No.182837

残された時の中を…(第6話)(2003/12/08初出)

7年前に書いた初のKanonのSS作品です。
初めての作品なので、一部文章が拙い部分がありますが、目をつぶっていただければ幸いです(笑)。
北川君の口から語られる過去とは?

2010-11-06 00:09:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:456   閲覧ユーザー数:453

「私は北川さんのことが…、ずっと…、好きでした…」

 

 「え…?」

 

 “栞が好きなのは彼女を助けた祐一のはず…”

 

 今までそう思ってきたのだ。

 

 

  それ故に栞からの告白は、北川にとって

 にわかに信じられるものではなかった。

 

 「今…、何て…?」

 

 「北川さんのことが好きだって…、言ったんです…」

 

 「そ…、そんな…。で…、でも栞ちゃんって…、

  相沢のことが好きだったんじゃ…」

 

 「確かに…、祐一さんのことも好きだって…、

  思ってたときもありました…。でも…、

  北川さんが事故に遭ったとき…、

  北川さんのことしか頭になくて…。

  それで北川さんの意識が戻ったって…、

  聞いたときに分かったんです…。

  私が一番好きなのは…、北川さんだって…」

 

 (栞ちゃん…)

 

 

  しゃくりあげつつも必死に言葉を紡ぎ出す栞に、

 北川もまた胸の感触を忘れていつしか栞の言葉に耳を傾けていた。

 

 「でも…」

 

  北川を抱きしめる力が更に強くなる。

 

 

 「せっかく北川さんが退院したのに…、

  病気だなんて…、あんまりですよ…。

  みんな助かったのに…、北川さんだけ…、

  まだ苦しまなきゃならないなんて…。

  こんなの…、こんなの不公平じゃないですか…」

 

 「仕方ないことだよ…」

 

 「仕方なくないです…!いくら何でも…。

  だから…、妹さんからお願いされたとき…、

  北川さんのそばにいて…、支えになりたいって…、

  そう…、思ったんです…」

 

 「そうだったのか…。でも…、

  もう十分だよ…。ありがとう…」

 

  栞から離れようと上体を起こそうとした。が、

 栞は北川を離そうとはしなかった。

 

 「ダメです…。まだ…、震えてるのが分かります…」

 

 「でも…」

 

 

 「私がそばにいてあげますから…。

  今は思い切り泣いてください…」

 

  そう言って北川の背中を優しくさすってやる。

 あたかも泣いている我が子をあやしている母親の様に…。

 

 

 「母…、さん…?」

 

  思わず口にした母親の呼び名。

 彼にとって今の栞は久しく接することのなかった母親の様に思えた。

 

 

  そのとき北川の脳裏を幼き頃の、母親が生きていた

 彼がまだ2歳の頃の記憶がふとよぎる。

 

 

“うわあぁーーん!お母さーん…!痛いよおー!!”

 

 

 “あらあら。転んじゃったのね…。潤”

 

 “痛いよおー…。痛いよお…”

 

 “ほらほら…。痛くないから。潤君は男の子でしょ?

  泣いちゃダメよ。おまじないしてあげるから、ね”

 

 “痛いよお…”

 

 “ 痛いの痛いの飛んで行けー!

 

  ね?痛くなくなったでしょ?”

 

 “痛いよお…”

 

 “あらあら、困ったわねえ。なら”

 

  泣きやまぬ我が子を母親は優しく抱きしめてやる。

 

 “お母…、さん…?”

 

 “痛くなくなったでしょ?潤君”

 

 “うん…”

 

 “さ、絆創膏を貼りましょう”

 

  母親の優しい抱擁にいつしか少年も泣きやんでいた。

 

 

 “いい?潤君。潤君はこれからお兄ちゃんになるんだから

  もう泣いちゃダメよ?赤ちゃんに笑われちゃうわよ”

 

  この時、彼女のお腹の中には3ヶ月目の双子の赤ん坊、

 北川 潤の妹になる姫里と空の姉妹が宿っていた。

 

 “うん…。分かったよ。お母さん”

 

 “よし。それでこそ潤君よ”

 

 

 “ねえ?”

 

 “何かな?”

 

 “赤ちゃんてどこにいるの?”

