No.177136

PSU-L・O・V・E 【Omen(兆し)②】

萌神さん

EP10【Omen(兆し)②】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-08 22:20:39 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:578   閲覧ユーザー数:573

ガーディアンズ庁舎 医療ブロック キャスト専門医 モリガン・ホプキンス女医 控え室。

開いた自動扉の前に立っていたのはユエルだった。

「あ……」

控え室の中にヘイゼル達が居る事に気付いたユエルの目が泳ぐ。彼女は何故か部屋に入るのを躊躇う素振りを見せている。

(ユエル……?)

そんなユエルの様子をヘイゼルは訝ったが、彼女の元にジュノーが小走りに駆け寄っていた。

「ユエルさーん、退院おめでとうございます」

「あ……え、誰? って言うか、ジュノーちゃんッスか?」

見知らぬパートナーマシナリーに親しげに迫られ、一瞬戸惑うユエルだったが、直ぐに"彼"が元は"彼女"だったジュノーである事に気付いた。

「ハイです! ボク、新しいボディでリニューアルしました」

戸惑うユエルの前で、ジュノーは再びクルリと身を翻し、新しい姿をアピールする。

「そんな……性別まで変ってッス……でも、本当に元気になって良かったッスよ……」

その姿に始めは呆然としていたユエルも、ジュノーが無事に回復した事に安堵し、目尻に浮かんだ涙をそっと指で拭った。

「さあ、ユエルさんもボーッとしてないで中に入って下さい」

ジュノーは未だ部屋に入ろうとしないユエルの腕を掴むと、強引に部屋の中に引っ張り込んだ。

「え、あ……ちょ……!」

虚を突かれたユエルは抗う事も出来ず、半ば転ぶように部屋に引き込まれた。部屋の中でヘイゼル達の視線を受け、彼女はオドオドと身を縮めている。

「ユエルちゃんも退院おめでとうなんだぜ」

「フン……たった二日ばかりの検査入院だ。大袈裟すぎるだろう」

ユエルの退院を祝うビリーに、ヘイゼルが過剰な心配だとばかりに鼻を鳴らすと、ユエルは小さく「ごめんなさい……」と呟いた。そんな彼女の様子に、ヘイゼルは更に眉をひそめる。

どうもユエルの様子がおかしい。借りてきた猫のように他人行儀で、いつもの元気さが窺えない。

「どうした、らしくないじゃないか?」

モリガンも異変に気付いたが、当のユエルは「何でもありませんッスよ」と小声で言うだけだ。

「まあ良い。兎も角、これで二人とも目出度く退院だ。オメデトー」

「何で最後、カタコトなんだぜ? で、本音は?」

投げやりなモリガンに、ビリーが真意を問うと、彼女は答えた。

「手間が減って楽になる」

「このダメ医者が!」

ぱかーっと、紫煙を吐き出すモリガンに、ヘイゼルが空かさず突っ込みを入れる。

「医者は暇な方が良いんだよ……。だが残念ながら現実はご覧の通り、任務で負傷を負ったガーディアンズ職員のお陰で連日の大盛況。此処が我々医者にとっての最前線だ。怪我が治った人間は次に譲って、さっさと帰る!」

話しはこれまで、とばかりにモリガンは集まった四人を控え室から追い出しに掛かった。

(新しい情報が入ったら、お前達に知らせる。今日はもう引き上げた方が良いだろう……)

その際、モリガンはヘイゼルとビリーに小声で言い含めた。ユエルに余計な心配事を与えないようにする為だと理解した二人も黙って頷く。

「では、ヘイゼルまたな。ジュノーの素体が届いたら連絡するからな」

「……今度はちゃんと頼むぞ」

それだけは真剣にお願いしたい。

ヘイゼルは苦々しい表情で念を押し、ユエルとジュノーは世話になった礼を言ってガーディアンズ支部を後にした。

支部を出た四人はリニアトレインの駅へ向かって歩いていた。

並び立って歩くヘイゼルとユエルに僅かに先行し、ビリーとジュノーが談笑している。

ヘイゼルはちらりと横目で隣を歩くユエルを盗み見た。やはり彼女の元気が無い。それが気に掛かるが、しかし声を掛けるのははばかられた。今はジュノーとビリーの目もある。過保護だとは思わないが、心配している事を二人に悟られたくは無かった。

等とヘイゼルが躊躇していると、ビリーが急に足を止め、思い出したように掌を打った。

「ああっ! そうだ思い出した!」

突然のビリーの態度に三人の視線が集中する。彼は構わずに進める。

「今日は買い物に行かなきゃならかったんだ……! でも、どうすっかな、結構大きくて嵩張る荷物だし……そうだ、ヘイゼル、悪いんだが、ちょっとジュノーちゃんの手を借りても良いか?」

「ああ……別に構わないが……」

いきなり振られたヘイゼルが面食らった様子で相槌を打つ。

「そうか! 有り難い。じゃあ、ジュノーちゃん、ちょっと付き合ってくれ!」

「え……あ、ちょっとビリーさん、待ってくだしあ……!」

ビリーは礼を言うと、事態を飲み込めていないジュノーの手を取ると、駅とは反対の商業区にかって早足で歩き去って行く。

後には突然の出来事に呆然と立ち尽くす、ヘイゼルとユエルだけが残された。

 

 

 

