No.171626

Phantasy Star Universe-L・O・V・E EP03

萌神さん

EP03【ガーディアンズとして…… ①】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-09-10 21:30:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:468   閲覧ユーザー数:459

「くそっ……面倒な事を押し付けやがって……」

「役得だろう、嫌なら代われ!」

「役得じゃないわよ! 厄得って言うのよ!」

「誰が上手い事を言えと言った!」

三人の喧喧囂囂(けんけんがくがく)のやり取りを、ユエルはオロオロと見つめていた。

する内、エレベーターは一階へと辿り着き扉が開く。外でエレベーターの到着待ちをしていた、職員達のいぶかしむ視線と目が合った。

「……ひとまず、落ち着ける所に行くか」

ヘイゼルはコホンと咳払いをしながら言った。彼の意見に異を唱える者は無い。

四人がエレベーターを下り、カウンターの受付嬢にフリーパスを返却した後、エントランスへ向かうと、何やらエントランスホール全体が騒がしくなっていた。

「何だ、ありゃあ?」

その喧騒の中にビリーが目を凝らすと、人だかりの中心にSPに護られた男性が居るのが見て取れた。

威厳を感じる丈の長い上着をまとい、メッシュの入った髪を後方に撫で付け、歴戦の戦士を連想させる面構えの男性である。

「オーベル・ダルガン総裁なんだぜ!?」

思わぬ人物との鉢合わせにビリーが声を上げる。

男性は全ガーディアンズを統べる、ガーディアンズ17代総裁『オーベル・ダルガン』その人であった。

「そっか、シティで同盟評議会を開催してるのよね」

アリアが言うように、今ホルテス・シティでは三惑星同盟の議会が開催されている。ガーディアンズ・コロニーの代表として、その会議に出席する為、総裁であるダルガンもパルムを訪れているのだ。

ダルガンは最上階の総裁執務室に向かう為、エレベーターのある此方の方向に歩いて来る。ビリー達はダルガンの到着を待つ事にした。

「ヘイゼルさん、あの人が、ガーディアンズで一番偉い人ッスか?」

「ああ、そうだ……だが……」

興味津々の表情で訊ねるユエルに、ヘイゼルは答えつつ、隣に並び立つビリーを横目で睨みつけた。

「必要か? こんなマネが……」

「時にはな、アピールもしないと出世はできないんだぜ?」

「チ……ッ」

イライラしているヘイゼルとは対照的に、ビリーは鼻歌交じりにジャケットの胸ポケットからコームを取り出すと、自慢のリーゼントをセットし始める。程なく、ダルガンは四人の間近まで迫って来た。

「総裁、お疲れ様です。機動警護班所属のビリー・G・フォームであります」

敬礼をしつつ、ビリーが握手を求めると、ダルガンはそれに気さくに応じた。

「同じく、アリア・イサリビです」

心持ち緊張した表情のアリアが続く。

「ユ……ユエル・プロト? ……ッス……総裁、お疲れ様ッスよ~」

アリアに続いたユエルは、事もあろうに知人にでもするように、片手を突き上げるフレンドリーな挨拶をダルガンにして見せた。これにはさすがのダルガンも目を丸くし、アリアは血の気の引いた表情で、ユエルの後頭部に手刀を叩き込んだ。

