No.168710

『舞い踊る季節の中で』 第78話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

新章突入しました。
一刀と結ばれ、身も心も充実した毎日を過ごす明命、
だけど、世の中そう上手く行くはずもなく、袁家を吸収した事により問題をも抱え込んでしまっている。

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2010-08-28 13:15:53 投稿 / 全23ページ    総閲覧数:18088   閲覧ユーザー数:11586

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第78話 ~ 幸せな想いに、彷徨う想い、連なる想いに舞う音色 ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術

  (今後順次公開)

 

★オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

  姓 :諸葛    名 :瑾    字 :子瑜    真名:翡翠

  焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

  性格設定:

     基本的に温厚で、外見に反して大人の女性だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分

     を律しています) 早く逝った両親の代わりに、諸葛家と妹達を守るため色々あったため、警戒

     心が強い性格の反面、一度心を許されると、親身になってくれる。

     妹達がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと食事を取るのを忘れる明命を心配して

     よく食事を差し入れていた。 やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を

     楽しんだり、とんでもない悪戯を仕掛ける悪癖もある、しかも性質の悪い事に普段が完璧なだけ

     に、周りは怒るに怒れないでいる。

     家事全般は人並み以上にでき、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕

     を見て自信を喪失。 以降こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

     武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

     身長は朱里より少しだけ背が高いだけで、姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつ

     も、それを武器にする強かさを持っている。 自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄っ

     てくるのは変な趣味の持ち主ばかりで、17の時、現実の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に

     『八百一』と出会う。 以降のめり込み、妹達を洗脳するも、基本的には周りには秘密にしてい

     る。そのうち執筆も行うようになり、掲載されるようになる。

     数年たった現在では、定期的な愛読者もつき『八百一』の主要作家の一人となっており、黄巾の

     乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となったが、それが問題の作者かどう

     かは不明。

 

明命視点:

 

 

ちっ

 

刃が鳴らした小さな音、

だけど、その瞬間に加わった力は、相手の矛の勢いを相殺する、

入れている力は少しだと言うのに、体中から少しずつ、だけど、その一点に集まる様にした力は、

その結果、重心を崩す事も無く、次の動作に邪魔な力みもなく、私を以前より早く動かしてくれます。

 

一瞬だけ相殺した相手の矛先を、

その瞬間を利用して、勢いを失った相手の矛先をずらすように、"魂切"を流します。

そう、以前なら此処まででした。 でも、今は違います。

大げさに言うなら、以前であれば一歩分の動きが、今は半歩分に、

その半歩分を使って、私は"魂切"と矛が交えている一点を支点に、

身体を引き寄せ、相手の攻撃の内へと入ります。

己の攻撃の内に入られた相手は、顔の表情を歪めますが、もう遅いです。

 

"魂切"を持つ手とは反対の手を、

先程と同じ様に、相手の腹に触れる一瞬にだけ力が集まる様に、

掌を当てます。

 

どっ

 

「………がっ……はっ……」

 

私は、予想以上の感触に驚きつつも、

呻き声一つ上げる事すらできず。

白目を向いて倒れていく相手に、

鍛錬相手になった部下の兵士に

私が、今の動きが出来た事に対して、感謝します。

 

 

 

 

一刀さんに課せられた鍛錬方法、

ほんの少しコツを掴んだだけで、今のような事が出来ました。

もちろん以前の一歩分が、本当に半歩分になったわけではありません。

一つ一つの動作の無駄が少なくなり、少しだけ、

早く動けるようになったかのように、見えているだけです。

 

捨力の妙とでも言うのでしょうか?

相手を倒そうとする力みを捨てた事が、

速さを得るための力を捨てた事が、

結果的に、前より早く動ける事となり、

その動きが、今まで以上の力を、

瞬間的に出すための動きになるのです。

これで、未完成もいい所なのですから、

武と言うのは奥が深いです。

 

それに、今のは最初の一人だから、

その上、かなり注意したからこそやれました。

これで、以前教えていただいた呼吸を混ぜたら、いったいどうなるんでしょう。

私はそう思いながらも、視線で次の部下に掛ってくるように促します。

あの動きが、私が思っていた以上に、使える物だと言うのは分かりました。

でも今の私では、とても実践どころか、部下達相手の鍛錬ですら使える物ではありません。

かなり集中しなければ、あの動きを出す事が出来ない上、まだまだ失敗も多いです。

 

ですから、あの動きはひとまず置いておきます。

あれは一人でも鍛錬できる事です。

ならば、一人では鍛錬できない事、部下達との鍛錬だから出来る事、

今は、以前に教えていただいた呼吸と感覚を、

あの不思議な空間を、完全にものにする事を優先させるべきです。

思春様は、あの感覚をほぼ身に付け、次の段階に向けて鍛錬を励んでいるようです。

一刀さんの部隊結成時、一刀さんとの仕合で、沢山の事を掴んだようです。

思春様は、

 

『……あの時の感覚には、とても遠く及ばん。

 だが、山頂への道は見えた。……例えそれが全体からすれば、麓の丘程度の山であろうともな』

 

と、自嘲染みた事を言っていましたが、その目は、とても楽しそうでした。

おそらく、自分が苦労して登っている山頂の先に、まだまだ遥かに高い山が見えた事が、

自分がまだまだ強くなれる事を知った事が、思春様の武人としての魂が、喜んでおられるのでしょう。

 

 

 

 

ぢぎっ

 

相手の槍を、"魂切"の剣先を地に差しながら受け止めると同時に、

私の手刀が、相手の喉元に突き刺さる前で止めます。

 

「もっと相手の動きをよく見なさいっ! 

