No.181537

ナンバーズ No.13 -ギンガ- 「不確定性要素」

リリカルなのはナンバーズが主役の小説。ギンガをナンバーズとして良いのかはどうか?ですが、彼女の洗脳後から、スバルとの対決までを描きます。StrikerSの物語とは細かい所は少し違う形ですが、ギンガこと、ナンバー13の視点で描かれています。

2010-10-31 08:33:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3785   閲覧ユーザー数:3694

 博士はよく、物事には不確定性要素というものがあり、それが万物を支配しているのだという。

博士はテロ行為を行う際に、完璧なまでの計画を練っていた。それはとても並みの人間では思い

もつかないような完璧さを持つ計画だった。

 

 しかし、そんなに完璧な計画であったとしても、博士が生みだしてきた人造生命体の姉妹達が

行う破壊工作が、100%成功するとも限らなかった。時として彼女達は失敗をし、計画通りにはい

かない事も数多くあったのだ。

 

 その事を博士は不確定性要素と言っていた。博士は決して姉妹達が任務上の失敗をしたとし

ても、それを叱咤し、責めるような事はしなかった。逆に不確定性要素と言うものが、いかに万物

を支配しているかを説明した。

 

 そしてその不確定性要素は、必ずしも悪い方向だけに働く事ではないという事も、博士は説明

していた。姉妹達はそれについてなかなか理解する事ができないでいたが、思いもよらない形で

不確定性要素は、博士にそして姉妹達に、良い事柄を運んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 それは博士の計画の中でも、最初の大規模なテロ攻撃、宴と呼ばれていた計画の最中に起こ

っていた。その攻撃を完成させ、帰還した姉妹達が落ちついた後、彼女らは研究所の大部屋に

集められ、一台の台の周りに集まっていた。

 

「こいつ。人造生命体なのか?」

 

 9番目の姉妹であるノーヴェが言った。彼女が視線を落とした先には、女の体が横たわってい

た。管理局のマークがついた戦闘服を着ており、この女が管理局側の人間である事は明らかだ

った。

 

「チンク姉が捕まえたんだ。その時派手にやり合ってね。やむなく機能停止にしたんだよ」

 

 6番目の姉妹のセインがそのように言う。彼女達は任務も終えたばかりで、まだ休みさえも取っ

ていなかったが、自分達の前に現れたこの存在には驚かされ、休みを取る事さえ忘れていた。

 

「だけれどもチンクは、思いもがけないような収穫をしてくれたようね」

 

 そう言ったウーノが、女が胸につけていた破損していたプロテクターを外し、更に戦闘服も脱が

してみると、所々にある大きな傷口から、明らかに人為的なものと思われる金属の骨格が露わに

なる。それこそ姉妹達と同じ、人造生命体であるという証拠だった。

 

「スキャンした所、旧型のモデルだ。制作者は博士じゃあない。だけれども、何度もアップロードが

行われているな。管理局は私達を追っているくせに、自分達でも人造生命体の管理をしていたの

か?」

 

 そう言ったのは、姉妹達の中でもとりわけ背の高く、屈強な姿をしたトーレだった。

 

「管理、じゃあないわよ、トーレ。利用していたの。管理局の最高機密データにあるわ。10年以上

前、とある研究施設で保護した人造生命体の2人の姉妹を、管理局は保護下に置いている。そ

の子は、その姉妹の内の一人なんだわ」

 

 ウーノは寝台に横たわった女を、電子スキャン装置を使ってスキャンしていき、その内部の構

造を電子画面へと投影していた。

 

 案の定、この捕らえられた女は、人の姿をしていたとしても、その内部構造は、ウーノ達姉妹と

変わらない、人造骨格や強化された筋肉、そして脳にも一部改造がほどこされているようだっ

た。

 

「管理局側のやっている事も、結局のところは博士と同じ事だわ。利用できるものは利用する。

 

 でも、過去に流出しまっていた大切な存在が戻ってきて、博士は喜ばれていらっしゃるんじゃあ

りませんの?」

 

 眼鏡をかけた姉妹の情報処理担当の一人、クアットロが博士に向かって言葉を促した。

 

 すると部屋の奥の方で、行われたばかりの“宴”、つまりはテロ攻撃の成果を確認していた博士

が立ち上がり、こちらへと歩いてくる。

 

