No.180208

天使舞い降りぬ日々…(前編)(2004/10/03初出)

6年ほど前に書いたSSです。
一部文章が拙いところがありますが、目をつぶっていただければ幸いです(笑)。
http://www.tinami.com/view/180110 の続編です。
北川君と舞が出会って17年、彼らは結婚しました。そんな彼らの悲しい過去とは…?
一部、舞のセリフが普通なのは大人の会話をしてるから。

2010-10-24 22:37:43 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:857   閲覧ユーザー数:845

 

 

 「ハ~…♪あ~、良い湯だった~…♪な~、舞」

 

 「はちみつくまさん」

 

 「風呂で汗かいた後は、やっぱビールだよな~♪つまみと一緒にキューってやるのがまた良いんだよな~」

 

 「汗をたっぷりかいた後の飲酒は体に悪いから、キチンと水分を取ってからじゃないとダメ。潤」

 

 「何だよ~…、固いこと言うなよ~、舞」

 

 「潤の為を思って言ってるから…」

 

 

  風呂上り、脱衣場にある洗面台の前で下着を着けながら鏡に映っている、

 後ろで体を拭いている北川に注意する様に話しかける舞。

 

 「はいはい…」

 

 「もう…」

 

 

  そんな北川を尻目に、舞は浮かぬ顔で洗面台の鏡に映っている下着姿の自分の体を見つめる。

 

 風呂上りなので、湯気で多少は曇っていたものの、気にするほどのものではなかった。

 

 

  続けて、下腹部にそっと右手を添える。

 

 

 「は~…」

 

  俯(うつむ)き、思わず溜め息も漏らしてしまった。

 

 

 「舞…」

 

  下着を穿き終えた北川が、前にいる舞の仕草を見て、心配そうに話し掛ける。

 

 「潤…」

 

  俯いたまま、北川に返事する。

 

 

 「ひょっとして…、便秘…?」

 

 「ぽんぽこたぬきさん」

 

  即答で“違う”と返される。

 

 

 「あ~!ひょっとして、胸の大きさを気にしてたんだ~!だからか~…」

 

 「ぽんぽこたぬきさん!」

 

  今、気付いたと言った様子で自信たっぷりに舞に話し掛けてみるものの、またも、

 即答で“違う”と返されてしまった北川。しかも、

 

 “貴様。いい加減にしろよ、コラ”

 

 と言わんばかりの険悪なオーラが舞から放たれていた。

 

 

 「なんだなんだ~♪幼稚園の子供達じゃ、胸があまり大きくならないってことなら、

  この俺に言ってくれりゃ~良いのに~…♪どりゃどりゃ…♪」

 

  悪びれた様子もなく、鼻の下を伸ばし、掌をワキャワキャと動かしながら、後ろから舞の胸を触ろうとして…、

 

 

 “ポカッ!”

 

 「イデッ!」

 

 

  遂には、北川の頭に舞の強烈なチョップが炸裂し、たまらず北川は蹲(うずくま)る。

 

 

 「イテテ…。冗談だよ…。なのに、毎回こんなチョップしなくても…。おー、イテテ…」

 

  頭をさすりながら、涙目で上目遣いに舞を見上げる。

 

 「エッチな男は、これくらいやらないと倒せそうもないから…」

 

 「だからって、少し手加減してくれても良いだろ…?それに、俺は痴漢じゃないっての…。でも…」

 

 

  立ち上がって、少しホッとした様子で舞を見つめる。

 

 「大丈夫…。潤が思ってるほど私は弱くはないから…」

 

  舞もまた先ほどに比べれば、いくらか表情が綻んでいた。

 

 

  北川はそっと舞の体を抱き寄せる。大丈夫と舞は言ったものの、その背中は少し震えていた。

 

 「舞…。俺はお前の気持ちの全てを分かってやれるって言えばウソになるけど…。

  でも…、あんまり一人で思い詰めるなよ…」

 

 「はちみつくまさん」

 

  舞もまた、北川の背中に腕を回した。

 

 「潤の胸…、大きくて温かくてホッとする…」

 

 「舞の胸もムニュムニュして気持ち…」

 

 

 “ギュッ!”

