No.184629

TINAMI学園祭、後夜祭ライブ@体育館

Gimmikcさん

TINAMI学園祭お疲れさまでした。参加した皆さんへの応援と、本イベントを企画されたTINAMIの皆さんへの感謝を込めて一本おはなしを書かせていただきました。一曲目から元気一発で楽しんでください(cf.Hi STANDARD / Start Today→http://j.mp/dtPu08

2010-11-14 23:54:02 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1710   閲覧ユーザー数:1676

#intro

 

「委員長、頼みがあるんだ」

俺は、意を決して、口を開いた。

「え、突然、何? もう時間だよ? 後夜祭ライブ、出番が一番目でしょ?」

虚を突かれた様子で、メガネの女生徒、学園祭実行委員長が答えた。

今は午後5時。

沸きに沸いた学園祭の片付けもほぼ終り、校内に祭りの後の寂しさが漂っていた。

「ああ、お客さんも帰って、学園祭の締め。このライブの為に俺は準備してきたようなもんだからな」

「期待してるね。頑張ってる姿見たら、クラスの皆もサボりっぱなしだった君を許してくれるよ」

誰よりも気を使っていた委員長が、最後に一仕事と笑いかけてくれる。

しかし、少しその笑顔が暗かったのは連日の疲れのせいだろう。その原因の一つは俺だろう。

後夜祭ライブの準備の為に、クラスのメイド喫茶の方はほとんどほっぽっていたからな。

学校全体とクラスの催し物の進行管理、その両方をこなす委員長が裏で俺を庇っていたらしい。

それを聞いたのがついさっきで、なんとしてもライブで返礼したいと考えていた。

「で、頼みなんだが」

「うん? ステージダイブならやらないよ?」

「だろうな。だからクラウドサーフを頼みたい。他の観客にわっしょいわっしょいされる奴」

「無理。スカート捲れちゃう。眼鏡飛んでっちゃう」

「嘘だよ。いくらメロコアな曲やるからって、女子にそんな頼みはしねーよ」

「だよね?」

俺は下らない冗談に頭を掻いて、言葉を続けた。

「締めのライブでうまく盛り上げて、俺はこの学祭を最高のモノにしたいんだ」

「うん。それは私も同じだよ? だから皆で頑張ってきたじゃない」

「頑張れば皆に俺にお礼できるかな」

「そうだね。君の頑張りに期待」

「じゃあ、俺がいい感じに盛り上げられたら一つ。してほしい事がある」

「うん」

言いかけた俺の言葉を遮るように、ドラマー・テツの大声がする。

「おい、シュウ! 何やってんだ、行くぞ!」

「判ってるよ! うっせーな!」

俺も荒々しく答えて、もう一度委員長に向き直った。

そして、そっと耳打ちして体育館のバックステージから仮設ステージへと駆け出していった。

委員長がどんな顔してるかは見ていなかったが、きっとキョトンとしていただろう。

SexPistolsが流れる体育館。

多分、PAの趣味なんだろう。

俺はステージ上から薄暗いあたりを一望する。

遠巻きに腰を下ろした80人くらいの誰だか判らない生徒。

出入口から覗く幾人かの生徒。

こいつらはそんなに盛り上がらない。

だが、ステージに群がる20人ばかりの生徒、こいつらが最高だ。

こいつらをモッシュさせてやる。

メロコアの押し競饅頭だ。

普段から気の合う、同じクラスの林もいたから、十分いけるだろう。

ノリが良すぎる奴だからな。

俺は、壇上の前に作られた、学習机に上板を張った仮設ステージ上でジャンプして強度を確かめる。

ここで俺達が飛んだり跳ねたりすることになる。

サウスポーモデルのエピフォンギター(金が無いからギブソンは買えなかった)のストラップの根本が、しっかりガムテープで固定されているのも確認した。

もう準備万端なベースシスト・ケイと顔を合わせては、ニヤっと笑う。

ドラマー・テツは両手でスティックをくるりと回した。

3ピースバンド「Wristcuts」のギターボーカルである俺は、GAIN全開のマーシャルの音量を8まで回し、左手を挙げた。

ゆっくりフェードアウトしていく『Pretty Vacant』が、完全に消え、俺は息を吸い込んだ。

 

「Now I just start to shout & hop!」

#1 Anisakis Kiss

俺のシャウトを合図にスラッシュビートとパワーコードが一気に解き放たれた。

カウント無しに突撃した俺たちに、完全にあっけに取られた生徒が、慌てて動き始める。

ぽかーんと口を開けてた林なんか、最高だ。

だがもう、両隣の連中と押し合いへし合いし始めた。

一瞬でモッシュピットを作りあげてやったのは、してやったりだ。

深夜パックで借りたスタジオで、このイントロを繰り返し練習した成果だ。

俺は甘んずることなく、ガナリ続けた。

 

