No.173882

『舞い踊る季節の中で』 第83話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

一刀が無理をしているにも拘らず。それを黙って受け止めるしかない孫呉の将達。
明命と翡翠は、そんな一刀を陰ながら支え続ける。
一刀はそんな二人に出来る限りの愛情を注ぎこむが、二人の不安は消える事は無かった。

続きを表示

2010-09-21 13:06:05 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:16517   閲覧ユーザー数:10416

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第83話 ~ 繋がる想い、そして不安に舞う魂達 ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

  最近の悩み:

         呻くような声が己が喉から勝手に漏れ出し、頭の中が真っ白になる。これで何度目だ

        ろうか。欲望を吐き出す事も無い絶頂感。其処で力尽きるどころか、どんどんと躰の奥

        が熱くなり、体が勝手に彼女達を求めるも、縛られた俺に何もできる事は無く彼女達に

        されるが儘だった。

         もう何が原因で、こうなったかはどうでも良くなっている。ただ在るのは苦痛とも呼

        べる程の快楽。そして、不慣れな手つきで懸命に己が知識と感触を頼りに、俺に快楽を

        与え続けている二人への愛しさだけだ。……いやむしろ、その事の方が俺の脳みそを蕩

        かせる。

         くっ、俺が甘かった。昨日の明命が彼女の入れ知恵だと言う事は分かっていたけど、

        そんなものは、これに比べたらまだ子供だましだ。よくよく考えたら、あんな本を愛読

        している彼女の事だから、こんな技を載せた本を持っていてもおかしくはない。

         こんな感覚知り続けたら俺は……くっ……駄目だ……もう何も考えられない……。

        

 

翡翠視点:

 

 

 一刀君の発案した訓練方法のおかげで、元袁術軍の兵士達のだらけたきった規律は急速に保たれつつ在ります。むろん規律だけではなく、調練においても武や経験のなさを息のあった行動で、何とか孫呉の訓練にも付いてこれるようになってきました。

 その一方で、その事で一刀君は心を痛めています。人をもの扱いする事や駒として考える事を嫌う一刀君が、ああ言った兵士達を徹底的に罵倒するなんて方法を言い出したのです。 例えそれが一番最善な手段と分かっていても傷つかない訳はありません。

 一刀君と結ばれて以降、行為の後の深く結びついた安堵感から、時折の心の傷口が開いてしまう事があるようです。 そんな時、一刀君は抱えた罪と苦しみを吐き出します。

 泣きついたり、弱音を吐いたり、昨夜の様にそれを誤魔化すように私を求めたりと、私にその胸に秘めた苦しみをぶつけてくれます。

 私に甘えてくれます。 そして私を心から必要としてくれています。

 だから一刀君は大丈夫です。ああやって弱音を吐こうとも、涙を流そうとも、罪から目を逸らさず歩き続いています。私と明命ちゃんの存在が、一刀君の支えになっています。

 

 そんな風に昨夜の一刀君との事を考えながら城の庭を通り掛かると、四阿に一刀君と穏ちゃんが居るのを見かけ、何をしているのだろうかと、四阿に足を向けます。

 近づくと其処では二人が軍人将棋を繰り広げており、どうやら一刀君の方が優勢のようです。

 一刀君は私が近づいて来ていたのに気がついていたらしく、穏ちゃんの番の空き時間を使って、私の分のお茶を淹れてくれます。……どうやら一刀君からしたら、例え穏ちゃん相手でもそれくらいの余裕はあるようですね。

 見たところまだ中盤と言った所ですが、穏ちゃんは"うんうん"呻りながら、現状を打破し逆転できる手を考えているようです。私は穏ちゃんの邪魔にならないよう小声で、

 

「一刀君将棋をやれたんですね。何時から穏ちゃんと打つ様になったんですか?」

「こう言う将棋は最近かな、陸遜に勝負を挑まれてから七乃に教わった」

「勝負ですか?」

「ああ、何でも真名を賭けてらしい」

 

 一刀君の話では、穏ちゃんが勝ったら真名で呼ぶようにと勝負を挑まれたそうです。……穏ちゃん、幾らなでもそれは短絡的すぎませんか?