 

 「イテ…」

 

  デリカシーのないことを言った北川の背中を舞はつねった。

 

 「バカ…」

 

  それでも、満更でもない様子で北川に身を委(ゆだ)ねる舞だった。

 

 

 

 

 

「今日はここまでです♪みんな、お疲れ様。今日のごあいさつは…、天沢さんね♪」

 

 「ハイッ!まい先生、さよーなら!」

 

 「「「さよーなら!」」」

 

 

 「はいっ、さようなら♪」

 

 

  初夏の陽気漂うある日の、とある幼稚園での送り迎えの時間のこと。

 そこには園児達から“まい先生”と呼ばれ、明るく笑顔で園児達と触れ合っている舞の姿があった。

 

 

  北川 舞。旧姓、川澄 舞。北川 潤との出会いから約17年(当時は2人共10歳だった)が経った今日、

 彼女は北川と結婚し、保母として働いていた。

 

 

  子供と触れ合うのが大好きと言う理由から就いた仕事だったが、研修時代、

 そして新任の頃は言うことを聞かないわんぱく坊主もいれば、

 すぐに他の子を泣かせるいじめっ子もいたし、高校時代ほどではなかったが、

 当時は無口で怖そうな雰囲気もあったが故に、舞を避けたり、

 泣いたりする子もいたので色々と苦労したものだった。

 

 

 

 

 

 「あ…、お母さ~ん!」

 

 「浩詩~」

 

  舞の側で手を振る我が子を見付け、一人の女性が舞の元へと向かった。

 

 

 「柚木君のお母さん」

 

 「今日は、舞先生」

 

 「今日は」

 

 「お母さん。あのね、今日ね、お絵描きしたんだ。そしたら、まい先生に誉められた♪」

 

 「お~、すごいじゃん、浩詩♪ナデナデ…」

 

 「エヘヘ♪」

 

  母親はまんべんの笑みで我が子の頭をなで回し、浩詩と言う男の子もまた照れた様子で笑っていた。

 その様子は側にいる舞にとっても、微笑ましいものだった。

 

 

 「そうだ♪ビッグニュースがあるんだ♪」

 

 「なあに?」

 

 「フフフ…、聞いて驚きなさい…。

 何と!お母さんのお腹の中には赤ちゃんがいるんだ~♪」

 

 「ほんと~!?」

 

 

 “赤ちゃん!?”

 

 

  赤ちゃんと言う言葉に、舞が一瞬反応する。その表情はどこか困惑していた。

 

 

 「本当よ♪あと半年したら、浩詩はお兄ちゃんになるんだよ♪」

 

 

 「おめでとうございます。柚木さん。柚木君も良かったね」

 

  すぐ、我に返った舞が2人にお祝いの言葉をかける。

 

 

 「いや~、主人たら毎晩激しくて、気がついたら二人目も…」

 

 「お父さんが激しいってな~に?夜何してるの?」

 

 「あ…、いや…。こっちの話よ…。 あはははは…♪」

 

 「?」

 

  母親のごまかし笑いに、首を傾げる浩詩だった。

 

 

 「とにかく、今日は早く帰ろう♪浩詩」

 

 「うん!じゃあね、まい先生!バイバ~イ♪」

 

 「バイバイ♪」

 

 「舞先生、それでは失礼します」

 

 「はい。柚木君のお母さん。これから大変でしょうけど頑張ってくださいね」

 

 「ありがとうございます。では…。

 

  浩詩、今日の晩御飯は何にする?」

 

 「カレーが良いな~」

 

 「よし!じゃ、カレーね」

 

 「ねえ、赤ちゃんが出来たって聞いたら、お父さん何て言うかな~?」

 

 「あなたのときは確か、“何だって~!”って驚いてたかな~?MMR風に」

 

 「見てみたいな~」

 

 

  楽しそうに話しながら、我が家へと帰る二人の姿を舞は微笑ましく、そして少し寂しげな様子で眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 「舞先生、今日は~」

 

  続けて、ツインテールの中学生らしき女の子が学校帰りなのか、制服姿で舞の元に寄って来た。

 

 

 「今日は、みちるちゃん。学校は?」

 

 「試験期間中だから、今日は午前中で終わりだったんです」

 

 「そうだったの」

 

 

 「ところで美咲は?」

 

 「確かその辺りに…」

 

 「みちるお姉ちゃ~ん!」

 

