No.186408

【南の島の雪女】第2話 ハブのおまわりさん(6)

川木光孝さん

【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

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2010-11-24 22:18:01 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:422   閲覧ユーザー数:417

【騒音のもと】

 

「まったく! もう少し静かにしてくれないと

 困るんだよね!」

 

民家のおじさんに、がみがみと叱られる南国紳士。

 

「申し訳ありません…

 よく言い聞かせておきますので」

 

「わかったんなら、もういいよ。

 さっさと寝るんだぞ!」

 

民家のおじさんは、強い勢いで、バタンとドアを閉めていった。

 

「風乃様、お怪我は大丈夫ですか?」

 

「大丈夫…」

 

風乃の側頭部は、南国紳士に丁寧に手当てされ、包帯が巻かれていた。

ちょっと辛そうな顔をしている風乃。

 

「ふぅ、今日はもう寝ましょう。

 夜も遅いですし、周りの人たちの迷惑にもなります」

 

「だめよ! 白雪をおいていきなさい。

 どうせ連れて行くつもりなんでしょう?」

 

「そうだ、そうだ!

 寝る前に俺を自由にしやがれ!」

 

「しーっ! お二人とも、静かにしましょう!

 また灰皿を投げられますよ!」

 

「灰皿なら、私の手にあるから大丈夫だよ。

 さっき投げられたのを拾ったんだ」

 

風乃は右手に灰皿を持っている。

 

先ほど、民家のおじさんが投げてきた灰皿だ。

 

灰皿は、少し形が変形していた。

風乃の頭に当たったからだろうか。

 

「灰皿は、一家にひとつ!

 もう灰皿は投げられて来ないよ!」

 

「灰皿は一家にひとつって、誰が決めたんだ!

 また投げてこられるかもしれないぞ!」

 

白雪は、大声で風乃に忠告する。

 

「だから、お二人とも、静かになさってください!!

 もう夜の1時近いですよ!」

 

「お前が一番うるさいわ!」

 

再び、民家の前で、ぎゃあぎゃあと3人で騒ぎ立てるのだった。

 

 

【灰皿3兄妹】

 

灰皿が一家にひとつだと、誰が決めたのか。

誰もそんなことは決めていない。

それゆえに、灰皿は一家にひとつとは限らないのである。

 

民家の窓の向こうがきらりと光る。

 

窓がつきやぶられ、灰皿が合計3つ、円盤のごとく飛び回る。

そして、灰皿3兄妹は、3人に襲いかかる。

 

「ほら、言わんこっちゃないでしょう!」

 

紳士は、灰皿の動きを見切り、シュッとかわす。

 

「おっと、あぶないあぶない!」

 

白雪は、手が縛られているにも関わらず、

余裕に華麗に灰皿をかわしていく。

 

「あれ? 灰皿…?」

 

風乃はあっけにとられ、飛んでくる灰皿をただ見つめるのみ。

このままでは当たってしまう。

「風乃様!」と南国紳士は、素早く風乃の前に躍り出て、かばおうとする。

 

「ぐっ!」

 

どすりという鈍い音が、響く。

紳士の背中に灰皿が直撃していた。

 

「し…紳士さん!」

 

「ご心配なく…私の身体は頑丈です…」

 

と言いつつも、うずくまり、つらそうな顔をしている紳士。

 

「紳士さん…

 結構つらそうな顔してるよ?

 立てる?」

 

風乃は、南国紳士に手を差し伸べる。

 

「少し、休ませてください」

 

「紳士さん、動けない?」

 

「動けません」

 

「ふっふっふ…」

 

風乃は突然笑い出す。

 

「!?」

 

白雪は、突然笑い出した風乃を見て、驚く。

 

「今なら殺れる!」

 

風乃は、手をポキポキと鳴らした。

 

「外道すぎる」

 

白雪は、風乃の悪どい表情を見て、

悪寒を感じていた。

 

「紳士さん、ぼこぼこにしてあげ…ぐふっ!?」

 

風乃の側頭部に、またしても灰皿が直撃した。

ばたりと倒れる風乃。

 

灰皿は3兄妹だけではなく、隠し子がいるようだった。

 

 

【紳士きれる】

 

※民家の前でさわぐと迷惑なので、風乃・白雪・南国紳士は

人気のない公園に移動しました。

 

「風乃様。私、少し怒っています。

 妨害するだけでなく、傷つけようとする。

 もう一度逮捕しましょうか?」

 

「逮捕するなら、してみてよ。

 わたし、紳士さんには捕まらないから」

 

「何を言っているのです。

 常人より多少霊感が強い程度のあなたが、

 ハブの妖怪であるこの私に勝てるとでも?」

 

「勝てるよっ」

 

えっへん、と胸をはる風乃。

 

「自信満々ですね…

 本当に勝てるのですか?」

 

「勝てるよ!」

 

「ハブをいっぱい呼びますよ」

 

「勝てるよ」

 

「ハブを噛み付かせますよ」

 

「か、勝てるよ」

 

「ハブられますよ、クラス全員から」

 

「か…か、勝てるよぅ…」

 

泣きそうな顔で、ふるえだす風乃。

 

「風乃様のうろたえぶりは

 おもしろいですね」

 

「最後のはハブじゃないだろ」

 

白雪はあきれたような目で、

南国紳士と風乃のやりとりを見ていた。

 

 

【せんぞのちから】

 

「おじいちゃん助けて!