 そう呆れてしまいますが穏ちゃんを不憫にも思います。穏ちゃんが一刀君に真名で呼んで貰いたいばかりに、色々頑張っていたのを知っているからです。……あいにく事情を知らない者に邪魔をされたり、間が悪かったりと結果に繋がらないばかりでしたが。

 この間、小蓮様も自前の積極さ……と言うか強引さで一刀君に真名で呼ばれるようになった事もあり、どうやら結果が出ない事に焦りを覚え、思考が変な方向に行ってしまったようです。

 これも穏ちゃんにとって良い勉強だと思って、黙って見守っていたのですが…流石にこれでは哀れですね。

 見れば、戦局は悪くなる一方で、穏ちゃんに手は殆ど残されていないようです。穏ちゃんの思考の癖を読みきっている一刀君にこういう物で勝負を挑む時点で、この結果は見えていると言うのに……、私は更に小声で、

 

(一刀君、穏ちゃんの真名を呼ぶ気にはなれないんですか?)

(いいや、そう言う訳じゃないよ。

 陸遜には色々大切な事を教えて貰っているし、闇に堕ちそうだった所を救って貰ってもいる。

 けど何となく言い出す機会が無かったのと、こうムキになって俺に挑んでくる陸遜が何か可愛くてね。

 ついついからかってしまうと言うか、面白がってしまったと言うか・翡翠……い・痛いんですけど)

 

 一刀君の言葉に、私は一刀君の脇腹を抓っていた指を離します。

 まったく一刀君は、相変わらず自覚がありません。穏ちゃんが可愛いのは認めますけど、そう言う事を私や明命ちゃんの前でするのはどうかと思います。

 一刀君に穏ちゃんの真名を呼ぶ気があるなら、一刀君へのお仕置きも兼ねて手を貸しても良いですね。

 

ぎゅっ

 

 私は穏ちゃんの味方をすると決めると、座っている一刀君の背中から覆いかぶさるように抱きしめます。……あいにく身長が足りなくて、やや首からぶら下がっている勘なのは否めないですが……。

 とにかく、突然の私の行動に一刀君は慌てますが、私は気にせずに一刀君の耳で囁くように、

 

「一刀君分かります? 一刀君のおかげで、ほんの少しだけ大きくなったんですよ?」

「えっ、あ・あの・ひ・翡翠!?」

 

 一刀君の背中に其処を押し付けるように囁いてあげたおかげで、鈍感な一刀君にも私が何を言いたいのか分かったようです。此処が外で、ましてや穏ちゃんの前と言う事もあって、顔を赤らめながら面白いように動揺します。…くすくすっ、可愛いです♪

 でもこれで終わりじゃありませんよ。私はほんの少し声を大きくして、穏ちゃんに聞こえるように

 

 

 

 

「昨夜も一刀君、いっぱい此処に吸い付いたり、噛んだりしてくれましたから、また大きくなっているかもしれませんよ」

「あ・あの、翡翠い・今は昼間だし…その」

 

かぷっ

 

 一刀君は平静を何とか装うと穏ちゃんと対峙しながら、何とか私に辞めて貰おうとしてきますが、私はそんな一刀君の耳たぶを甘噛みしてあげます。

 私の唇と舌の感触に、一刀君は小さく可愛い声で呻き声を上げます。……羞恥心に耐える一刀君も可愛いですね…ふふっ♪

 

「一刀君将棋に集中しなくていいんですか? それ悪手ですよ」

「えっ!? あっ、ちょ舌入れちゃダメっ!」

 

 どうやら狙い通り、一刀君の思考はもう無茶苦茶状態のようです。

 念を入れて耳を攻撃した事もあって、きっと一刀君の頭の中は大分真っ白になっている事でしょう。

 私は一刀君の将棋の邪魔をしては悪いからと言って、一刀君から体を離して四阿を後にします。

 穏ちゃん後は穏ちゃん次第ですよ。一刀君に冷静さを取り戻さなければ穏ちゃんの勝は揺らぎません。

 勝てない相手に真っ向から挑んでも駄目です。勝負とは何も盤上だけで決する訳ではありません。

 相手の弱点を突き、こういう搦め手も必要とするのが政なのです。この際そう言う手段も勉強してくださいね。………それにしても

 

