No.166584

『舞い踊る季節の中で』 第75話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

一刀から鍛錬をしてもらえるようになった明命、
短い早朝鍛錬を頑張る日々の中、一刀から難題を突き付けられる。
一刀の侍女として、家族として屋敷に住むことになった七乃、

続きを表示

2010-08-18 22:18:17 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:18559   閲覧ユーザー数:11952

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-

   第75話 ~ 悩みに舞う花の想いに、刃はひたすら己を律する ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術

  (今後順次公開)

  最近の悩み:最近と言うか、俺はもうこの世界の住人だと自覚して以来、明命と翡翠が、以前よりスキ

        ンシップしてくるようになった。 クラスの女子も、よく女子同士でやっていたので、二

        人共そんなノリなんだと思う。 まぁ、それだけ俺が二人の本当の家族になった証と思え

        ば、嬉しい限りだ。 だけど喜んでばかりはいられない。 以前から気になってはいたけ

        ど、この世界の人間は、基本的に毎日風呂に入らない。 行水や濡らした布で体を拭くの

        が主流だ。 幸い翡翠達は身分が高いので、数日に一度風呂を沸かすのだけど、やはり、

        そのなんと言うか…、別に二人が臭いと言う訳では無い。 それを言ったら俺も同類だ。

        俺が気になるのは、その……女性独特の甘い、そして何と言うか、俺の理性が非常に危険

        になる香りが強くなるんだ。 特に二人は、日に日に強くなってきている気がする。 

        七乃はもちろんだけど、美羽も外見はああだけど、子供特有の香りに加えて、そう言った

        香りがするが、二人のは明命達ほど気にはならない。 そう言う訳で、前からそう思って

        いたけど、雪蓮から将としての支度金を貰っていたので、戦後、冥琳に聞いた職人達に、

        あるものを作ってもらう事にした。 うん、それが出来るまでの我慢だ。 それが出来る

        まで、何としてでも耐えるんだ。

 

 

明命視点:

 

 

息を浅く吸いながら、だけど体の隅々に行き渡る様に、想像します。

息を吐き出しながら、意識と気をゆったりと周りに薄く広げて行きます。

何度も繰り返すのですが、だめです。

どう斬り込んで行けば良いのか分かりません。

 

部下達相手ならば、簡単に分かります。

思春様相手なら、虚実の探り合いの先に見えます。

霞様相手ならば、思考の先に動きが分かります。

でも今、目の前にいる相手は、何も見えません。

口悪く言えば、素人そのもの……、

だけどそう見えるそれは、全て虚で実です。

その事は、先日嫌と言うほど体と心に叩き込まれました。

 

気配を完全に消しても見破られ、

此方の虚は全て見破られ、

策は全て、逆に利用され、

一刀さんに教わった感覚も、

違い過ぎる武の前に、遠く届きません。

思春様が、ただ我武者羅に突っ込むしかなかった訳が分かります。

少なくても今の私達の腕では、目の前の相手の虚実を、挙動を見極める事等出来ません。

私は覚悟を決め、地を蹴ります。

 

 

 

 

 

「はぁぅぅ~~~」

 

私は"魂切"を弾かれ、一刀さんに片足を高く持ち上げられ、

天地逆さまで、ぶら下げられながら、呻き声をあげます。

 

「むやみに跳ぶのは良くないって、前にも注意したよ」

 

そう一刀さんの言葉が耳を打ちます。

 

「あぅっ、 ですがあの体勢から反撃されるとは思いませんでした。

 ………あの一刀さん、なんで、空を見上げたままなんですか?」

「……いやそのっ」

 

一刀さんはそう言うと、何故か、首ごと全然関係ない方を見ながら、

これまた何故か此方を見ないようにしながら、私を地面に降ろし、

私が立ち上がるのを気配で確認して、やっと此方を向いてくれます。

 

「………何で顔が赤い・」

「と・とにかく、相手の虚を突く事も大切だけど、今の明命では俺には通用しない。

 だから地力を上げる事を優先した方が良いと思う。 少なくても俺相手の時にはね」

 

一刀さんは私の質問を遮るように、私の鍛錬の方針や、

今の早朝鍛錬の仕合で悪かったところを指摘してくれた後、

私より先に鍛錬を終えた美羽と七乃に声をかけ、私達を蔵の方へ誘います。

 

 

 

 

