No.175801

『舞い踊る季節の中で』 第88話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 決戦を前に敵の王を暗殺する、そんな最悪で下衆な行為を暴走した兵とは言え、己の軍がした事実に何の変わりはない。 その事に華琳は、まずは己自信にその怒りをぶつける。 この戦に既に戦う意義を失くした華琳は何とか戦を止めようとするが、卑劣な行為に怒り狂う孫呉の軍勢は止まるわけが無い。
 そんな中一刀は戦場の空気に当てられ、己自身も怒りに飲み込まれる。 戦える状態ではないと言うのに。

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2010-10-01 20:17:50 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:15323   閲覧ユーザー数:10265

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第88話 ~ 悲しみに舞う魂は屍を乗り越え、鎮魂の歌を奏でる ~

 

 

 

お願い:BGMに『 我屍越征 』を流して御鑑賞下さるよう、お願いいたします。

 

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

        

華琳視点:

 

 

 私は、目の前で起こった事に。

 あの男の口舌の内容に頭が真っ白になる。

 あの男の言う事を疑うなんて事は最初から考えていない。

 あれは策を弄しても、あのような嘘を言う者ではないからだ。

 したがって、あの男の言葉は真実。

 誰かは知らないけど我軍の誰かが、決戦を前にして孫策に暗殺を仕掛けた。

 在ってはならない事を引き起こしてしまった己の不甲斐なさに。 己への怒りに、頭の中が真っ白になる。

 だが己の怒りに酔っている場合では無いっ! そんな事よりしなければいけない事があるはず。

 そして、やっと口にする事の出来た言葉は唾棄すべき内容。

 出た声は怒りに震え、大気すらもその声に怯えているかのように震えだしていた。

 

「どう言う事だっ! 誰が孫策を暗殺せよと命じたのだ!」

「わ、我等がその様な事を、するはずがありません!」

 

 怒りに震える私の言葉を、傍に居た春蘭が反射的にそう答えてしまう。

 そんな事分かっているわっ! 私が認めた娘達が、そんな馬鹿な事をする訳ないって事くらいわね。

 だけど、今はそんな春蘭の言葉すら、私は怒りの感情を増長させてしまう。

 

「なら何故だ! なぜ孫策が毒を受ける! なぜこのような事が起こる!」

 

 私は、民の平穏な暮らしを望んで国を興した。 そして、そのためには絶対なる規律と、分かりやすい正義、そして正道を行く支配が必要と考えた。

 なのになんだこれはっ! 暗殺など、ましてや聖戦を前にその様な事、もっとも唾棄すべき事だっ!

 

「か、華琳様ーーーーーーっ!」

「事情が判明いたしました! 許貢の残党で形成された一団が孫策の暗殺を行ったようです!」

 

 自ら湧き出る己への怒りに身を震わせている所に、桂花と稟がいち早く事情を察して動いてくれていたおかげで、下衆共の名が分かった。 もっとも、こうも早く分かったのは、あの男が此方に解き放った我が軍の兵士の捕虜のおかげでしょうね。 その事には感謝するも私の怒りが。聖戦を穢された怒りが収まる訳がなく。

 むしろ……。

 

「その者どもの首を刎ねよ!」

「えっ!?」

「知勇の全てを賭ける英雄同士の聖戦を、下衆に穢された怒りが分からないのかっ!」

 

 私の怒りの声に。 周りの空気を凍りつかせるほどの怒りの気配をぶつけられ、桂花が身を固まらせる。

 だけど、そんな桂花に私は静かに、もう一度同じ言葉を告げる。

 

「その者ども、全ての首を刎ねよ!」

「ぎょ、御意っ!」

 

 私の怒りの気配から逃げ出すかのように走り去る桂花を横目に、私は怒りを必死に抑えながら春蘭を呼びつける。

 だけどそんな事で怒りを抑え切れるわけもなく。 私の怒りの声と気配に、春蘭は己が身を強張らせてしまう。 だと言うのに春蘭は、それでも私の前に駆け寄って来てくれる。

 

「呉へ弔問の使者を出せ! 我等は一度退く!」

 

 だけど、そんな私の言葉に春蘭は私の逆鱗に触れるのも構わず。

 

「し、しかし華琳様! この状況で退却すれば尋常ならざる被害を受ける事は必至!」

「なら戦えと言うのか!?

