No.175980

春の思いに誘われてー願い編

TAPEtさん

恋姫二次創作小説。

一刀のハーレムいちゃいちゃの後ろにこんなことがあったかもしれない、という気持ちで書いてみました。

これを書こうと久しぶりに雪蓮の死ぬところをまた見ました。

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2010-10-02 18:33:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3138   閲覧ユーザー数:2688

本作品は、思春の部下であった一人の男を中心に語っている物語です。

 

 

実際にこんな話があったかもしれない。という感じで作ってみました。

 

 

尚、本作品はBAD ENDを目指していることを先にお告げします。

 

 

ですので、拒む方々はここでお戻りください。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ハーレムという名前の一刀の生活にあるしかなかった、

 

 

悲しい裏話。

 

 

ポン

 

「……」

 

……はぁ…。

 

 

 

 

 

スッ

 

「こんなところで何をしている」

 

もう来たか。

 

「見りゃ解るだろ、釣りだ」

 

「…貴様には水軍の調練を頼んだはずだが」

 

「そんなもんしなくても奴らは一級だ。江賊やってた輩なんだぞ。お前も解ってるだろ」

 

「…みくびるな。いい剣でも使わなくては錆びる。日々精進しなければ、これからの戦いでどうなるかは解らん」

 

「いい剣も錆びるか……おい、思春。その話だが…そろそろ俺はこんなことも飽きてしまったよ」

 

孫家の姫さまのところで思春が仕えた後、ろくな戦いも起きないまま毎日部下たちの調練ばかりやる日々。

 

もう何年もこんなことが続いている。

 

このままじゃ、錆びるところか腐ってしまいそうだ。

 

「そっちのは明命を任せているだろ」

 

「あの長剣使う小娘か?あの子供で満足できるかってぇの」

 

釣り竿を後ろにして、俺は思春の方を向いた。

 

「俺はお前じゃねぇと盛り上がらねぇんだよ。本気のお前じゃねぇと……」

 

何年が過ぎても忘れられない。

 

あの動き。あの技。何もかもが俺を殺りに攻めてくるものだったあの時を、

 

たった一度きりだったあの感覚が、今でも俺を疼いていた。

 

「……江東で袁術の客将にいる、蓮華さまの姉、孫策さまから連絡が来た。私たちは、明日から江東へ向かう」

 

!?

 

「おい、マジかよ」

 

「連中にもそう伝えておけ。私はこれから蓮華さまのところに行く」

 

そう言って、思春はこっちの答えも待たずに消え去ってしまった。

 

もう、あいつの頭にはあの姫さまのことしかないようだ。

 

「しかし、江東か」

 

これからまた忙しくなるな。

 

少なくとも、もうこんな暇だらけの時間とはお別れだ。

 

 

 

 

「ふああああああああ~~~~」

 

「おっきい欠伸ですね」

 

「うるせぇ……」

 

「わくわくしませんか?」

 

何がわくわくだ。こんな荒野で何日も歩くなんて、聞いてねぇぞ。

 

いや、わかっていた。解ってはいたんだけどよ……。

 

「おい、もうどれだけ行けばいいんだ?」

 

「さあ、どうでしょう…蓮華さまの話では、後五日ぐらいはかかるだそうです」

 

「マジかよ……はぁ…」

 

毎日歩くことしかないなんて、ふざんなよ、おい。

 

もう釣りでもいいや。釣りさせろ。森の中でもいい。釣り針がなくてもいい。人を釣ってやる。

 

…あぁ、つまらん。

 

思春はどうしてるんだ?

 

どうせ奴のことだから黙って姫さまの側で歩いているだろうが……。

 

「あ、思春殿」

 

うん?

 

ふと前を見直したら、あっちから思春が来ていた。

 

「どうしました?」

 

「明命、暫く蓮華さまの護衛を頼む」

 

「はい?…あ、はい」

 

小娘はその話を聞いて前に進んだ。

 

 

 

「おい、どうした?」

 

「…案の定か」

 

「あ?」

 

「……貴様がそろそろつまらなくて暴れ出しそうだったからやってきてみたのだ」

 

「…はっ」

 

それは惜しいものだな。

 

俺がもうちょっと早くきれていたら、お前が来て俺を止めようと少しは本気出してくれたかもしれないのによ。

 

「で?何だ、別にお前が来たところで、俺は別になんともないんだが」

 

「………」

 

無視かよ。

 

何も言わずに、思春はただ俺の側で速さを合わせながら歩いていた。

 

暴れないように監視でもしているつもりか?