ぎぃぃぃーーーっ

 

重い音を立てて開く扉、

開け放たれた扉と、明り取りの窓から漏れる光が、薄暗い蔵の中を照らします。

元々使っていない蔵の一つでしたが、中は掃除され、

残っていた荷物も、別の場所に移動されたようです。

中に残されたのは、蔵の隅に点在する幾つかの籠と、

天井からぶら下げられた格子状の戸板を使った棚です

 

「明命用の鍛錬方法さ」

 

一刀さんの言葉に、私は此処で何をするのか分からず、

疑問の表情を浮かべ一刀さんを見ます。

一刀さんは、私の疑問を余所に、笑みを浮かべながら、目隠しをして蔵の中心に

空中にぶら下がった棚の下に立ちます。

そして、

 

「美羽、この間言ったようにやってくれ」

「うむ、わかったのじゃ」

 

一刀さんの声に、美羽は棚から伸びた縄を、

天井の梁を通して蔵の隅に結ばれた縄を揺らします。

そして縄と一緒に揺らされた棚から、格子の隙間から、

幾つかの物が舞い落ちてきます。

 

「……綿?」

 

たっ

 

「……え?」

 

とっ

 

……うそ

 

舞い落ちた幾つかの綿は、地に落ちる前に、

一刀さんの手で、

一刀さんの持つ鉄扇で、

真っ直ぐ横に弾かれ、

部屋の隅の遠く離れた籠の中に落ちてゆきます。

 

あの ふわふわ の綿が、

一刀さんの手に触れる度に、

鉄扇に触れる度に、

まるで、石を弾いたようにまっすぐ弾かれ、

籠の上で再びもとの様に、ふわふわ と籠の中に入って行きます。

 

空を幾つもの綿が ふわふわ と舞い落ちる中、

一刀さんは舞いながら、

あの軽い綿を一個一個、籠へと弾き飛ばして行きます。

まるで、初めからそこへ落ちていくかのように、

 

でも、それだけではありませんでした。

綿に混ざり、同じく空を舞いながら落ちてくる小さな鳥の羽、

それは、一刀さんが触れるや否や、一瞬でその場で粉々にされ、

そのまま地に落ちて行きます。

跳ばされるのでも押されるのでもなく、その場でです。

 

やがて、落ちてくるものが無くなり、

縄を不規則に揺らしていた美羽の手が止まると、

 

「美羽、お疲れさま」

「これくらい、わけないのじゃ」

 

 

 

 

美羽にお礼の言葉を言った一刀さんは、目隠しを外して私を見ます。

 

……あの、もしかして、

 

「とりあえず、最初は目隠しはしなくていいからね」

 

そう、にこやかな笑みを浮かべながら言って来ます。

何時もなら一刀さんの笑顔に、顔が熱くなるのですが、

今は自分の頬が、引き攣っているのが分かります。

つまり一刀さんは、今のような芸当をやれるようになれと、

そう言っているのです。

 

「うん、明命の気持ちは分かるよ。

 俺も子供の頃、じっちゃんに、これをやれと言われた時は、空いた口がふさがらなかったからね」

 

……こ・子供の頃……です…か……これを? それだけでも、開いた口が塞がりません。

 

「コツを掴むまでが大変だけど、その後は割と簡単だから、今の明命なら頑張ればなんとかなると思う。

 これが出来るようになれば、明命の今まで学んできたものを壊さず、力を付けれるはずだよ」

 

一刀さんは、そう言うと扉の方に向かって歩きます。

 

……あの、それだけですか? 何か助言はないんでしょうか?

 

そう思った時、一刀さんは振り返り、言い忘れたと言わんばかりに、

 

「そうそう、夜は美羽が眠くなるまでだよ、それ以上は遅くならないようにね」

 

そう言い残して、今度こそ蔵から出て行ってしまわれます。

 

「……はぁぅ~~……、やっぱり、自分で見つけろと言う事なんでしょうか……」

「…あ・あはははっ………、ご・ご愁傷様です…」

 

私の漏らした言葉に、七乃は乾いた笑いをしながら、同情するように私を励ましてくれます。

そして、その反対に美羽は、

 

「ん? 明命は、なぜそこまで落ち込んでいるのじゃ?