「ビリーさん」

ヘイゼル達から離れ、ショッピングモールへ向かう通りを並び歩いていると、不意にジュノーがビリーに訊ねた。

「なんだい?」

「買出しなんて嘘ですよね?」

ジュノーの問いにビリーはおどけた表情をして見せる。

否定をしない、と言う事は肯定の意味なのだろう。

ヘイゼルは、ああ言った性格だから、人前で慰めの言葉を掛ける事は出来ない。

そうビリーは判断し、適当な理由を付けてヘイゼルとユエルを二人きりにしたのだろうが……。

「でも、良いんですか、ビリーさん?」

と、ジュノーが更に問い掛ける。

「何がなんだぜ?」

「ビリーさんもユエルさんの事が……ぅぷ」

ビリーは上からジュノーの唇に左手の人差し指を当て唇を塞いだ。

「おぉっと、その先は言っちゃダメなんだぜ」

右手の人差し指を自らの口元で左右に振りながら、ビリーはチッ、チッ、チッと小さく舌を打つ。

ビリーの指先が、ジュノーの唇の戒めを解くと、開放されたジュノーは、ぷはぁと大きく息継ぎした。

「ビリーさんは"ナニワブシ"なんですねー」

「"ロック"と言って欲しいんだぜ」

その強がりを誇らしげに語り、ビリーはウィンクして見せた。

(あのワザとらしい口調……嘘を吐く時の癖、バレていないと思っているのか? 気を利かせたつもりなら、ビリーめ余計なマネを……だが、その気遣い、感謝する)

長年の相棒であるビリーの考え等読めている。残されたヘイゼルは心の中で彼に感謝した。

「―――すまなかった」

ぶっきらぼうにヘイゼルが詫びる。思いがけない言葉に驚き、ユエルはヘイゼルの顔を見上げた。

「戦地では何が起こるか解らない。その危険を予期せず、お前を一人で帰してしまった結果がアレだ。……俺の判断ミスでお前を危険に捲き込んでしまった」

ヘイゼルは険しい顔をしていた。

それは自分自身に対する怒り故に……。

結果的にユエルは今こうして、無事に退院する事ができたが、あの時……運命が違えば彼女は命を落としていたかもしれないのだ。死体で発見したビーストの様に……。

「違うッス……ヘイゼルさんは悪くないッスよ。悪いのは私ッス……自分の実力も顧みずに我侭を言って作戦に付いて行った、私が悪いッスよ」

ユエルは無意識にヘイゼル左腕に手を添え、彼の言葉を否定する。

「……許せないのは、自分自身の方ッスよ……」

ヘイゼルの左腕に添えられたユエルの手に力が入る。

「私は……目の前でジュノーちゃんが倒されたのに、彼女を見捨てて逃げてしまったッス……。それが許せないッスよ……。私はガーディアンズなのに、誰も守れていないッス。私は……ガーディアンズ失格ッスよ……」

後悔と苦渋だらけの顛末。それでも自分を責めなかったジュノーに対する負い目。ユエルは己の不甲斐なさに涙を堪えて唇を噛み締めた。

「それは、お前のせいじゃない……」

そんな彼女を見て、自然に慰めの言葉が自然とヘイゼルの口を付いて出た。

「ジュノーは、ああ見えて優秀なパートナーマシナリーだ。俺には勿体無い位のな。アイツ等の目的はガーディアンズ職員のサポートをする事。危険な任務において、時として自分の身を擲して"主"たる者を守る。それがパートナーマシナリーの役目だ。アイツは自分の役目を果たしたんだ」

だが、ユエルは頭(かぶり)を振る。

「でも、ジュノーちゃんはヘイゼルさんのパートナーマシナリーッスよ。主でも無い私を庇う必要なんて無い筈なのに……やっぱり、私が……」

「いや、お前は……!」

『自分が悪い』

『悪くない』

二人の会話は堂々巡り、切りが無い。ヘイゼルはその繰り返しが不意に馬鹿馬鹿しくなり、思わず吹き出していた。

ヘイゼルの様子にユエルは不思議そうに彼の顔を見上げた。

「不毛な議論は止めないか?」

「……」

納得できないのか、ユエルは答えない。

「結果的に俺達は誰も失っちゃいないじゃないか、今回はそれで良しとしないか? 反省はしなきゃならないが、まだ後悔する程じゃない」

そう、今回の作戦で死んだ仲間がいる訳では無いのだ。

「兎も角……お前が無事で良かった」

ヘイゼルは言った後、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

そんなヘイゼルの様子を見て、ユエルもやっと微笑みを見せる。

「ありがとうッスよ……ヘイゼルさん」

その表情にはいつもの明るさが戻り始めていた。

四人が去ったモリガンの控え室。

診療に備え、患者のカルテを整理していたモリガンの耳に、内線のコールが飛び込んできた。

「ハイ、モリガンだ」

内線の受話器を取りながら、ディスプレイに表示された番号を確認する。

通話は看護士達の詰め所から掛けられた物だ。

「モリガン先生、ユエルさんの精密検査結果が出ました」

聞きなれた若手看護士長の声が告げる。ユエルは今回の入院で精密検査を受けている。その検査結果がまとまったようだ。

「そうか、どれ見てみよう」

忘れているかもしれないが、ユエルにはリアクター機能不全の疑いもある。人で言えば心臓の不全を抱えている可能性もあるのだ。彼女の精密なデータは一度見ておきたかった。

だが、モニター越しの看護士長は、データを出すのを渋っている様子だった。

「どうした? 早く送ってみろ」

怪訝そうな顔をしながら、モリガンがデータを渡すよう催促する。

「それが……この検査データ変なんです」

戸惑う彼女の言葉は全く要領を得ない。

「取り合えず、データは送信します……。ご自分の目で確かめて下さい」

看護士長は困惑を浮かべた表情のまま、意を決しデータの送信ボタンを押した。

卓上PCディスプレイのウィンドウが開き、検査データが展開される。

そのデータを目で追う内、モリガンの表情が、みるみる険しくなった。

「……何だ、この数値(パラメーター)は?」


 
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