「うむ。クアットロの言うとおりだ。これはこの宴での予想だにしない成果だ。まさか、旧時代に流

出してしまっていた人造生命体を、この手に取り戻す事ができるとはな。多くの人造生命体が造

り出され、そのほとんどが処分されたと聞いてはいたが、まだ残っていた事も知っていた。

 

 その素晴らしい成果の一つが戻ってきたという事は、我らとしては喜ばしい事だよ。これこそ、

幸運と言えるのだろう。いいや、私でさえも予想していなかった事だから、これこそ、まさに幸運の

方に傾いた不確定性要素と言えるのだろう」

 

 博士は、この寝台に横たわっている女が自分の元にやってきた事に、喜びを隠す事ができない

様子だ。何しろ今、彼は絶頂にいる。自分の計画していたテロ攻撃の第一段階が成功し、その目

的の達成に大きく踏み出す事が出来たのだ。

 

「博士。この女の肉体はチンクとの交戦で激しく損傷はしていますが、十分に修復が可能です。ま

た、脳の機能に対して、こちら側から干渉をする事もできるでしょう」

 

 ウーノが博士の方に向かってそう言った。

 

「お姉様、それは一体、どのような事でしょうか?」

 

 トーレがウーノに向かってそう尋ねるのだが、

 

「簡単に言うと、洗脳だよ、トーレ。この娘は今まで管理局側にいて、我々を追い詰める側にい

た。だが、この娘の脳に干渉して洗脳する事によって、私達の仲間にすることができる。

 

 実際、私達は今回の“宴”で少しばかり大きな損害を受けている。大切な人材が最終攻撃には

参加する事ができないという状態だ」

 

 それが誰の事であるのか、姉妹達にははっきりと分かっていた。5番目の姉妹であるチンク

が、管理局側の攻撃を受けて激しく肉体を損傷して、しばらくは活動不能になってしまっているの

だ。

 

「そこで、この娘は重要な戦力になるように思う。ざっと見た所の戦闘能力はどれほどのものを持

っているウーノ?」

 

 博士がウーノに質問すると、彼女は機械的な態度で素早く光学画面にデータを表示した。

 

「私達には劣りますが、申し分ありません。この娘は、戦士として十分な戦闘能力を持っている

他、更に改造をすることが可能です」

 

「ほう?改造とは?」

 

 博士が意外そうな声を発した。

 

「簡単に言いますと、アタッチメントです。この女の左腕についているナックル状の武器は最新式

の義手で、これを交換することで、より強力な兵器として使う事もできるようになっています」

 

 ウーノは寝台に横たわらせた女の腕を持ち上げてそう言った。そこには、大きなナックル状の

武器が備え付けられていたが、ウーノがある操作をすると、そのナックルは外れて、女の左の腕

の部分が取り外しが利くようになっている事が分かる。

 

 それは明らかに彼女の肉体が、人為的な改造を施されている事の証だった。腕は義手化され

ており、機械回路が組み込まれている。彼女は手の感覚を感じる事ができるだろうし、腕の筋肉

と連動してそれを動かす事もできるようになっていた。

 

 そうした義手としての技術は決してこの世界で珍しいものではなかったが、彼女は全身にそうし

た改造を施されている。

 

 明らかな人造生命体だった。博士は興味深そうに彼女の肉体をまじまじと見つめた。

 

 そしてデータと照らし合わせて、ある発言をする。

 

「君達よりも旧型のモデルだが、アップロードをすれば、十分に高い戦闘能力を引き出す事がで

きるだろう。これだけ精巧にできたモデルならば、ナンバーを与えても良いだろう。彼女がナンバ

ー13だ」

 

 意気揚々と博士は言った。彼の口調はリズムに乗っているかのようであり、新たな発見に興奮

を隠せない様子を見せている。

 

「では、稼働予定だったナンバー13モデルはいかがなさいますか?」

 

 ウーノがそのように尋ねると、博士は言ってくる。

 

「以降の番号は繰り上げをするようになるな。私としてはこの素体を優先したい」

 

 博士はとても楽しげだった。それはクアットロも同じようだった。二人とも、まるでこれから楽しい

事がはじまるかのように、寝台に横たわったモデルを見つめている。

 

「では博士。この娘は、今までの記憶を消去し、博士に仕える忠実な存在になるように、きちんと

洗脳をしなければなりませんね」

 

 洗脳。その言葉が何を意味するかは、この場にいる者達は知っている。

 