 「あ…、美咲~」

 

  後ろのジャングルジムで遊んでいた女の子が、手を振っている、みちると言う少女の元に駆け寄った。

 

 

 「美咲~、今日も舞先生に迷惑かけなかった?」

 

 「大丈夫だよ、みちるお姉ちゃん。私もうすぐお姉ちゃんになるから」

 

 「もうお姉ちゃんになったんだよ、美咲は」

 

 「え…?赤ちゃん産まれたの?」

 

 「うん♪女の子だって、さっきあんたのお父さんから電話で聞いたの」

 

 「やった~♪」

 

 

  みちるからの朗報に両手を挙げて喜ぶ美咲に、またも一瞬、困惑の表情を浮かべる舞。

 

 

 「おめでとう、遠野さん」

 

  すぐ我に返り、心からの笑顔で祝福の言葉をかけた。

 

 

 「遠野さん。お姉ちゃんになったんだから、もう好き嫌いしちゃダメよ」

 

 「うん。でもにんじんとピーマンは…」

 

 「大丈夫。美凪が作るハンバーグが食べられるんだから、にんじんとピーマンを使った

  他の料理だって食べられるよ。あたしだって最初はにんじんとピーマンは嫌いだったけど、

  美凪が作ったものは食べられる様になったからね」

 

 「そっか…。お母さんが作ったものはみちるお姉ちゃんが食べられるんだから、私も食べられるよね」

 

 「そうそう。にんじんとピーマンをいっぱい食べてお母さんやみちるちゃんみたいに

  きれいなお姉ちゃんになろうね。遠野さん」

 

 「うん!まい先生。私がんばって、好き嫌いせずに食べてみるから」

 

 「頑張ってね」

 

 

 

  「ねえ…、ところで舞先生…」

 

  さっきの困惑した舞の表情を見て何か気掛かりなことがあるのか、みちるが舞に話かけた。

 

 

 「何?みちるちゃん」

 

 「舞先生…、いつも赤ちゃんの話をすると、悲しそうな顔するけど…。やっぱりまだ…」

 

 

  恐る恐る話を切り出したみちるに、

 

 「大丈夫…。もう3度目だし、それに4ヶ月も経ってるから…」

 

 と舞は笑って返すものの、2人の間には重い雰囲気が漂っていた。

 

 

 「ごめんなさい…、舞先生。でもね…、美凪のお母さんも…」

 

 「いいの。みちるちゃんは悪くないから…。それに…、子供達と一緒にいるだけで私は幸せだから…」

 

 「そっか…。でも舞先生…。あんまり思い詰めないでね。それに、まだ可能性だって…」

 

 「分かった…。ありがとう…、みちるちゃん」

 

  舞の傷口に触れる発言をしてしまい、うなだれるみちるに舞は優しく微笑んで返した。

 

 

 「まい先生…、みちるお姉ちゃん…?どうしたの?」

 

 「「ううん…、何でもない」」

 

  2人の悲しそうな雰囲気にたまらずに美咲が話し掛けたので、

 それを悟られまいと2人は異口同音に慌てて返した。

 

 

 「?」

 

 「じゃあ美咲。そろそろお母さんの病院に行こっか…」

 

 「うん!」

 

 「舞先生。そろそろこの辺で…」

 

 「分かった。2人共、遠野さんのお母さんに宜しく言っておいてね」

 

 「うん!バイバイ♪まい先生」

 

 「2人共バイバイ♪」

 

  みちるが美咲を連れて帰ろうとしたその時…、

 

 

 “バサッ”

 

 

 「にょわっ!!?」

 

 

  突然、後ろからスカートをめくられ、素っ頓狂な声を出したみちるに

 

 「やった~♪白だ~♪」

 

 

 と、嬉しそうに大声をあげ、そのまま逃走する男の子。当然、みちるが黙っているはずもなく、

 

 

 「何すんのよ!!この変態エロガキィ~~!!」

 

 

 と、すごい剣幕で男の子を追いかけ始める。

 

 

 「鬼さんこちら~♪」

 

 

 「待て~!!変態エロガキ国崎鈴人ォ~!!」

 

 

 「国崎君…。みちるちゃん…」

 

  2人の鬼ごっこを呆れた様子で見守る舞だった…。が、

 

 

 (私もひょっとしたら家でこんなことしてたりするのかな?)