 下衆に穢されたこの戦いを続ける事に、何の意味がある! どのような意義がある!

 もはやこの戦いに意味は無く、大義も無くなったのだ! 軍をひかなければ私は……!」

 

 春蘭の言いたい事は分かっているっ。

 だけど、このような大義を失くした戦に、何の意味があると言うのだっ!

 曹孟徳は、正々堂々としていなければいけないのだっ!

 自分にも、他人にも厳しさを見せなければ、人は、民はついて来てくれない。

 だと言うのに、こんな暗殺を仕掛けその隙に攻め込む等。 何処に正義があると言うのだっ!!

 

 

 

 

「ダメです! 敵軍突撃を開始しました!」

 

 だけど、現実は非常にも私を襲う。

 凪の報告通り、敵は全軍かと思う規模で此方に突っ込んでくるのを視界に捉える。

 多くの犠牲のもとに築き上げた平和を。

 そのために散って言った多くの魂達を。

 そして自らを導いてくれた自らの王を。

 毒矢による暗殺などと、下劣極まりない手段で穢した我等に。

 その怒りをっ! その嘆きをっ!

 我等にぶつけるために、砂塵を、気勢を上げて向かってくる。

 

「くっ……なんだこれは! このような戦い、誰が望んでいると言うのだ……!

 

 どうしようもない自らへの怒りと情けなさが、そして彼等の怒り気配に、私はよろめいてしまう。

 当然だ。 背負うべき民の想いを。 支えにすべき理想を。 誇りすらも。 自ら穢してしまった私に、もはや王としての資格は無いかもしれない。

 だけど、私はそれでも王だっ。 今まで私を信じて、私の理想のためにと、散って逝った者達の想いを、こんな所で投げ出す訳には行かないっ!

 そしてこんな私でも、信じて守ろうとする娘達がいる。

 

「華琳様! 本陣を後退させてください! 我等が殿を務めます!」

「季衣、流琉は華琳様の護衛を。……命に代えてもお守り申し上げろ!」

「「はい!」」

 

 だから、私は死ぬまで王でいなければいけない。

 いいえ、死んでも王でいなければいけない。

 泥に塗れようと、背負った罪に身動きが取れなくなろうと、

 私は、私を信じる者達のためにも、私の覇道を歩まなければいけない。

 

「追撃や無駄な戦いはするな! 穢されたこの戦い……せめて無事に収拾せよ!」

「「はっ!」」

 

 私は二人を信じて、皆を信じて、後退したのち速やかに退却する事を命じる。

 二人とも、生きて会いましょう。

 

 

 

蓮華視点:

 

 

「進め! 進め! 進め! 進め!

 曹操の兵共を血祭りにあげよ! 孫呉の王の血を……姉様の血を! 奴等の命で償わせよ!」

 

 馬を駆け、敵陣に突っ込む。 姉様の教え通り、孫家たるものが兵の先頭でその武を振るってみせる。

 私は霞の教え通り、姉様の真似を止めた。 そしてその剣は、以前より私の動きを良くしてくれた。

 積み重ねた武と術理が、私の身体を効率よく動かして行く。 祭に、思春に、霞に、打たれた分だけ相手の動きが良く見えるようになった。

 地道な努力の積み重ねが、今の私の武を再構築してくれた。

 皆の想いが、私の想いを力にするだけの武を与えてくれた。

 

「殺し尽くせ! 腐った魂を持つ下衆共を! その血を呉の大地に吸い込ませるのだ!」

 

