No.182395

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第53話

第53話です。

文化の日…ぶんか…ぶんか

でっ…デカルチャーああああ!!!

2010-11-03 21:49:23 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:5005   閲覧ユーザー数:4606

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください

 

 

「田豊が陣を出た?」

 

片膝を着いて頭を下げる間諜の報告に英心は扇子を仰いでいた手を止め振り返った

 

「はっ!おそらく文醜隊への視察に出たかと思われます」

 

恭しく頭を下げる目の前の兵から続いて出てきた言葉に扇子を閉じパチンと掌に打ち付ける

 

「…ふむ」

 

(僕に何の進言もなしの行動…いよいよ魏が動き出したか)

 

ここ数日不気味なほどに沈黙を続けていた魏軍

 

対して袁家は敵輸送隊への襲撃、及び兵糧の確保を着々と進め、事態は長期戦の様相を見せていた

 

(それがここにきて…つまり)

 

つまり

 

「此方の兵糧の場所を付きとめられたか」

 

大規模な動きこそなかったが連日、魏の間諜が周辺を走り回っていた事は既に報告が入っている

 

それでも間諜を捕まえることもなく今日まで見逃し続けていたのには理由がある

 

戦局が決するまで沈黙を続ける

 

勝敗の行方がどちらに転がろうとも自分自身は勝ち馬に乗るつもりでいる

 

あくまで目的は漢王朝の復古、そして嘗て自身が立ち、見下ろしていた景色を取り戻すこと

 

結局のところ彼にとって関係ないのだ

 

袁家が勝とうと

 

魏が勝とうと

 

(帝を立てることさえ出来ればね)

 

袁家の陣にいるのはあくまで入り込み易かったため

 

この戦で袁家が敗れるのであれば

 

袁紹を曹操に差し渡せば良いだけのこと

 

曹操が敗れるのであれば

 

帝を手中に収め、袁紹を踏み台に自分が立てば良いだけの話

 

そして今

 

官渡の戦いは変局を迎えようとしている

 

終焉に向けて

 

ならば自分は

 

引いてやらねばならない

 

袁紹の首にかけた綱を

 

「ついておいで…高覧」

 

口の端を上げ入り口の幕へと手をかける

 

(…まいったな)

 

まだこれからだというのに

 

笑いが止まらない

 

 

 

「まずいですな」

「洒落にならん状況ですよ」

 

口々に弱音を吐く部下達を背に猪々子はこの状況をどうするべきか思考に耽っていた

 

目の前に立つは関羽嘗て連合においては肩を並べて共に戦っただけに彼女の実力は自身の目で見てきたし十二分に承知している

 

すなわち

 

(あたいじゃ相手にならない)

 

共に将という立場にありながらその実力においては明確なまでに差がある

 

斬山刀を持つ手が汗ばみ、全身が小刻みに震えている

 

この場に斗詩や比呂がいようものならこれは武者震いだと笑って見せたものだが一人でいるこの現状が彼女の持ち前の明るさを打ち消してやまない

 

「さて…参られよ」

 

来いと言われれば飛び掛る性分のはずの自分がこの場ではそれすら間々ならず、むしろ気圧されて下がってしまう

 

そして彼女が下がった分、関羽は一歩踏み出し

 

それに合わせる様に彼女達を取り巻く包囲もまた狭まっていく

 

(どうする…どうする?)

 

悠の命令を聞くのであれば此処は一にも二にも撤退するべきだ、事実真っ向からやり合えば全滅は必須…何より

 

(関羽が此処に出てきた…つまり、魏の本隊は別を向いている)

 

劉備に使えている筈の彼女が何故此処にいるかは分からない、しかし魏は袁紹軍との戦の先陣にこのカードを『敢えて出してきた』

 

つまり

 

元から余剰戦力として見ていた筈の関羽はあくまで見せ札

 

本懐は別にある

 

(旦那に知らせなきゃ…でも)

 

何故だろう…彼女が姿を表してから胸の置くがチクチクと痛む

 

予想外の人物に面食らってのものではない

 

強敵を目の前にしたことへの恐怖ではない

 

彼女を見ているとどういうわけか引き返したくない…逃げたくない衝動に駆られる

 

「将軍…ここは」

 

背後からの味方の声に噛み締めた奥歯がギリリと音を立てた

 

(何でさ?…でも…何でさ!?)