 

「………」

 

ちっ、何だってんだよ…

 

「姫さまのところに行かなくていいのかよ」

 

「明命を行かせただろ」

 

「いつもは近くにいないと心配で何もできない奴が良くいうわよ……」

 

「……今は貴様のことが心配だ」

 

「ふん!」

 

んなことしなくても暴れるとかそんなことしねぇよ。

 

馬鹿か。

 

 

 

 

「申し上げます!本軍の孫策さまが、先に敵陣の先端を攻め始めた模様!」

 

「何ですって?」

 

進軍しているうちに、そんな話が耳に入った。

 

姫さまはもちろん俺を含めた全員が驚いた。

 

おい、おい。あんな大将でいいのかよ。

 

「思春、進軍速度を上げなさい」

 

「はっ!」

 

「よっし!お前ら!駆け足行くぞ!昼のうちに到着する覚悟で走れぃ!!」

 

「いえ、いえ、流石にそれは無理です!」

 

小娘の常識的なツッコミはどうでもええ。

 

とにかく、この歩くだけの状況を早く終わらせたいんだよ。

 

気が合いそうだな、あの大将さんも……

 

ここの姫さまはわりと堅物だからよ。

 

思春とは気が合いそうだが俺は厳しいんだよ。

 

「おい、あまり昂るな」

 

「あぁ?いいじゃんか。そろそろ歩くだけというのも飽きたしな。そろそろ戦いたいんだよ」

 

「貴様は…これは孫呉の再興になる第一歩だ。もう少し弁えろ」

 

「弁えろといわれてもな、戦うのが俺たちの本望なんだよ。戦うのが全て。お前もそうだろ」

 

「……私は蓮華さまと孫呉のために戦う。それだけだ」

 

「…ふん」

 

「あ、あの、二人とも喧嘩は…」

 

「別に喧嘩じゃねぇよ」

 

「いつものことだ。心配することはない」

 

「あうあう…」

 

孫呉とか、江東の統一とか、俺の知ったことじゃねぇ。

 

俺は、ただこいつを見ていれればいい。

 

そして、いつかは……こいつとまたそんな戦いをする。

 

その時までは、少し味は薄くてもこんな茶番、付き合ってやろうじゃねぇのかよ。

 

 

 

 

と、思ったら、

 

「おい、おい、初陣が攻城戦だなんてふざけんじゃねぇよ」

 

こんなの、水戦で言うと扁舟で闘艦と戦うのと一緒じゃねぇか。

 

姫さまたちは軍議に行って帰ってきそうもねぇし、

 

ったく…待たせるんじゃねぇっての。

 

「お副頭」

 

うろちょろ思春と姫さまたちが戻ってくるのを待っていたら、後ろから部下一人が来た。

 

「何だよ…っていうかてめぇらはまだその呼び方かよ」

 

「いいじゃねぇっすか。それより、噂聞きました?」

 

「ああ?何だそりゃ。お前らな。つまんないからって変な噂して隊長に迷惑かけんじゃねぇよ」

 

「違いますって。孫策さまのところに、天の御使いという奴がいるらしいじゃないですか」

 

「ああ、それは俺も聞いた」

 

なんとまぁ、胡散臭いものをな……

 

そんなことまでするのか?国立て直すというのに。

 

「それがどうしたんだよ」

 

「それが…その天の御使いという男に、お頭たちを嫁入りするという…」

 

…は?

 

「……おい、今何と言った?」

 

「だから、その天の御使いという奴をお頭の夫にするという、ぶぉっ!」

 

「ふざけってんじゃねぇ!!」

 

俺は話をしていた奴の頭に拳を投げてから言った。

 

「誰がそんな話を始めた!今すぐ俺の前に出せ!」

 

「お、俺も知らんよ。突然そんな噂が皆の中で広まってて」

 

「てめぇら、それ以上その話について語るんじゃねぇ。もし俺の耳に入ったら、誰も知らずに命落とすと知れ!解ったか?!他の奴らにもそういっておけ!」

 

「わ、解ったよ!」

 

そして、奴は逃げるように消え去った。

 

…なんだと?

 

思春を、誰かも知れん男の嫁にする?

 

ふざけてんじゃねぇよ。

 

孫呉の再興か江東の統一か知らんがよ。

 

そんなもん、俺がただで見ていると思ってんじゃあねぇっての。

 

 

 

 

暫くしたら、思春が帰ってきた。

 

「作戦が決まった。精鋭部隊を編成して、夜に城内に……うん?どうした?」

 

「お前、正直に言ってみろ。本陣のところに行って、何があった?」

 

「……何の話だ?」

 

「部下たちの中で、お前をその天の御使いというやらの妻にさせるという話があったとの噂が流れている」

 

「…!!」

 

……まさか、

 

「普段は動揺なんてしないお前だ。本当らしいな」

 

「…あぁ、確かにそんな話があった」

 

「…一体何だってんだよ、この軍は。いきなり何を言っているんだ!こんな馬鹿な話、聞いたことねぇ!!」

 

「静かにしろ。そう怒る話でもない」

 

「これを怒らなくて何を怒れというんだよ!おい、思春。俺は今までお前がやってるのをずっと見ていただけだったんだけどよ。今回だけは言わせてもらうぜ」

 

ふざけてやがる。

 

何もかもふざけてる。

 

思春を誰かも知れないクソったれに渡すだと?

 

そんなこと、俺と部下の奴らがただで見ているとでも思っているのか?