 相手の次にとる一手を、想定して動かなくてどうするんです。 次っ!」

 

私も思春様に負けてはいられません。

私は部下の兵達相手に、動きをいつも以上に遅くして、相手をします。

その代りに、あの感覚を、少しでも身に付けれる様に、

気を意識を薄く広く、そして深く伸ばして行きます。

 

相手の思考を、己の内に映し出し、

突きだされる槍の幻視に合わせるように、

その槍先を逸らすように、"魂切"をその槍に柄に滑らせます。

相手の手元で"魂切"を止め、

 

「攻撃が無効化されると分かった瞬間に、次の手を打たないでどうするんですっ。

 戦場で死にたくなければ、もっと必死になりなさい。 次っ」

 

一刀さんは言いました。

これが基本だと、

一刀さんが思春様に教えた事を、私に今だ教えてくださらないのは、きっとそう言う事だと思います。

今の私は、まだその段階に至っていない。

それだけの事なんです。

 

だから、私は今出来る精一杯をするだけです。

私の先を遥か行く思春様に追いつけるように、

一刀さんの期待に応えれる様に、

そして、少しでも多くの人が守れるように、

 

「次っ!」

 

 

 

 

下級兵達との朝の鍛錬を終えた私は、自分の執務室で報告を纏めた竹簡を読みながら、

 

「蘆陵だけではなく、湘東の方も噂を調べておいてください。

 彼等が動くとしたら、きっと呼応して動くはずです」

 

報告を聞いていた部下に、気になった事を指示にして出します。

 

「それと、豪族や官の動きも大切ですが、商人と扱う品と価格の動きも調べて来てください。

 何か大きな動きがある前には、必ず商人が動くと言う話です」

 

そう、一刀さんがそう言っていました。

戦にはお金がかかり、それは兵達への褒賞だけではなく、糧食や兵站等、様々な物、

……言わば品物が動きます。

無論今までも、気にはしてきましたが、一刀さん曰く、

 

『 船や馬に武具の動きとかだけ見たってしょうがないよ。

  そう言う物を扱う商人は、それなりに気を使っているし口も堅い。

  でも、それらの材料である鉄や材木、そして食べ物の値段って言うのは、必ず影響が出るもんなんだ 』

 

等と、他にも私達の情報収集の範囲の狭さを指摘しました。

戦はもっと庶民の生活に密接していると、

商人の話だけではなく、その街の民の生活の雰囲気を、肌で感じる事が大切なんだと、

情報収集や情報の操作が、如何に大切かを私達に話してくれました。

戦だけではなく、政一つをとっても、民の生活を声と肌で感じ取ってくるのが、大切なんだと言いました。

幸い、袁家の老人達が使っていた人達がいます。

練度や信頼に掛ける彼等を、そう言う地味だけど、重要な任務に就ける事で、篩いに掛けている所です。

 

「張り切っておるようじゃの」

「祭様、何かありましたか?」

「いや、お主の所の隊の話も聞いてみたくてな」

「はぁ」

 

祭様の話は、今回編入させた元袁術軍の兵士達の事でした。

一刀さんの案で、屯田制を取り入れ、元袁術軍の半数は田畑を開拓させ、農業に従事させる事になりました。

開拓した土地は、一定年数そこで従事すれば、三分の一は自分の物になると聞いた兵士達は、その事実に、目を輝かせました。

兵士の大半は、元々は農家の三男とかです。

自分の田畑を持てなかった彼等にとって、それは夢のような話となりました。

無論、『国費を使って開拓した田畑を、タダでくれてやるなど』と言う反対意見も出ましたが、

 

『 田畑なんて、耕す者がが居なければ、ただの荒れ地だよ。

  それよりも、夢を与える事で、その田畑を長く継続された方が、長期的には国のためになると思うよ。

  何より、税金が無くなるわけじゃないんだ。 どちらが得かだなんて、言わなくても分かるだろ 』

 

と言う一刀さんの言葉で、反対意見の多くは無くなりました。

 

 

 

 

問題は、屯田兵とならなかった半数近くの兵士です。

想像しては居ましたが、………兵の質が悪すぎます。

無論全部が悪いわけではありません。

ですが、在来の孫呉の兵の鍛錬についてこられないものが大半です。

 

「………正直言えば、現状のまま一緒に調練するのは、弊害しか生まないと思います」

「やはり、お主もそう思うか」

 

私の嘆息を交えた言葉に、祭様も同意します。

 

「堕落する事に慣れきっているから、あれでは新兵の方がマシじゃのぉ、

 しかたあるまい、後で公謹めに進言しおく事にするかのぉ」

 

祭様は小さく首を振りながら、溜息を吐くように言います。

ですが、そんな深刻そうな顔も、一瞬の事で次の瞬間には、面白げに笑みを浮かべ

……あっ、何か嫌な予感がします。

 

「随分と吹っ切れたような、良い顔になったものじゃのぉ~」

「あっ、そうです。 先程聞いた内容を翡翠様に・」

「翡翠なら、先程街の長老の所へ行ったぞえ。

 それよりも明命、あれだけ儂が助言してやったにもかかわらず、

 あれからどうなったかも報告無しとは、ちぃと冷たくは無いかのぉ~」

「う゛っ」

 

祭様の言葉に、呻き声が出ます。

確かに祭様には、色々御助言してくださったりと、凄く感謝しています。

本来ならば、報告するのが筋かもしれません。

ですが、雪蓮様によって、あれだけ皆の前で、私達の気持ちを告白されて今に至っている以上、報告も何もないです。

ただ、祭様は酒の肴に聞きたがっているだけです。

私がどうやって、今の事態から抜け出そうかと思っていると、

 