「ぁぅぁぅ……幾ら二人のためとは言え、あんな事を穏ちゃんの前で…ぁぅぅ…」

 

 今更ながら、先程の大胆な行為を冷静に思い起こしてしまい。私の中が羞恥心で一杯になります。きっと耳まで真っ赤になっていると思います。

 

「でもでも、ああでもしなければ、穏ちゃんに勝ち目はありませんでしたし……あぅあぅ…」

 

 とにかく、あんな恥ずかしい思いをしてまで穏ちゃんの応援をしたのですから、きちんと結果を見届けなければと、東屋が見えなくなった所で身を隠して聞き耳を立てます。

 それに穏ちゃんを信じていますが、一刀君をその豊満な肉体を使って翻弄しないとは限りません。…それに先程の一刀君の状態なら、私の児戯染みた穏行でもある程度は大丈夫でしょうと判断し、こっそりと声が聞こえる処まで近づきます。

 

「北郷さん、昨夜もお楽しみだったようですね~。北郷さん翡翠様の身体は如何でした?」

「ぶっ! げほっげほっ! り・陸遜・あの今は昼間だしそう言う事は・」

「ええ~、教えてくれないんですか? 私としてはそういう経験は無いので、ぜひ知りたいですぅ。

 そう言えば先程、吸いついたり噛んだりとか聞こえましたが、どう言った事をしたんですか?」

「だ・だからそう言うのは人に話す事でもないし・」

「其処で良いんですか? ふふふ、これで危機は乗り越えれちゃいました」

「あっ…、ちょっと待て」

 

 どうやら、上手い事一刀君に冷静さを取り戻させないように誘導しているようです。

 一刀君は自分で思っている以上に、女性に甘く流されやすいです。

 特にああ言う事では直ぐに地が出てしまい狼狽してしまいます。

 そして仲間内には決して本心を探る様な真似はしません。…その事は敵であった事のある霞ちゃんの話しからよく分かりました。

 霞ちゃんが言うには、反董卓軍の時に霞ちゃん達に見せた目を、相手の心の奥まで読みきる様な冷静さを、一刀君は仲間内には見せません。それは一刀君の仲間への信頼の証なのだと思いますが、それでも限度と言う物があります。……その事が一刀君にとって弱点にならなければと心配していると、やがて決着が付いたらしく。

 

「流石に意地悪が過ぎたので、良い事教えてあげちゃいます。 私の知り合いに、翡翠様と学園で一緒だったという同期の方から聞いたのですけど」

 

ぴくっ

 

 穏ちゃんの言葉にこめかみが引き攣るのが分かります。

 何を話すつもりは分かりませんが、あの時代は私にとって大切な思い出でもありますが、暗黒史でもあります。何にしても一刀君に変な事を吹き込んで欲しくない私は、私の気配に気がついて穏ちゃんを止めようと手を慌てて振っている一刀君をよそ目に。

 

「それは私も興味ありますね。どんな話しなのか聞かせてもらえますか? の・ん・ち・ゃ・ん」

「ひゃっ!」

 

 背後から突然聞こえた私の声に、穏ちゃんは後ろから見て分かるぐらい、顔面を蒼白にし、

汗をだらだらと流しながら硬直しています。

 一刀君は沈痛な表情で小さく首を振り、哀れみの表情で穏ちゃんを見ていますが、私はそれに構わず穏ちゃんの襟首を掴み。

 

「勝負は付いたようですから、穏ちゃんを少し借りますね」

 

 一刀君に優しい笑み浮かべながら断りを入れて、固まった穏ちゃんを引きずってその場を後にします。

 穏ちゃん、一刀君に真名を呼んでもらえるようになるのが嬉しいのは分かりますが、少し調子に乗りすぎたようですね。穏ちゃんの知り合いという方も気になりますし、じっくりと話しを聞かせてもらいましょう。

 

 

 穏ちゃん、しっかりと教えてあげます。

 上手くいった時が一番危険な時だと言う事を。

 そして、私を敵に回す事の愚かさをね。

 

 

 

一刀視点:

 

 

 例の黒い靄を出しながら陸遜、いや穏を引きずって行く翡翠の姿が見えなくなるまで見送ると、俺はやっと安堵の息を吐き出しながら。

 

