No.179458

【南の島の雪女】雪女は家庭科室の冷蔵庫の中にいる(1)

川木光孝さん

「南の島の雪女」の第1話目です。

2010-10-21 01:24:50 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:558   閲覧ユーザー数:548

【出会い】

 

「らららら~♪」

午後11時。金城高校。

 

宇久田風乃(うくた ふうの)は、

夜の校舎を鼻歌まじりに徘徊していた。

 

誰もいない校舎は静まり返っている。

 

「あ~、お腹すいたなぁ」

風乃はお腹をさする。

 

「家庭科室に食べ物おいてないかな?」

 

風乃は家庭科室に入る。

冷蔵庫が一台おいてある。

何か食べ物はないか、と風乃は冷蔵庫を開ける。

 

「ああ、すまん。

 入ってるんだ」

 

冷蔵庫の下段に人がいる。体育座りをして、

ぎりぎり冷蔵庫におさまっている。

髪の長い女だ。どうやら生きているようだ。

目が合う。

 

風乃は、冷蔵庫の中から牛乳を取り出すと、

そのまま冷蔵庫を閉めた。

 

【冷蔵庫の中】

 

風乃は「ごくごく」と牛乳を飲み始める。

お腹がすいているのに、なぜ牛乳をとったのか

自分でもよくわからなかった。

気が動転して、牛乳と牛肉を間違えたのかもしれない。

 

じゃあ、牛肉を今から取り出すか?

冷蔵庫から。

 

風乃はちらりと冷蔵庫を見た。

牛乳を家庭科室のテーブルに置くと、

冷蔵庫へと近づいていく。

 

「お邪魔します」

 

冷蔵庫を開けた。

やはり、中に人がいる。再び目が合う。

 

「こ…こんにちは」

 

風乃は、冷蔵庫の中の人に笑顔を向けて

挨拶する。

 

「こんにちは」

 

冷蔵庫の中の人も挨拶を返してきた。

 

「あのー、

 夜だから『こんばんは』が正しいと思いますよ」

 

「お前が最初に『こんにちは』って言ったんだろうが!」

 

冷蔵庫の中の人は、怒って、立ち上がろうとして、

冷蔵庫の上段に頭をがつんとぶつけた。

 

【雪女】

 

冷蔵庫から出てきた女は、自らを「雪女の白雪」と名乗った。

女生徒のほうも自らを「宇久田風乃」と名乗る。

 

「え? 雪女なの?」

 

「言っても信じてもらえないと

 思うけど、俺は雪女だ」

 

「沖縄に雪女っているんだ…

 どこの出身? 恩納村?」

 

「馬鹿を言え。こんな雪の降らない場所に

 俺が生まれるわけないだろう。

 俺は東北出身だ。いろいろあって、沖縄にまで

 やってきたんだ」

 

「なんで冷蔵庫にいたの?

 せまくないの?」

 

「暑くて死にそうだったから、

 冷蔵庫にこもっていた」

 

「なるほど」

 

「ところで、お前は

 夜の学校に何しにきている?」

 

「幽霊さんたちとお話に来たの!

 えへへ!」

 

きらきらと目を輝かせる風乃。

目の中には、希望の太陽がさんさんと輝いて、

一点の曇りもない。

 

「うわぁ…

 あまり関わりたくねぇ女だ」

 

白雪は、言い知れぬ寒さを感じ、身を震わせた。

 

【ぐきゅるるる】

 

ぐきゅるるる、と誰かの腹が鳴った。

 

「あら? 白雪。

 お腹すいてるの?」

 

「そうだ。もうお腹がすいてたまらん。

 ここ数日、まともに食べてないのでな」

 

白雪はお腹に手をあてて、ため息をつく。

 

ぐきゅるるる、とまた誰かの腹が鳴った。

 

「白雪、また鳴ったよ」

 

「いや、今の音は俺のではないぞ」

 

「へ? じゃあ私?」

 

「お前以外に誰がいる」

 

「まわりに、何人かいるよ?

 あのおじさんとか、あの男の子とか」

 

「人間以外は数えなくていい!」

 

【ぐきゅるるる その2】

 

「あらー、私の腹の音だったよ、やっぱり。

 いやぁ、失敬失敬」

明るく笑う風乃。

 

「お前も、腹が空いているのか?」

 

「そうなのよ~、さっき牛乳飲んだんだけど、

 やっぱ牛乳だけじゃ満腹にならなくてさ!」

 

「そうか…牛乳か。

 俺も飲んでいいか」

 

「雪女って牛乳飲むの?」

 

「雪女だって牛乳くらいは飲むさ」

 

白雪は、牛乳を飲み始める。

 

「うえ!?」

 

白雪は、味覚に違和感を感じ、牛乳を吐き出した。

カビの生えたみかんを、そのまま飲み込んでいるような気分。

 

「どうしたの?」

 

「なんだこの味は!?

 うう…少し飲んでしまったではないか!

 お前、賞味期限は確認したのか?」

 

「あー、そういえば全然確認してなかったなぁ。

 いつ?」

 

「10日前だ! よく見ろ!」

 

「うそ!? 普通においしかったんだけど!?

 ちょっと貸してみて!」

 

風乃は、牛乳を白雪から奪い取ると、

牛乳をごくごくと飲み始める。

風乃のノドが、激しく波打つ。

 

「おい! 馬鹿かお前は!

 そんなに飲んだら!」

 

「ぷはー!

 おいしい牛乳だよ!」

 

「ぷはーじゃないだろ!

 死ぬぞ!」

 

「大丈夫、だいじょう…ブハッ!」

 

風乃の口から、大量の牛乳が飛び出す。

目の前にいた白雪は、突然吐き出された牛乳を

避けきれず、もろに浴びてしまったのだった。

 

 

続く


 
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