 今、博士が生み出した人造生命体達が見ている、新たな仲間は、人間として生きてきた時を忘

れさせられ、新たに博士の与える任務に忠実な存在となる。

 

 それは別人として生まれ変わることに等しかった。

 

 

彼女が再び生を取り戻した時、それは全く別人と言ってもよい状態となっていた。

 

 彼女自身は今まで、人間として生きてきた。実の親は知らず、どこぞやの研究室にて誕生させ

られた人造生命体であったが、良心的な人物に保護され、人間として育てられてきていたのだ。

 

 彼女はやがて管理局に仕える捜査官となったが、今では違う。

 

 博士によって生み出された、別の人造生命体達、彼女よりももっと洗練されたモデルによって

強制的に拉致され、今では生体ポッドの中に入れられている。

 

 生体ポッドの中では培養液が充満しており、それがどんどん彼女の肉体を造り変えていた。外

見上はほとんど変わらないのだが、中身が次々とアップロードされていく。彼女自身は意識が無

く、そのアップロード作業には痛みも伴わない。

 

 筋肉はより強化されたものとなり、骨格のフレームも次々と入れ替わる事になった。体内に内

蔵されているシステムは全く新しいものへと入れ替わり、そして脳内にあるはずのメモリーもまた

新しいものへと変えられていく。

 

 博士にとってみれば、人造生命体の方が、人間よりも遥かに洗脳を施しやすかった。人間の複

雑な脳の電気信号を洗脳下におくよりは、プログラムされたチップのプログラムを変えてしまう方

がよほど簡単だ。

 

 だから彼女のメモリーは次々と書き換えられていった。それは彼女自身にとってはどうする事も

できないものだ。

 

 しかしながら無意識下にあった彼女にとっては、それは抵抗する事ができないものであり、無防

備な姿としてさらされていた彼女のメモリーは書き換えられた。

 

 ナンバー13、博士のために忠実に働くために生みだされた人造生命体。自分の姉達の指示に

従い、完璧に任務を遂行するための存在。

 

 もはや管理局が遵守している法律を守る必要も無い。全ては博士のために働くために、新しく

生まれ変わるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「何て呼ぶんだ?ナンバー13?それでいいのか?」

 

 新しく仲間に加わった存在を見つめ、9番目の姉妹であるノーヴェはそのように言っていた。

 

 ナンバー13と名付けられた彼女は、姉妹達の中でもとりわけ感情が欠けた存在として蘇らされ

ていた。

 

 生前の記憶がほとんど消し去られたのだから無理もない。博士に言わせればそれは記憶を抑

制させたという事であって、日常生活や破壊工作に欠かす事ができない戦闘の知識だけは彼女

の中に残されている。

 

 過去の記憶も、彼女のメモリーチップの中ではなく、そのメモリーチップの土台となっている脳の

部分に残っているはずだ。しかしそれは、メモリーチップが記憶の活動を抑えるようにプログラミ

ングされなおされている為、よほどの衝撃を加えない限りは蘇らないようになっている。

 

「こいつ。本当にロボットみたいになっちまってるな。本当に、人間と一緒に暮らしてきたのかよ」

 

 それがナンバー13に対しての、ノーヴェの率直な感想だった。

 

 彼女自身、本当にロボットのようになってしまったわけではない。彼女にはしっかりとした自我が

あったし、記憶としてプログラムされた情報によれば、博士と姉妹達の区別をきちんとつける事も

できるようになっている。

 

「こいつの戦闘能力は、どのくらいだ?」

 

 そう言ったのはトーレだった。ウーノには及ばないが、姉妹の一員となった彼女にとって、トーレ

に対して頭が上がらないと言う事は、きちんと認識をしている。

 

 しかし、彼女がノーヴェや他の感情豊かな姉妹のように、トーレの命令に従わないような事はま

ずないだろう。

 

 ウーノは彼女に接続されている、ファイバーから送られてくるデータを解析し、それを目の前の

光学画面へと広げた。

 

「姉妹達の中では中堅クラスと言ったところね。トーレやセッテよりは下。でも、ノーヴェやウェンデ

ィよりは上だし、接近戦を得意とするわ」

 

 ウーノは淡々とそのように言うのだが、自分よりも戦闘能力が上と言う事を知らされ、ノーヴェ

は腹が立ったようだった。

 

「あんだと?あたしよりも、こいつの方が上だって?」

 