 敵の穂先を横に流しながら振るった剣が、そのまま敵の頸を斬り飛ばす。

 横から突かれる槍を馬を操りながら、剣を持った肘で払い、そのまま剣先を相手の喉元に突き込んでやる。

 倒れ行く敵兵を馬で踏み潰しながら、更に斬り進んで行く。

 

「贖え! 奴等の体内に流れる外道の血で! 我等が王を毒で穢した罪を贖わせるのだ!」

 

 姉様見てて、私が姉様の教えを守って見せている事を。

 姉様の妹である事を、誇りに思えるからこそ、私は姉様の背を追いかけて居たかった。

 でも、それでは駄目なんですね。 追いかけて居ては、追いつけない

 全力で駆ける姉様の横には、何時まで経っても並ぶ事は出来ないんですね。 

 だから私は私の道を歩んで見せます。

 姉様が願う通り、姉様の横に並べる様になって見せます。

 ……だから、その時まで生きていてください。

 私を、未熟な妹を、見守ってください。

 

「おぉぉぉぉーーーーーっ!」

 

 

 

亞莎視点:

 

 

「孫策さま……孫策さま……っ!」

 

 私は呟く様に、孫策様の名を口にしながら、敵の矢を手甲"人解"で弾きつつ、敵の懐に飛び込む。

 そこからは、"人解"に内側に隠してあった鍵爪や懐の鎖で敵兵を引き裂き、その中にあるものを地面にぶちまけさせます。

 中身を失くした敵の亡骸を、更に別の敵兵に鎖で投げ飛ばし、敵の隊列を崩します。

 隊列を崩してしまえば、後は此方のものです。

 

「皆、頑張れ! 孫策様が安心して逝けるように!

 私達はちゃんとやっていけるんだって……! その姿を逝ってしまった皆に見てもらうために!」

 

 私は皆に。配下の兵達に声を掛けます。

 自分に言い聞かせるように、兵の心を鼓舞します。

 崩れた敵の隊列に、その怒りをぶつけんばかりに、兵は突っ込んで行きます。

 そしてその勢いを足がかりに更に、別の兵士達が突っ込んで行きます。

 敵兵の亡骸を、 味方の亡骸をも踏み越え。 私達の怒りを、悲しみを敵にぶつけて行きます。

 

 

 

思春視点:

 

 

「殺せ! 殺せ! 殺し尽くせ!

 我等の怒りを獣どもに叩きつけろ!」

 

 "鈴音"に胸を貫かれた敵を踏み台に、更に奥の兵士に襲い掛かる。

 空を駆けながら敵兵を襲う私を。 三方向から繰り出される槍が襲ってくるが、私はそれを空中で体を捻り、敵の頭を左手で掴んで、それを支点に更に攻撃を躱す。

 掴んだ顔は、そのまま握り潰しす事で敵兵の一人を絶命させる。 そしてそのまま"鈴音"を身体ごと回転させながら、手近の敵兵一人に斬りかかる。

 相手は我が剣を己が槍で受け止めようとするが、遅いっ。

 力の入りきらない槍はそのまま我が鈴音で、敵兵ごとその上半身を斬り飛ばされる。

 其処へ更に別の兵士が、その後ろに居た兵士と共に槍を振るってくるが、分かりきっていた攻撃を私が受けるわけもなく。 既に前もって重心を動かしていた私は、その勢いに乗る様に、その槍の更に下に体を滑り込ませ。 地を這うかのように低い姿勢で敵の懐まで一気に駆け抜け剣を振るう事で斬り伏せた二人を、別の敵兵に蹴り飛ばし、私は感情を爆発させながら戦場中に聞こえんばかりに叫ぶ。

 

「王を……我等の王を穢した罪を、奴等の命で償わせろ! 投降するものは殺せ! 逃げるものは殺せ!」

 