「……こ・怖かったーーーっ……」

 

 翡翠は普段はその幼い外見とは裏腹に、優しく落ち着いた女性なのに、結構頻繁に俺を翻弄したりして遊ぶ悪癖はあるけど、それはまぁ彼女の可愛らしさだと思っている。だけど一度本気で機嫌を損ねると、黒い霞を全身からたゆたわせ、じっちゃんの100倍は怖い存在と化す。

 孫策曰く、孫呉の中でもっとも怒らせてはいけない存在の一人として有名らしいが、黒い霞の事は俺が関わるまで知らなかったとの事………お・俺のせいじゃないよな?(汗

 とりあえず背中に感じた感触は、以前と何ら変わってないように感じたのは言わなくて良かったと、自分が迂闊な発言をしなかった事を褒めながら、そう言えば明命も気にしていたようだし、今度パットでも作って贈る事を本気で考える事にした。

 冷や汗が引いた所で部屋に戻ろうとした時、霞が良い所にいたとばかりに俺に近寄ってきて、

 

「なぁ一刀、さっき震える穏を引き摺って行く翡翠見かけたんやけど、なにやったん?」

 

 と聞いてくるが、下手な事を言って俺まで巻き込まれたくないので(穏すまん、君の犠牲は忘れない)話題を強引に別の方向に持って行くために、俺は以前明命達が着けていた猫耳と尻尾が着いている霞の頭と腰の部分に目をやり。

 

「それまた付けてるのか? と言うか、今どうやって一瞬で取り外した?」

「妙な事気にすんねんな。可愛い義娘がウチのために作ってくれたもんを着けてあげるのは、親の愛情っちゅうもんや」

「……春霞、嫌がってたぞ。美羽に付き合わされて作っただけなのにって」

「いやぁ、それがなんかこれを着けてると心が安らぐんや。まるで身体の一部みたいな感じがするんねん」

 

 そう言って、霞は義娘が作った物を再び一瞬で着けて嬉しそうに自慢する。……本当、武器もそうだけど、どうやって一瞬で着けているんだろう? と疑問が深まるばかりだ。

 

「そや、一刀にお礼言っとこうと思うてたんや。

 一刀ん所の朱然達が鍛えた兵な、武や体力的はまだまだ問題外やけど、あの統制がれた動きは強い武器になるでぇ、命令にも忠実やから後はよっぽど阿呆な指揮を執らない限り兵の被害を抑える事が出来る。

 後は、あいつらを一人でも多く生きて帰れるようにするのがウチの仕事や、一刀の覚悟と心意気は無駄にはせえへん」

 

 そう真っ直ぐと、俺の目を見ながら俺に言ってくる。

 其処には自信も慢心も無く、ましてや不安などは無い。そうする事が当然の事と、霞の武人として、人としての想いが確かにそこに合った。

 その事が、……当たり前の事の様に言う霞の言葉が、俺にはとても嬉しく感じ、胸の奥が熱くなるような思いが込み上げてくる。

 だけど俺はそれをグッと我慢する。俺は賀斉さんに教わったはずだ。こう言う時はどうするかを。……だから。

 

「ああ、後は任せたよ。霞」

 

 霞を信じて、朱然達を信じて、そして兵達を信じて、俺は今出来る精一杯の笑顔で霞に告げる。

 心の中で沢山のお礼と祈りを込めて、俺は縋りつきたくなるような辛い思いと不安を隠して、霞にバトンを渡す。

 

 

明命視点:

 

 

 弛緩しきってしまい、重く感じる身体を、ふわふわとした心地良い疲労感と満たされた心と相まって、私はその温もりに任せるままに、頭を傾けて一刀さんの身体に小さく頬ずりします。

 触れ合える温もりが、身体の中に残る彼の温もりが、確かめ合った想いが、私を幸せな気持ちにさせてくれています。普段の一刀さんからは信じられない程荒々しい一刀さんとの一時、だけどその後の一刀さんはいつも以上に優しく、満たされた私を更に満たしてくれます。

 今も、私の髪を優しく撫でながら、優しく包み込んでくれています。

 そんな一刀さんの温もりと、一刀さんの匂いに包まれて、行為の疲労もあって意識が遠のいてきた時、一刀さんが再び私を強く抱きしめてきます。

 