 

 “お母さんのお腹の中よ♪”

 

  まだそれほど目立っていないお腹をさすりながら微笑んで答える。

 

 “コウノトリさんがお母さんに運んで来てくれたの♪

  これからね、お母さんのお腹がどんどん大きくなって…”

 

 “割れちゃうの…?そしたらどうなるの?”

 

 “ふふ…。大丈夫よ。大きくなったら赤ちゃんが生まれるの”

 

 “そしたら…?”

 

 “その時は潤君はお兄ちゃんになるの。

  お兄ちゃんになったら好き嫌いしちゃダメよ”

 

 “でも…。ぼくにんじんとピーマン食べられないよ…。どうしよう…?”

 

 “ダメよ。好き嫌いしてたら。潤君がそうだったら赤ちゃんも好き嫌いしちゃうわよ。

  そうなったら赤ちゃんも潤君も大きくなれないわよ。それでもいいの?”

 

 “うん。分かった。ぼくちゃんとにんじんもピーマンも食べるよ”

 

 “約束ね”

 

 “うん。早く赤ちゃんに会いたいな”

 

 “大丈夫よ。春になったら会えるわよ。

  その時は赤ちゃんにこんにちわって言おうね♪”

 

 “うん!!”

 

 

 

 

 

  だが、この様な楽しい触れ合いは長く続くことはなかった。

 半年後、彼女はこの世を去った。

 

 

  皮肉にも難産だったが故にどちらかを犠牲にしなければならなかったのだ。

 彼女は自らの命と引き換えに姫里達を産むことを選んだ。

 

 “あなた…。潤と…、赤ちゃんを…、宜しくね…”

 

 “ああ…。3人のことは任せてくれ。きっと立派に育ててみせる”

 

 “お母さん…。死んじゃいやだよう…”

 

 “潤…、君…。泣いちゃダメよ…。お兄ちゃんになったんだから…”

 

 “だって…。だって…”

 

 “ねえ…。潤…、君。私からの最後のお願い…。聞いて…”

 

 “なあに…?”

 

 “どうか…、強くて…、思いやりのある…、

  優しい…、お兄ちゃんになって…、ね…。約束よ…。

  天国で…、見守ってる…、からね…”

 

 “うん…。僕…、約束守るから…。絶対…、に…”

 

 

 “よし…。それでこそ…、潤君よ…。

 

   2人とも…。後は…、宜し…、く…、ね… ”

 

 

  精一杯の笑顔を愛する我が子と夫に向け、

 その笑顔のまま彼女は永遠の眠りについたのだった。

 

 

 “お母さああん…。起きてよぉ…”

 

 “潤…”

 

 “あああああああん!お母さああああん…!”

 

 “潤。泣いてたらダメだよ。それじゃ強くなれないよ”

 

 “だって…。お母さんが…”

 

 “お母さんになら夢の中で会えるよ…。だから…、もう泣いちゃダメだ…”

 

  泣きわめく我が子を父はそっと抱きしめてやる。

 

 “お父さん…?”

 

 “潤。まだ辛いだろうけど、潤は独りじゃない。

  お父さんがいるし赤ちゃんもいるんだ。だから

  お母さんの為にも、もう泣いてたらダメだぞ”

 

 “うん。もう大丈夫だよ”

 

 “よし。それでこそ潤だ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (父さん…、母さん…)

 

 

 

 

 

 「助けて…。俺…、まだ…、死にたくねえよお…」

 

  今まで他人の前で泣くことはほとんどなかったが、

 いつしか栞の胸の中で咽(むせ)び泣いていた。

 

 「グスッ。チキショォ…!死にたくねえ…。助けて…、

  助けてくれよぉ…!!グスッ。チキショォ…!

 チキショォ…! 」

 

 

 (北川さん…)

 

  栞にとっていつもは大きく見えていたはずの北川の背中がこの日は小さく思えた。

 

 「グスッ、嫌だよぉ…。まだ…、死にたくねえよぉ…!

