No.175379

『舞い踊る季節の中で』 第86話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 一刀を連れ出して一緒に墓参りをする雪蓮。 その二人だけの空間を、雪蓮はまるで少女のように胸を高鳴らせ、その一時を宝石のように輝かせる。
 いつの間にか好きになってしまった。 好きになってはいけない人。 だけどその想いはもう自分では止められない。 だから雪蓮はこの大切な時間の中、一刀にその想いを……

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2010-09-29 13:02:39 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:14257   閲覧ユーザー数:9922

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第86話 ~ それは、まるで桜舞い散る季節のように ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

        

雪蓮視点:

 

 

 暖かい日差しの中、川のせせらぎを背景に、黙々と作業を進める私達。

 言葉など無くても、この一時はとても温かなもの……母様の墓を好きな人と黙って綺麗にする。

 とても愛しいとも思える時間。 このまま時間が止まってしまえば良いのに、と本気で思えてしまう。

 

「こんなとこかな?」

 

 だけど、そんな事などある訳もなく。 一刀のその言葉が、この一時がもうすぐ終わりである事を私に告げる。 分かっているわ。それを望む事は私の一方的な我儘でしかない事わね。

 一刀は優しいから。 私のために、こうして付き合ってくれただけ。 勘違いしてはいけない事よ雪蓮。

 

「ん、そうね。 ……やっと綺麗に出来たわ」

「だな。 ……お母さんも喜んでるんじゃないか?」

 

 本当に優しい人。純粋で、何処までもまっすぐ……。

 今言った言葉も、心から出ている言葉だって事が分かるもの。

 

「怒ってるかも。 ……時間かかり過ぎだ。この阿呆ってね」

「ははっ、色々聞いているけど……孫堅って凄い人だったんだなぁ」

 

 私の言葉に一刀は優しい笑みを浮かべ。 その顔に陽の光を受けながら、きっとどんな人なのかと想像しているに違いないわ。 ……でも、絶対私に対して失礼な想像しているに決まっている。 これは勘抜きでも確証できるわ。 そして、それだけじゃないって事も分かっちゃうのよね。

 

「凄い人よ。 江東で旗揚げした途端。江東、江南を制覇して孫家の礎を作ったんだから」

「英雄だったんだな……」

 

 誇らしげに言う私を、一刀は眩しげに見詰めてくる。

 きっと、英雄かどうかは関係なく、自信を持って親を自慢できる私を、嬉しく思っているのでしょうね。

 一刀はそう言う人。 でも、……残念ながら、母様はそれだけじゃないのよね。

 

「うん。 確かに母様は英雄だった。 けど……娘として見れば、母親失格だったかなぁ」

「そうなの?」

 

 ええ、そうよ。 逆になんでそう思わないか、聞いてみたいわ。 だって……、

 

「まだよちよち歩きしかできない私を、戦場に連れてったりしてたからね~。

 ……よくぞ今まで生き残ってこれたと心底思うわ」

「そりゃ確かに……。 でも母さんのこと、好きだったんだろ?」

 

 そんな当たり前の事を聞いてくる。 答えなんて聞かなくても分かっていると言うのにね。

 でもそれを聞きたがるのは、家族を好きだと言う私を見たがっているから……、もう本当の自分の家族と会う事の出来ない一刀が、この世界で確かな足がかりの一つにしているのが、今の家族だから。 その家族が信じている私も、そうであって欲しいと願う心が、一刀をそうさせているのでしょうね。

 そして見透かされたようで面白くないけど、これだけは本当の事だから嘘は言えない。

 

「そりゃね。 私の師匠でもあるし。 ……大好きだったわよ」

 

 そう、好きな人にこれ以上、自分を誤魔化す事なんてできない。

 

 

 

 私は母様の墓石をまっすぐ見つめ。 孫呉の王としてでは無く、孫家の長女として母さんと向き合う。

 

「母さん……ようやくここまで来れたわ。 貴方が広げ、その志半ばで去らなければいけなくなった……私達の故郷。 その故郷に今、孫家と、呉の民達の元に戻って来た……。 その原因となった袁術、美羽達が一緒に居ると知ったら、きっと驚くでしょうね。 母さん見てる? 今から我ら孫家の悲願が始まるわよ」

「孫家の悲願。 ……天下統一だっけ」

 