 ノーヴェは思わず立ち上がり、目覚めたばかりのナンバー13に向かって食ってかかろうとした。

 

「よさないか。博士の最新技術によって更に強化された相手だぞ。お前が適わなくて当然だ」

 

 そう言ってトーレはノーヴェを抑え込む。

 

「でも、幾ら何でも、生まれた時からこの研究所で育ったわけじゃあないから、他の姉妹達とは違

って、連携プレイは得意じゃあないわよ。あくまで個人としての戦闘能力が高いだけであって、後

方支援はできない。

 

 それに、かなり急激に洗脳をしたものだからね。人間的な感情というものが欠けてしまったわ」

 

 そう言いつつも、ウーノは当たり前の事をしたとでも言いたげな表情で、コーヒーを飲んでいた。

 

「クアットロがそうしろと言ったのですか?」

 

 嫌悪でも感じるかのようにトーレは言うのだが、

 

「あら。もちろん博士の意志に従ったまでよ。クアットロも同じ事を言っていたけれども、結局、そ

の子を利用するのは博士の意志だわ」

 

 利用。人間的な感情が欠けている。その言葉が何を意味しているのか、もちろん姉妹達のやり

取りの中にいたナンバー13はそれを聞いていたし、どういう事かも理解していた。もし自分の中に

人間が持つと言う感情が残っていたならば、何かしらの反応をしただろう。

 

 しかし彼女は自分の中に、全く感情が生まれて来ない事を感じていた。姉妹達が並べ立ててい

る言葉も、データとして頭の中に入って来ているにすぎない。

 

 それは正確に管理され、日付、時刻と共に自分の頭の中のメモリーに保存されていく。この場

で姉妹達が言った言葉をそのまま再現するように命令されれば、一字一句間違えずに彼女は再

現する事ができるだろう。

 

 だが、それに対しては何も抱く感情が無かった。

 

「連携プレイが苦手では、博士の最終攻撃では役に立つ事ができないかもしれませんが?」

 

 トーレはウーノに向かってそのように言っている。

 

「あら、それはそれでまた役に立つと言うものよ。最終攻撃の際には、この子が一番得意としてい

る、単独での奇襲を仕掛けてもらうつもり。チンクが抜けた分を補って貰う事になるわ」

 

 博士の計画の最終段階は間近に迫って来ていた。ナンバー13も、それに対しては備えをしてお

かなければならず、かなり強行的に肉体の増強が図られる。

 

 ナンバー13の肉体は、限界とも言われる状態にまで増強されていた。それは他の姉妹達と同じ

であり、彼女達に追いつくために必要な事だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 元にあった肉体よりも更に強化をされたナンバー13は、その腕を取り外され、彼女の持つ武器

の最終チェックに入っていた。

 

 彼女は自分の左腕の二の腕から先を取り外す事ができるようになっている。それこそまさに、

人造生命体だからこそなすことができるものだった。今まで彼女が付けていたのはあくまで義手

であり、ほんものの腕ではない。

 

 ウーノが彼女を研究室の椅子に座らせ、博士が用意したと言うあるものを用意していた。

 

 それは凶悪な兵器ともいえる。ドリル状になったものであって、それは機械的に稼働するものだ

った。アタッチメントの部分がナンバー13の左腕の部分と一致するように作られている。

 

「これは博士があなたのために、急遽作ったあなたの武器よ。私達姉妹は、皆、武器を持ってい

る。だけれどもあなたが持っていた武器は心もとないものだわ。だからこれを使うようにしなさい」

 

 そう言いつつ、ウーノはナンバー13の腕にアタッチメントでそのドリル状の腕を取り付けた。

 

 外見だけ見れば人間にしか見えない彼女達も、異質な武器を装備させられれば、いかにも人

造生命体と言える存在に見えてしまう。ナンバー13はそんな存在の一人だった。博士の生み出す

人造生命体は、後に稼働した姉妹達の方が、まるでロボットのような性格をしているが、彼女も

例外ではない。

 

 ナンバー13は、自分に取りつけられたドリルを確認した。ウーノがアタッチメントで取り付ける

と、腕からソフトウェアが自動的に自分の脳内にダウンロードされていき、アップロードが完了す

る。この程度の武器のシステムだったら、カプセルの中に入らずとも、自動的にアップロードをで

きる。

 