 

「…とりあえず落ち着け。何も強制的にそうするものではない。私がよしとすれば、の話だ」

 

「それで、お前が見るにあいつはどうなんだよ」

 

「…話にならん。胡散臭い名前としては大した技を持っているようにも見えない」

 

「じゃあ…」

 

「そんな男に嫁入りだと?ふっ、ふざけてる話だ」

 

「………はぁ…」

 

何だよ。

 

俺は何昂ってたんだよ。

 

「貴様が勝手に勘違いしていたせいだ。…奴らにもそういっておけ」

 

「ああ、噂を始めた奴を見つけて半殺しにさせねぇと気が済まん」

 

「…あまり酷くするな。士気に関わる」

 

「わかってるって……で、何だ?精鋭な奴ら集めろって?」

 

とりあえず問題はなさそうだな。

 

先の奴、今度会ったら本当に半殺しにしてやる。

 

 

 

 

そんな戦いが続き、黄巾党の乱、反董卓連合、そして袁術からの独立のための戦い。

 

ようやく、思春がそれほど願っていた、孫呉への罪を払っている頃……

 

曹操軍により、孫呉の君主、孫策さまは暗殺された。

 

「殺せ!殺せ!殺し尽くせ!!」

 

思春は激怒していた。

 

あの冷静な思春が、正気を失ったのように獣のような叫び声をしていた。

 

「我らの怒りを獣どもに叩きつけろ!」

 

チリン

 

「あ」

 

その時、俺は見てしまった。

 

あの時の思春。

 

嫌、それより遥かに強い思春を…

 

「王を……我らの王を穢した罪を、奴らの命で償わせろ!」

 

俺は、その喘ぎに怒りに満ちた叫び声を聞きながら昂っていた。

 

だけど、

 

 

 

我らの王が死んだ?

 

目の前の死すべき王の仇?

 

そんなものはどうでも良かった。

 

俺があれだけ求めた思春の姿が、そこにはいた。

 

 

ただ、一つだけ残酷な話だったのは…

 

「投降するものは殺せ!逃げるものも殺せ!その地を大地に吸い込ませ、孫呉に二度と刃向かえできないように!」

 

その怒りの向かい先が、俺ではなかったということだろう。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 

 

 

「滑稽だな、今のお前の姿は…」

 

「………」

 

「いつもの冷静で、強気なお前はどこに行った」

 

「…失せろ」

 

「いつまでそんな風にしているつもりだ。お前のやるべきことは、姫さま…いや、君主となった孫権さまを支えることではなかったのか?」

 

「解っている!!」

 

スッ!

 

奴の曲刀が首筋を髪一本差で通りすぎる。

 

今なら、今の思春をもっと挑発すれば、あの時のような戦いができるだろうか。

 

……

 

いや、やめよう。

 

こいつがこんな顔をしているのは、はじめてみた。

 

そして、あまり長く見たくも無い。

 

「酒でも持ってくるぞ。今日は呑んで、全部吐き出してしまうといい」

 

「………」

 

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

蔵から何瓶か酒を盗んできて、奴がいたところに行こうとした。

 

が、

 

「貴様がそれでも孫呉の者か!」

 

!!何だ?

 

思春のこの声は……

 

「俺もわかってるよ!だけど、思春までこうしていると、蓮華は誰が支えてくれるんだよ」

 

「貴様……」

 

あれは…確かに天の御使いという奴だな。

 

この前水練の時に、姫さまと一緒に間抜けな顔を晒してきたことがあった。

 

姿を見せずに、木の後ろから話を聞いてみた。

 

「蓮華の力になってくれ。今のあいつには、お前が必要なんだよ。もちろん、俺と支えるけどよ」

 

「………」

 

「今は、まだ皆感情が乱れているだろう。俺だってそうだ。でも、いつまでもこうしているわけにはいかない。俺たちがこうしてるうちにも、蓮華は王さまになるために悲しむ時間もなく頑張っている。でもそれだと、蓮華の心をあまりにも重くしてしまう」

 

「……」

 

「だから、俺たちが蓮華さまの心配になってくれないとダメなんだよ……」

 

「……貴様に言われなくても解っている」

 

「思春」

 

思春?

 

「感謝しよう。貴様のおかげで少しは気が晴れた」

 

「思春!」

 

「私は蓮華さまのために存在する…貴様も同じだ……もし貴様がそれを忘れているのならば、いつでも思い出させてやろう」

 

「ありがとう、思春」

 

「……ふっ」

 

!!

 

そこまで言って、思春はどこかに行ってしまった。

 

しばらくして天の御使いとやらもいなくなった。

 

………

 

がちゃん!

 

「いつっ!何だ?」

 

いつの間にか俺は

 

手に力を入れすぎて、持っていた酒の瓶を壊していた。

 

瓶の切れ端が指に刺さって、手が血と酒のまみれになっていた。

 

痛みはなかった。

 

「………」

 

天の御使い……

 

 

 

 

 

何だか、心の中の疼きが、今まで以上に強くなった気がした。

 

でも、今までとは違う、

 

遥かに鮮明で、強い疼き、

 

 

 

 

 

 

 

 

それが嫉妬だったというのを知ったのは、もう随分と遅くなっていた頃ではったがな……

 

 


 
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