「何じゃ、まさか、まだ抱かれておらんのか? まさかあやつ不能か?」

「ちっ、違います。 一昨日だっていっぱい・あっ……」

 

祭様のあまりの言葉に、思わず反論した私は、祭様に乗せられてしまっていた事に気が付き、

慌てて口を閉じるのですが、…………もう遅いようです。

祭様は、そのにっこりと笑みを浮かべながら、何度も『そうか、そうか』と頷きながら、

良い事を聞いたとばかりに、笑いながら部屋を後にしてゆきます。

 

 

 

 

「はぁぅ………失敗してしまいました」

 

私は自分の失敗に落ち込みながら、ここ数日の事を思い出します。

一刀さんと結ばれた日より五日が経っていますが、

一昨日までは一刀さんと再び結ばれる事はありませんでした。

それと言うのも、私達に痛みが残っているうちは幾らなんでも抱けない、と一刀さんが言い出したからです。

正直、そんな事気にしなくても良いのにと思いましたが、一刀さんがああ言いきった以上、無理は通せませんでした。

 

それに、それだけが、全てではありません。

その分、私も翡翠様も、一刀さんにたっぷり甘えました。

別に、お猫様が甘えるように、甘えた訳ではありません。

ただ、一緒に居たと言うだけです。

沢山お話したと言うだけです。

 

一刀さんは、そんな私達に慌てたり、顔を赤くしたりと、相変わらずですが、

それでも、以前より落ち着いた感じがします。

以前より、安心されている感じがします。

もし、それが私の勘違いではなく、

私達と結ばれた事で起きた変化だとしたら、

私達と結ばれた事が、一刀さんの力になれたのだとしたら、

私はその事が、とても嬉しいです。

 

一刀さんの想い、

結局一刀さんは、今だ私達にきちんと言葉で、想いを伝えてくれてはいません。

ですが、その気持ちは、一昨日の夜しっかりと確認できました。

一刀さんと私だけの夜、

 

……はぁぅぅ……昼間の優しい一刀さんも良いですが、

荒々しく私を求めてくる一刀さんも、捨てがたいです。

それに、その後はとても優しかったです。

 

 

 

一刀視点:

 

 

墨を含ませた筆を操りながら、記憶を便りに思い出した言葉や、浮かんだ言葉を書いて行く。

うん、やっぱり、こう言う事は、及川の阿呆の思考をトレースすると出てくるなぁ♪

 

「あ・あの、御主人様」

「ん、なに?」

 

俺を呼びかける声に顔を起こすと、其処には、いつもの笑顔を顔をひくつかせながら

何と言って良いか分からないと言った顔をしている。

まぁ、言いたい事は分かる。

俺も逆の立場で、これを書いているのが及川だったら、とっくにどついていたと思う。

なにせ、

 

「こんなもの、どうするんですか?

 御主人様には、…その・下品と言うか、…これは流石に御主人さまらしくないと言うか」

 

と、七乃ですら引くくらいの言葉の数々が並べ立てられている。

自分の仕事の傍ら、俺の書いた短い竹簡を、繋いで行く作業をしていた七乃が、疑問に思うのも仕方ないと思う。

 

「ちょっと昼に冥琳に頼まれた事があってね、そのための資料さ」

「これがですか?」

「そっ、これはね……」

 

そう七乃に、この竹簡に掛れた内容の使用目的を話すと、

 

「成程~、そう言う事ですか、さすが御主人様です。 こんな鬼畜な策を思いつくなんて、

 よっ、この人間失格男っ♪ いきなり二股かけるだけの事はあります」

「う゛っ」

 

七乃の言葉に、呻いてしまう。

まぁ確かに、気が付いたら二人が好きになっていて、

そのまま二人とだなんて、よくよく考えたら凄い事だよな……、

でも、その事自体に後悔は無い、

 

「あれ? まだ気にされているんですか?

 大丈夫ですよぉ~、御二人とも幸せそうにされているのですから、これで良いんですよ。

 御主人様が、きちんと大切にされておられるなら、二股だろうと四つ股だろうと関係ないですよ♪」

「勝手に増やさないでくれっ、と言うか四つ股って、幾らなんでも人間失格過ぎるだろ」

「例えですよ、た・と・え・♪ それだけ御主人様の気持ちが大切と言う事です」

 

と、いつもの調子っぱずれなほど明るい口調で言ってくる。

でも、まあ、七乃の言うとおりなんだよな。

俺が、そして、明命と翡翠がどう想っているかなんだよな。

 

「俺は孫策に会ったら、そのまま調練の方に顔出すから、あとはよろしくな、

 それと、美羽に負けないように頑張るよう言っといてくれ」

「はいはーい」

 

七乃の言葉には苦笑されるけど、あの明るい雰囲気と気遣いに感謝しつつ、

俺は孫策に会いに行くため、部屋を後にする。

 

 

 

 

よく手入れされてはいるが、前のこの城の支配者達の趣味のせいか、

道沿いに華美過ぎる程花が植えられた庭の一角、其処に佇む東屋に足を運ぶと、

 

「はーい一刀、御久し振りね、

 見舞いにも来てくれないなんて、ちょっと冷たいんじゃない」

 

と孫策は身を起こし、桃色の髪を揺らしながら、俺に向けて笑顔を向けてくれる。

以前は降ろせば蓮華と同じ様に、足首元近くまであった髪は、

背中まで短くなったせいか、良く揺れるようになった。

その揺らされた髪は、塗られた香油の香りと共に、

彼女自身の甘い香りを、風に乗せ俺の所まで漂わせる。

 