 

 と、いつしか寂しげながらも嬉しそうな表情でその鬼ごっこを見守っていた。

 

 

  鈴人と言う男の子を未だ産まれてこない我が子に、そしてみちるを自分か北川、あるいは両者に見立てて…。

 

 

 

“ただいま~”

 

 “お帰り♪潤”

 

  4年前、北川と舞が当時新婚だった頃のこと、舞は嬉しそうな表情で仕事で疲れて帰ってきた北川を迎える。

 

 

 “お風呂にする?ご飯にする?それとも…”

 

 “おいおい…。今日の家事の当番は俺だろ…?どう言う風の吹き回しだ?”

 

 “良いから良いから♪”

 

 “なあ…?今日はやけに機嫌が良いな~…。何か良いことあったのか?”

 

 “クス…♪分かる?”

 

 

  普段の舞も保母の仕事が終わったらこんな感じで北川を迎えてくれるものだが、

 この日はいつも以上に幸せそうだった。

 

 

 “ご飯のときに教えてあげる♪だから、潤は先にお風呂に入ってて♪”

 

 “変な舞…”

 

 

 ‘ポカッ!’

 

 “イテッ”

 

 

  北川の“変な”と言う言葉に反応したのか、舞が北川にチョップをかます。

 

 “変じゃない”

 

 “イテテ…。だからって、チョップかまさなくても良いだろ~?”

 

 “ぽんぽこたぬきさん”

 

 “ったく…。分かったよ…。じゃ、風呂入ってきまっす!”

 

 

 

 

 

  北川が風呂から上がってリビングに来たちょうどその頃、夕食の支度が出来たので、

 

 ““いただきます””

 

 と2人同時に挨拶し、そのまま箸を伸ばす。

 

 

 ‘パクッ’

 

 “うん♪舞の作る料理はやっぱうまいな”

 

 “ぽんぽこたぬきさん。私より佐祐理の方が料理の腕は確かだから…。祐一もきっとそう…”

 

 “いやいや、相沢や舞にとっては佐祐理さんの料理が一番うまいかもしれないけど、

  俺にとっては舞の料理が一番うまいんだよな~♪

 

  舞の料理を食べられる俺はやっぱり幸せ者だ♪”

 

 “……”

 

 

  北川の誉め言葉に思わず‘ボンッ’と顔を赤くしてしまう舞だった。続けて、照れ隠しに

 

 

 ‘ポカポカポカポカ…’

 

 

 と、食卓越しに連続でチョップをかましてきた。

 

 

 “イデデデ…。やめ…”

 

 “ぽんぽこたぬきさん、誉めた潤が悪い♪”

 

 “だからって…。こんなの理不尽だろ!”

 

 “ぽんぽこたぬきさん♪”

 

 “イデデデ…”

 

 

  舞のチョップを食らっている北川にとっては、それが痛いのは事実だったりするのだが、

 満更でもない様子で食らってあげるのだった。

 

 

 “相沢…。舞にこんなん教えんなよ…”

 

  舞にチョップを教えた祐一には少し恨みを抱いてみたりはするが…。

 

 

 

 

 

 “ところでさ…、今日はいつも以上に嬉しそうだったけど…、何があったんだ?”

 

  いつも以上に幸せそうだった舞のことが気になって、北川は話を切り出した。

 

 “内緒♪”

 

 “何だよ~。それじゃ教えてくれたことにはならないじゃん”

 

 “クス♪知りたい?”

 

 “もちろん知りたい”

 

 “じゃ、教えてあげる♪実はね…”

 

 

 “あ…、5日分の便秘が解消したから…”

 

 

‘ボカッ!!’

 

“デッ!”

 

 

  食事中の北川のデリカシーのない発言に、思わず本気でチョップをかましてしまう舞だった…。

 

 

 “潤!食事中にそんな汚いこと言わないの!それに、レディに対してすごく失礼!!”

 

 

 “ゴメン…。でも、だからってそんな強烈なの浴びせなくても…”

 

 

 “ぽんぽこたぬきさん!潤なんてもう知らない!”