「Well cooked Anisakis can’t kiss your stomach, so you had make it safe...」

アツくならなきゃ胃を噛むぜ、というメッセージの、この曲。

そんな事言うまでも無く、アツく盛り上がってるんだから、この勢いでギターを掻き鳴らせばよかった。

最終コーラスに入る前、一瞬のブレイクを突いて、俺はギタースピンを決め、観客に中指を立てた。

右に行ったり左に行ったりする観客を見下ろしながら、激しいリフに、ポップなメロディを載せて、俺は三度目のサビを歌い上げ、アウトロへ入っていった。

#2 Running Nose

間髪入れず、のたうちまわるようなソロがケイのベースから吐き出された。

自分が弾きたいように自分で曲を作る、それが俺達のルールだ。

だから、自分の曲では自分が目立つ。

俺はケイに合わせて5、6弦の低フレットでナチュラルハーモニクスを鳴らす。

電車のブレーキ音に似た音だ。

それに対してスラップベースでケイが応えた。

スタジオ練習ではやってなかったがコイツ、コソ練してやがった。

そんな俺の驚きを見透かしたように、ケイはニタっと笑う。

 

「I have a running nose,running nose,running nose,yeah.

It always irritates me,irritates me,irritates me,

so I want to had it off with」

 

一曲通して、ギターボーカルとベースボーカルのユニゾンで完結するこの曲は、軽めのスカコア調。

淡々としたメロディ作りはケイの得意パターンだ。

ノリの良いリズムで客もぴょんぴょん跳ねるって言い方がしっくりくる。

暴れるというよりは、皆で踊って楽しむタイプの曲だ。

「最初から最後までぶつかり続けると痛いよね」

と言う、ケイの計らいの曲とも言える。

明るいギターソロを弾いていたら、なんとなく笑いがこみ上げてきた。

そして、「running nose,bye!」と叫んでこの曲を締めくくった。

 

開始から全力で飛ばして、息も切れた俺は一口、ペットボトルから水を飲む。

立ちはだかるようにして、見下ろすと観客は今や遅しと次の曲を待ち構えていた。

汗が湯気になっているのは俺だけでなく、観客もだった。

上気した顔で林は俺の名前を叫んでいた。

そんな奴に若干引き気味の不良上級生がいたが、メロコアスイッチの入った林は、

「先輩、ノリ悪いっすねぇ!!」

と構わず煽ってのけた。

モッシュピットの空気が一瞬冷める。

目を付けられたらどうする? という空気が漂った。

だから、俺が行く。

というか、そんなことを考える前に体は飛び出していた。

イントロを掻き鳴らしながらのステージダイブで、先輩と林の間に踊り出る。

そう、次の曲は俺が作曲だ。そして、ラストだ。

#3 What’ya doin’ now?

G→C→Am7→Dの至って単純なコード進行を、先輩に見せつける。

戸惑った先輩にノリが徐々に乗り移ったのを見て、俺はステージに戻った。

上がりかけに尻を押してくれたのは、やっぱり林だった。

先輩も一緒にモッシュして、ゲラゲラ笑っていた。

 

「What’ya doin’? What’ya doin’? What’ya doin’? Now it’s the time to start to end all.」

 