 私の言葉の後、一刀がそう聞いてくる。

 ふふっ、そんなの知っているじゃない。 それを母さんの前で言わせようなんて、一刀。今日はいつも以上に意地が悪いわね。

 でも、それが大切な事だって事は分かっているわ。 それに、母さんだってきっと同じ考えだったはずよ。

 だから自信を持って言ってあげる。 そして聞かせてあげる。

 一刀が聞きたがっている言葉を。

 

「天下統一が本当の悲願ってわけじゃ無いわ。 本心を言うと天下なんてどうでも良い。

 私はね……呉の民達が。 そして私の仲間達が笑顔で過ごせる時代が来れば良いの。

 天下だの権力だの、そう言うのに興味は無いわ」

 

 肩を小さく竦めながら、臣下の前では聞かせられない本心を、母さんに、一刀に聞かせる。

 

「笑顔で過ごせる時代、か。……今の時代、そう言うのって難しいよな」

 

 遠い目をして一刀は言う。

 きっと一刀は知っているのだと思う。 それがどれだけ困難な道なのかを……。

 暴徒の反乱。 諸侯の権力争い。……そう言ったものが常に民の生活を脅かしているわ。

 でもね。 困難な道だからって投げ出したくないし、諦める気など更々無いわ。

 だって、そんなくだらない事で、誰かが泣く姿なんて見たくないっ!

 

「その為の天下統一なのよ。 ……天下を統一し、一つの勢力がこの大陸を治めれば、庶人に対して画一的に平和を与える事が出来るでしょ?」

「その為の天下統一、か。……」

 

 多分そんな単純なものじゃないって事は分かっている。 例え、天下を統一したとしても、私が思っている以上の問題があり。国の何処かで、くだらない出来事で泣く民が出てしまうと思う。

 餓えに泣く民。 賊に親を殺される子。 子を売るしか生き延びる手段が無い親。 そんなくだらない理由で泣く民が出てしまうと思う。 でも、……天下を統一すれば、確実にその数を減らす事が出来るはず。

 

「そう、それが我ら孫家の願い。 ……だから私はこれからも戦うの。

 戦えば、兵だけじゃない。 民だって傷つく。 ……笑顔が無くなる。 ……それは分かっている。

 矛盾しているけど……でも、戦わなければ何も手に入れる事が出来ないと思うから………」

「……人の生き方に論理なんて求めたって無駄だって思う。

 矛盾していようが何だろうが、自分の考えを実現できれば、それで良いんじゃないかな……?」

 

 一刀の言葉に、私は声の出なくなってしまう。

 そして出ないままに、私は目でうったえてしまう。

 

 ……そう思ってくれる?

 

「少なくても俺はそう思うよ。 そして支え合っていこうって思う。

 俺にどれほどの力があるのか。 どうすれば孫策を助けてあげられるのか。……それは分からないけど。

 それでも、俺は全力を尽くして孫策を助けたいって、そう思っている」

 

 

 

 

 何よ一刀。 もう貴方は十分に私を、そして私達を助けてくれている。 力になってくれている。

 ……いいえ、一刀に例え今のような武や智が無かったとしても、一刀は私達の力になってくれた。

 その何処までも真っ直ぐで、純粋な想いが。 誰よりも心が弱いのに強い意思と覚悟が。 何よりその優しさが。 私達の支えになってくれたって信じられる。

 

「……ふふ」

「な、何だよ? 俺、おかしな事言ったか?」

 

 私は一刀の言葉が嬉しくて。 どうしようもなく自分の気持ちが抑えられない処に来ていると言うのに、それすらも嬉しくて、私は想いが笑みとなって零れ出てしまうのを止められない。

 だと言うのに、一刀は相変わらずの朴念仁で、その意味を勘違いして唇を尖らせながら憮然とした顔をする。 ふふっ、一刀、そう言う可愛い顔をするから、皆に弄られるって事そろそろ自覚したらどう?