「痛っ! って、いきなり何するッスか!?」

「馬鹿なの、て言うか馬鹿でしょ!? あんた、総裁に何て挨拶してくれてんのよ! 私の査定まで下がったらどうするつもり!?」

そんな二人のやり取りを微笑ましく見ていたダルガンは、不貞腐れた顔で腕組みするヘイゼルに気付き、「おや?」と言う表情を見せた。

「君は……ヘイゼル・ディーンか?」

「!? 俺を……憶えていたのですか?」

その言葉に、ヘイゼルは少し驚いた表情を覗かせたが、その顔は、すぐに元の仏頂面に戻っていた。

「ああ、強い意思を感じる、君のその榛色(はしばみ)の瞳が印象に残っていてね、憶えていたよ」

ダルガンが言うように、ヘイゼルの瞳は薄茶色の榛(はしばみ)色をしている。

『ヘイゼル・アイ』と呼ばれる物だ。

おそらくそれが、彼の名前の由来でもあるのだろう。

「それだけじゃない、君と初めて話した日の事も……」

「そうですか、生憎と思い出話しに付き合う程、暇じゃないんで俺達は失礼します」

ダルガンが遠い目をする。だがヘイゼルはその話しを強引に打ち切った。

「ちょっと、ヘイゼル!? 総裁に失礼よ!」

無愛想に立ち去ろうとするヘイゼルをアリアは咎めるが、彼の足は止まらない。

不意に歩み去るその背中にダルガンの声が掛かった。

「ヘイゼル、君の『守るべきもの』は……見つかったのか?」

ヘイゼルは一瞬立ち止まり、暫しの沈黙の後、振り返らずにダルガンに告げた。

「俺に守るべきものは有りません……」

「ヘイゼルさん?」

「ヘイゼル! 何なのよ、もう! 待ちなさいってば!」

そのまま立ち去るヘイゼルの後をユエルとアリアは追った。

「ああもう……っとに! 総裁、ご無礼をお許し下さい。あいつ、根は良い奴なんですが、人付き合いが苦手でして……。では、自分も失礼致します。ご公務のご健闘を……では」

ビリーはヘイゼルの非礼をダルガンに詫び、再度敬礼すると、三人の後を追って小走りに駆けて行く。ダルガンは拒絶する様なヘイゼルの後姿を、複雑な表情で見えなくなるまで見送っていた。

『ガーディアンズ パルム支部 一階 エントランスホール 喫茶コーナー』

 

総裁とのやり取りのせいもあってか、ヘイゼルはこれ以上、庁舎に留まる事を渋っていた。

しかし、ユエルの今後を話しておいた方が良いと、ビリーから案があり、四人で喫茶コーナーに立ち寄る流れになった。

(―――後でそこのカフェでお茶でもどうだい?)

と言葉にしたビリーの面目が保たれた結果になるのだが、喫茶コーナーで席に着く彼は今、ユエルに平謝りしている状況だ。

「いやぁ、ユエルちゃん、本当に申し訳ないんだぜ」

「ううん、良いッスよ。私は皆と話しをするだけで楽しいッス!」

「くうぅぅ……ユエルちゃんは優しいんだぜ……って、うぉい! コルアァ、ヘイゼェェェェルッ!」

わざとらしく目元を拭う素振りを見せた後、ビリーはヘイゼルの首を極めて引き寄せ絞めつけた。

「な、何しやがる!」

「黙れ、この薄情者! どうしてユエルちゃんが食事できない事を黙ってやがった! 俺が無神経な男だと思われたら、どうしてくれるんだぜ!?」

そう、ユエルをお茶に誘ったは良いが、彼女は飲食物の摂取をする事ができなかったのだ。

元来、機械生命体であるキャストは食事を必要としない物である。

しかし、合理主義を旨とする筈のキャストの中には、嗜好として、あるいは自らが生体で無い事へのコンプレックスからか、飲食を可能とした人工内臓部品、味覚を知覚できるセンサー機能を追加搭載する者も多い。

ユエルには、この機能がオミットされているのだ。

首を極められながら、ヘイゼルはユエルに目を移す。彼女は楽しそうな笑顔で、じゃれ合う二人を見つめていた。

(見たところ、そう言った嗜好を持っているように思えるが、意外な物だな……)

「何馬鹿やってんのよ。ウェイトレスが注文待ってるわよ?」

アリアの言葉に我に返ると、メイディスタイルで身を固めたウェイトレスの困った顔と目が合った。

 

三人がそれぞれ注文を頼み数分後、四人が座るテーブルへ注文の品が運ばれて来た。

ヘイゼルの前にコーヒー、ビリーの前にカフェオレ、アリアの前へはセレブケーキとハーブティーのセットが置かれる。

ユエルの今後を話し合う……とビリーは言った筈だったが、話しは本来の趣旨とは外れ、何故か世間話しで盛り上がっていた。

「ダルガン総裁もガーディアンだったッスか?」

「ああ、腕利きのガーディアンだったらしいぜ。現役時代の伝説は数知れず。何でも武器を使うより無手の方が強かったとか、客船を占拠したテロリストを単独で壊滅したとか、列車を占拠したテロリストを(略)……彼が係わったミッションは『オペレーション・サイレンス』、通称『沈黙シリーズ』と呼ばれ、新人ガーディアンズの教導手本になっているとかいないとか……」

「え、あれ本当の話しだったの? てっきり冗談だと思ってたけど……」

「……悪いが、ちょっと失礼する」

殆ど会話に加わっていなかった、ヘイゼルが突然席を立つ。

「ヘイゼルさん、何処に行くッスか?」

ユエルの声に振り返ると、ユエルが若干不安そうな表情をしていた。

―――そんな顔を見せるな!

