No.183292

双極を端から臨む 戦国BASARA

ヒロさん

戦国BASARAアニメ版1期より、幸→小十ss・佐助視点です。
拙作「下弦の脳裡に浮かぶ」、「陽の如く眩しからんや」の続編的な内容です。
佐助の気苦労が増えました(笑)

2010-11-08 00:53:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:777   閲覧ユーザー数:774

前から頭が痛いと思うことはあったけど、こんなに頭が痛いのは初めてだ!

 

 

双極を端から臨む

 

 

真田の旦那が竜の右目に懐いた。

 

―・・・ああ、懐きまくっている。揶揄じゃなくてね!

 

朝起きて大将んとこ行って、鍛練(という名の破壊行為にしか俺様には思えない)して、朝飯食って。

そうして竜の右目を探す。

それが習慣付いてきているらしい。

 

―有り得ない。本っ当に有り得ない!

 

最近、朝飯の後に鍛練所にも館の室にも姿が見えないから、おかしいとは思った。

 

―厨か町にでも行ってるのかな?

 

ここは甲斐だ。大将のおかげで治安はいいし、真田の旦那も慣れた場所。

 

―まあ、子供じゃないしね。

 

大して気にすることじゃない(けして心配なんかはしていない)。それに自分には任務がある。

上杉と同盟して、北条を攻めて、織田が動いて、伊達をかくまって、松永とやりあって。忙しいったりゃありゃしない。

・・・忙しさにかまけて油断していたと言えなくもないのが悔しい。

 

真田の旦那が竜の右目と談笑しているのを見たときは引っくり返るかと思った。

 

談笑といっても、真田の旦那が一方的に話しているようだ。

竜の右目は時折静かに相槌を打っている。

それが、館の廊下、武田の使用人や兵が通り過ぎる中で平然と行われている。

皆、見慣れているのか、微笑ましそうに目をやるだけだ。

 

―ちょっとちょっとちょっとおおお?!

 

思わず冷静に観察してしまうところだった。

 

「ちょっと、旦那?!」

 

俺様が声を掛けると、真田の旦那は満面の笑みをちょっと引っ込めて(なんか腹立つ!)こちらを見た。

 

「おお、佐助!しばらく見なんだが、どうした?」

 

―お仕事ですよ!

 

腹の中で思いっきり叫びながら、ずんずん近付いた。

真田の旦那は顔をこちらに向けたものの、その場から動かない。

 

―この数日に何が・・・?!

 

この真田の旦那の様子は尋常じゃない。

が、館に常駐している忍達からは特別報告を受けていない。

ということは、真田の旦那が竜の右目に篭絡されたとかそういう事ではないようだ。

まあ、大将に心酔している旦那に限って有り得ないことだが。

 

すぐ傍まで寄って旦那を睨みつけるが、きょとんとしている。

 

―~~~この人はー!!

 

少しは自分の立場というか相手の立場というか俺様の立場というかそういう諸々のものに気を配ってくれてもいいのではないか?

 

憤懣やるかたない思いを抑えて自分の主を睨んでいると、静かな声が掛かった。

 

「俺はここで失礼する。」

 

ふっと風が起こり、目の端に茶色と水色が翻る。

目をやれば、下弦の月が遠ざかっていくところだった。

 

「あ、片倉殿!また明日に!」

 

真田の旦那が咄嗟に声を上げる。

 

―また明日ってなんだ!

 

叫びそうになるのを奥歯を噛み締めることで堪えた。

すると、真田の旦那がこちらを見る。

・・・恨みがましそうな顔をしてるのは何でだ。

 

「片倉殿が行ってしまったではないか。佐助、何用だ?」

 

 

血管が切れるかと思った。

 

 

問いただしてみれば、松永の件があった後すぐに真田の旦那の方から声を掛けたらしい。

内容は有って無いようなもののようだ。洒落を言ったつもりはない。

しかも、半刻とか半刻と四半刻とか、長時間にわたる事もあったらしい。

 

―よくもまあ、そんな長い時間話すことがあるもんだ。ていうか、竜の右目も暇なのか?

 

そりゃ暇だろう。今は国元ではない。仕事は少ないだろう。じゃなくて。

今日は四半刻も話せなんだ・・・、そう言って竜の右目が去った先を見やる旦那。

ぞっと悪寒が走るのを感じた。

 

―ヤバイ、これはヤバイ!

 

どこぞの金髪の忍びのような目をしてるじゃないか?!

思わず真田の旦那の二の腕を掴む。旦那は驚いてこちらを見た。

さっきの表情が形を潜めたので、取りあえずホッとして、それは表に出さず真剣な顔をして旦那に言う。

 

「旦那、自分が何してるか分かってるの?」

「何とは何だ?」

 

駄目だ、全く分かってない。

 

「あのねえ、旦那。あの人は奥州の人なんだよ?」

「いかにも、片倉殿は奥州の方であるな。」

「・・・奥州筆頭、伊達政宗の忠臣なんだよ?」

「うむ、片倉殿の忠義には目を見張るものがある!先日、政宗殿をお留めになった時など、俺とお館様の間に通ずるものがあった!」

「・・・・・・すっげー強い人なんだよ?」

「うむ!あの廃寺での覇気は素晴らしかった!お館様にも引けを取るまい!!」

 

―・・・あー、アレとソレにやられたわけね。

 

