No.185903

世界の終わりの放課後タイム

桃乃花悠さん

「突然ですが、今日で世界は終わります」とニュースキャスターは言った。

でも、日常はあんまり変わらなかった。
好きな子との放課後のちょっとした時間以外は

2010-11-22 01:40:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:399   閲覧ユーザー数:395

 

 いつもと変らないように見える月曜日。空の色も天気も辺りを飛んでいる鳥もまったくいつもとは変っていない。だけど、今日はいつもとは違う月曜日なのだ……

ラジオのアナウンサーが非常に重い声で話し始める。

「今日で世界は終わります。そのような報告が各国の研究機関から今朝未明になされました。みなさん信じられないかもしれませんね。ええ、伝えている私ですら嘘なんじゃないかと少し疑いたくなりますもの。だけど、これは本当のことなのです。世界は滅びます。今日の午後11時半にこの世界は無くなってしまうのです。どのように世界が無くなるかははっきりしていませんが、おそらく一瞬のうちに無くなっているであろうとのことです。痛い目に遭うってことはないようなので私的には非常に安心しています。それではみなさん、いい最後の一日をお過ごし下さい」

 そして、今日のニュースは終わった。世界が終わるのだ。今までじぶんが生きている間に世界が終わるだなんて僕は一瞬たりとも考えた事はなかった。世界が滅ぶのは約50億年後、膨張した太陽に地球が呑み込まれてしまうときなんだろうと考えていた。だけど、そんなことお構いなしに世界は滅んでしまうのだ。どうしたものだか……

「そうか、世界が滅びるのか…… ま、でも会社には行かなきゃならんのだろうな。最後の一仕事か。まあ、それも悪くない。母さんと会えただけで悪くない人生だったと思うよ…… そうだ、仕事が終わったら二人で食事に行かないか?」

 仕事に行く準備をしている父さんが母さんに向かって言う。食事って二人だけかよ! 僕は一人ぼっちか…… ちょっと寂しいですよ。ねえ、助けて…… 母さん! 母さん! 助けて母さん!

「ええ、それもいいですわね。二人きりで食事なんて何年ぶりかしら」

母さんまでそんなことを言うのですね。ああ、もう一人で世界の終わりを過ごしてやるよ!

こんちくしょ~!! 本当にちょっと悲しいです。

 世界の終わりの時くらい学校なんて行かなくてもいいような気もするのだけど、もし今日学校があった場合、さぼってしまうことになってしまうわけで…… 皆勤賞あるいは精勤賞を目指している身としてはそんなくだらないことで休みをつけられてしまうわけにはいかないのだ。まあ、今日で世界は終わりなんだからそんなことを気にしたって意味無いのだけれども。とりあえず、僕は学校へ行く準備を始める。いつもなら適当に教科書を詰めていくのだけど、今日は何の教科があるかを確認しながらその教科が自分にとってどんなものだったかを思い起こしたりしていた。数学はまったく分からなかったからノートに落書きをする時間と化していたなとか国語はそこそこ面白かったけど、現代文の教科書に載せる作品をもう少し有名で面白いものにしろよと言いたいんだよなとかそんなことを考えていた。

 そんなことをしていたら、遅刻ぎりぎりの時間になっていたので僕は慌てて、カバンを持って家を出る。周りはどんな様子なんだろうかと見回してみるも、何もいつもと変っておらず、世界が滅びるなんて話は嘘っぱちなんじゃないのだろうかと思いたくなってくるけど、時折聞こえてくる「世界」とか「滅びる」とかの言葉によって、これは嘘じゃなくて本当に起こることなんだという思いを強くされてしまう。

 ああ、世界の終わりの時くらい、ちょっと迫真チックな感じになっていたっていいじゃないか…… 何で、普通におばちゃん達が井戸端会議をしていて、野良猫が塀の上を歩いていて、近所の小学生が元気に集団登校していたり、渋滞することもなく自動車が道路を通っていたりするんだよ! 全然、いつもと変らないじゃないか……