 主様が出来ると言ったのじゃ、出来るようになるに決まっておろう」

 

そう、無邪気に言ってきます。

……そうですね、そうかもしれません。

一刀さんが私のために考えて下さったものです。

今亡き師の様に、

 

『 やっぱり無理じゃったか 』

 

と言うような事を、やらせるとは思えません。

 

「美羽の言うとおりです。 一刀さんを信じて頑張るだけです」

「うむ、そうなのじゃ」

「はい、ではお仕事から帰って来てから、よろしくお願いします」

「分かったなのじゃ」

 

そう、今は一刀さんの言葉を信じて、頑張るだけです。

 

 

 

 

だんっ!

 

蔵の中のため、いつも以上に踏み込む音が辺りに響きます。

月光と蝋燭の明かりだけが頼りの、暗い蔵の中、

踏込と共に出した手は、狙い違わず打ち抜きます。

そして、打ち抜いたものは、私の拳が伸びきった僅か先で、

そのまま元の様に、ふわふわと落下して行きます。

 

「はぁぅ~~」

 

やはり何度やっても、一刀さんの様に綿がまっすぐ跳んで行きません。

それどころか、枯葉と違い、僅かに空気を動かす訳でもないので、落ちてくる綿に対処しきれません。

私の足元には、もう十数回目の棚一杯の綿と羽が足元に積もっています。

 

一刀さんの言いたい事は大体分かります。

相手の気や空気、そして視覚に頼らず、

静かに空を舞う綿すら察知出来るようになれば、

一刀さんに教えて貰ったあの感覚と組み合わせれば、

例え複数を相手にしても、後手に回る事はまずなくなります。

そして、この綿を跳ばしたり、羽を一瞬で粉砕する目的、

それは、力を一点集中させる事で、力を分散させる事なく、

一定方向に流す事で、相手の攻撃を逸らし、相手を飛ばします。

そして、流した力を逃す事なく、その場に留まらせる事で、

力は其処で破砕し、相手に痛手を与える事が出来ます。

 

これが一刀さんが、庶民と変わらない力しか持たないのに、私や思春様の攻撃を難なく逸らせる事が出来た理由の一つなのでしょう。

たしかに、これが普通の動作で行えるようになれば、一刀さんが言う様に、私が今まで学んできた事を、より強固にしてくれます。

でも……、

 

「いったいどうやったら、あんな真似が出来るのでしょう」

 

こくり

こくり

 

ふと見ると、美羽が小さな頭を揺らしながら、舟をこぎ始めていました。

そうですね。 今夜はもう終わりにしましょう。

正直、こうも手応えのない物を打ち続けたせいか、体が重いです。

それに、これ以上遅くなれば、明日の任務にも支障が出かねません。

 

「美羽、今日は終わりにしましょう。 有難うございます」

「ぬぉっ、妾は寝ていないのじゃ、少し目を瞑っていただけなのじゃっ」

「くすっ」

 

私の掛けた声に、体を大きく震わせながら、そんな事を言う美羽に、私は思わず笑みを漏らしてしまいます。

彼女達が来てから、騒がしい日々ですが、こうしてそれなりに楽しく、力が程よく抜ける毎日です。

……力が抜ける?

 

「そうですっ! もっと力を抜くんですっ!」

 

一刀さんは以前言ってました、『 力は必要な分だけ 』と、

それに、一刀さんがやった時は、震脚も殆どしませんでした。

違います震脚はしているはずです。 ただ、これも必要なだけ、

そして、大きな音が出るようでは駄目なんです。

震脚一つに取っても、一点に集中するんです。

そして力を抜く、つまり滑らかな動きで、震脚で得る力を、

体を捻る事で得る力を効率よく伝えるんです。

得た力を綿と拳の触れる一点に、その瞬間のみに、

力を収束させるように、動かなければいけないんです。

私は急いで、綿を幾つか拾い集め、

 

「美羽、もう一回だけ、もう一回だけお願いします」

「………う……うぉ、うむ…」

 

美羽は、眠そうに目を擦りながら、それでも、何とか返事をしてくれます。

 

 

 

 

今夜は、これが本当に最後です。

そして、

 

だんっ

 

 駄目です。 もっと小さく、

 

たんっ

 

 まだ力が入りすぎです

 

とんっ

 

 もっと、滑らかに、

 

私は、一刀さんの教わってきた事、

一刀さんが見せてくれた事、

一つ一つ思い出しながら、一つ一つ、近づけていきます。

それでも、……どれ一つ上手くいきません。

 