 そうだ、我等が必死で築いた束の間の平和を穢した奴等を、許す訳には行かない。

 奴が、北郷が私に教えてくれたのは、今の私を支える呼吸だけでは無い。

 人の想いが。 願いが。 逝ってしまった者達の魂が。

 我等の背に大きく在る事を、奴は身を持って教えてくれた。

 人の死に一々涙する軟弱な奴だが、それだけは認めたい。

 

「その血を大地に吸い込ませ、孫呉に二度と刃向えないように……!」

 

 だからこそ許せないのだ。

 例え、兵の暴走だろうと、それを抑えられなかった曹操が。

 そして我等の王を、そんなことで毒に犯させたことがっ!

 

 

 

霞視点:

 

 

ざしゅっ!

 

 薙ぎ払った偃月刀が敵の槍ごと何人かを絶命させる。

 自分の足以上に動いてくれる馬が、同じ場所に留めない事で、敵の狙いをウチに絞らせないようにする。

 ウチはその中で、通り過ぎざまに敵の首を刎ねてい行くだけや。

 ただ真っ直ぐ敵のど真ん中へと駆け行き敵を分断させたる。

 

「己等、気合い入れぇいっ。 相手は下衆やっ!

 そんな奴等に後れを取ったら、ウチが許さんからそのつもりで突っ込みぃっ!」

 

 ウチは部下に叱咤を飛ばしながら、矛を振るう。

 一息に拾参突きした後では、その数だけの屍が、後ろからくる部下達の馬に踏み潰されてゆく。

 

「邪魔やっ! どきぃーーっ!」

 

 ウチの怒りの矛が、敵兵を身体ごと吹っ飛ばす。

 曹操。あんたには幻滅したでっ。 あんたの所の規律の厳しさは噂で知っとる。 だけど其れが此れか? 確かに幾ら規律を厳しくしたって、性質の悪い兵士はつきもんや。 だけど兵の暴走を許す許さないは上の者の手腕やっ!

 一刀がどんな想いで、有象無象の元袁術軍の兵を鍛えたと思っとるんっ。

 あの優しい一刀が、あんな手を使ってまで、徹底的に兵を躾けたんは何のためだと思ってるねんっ!

 敵兵の死にまで涙する一刀が、人を見下し、虫以下だと、役立たずの糞野郎と、部下に頭を下げてまでやらせたのは何のためだと思ってるんやっ!

 みんな、少しでも被害を少なくするためやっ!

 兵の暴走を許さないためやっ!

 民が一人でも泣かずに済むよう。 心を鬼にして行った事なんやっ!

 

「我等、張遼隊が受けた恩。 此処で返さなくてどないするんやっ!」

 

 

 

祭視点:

 

 

「我が老躯よりも先に逝かれてしまうのか……。 天とは何と残酷な事よ……」

 

 血匂が漂う戦場の中、儂と儂の隊は今だ動かずに居た。

 策殿はまだ逝ったわけではないが、それも時間の問題じゃろう。 今まで毒矢を受けて助かった者等、そうそう居りはせぬ。 ましてや許貢所縁の者であれば、弱い毒を使うような事はまずあるまい。

 あの時逃してしまった事が、まさかこのような事を生むとは、本当に天は残酷じゃ。

 

「黄蓋様! 早く! 奴等を皆殺しにし、その血の全てを孫策様に捧げましょう!」

「我等の英雄を……孫策様を毒で穢した卑劣な輩に、死を!」

 

 逸る部下達を抑えながら、儂は時を待った。

 正直儂とて、自分を抑えきれない。 じゃが策殿の事を想えば、今は我慢せねばならぬ。

 奴は言ったのじゃ。 此方から突撃を掛け攻める以上、矢による牽制はあまり効果が無い上隊列を薄くすると。 ならば一当てし硬直した場所が生まれた時こそ、儂の隊が活きる時なのだと。 そちらの方が奴等に痛手を負わせてやれるのだと、奴は舌戦の前に儂に言い残して行った。