「あ・あの一刀さん、もう少しだけ休ませて下さい。まだ腰の力抜けてて・」

「もう少しだけ、もう少しだけこうさせていて欲しい」

 

 一刀さんがまた求めてくれているのだと思ってしまった私は、一刀さんの異変に気づかずに、一刀さんを受け入れる力が回復するまでと言い淀んでしまっている所に、一刀さんはそうではないと、私の存在を確かめるように抱きしめてきます。

 ……一刀さんは、時折こうして何も言わずに私を抱きしめてきます。まるで私の中の何かを確認するように、一刀さんの中の何かを確認するように、私の温もりを一刀さんの身体に染みこませるように、私を優しく抱きしめます。私の手をぎゅっと力強く握ってきます。まるで自分に言い聞かせるように……。

 分かっています。一刀さんは不安なのだと思います。怖いのだと思います。

 背負った罪が、これから犯す罪が、……そして、その事に慣れてしまうのが、

 何も感じなくなるのが、一番怖いのだと思います。

 

 だから、私は一刀さんを包み込むように優しく抱きしめます。

 私の存在で一刀さんの不安が安らぐのなら、

 私の温もりで一刀さんがまた歩けるのなら、

 幾らでも抱きしめてあげます。

 力づけてあげます。

 

 

 

 だって、それは一刀さんが私を必要としている証でもあるのですから……。

 

 

 

 

 やがて一刀さんが静かに寝息を立て始めるのを確認して、私は寝ている一刀さんを起こさないように一刀さんの髪をゆっくりと撫でます。

 朝になれば、一刀さんは短い間ですが、私や七乃達に稽古をつけてくれます。

 一刀さんにとって命がけの稽古……その事を思春様から聞いた時、私は目の前が真っ暗になりました。言われてみれば思い当たる事はあったと言うのに、一刀さんの傍にいながら、その事に気が付かなかった自分が情けなくなりました。気が付かなかったとは言え一刀さんに稽古を望んだ自分に怒りを覚えました。…ですが、

 

「奴は全てを承知でやっている。なら我等に出来る事は只一つ。違うか?」

 

 思春様のその言葉で、私は自分を取り戻しました。

 そうです。一刀さんの性格を考えれば、覚悟を考えれば、此処で逃げる訳にも止める訳にもいきません。

 その想いを少しでも無駄にしないため、一刀さんから学べる技術を、盗める技術を少しでも多く身に付けなければいけません。

 もともとこれから益々力がいる時代です。一刀さんの想いと覚悟には感謝こそすれ、断る余裕など我等にはありません。

 

 そう思い、あれから更に必死に腕を磨いてきましたが、今だ一刀さんに与えられた課題は出来ていません。

 綿を籠の所まで飛ばせるようにはなりましたが、連続で打ち続けるまでには至っていません。まだまだ無駄な力があるうえ、重心の移動が足りないと言う事は分かりました。

 思春様も、前以上鍛錬に気合が入っているようです。一刀さんが言うには、私と思春様は似ているようで全く違う戦い方なのだそうです。思春様は相手の守りを虚実を織り交ぜながら突き崩し叩き伏せる型で、私は虚実を用いて自分の型に追い込んで相手仕留める型だそうで、どちらかと言えば一刀さんに近い型だそうです。

 

 そして雪蓮様は勘と経験を軸に、其処に術理を当てはめて相手を問答無用に突き崩す言わば天性的なものだそうです。一刀さんは無茶苦茶だと言ってはいましたが、それでも雪蓮様の攻撃を難なくかわし続けるのは、呼吸と間、そして人の動ける可動範囲と言う物と雪蓮様の思考から読み取っているそうです。

 そして一刀さんがそんな雪蓮様に教えているのは、その引き出しを増やす作業として様々な武器で接近戦を繰り返す事で、考える余裕が無い状態で体に教え込ませているとの事です。

 また異様なほど遅い剣舞は、雪蓮様の無茶な動きに身体がついて行けるように、重心と関節を鍛え直させているそうです。

 他にも幾つか目的があるようですが、教えて貰えたのはそれくらいでした。

 