五日ぶりに見た彼女は、東屋に今の彼女のために置かれた寝椅子にその身体を預けており、

その事が、未だ彼女が療養中だと言う事を、俺に教えてくれた。

……俺が与えた傷によって、

実際、孫策に言われるまでもなく、見舞いに行こうとしたのだが、

 

『ほう、女の弱った姿を、その目に焼き付けたいと?』

『いや、そう言うつもりでは…』

『冗談だ、アレは昨日から熱を出してな』

『な、そんなに酷い怪我なのかっ』

『いや、全身打ち身と言うのに、隠れて酒を飲んでな、そのツケが回っただけだ。

 心配する程ではない。 何にしろ、熱で汗もかいている、男のおまえに会わせる訳にはいかぬな』

 

と言う訳で、あっさり追い出され、

今日昼に冥琳にやっと許可された次第だ。

 

「悪かったよ、こっちも色々あってな。

 熱が出たって聞いたけど、もう良いのか?」

「いったい何時の話ししているのよ、あんなのとっくに直ってるわよ。

 怪我だって、この通り…痛っっ、」

「おいおい、無理するなって」

 

直っているとばかりに腕を振り回そうとした孫策だが、顔をしかめ始める。

 

「大丈夫よ。 怪我そのものは直っているわ。 華佗の太鼓判突きよ。 ただ、」

「ただ?」

「筋肉痛なだけ、こんなに酷いのは母さんが生きていた時以来ね。

 まぁそれも今日一日休めば、明日には普通に動かせるわ」

「……まじか?」

「なによ、これくらい当たり前でしょ。 何時までも寝込んでいられないわ。

 それなのに、冥琳ったら働けるようになるまでは禁酒だって言って、

 私の部屋を家探ししてまで、隠していたお酒全部持って行ったのよ。

 唯一楽しみだと言うのに、酷い仕打ちだと思わない?」

 

まぁ分かってはいた事だが、この世界の将の出鱈目さは呆れるばかりだ。

自分でやっておいて何だけど、普通半月は寝台の上だと言うのに、もう完治して、筋肉痛だけって………出鱈目通り過ぎて、化物じみているよな。

でも……例え、体がそうだとしても……、

 

「思わない。 怪我人のくせに隠れて酒を飲む方が悪い」

「ぶ~~、一刀まで冥琳みたいなこと言うの? 」

「もちろん」

「ぶ~っ、お酒飲みたーい」

「お前は子供かっ…」

 

 

 

 

ワザとらしく駄々をこねている孫策に、呆れるように溜息を吐いて見せ、

そして、

 

「腫れは引いたんだろ」

 

鞄の中から取り出した、小さなそれを見た途端、孫策はその目を輝かせながら、

 

「それ、もちろんお酒よね。 そうでしょ?

 これで実は別の物って言ったら、この場でこの間の続きやるわよ」

「お望みの物だから、それは勘弁してくれ」

「うんうん、これだから、一刀って好きよ」

「調子のいい事ばっか言うな……ほれっ」

 

俺はそう言って、孫策の持つ酒杯に酒を注いでやる。

 

「あっ、これって」

「高級酒じゃなく、自家製酒で悪いけどな」

「何言ってるの、十分高級酒よ。

 この世にあの甕分しか存在しないんだから、帝への献上品より価値あるわよ」

「そのうち特産品として出回るけどな」

「いいの、いいの、今の段階では間違いなく高級酒の仲間入りよ。

 それに、一刀が手間暇かけて作ったものでしょ。 そう言う意味でも御馳走よ♪」

「そっか」

 

そう言いながら、本当に美味しそうに、酒を飲んでくれる。

 

「……それにね、一刀の気持ちが十分籠っているわ」

 

人並み外れた力を持とうと、

驚異的な回復力を持とうと、

彼女の心は、人そのもの、

 

彼女は王だ。

戦場を駆け抜け、

人の死を友にし、

兵に死ねと言い、

領土を広げんとする江東の小覇王、

 

だけど、

その前に一人の人間だ。

民を愛し、

民を友とし、

民の為に己を殺し、

民と共にありたいと願う、

 

 

 

 

 

 

一人の優しい女の娘なんだ。

 

 

 

 

だから、

明命と翡翠のために、

俺のために、

家族のために、あそこまでしてくれた。

自慢の自分の髪を切ってまで、俺に教えてくれた。

身体を張って、俺の間違いを正してくれた。

 

孫策には、すごく感謝している。

だから、本当は彼女から預かっている名前を呼ぶ時かもしれない。

今まで、何となく呼べなかったそれを、今こそ呼ぶべきだと思う。

だけど、きっと彼女はそれを望んでいない。

 

『 こんな事、家族のためなら当たり前でしょ 』

 

多分、そう思っている。

その証拠に、彼女は普通に接してきた。

いつも通り、馬鹿な事言ったり、

我儘言って拗ねて見せたり、

俺を困らせては、その様子を優しい目で見守っている。

そんないつも通りの態度をして見せている。

だから、これはそう言う事何だと思う。

でも、だからこそ、これだけは、はっきり伝えたい。

 

「孫策」

「うん?」

「……ありがとうな」

「そっ」

 

感謝の想いを、

謝罪の気持ちを、

多くの想いを込めた俺の言葉に、

孫策は、小さく頷いて、

酒が廻ったのか、顔を赤くしながら、

美味しそうに酒杯を傾ける。

 

 

 

 

酔って顔を赤くしたはずの孫策の顔は、何故かもう元の様に戻っており、

酒を傾けながら、俺と他愛のない話で時間を過ごす。

 

「でも正直言うと、翡翠が男に興味持つとは思わなかったわ」

「え?」

「あの娘、明命以上に、ああ言う幼い外見でしょ。

 そのせいか今まで言い寄ってきた男って、そう言う趣味の碌でもない奴ばかりだったらしいのよね。

 おかげで男性不信になって、男を嫌っていたのよ」

 

……そう言えば、初めて会った時、結構刺々しかったよな。

でも、あれは俺を不審人物として警戒していたからとばかり思っていたけど。

確かにそう言う人間ばかり見て・い・・た・・・ら・・・・・・、

 

「…………」

 

そ、そうだよな……、

明命にしろ翡翠にしろ、俺二人を抱いたんだよな、

その事には、後悔する気など欠片もないし、これからも二人を愛し続けたい。

でも、……俺、そう言う奴等の仲間入りなのか?