 なら儂はそれを信じて待つのみ。 抑えきれない程の怒りを、今はその時のためにこうして溜めておる。

 ……じゃが、それももう終わりのようじゃのぉ。 儂の目を向ける先に、部隊と部隊の隙間に後退しながらも、何とか此方の勢いを殺そうと踏ん張る部隊が幾つも出てきた。

 北郷……今なら文句は在るまい? もっとも在ったとしても、もう聞く気は無いがのぉ。

 

「聞けぃっ! 黄蓋隊に告げる! 時は満ちたっ!

 一兵たりとも敵を逃がすな! 皆々殺し尽くせ!

 良いか! 敵兵の耳を削げ 鼻をもげ! 目玉をくりぬき、喉を貫け!

 敵の亡骸を踏みにじり、呉の怒りを天に示せ!

 我等が英雄を奪った天に、怒りを! 悲しみを! 憎しみを! 見せつけるのだ!」

「「「「「 おおぉぉぉーーーーーっ!! 」」」」」

 

 

明命視点:

 

 

「邪魔者は殺してください! 一人として逃してはダメです!」

 

 敵の喉笛を、左手のクナイが引き裂きます。

 迫りくる槍衾を、"魂斬"が巻き込む様にしてまとめて打ち払います。

 力は必要なだけ、それも一瞬で構いません。

 打ち払った槍を、棒だけになった槍を掻い潜り、敵の懐に飛び込みます。

 棒切れと化した槍で。そして懐の剣を抜き放ちながら襲い来る敵兵の動きと思考を、私は一刀さんに教わった呼吸で自分の中に映し込みます。

 攻撃を避わし、逸らしながら、私は敵兵の鎧の上からに掌底を一瞬だけ当てます。 でも、それで充分です。 一点に収束された力は鎧を通り過ぎ、敵兵の心臓を破裂させます。

 近密戦闘では、私のような長い剣は邪魔になります。 ですが盾として使うには十分です。 私は"魂斬"を盾にしながら、敵兵の息の根を止めて行きます。 喉を、心臓を、膵臓を、金的を、身体の急所の上を私の掌底が撫でて行くように優しく動き、そして確実に潰して行きます。

 

「敵に……孫策様を亡き者にしようと毒を放った奴等に、 この世の地獄を味わわせてやるのです!」

 

 私を信じ、拾ってくださった孫策様を毒で穢すなど、例え過ちであったとしても許す事など出来ません。

 民の笑顔をあんなに願う王を毒で穢す奴等を。我等の築き上げた平和を穢す奴等を。このままのうのうと生かす訳には行きませんっ!

 

 

 

翡翠視点:

 

 

ぎっ!

ぢっ!

 

 双剣で敵の槍と剣を受け止めながら、相手の力を利用して、その矛先を別の方向に流します。

 その事で体勢を崩す敵兵に更に一歩踏み込み、敵兵を私の攻撃を受け止めようとしたその腕ごと斬り飛ばしてやります。

 

「隊列を崩してはいけませんっ! 悔しくても、必ず三人一組で戦ってくださいっ。

 そして我等が王を毒でもって穢した相手を、確実に潰して行くのですっ!」

 

 一刀君が朝の弱い私に教えてくれたのは、雪蓮様と同じ様な剣舞だけ。 それに、それ以外を教われるだけの地力が無いのは分かっていました。

 ですがその舞いは使い慣れたはず双剣を、まるで別物のように私の物にしてくれました。 振るう双剣の重心を、私の重心をと、お互い補わせ。 時に倍増し、私の動きを助けます。 動きを滑らかにしてくれます。 まるで二つがお互いを支えて生きる一つの生き物のように、未熟な私の武を支えてくれます。

 

「敵の喉笛を切り裂きなさい! 屍を乗り越えっ、敵の血をこの大地にぶちまけるのですっ!」

 

 私の鼓舞に、兵士達は更に気勢を上げ、敵部隊に突っ込んで行きます。

 味方の屍を。それ以上の敵の屍を越えて、我等の王を毒で穢した敵に。 この束の間の平和のために逝ってしまった者達の魂を穢した奴等に。 我等の魂の叫びをぶつけて行きます!