 

「だって一刀、いい男なんだもん」

「またそう言う事を言う……。 そう言う冗談はあまり嬉しくないから止めてくれ……」

 

 私の本心からの言葉に、一刀はからかわれて居ると思い込むものの、顔に手を当てて照れ隠しをする。

 私はそんな一刀の様子を、一刀の言葉を肯定するように、喉で鳴らしながら笑って見せる。 ……本当、翡翠が一刀をからかう気持ちがよく分かるわ。

 私は一通り笑った後、再び母様の墓石の前に跪き。

 

「そろそろ行くわ、母さん。

 此れから忙しくなると思うから、なかなか来られないと思うけど……。でも、貴女の娘は命の限り戦うから。 ……母さんの思い描いた夢。 呉の民達が思い描く未来に向かってね……。

 母さん……天国から見ていて。 貴女の娘達の戦いぶりを。 そして呉の輝かしい未来を……」

 

 母様に別れの言葉を告げてから、私は母様の墓石を背にして、一刀に向かい合う。

 一刀は、母様との話はもういいのか? と聞いてくるけど、孫家の長女としての話はもう終わり。

 今、母様とこれ以上話す事は無いわ。

 ……でもね。 母様、少しだけ娘として甘えさせてちょうだい。

 そして、貴女の娘を見守ってちょうだい。 ただ一人の女としての貴女の娘を……。

 

 

 

 

 本当に、夢のような一時だった。

 

 私と一刀だけの時間。

 

 そこに、翡翠も、明命の名前すらなく。

 

 私達二人だけの時間だったわ。

 

 

 

 ほんの短い間だったけど、まるで恋人同士で母様の墓参りに来たように思えた。

 

 何の邪魔もないまま、一刀との一時を、私は心行くまで楽しむ事が出来た。

 

 自分でこんな少女染みた想いがあるなんて、思いもしなかった。

 

 でも、そんな子供染みた想いが、一刀の優しさと混ざり合い。

 

 とても幸せな一時だったわ。

 

 

 

 でも、言わなければいけない。

 

 言ってしまえば終わってしまう。

 

 そう分かっていても、言わない訳には行かない……。

 

 私の魂が一刀に告げたいと叫んでいる。

 

 だから……、

 

 

 

 

 

 

 

「一刀。 貴方が好きよ」

 

 

 

一刀視点:

 

 

 優しい春の日差しの中、小川のせせらぎに包まれながら。

 桃色の髪をそよ風になびかせながら、まるで桜の精の様に川の畔に立つ女性に、俺は茫然としてしまう。

 だって、孫策は今……、いや聞き違いかもしれない。 だってそんな事はありえない事だから……。

 でも、孫策はそんな俺の心を読んだかのように、もう一度言ってくる。

 

「一刀。 貴方が好き。 そう言ったのよ。 こんな美人に告白されたからって、あんまり"ぼぉ~"とするのはどうかと思うわよ」

 

 孫策らしく少しだけふざけた感じでもう一度告げてくる。 そしてそれ故に、それが孫策の何時もの冗談や悪ふざけではなく、本気の言葉と言う事が分かってしまう。

 だけど、そんな冷静な部分とは逆に、

 

「な、な、何を言ってるんだよ。 大体、そう言う冗談は止めてくれって言ったろ」

 

 口は上手く舌が回らないのか、俺はトチりながら孫策の言葉を否定してしまう。

 いや、おかしいのは口だけでは無い。 胸の鼓動が、冗談だと分かっているのに、身体の中で太鼓を叩いているかのように大きく鳴っている。

 

「冗談でこんな事言えるわけないでしょ。 疑うって言うのなら何度だって言ってあげるわよ」

「や、止めてくれ、孫策みたいな美人に、例え冗談でもそんな事言われたら心臓に悪い」

「ふふっ♪ 少しだけ安心したわ」

「な、何がだよ」

「ん~~、内緒っ、だって今一刀がそれに気が付いたら、戻れなくなりそうだもん」

 

 孫策は俺の困る様子を、本当に楽しそうに笑みを浮かべながら、俺を愛しげに見詰めてくる。

 そんな眩しい笑みを浮かべる孫策に『駄目だっ、気が付くなっ』ともう一人の俺が大声で忠告して来る。

 

「でも、もう一度だけ言わせてちょうだい」

「何をだよ?」

 

 答えを分かっていて、俺は聞いてしまう。

 聞いては駄目だと分かっていながら、俺の口は勝手にそう答えてしまう。

 そして孫策は、今までで一番眩しく、そして幸せそうな笑みを浮かべ、もう一度あの言葉を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「一刀、貴方の事が好き。

 

    一人の女としてね」

 

 

 

 

 「……ぁ」

 