 

 

  今の北川の発言で機嫌を損ねたのか、舞はプイッとそっぽを向いた。

 

 

 “悪かったよ~。舞~…。だからさ…、教えてくれよ~…”

 

 

 “ぽんぽこたぬきさん!”

 

 

 “なあ…、頼むからさ~…”

 

  両手を合わせて舞に頼み込む北川だったが、舞はなかなかそっぽを向いたまま

 自分の方を向こうとはしなかった。が、やれやれと言った感じで北川の方に向き直る。

 

 

 “潤…、もうデリカシーのないこと言わないって約束するなら教えてあげる。どう?”

 

 “言わない言わない…。だから教えてくれよ~…”

 

 “はちみつくまさん♪実はね、私のお腹の中に潤と私の子供がいるの♪”

 

 

 “え…?”

 

 “もう3ヶ月だって…♪帰りに産婦人科に寄ったら分かったの♪”

 

 

 “でかしたっ!舞!”

 

 “わっ…!!?潤…”

 

 

  舞からの妊娠したと言う朗報に、北川は跳び上がるほど喜び、

 まだ食卓に着いている舞の体を後ろから抱きしめた。

 

 

 “潤…、まだ食事中だから…”

 

 

 “おめでとう…、おめでとう…。舞~”

 

 

 “ちょっと…、潤…”

 

 “おめでとう…、舞~”

 

 “ちょっと…、潤…。落ち着いて…”

 

 

 ‘ゴン’

 

 “デッ…”

 

 

  あまりにも落ち着きのない様子で涙を流して喜んでいた北川に困惑して、

 つい後頭部で頭突きしてしまった舞。

 

 北川もまた鼻の部分にいきなり食らってしまったので、思い切り悶絶する。

 

 

 “潤。大丈夫?”

 

 “テテテ…、いきなり頭突きかますなよ…。お~、いて~…”

 

  しかめ面で鼻を押さえながら舞に話し掛ける。ちなみに、鼻血は出ていない様だ。

 

 

 “ゴメン…”

 

 “でも…、こんなにおめでたいものはないよな。何たって、俺達の初めての子供なんだし…”

 

 “はちみつくまさん♪”

 

 “あ~…。3ヶ月ってことは、後、半年か~…。待ち遠しいな~”

 

 “はちみつくまさん…”

 

 “でもさ…、これから色んなやつに自慢出来るよな♪隣の相沢家の2人にとかさ…”

 

 “はちみつくまさん♪”

 

 “よし…、じゃあ俺達に子供が出来たことを喜んで…”

 

 

 ““かんぱ~い!!””

 

 

 

 

 

 “ふえ~…。妊娠したんだ~?舞”

 

 “はちみつくまさん♪”

 

 “いや~…。昨日舞から聞かされたときは本当に驚きましたよ”

 

 “これからは本当にぽんぽこたぬきさんになるんだな~♪舞は♪”

 

 

 ‘ボカッ’

 

 “イデッ”

 

 

  翌日、土曜でお互いに仕事がないので隣に住んでいる

 相沢祐一・佐祐理(旧姓・倉田佐祐理)夫妻の部屋に遊びに来た北川と舞。

 

 

 ちなみに、昨日の北川と同じくデリカシーのないことを言った祐一は、

 舞の強烈なチョップをちょうど食らったところだ。

 

 

 “あはは~♪祐一ったら、舞からまたチョップ食らってる~♪”

 

 “イテテ…。冗談だって…。そんなマジにやんなくても…”

 

 “ぽんぽこたぬきさん!”

 

 “あ…、またぽんぽこたぬきさんって言ったな♪舞♪”

 

 

 ‘ボカッ’

 

 “イデッ”

 

 

 “あはは~♪”

 

  またもデリカシーのないことを言った祐一は舞のチョップを食らってしまい、

 その様子をまた佐祐理に笑われてしまった。

 

 

 “まったく相変わらずだな…。相沢も舞も佐祐理さんも”

 

 “あはは…、そうですね♪北川さん。でも、おめでとうございます。2人共”

 

 “ああ…、俺からもおめでとうって言わせてもらうよ”

 

 “ありがと♪2人共”

 

 “サンキュ。相沢。それに佐祐理さん”

 

  そんなこんなコントが4人で展開された後、相沢夫妻は北川夫妻に

 祝いの言葉を述べ、北川夫妻もそれを微笑んで返した。

 

 

 “予定日はいつですか?”