 ナンバー13はそのためにすぐに、自分の腕に取り付けられたドリル状の武器の扱いを理解し

た。難しいものではない。さらにこのドリル状の武器は、腕の内側に収める事が出来、さらに、元

に付いていた腕を取り付ける事もできるようになっている。

 

 ウーノはドリル状の武器の上から、更に元々あった左腕をかぶせてきた。

 

 再び左腕の感覚を取り戻し、ナンバー13はそれを確かめるかのように動かして見せる。

 

 まだ新たに装着した腕の感覚が慣れていない。どことなく指の関節が不自由に感じるような気

がした。ウーノの目の前で彼女は指を動かして見せるが、それをどう表現したら良いのかが分か

らない。

 

「ふふ…。あなたはチンクと戦った時のせいで、言語障害が起こっているわ。だからまともに話せ

ない。でもそれもこの戦いが終わった後に、きちんと博士が治して下さるから心配はいらないわ

よ」

 

 ウーノが囁くように言ってくる。だが、ナンバー13にとっては、自分が話す事ができないという事

に対しては恐怖も抱かなかったし、それを不自由とも感じなかった。

 

 ただ自分は博士の為に動く存在であり、戦う事ができればそれで良い。そうとしか感じていなか

ったのだ。

 

 ナンバー13は確かめるかのように自分の腕を取り外し、そこから、ドリル状の武器を出現させ

る。それを繰り返し行っていた。

 

 そのドリル状の武器が彼女になじんでくるまでは、そう長い時間はかからなかった。

 

 

博士の計画の最終段階は、そう遠くない時期にやってきた。

 

 博士を長年目の敵にしてきた管理局に対しての総攻撃は、姉妹達が総出で攻撃をしなければ

ならない大規模なものだ。

 

 そのため、管理局のある都市部さえも巻き添えにした大規模な攻撃が行われるものとなってい

る。

 

 これは、ナンバー13にとっても大きな転換期となる戦いだった。彼女にとっては初めての博士の

下での任務であり、同時に最も重要となる任務だ。

 

 彼女を初めとした姉妹達の一派は、郊外から攻撃を仕掛ける部隊に参加をし、そこで管理局

の局員たちと大規模な戦闘を繰り広げた。

 

 郊外には破棄された都市の建物ばかりで、一般人に対しては攻撃の被害が及ばない。博士が

計画したプランは完璧だ。攻撃の対象になるのはあくまで管理局の人間でしかないのだ。

 

 交戦状態に入ってからしばらくして、ナンバー13はある人物と遭遇した。

 

 そこは破棄された高速道路の高架橋の上であり、今ではひび割れた橋脚と、乗り捨てられた車

だけがそこに散乱している。

 

 どこかで見た事があるような気がする。

 

 少年のような風貌をした、まだ若い捜査官が自分の目の前にいた。

 

 即座にナンバー13は、目の前の捜査官を照合する。すぐに結果は出た。まだ、入局して1年も

経っていないような、新米の女捜査官でしかなかった。

 

 ならば、自分がすぐにでも始末してやろう。そう思ってナンバー13はその捜査官に対して臨戦態

勢に入った。

 

 ナンバー13は、何のためらいも見せずに、その捜査官に対して拳を繰り出す。それはナックル

が取り付けられた拳であり、強靭な破壊力を有している。

 

 捜査官は素早く、その拳による攻撃を避けた。意外とすばしっこい奴だ。

 

 ナンバー13が攻撃を仕掛け、ゆっくりとその体制を元に戻していくと、その捜査官はナンバー13

の方に向けて、とても意外そうな表情をしてきた。

 

「何で、こんな事をするんだよ!お姉ちゃん!」

 

 何を言っているのか、ナンバー13は理解する事ができないでいた。お姉ちゃんなどと呼ばれる

筋合いは無い。姉妹達の中でも最も後に誕生している自分にとっては、姉しかおらず、妹などい

ない。

 

 そして、この目の前にいる小娘は、所詮はただの敵でしかない。ただ破壊し、始末するだけの

敵でしかないのだ。

 

 すかさずナンバー13は、蹴りを繰り出す。強烈な破壊力を持つ蹴りは、巨大な鞭であるかのよ

うにその捜査官に襲いかかり、防御体制を取ったその女の腕に命中した。

 

 なかなか良いガードだった。確かに、防御の方は良くできているようだ。

 