 

 ……ですが、一刀君分かってますか? こんな状態、長くは続きませんよ。

 

 

 

一刀視点:

 

 

ザシュッ

プツンッ

 

 敵兵の胴を鎧事輪切りにしてやると共に、最期の糸の感触が俺にその音を伝えながら消えてゆく。

 幾ら特殊な繊維で、"氣"で強化してあると言っても、所詮は糸は糸でしかない。 しかも、こうも呼吸が乱れて居ては大して強化も出来ていなかったと分かる。

 もともと北郷流は己が心を無にする事が大前提だ。 それをこうも感情に動かされていては、上手く"氣"を操れなくて当然。 その証拠に孫策の応急処置で減った体力を何とかしようと、取り込んだ"氣"で体力を回復させようとしたが、上手く行かない。

 だがそれがどうした? 自分の体力しか使えないとしても。 それすらも尽きようとしていても足を止める訳には行かない。 孫策はどんな時だって前を駆けていたんだから。

 

チッ!

キンッ!

カッ!

 

 襲い来る敵の矢を、鉄扇で横に逸らしながら俺は、静かに疾走する。

 敵の攻撃をいなしながら、より敵部隊の深くまで飛び込んで行く。

 敵兵から吹き上がる血を、まるで舞いの演出のように舞わせながら、俺は死の舞いを踊る。

 馬上から突き降ろされる槍に足をかけ。そのまま敵の喉を鉄扇で切り裂きながら、その敵の身体を足場に、空を舞いながら隣の馬へと跳ぶ。

 ゆったりとした動きに見える俺を、その先で待ち受けるように攻撃を仕掛けてくるが、もうその時には俺の攻撃は終えていた。 体の後ろに隠すようにしていた足の動きは、敵が気が付いた時には既に遅く、相手の喉を突き、そのまま首の骨を折る。

 

シュッ

 

 そして、そのまま敵の馬の背に乗った所を、四本の槍が一本の槍の音に聞こえる勢いで俺を襲うが、俺の姿は既にそこにはなく。 馬の背を蹴りながら一瞬で後ろに跳び降り。 まるで独楽の様に、後方回転をしながら、俺の後を追う敵の槍を次々と避わす。 無論その途中、敵の馬の足を斬りつけて行くのを忘れない。

 馬の脚は余分な脂肪は一切ない。 だからちょっとしたキズや怪我でもそれが命取りになる。 一皮向けば神経が剥き出しになっている箇所を斬り裂かれた馬は、その背の主を地面に叩き落としながら暴れ出す。

 

「この化物っ!」

 

 俺に対して、馬では危険だと判断した敵兵は馬を降りて、そんな罵声を放ちながら俺に斬りかかってくる。

 化物か……確かにそうかもな。 認めたくないけど本当の北郷流を修めた者は人間じゃない。 北郷流の理念は純粋な人の願いでありながら人を外れている。 だからその言葉、甘んじて受けよう。

 例え、墜ちようが、死に物狂いだろうが、君達の方がよっぽど人間だ。 この世界の化け物じみた身体能力を持つ彼女達の方がよほど人間らしい。

 そしてだからこそ尊いんだ。 人である事が。 人で居られる事がっ!

 

 

 

 

「はぁー…はぁ…はぁ……」

 

 やがて、乱れた呼吸も整えれなくなるほど消耗し、疲労が一気に襲いかかった俺は、片膝を付いてしまう。

 そんな俺の隙を、周りで僅かに生き残った敵兵が、自らが生き残らんとばかりに俺に剣を振るう。

 

ガッ!