「ト……すぐ戻ってくる……」

一瞬答えようとしたヘイゼルは、何故か言葉を濁し何処かへ向かった。

「トイレならトイレって言えば良いのに、何を恥ずかしがってんだか……お前はアイドルかっつーの」

ヘイゼルの後姿を見送りながら、ビリーが下品な笑いを浮かべた。

「……ねえ、総裁とヘイゼルって知り合いだったの?」

ヘイゼルが見えなくなった事を確認すると、アリアはビリーに小声で訊ねた。好奇心に満ちた目が猫のように輝いている。

「知り合いって程じゃないが……昔ちょっとな……」

ビリーが歯切れの悪い返答を返すと、アリアが身を乗り出してきた。

「何があったのか聞かせてよ!」

「駄目だぜ。親友の黒歴史を簡単に教える訳にはいかないんだぜ」

腕をクロスさせ×の字を作りつつ、ビリーはアリアの願いを断った。

「ちぇ、ケチ!」

「私も、聞きたかったッスね~」

「……ユエルちゃんの頼みとあっては、聞かない訳にはいかないんだぜ」

むくれて見せるアリアに合わせ、ユエルが何気なく言うと、あっさりとビリーは信念をひるがえした。

「何なのよ、その差は!」

憤慨するアリアを宥めつつ、ビリーが話し始める。

「―――あれは俺達が、ガーディアンズの訓練生として養成校へ入校した日の事だ……」

訓練生として養成校に入校した当日、入校式典に出席する為、ビリー達訓練生は大講堂に招集された。

入校式にはガーディアンズ総裁のダルガンも招かれていた。式典恒例の総裁訓辞で、居並ぶ新米ガーディアンズに対しスピーチが行われ、その中でダルガンが問うた。

「……君達の守りたい物は何だ?」と……。

「訓練生としてガーディアンズに入隊を希望する人間ってのはな、最初は少なかれ理想ってやつを持ってるもんだ」

遠い目をしてビリーは語る。

ダルガンから指名を受け、ある若者は「等しく平等な正義の為」と答えた。

また別の者は「グラール太陽系の平和を守る為」と……。

若さと熱意に満ちた答えが返り、ダルガンは満足気に頷いていた。

「だが、総裁が最後に指名した男は違ったんだ……」

場にそぐわぬ斜に構えた態度、全てに抗い射抜くようなヘイゼル・アイ……まだ成年前と思われる少年は言った。

 

『俺に守るものなんて無い』と……。

 

「そいつの空気読めない発言で、当たり前だけど式典会場は水を打ったように静まり返ったわけよ。総裁は上手く、その場を乗り切ってたけどな……ま、その男がヘイゼルだったって訳だ。お陰で奴は俺を差し置いて、初日から目立ちまくってくれたんだぜ……」

「今もあんまり変わらないけど、昔から中二病全開だったのね……」

目立ちたがりのビリーは当時の事を思い出し、悔しそうな表情を見せた。アリアは今も変わらないヘイゼルの過去に呆れた苦笑いを浮かべる。

 

『―――ヘイゼル、君の『守るべきもの』は……見つかったのか?―――』

 

(ダルガン総裁は、その時の事を憶えてて言ったッスね……)

だが、ヘイゼルは総裁に『守るものは無い』と答えている。あの時と同じように……。ヘイゼルには未だ守るものは無いのだろうか?

「なんの話しをしてる?」

そこへ、ヘイゼルが戻って来る。

(やばい!)