 しかし、なぜこの捜査官は自分に対して攻撃を仕掛けて来ようとしてこない?それがナンバー

13にとっては意外だった。

 

 自分は相手にとっては敵であるはずだ。だったら、攻撃を仕掛けてくれば良いものを。何故た

めらおうとする。

 

「お姉ちゃん!目を覚ましてよ!なんでこんな事をしているんだよ!」

 

 その女は叫んでくる。だが、その言葉をナンバー13は理解する事ができなかった。だから無表

情な顔を相手へと向けている事しかできない。

 

 そう。自分は作られた存在でしか無い。お姉ちゃんなどなれなれしく呼ばれるような相手もいな

いはずだ。

 

 ナンバー13はその捜査官へと近づいて行き、今度は渾身の力を込めて、ナックルで無防備な

その女の腹に拳をめり込ませた。彼女は高速道路上を吹っ飛んでいき、破棄された車の中へと

突っ込んだ。

 

 今のは相当なダメージになったはずだ。

 

 血を吐きながら、捜査官は車の中から抜け出てきた。分析によると、今の一撃をまともに受け

れば、立ち上がる事などできないはず。もちろんただの人間が相手の場合だが。

 

 しかしながら、その女捜査官は立ち上がり、自分へと戦いの意志を見せてきた。

 

「そうか。目を覚まさせてあげなきゃあいけないんだね。このあたしが。どういうわけか、洗脳か何

かされちゃて、そっち側についたお姉ちゃんを…」

 

 そう言いつつ、ふらつきながら、女は立ち上がり、戦いの構えを見せる。彼女は右腕にナックル

を装着しており、その戦闘スタイルは自分のものと似ている。とナンバー13はすぐに分析した。

 

 先に攻撃を仕掛けたのはナンバー13の方だった。

 

 彼女は拳を繰り出していき、その女捜査官の拳と激突する。ナンバー13の利き腕は左腕になっ

ており、相手は右腕を繰り出してくる。

 

 お互いに強化されたデバイスを装着された拳同士が激突し、衝撃波のようなものが辺りに吐き

散らかされる。

 

 捜査官は次々と自分に向かって徒手攻撃を仕掛けてきた。それは拳によるものであったり、足

蹴りであったりするものだった。

 

 だが、ナンバー13はそれを次々とかわして、また防御した。

 

 初見の時は、ただの子供の様な捜査官でしかないと思っていた相手だったが、予想以上の戦

闘能力を持っている事が分かった。

 

 そして、この戦い方を、ナンバー13はどこかで知っているような気がした。

 

 初めてであったはずの、この女の戦い方を、自分はどこかで知っているような気がするのだ。

 

 そんなはずは無い。自分は博士に生み出された存在。姉妹達以外の事など知らないのだ。

 

 女の繰り出してきた足蹴りを、ナンバー13は、腿の部分のプロテクターで防御した。博士から与

えられた戦闘スーツのプロテクターは、簡単な事では破壊されない。

 

 だが、次の攻撃は、ナンバー13の隙を突き、突きあげるかのようなアッパーが腹へとめり込ん

できた。

 

 自分の様な人造生命体の筋肉、骨格は強化されており、相当なダメージでも受けなければ破

壊されない。それは知っていたが、それでも、身体を貫くようなダメージを感じた。

 

 腹直筋は柔軟な鎧とも言えるほどに強化されているのに、その一撃は強烈だった。

 

 滅多なことでは自分の体を庇う事はしないが、この一撃は強烈過ぎた。思わず、ナンバー3は、

自分の腹を抑えて後ずさりする。

 

「どう?目が覚めた?お姉ちゃんの目を覚ますためだったら、何だってする。こんな事だって!」

 

 そう言い放ち、相手は蹴りで頭部を攻撃してきた。頭に付けられたヘッドパーツに衝撃走り、今

度はあたかも頭に電流が走ったかのような衝撃に襲われた。

 

 その瞬間、何か得体のしれないものが、ナンバー13の脳裏を駆け巡った。相手の女を知ってい

る。そして、自分は博士によって生み出された存在のはずなのに、さらに昔の記憶の様なものが

流れ込んでくる。

 

 今の一撃で、ナンバー13はヘッドパーツに損傷を起こしていた。回線かチップがショートしてい

るらしく、ナンバー13は思わず口走っていた。

 

「お前は、誰だ?」

 