 でも、それは仕方ないことかもしれない。あまりにも急すぎるのだ…… 時間があればどこに逃げるかとかどうやれば世界が滅びずにすむかとか考えることができるだろう。あるいは暴れて、今までだとできなかった悪いことをし始めるかもしれない。だけど、今日、世界は滅びるのだ。何の対策もたてることなんてできないし、ATMを壊して金を得たところでろくにつかうこともできない。だからみんないつもどおりに暮らそうとしているのだろう…… これは一種のあきらめだ。そして悪くないあきらめだ。

 学校に着いた時には遅刻十分後だった。ああ、残念。まだ出席を取っていない可能性もあるから何とかなるかもしれないけど、急いで教室に入ろうという気にはちょっとなれなかった。もう遅刻しちゃったんだからゆっくり歩いてもいいだろうという感じだった。というわけで僕はゆっくりと靴を脱ぎ、上履きをゆっくりと履き、ゆっくりと教室に向かう。教室の前に着いたので、今何をやっているのだろうかとドアに顔を寄せて声を聞き取ろうと試みる。何だか、ホームルームの最中のようだ。出席はもう取ってしまったのだろうけど、今入れば何とか遅刻や欠席がつかなくてすむかもしれない。そう思いながら、僕は教室のドアを開けた。

「華水沢、遅刻か…… かなり珍しいな。世界が滅びるから学校が無いと思ったのかね? 残念! 学校は今日もありました」

 担任は僕の顔を確認してからこう言った。

「いや、学校はあると思っていたんですけどね。学校行く準備していたら、何だか感慨深くなっちゃって。もう、これで学校行ったりなんだりってのも終わっちゃうんだなみたいなこと思っちゃって……」

「まあ、そういうこともあるだろうな~。僕がみんなくらいの年だったら寂しくなっていただろうし」

「今の先生はそう思うことないんですか?」

 クラスの誰かが質問する。担任はそれを聞いて溜息をつき、

「残念だが、今の僕はそう思うことは無いんだよな。世界が滅びるってことにすら驚きを覚えない。別に死んでも死ななくても構わない。死ぬのは怖いっていうけど、それは物理的な苦しみや持っている金などのアイテムが自分の物で無くなるってことが怖いだけであって、死ぬこと自体に対する恐怖ではないと思うんだよ」

 すごい考え方だと思った。ここまで分かっている大人って他にいるのだろうか? 少なくとも、僕の周りでは見た事がない。教室中がしんとなる。みんな、いったいどのようなことを考えているのだろうか。僕みたいに驚きを覚えているのか、それともまったく理解できていないのか。そんな僕達を見て、担任は少し笑みを浮かべて、

「さあさあ、僕の話は終わったぞ~。しんみりしてないで、さっさと授業の準備をする。最後の授業なんだからちゃんとまじめに勉強するんだぞ」

と優しい感じで言う。それを聞き、今まで固まっていた僕らはやっと動きだすことができたので、ごそごそと授業の準備を始める。今日の一時間目は現代文で担当は担任だった。

 授業は淡々と進んでいく。教科書を読みながら、主人公の心情についての意見を言ったり、出てくる漢字の勉強をしたり、とにかくそんなことをやっていた。結局、いつも通りに進み、いつも通りに終わった。ただ、担任が授業の終わる前に

「今まで、僕の授業を受けてくれてありがとうございました。今日で最後だけど、いい授業だったと思う。残りの時間を楽しんで過ごしてくれ。ここで授業ができて本当によかったよ」

と言った以外は……

 他の授業も淡々と進み、そしていつも通りに終わっていく。今日で世界が終わるんだからちょっとくらいいつもと違うことをしてもいいんじゃないかとも思うのだけど、そんな期待はあっさりと裏切られていくのだった。たぶん、先生達もいつもと違うことをしたいのだろう。だけど、彼らはできないのだ。どのようにやれば、いつもと違う授業ができるのかが分からないのだ。だって長年、教科書読んで問題などをやったりしてといういつも通りのスタイルしかやっていないのだもの。

 僕は窓の外を見ながら、放課後に何をしようかということを考えていた。最後の放課後なのだ、何かいつもと違うことをしてみたい。だけど、いつもと違うことをするとしたって、いったい何をすればいいんだと。それはあまりにも漠然としすぎていた。万引きでもしてみる? いけない、それは犯罪だ。それじゃ、いきつけのゲーセンで今までやったことないゲームででも遊ぶ? ちょっとスケールが小さいか…… 結局何をすればいいのか分からないのだ。いきなり特別なことをやろうと考えたところですぐに思いつくはずもない。だいたい、今日で世界が終わりってのが無茶苦茶すぎる。もう少し、しみじみと物思いにふける時間が欲しかった。あと、あと、一週間ほどあればと思う。だけど、もう世界は終わりなのだ。