と顔色を変えたアリアだが、ビリーは顔色も変えずにヘイゼルに答えた。

「お前の噂話しさ」

ウィンクすらして答えたビリーの態度に、気色の悪さを感じ、ヘイゼルは顔をしかめる。

「気持ちの悪い嘘をつくな!」

文句を言いつつヘイゼルが再び席に着くが、ユエルについての答えは出ない。

結局、暫くはヘイゼルが彼女の身を預かる事となった。

マイルームのある宿舎へ戻る頃には日が暮れていた。

部屋に入り一息つくと、二人を待っていたジュノーに、ヘイゼルは改めて事の経緯を説明する。

「記憶は戻りませんでしたけど、自分の事が少しでも解って良かったですね、ユエルさん」

「ありがとうッスよ、ジョノーちゃん!」

「これからはヘイゼル様と同じガーディアンズとして、ミッションにもご一緒できるですね」

「えへへ、その時は宜しく頼むッスよ~!」

身の丈の小さいジュノーの視線に合わせ、床にぺたんと腰を下ろし和気藹藹と会話を続けるユエルを横目に、ヘイゼルはベッドに腰を掛けた。

「嬉しそうだな、お前は……」

「だって、私はグラールの平和を守るガーディアンズの隊員だったッスよ。皆の幸せを守ってる重大な仕事をしてたッス!」

純真なユエルの笑顔に、何故かイライラした感情が湧き上がる。

「ガーディアンズがそんなに良いものかよ」

ヘイゼルは不機嫌な顔で、履いていた靴を乱暴に脱ぎ捨てた。

そんな態度に慣れているのか、『いつもの事ですから、あまり気にしないで下さいね』とばかりにユエルに向けてジュノーは苦笑を浮かべる。

ユエルは支部で、ビリーが語った昔話を思い出した。

「……ヘイゼルさんは前にも総裁に、『守るものなんて無い』って言ったそうッスね」

「……ビリーに聞いたのか……あのお喋りめ」

ユエルの言葉にヘイゼルは眉根を寄せ小さく舌打ちする。

「教えて下さいッス。それじゃあ何故、ヘイゼルさんはガーディアンズになったッスか?」

ヘイゼルはちらりとユエルに目を向けた。彼女は真剣な眼差しをしている。

「……俺がガーディアンズになったのは、自分が生きる糧を得る為だ。誰かを、何かを守る為にガーディアンズに入隊した訳じゃない。グラールの平和と人々の安全を守る……良い志だよ。だが、そんなのは守りたい奴等だけで守ってくれ。俺は人を助ける為に戦う気は無い」

射抜くような瞳で、ヘイゼルは守りたいものは無いと言い切った。

その言葉の裏に隠れた感情に、聡い者なら気付いただろう。だがこの時、ユエルは気付けなかった。

「でもヘイゼルさんは、あの時……私を助けてくれたッスよね」

 

―――三日前、雨の降るパルムで……あなたは私を助けてくれた―――。

 

「あの日、目覚めて気付いたら記憶が無くて、もの凄く怖くて心細かったッスよ……。でも目の前には、ヘイゼルさんが立っていて……。誰かに助けて欲しかったから、私は必死で縋ったッスよ」

あの時、ユエルが必死だったのは、そういう理由があったからか……。

だがヘイゼルは気付いた。

「……俺じゃなくても良かったんだな?」

目の前に居たのが偶然、俺だっただけだ。俺でなくても彼女は救いを求めたのだろう。ユエルの言葉をヘイゼルは鼻で笑う。ユエルは慌てて首を振った。

「ち、違うッスよ! 確かに目の前に居たのは偶然だったかもしれないッスけど……『ヘイゼルさんが』私を助けてくれたッス! あの時、私が縋ったのがヘイゼルさんで良かったって……それが間違いじゃなかったって、今はそう思ってるッスよ……」

ユエルの真っ直ぐな緑色の瞳に見つめられ、ヘイゼルは思わず目を逸らした。

「俺は……お前が思っているような男じゃない」

「それでも……言わせて欲しいッス。私を助けてくれて、ありがとうッスよ……」

ヘイゼルはベッドに身を投げ出すと、ユエルに背を向け横になった。

「俺は……誰も守れない……救えないんだ……」

力なく呟くヘイゼル。ユエルからの応答は無かったが、他人を拒絶するような背中に、彼女の視線を感じていた。

―――いつまでも。

ブラインドから差し込む光の眩しさに目を覚ます。昨夜はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。

ベッドに身を起こし、思考がハッキリするのを待つ。昨夜はシャワーも浴びていなかった。

「……とりあえず、身体を洗うか……」

ベッドから降り、シャワーを浴びる為に部屋を出ると、そこにユエルが立っていた。何かを決心し、決意を固めた表情のユエルが宣言する。

「私、ガーディアンズになるッス!」

「……もう、なってるだろ……」

ヘイゼルは頭を掻きながら、面倒臭そうに言ってユエルの身体を脇に避け、シャワー室へと向かった。

ユエルがガーディアンズである事は昨日証明されている。

「いや……いやいやいやいや! そうじゃなくてッスよ!」

ユエルは慌ててヘイゼルの後を追い、彼の前に回りこむ。

「ガーディアンズとして、仕事に復帰したいッスよ!」

「……はぁ?」

寝ぼけた頭がユエルの台詞を理解するのに、暫しの時間が必要だった。

 


 
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