 孫策のその言葉に、俺は何かを言わなければいけないと焦燥感に追われながらも、もう一人の俺が言ってはいけないと大声で忠告をしてくる。 言ってしまえば全てが壊れてしまうと、意味の分からないまま、俺にそう訴えてくる。

 だけど、そんな俺が何かを言うより前に、

 

「ふふっ、駄目よ。 ここは一刀が私を振る場面なんだから、はっきりと言わないと駄目」

「……え?」

 

 孫策の意外な言葉が、俺の頭を更に混乱させる。

 

「私ね、我儘なのよね。 しかも独占欲も強いし。

 まぁ、その辺りは孫呉の女の特徴なのかもしれないんだけどね。 でもその代り情が深いのよ」

 

 呆然とする俺を余所に、孫策は自分の想いを告げて行く。

 

「だから、一刀の事が好きだって気が付いた時、一晩中泣けたわ。 ……だって、一刀に散々投げつけられた後だったんだもの。 気が付くのが遅すぎたのよ。 これじゃ、一刀の事鈍感だって言えないわ」

「……ぁ」

 

 俺は孫策の言葉に、全てを理解した。

 ……全てを。 ……でも、それは……。

 

「分かるでしょ? 一刀にはもう翡翠と明命がいる。 私が入り込めば全て壊れてしまう。

 美羽や七乃、他の娘達なら問題は無いだろうけど。……世の中不公平にも、私だけは駄目なのよね。

 あ~ぁ、失敗しちゃったなぁ。 こんな事なら、あの時何としても一刀に種馬になって貰うべきだったわ。

 だって、そうだったら私にだって希望は在ったもの」

 

 彼女は苦笑しながら、それでも何処か楽しそうに、そんな在り得ない出来事を語る。

 

「ふふっ、分かっているわよ。 そんな事在り得ないって事はね。

 それでもね思ってしまうの。 あの時私がもう少し言葉を選んでいたら、違っていたかもしれないって。

 そう願ってしまうくらい、どうしようもなく一刀の事が好きになっていたの」

 

ズキッ

 

 彼女の寂しげな目に、それでも優しく愛しげに微笑む彼女の姿に、俺は胸が締め付けられる。

 それは彼女の想いが、そして彼女の願うものが辛いからだけではないって事は、もう分かっている。

 

「この想いを叶えるわけにはいかない。

 翡翠にも。 明命にも。 そして一刀にも笑っていて欲しいと、心から思っているもの。

 ……でもね。 このままでは私は進めないって事にも気が付いたの。

 どうしようもなくなってしまった想いを何とかしないと、王としても歩けなくなってしまうって」

 

 だから、なのか?

 

「だからお願い。 一刀の言葉で私を振って」

 

 そう真っ直ぐに俺を見詰めながら、微笑みを浮かべたまま、孫策は俺にそれを願い出る。

 その事に、俺は更に胸が締め付けられる。 ……分かっている辛いのは彼女だ。 俺じゃない。 そうじゃないといけないんだ。

 

「ごめんね。 こんな事頼んじゃって。

 ……でも、そうしてもらわないと、何時か取り返しのつかない事しそうだもの。

 くすっ、何て顔してるのよ。 振られるのは私なのに、なんで一刀がそんな辛そうな顔をするのよ。

 大丈夫よ。 これで一刀との別れってわけじゃないわ。 ただ一刀の求めているような関係になるだけよ」

 

 彼女は少しだけ遥か遠くを見上げ、

 

「今は遠い地に居るけど。 私達のために戦っている娘でね、純夏…太史慈って娘が居るんだけど。

 会えば何時も喧嘩ばかりしているわ。 でも、とても気を許せる仲間よ。 私が本気でぶつかり合える大切な仲間。 きっと一刀ならその娘みたいな関係になれると思うの。 ううん、きっとそれ以上の、親友になれるって自信を持てるわ。 だって、私の勘がそうだって告げているもの」

 

 その太史慈って娘の事は、翡翠と冥琳から少しだけ聞いている。

 城中を巻き込んで、喧嘩する事もあったけど、本当に仲の良い親友だって。 約束を守るとても義理堅い娘で、今も遠い地で交州からの侵攻を防ぐ任に就いているって。 ……ただ二人の傍いると、突発的に始める喧嘩に巻き込まれないかと、胃が痛くなるとも言っていたけど。

 