 

 “半年後なんで…。1月頃ですね”

 

 “半年後ですか~?お2人の子供が産まれたら…、ふえ~…。私はおばさんになっちゃいますね~”

 

 “そうだな~。そんときは俺らまだ23なのにおじさんおばさんってのはちょっとな~”

 

  おじさんおばさんと言う言葉に、少々困惑した様子の2人だった。それを見て北川が気を利かせて、

 

 “大丈夫だよ。そのときは佐祐理お姉さん、祐一おじさんて呼ばせるからさ♪”

 

 と、フォローを入れた。

 

 

 “あはは~♪ありがとうございます♪北川さん”

 

 “待て…。俺だけおじさんかよ”

 

 “いいじゃん。おじさんて言ってもまだ形式的なものだし…”

 

 “はちみつくまさん♪佐祐理はまだ若くてきれいだからお姉さんのほうが良いけど、

 

  祐一はデリカシーのないことばかり言ってるからおじさんがぴったりだと思う♪”

 

 

 “ぐはっ!”

 

 

 “あはは♪舞もありがとう♪”

 

  とどめとばかりにかけられた舞の言葉にあえなく撃沈してしまった祐一だった。

 

 

 

 

 “お2人共。私は妊娠したことないので分からないのでなんですけど…。

  これから色々と大変かもしれませんけど、頑張ってくださいね”

 

 “ありがと♪佐祐理”

 

 “ま…、困ったことがあったら俺らに相談しろよ”

 

 “サンキュ。相沢”

 

 “で、もし良かったら俺にも胎教させてくれないかな?”

 

 “ぽんぽこたぬきさん!祐一だと変なこと吹き込みそうだからダメ♪”

 

 “何だよ~。ケチ”

 

 “まあまあ…、お前は佐祐理さんが妊娠したときにすれば良いだろ”

 

 “そっか。それも…”

 

 “変なこと吹き込まないでね♪”

 

 

 “げっ!佐祐理まで…”

 

 “““アハハハハハハ…♪”””

 

 

 “ハハハ…♪”

 

 

  北川と舞にとって、初めての妊娠を知った頃は喜びの絶頂期だった。

 

 

  それが突然、悲しみのどん底に突き落とされることになるなど想像も付かなかった…。

 

 

 

 

 舞の妊娠から、6ヵ月後の激しい雷雨が降っていたときのこと…。

 舞のお腹も大きくなってゆき、翌日から産休を取る為、職場に最後の挨拶をしに言った時のことだった。

 

 “それでは七瀬先生。子供達のことを宜しくお願いします”

 

 “はい!後は私に任せて、北川先生はゆっくりと休んで、元気なお子さんを産んでくださいね”

 

 “ありがとうございます”

 

 “舞先生がいなくなるなんて寂しくなるわね”

 

 “大丈夫です。半年くらいしたら戻って来ますので…”

 

 “うむ…。舞先生、立派なお子さんを産んでまた元気な姿を見せてくれよ”

 

 “はい。ありがとうございます、園長先生。それでは失礼します”

 

 “お疲れ様。頑張ってね”

 

 “はい”

 

  挨拶を済ませ、職員室から2、3歩歩いたそのときだった。

 

 

 “!!?”

 

 

  突如、舞のお腹を激痛が襲った。

 

 

“グッ…!!”

 

 

  その激痛に舞の顔は歪み、たまらずうずくまる。

 

 

 “舞先生?どうしました?舞先生!”

 

 

 “きゅ…、急にお腹が…”

 

 

 “何だって!?”

 

 

  舞の異変に職員室にざわめきが起こる。

 

 “どうして…?健診では、何もなかったはずなのに…”

 

 “落ち着いて…!舞先生…。誰か、すぐに救急車を!”

 

 “今、通報しました!”

 

 “そうか!舞先生!頑張って!”

 

 “赤ちゃんが…。赤ちゃんが…!”

 

 “大丈夫!きっと助かりますから…!”

 

 “潤…!赤ちゃんが…!赤ちゃんが…!”

 

 

  お腹に走る激痛とお腹の赤ん坊への心配から舞の瞳から涙が落ちる。

 

 

“助けて…!潤!皆!”

 

 


 
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