No.173943

PSU-L・O・V・E 【ディ・ラガン襲来(Assault of the Diragan)①】

萌神さん

EP09【Assault of the Diragan ①】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-09-21 21:55:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:672   閲覧ユーザー数:666

ラフォン草原。

ホルテスシティ近郊に存在する、この緑豊な草原地帯は、実は人工的に再現された環境である。

かつてグラール太陽系で勃発した惑星間戦争。

種族間の軋轢が生んだこの戦争は"種族間戦争"と呼ばれ、五百年もの長きに渡り太陽系全土を荒廃せしめた。

パルムの大地も広範囲に焦土と化し、一度は生態系の危機を招いたが、戦争終結後に自然環境は人の手によって再生され、現在の緑溢れる自然を再現されている。

しかし、先のSEED来襲事件でラフォン草原は大規模な汚染に曝され、自然環境は再び破壊された。

動植物の30%が浄化処理……平たく言えば殺処分を受け、最大のコルトバ牧場"グリングリンファーム"も甚大な被害を被り、ホルテスシティでは一時期、食肉の安定供給に支障を来たす事態に陥ったが、現在はその供給も安定して来ている。

(いや今はそんな事より、宇宙(そら)に召します星霊とか、とにかくそんな存在よ……試練とかそう言う面倒なのは、この際ご遠慮しておきたいんだぜ……)

ビリーは頭を抱えたい衝動を抑えて、半ば諦め交じりに天に祈っていた。

彼の隣では、ヘイゼルのパートナーマシナリー、ジュノーがぎこちない笑みを浮かべている。

原因は彼の前方を往く二人だ。

右手に身体を白い外装パーツで覆った小柄な女性キャスト、ユエルが、左手には二の腕部分に炎属性のシールドラインが走る、黒いドリズラージャケットを羽織り、ブルージーンズを履いた長身の青年、ヘイゼルが歩いている。

二人は並んで歩いているのだが、その間に人が一人入れそうな隙間を空けていた。双方とも無言のまま目を合わそうともせず、ただ黙々とビジフォンがナビゲートする地点を目指し歩を進めていた。

 

話しは昨日に遡る―――。

 

待ち合わせ場所のフライヤーベース・ターミナルへ先に到着したビリーが、ヘイゼルが来るのを待っていると、彼はパートナーマシナリーのジュノーの他にユエルを伴って姿を現した。

ヘイゼルは支部で今回の任務に、アリアとユエルを連れて行かないと言っていた。

(ああ、奴の見送りか……ユエルちゃんは健気なんだぜ)

と、その時は単純に考えたビリーだが、ユエルはGフライヤーの中まで付いて来たのだ。

いよいよおかしいと考えたビリーがヘイゼルに理由を訊ねると、不機嫌な顔で「知るかっ!」と怒鳴られた。

(……って、何で俺が怒られたんだぜ?)

今更だがビリーは首をかしげる。

その時、身の丈程もある草むらの中から、いきなり何かが飛び出して来た。

上腕と胸筋が発達した人型の原生生物"ヴァーラ"だ。

灰色の外皮と食人鬼(オーガ)を思わせる歪で大きな角を持ち、巨大な鍵爪を武器としている。

通常群れで行動し狩りをする習性を持っているが、四人の前に姿を現したのは二体である。群れから離れた若い種か、それとも斥候なのかは解らないが奇襲のつもりなのだろう。

(考える前に行動だ! こいつらは凶暴で攻撃性が強いんだぜ)

ナノトランサーからマシンガンを転送しようとしたビリーだが、GRM社製片手剣を転送したヘイゼルと、GRM社製片手小剣を転送した二人が問答無用で薙ぎ倒していた。

「ヴァ―――ッ」

断末魔の悲鳴を上げるヴァーラには目もくれず、二人は再びスタスタと歩き出す。

(容赦ねえな!)

身も蓋も無い攻撃にビリーは呆れていた。

二人の間に何事かがあった事は一目で理解できるのだが、ずっとこの調子なのは勘弁願いたい。

(むう……堪らない雰囲気なんだぜ)

ビリーは並び歩くジュノーに小声で話しかけた。

「なあ、一体何があったんだぜ?」

「それが私にも良く解らないんです。昨日、お二人で部屋に戻って来た時から言い争っていて、ずっとあの調子なんですよ……会話の内容から、この任務にユエルさんを同行させる、させないで言い争っていたようなんですけど、結局最後にヘイゼルさんが『じゃあ、勝手にしろ!』って怒ってしまって、このような状態に……」

「なるほどねぇ……」

大体の話しは理解できた。

つまり、ユエルを置いていく説得に失敗した訳か……しかし、とビリーは内心思う。

(ヘイゼルの奴は少し過保護過ぎなんだぜ)