「でもね、今の関係をキチンとしないと、そうはなれないとも告げているわ。

 だから、もう一度だけ言うから。 今度こそ、しっかりと私を振ってちょうだい」

 

 彼女はそう一方的に告げると、微笑み直す。

 その想いに何の後悔は無いと。

 こうする事が一番なのだと。

 俺なんかを好きになって良かったのだと。

 そう自信気に、そして幸せそうな笑みで俺を見詰める。

 自分を振らせるために……。

 

 

 

 

 

 

「一刀。

 

 貴方に会えて本当に良かった。

 

 貴方を好きになった事を誇り思えるもの。

 

 でもね。 貴方達の中に私が入る訳には行けないの。

 

 だから、一刀の言葉で……この想いを斬り捨ててちょうだい。

 

 

 

 一刀。 ……ただ一人の女として、貴方を愛しているわ」

 

 

 

 

 春の日差しの中。

 木漏れ日をその身体に受けながら。

 彼女は、本当に桜の精の様に、優しげな微笑みを浮かべ。

 そして、その美しい花を散らす事を望んだ。

 

 その姿は、桜が花びらを散りながらも、空を舞うかのように美しく。

 刹那的な美しさは、人を酔わせ、幻想へと誘わせるには十分すぎた。

 だけど、その姿に酔う訳には行かなかった。

 彼女の想いを。

 彼女の決意を。

 そして、二人の想いを裏切る訳には行かない。

 

 彼女は待っている。

 俺の言葉を……。

 まるで、自分が受け入れられる事が分かりきっているかのように。

 その髪の色と同じ様に、優しげに笑みを浮かべながら、その反対の言葉を待っている。

 だから言わなければいけない。

 彼女の想いも、そして……の想いも此処で終わらせるために……。

 

 

 

 

 だけど俺は後に、この時の自分の迂闊さを呪った。

 

 此処は城の外で戦乱の世だと言う事を。

 

 彼女が王であると言う事を。

 

 幾ら彼女の告白に意識を奪われていたとはいえ。

 

 この時、確かに頭の中から消えていた事を。

 

 だから気が付くのに遅れてしまった。

 

 あんなはっきりとした禍々しい殺意に……。

 

 俺は気がつかなかったっ!

 

 

 

 

 孫策の想いに。

 孫策の願いに。

 俺は痛む胸をそのままに、言葉を告げようとした時、

 

 シュッ

 シュッ

 シュッ

 

 幾つもの風切り音に、俺は咄嗟に糸を奔らせながら意識を内に。 そして周囲を己の内に取り込む。

 だけど、完全に意識の外にあった出来事に、俺はとっさの判断を誤ってしまった。

 糸は孫策に迫る矢を一本残らず斬ってしまう。 巻き付かせるでもなく。 斬り払うでもなく。 人を鎧輪切りにする程の鋭さで、矢を斬ってしまった。

 鋭く切断された矢は、その軽さ故に僅かに軌道を変えるものの、そのまま孫策に向かい。

 

「くっ……」

 

 そのうち一本が、孫策の左腕を襲う。

 

 俺の迂闊さが……。

 

 俺の判断ミスが……。

 

 孫策を傷つけてしまった。

 

 嫌な光を放つ鏃が、

 

 確かに彼女の左腕を深く切り裂いた。

 

 

 

「孫策っ!」

 

 

 

 春の日差しが零れる中、

 俺の叫び声が、空に高く吸い込まれてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第86話 ~ それは、まるで桜舞い散る季節のように ~ を此処にお送りしました。

 

 ……今回もメインは雪蓮視点ですが、自分で書いていて、雪蓮の気持ちに酔っていましたが、皆様如何でしたでしょうか? クドイとか、しつこいだの、こんな恋に夢見る少女のような雪蓮は雪蓮じゃないとか、お叱りの言葉は真摯に受け止めさせていただきます。

 王として。女として。もう、どうしようもなくなってしまった一刀への想い。 王として。家族として。前へ一歩進むために、辛い決断をした雪蓮。 雪蓮もこの決断が一刀を困らせてしまう事を十分に理解していながら、もうそれしかないと、一刀に謝りながらも、一刀の言葉で自分の想いに終止符をつける事を望んだ雪蓮ですが、結果は読んで戴いた通りで。 時代は、雪蓮をほんの一時女にする事も許してはくれないようです。

 

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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