 

「はぁ………」

「どうしたのよ? いきなり暗い顔で溜息ついて」

「いや、ちょっと自己嫌悪をね……」

「ふふーん、そう言う事ね♪

 あっ、ちょうど良い所に、霞~っ」

 

俺の言葉に何故か一人納得顔をしたと思ったら、庭を通りすがった霞達に声を掛け、

 

「雪蓮、怪我はもうようなったんか?」

「ええ、残念ながら、明日から溜まりに溜まった仕事漬けよ」

「そりゃー、難儀やな、いっそもう少し怪我人の振りしたらどうや?」

「それだと何時までたっても遊びに行けないじゃない。

 それに華佗が正確に診断してくれるおかげで、仮病も通用しないわ。

 まったく優秀なのも善し悪しよね」

 

等と、二人らしい、あまり褒められた話の内容ではない会話をしている。

そして、

 

「春霞も久しぶりね」

「は・はい、孫策様にお目に掛れた事を…」

「あははっ、緊張しちゃって可愛い♪

 で霞、今日はこの娘城まで連れて来てどうしたの?」

「うん、七乃が美羽の勉強を見るついでに見てくれる言うから、今日からな」

「そっ、頑張りなさい」

「は・はい」

 

 

 

 

緊張している春霞を、孫策は手招きして引き寄せ、

その肩を持って此方に振り向かせると、

 

「ねぇ、一刀この娘どう思う?」

「ん? 可愛くて、優しそうな子じゃないかな。

 将来きっと美人で、可愛いお嫁さんになると思うよ」

 

孫策の言葉に、俺は思うまま答えながら、王に目の前で話しかけられ緊張している娘に、

少しでも緊張を解してあげようと微笑んであげると、

何故か俯かれてしまった。……うーん、子供受けは良いはずなんだけど、内気な子なのかなぁ?

 

「はぁ~、相変わらずね……まぁ良いわ、

 でも、そう言う事を聞いているんじゃなくて」

 

孫策は、何故か深い溜息を吐いた後、

ニンマリと笑みを浮かべながら、

 

「一刀、この娘に欲情できる?」

「ぶっ!」

 

等と、行き成りとんでもないと言うか、馬鹿な事を聞いてくる。

俺はその問いに吹き出しながらも、孫策に詰め寄る様に、

 

「阿呆な事を聞くなっ! 子供相手にするわけないだろっ!

 人を性犯罪者みたいに言うのは、頼むから止めてくれっ! あっ…」

 

そこまで怒鳴って、俺は気が付く、

孫策がこんな阿呆な事を、俺をからかいながら聞いた理由、

 

「そう言う事よ、一刀は翡翠が嫌っていたような男達とは違うわ。

 きちんと二人を見て、二人を受け入れた。 もっと自信持ちなさい」

 

まぁ、孫策の言いたい事は分かる。

分かるんだが………もう少しやりようがあるとは思いませんか?

俺は、これ以上、幼いこの子が、孫策の悪影響を受けないように、

今頃、美羽と七乃が待っている事を言って、二人を遠ざける。

その二人の後ろ姿を見送った後、

 

「あのなぁ、幾らなんでもあの子に失礼だろう」

「あら、そうでもないわよ。 それに言ったのは一刀よ」

「あのなぁ……」

「でも、おかげで一つ分かったわ」

「何がだよ」

「一刀が別に幼女趣味があるわけじゃないって事♪」

「何度も言うが、俺は普通だよ。 そう言う趣味がある訳ないだろ」

「普通ね……じゃあ、胸もあるか無いかで言えば、ある方が好きなんだ」

「あるか無いかで言えばそうだけど、そう言うのを気にした事は無いよ」

 

俺は、これ以上付き合っていらないとばかりに、孫策の手から酒壷を取り上げ、

 

「今日は此処まで、これともう二つの酒壷は侍女を通して冥琳に預けておく」

「ぶーっ、まだちょっとしか飲んでないわよ」

「阿呆な事を言っている時点で酔っている証拠だ。

 それに今日は、味を楽しませるだけのつもりだったんだから、これで明日まで我慢してくれ」

「一刀のイケズーーーーっ!」

 

 

 

雪蓮視点:

 

 

結局一刀は、仕事があるからと、一杯も付き合わずに行ってしまった。

まったく、一杯くらい付き合ってくれてもいいのに、

そう思いながら、私は酒杯に残った最後の酒を、口に少しづつ味わう様に運ぶ。

一刀の作ったお酒の一つで、日本酒と言っていた。

清みきっていて、ほのかに甘く、優しいお酒、

華美なものは無いけど、どこか心を安心させてくれる味、

でも今は、

 

……美味しいけど、苦いわね。

 

……一刀は変わった。

何処がと言う訳では無いけど、どこか危うげな感じが消えたわ。

きっと、それは一刀がこの世界で、確かなものを手に入れれたからだと思う。

翡翠と明命、二人の存在が、穴の開いた一刀の心を満たした。

多分、二人にしかできなかった事だと思う。

そして、これからもずっと、一刀にとって、二人は無くてはならない存在でしょうね。

 