ユエルを加えた初ミッション以降、何度か彼女と共に任務をこなして来た。

ビリーの見立てでは、危なっかしい所もある物の、彼女の能力は一般的なガーディアンズの実力か、それ以上だと見ている。中でも回避力が高い点は、ウォーテクターと言う職種も影響しているのだろうが、ビリーも一目置いていた。

彼女の力ならディ・ラガンとの戦闘でも足を引っ張る事は無いと思うのだが……。

ヘイゼルとの微妙な間隔を空けながら、ユエルは時折り盗み見るように彼の様子を窺っていた。

ユエルが今回の任務に付いて行くと我が儘を言ったのは、慢心からでは無い。

昨日、宿舎への帰り道でヘイゼルから、ビリーとジュノーの三人でディ・ラガン討伐に向かうつもりである事を聞かされた。テクニックを使う事のできる、自分とアリアを置いてである。

法撃支援型パートナーマシナリーのジュノーが一緒とは言え、ヘイゼルの事が心配だったユエルは、せめて自分だけでも任務に同行させてくれるように願い出た。

只、単純にヘイゼルの身を案じての行動だった。

結果的に言い争う形になってしまったが、別に彼に怒りを感じている訳では無い。この雰囲気が良くない事なのも知っている。

(何か謝る機会があれば……)

そう考えているユエルの耳に、ふと規則的な電子音が飛び込んで来た。

不意に鳴り響いたのは携帯ビジフォンの電子音だった。ビリーがジャケットのポケットから携帯ビジフォンを取り出す。画面を確認すると光点が指定地点に到着した事を示していた。

「ヘイゼル……」

ビリーの目配せにヘイゼルは頷く。彼も携帯ビジフォンを画面を確認していた。

「ユエル、ジュノー、この辺りで少し休憩だ」

「え? は、はいッスよ」

「解りました」

いきなりな休憩の合図にユエルは戸惑うが、彼女とジュノーは言われた通り、近くの大きな岩に腰掛け休憩を取る事にした。

「俺とビリーは周囲の警戒をする。お前達は此処を動くな。だが、さっきの原生生物のように敵襲は考えられる。休憩中だからと言ってくれぐれも注意を怠るなよ」

「わ、解りましたッスよ」

言い含めると、ユエルは真剣な表情で頷いた。

(こう言って置けば大丈夫だろう……)

「じゃあ行ってくる」

「頼んだぜ、ユエルちゃん、ジュノー!」

ビリーとヘイゼルは一度顔を見合わせると、二手に分かれて行動を始めた。

二人に話した警戒と言うのは建前だ。携帯ビジフォンのナビゲーターの光点がこの周囲を示している。

ビリーは注意深く辺りを見渡しながら目標の物を探していた。それから数分、生草と土の匂いの中に、不意に鼻をつく饐えた臭いが混じって来た。

(これは……この臭いは……)

何度も嗅ぐのは御免こうむりたいが、この臭いには覚えがある。

臭いの元を探して茂みを掻き分けていると、その中から数匹の原生生物が慌てて飛び出し逃げていった。突然やって来たビリーに驚いたのだろう。

小柄で緑色の体色をしていたから、おそらくパルム在来の小型原生生物"ポルティ"だと思うが、一瞬見かけたポルティの顔は赤く汚れていたように見えた。そのポルティが逃げ去った場所の茂みを覗くと……それは居た……。

「ヘイゼール!」

ビリーがヘイゼルの名を呼ぶ。

(見つけたか……)

ヘイゼルは重く息を吐いた。気乗りはしないが仕方がない。ビリーの声が上がった場所へ足を進める。

「……見つかったのか?」

ビリーが足元の茂みに視線を落としている。ここからでも嫌な臭いがヘイゼルの鼻に勝手に進入してきて、思わず嘔吐(えず)きそうになる。

「ああ、見つけたんだぜ……」

酷い臭いに顔を顰めながら二人が立ち尽くしていると、背後から突然能天気な声が掛かった。

「行方不明の人、見付かったッスか?」

ユエル!? あれほどジッとしてろと言ったのに、お前は!

「馬鹿、こっちへ来るな!」

ヘイゼルが慌てて止める、がしかし遅かった。

ユエルは二人が見つけた地面に横たわる、かつて"人だった"モノに気付いてしまった。

それは、かろうじて人だったと理解できる物の断片。

高度から落とされたのか、頭部が陥没し灰色の脳髄が飛び出しており、左目も潰れていた。残った片目は恐怖に見開かれ虚ろに濁り、胸部から下の部分を噛み千切られている。見るも無残な肉片と化した浅黒い肌の男性ビーストの死体。

腐敗が始まり、蛆が湧いた赤黒い肉の隙間から肺や心臓の一部が飛び出している。原生生物に引っ張り出されたのだろう。

ユエルはその死体を凝視したまま凍りついたように動かない。

(慣れない人間が、ここまで惨い死体を見たら当たり前か)