何かと面倒臭いから、未練残さずとっとと終われって曲で、これが初めて作った曲でもある。

とりあえず爆音さえ出せればいい。

そんな考えで始めたバンドで、そんな曲を書いた。

その結果は、目の前の連中が馬鹿みたいに体をぶつけ合っているのだからまぁ良しだろう。

モッシュピットから1m位離れて、委員長の姿も見えた。

かなり引いているが、こんな乱痴気騒ぎが似合うような女の子ではないから当然か。

俺は観客に背を向け、ドラムのテツを煽りに行く。

無論、そんな必要なく一つ覚えみたいなスラッシュビートを刻むテツ。

それどころか無闇に近づいたせいで、テツが力任せに叩きつけたスティックの破片が顔に当たった。

スティックはガンガン削れて、最後まで持つのか怪しい位だ。

そんなテツに手伝う様に俺は左手で力一杯シンバルを叩いて、その場を離れた。

Metallicaのジェームス・ヘットフィールドがやっていたのを真似てみたかっただけだ。

素人まるだしなリフをなんども繰り返し、俺は「this is the end!」と叫び曲を締めくくると、ジャンプした。

興奮冷めやらぬ会場に、一礼する。

今回予定の曲目は終了。

次は本命、軽音部のガールズバンドの出番だ。

「みんなサンキュー。じゃな、fxxk」

俺はそう言って、ギターを外す。

その時。

「……ンコール。アンコール!」

俺は声の出元に振り返る。

そこにいたのは、委員長。

多分無理してるんだろうな、ってのが声からわかる。

だが、俺達に必要だったのはキッカケだけだ。

そう、林がいち早くアンコールを叫び、それが瞬く間にモッシュピットに伝染していく。

俺達はその叫びにむしろ飲まれそうなくらいだった。

「みんな、ありがとう。今日、こんなに喜んでもらえて嬉しい」

俺は、浮かばない言葉をそれでも選びながら口にする。

「こういうイベントって、みんなで作るモンで、俺はクラスの連中とは別路線でやらせてもらったんだけど、そんな我儘ができたのもクラスの皆のお陰です。ホント感謝します」

俺の謝辞にまばらな拍手が応える。

俺はそっと手をあげ、また静寂をとりもどす。

「俺たちがこういうふうに表に出て目立つには、裏でメチャクチャ苦労してる連中がいるからで、今回だったら学祭の実行委員とかだと思う。だから、ここでお礼させてください」

俺は、一瞬身を隠そうとした彼女を逃さずに指を差して、その場に縛り付ける。

「TINAMI学園祭実行委員会、委員長。本当の主役は貴方です。ありがとう」

委員長は、遠くからもわかるくらい真っ赤になって今にも逃げ出しそうだ。

だが、体育館内の俺たち全員からの拍手を受け、何度も頭を下げて答えていた。

評価されるべきの奴が目立つ、それでいい。

「じゃ、気を取り直して、最後に一曲、行くぜ!!」

 

#4 Starting from capital “F”

……

#5 backstage

俺達は持ち曲を演奏しつくした俺達は、爆音に耳がキンキンしながらバックステージに戻ってきた。

すれ違いざまに次の軽音部の連中とハイタッチを交わし、そのまま中指だけ残したのは秘密だ。

「委員長、アンコールありがとうな」

「そんな、シュウ君こそ私の事を紹介してくれて嬉しかった。実行委員、やって良かった」

委員長の目が若干赤いよう見えた。

「せめて、これくらいの罪滅ぼしをさせてくれて良かったよ」

「罪滅ぼしだなんて、格好よかったよ? ありがとう」

そう言って、委員長は顔を手で覆った。

「よぉ! お前らやったじゃねぇか!!」

ガッハッハと遠慮無く入って来たのは、担任の太田だった。

「お前らのバンドすげえな! 先生も盛り上がったぞ。あれ、ヘビーメタルって言うんだろ? 先生もkissとか好きだぞ。こうドガーンっていうのが。おとなしい生徒だと思っていたら、お前もやるときはやるんだな」

あっけに取られた俺に構わず、話続ける太田。

「まぁいい。よくやったな。やり遂げることはいいことだ、今後自信になるぞ、じゃあな!」

そう言って、言いたいことだけ言って太田はどこかに行ってしまった。

生徒のやることにケチをつけることのない、むしろ後押ししてくれる先生だが、色々むちゃくちゃだ。

知ったかぶりまでして、話を合わせて、生徒を肯定してくれる。

先生、俺達がやったのはメロコアです。

あと、kissはヘビーメタルじゃないです。

正々堂々としたロックンロールです。

そんなふうに心の中で訂正しながらも、嬉しくてTシャツの袖で、汗と一緒に目元を拭いた。

目の前にいる、委員長に見られないように。

「あ」

委員長の声に、バレたのではないかと驚きながら、俺は見直した。

「左手の薬指」

委員長に言われて俺は自分の手を見た。

なるほど薬指に切り傷ができていて、そこからちょっとずつ血が垂れていた。

ライブでシンバルを手で叩いた時にできた傷だろう。

「ああ、興奮していて気付かなかった。舐めときゃ治るよ」

そう言って、俺は傷口にくちづけして、血を吸い取った。

「だめだよ? ちゃんと止血しなきゃ」

委員長はポケットから、ハンカチを取り出した。

「今日のお礼にね」

そう言って、俺の薬指を器用にハンカチで巻いて縛った。

こちらこそお礼を言わなきゃいけないのだが、うまく言葉が出てこない。

焦れば焦るほど、ってそりゃそうだ、女子にこんなことされたのなんて初めてなんだから。

四苦八苦しながら、俺はようやく上がってきた感謝の言葉を口にする。

「ああ、fxxkyou」

「え?」

委員長の一瞬たじろぎ、俺と見つめ合う。

そして、俺は自分の言葉を理解した。

え、あ、うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

 

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「Wristcuts」TINAMI学園祭後夜祭ライブ@体育館 setlist

 

#1Anisakis Kiss(lyric:Shu/music:Shu)

#2Running Nose(lyric:Kei/music:Kei)

#3What'ya doin' now?(lyric:Shu/music:Shu)

#4Starting from capital"F"(lyric&music:Wristcuts)

 

「Wristcuts」members

"Shu"渡辺修一(2年4組)g/vo

"Kei"浦沢圭(2年1組)b/vo

"Tetsu"所沢哲夫(3年7組)ds/vo


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