それにしても、『 孫策 』か……、

正直、いい加減真名で呼んで欲しいとは思っている。

でも、今は呼んで欲しくないとも思っている。

今そんな風の呼ばれれば、自制できる自信が無い。

だから、私は自分の中の想いを隠して、一刀にいつも通りにふるまった。

いつも通りおどけて見せた。

一刀はきっと、そんな私の想いに気が付かず、別の意味で受け取ったんでしょうね。

でなければ、あんな顔は出来ない。

 

『……ありがとうな』

 

そう言いながら、一刀は私に微笑んだ。

何時もの春の日差しのような笑顔じゃなく、

もっと信頼に満ちた、そして優しさに満ちた笑顔だった。

たくさんの想いを載せて、私に微笑んできてくれた。

いつも以上にの素敵な笑顔を、私に向けてくれた。

 

「……馬鹿…よ…ね…」

 

一刀の見せた笑顔を思い出し、そんな言葉が零れ落ちる。

我が事ながら、どっちに言った言葉かなんて、分からない様な言葉を……、

 

 

 

 

「雪蓮様、もうお体よろしいのですか?」

 

そんな声と共に、庭を通りかかった翡翠が、態々東屋まで足を運んできた。

冥琳が色々気を使い、蓮華と小蓮以外は面会を断っていたため、翡翠とも五日ぶりとなる。

 

「明日から執務に戻れるわ。 私が休んでいる間苦労させたわね」

「いえ、雪蓮様から受けた御恩を思えば、あれぐらいの事・」

「良いわよお礼なんて、それに、貴女達の気持ちをあんな形で言っちゃったわけだし、

 むしろ怒られても仕方ないんだから」

 

翡翠の言葉を遮って言う私に、彼女は困ったように苦笑を浮かべてくる。

それでも、結局翡翠は礼の言葉を口にしそうなので、

 

「お礼どうこうより、聞かせて貰いたい事があるわ」

「答えれる事であれば、何なりと」

「今、幸せ?」

「………はい」

 

ずきんっ

 

自分で聞いておきながら、少し時間を空けて、

恥ずかしそうに答える翡翠にの言葉に

幸せそうに答える翡翠の言葉に、

優しく満たされた瞳で答える翡翠に

私の胸が締め付けられる。

でも、

 

「そう、良かったわね」

 

そう答える。

でも、嘘じゃないわ。

本当にそう思っている。

心からの言葉なのは、真名に誓ってでも言える。

そう、それで良いの。

だから、

 

 

 

 

「さっき一刀が此処に居たんだけど」

「えっ?」

 

私は、翡翠に教えてあげる。

一刀が二人の外見で惹かれた訳じゃないって事を、

二人をきちんと見て選んでいるって事を、

二人の気にしている胸に関しての事を、

 

「でも、一刀は相変わらずよね。

 春霞にまで、あんな笑顔見せたりして、

 あの娘ったら、顔真っ赤にして一言も喋れなくなってたわよ」

 

いつも通り一刀の朴念仁振りを、一刀を盗られない様にしなさいと注意混じりに、話してあげる。

春霞には、少し気の毒な事をしたけど、あの娘はあの娘で、色々傷を負っている。

だから、そう言う人間ばかりじゃないと言う事を、教えてあげたかった。

あれだけ聡明な娘だから、分かってはいると思うけど、やはり経験で教えてあげる事も重要だと思っての事、

まぁ、一刀をからかえた事もあり、一石三鳥と楽しめたのも事実だけどね♪

 

「駄目ですよ」

 

びくっ

 

翡翠の突然の言葉に、私は体を一瞬震わせてしまいそうになるのを必死で抑えた。

特に大きな声であったわけじゃない。

むしろ控えめな声、だけどその声色は堅く、はっきりと私の耳に届いた。

翡翠自身は何時もの様に優しく微笑んでいる。

でも確かに一瞬、申し訳なさそうに、それでも強い意志を込めた目を確かに向けていた。

 

分かっているわよ。

私はそちら側には行けない。

行く資格もない。

そんな事をしてしまえば、どうなるか目に見えている。

だから、

 

「ふふっ、翡翠ったら可愛いわね、あんな小さな娘にまで焼きもちを焼くの?

 大丈夫よ、一刀、貴女達しか見えていないから、少しは信じてあげなさい」

 

そう言ってあげる。

何時もの私らしく、

今の関係が一番なのだと、

そうするのが一番なのだと、

そう、翡翠に伝える。

 

翡翠の顔を朱に染め、慌てふためながら『ぁぅぁぅ』呻る姿を肴に、

私は、酒杯に残った最後の一口を、私の想いと共に喉に流し込む。

 

そう、これで良いの

 

これで…いいの……、

 

 

 

翡翠視点:

 

 

建業で試験的に運用していた一刀君の政策の一つ、街の警備案をこの街でも行うため、

協力や資金の援助の申し立てを街の長老達や、商家の代表者達にお願いしてきた。

幸い建業で上がってきている実績は、商人達の中には噂として広まってきている事もあり、安心して商売ができるならと、それなりの援助をしてくれる事を約束してくれました。

正直金額的には厳しいですが、今は協力した事で商売がしやすくなった、と言う実績を作る方が大切です。

そうすれば、後から参加する商家も、金額も増えてくるでしょう。

 

警備する兵に関しては、安給で苦労や危険の多い仕事で、どの街もやり手の少ない職種ですが、一刀君の案で、兵役の免除(たしか天の言葉で『特典』と言いましたか)と言う恩恵を付加する事で、元々この街の状態を何とかしたいと思っていた元袁家の兵達が、自ら申し出てくれています。