ヘイゼルは舌打ちした。

ユエルの目が見開かれ、身体に細波のような震えが走っている。

だが彼女は人とは違って、食事をすることも無い。急に嘔吐するような事はないだろうと、ヘイゼルは高を括っていた。

ユエルは目の前に広がる残酷な光景に目を奪われていた。

人の死体……赤黒い肉片……赤黒い血……。

フィルターを掛けたように視界が赤く染まり、ぐらぐらと輪郭が揺れる。

何かが……何かが……定まらぬ光景を映し出そうとしていた。

 

赤色・朱色・紅色・丹色・茜色・緋色……。

色調を変えて往くアカイイロ。

緋色の炎……頬を撫でる熱風……闇空……煙る夜空……。

見覚えの無い光景が連続する写真のように目まぐるしく過ぎる。

 

(コレ……は? 私は……こんな光景知らない……)

 

赤色・朱色・紅色・丹色・茜色・緋色……。

色調を変えて往くアカイイロ。

緋色の炎……頬を撫でる熱風……闇空……煙る夜空……。

見覚えの無い光景が連続する写真のように目まぐるしく過ぎる。

 

(知らない……知らない筈なのに……)

 

赤色・朱色・紅色・丹色・茜色・緋色……。

色調を変えて往くアカイイロ。

緋色の炎……頬を撫でる熱風……闇空……煙る夜空……。

見覚えの無い光景が連続する写真のように目まぐるしく過ぎる。

何度も、何度も、何度も、何度も―――。

 

(私は……私は……知っている……?)

 

「ああぁ……あぁ……ああぁぁあぁぁ……」

"何か"を思い出しそうなのに、"何か"がそれを無理矢理に捻じ伏せている。

緋の世界……(停止!) 黒煙に煙る闇……(停止!) 瓦礫の山……(停止!) 沢山の人間達の―――(停止!!)

理由は解らないのに感じている、心を抉られたような失望感と言い表せない感情。

例えるならそれは痛み。

頭脳体を頭から取り出して、放り投げる事ができたらどんなに楽だろう。

ユエルは頭を抱えて小刻みに震え続けている。瞳は遠くを見ているように定まっていない。

ビリーは始め、それを精神的なショックによる物と考えた。だが……。

(いや違う! この様子は尋常じゃないんだぜ!?)

「ヘイゼル!」

ビリーに言われるまでもなく、ヘイゼルはユエルに駆け寄っていたが、狂気の発露とも見えるユエルの有様に思わず躊躇していた。

「ああああああああああぁぁぁあぁぁあぁ―――っ!」

漏れる言葉が悲痛な悲鳴に変わり、ユエルは髪を掻き毟りながら、大きく背中を仰け反らせる。

 

"shutdown -h now"

 

バツンッ! とユエルの頭の中で何かが弾けた。

空に向けられ、大きく見開かれたユエルの瞳から光が消える。

意識を失った彼女の身体からガックリと力が抜け、仰向けに倒れるところをヘイゼルが抱き止めた。

「ユエル……うぉっ!?」

ユエル支えたヘイゼルではあったが、予想以上の彼女の重量に一瞬バランスを崩しかけた。しかし寸でのところで持ち直す。

意識が無い人間の身体は意識がある時より重く感じる物だ。加えてキャストの肉体を構成している物質は金属部品も含んでいる為、見た目より重いのは当然であるのだが……。

(それにしても重過ぎないか? キャストとはこんな物だったか?)

ヘイゼルは違和感を感じながらも、ユエルの身体をそっと地面に横にした。

ビリーとジュノーも傍まで寄ってくると、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいる。

ユエルは固く目を閉じ苦悶の表情を浮かべたまま、機能を停止している。

「精神的な不可による強制停止か? ……あんな悲惨な死体をいきなり目にしてしまっては、無理も無いが……」

「ショックによる気絶? お前には、あれが只の気絶に見えたんだぜ!?」

ビリーは珍しく声を荒げると、右手でヘイゼルの肩を力任せに突き飛ばした。ヘイゼルは腹が立つよりも、見た事も無いほど激しく激昂するビリーに目を丸くしていた。その視線に気付いたビリーは我に返り、いつもの表情を取り戻すと、決まり悪そうに頭を掻いた。

「スマン、ちょっと頭に血が昇り過ぎたんだぜ……」

「いや良い、それよりも……」

ヘイゼルは首を横に振って見せた。こう素直に謝られては怒りようが無い。

「気は進まないが遺体の回収をしてしまおう……。俺はユエルの介抱をするから、ビリーは回収の方を頼む。ジュノー、奴を手伝ってやってくれ」

「解った……ユエルちゃんの事は頼んだんだぜ」

ヘイゼルの指示にビリーは頷いた。

「じゃあ、ビリーさん行きましょう!」

張り切るジュノーの後に続くビリーだったが、ふと思い出したように振り返り眉根を寄せた。

「あれ……俺、貧乏くじ引かされてね?」


 
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