  チキショオ…!チキショオー!」

 

  “きっと私ですら想像出来ないほどの苦しみや恐怖の中で彼は闘っていたのだろう…”

 

 そんな北川を抱きしめながら震えている背中をさすり続けるのだった。

 

 

 

 

 

「どうですか?気分は」

 

 「ああ、いくらかマシになったよ…」

 

  うつむきながらコーヒーをすすっていたものの、

 先ほどの様にふて腐れた雰囲気はなくなっていた。

 

 

 「さあ、夕飯の支度を続けなくちゃ」

 

 

 

 

 

 「さあ北川さん♪めしあがってください♪」

 

 「あの…、栞ちゃん…。これって…」

 

 「はい♪北川さんの為に作った私の愛情たっぷりの晩御飯です♪」

 

 「いや…。そうじゃなくてこの重箱はどこから持ってきたんだい?

  それにこの飯の量は…?4人前はあるんだけど…」

 

  食卓の上には重箱の中に山盛りによそわれたご飯、

 3箱もの器に盛られたおかず、そしてタッパに詰められた果物が置かれていた。

 

 

 「北川さんならこれくらい食べると思って…♪

  あ、お代わりいくらでもありますから♪」

 

 「いや…、こんなに食べられないって…。そもそも

  これだけの材料、家にはなかったはずなんだけど…?」

 

 “ひょっとしてスカートのポケットに色んなもの入れていたのか?”

 

 と聞こうとしたが、栞の機嫌を損ねるのではと思い、黙って食べることにした。

 

 

 「いただきます…」

 

  パクッ 

 

 「どうですか?」

 

 「ああ…、文句なしにうまいよ…」

 

 「本当ですか!?

  誉めてもらえて嬉しいです♪腕によりをかけた甲斐がありました~♪」

 

  栞が目を輝かせて喜ぶ。北川自身もお世辞ではなく

 何度も舌鼓を打ったほど栞の料理の腕を認めていた。

 ただ、半端ではない量だったので一度で食べ切ったことまではなかったが…。

 

 

 「私もいただきます♪」

 

  北川の向かい側に座って栞も夕食をとることにした。

 

 

 

 

 

 「ゲフッ…。もうごちそうさま…」

 

 「むーっ。まだ残ってますよ…!

  私の料理を残す人は人類の敵です!」

 

 「そ…、そう言われても…。これだけの量を

  いっぺんに平らげるのはちょっと…」

 

  頬を膨らませている栞に苦しそうに腹をさすりながら答える。

 重箱の方のご飯はまだ半分以上も残っていた。

 

 「ダメです!残したりしたらバチが当たりますよ!」

 

 「あ…、明日食うからさ…。だから今日のところは勘弁して…」

 

 「仕方ないですね。その代わり全部食べてくださいね」

 

 「ああ…、栞ちゃんも量減らしてね…」

 

 

 

 

 

 「ところで…」

 

 「ん?何だい?」

 

 「何で北川さんはここで一人暮らしを始めたんですか?」

 

  栞が空いた食器を片し、重箱を冷蔵庫に入れながら尋ねてきた。

 

 「何でって…。そりゃ親戚にあまり負担かけたくないからさ…」

 

 「それだけですか?」

 

 「それだけって…?栞ちゃんはどう思ってるんだい?」

 

 「分かりません。ただ、高校生の時から一人暮らしするのは

  いくら何でも早すぎると思うんです。色々と大変でしょうし。

  それだったら大学生になってからの方がいいに決まってます。

  何か…、あったんですか?」

 

 「何かって…」

 

 「教えてください」

 

 

  後片付けを終え、北川の前に真顔で正座する。

 

 「お願いします」

 

 「分かったよ。その前に姫里達からどれくらい聞いたんだい?」

 

 「確か、入院した時に北川さんの病気が分かったということと、

  私のことを一番嬉しそうに話していたということだけです」

 

 「それだけかい?」

 

 「はい」

 

 「そうか…、分かった。その前にこれだけは約束して欲しい。

  このことは誰にも、相沢や美坂達にも黙ってて欲しい」

 

 「分かりました」

 

 

 

「俺が自分の病気のことを、白血病を知ったのは

  もう3年位前のことだったな…。そう…、

  親父を失った事故で入院してたあの時からだよ」

 

 「え…!!?3年前って…?」

 

  “3年間も北川は一人で闘っていたのか?”

 

 想像した以上の話に言葉が出なかった。

 

 「でも姫里さん達は今年知ったって…」

 

 「2人ともずっと前から知ってたよ。親戚の麻宮さんもね。

  ただ、ここに来る前に色々とあったんだ…。

  俺が病気なのに一人暮らししていれば

  何があったのか知りたくなるだろ?」

 

 「はい」

 

 「姫里達はそこまで詮索されたくなかったんだと思う。

  だから今年知ったってことにしたんだろう」

 

 「でも…、良いんですか?