 そんなことを考えているうちに午前の授業が終わり、昼休みにはいる。この時間ももう最後なのだ。僕はカバンから弁当を取り出し、そのふたを開ける。今日の弁当の中身はハンバーグ、から揚げ、シューマイなど僕の好きなおかずで彩られていた。母さんも粋な計らいをしてくれるじゃないか。母親最後の心遣いに少し感謝しながら、むしゃむしゃとおかずを食べた。

食べ終わってから少しぼうっとしていると、数少ない友人である砂川珠人と桜道公平がやってきて、

「なあ、今日どうする? いつも通りにゲーセンで遊ぶか?」

彼らも世界が終わるこの日に何をして過ごそうか考えているところだったようだ。

「ああ、どうしようかね。何かいつもと違う事をしようと思っても何をすればいいかまったく分からないし」

「そうなんだよな~。何をすればいいのか、まったく分からない。ちょっと困るよな」

「どうせ最後だし、気になっている女子に告白してみたり、キモメール送ってみたりするのも面白くない? ちょっとやってみたいんだけどね」

 公平がそんなことを提案する。僕はそれはちょっとと思う。僕らは今まで意図的にそういうこととは離れてきたんじゃないか。今更、そういうことをしようという気にはあまりなれない。だけど、提案は少し魅力的でもあった。

「おいおい公平、お前、喪の精神を忘れたのかよ。気になっている女子に告白とかちょっとひよりすぎなんじゃないの? 俺は賛成しかねるね。大体、俺には気になっている女子なんていないし」

 砂川が提案を否定したので、僕はちょっとほっとする。ただ、僕には気になっている子がいて、その子ともう会えないのだという寂しさも少しはあって、ちょっと微妙な気分だった。今までの自分を裏切るわけにはいかない。だけど、どうせ世界が今日で終わるのならば、そのときくらい好き勝手にやってもいいんじゃないかとも思えてくる。さて、放課後に何をしようか。

「え~、だめなのか。じゃあ、砂川は何をしようと思うんだよ?」

そう言われて、砂川は腕を組んで少し考えて、

「いつもと違う事をするにしても、やっぱり喪らしいというか、俺達らしいことをするべきなんだと思うんだよな。そうだ、酒を飲みながらロリ漫画について語るってどうよ? 面白いと思わないか」

 これはちょっと気になる。僕も公平もロリ漫画は大好きで、ロリ漫画専門誌のコミックガールは毎号買っている。どういうことを語ろうとしているのかはちょっと不明だが、ロリキャラの魅力やどういうシチュエーションがいいのか、あるいは下の年齢はどこまでならありなのかなどのテーマを話あうのだとしたらぜひしてみたいと思う。世界の終わりの日にこんなことをするのかよと思われても全然構わない。ていうか、世界の終わりの日だからこそ、そういう一種のばか話みたいなことを話して過ごしたいと思うのだ。

「それいいな~。僕もぜひ参加したいね。ランドセルをしょった女の子がいかに魅力的かってことを教えてやるよ」

公平も目を輝かせながら、この提案を歓迎する。砂川は嬉しそうな顔でやったというふうに手を叩き、

「これで文句は無いな? じゃあ、放課後にな」

 その後はチャイムが鳴るまで、昨日買ったゲームの話をすることにした。出るのを楽しみに待っていて、やっと買ったというのに全クリをするどころかもうほとんどやれないことにたいする寂しさやそのゲームのキャラがいかにかわいいかということについてなど色々。こうやって、ゲームの話をするのももうあと少しなんだと考えると、一分一分や一言一言が非常に大切なものであるかのように感じられる。ああ、もう、このままが昼休みが終わらなければいいのに! だけど、チャイムはいつも通りに音を鳴らす。僕らはふうと溜息をついて、解散をした。