駄目だこの人、自分の立場とか相手の立場とか俺様の立場・・・は、まあ置いといて(置いといて欲しくないけど)、そういうのが全部吹っ飛んでる。

あー、さっきもそんなこと思ったな・・・まあ、この人がこんな状況じゃ無理か・・・普段から無理っぽいけど。

これは一言、きつく言っておかなければならない。

 

そう思って口を開こうとしたとき、ふと大将が頭に浮かんだ。

あの人がこの事を知らないわけがない。

 

―何かあるのかな。俺様が知らない裏事情とか。

 

自分が把握していないことなどほとんど無いといっていいが、大将の心中を察するのは難しい。

 

―聞いといた方がよさそう、かな。

 

掴んでいた腕を放すと、それまでずっと何事か力説していたらしい旦那が口を止めた(旦那は結構おしゃべりだ。こう見えて。)。

 

「佐助?どうしたのだ?」

 

怪訝な顔をして、こちらの顔色を窺う。

 

―ホント、変なところは鋭いのにね。

 

「なーんにも。ちょっと大将のとこに行ってくるわ。」

「そうか?ご苦労。」

 

仕事の報告にでも行くと思ったのだろう。旦那はあっさりと頷いた。

 

―・・・何か腹が立つなあ。

 

深く考えるのは止めて、大将の元へと向かった。

 

 

「なんですか、アレ」

 

突然、自室に現れた気配と掛けられた言葉にさして驚く様子もなく、信玄は口を開いた。

 

「うむ、仲良きことは美しき哉。」

 

―なんか違うし!

 

佐助は再び湧き上がってくる怒りを押しとどめ、黙っていた。

忍の静かな怒りを感じたのか感じていないのか、信玄は大口を開けて笑った。

佐助はむっつりと黙りこくるだけだ。でなければ怒鳴ってしまいそうだった。

 

「ふむ、お前はどう見る?」

 

信玄は笑いを治め、佐助に問うた(それでも口の端は笑っていた)。

 

「どうもこうも・・・今日初めて見たんですよ。・・・ヤバイんじゃないですか、アレ。」

 

やはり、信玄は何かしら考えがあるようだ、と佐助は思う。その上で言上した。

 

「儂は案じておらぬ。」

「・・・なんでですか。」

 

信玄の確りとした言葉に佐助は問いかけた。

人の心は移ろいやすい。それは幸村とて同じ。・・・いかに猪突猛進といえど。

信玄以外の人間の元へ向かう事だって有り得なくは無い。

・・・幸村が聞いたら烈火のごとく怒り出すであろうが。

 

「あれは憧れておるだけよ。」

 

・・・憧れ?あの、幸村が、信玄以外に?

今まで無かったことだ。それだけでも十分脅威ではないか。

 

「他国の臣と触れ合うことは、あれにとって身となろう。」

 

それが目的というのだろうか。幸村の様子を見ると少々危険が大きすぎる気がする。

佐助が黙していると、信玄はまた大きく笑った。

 

 

結局、それ以上信玄が語ることなく、佐助は御前を辞した。

信玄は動かない。それは確認できた。

ならば自分が動かねばならない。

 

―真田の旦那を疑うわけじゃないけど。

 

布石は多いほうが良い。それは佐助の忍としての信条でもある。

 

―まずは相手を知らないとね。

 

佐助は館の忍から使用人から兵から話を集めた。

竜の右目、片倉小十郎の評判はすこぶる良かった。

曰く、館内で怪しい動きをした事は一度も無い。曰く、ちょっとした仕事を手伝ってくれた。曰く、配下への目配りも優れ統率が取れている。

そして、幸村と仲が良い、と誰もが口を揃えた。

 

―頭が痛くなってきた。

 

隙が無さ過ぎる。正直な感想がそれだ。その上で幸村との関係も良好らしい。

・・・自分で思ってげんなりとした。

 

―関係って何だ、関係って。

 

余計な考えだ、と佐助は痛む頭に手をやった。

 

―旦那に限ってそれ無いと思うんだけどなー。

 

しかし、女の前での極度の破廉恥症を考えれば有り得なくも無いのか・・・。

 

―止めた止めた!コレはなし!

 

考えたところではじまらない。ソレばっかりは考えてどうにかなるものでもないのだ。

接触を減らせば幸村も落ち着くのだろうか。いや、逆効果ということも有り得る・・・。

 

―あー!だから止め!

 

考え過ぎは良くない。思考の停止に匹敵する。

 

―とりあえずは様子見か。

 

それしかない。幸村の行動は止めようとしても無理だろう。それはこれまでの経験から重々承知している。

 

―要は相手の出方次第。

 

手強い相手だ、佐助は思う。ここまで評判が良い武将を佐助は知らない。

弱みがあるなら掴んでおきたいところだ。

 

―下手に突っつくとこちらが危ない、か。

 

あの廃寺でも自分が潜んでいたことに気付いていたようだった。

自分が出ていっても眉一つ動かさなかった。

それどころか、解毒薬入りの煙玉を説明一つで深く吸い込んだ剛胆さには驚かされた。

 

―・・・俺様までこの調子でどうすんの。

 

本当、手強い相手だ。

 

 

片方の手首を掴み上に強く引き、身体を伸ばす。

 

―忙しくなりそうだ。

 

廊下に目をやれば、一方に紅、一方に茶が見える。

 

―ま、お手並み拝見といきますか。

 

 

視野に二つを目に入れながら、佐助は跳んだ。


 
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