  妹さん達が話したくなかったことをここで話して…」

 

 「構わないさ。あくまで秘密にするって前提で話してることなんだ」

 

 「それで…、一体何があったんですか?」

 

 

 

 

 

 「白血病ってのは初期症状で疲れ易かったり

  熱が少しあったりするものらしいんだ。

  俺が事故で入院する前もそんなことを自覚してた」

 

 「だったら…、何で放っておいたんですか!?

  病院に行けば治ったかもしれなかったのに…!」

 

 「単なる軽い風邪だって思ってたんだ。

  時間が経てば治るって思ってたんだけど、

  なかなか良くならなかった。風邪薬を飲んだりもした。

  そんな状態が1年くらい続いたあの日、俺は事故にあって入院した。

  1週間くらい意識を失ってて目が覚めたとき、

  麻宮さんと姫里と空はそれは喜んでいたよ。

  でもその中にどこか悲しそうな表情も混じっていたんだ。

  最初は親父を失ったことだったのかなって思ってたんだけど、

  その時はまだ病気を知らされてなかったから分からなかった。

  それからしばらくして当時の担当の先生から病気のことを知らされた。

  白血病だけど今から治療すれば十分治せる病気だってね。

  それから、リハビリと治療の日々が始まった。

  相当辛かったし、薬のせいで髪の毛が抜けちまったりもしたけど、

  我慢して何とか乗り越えようとした。周りの人を安心させたかったし、

  何より病気が治せるって信じてたしね…。

 

  でも…、ある日知っちまったんだ…。

 

  回診の際、偶然カルテが目に入って書いてある文字を読んでみたんだ。

  そこには、俺の病気は既に末期に入りつつあることが書かれてた。

  その時取り乱しながら突っかかったことを今も覚えてるよ。

 

  “どんな辛いことでも我慢するから助けてくれ!まだ死にたくない!”

 

  ってね。でも、周りは首を横に振るばかりだった」

 

 「そんなことがあったんですか…」

 

  いつしか寂しそうな表情に変わっていた栞は、

 今の話に姉から死刑宣告された、かつての自分とを重ね合わせていた。

 

 

  その時は笑って受け流したものの、一人になったときは

 ベッドに潜り込んでひどく号泣していたものだった。

 

 

  今の北川と同じく、

 

 “死にたくない…”

 

 と…。

 

 

 「ところで、今薬のせいで髪の毛が抜けたって聞きましたけど、

  ひょっとして昨日まで入院していたのも…?」

 

 「ああ…、栞ちゃんが見舞いに来てくれたあの時は怪我より病気の方が

  重かったわけだから、ほとんど治療の為に入院してた様なもんだよ。

  頭の包帯は頭を隠す為の言わばカムフラージュだったってことさ…。

  まだ誰にも知られたくなかったしね…。

 

  その後自殺まで考えたこともあったんだ。

  果物ナイフで手首をスパッ、とね。でも…、

 

  “お袋が幼い頃に死んで、親父まで失っちまったのに

、  俺まで死んだら、遺(のこ)された姫里と空はどうなっちまうんだろう”

 

  ってふと思ったんだ…。そしたら自然に涙が出てきて、

  ナイフを床に落としてた。せっかく生きてられたのに

  こんなところで自殺するのが何か馬鹿らしく思えてきたんだ。

 

  “死ぬなら精一杯生きてからにしよう…”

 

  そう思ってまたリハビリと治療に専念して、夏休みの終わりに退院した」

 

 

 「そう…、だったんですか…」

 

  今の話もかつて病魔の恐怖、そして姉とのすれ違いによる悲しみから

 カッターナイフで手首を切りかけた自分と共通していた。

 

 

  あゆと祐一との出会いがあの時なければ、きっとこの世にはいなかった。

 

 

  カッターナイフで手首を切りかけたあの夜、

 栞の脳裏にはふと祐一とあゆの楽しそうな表情が浮かび、

 結果としてそれが自殺を思い留まらせたのだ。

「それから、麻宮さんの養子として俺ら3人は暮らすことになった。

  とは言っても、住んでいた場所からはそんなに遠くはなかったから、

  3人とも学校はそのままだったけどね。

  でも…、俺にとってはそれからが大変だった…」

 