全てを彼等でやらせる訳には行きませんので、人柄を見てと言う事になりますが、そう問題は無いでしょう。

 

今までひっそりとやってきた、一刀君の天の国の知識を使った政策、

建業で試していた政策の数々が、今少しずつ多くの街に広まろうとしています。

建業での街の様子が商人達を通して広がり、今までにない政策にもかかわらず、大きな反発を受ける事無く受け入れられつつある様子です。

 

天の知識、

先を見る目、

無双の武、

 

私達孫呉の思惑通り『天の御遣い』を庇護する孫呉は、

人々の畏敬の念と、崇敬の念を、集める事が出来ました。

一刀君の『天罰』の演出も、その事を大きく後押ししました。

 

ずきっ

 

でも、そんな事は、私と明命ちゃんには関係ない事です。

例え一刀君が『天の御遣い』でなくても、私達の気持ちは変わりありません。

 

私は一刀君が好きです。

 

だからこそ、孫呉の政に一刀君を利用している事が心苦しくなります。

そして、結ばれた今において、その事は、よりいっそう私に重圧となって押しかかります。

そんな重圧から逃れるように、昨夜私は一刀君を求めました。

やっと引いた破瓜の痛みも取れた事で、一刀君との二人だけの夜。

二回目の夜……、

 

…ぁぅぁぅ……、

 

最初の時もそうでしたが、一刀君アレに関しては、結構獣です。

 

『・ぅんっ、…あ…か・一刀君…ん…そんなに吸っては・ひゃっ!…あっ』

『もっと翡翠の可愛い嬌声を聞かせて欲しい』

 

かりっ

 

『ふぅんっ! …ぁぅ…』

 

とか言って、人の胸を散々弄ったり、

 

『くぅっ、だ・駄目です…ぅっ、お腹…っ…押さえ…あぅっ…られたら…』

『どうして? 翡翠の凄く締め付けてくるよ』

 

とか言って、人の制止をなんて無視して、私を翻弄し続けました。

私も、普段の優しい一刀君との差が、

一刀君が私に夢中になってくれる事が嬉しくて、

ますます心も、身体が燃え上がってしまいました。

正直、今でも油断すれば、地面にへたり込みそうです。

 

 

 

 

私の罪も、それに対する罪悪感も、一刀君は優しく私を包み込んでくれています。

何度も注ぎ込んでくれた一刀君との確かな証が、私をより前へ進ませてくれます。

一刀君の事を考えると、心が休まります。

一刀君と一緒にいると、心が穏やかになります。

一刀君と結ばれた事が、私に余裕を与えてくれています。

それに、前みたいに明命ちゃんと張り合って、体を押し付ける事も少なくなりました。

ただ、凭れ掛かるだけで、寄り添うだけで、一刀君の心をしっかりと感じれるからです。

……それでも、何度押し倒したいと思った事か……、

 

一刀君は相変わらず、女心に鈍感です。

破瓜の痛みが残っていても、例え二人っきりでは無くても、

一つになりたいと言う私達の想いを分かってくれません。

ですが、何もなかった事で、一刀君に甘えられたし、

いろいろ話を聞き出す事に成功したので、それはそれで良かったと思えます。

それにしても、あの『御姫様抱っこ』と『膝の上』はとても心地良いです。

明命ちゃん曰く

 

 『 お猫様のもふもふにも、負けません 』

 

らしいですが、私としては、こっちの方がよっぽど良いです。

明命ちゃんとの仲も今まで通り良好で、私達三人の仲は理想の形と言えます。

この間のような事故はともかく、一刀君と一緒ならば、ああ言うのも悪くありません。

そうですね、今度水協鏡先生から戴いたあの本の封印を解いて、明命ちゃんと勉強しましょう。

一刀君に翻弄されるのも良いですが、せっかく明命ちゃんもいるのですから、

二人で一刀君を翻弄するのも良い考えです。

 

ふふっ♪

あの時は一刀君、結構可愛い顔で呻きますから、

私達二人で攻めたらどんなを顔するか、とても楽しみです♪

 

 

 

 

そんな事を考えながら、城まで戻ってくると、庭の東屋に雪蓮様が体を休まれているのを見つけました。

冥琳様から、療養中のため雪蓮様への面会は断わられましたが、明日には政務に復帰すると言う事は聞いています。

私は、今回の事で雪蓮様へお詫びとお礼を申し上げるために、雪蓮様の所に足を向ける事にしました。

 

雪蓮様は、療養中だと言うのに、酒を嗜まれているようですが、

今持っている酒杯が最後のようですから、黙っておく事にしました。

雪蓮様は、相変わらずで、私の礼の言葉なんて受ける必要が無いと言ってきます。

家族のために、力を尽くすのは当たり前の事だと、

 

「お礼どうこうより、聞かせて貰いたい事があるわ」

「答えれる事であれば、何なりと」

「今、幸せ?」

 

雪蓮様の問いかけ、

そんな分かり切った問い、

……やはり、御自分の気持ちに気付かれたんですね。

そう私は確信しました。

そして、この問いの意味、

雪蓮様は、多分御自身では気付かれていない。

こんな当たり前の事を、私の口から聞きたがっている御自身の心を、

それが分かるから、………分かってしまうから、私は正直に答えなければいけない。

例え分からなかったとしても、答えは同じ、

でも、そこに込める想いは変わってきます。

 

「………はい」

 

そう、多くの想いを込めて私は答えた。

一刀君への想いも、

雪蓮様への感謝も、

今が幸せである事も、

……そして、雪蓮様の秘めた想いへの申し訳なさも、

それが分かっているからこそ、今の幸せを守って見せる想いを、

たくさんの想いを、感謝を込めて、雪蓮様の問いに答えます。

 

