての曹操。それは立派だ。でもよ、人として、女としては未熟だ。なぁ、曹操。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前、人生を楽しめよ

 

 

 

 

 

 

 

 

民の為に、自分の為に。そうすりゃあ、もっと違う世界が見えると思うぜ?」

 

 

 

 

 

 

「・・・・私に戦争しないで、女としての幸せを掴めと言いたいのかしら?」

 

 

「逆だ。戦争しろ。全力で。あいつらなら、きっとお前を受け止めてくれる。そうすりゃあ、世の中にはちっとはマシな人間が居ることに気がつくだろ」

 

 

「・・・・・」

 

 

「どいつもこいつもそうだ。王が何だ。武将がなんだ。軍師がなんだ。んなもん、俺の世界には一人もいねーんだよ。くだらねぇ理想のために、自分の幸福を無碍にする馬鹿が見ててムカつくだけだ」

 

 

 

 

「貴様!またしても華琳さまを侮辱・・・!」

 

 

 

「あぁん?夏候惇。話聞けよ。ちょうどいい、なぁ、ここに居る魏の武将さんたちよ。

 

 

 

 

 

 

大陸の平和と、自分の幸せと、曹操の幸せ

 

 

 

 

 

 

 

お前らなら、どれをとる?」

 

 

「華琳さまの幸せよ!」

 

 

 

桂花がすかさず声をあげる。その声に同調するかのように武将たちが頷く。

 

 

しかし、春蘭だけは頷かない。

 

 

「あぁん?どうしたお前は」

 

 

「私はすべてを取る!」

 

 

「・・・はぁ?」

 

 

「華琳さまが夢みた大陸平和、そして華琳様さまの幸せ、そして私自身の幸せ、そのすべてを手に入れてやる!」

 

 

大声で馬鹿のように宣言する春蘭。実際に、武将の何人かは呆れたため息をついている。どれを取るかの一刀の質問から的の外れた答えだったからだ。

 

 

 

 

 

 

しかし、その様子を見ていた一刀は、魏に来て、初めて心からの笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「正解だ」

 

 

「へっ?」

 

 

 

「そうだよ。俺はそれがいいてぇんだよ。最高だよ、あんた」

 

 

「そ、そうか?」

 

 

「あぁ。おい、曹操。お前もこいつみたいになれよ。もっと幸せにどん欲になれ。大陸平和ぐらいで満足するな

 

 

 

 

 

 

人生なげぇんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

大陸平和ぐらいの幸福で妥協すんなよ

 

 

 

 

 

 

俺はただ、それを言いたいだけだ」

 

 

 

一刀の言葉が、静まった玉座の間に響く。

 

 

 

 

確かに口が悪く、侮辱しているように聞こえるが、言っていることは何故か納得出来てしまう。実際に、秋蘭や霞、桂花を除く軍師たちの顔はさきほどと違い、安らかである。そして春蘭も、いつも馬鹿と罵られてきた自分の答えを褒めてもらえたことが嬉しいのか、顔がほころんでいる。

 

 

 

 

春蘭と秋蘭は華琳とは魏の建国前からの付き合いである。

 

だから、華琳のことはよくわかっていた。勉学、武力、すべてにおいて完璧な華琳は明らかに無理をしているように二人には見えていた。年頃の娘のように、遊びまわっていてもいいのに、すべてを捨て、勉学に勤しんでいた。それは、自分が養子であるからか、それとも性質かは分からないが、とにかく華琳は国と部下には最大の注意を払うが、自分に対してはあまり頓着しなかった。

 

二人はいつも思っていた。国の平和よりも、民の笑顔よりも、華琳の笑顔が見たいと。なので、一刀の言葉は、まさに自分たちの心の声を代弁していた。

 

 

 

 

「・・・あは」

 

 

 

華琳は小さく笑った。そして次には大きな声で笑い声をあげた。華琳には珍しい、大笑いだった。

 

 

 

「あはは、面白いわ。えぇ、最高に面白い!そうね、あなたの言う通りだわ。私は覇王曹操、欲しい物は何でも手に入れてきた。でも、まだ私自身の幸福は手に入れたことはなかったわ!あはは」

 

 

 

大笑いしている華琳。その様子は本当に嬉しそうで、昔からの側近である春蘭や秋蘭も、これほどまで上機嫌の華琳はみたことなかった。

 

 

北郷一刀。その存在は不可解で不気味であはあるが、華琳をこれほどまでに喜ばせた。その事実は、今までのことをすべて忘れ去ってしまうほどの、信頼に値することだった。そのお陰か、武将内での一刀に対する警戒がなくなっていた。

 

 

 

「ねぇ、北郷一刀。あなたの話、もっと聞きたいわ。しばらく魏にいるつもりはないかしら?」

 

 

「華琳さま!?こんな下種な男を魏に置くなど、危険です!」

 

 

桂花が非難の声をあげるが、華琳はまったく無視して、一刀を見つめている。

 

 

 

「断る。向こうで待ってる奴がいるんだよ」

 

 

「そう。なら、今日一日、いいえ、今日の昼食だけでいいわ。私が直々に昼食を振舞うわ」

 

 

「ん?まぁ、それぐらいなら。七乃は?」

 

 

「私は一刀さんに従うだけですよー」

 

 

「なら、いいぞ」

 

 

「えぇ!さぁ、みんな!宴の準備をなさい!」

 

 

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、あれほどまで険悪なムードだった玉座の間は、華琳の号令によりすぐさま宴会場へと早変わりしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く


 
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