 

彼女の親友なら如何したであろう?

 

兄と慕う戦友ならどうしたであろう?

 

 

 

というわけで猪々子脳内作戦会議開始~♪

 

比呂

悠は逃げろと言ったのだろう?黙って逃げれば良いだけだろう

(そうは言ってもさぁ~なんつうの?逃げちゃだめだ!って心の声が…)

 

斗詩

そういえば…文ちゃん前にも奇襲受けてたよね?

(今それは関係ないだろう!…帰ったら覚えとけよ斗詩ぃ)

 

あのですねえ…

いいですか猪々子、敵軍が輸送隊を餌に動き始めたということは本格的に多方面同時に侵攻を開始する前兆なわけですよ

此方が戦力を分散配置していることを見込んで予め本陣の周りの堀から埋めるつもりなんです

おそらく烏巣にも何らかの動きを見せることでしょう…となれば此方は敵の本当の狙いである本陣奇襲に備えて陣を再構築する必要があるんです

敵軍が多方面に展開する今こそ敵主力を迎え撃つ好機、敵の動き以上に機敏な対応が必要なんです

そのためには遊撃を主とする貴女の部隊の迅速な合流が不可欠なんです…わかりましたか?

遊んでないで門限前に帰ってきなさい

(最初からそれを竹巻に書いてりゃいいじゃん!?何?旦那あたいのこと馬鹿にしてんの?)

 

高覧

………

(…いたなら喋れよっ!?)

 

麗羽

そんなまどろっこしい事をする必要はありませんわっ!!

 

比呂&斗詩&悠&高覧

!?!?!?

 

(へっ?)

 

麗羽

貴女も袁家の将軍ならば撤退など論外!

どんな者が目の前を遮ろうと…華麗に!優雅に!全速前進ですわっ!!

 

(え?マジで?…うーん…うーん…うーーーーーーーーーーーーーーーーーん)

 

 

「…決めたぞお前ら」

 

張り詰めた空気に普段の彼女からは聞くことのない低い声が響く

 

いつしか震えも止まった彼女が振り返ると徒ならぬ決意を宿した彼女の瞳に兵達は一同にごくりと喉を鳴らした

 

「あたい達は何だ?…名門にしてこの大陸に覇を唱える袁本初が…この文醜が自慢の遊撃隊だ」

 

彼女の瞳からその言葉の真意を汲み取り、深々と頷く

 

その様相に関羽の部隊もまた武器を握り直し、飛び掛らんと軸の足を半歩引き息を呑んだ

 

「あたい達は何だ!?」

「「「遊撃隊っ!!!」」」

 

槍の塚を

 

踵を

 

強く地面に叩き鼓舞するように声を張り上げる

 

「あたい達は何だ!?」

「「「袁家が最強の遊撃隊!」」」

 

ダンっ!ダンっ!と打ち付ける音が森の中に木霊する

 

「お前達は何が出来る!」

「「「全速前進!全速前進!!」」」

 

いずれも顔は真っ赤に染まり

 

地面が震えるほど踏み続け

 

その目が狂気を帯びて血走っていく

 

「お前達はあたいに何を見せてくれる!?」

「「「全速前進!全速前進!ぜんそくぜんしんんんんんっつ!!!!」

 

殺気が

 

狂気が

 

彼等を取り囲み圧倒的な優位に立つはずの義軍を飲み込み始める

 

そして

 

彼等の高揚が頂点に達したその時

 

猪々子が高々と斬山刀を振り上げた

 

「おっしゃあああああ!おまえるぅらああああ!!!!」

 

 

 

 

 

「後ろに向かって全速前進だああああっ!!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 

 

 

 

「へっ?」

「「「は?」」」

 

一瞬呆気に取られた関羽と彼女の軍が目を丸くしてその開いた口から間抜けな音を漏らすと同時に背を向けて駆け出す文醜隊

 

包囲を固めていた魏軍の一角を電光石火の速さで食い破るとその勢いそのままに土煙を上げて逃げて…否、『後ろに向かって全速前進』してゆく

 

予想外過ぎる出来事に動くことも侭ならぬ彼女等が目にしたのは

 

食い破られ、踏み潰され、ピクピクと痙攣する兵達

 

その先に映るのは雄叫びをあげてあくまで『後ろに向かって全速前進』していく

 