 午後の授業は最後のホームルームだった。来月にやる体育祭についての話し合い……もちろんやる意味は無い。だけど、これは最後の後始末なのだ。もう未来永劫行われる事のない祭りにたいする後始末なのだ。運よく、クラスの誰一人、文句を言うことなくこのホームルームに参加してくれている。欠席裁判でクラス委員長にされてしまった僕はしかたなくも最後の仕事をしようと教壇の前に立って、みんなに体育祭の説明をしようと口を開けた。

「え、え、えっと……こっ、今回はた、た、体育祭の……」

 見事に失敗。僕は噛みまくってしまい、クラスから笑いが漏れる。仕方ないといった感じで副委員長が、

「今回は体育祭のプログラムの希望を取りたいと思います。今回の体育祭のプログラム候補は卓球、バスケットボール……」

とフォローをしてくれた。

 副委員長は黒髪ツインテールで背が小さくて、色白のかわいい女の子だ。実際の年より幼く見える外見とはうらはらにいつも落ち着いているといった感じで、男子の間では「クーデレ」なんじゃないのかと言われている。クーデレというのは「クールな性格なんだけれども好きな人といる時は微妙にデレを見せる女の子」のことを表した言葉である。ただ、彼女は異性には興味がほとんど無いようで、女子同士のそういう話などにはまったくといっていいほど参加しているところを見たことがない。どうやら、世の中には「クーデレ」なんて都合のいい物は無いらしい。少なくとも僕の周りでは無かった…… それでも、僕は副委員長のことが好きだった。自分に特別な興味を持ってもらえなくてもいい。こうやって学級の仕事を一緒にしたり、学級の仕事について話あったり、たまに学校生活のことを話したり、そんなことができたらもう十分だ。それ以上を望んで何があるだろうか……

 副委員長の助けもあって、ホームルームは順調に進んでいき、予定より早く切り上げることができた。僕は帰りの準備をする。砂川や公平はもう準備が終わっていたようで、入口でまだかまだかと待っている。今日で彼らと帰ったり遊んだりするのももう最後なのだ。この残された時間を有意義に過ごしたいと強く思う。もっとも、ロリ漫画について語るのが有意義といえるかどうかは少し疑問の文字が浮かんでくるのだけど……

「待ったせたね。さあ、帰ろう。今日の話は誰の家でやるんだい? うちなら大丈夫だけど?」

待っている友人達に声をかけてから向う僕を引き止めるは副委員長だった。

「委員長、まだ仕事が残ってますよ? 最後くらい手伝ってください」

「いや、最後だからこそ友達と遊びたいかなと…… だめかな?」

「それは了承しかねますね。今までの仕事、ほとんど私に任せて逃げていたじゃないですか。私だって、本当は遊んだりしたいんですよ。だけど、クラスの仕事だから仕方なくやっていたわけで」

「うーん……」

 まさか、副委員長がそんなことを言ってくるとは思わなかった。初めからまったく期待しているようなそぶりを見せなかったどころかお荷物みたいに見ていたように思えるんだけど、何で今さら手伝ってくれなんて言うのだろうか。どうも腑に落ちない……もしかして、最後の最後で副委員長フラグがたったのだろうか? 僕は慌てて、今浮かんだ考えを打ち消す。現実がそんな都合よく進むわけがない、そうに決まっている。今の副委員長の発言は今まで仕事を押し付けてきた(僕は押し付けようと思っていたわけではないのだけれど)僕に対する恨み晴らしなのだろう。少し、気が重くなってくる……

 そんな僕の様子を見て、砂川は申し訳なさそうに、

「本当に悪いけど、今のところは副委員長の仕事を手伝ったほうがいいんじゃないかな。そんな長くかからないだろ? 俺の家で公平と一緒に待ってるからさ。ばっちり、仕事を終わらせて来てくれよ」