「そう、良かったわね」

 

雪蓮様は、そう答えます。

慈しむ様な目で、私を見ます。

そして酒杯を傾け、僅かな酒を喉に流し込まれます。

でも、その時の雪蓮様の瞳は、多くの感情の色が浮かんでいました。

ただ確かなのは、私の言葉が雪蓮様を傷つけたと言う事。

雪蓮様の秘めた想いに、言葉と言う刃で、斬りつけたと言う事実です。

 

 

 

 

その後雪蓮様は、御自身の心を誤魔化すように、はしゃいで見せます。

私が来る前に来ていた一刀君の話をします。

一刀君がお酒をこっそり持ってきてくれた事、

 

「散々嫌われる事してきたから、仕方ないかな」

 

と、相変わらず真名を呼んでくれない事を、嘆息交じりに言って見せたり、

春霞との出来事や、一刀君がそう言う趣味を持っている訳では無く、純粋に私達を見てくれていると言う事、

春霞のような子供にまで、無自覚にあの笑顔を振り撒いた事、

盗られないように気を付けなさいと、冗談交じりに忠告してれた事、

雪蓮様、そう何時もの様に振る舞っています。

 

ですが……、

雪蓮様、気が付いていますか?

一刀君の事を話している時の御自分の顔を、

雪蓮様がその瞳に浮かべてるモノの正体を、

私が雪蓮様の願い通り叩き斬った想いが、

心深くに沈む事無く、そこにある事を……、

 

「駄目ですよ」

 

だからそう言います。

駄目なんです。

もし一刀君が私達以外の誰かを、新たに家族に迎えるとしても、雪蓮様だけは駄目なんです。

私達がこれ以上は駄目と思っているのもありますが、それを差し引いても雪蓮様だけは駄目なんです。

例え、美羽ちゃんや七乃ちゃんを受け入れる羽目になったとしても、雪蓮様だけは駄目なんです。

王である雪蓮様が、私達の輪に入ってしまえば、全てが壊れてしまいます。

王と臣下、この関係は例え雪蓮様が王で無くなっても変わりありません。

その身分を剥奪されようとも、七乃ちゃんが美羽ちゃんを、仕える主君として見ているように、

私達と雪蓮様の関係は無くなりません。

 

『 主君が心から望んでいるものを渡さない 』

 

例え雪蓮様の意はどうあれ、周りは氏族達はそう思います。

そうなれば、孫呉の結束に亀裂を生みかねない出来事になります。

孫呉の夢を、私達の夢を、民の夢を、そんな事で、無に帰す訳には行きません。

それに私達も、どうしても雪蓮様に遠慮してしまいます。

今の理想的な関係が保てなくなってしまいます。

一刀君を何の足がかりもない、闇に放り込む訳には行きません。

例え一刀君の心に、雪蓮様が居たとしても、

それだけは、許されない事なんです。

 

分かってください雪蓮様、

そして諦めてください、

一刀君を想うなら、

一刀君を好きならば、

その想いは、叶えてはいけないんです。

 

私は雪蓮様に、

自分の使える主君に、

とても残酷な事を言っています。

自分の想いとは全然関係ない事で、好きな人を諦めろと、

理不尽で、残酷な事を、私は雪蓮様に言っています。

 

でも、思ってしまいます。

もしこれが逆な立場だとしたらと思うと……、

私は、どうしたでしょうか……、

 

 

 

 

そんな想いが雪蓮様に届いたかどうかは分かりません。

ですが雪蓮様は、いつもの調子で、

 

「ふふっ、翡翠ったら可愛いわね、あんな小さな娘にまで焼きもちを焼くの?

 大丈夫よ、一刀、貴女達しか見えていないから、少しは信じてあげなさい」

 

そんな雪蓮様の言葉に、顔が熱くなります。

頭の中が真っ白になります。

 

「ぁぅぁぅ……そ・そう言う訳では…ぁぅ~ぅ…」

 

確かに、一刀君んが他の娘に笑顔を振りまくたびに、焼きもちを焼いていないと言えば嘘になります。

ですが、別にそれは一刀君を信じていない訳では無く…ぁぅ…、その、自分でも抑えられないと言うか、

ぁぅぁぅ……うぅっ、と・とにかく無自覚な一刀君が全部悪いんですっ!

 

 

 

 

 

それが雪蓮様の返事、

 

今まで通りの関係を貫くと言う答えです。

 

でも……、

 

私の慌てふためく姿を肴に、最期の酒を傾けるお姿は、

 

その顔に浮かべた表情は、

 

その瞳に浮かんだ想いは、

 

私を安心させてくれる事は、ありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第78話 ~ 幸せな想いに、彷徨う想い、連なる想いに舞う音色 ~ を此処にお送りしました。

 

新章に突入しましたが、特に新しい展開も無く、前回の話の後のようなお話です。

本来は、前章に入れるべき内容と思われるでしょうが、これは此れで意味のある事です。

気付いてしまった雪蓮の秘められた想い、それと同時に、それが叶えてはいけない想いだと言う事にも気づいてしまう雪蓮、

本編の明命が悩んだ想いを、逆にしたような展開ですが、これが新章における大切なキーワードの一つとなっております。

さぁ、雪蓮は一刀の無自覚さに負ける事無く、決意を守り通す事が出来るのか?

それは、今後の展開を待っていただく事になりますが、彼女達の複雑な想いを余所に、時代は雪蓮を乙女でいる事を許す事は無く、容赦なく襲いかかって行きます。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 

PS:

わざとそう見せていたとは言え、最初の頃と違って、最近は雪蓮の擁護するコメントが増えたなぁ♪


 
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