ドドドドドと駆けていく音が小さくなった頃にようやく彼女…関羽は正気に戻らされた

 

青龍の名を刻む武器を持つその手がプルプルと震えだし

 

彼女と同じくして大陸にその名を知らしめる名馬の横腹を力任せに蹴りつける

 

「待たんかいコラあああああああ!!!」

 

駆け出す赤兎に追いつかんと兵達もまた声を嗄らして走り出した

 

「待てええええ!」

「逃げんなカスがああっ!」

 

追うものと追われるもの

 

森の中は二つの声に騒然となっていった

 

 

「将軍!追いつかれてます!」

「はやっ!?完全に不意をついたってのに!」

「待てええええい!」

 

振り向けば怒声を上げ、その憤怒の表情を確認できるまでに迫られていた

 

「何なんだよ!ちくしょう!」

 

彼女の部隊の面々はいずれも重装備ではないにしろ

 

逃げるには馬脚との差はあまりにもあり過ぎた

 

何より

 

「何なんだよあの馬は!?」

 

猪々子達を追う先頭を走る関羽とその馬の圧倒的な速さに思わず舌打ちする

 

「赤兎ですよっ!」

「一日で千里を駆けるという」

 

並んで走る兵達が恐怖に引きつった表情で口々に叫ぶ

 

「千里ぃ!?凄いなそれ!あたいとしては千里を一緒に走って記録した奴がいることに驚愕だ!」

 

得意げにツッコミを入れる猪々子…が

 

「ボケだからっ!ツッコンだ心算でいるんでしょうけど、それボケだから!!」

 

隣を走る兵は此処にハリセンがあれば振り下ろさんとばかりに叫んだ

 

(…でも)

 

御蔭でようやく胸のモヤモヤの正体が見えた猪々子

 

(これでハッキリした!)

 

キキキキキっと土煙を上げて踏みとどまり力任せに斬山刀を横一直線振り払う

 

「っ!?」

「将軍!?」

 

彼女の突然の行動に驚く部下達

 

「いいから行けえ!すぐに追いつく!」

 

反論しようものなら斬ると言わんばかりの彼女の怒声に誰もが立ち止まることも出来ずに走らされた

「ほう…部下を逃して自身は捨て身となるか」

 

最初の一撃を飛び越えて交わした関羽が感嘆の息を吐く

 

「ようやく…分かったんだ」

 

二人の距離が一瞬にして縮まる

 

馬上の関羽を狙った突きを彼女は身を翻して交わし返す刀に偃月刀を突き出すが今度は猪々子が首をねじって避ける

 

二人の視線がすれ違い様に交差した

 

「その馬…なんでお前が乗ってんだ」

 

着地と同時に振り返った猪々子の瞳には目に見えて怒りが沸いていた

 

「その馬はなあ!」

 

叫ぶと同時に再度飛び掛る

 

振り下ろされた斬山刀と偃月刀がかち合い火花がチリチリと舞う

 

「…兄貴が将軍に就いたときに姫が送った馬なんだ」

 

噛み付かんとばかりに

 

「姫が初めて兄貴に…送った大切な…送りもんなんだ!」

 

むき出しの感情がぶつかる

 

「お前みたいな奴が…お前なんかが…」

 

力任せに

 

感情のままに

 

斬撃を飛ばす

 

しかし

 

その全てが

 

弾かれ

 

打ち落とされていく

 

「その馬から降りろ馬鹿やろおおおっ!」

 

再び二つの武器がかち合い

 

甲高い金属音の悲鳴と共に

 

斬山刀が砕け散った

 

「…終わりだ」

 

地面に叩きつけられた猪々子に殺意の刃が振り下ろされんとしたその時

「終わらせられちゃ困るんですよ」

殺意が充満した空間にのんびりとした声が割り込んだ

 

「…貴様は」

「旦那…何で?」

 

場違いな雰囲気を纏った声に驚く二人を他所に

 

「貴女が此処にいるということは…そうですか…そういうことですか」

 

二人には分からない

 

何を理解したのか

 

悠は目を細めて呟いた

 

 

「それが貴女達の描いた台本(シナリオ)ですか諸葛亮、鳳統」

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただき有難うございます

 

ねこじゃらしです

 

猪々子の大ピンチに悠さん登場!

 

え?

 

戦えるのかって?

 

…無理に決まってるジャン

 

それでは次回の講釈で

 


 
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