 今ならはっきりと分かります。

 一刀さんの中に住んでいる三人目が誰なのかを……。

 ですが、一刀さんは相変わらずその事には気が付いていないようです。

 でもそれで良いんです。気が付いてしまっても、どうしようもないんです。

 

 一刀さん、どうか最後まで気が付かないでください。

 そして、私と翡翠様で満足してください。

 一刀さんが喜ぶなら、どんな事でも覚えて見せます。

 一刀さんが望むなら、どんな事も受け入れます。

 だから、私と翡翠様を、……いいえ、せめて私達家族だけを見てください。

 あの方の事は、忘れてください。……お願いします。

 

 

 

一刀視点:

 

 

 次の日の夕方、胸パットを作って、二人に贈ってみた所、二人とも笑顔で受け取ってくれた。

 ただし何故か目は笑顔どころか氷点下の眼差しをされ、……ヤバッ、俺また何か失敗したようだと判断するが既に遅く・

 

「「かずとさん(君)、やはり大きいのが好きなんですか?」」

 

 と息を合わせて、翡翠だけでは無く明命まで黒い何かを出しながら俺に詰め寄ってきた。俺はそんな二人から発せられる圧力に慌てふためきながら、

 

「いや、そう言う訳じゃ。

 ただ二人が気にしているようだから、天の世界にはそう言う物もあると言う事で・」

 

 無駄かもしれないけど、とりあえず悪意は無いと言い訳を口にするが、それも

 

「主様は時折馬鹿なのじゃ」

「美羽様そう言うものではありませんよ。あれはあれで可愛らしいですよ。何と言いますかあの御馬鹿さが」

「うむ、言われてみれば、そうかもしれぬな」

 

 そんな二人の言葉に遮られてしまう。いやそう言う扱いするつもりはないけど、一応主人の危機なんだから其処はフォローするか助け出してくれると助かるんですが……と、この二人には無駄な希望を脳裏に浮かべながら、信者でもないのに心の中で十字をきる。

 明命と翡翠はそんな俺の両脇をがっしりと掴み、

 

「一刀さん、あんな物は脂肪の塊だと言う事を教えてあげます」

「一刀君、此れは此れで希少価値なんですよ。 それに無いからこそ出来る事もあると言う事を、今夜たっぷり教えてあげます」

 

 そう言いながら俺を引きずって行く。

 むろん行き先は俺の部屋だろうけど……俺、明日の陽が拝めるかなぁ………。

 とりあえずじっちゃん、やっぱり女性の胸に関しては触れちゃいけなかったんだね。

 

 

 

 

 結局、パットはしっかりと二人に愛用され、型紙や製法も詳しく聞きだされた。

 そうしてしばらくしたある日、『十』と『袁』の合同ブランドとして、特定の女性専用の服屋で扱われる様になった事を知った時には驚いた。

 何でも店主曰く、独占販売権をある高位の政治家から、胸の大きさに悩む女性に求めやすい価格で提供する事を条件に安く買う事が出来たとの事。

 とにかく、少なくても国内では独占状態なので、かなりの人気商品となり、その利益の一部が七乃達に任せる予定の製塩業や養蜂業の軍資金の一部になったのだから文句は無いけど……ある高位の政治家って……うん考えるのは止めておこう。あの腰が抜ける程絞り出された晩の二の舞になる気がする。

 

 ……でも、良いのか?

 美羽達の『民の笑顔のため』の第一歩が、こんなので?(汗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第83話 ~ 繋がる想い、そして不安に舞う魂達 ~ を此処にお送りしました。

 

 今回は色々混沌としたものを書いてみました。(゚∀゚)/

 相変わらず翡翠が暴走しているようですが、明命も負けずに頑張っているようです♪

 とりあえず、そろそろ雪蓮以外の全員とは真名を呼ばせたいと言うのが、今話の最大の目的です。

 取り敢えず穏の冥福を祈りつつ(違w)次回は、原作において呉√最大のイベントである。あの話に入ろうと思っています。ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 

 

 

PS:とりあえず明命が脱ぐと、一気に胸が小さくなる理由は此れで辻褄が合う様になった(w……アノ ミンメイサン コノ クビニ アテラレタ モノハ ナンデショウカ……


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
163
15

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択