 「何があったんですか?」

 

 「新学期になってから、今までの様に普通に接してくれる奴が

  ほとんどいなかったんだ。その理由が

  俺が不治の病を患っているって噂が流れてたからだった。

  どういったいきさつで知られたかは分からなかったけど、

  少なくとも身内しか知らないはずだったんだ。

  ショックだったよ…。知られたくなかったことが知られていたのは…。

 

  俺を敬遠する奴もいれば、無視する奴もいたよ。

  俺が病気ってだけでここまで環境が変わるとは思わなかった」

 

 

 「そんな…。たったそれだけで…」

 

 「辛かったよ…。今まで友達だと思ってた奴も俺を避けてたし、

  前まで俺に勉強を教えてもらってた奴も他の奴に聞いてたんだ。

  その中であいつだけは前と同じ様に接してくれた」

 

 「あいつっていうのは…?」

 

 

 「ああ…、まだ言ってなかったよな。

  翔太っていって俺が向こうの小学校に転入したてのときに

  俺に最初に話しかけてきてくれた奴だったんだ。

  最初は緊張してたけど、あいつのおかげで

  新しい学校にもすぐなじむことが出来たんだ。

  その日からあいつとは親友になって中学校も一緒になった。

  俺が入院してた時もよく見舞いに来てくれたっけな」

 

 「あの…、翔太さんはこのことは…」

 

 「いや…。あいつも知らなかったと思う。

  たとえ分知ってたとしてもそんなことを軽々しく口にする奴じゃなかったよ…!」

 

 「ごめんなさい…。そんなつもりじゃ…」

 

 「いや…、いいよ。

 

  学校では俺とあいつが中心になって話題を作る方だったんだ。

  そんな俺達は“翔太チーム”って呼ばれ始めて、いつの間にかそれが定着してた。

  でも病気のことが知れ渡ってから俺は一人ぼっちになって、

  翔太チームという言葉を聞くこともなかった。

 

  そんなあるとき、あいつは俺を自分のグループの中に引き込んだんだ。

  そこでは気まずい雰囲気が流れてたし、俺自身も余計なお節介にしか過ぎなかった。

  結局はそのまま解散しちまって、俺は聞いたよ。

 

  “何であの中に俺を入れたんだよ?お節介はやめてくれ”

 

  ってね。あいつはこう答えた。

 

  “お前がどんな病気だったとしても潤は潤だろ?

   それ以外何も変わりないじゃん。そんなことより

   翔太チームを復活させようぜ!

   お前もいて初めて翔太チームになるんだからさ”

 

  それを聞いたとき涙を流したほどすごく嬉しかった。

  その後あいつと一緒にグループを作って、

  俺らが中心になって色んな話題を持ちかけた。

  最初こそぎこちなかったけど、いつしか

  俺に自然に接してくれる奴が増えて、翔太チームも復活した。

  俺が病気だってことで遠慮してた奴もいたけど

  ほとんど元の関係に戻って、俺の居場所も戻ってきた。

  それからまた充実した生活が送れるはずだった…!」

 

 「でも…、それならここで暮らす必要はなかったんじゃ…?」

 

 「そこで終わっていればね…。

  でも…、それからが一番辛かったんだ…。

  よりによって…、あんなことになっちまうなんて…!」

 

  吐き捨てる様にうつむき、呟く。傍目にも

 悔しさと怒りを抱いていることは明らかだった。

 

 

 「一体…、何があったんですか…?」

 

  普段の北川からは想像の付かない表情に躊躇しつつも、

 思い切って聞いてみることにした。

 

 「教えてください!」

 

 「悪い…。ここまでがいいだろう…」

 

 「そんなこと言わないでお願いします!」

 

 「そう言われても…」

 

 「お願いします!」

 

 

 「分かった。ただ、これから話すことは

  少しきついことかもしれない…。それでも…」

 

 「大丈夫です。覚悟はしてるつもりですから…」

 

 「そうか…。なら話を続けよう…」

 

  うつむけていた顔を栞の方に向け、中断していた話を再び始めた。

 


 
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