 悪い人がいじめるよ!」

 

風乃は、何もない夜空に向かって、大声でさけぶ。

 

「おじいちゃん?」

 

南国紳士は不思議そうな顔をして、風乃の顔を見る。

 

「風乃や、今、先祖の力を与えるぞ!」

 

おじいちゃんの声が、風乃たちの周りに響く。

 

「せ、先祖の力!?

 風乃様、これはいったい…」

 

「ふふふ、紳士さん。

 わたし、すごい力を手に入れたのよ」

 

しかし1分経過しても、

先祖の力は一向に、風乃の身体に降りてこなかった。

 

3分経過しても、風乃の様子に変化がない。

いたって普通の風乃だ。

そこらへんにいる、普通の風乃だ。

 

「おい、風乃。何も起こらないではないか。

 お前の妄想じゃないだろうな!?」

 

白雪は、しびれを切らして怒り出す。

 

「妄想は毎日するけど、これは妄想じゃないよ!」

 

「…妄想に違いない。

 俺なら1000円賭ける。

 紳士は?」

 

「私は、本当だと思います。

 何円賭けましょうか…

 5円くらい?」

 

「紳士さん、もっと自信を持って!」

 

風乃は、的外れなツッコミをするのだった。

 

 

【せんぞのちから2】

 

「おじいちゃん!

 まだ、ご先祖さん来ないの?」

 

風乃は、夜空に向かって、大声で問う。

 

「すまん、風乃や。

 先祖さん、トイレに行っているらしい。

 ちょっと待っててくれ」

 

「大? 小?」

 

「大じゃ」

 

「時間かかりそうだね。

 紳士さん。

 少し休憩しようよ」

 

「了解いたしました、風乃様。

 お茶をいれましょうか」

 

「レモンティーでお願いね」

 

「おい待てよ! 今度はティータイムかよ!

 さっきまで、いがみあってただろ!?

 お前ら敵同士だろ!

 空気よんで、真剣に戦えよ!

 何考えているんだ!?

 バカか!?

 バカなのか!?

 バカなのは顔だけにしてくれよ!

 いい加減に…げほっ、ごほっ! がはっ!」

 

激しいツッコミは、ノドに負担を与えたのか

白雪はむせてしまった。

のどを痛める白雪。

 

「白雪は何飲むー?」

 

「緑茶」

 

 

【せんぞのちから3】

 

先祖がトイレから出て、降臨するまで

風乃たちはお茶を飲んで休むことにした。

 

風乃と南国紳士は、公園のベンチに座って

お茶を楽しんでいた。

 

「おい、お前らばっかり飲むな!

 俺は縛られてるんだぞ。

 俺にもお茶を飲ませろ~!」

 

白雪は相変わらずハブに縛られていて、

両手が不自由な状況だ。

 

「あ、ごめん、白雪。

 わたしが緑茶を飲ませてあげる!」

 

風乃はベンチからすくっと立ち上がると、

煮えたぎったアツい緑茶を、白雪へ運んでいく。

 

「おお、風乃、ありがたいぞ。

 ほら、早く緑茶を飲ませに来てくれ」

 

白雪は口をあんぐり開ける。

 

「うっ!?」

 

そのとき。

風乃の頭の中が、ぐらりとゆれた。

視界もゆれる。

風乃の身体を、見えない何かが包み込んでいく。

体内に、何かが流れ込んでいく。

 

「風乃や、待たせたのう、先祖さんはトイレが終わったから

 今風乃の身体に降りているはずじゃ」

 

(あれ? なんか身体中の力が抜け…て…)

 

風乃の手の力がゆるんでいく。

手に持っている緑茶は、物理法則に従い、落ちていく。

 

「おい、風乃、緑茶! 緑茶!

 りょくちゃあああああ~!!!!」

 

ぽろりと落ちた緑茶。

白雪の顔に、胴に、脚に、飛び散っていく。

窓を割ったような悲鳴が、深夜の公園をゆるがした。

 

 

 

次回(第2話完結編)に続く!

 


 
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