 ウーノからは言語障害で、失語症が出ていると言われていたが、何かのきっかけで、彼女は口

を開き、しゃべる事が出来た。

 

 すると、女の捜査官は、更にナックルによる攻撃を繰り出してきた。その衝撃は更にナンバー

13のヘッドパーツに当たり、彼女は大きく体をのけぞらせて背後へと吹き飛ばされる。

 

 外部との回線を繋ぐ事ができるヘッドパーツは、そのまま脳に直結している。そのため、ヘッド

パーツに大きなダメージが起こってしまえば、そのまま脳に大きな障害が生まれる事を、ナンバ

ー13は知っていた。

 

 視界が霞み、どこからか、自分の知らない、幻覚の様な症状さえも現れてくる。

 

 そんな視界の中で、女は言い放ってきた。

 

「あたしは、あんたの妹だよ!」

 

 そんな事を言われても、ナンバー13は理解する事ができなかった。何故、目の前にしている女

が、涙を流しながらそんな事を言ってくるのかが理解できない。

 

 しかしながら、自分の意思とは関係なしに、何かの思考が自分の中へと流れてくる。それは今、

目の前にしている女が向けてくる笑顔だった。

 

 何故こんな記憶が自分に流れてくるのか、ナンバー13は理解をする事ができなかった。

 

 こんなものは自分の記憶じゃあない。

 

 ナンバー13は、目の前の捜査官に向かって、思い切り突進して、そのまま彼女の体と共に、高

速道路の壁面へと突っ込んだ。壁は大きくめり込んで、彼女達の体は共にコンクリートの壁面へ

と叩きつけられる。

 

「どうして、お姉ちゃんは、お姉ちゃんは、そんなになってしまったの?」

 

 女はそう言ってくる。だが、自分の意志で幾ら照合を行っても、この女が自分の妹だという結果

は出ない。憎き管理局の捜査官の一人だと言う結果しか出ない。妹などいない。ただの敵だ。

 

「わたしは、お前の事など知らない!」

 

 そう言い放ち、ナンバー13は、この目の前の存在を、跡形も無く消し去ってしまうための準備を

始めた。

 

 左手首の部分のアタッチメントが解放されて、左手首が取り外される。それは機械化されている

自分だからこそ可能なシステムだった。そして左腕の中に内蔵された、ドリル状の武器が飛び出

してきた。

 

 その有様には、さすがに目の前の捜査官も驚いたようだった。

 

 そのドリルをナンバー13は突き出して攻撃しようとする。捜査官は手を使ってそのドリルを防御

しようとした。だが、ドリルを手で防御しようとするなんて、あまりにも無謀だ。激しい音と共に、血

が飛び散って、女は声を上げた。

 

 だが次の瞬間、ナンバー13はその捜査官の突き出した蹴りによって、背後へと吹き飛ばざるを

得なかった。

 

 めり込んだ体をコンクリートから飛び出させ、捜査官はふらつきながら外へと出てきた。

 

 彼女の左腕がえぐれており、骨格が剥き出しになっている。そんな左腕が押さえているのは、血

だらけで抉れた脇腹だった。

 

 どうやら防御はできても、かなりのダメージを与える事ができたらしい。小生意気な小娘が。そう

ナンバー13は、少ない感情で思った。

 

 しかしながら、コンクリートの中から出てきたその小娘は、自らの体をナンバー13に見せつける

かのようにして言って来た。

 

「ほら、あたし。お姉ちゃんと同じ。同じ体をしている。だから、あたしは、あんたの妹なの!」

 

 そのように言って来た捜査官の体は、明らかに人間の体をしていなかった。左腕の骨格は金属

でできており、それは自分のものと同じだった。えぐれた脇腹からも一部の金属質の骨格が剥き

出しになっている。

 

 それだけのダメージを受けていれば、血も溢れるように出てくるはずなのに、人間から溢れだす

血の量としては少ない。

 

 ナンバー13は、この女の情報を視界から推測した。自分のデータベースの中には、この女も作

られた存在、人造生命体であると言う照合結果が出た。

 

 だから、一体何だと言うのだ。

 

 彼女も敵である事には変わりない。ナンバー13は変わらず女に向かって突っ込んで行った。

 

「お前の事など、わたしは知らない!」

 

 ナンバー13はそのように叫び、ドリルを手に女へと突っ込んでいった。もう、この女が何者であ

ろうと構わない。博士の邪魔になる存在だったら、何者であろうと始末する。その意志に覆われ

ていた。

 