だけど、考え方は間違えていないはずです。

体重を一点に絞る様に踏み出す足が、

力を流し込む様に捻る腰が、

優しく、そして鋭く出す腕が、

当たるその瞬間まで、脱力した拳が、

体全体から集めた力を解放するその一瞬が、

私にそうだと教えてくれます。

 

でも伝わる手応えとは裏腹に、綿は羽は私の足下に落ちて行きます。

そして、もう棚の綿が終わろうとした時、

 

たん

しゅっ

 

「…あっ」

 

今、ほんの少しだけですけど、綿が真っ直ぐ横に跳びました。

本当に最後の最後に、ほんの拳分だけですけど、確かに真っ直ぐ横に跳びました。

そして今の感触、一刀さんがこれを私に身に付けさせようとした本当の意味が分かりました。

確かに敵の攻撃を逸らしたり、必要最小限の力で相手を攻撃したりできますが、

それに至る動き、それが一番大切だったんです。

あれだけ余分な力を排除した動きは、攻撃を打つための力みを捨てた躰は、

次のどんな動作でも、とっさの事態にでも、対応できるはずです。

多数を相手にした時、これほど有利な動きはないはずです。

 

おそらく、これは一刀さんの流派でも秘技の一つの筈です。

暗い倉での鍛錬、裏舞踊と言う特殊性、そして祖父から子供の頃に直接指導を受けたと言う言葉、

これ程の技となれば、本来門外不出、下手をすれば一子相伝の技の筈です。

それを一刀さんは『 明命用の鍛錬方法 』と言って、私に教えてくれました。

それは、密偵として、そして将としての私が、少しでも……、

いいえ、一刀さんは確実に生きて帰ってきて欲しいからこそ、これを教えてくれたんです。

これは、一刀さんの私への想いです。

 

………一刀さん、ありがとうございます。

 

まだまだ遠いですが、一刀さんの想いに応えるためにも、この技を身に付けて見せます。

そう心に一刀さんの想いを刻みつけると、遅くまで付き合ってくれた美羽にお礼を言おうと…

 

「……すぅぅ…」

 

少し、無理をさせてしまいました。

すっかり、その場で座り込んで寝息を立てている美羽に、私は少し苦笑を浮かべながら、

起こさないように、優しく抱き上げます。

 

「美羽、……ありがとうございます」

 

 

 

七乃視点:

 

 

私は大将軍と言う肩書を持っていましたが、

其の実、軍師として美羽様の代わりに、内政・軍事を一手に請け負い。

その上、あの困った人達の望み通り、金を用意したり、我儘を聞きいれたり、

それでも、民が最低限の暮らしを何とか出来るようにしてきました。

まぁそんな事は、自慢できる事ではありません、

でも、周瑜さんや翡翠さんに負けない働きが出来る自信はありました。

書類仕事や金勘定もお手の物、特に相手を抑える様な策は、私の得意とする所でした。

ええ、ですから、計算なんて、ちょちょいのちょーーいです

 

と、つい先日まではそう思っていました。

 

「あのぉ、此処は何で、こういう数になるんでしょう?

 と言うか、こんな複雑な計算何の役に立つんですか?」

 

私はいい加減、頭の中がこんがらがり、心の中で涙を流しながら、

離れた席で何やら書き物をしている御主人様に、助けを求めます。

私がやっているのは、此処に来てから、御主人様に色々覚えるように言われている物があります。

今御主人様が書いているのも、その為の一つだそうです。

そして今やっているのが、天の国の計算です。

これがとても複雑で、正直訳が分かりません。

まだ、先日の『 心理学 』とか『 自然学 』とかの話しの方が、面白く分かりやすかったです。

 

「不規則の中で、規則性を見つけ出すための計算の一つさ、これを元に、別で計算した答えを、更にいくつか

 の公式に当て嵌めていく事で、可能性を数値化し、未来を予想するための指標にするのさ」

 

そう言って御主人様は、いくつかの数や記号、御主人様は公式と言っている物を書し貯めた書物の項を開いて行きます。

 

………すみません、もうその時点で頭が破裂しそうなんですけど、

 

そう言って、御主人様は、私の分からなかった所を、一つ一つ根気よく説明してくれます。

そして、

 

「七乃なら、きっと扱えるようになるよ」

 