公平もうんうんうなずいている。彼らがそう言うのだったら仕方が無い。僕は「分かった」と言い、副委員長に

「まあ、最後だからね。どれだけ役に立てるか分からないけれども委員長として仕事をしていきたいと思うよ。副委員長、どうぞよろしくお願いします」

副委員長はふっと口元に笑みを浮かべて、

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。委員長」

と言った。

 仕事はさっきのホームルームで書いてもらった体育祭に関するアンケートの集計だった。もちろん、このアンケートを集計する意味も無い。副委員長が何を思ってここまでやろうとしているのかは分からないし興味がないのだけれども、ちょっとこれはやりすぎなんじゃないだろうかとも思えてしまう。でも、不満一つ言わずに仕事をもくもくとやり進めるしかない。なぜならこれは、今まで委員長としての仕事をさぼってきた報いでもあるし、ただ仕事をやるだけとはいえ世界最後の日の何時間かを大好きだった副委員長と一緒に過ごせる代償でもあるからだ。

仕事の合間に副委員長に話しかけることができないかと思い、隙をさぐるもなかなか見つけることができないまま仕事は順調に進んでいく。副委員長から声をかけられることもあったけど、送られる言葉は、

「そこの集計間違っていますよ」

 とか事務的な物でしかない。だけど、それはそれでいいのだ。珍しく眼鏡をかけている副委員長の凛と背を伸ばしてアンケートを見ている姿を見ているだけで、それだけで僕の心はある程度は満たされる。彼女の黒髪ツインテールを見るだけで、僕の胸の内は熱くなっていく。その微妙さなバランスはむずがゆくも心地よい。そして、最後のアンケート用紙を処理する時が来た。

「あっ、これで仕事も終わりですね。委員長、ありがとうございます。一人でやっていたら、どれだけ時間がかかったのやら…… 困ったときは委員長の手を借りろですね。普段はあまり役に立たないですけれど……」

 副委員長はそう言って、笑みを浮かべる。それはいつものかわいたような笑みとは違い、どこか幼さが見えるようなそんな感じのものだった。何か本当に心から笑っているような感じの……

「普段、あまり役に立たないってのはちょっと厳しくない?」

 僕も少し笑みを浮かべた顔で聞く。副委員長は少しあきれたような顔を作ってから、すぐにいつもの無表情っぽい顔に戻し、

「委員長は自分がいつも役に立つ人間だとでも思っていたのですか? それはちょっと自己評価が高すぎですね。気をつけたほうがいいですよ?」

「うわっ、手厳しいですね。副委員長は……」

「ええ、そうかもしれませんね」

 時間が止まればいいと思う……あるいはこのまま世界が滅びてしまえばいいと思う。だけど、もちろんそんな都合のいいことは起こらない。帰る準備を終えた副委員長が、

「それでは私は帰りますので。お互い、いい最後の日を過ごせればいいですね」

と言って、教室を出ようと歩く。僕はそんな彼女の後姿をぼうっとしながら見る。告白するのなら今がチャンスだし、このままやり過ごしてしまったら後悔するのは目に見えている。だけど、僕はそういうことをする気にはなぜかなれなかった。

 ただ、副委員長が教室から出るときに

「副委員長と同じクラスになれてよかったと思うよ。本当にありがとう……もう少し色々話とかすればよかったとちょっと後悔してるけど。だけどだけど、僕は……」

と言うことしかできなかった。副委員長がそれを聞いていたのかどうかはよく分からない。ただ、手を上げていたのでたぶん聞いてくれたのだろう。彼女の姿が見えなくなってから、僕は帰る準備を始めた。

 そして、今、僕は砂原の家へと向かっている。好きな漫画についての話をするために。帰る途中で新聞号外が配られていたので受け取って読んでみると、世界が滅びる時間予測が午後11時から午後8時へと縮まったということが書かれていた。たぶん、砂原達と話している間に世界は終わるんだろう。

 それも悪くないと思う……終わりなんてどうせそんなものだ。いつの間にか物語は始まり、そしていつの間にかに終わっている。それが終わりと始まりの本質なんじゃないだろうかと僕は考えているし……劇的な終わりなんてものは多分嘘なんだろうし、本当にあったとしてもどこか遠くのできごとに違いない。僕らは平凡な日常を送るし、平凡な終わりを迎える。そんなものなのだろう……

 色々考えごとをしながら歩いていたら、砂原の家が見えてきた。僕は玄関の前に行き、呼び鈴を鳴らす。それを聞いた砂原がドアを開ける。

「ああ、やっと来たか。じゃ、入れよ」

「おじゃまするよ。今はどんな話をしてたんだ?」

 

 

 

 
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