 だが女へとドリルを突きだす瞬間、自分の視界のシステムが遮られ、そこに目の前の女の笑顔

が浮かんだ。

 

 その笑顔に、ナンバー13は思わずひるんだ。

 

 そこに大きな隙が生まれていた。目の前の女はその瞬間にナンバー13のヘッドパーツに向かっ

て、思い切り拳を繰り出してきた。それが脳の中にめり込むのではないのかというほどの勢いだ

った。

 

 更に、女はナンバー13の腹に向かって思い切り拳を突き上げてきた。彼女は全身を貫くかのよ

うな衝撃に思わずうめき、さらに目を見開いた。

 

 今の衝撃がナンバー13の中に何を及ぼしたのか分からない。だが、分かるのは、この女をナン

バー13がずっと前から知っているという事だった。

 

 自分が博士によって生み出されるよりも前からずっと知っている。

 

「スバル…」

 

 思わず口をついて出てきた名前を、ナンバー13は喋っていた。そんな名前なんて、ナンバー13

の記憶のどこにも残っていなかったはずなのに、彼女は思わず口走っていた。

 

「これだね。これが、お姉ちゃんに悪い事をさせているんだね?」

 

 そう言いながら、目の前の女は、自分のヘッドパーツに触れてくる彼女の姿を見ていた。

 

「ええい、触れるな!貴様なんて、知らないんだ!」

 

 叫ぶナンバー13。言葉を話す事ができなかったはずなのに、思わず全てが口をついて出てく

る。

 

「お姉ちゃんの目を覚まさせてあげる!その悪い感情を全部吹き飛ばしてあげるよ!あたし

が!」

 

 そのように叫ぶ。だが、ナンバー13は先に彼女の方へと突っ込んで行き、ドリル状の武器を彼

女の方へと突き出していた。

 

 相手も、ナックルが付けられた右腕を突き出してくる。ドリルとナックルが火花を散らしながら激

しくぶつかり合った。

 

 ドリル状の武器の方がはるかに威力があるはずだった。だが、相手の女が突き出してきたナッ

クルに、多少ヒビを入れる事ができただけで、ナンバー13のドリルは細かいパーツに砕け散って

しまった。

 

 女のナックルはそのまま止まらなかった。ナンバー13の頭に取り付けられているヘッドパーツに

向かって、そのまま直進してきた拳が、彼女のヘッドパーツを粉々に打ち砕く。

 

 その瞬間、全身を駆け巡る電撃にも似た衝撃に、彼女は襲われていた。

 

 電撃は、身体の中を駆け巡り、ナンバー13は自分の視界が別物へと変化していく事を知った。

 

 真っ暗にブラックアウトしたかと思うと、自分の中に、今までに見た事も無い様な光景が入り込

んでくる事が分かった。

 

 その中には、今まで目の前で戦っていた女の姿も含まれていた。自分は、やはりあの女を知っ

ていたのだと言う事を、ナンバー13は思い知っていた。

 

 これは、ただ映像として流れて来ている情報ではない。全て、自分の記憶の中にあったものだ。

その記憶は、封印されていて、自分はあたかも博士によって生み出されたものだと思っていた

が、そうではなかった。

 

 自分は、博士によって洗脳を施される前から生きていて、その思い出は確かに存在していたの

だ。

 

 私の名前はギンガ。妹の名前はスバルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ナンバー13と呼ばれていた存在が目を覚ました時、彼女は担架の上に乗せられていた。どうや

ら、自分は敗北したらしい。

 

 今では全ての記憶が戻っていた。博士によって封印されていた記憶は、封じられていた鍵が解

除されたかのようにして取り戻されていた。

 

「ギン姉…」

 

 担架の上に横たわる彼女に顔をのぞかせてくる者がいた。先程まで拳同士で激しく戦っていた

相手。だが、その存在が妹であると言う事は、ナンバー13こと、ギンガには良く分かっていた。

 

「スバル」

 

 そう言って、ギンガは彼女の体へと抱きついていた。お互い、身体もボロボロだったが、傷の痛

み、身体の損傷さえも忘れ、ただお互い抱きしめていた。

 

 ギンガの目には、ナンバー13である時には流れなかったはずの、涙が流れていた。

 

 

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エピローグ Dr. 宴の後


 
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