 

「「 隊長っ! 」」

 

 その時、朱然と丁奉二人が俺の間の割入り込んで来てくれた。

 丁奉がその巨体に似合わない俊敏さで、敵兵の攻撃を両手に持つ二つの斧槍で受け止め、弾いて行く。

 朱然が速さを活かす余り防御を考えない攻撃を仕掛けるが、丁奉が彼女の盾役に徹していてくれるおかげで、朱然は敵兵からの攻撃を気にする事なく十字槍を振るい。または突き。敵兵を斬り伏せてゆく。

 

「ちょっとっ! 今掠ったわよっ! しっかり守りなさいってのっ」

「びびって踏み込みが甘いから掠るんだっ。 もっと自信を持って突っ込めっ!

 だいたい、そんな事言うなら、もっと俺に合わせろっ!」

「何寝ぼけた事言ってるのっ。部下は上官に合わせるものよっ」

「はっ、俺が上官だったら俺に合わせるって言うのか?」

「冗談っ! そんな事するわけないでしょっ。 って、言うようになったわねっ!」

「誰かさんに鍛えられたからなっ。 まだいけるかっ!?」

「あったり前でしょっ。 誰に言ってるのよっと」

 

 戦場だと言うのに、そんな口喧嘩をする二人に、なんやかんやと息が合ってきているなと苦笑してしまう。

 そしてその事に俺は、戦中に何を考えているんだかと思いつつ、二人のおかげで改めて戦場を見渡せる余裕が出来た。 俺の隊は、敵の隊列を分断するために突進した俺の後を、何とか他の隊と連携しながら付いて来てくれていた。 そして今、こうして敵を分断する事ができた上に俺の周りを囲み、俺を守ってくれている。

 ……本当俺って守られてばかりだな。 でも、そのおかげで俺は人で居られる。 こうして俺を信じて、そして俺を守ってくれる人達がいる限り、俺は人で居られる。

 

 其処へ更に味方の隊が流れ込ん出来てくれたおかげで、この一帯をちょっとした安全地帯にしてくれる。

 そしてこの隊を率いているのは。……やはり君か冥琳。

 

「北郷……。この状況、いつまでも続かん」

「…はぁ…はぁ……あぁ、分かっている」

 

 呼吸を荒くし、まだ自力で立てないでいる俺を、冥琳は俺に肩を貸してくれる。

 そして、冷徹な目で、だけど困った出来の悪い弟を見る様な目で。

 

「……全軍を投入して奴等の殿を痛撃するぞ。

 ……冷静さを失うな。……狂気に溺れるな。……感情に流されるな。 それが軍師というものだ」

「あぁ」

 

 そう教えてくれる。

 頭では分かっていた事を、それが出来ていないと、体に分からせるように敢えて口にしてくれる。

 ……確かに、感情に流され過ぎたな。 ……だが良い頃合いだろう。

 

「朱然! 各隊に伝令を出せっ。 全軍で奴等の殿を痛撃する。 ただし、それ以降の追撃は厳禁だと」

「た・隊長っ、敵を逃すと言うんですかっ!」

「追った所で、もう敵の本体には届きやしない。 なら、その時までその怒りを貯めておくんだ。

 それともこんな所で無駄に死ぬ事がお前達の望みかっ!」

「は、はっ!」

 

 俺の言葉に、朱然達は伝令のための小隊を振り分け、さっそく動き出す。

 冥琳は最期の痛撃の事は、もう指示済みなのだろう。 少し離れた所で穏が、何か指示を飛ばしているのをちらりと視線を向けた後、俺を馬の背に乗せてその後ろに跨ぐ。……またこの姿勢かと思いつつ、あの時は孫策だったな、と。 あの時を懐かしく思う。 そして気恥ずかしさを隠すように俺は。

 

「多分皆、怒ってくるな」

「だがそれも含めて、貴様の仕事だ」

「は…ははっ……まいったな」

 

 

 

秋蘭視点:

 

 

「しょ、将軍! もう前線が持ちません!」

「分かっている! くっ……なんだこの兵どもは! 死も考えずにがむしゃらに突っ込んでくる!」

 

 部下の兵がそんな分かりきった事を、叫び声交じりに言ってくる。

 姉者もその声に焦りを覚えつつ、苛ただしげに敵を斬り伏せながら吐き捨てる。

 それもそのはず。 敵は斬り裂かれ様とも、向かってくる。

 片腕を失おうと。 腹を裂かれその中身が零れ出ようと。 一向に前進を止めない。

 味方の屍を踏み越えながら、向かい来る姿はまさに……。

 

「死兵となっているのだ。……王の死を受け入れ、その怨念を晴らさんがためにな」

「死兵、か。 ……気持ちは分かるがな」

 

 私の言葉に、姉者は哀れみを含む目で敵兵を見据える。

 きっと素直な姉者の事だ。 今回の出来事を我等に移し替えてみたのだろう。

 そして、だからこそ華琳様の心の痛みの幾らかを理解したのだろうな。

 

「華琳様の心中、さぞ悲しみに満ちていらっしゃるだろうな……」

 

 ああ、そう思う。 我等夏侯姉妹、長年華琳様より仕えてきた身。

 その心中も痛いほど分かる。 たとえそれが華琳様の感じられている苦しみの万分の一であろうともな…。

 でも、だからこそ……、

 

「……だが。 孫呉の悲しみを我等が共有してやる謂れは無い。

 死兵と真面に戦うような気にもならん。 ……さっさと退却しよう」

 

 そう、それが今、華琳様が望まれている事。 少しでも双方の被害を抑えたままこの戦を終わらせる。

 たとえ、それが屈辱に塗れた敗走であろうともな……。

 

「賛成だ。……全軍、退却するぞ!」

「「「「 応! 」」」」

 

 姉者の声に、周りの将兵が応え、伝令を飛ばして行く。

 もっとも、問題は相手が我等を逃してくれるか、だがな。 立場が逆であれば、姉者はおろか、私も決して敵を逃したりはしないだろう。 例え最後の一兵となっても敵を追いかけたに違いない。 悔しが、此処は智将と謳われた周瑜の眼を信じるしかない。 そんな愚かな行動で兵を無駄死にさせないと信じるしかないと言うのは何とも皮肉な話だ。

 それにしても気になるのは、天の御遣いを名乗る男だ。 あの男の部隊は異常とも言える。 遠くてよくは分からなかったが、明らかに少数でありながら、その突進力は群を抜いていた。

 連合の時は何の変哲もない男にしか見えなかったが、華琳様の目に狂いはなかったと言う事か。 孫呉の精鋭を指揮し、その軍才で敵の喉笛を切り裂く。 ……桂花の推測、あながち間違いではないかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第88話 ~ 悲しみに舞う魂は屍を乗り越え、鎮魂の歌を奏でる ~ を此処にお送りしました。

 

 今回も、原作を以下省略(マテw

 まぁ、それはさておき、如何でしたでしょうか? 華琳の国を思う悲哀。 そして、孫呉の将兵達の怒れる魂の叫びは皆様に伝わったでしょうか? 自分の執筆力不足で、伝わりきれなかった所も多々あると思いますが、今回はやはり華琳と一刀が主役だったと思います。

 そして、前回に引き続き、少しだけ出た北郷流に対する一刀の考え。 今までの事からして、その正体と理念が少しずつ見えて来たのではないかと思います。 今回の騒ぎでは、まだもう少しだけ北郷流を語りますので、それも参考にして、想像してみてはいかがでしょうか?

 さて次回はとうとう……………、駄目です簡単な言葉では、伝えきれません。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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