そう言って、まるでそれが当たり前の様に、

御主人様は、私に笑顔を向けてきます。

 

……うぅぅぅ、

 

私は慌てて目を逸らして、顔が熱くなるのを誤魔化します。

やっぱりこの人は狡いですぅ。

そんな信頼の笑顔で、

そんな温かな笑顔で、

そんな事を言われたら、

頑張るしかないです。

 

まったく、これで無自覚だと言うのですから、

ぜったい、いつか誰かに刺されますね~。

 

 

 

「さてと、何時もの稽古に行くから、そろそろ明命と美羽を迎えに行ってあげてほしい」

「そうですねぇ、あと少ししたら、眠いのを一生懸命我慢しながら、

 うつらうつらしている可愛い美羽様の姿が、見られるかもしれませんね」

「………えーーと、そうなる前に迎えに行ってあげた方が、良いと思うんだけど」

 

御主人様は、困ったような顔をで、頬を掻きながらそう言うと、

部屋を出て行かれ、何時もの鍛錬に向かわれます。

御主人様は、舞の稽古と言われていますが、

御主人様が夜中に行う舞いの稽古、

それは明命さん曰く、裏舞踊の練習だそうです。

人を殺すための死の舞いの稽古、

 

あの心優しい方には、不似合いなものです。

 

北郷一刀、天の御遣い、孫呉の将、御主人様、と呼び方は様々ですが、

奴隷の身に堕とされた美羽様と私の主となった人です。

別にその事自体は、問題ありません。

美羽様と私が生き延び、その上で夢を叶えるには、それしか道は残されていませんでした。

本来復讐と共に死ぬ道しか残されていなかった私達に、それ以外の道を示してくれた言わば恩人です。

そして罪深い私達を、家族として受け入れてくれました。

その事にはすごく感謝していますし、先日孫策さん……いえ今は雪蓮さんでしたね。

とにかくあの時、雪蓮さんに言った事も本当の事です。

 

美音様、空羽様が夢見た民の笑顔、

私達の手では無理でしたが、この国でならば、きっとその夢が叶うと思います。

そして、現状ではとても難しいですが、美羽様と私の願いも、

『民の笑顔』のために力を尽くす事も可能だと思います。

 

御主人様も、私達の為に何やら色々動いておられるようですし、

私に様々な知識や考え方を覚えさせている事も、その一環のようです。

もう、お人好しとしか言いようがないほど、優しい方ですよ~。

でも、求めてくる内容の高さは、はっきり言って鬼です。

此方が死ぬ気で頑張れば、何とか手が届くかな、と言う所を毎回要求してきます。

明命さんも、先日その洗礼を浴び、とんでもない鍛錬方法を言いつけられていました。

今夜も美羽様に手伝ってもらいながら、鍛錬に励んでいます。

 

そしてその能力は、はっきり言って、化け物さんですねぇ~。

工・農・商・政・医等、この大陸より遥かに進んだ、天の国の様々な知識を持ち、

私からしたら十分化け物じみた雪蓮さん達が束になっても敵わない武を持ち、

私や周瑜さん達並みの目を持ち、連合の時やこの間の奇策をやってのける智を持っています。

 

しかも、とんでもない女ったらしさんです。

その上、信じられないような朴念仁ですから、相手をその気にさせるだけさせておいて、

相手を放置すると言う、極悪人さんです、極刑ものです。 よく今まで、誰かに刺されなかったものです。

以前、細作の報告で、雪蓮さん達が頻繁に出入りしている店の主と言う事で、調べさせたことがあったのですが、………まぁ、それは置いておいて、

 

そんな御主人様の高い能力とは裏腹に、その心はとても危いものです。

今は殆ど治まっているようですが、毎晩の様に罪に魘され、翡翠さんの献身で一時の安静を得ていた日々、

それを初めて目にした時は、信じられませんでした。

 

私が捨てて来たものを、

戦にかかわる者が捨てるべきもの、

目を逸らし、考える事を止めたもの、

目を向ければ、猛毒でしかないものを、

あの人は、御主人様は、大切に抱きしめ、

罪や後悔、と言う名の猛毒に侵されながらも、

それでも歩み続ける人間がいる事が、

私には、最初信じられませんでした。

 

 

 

 

だけど、あの人の温もりは確かで、

あの人の言葉は、真実で、

あの人の優しさは、美羽様と私を優しく包み込んでくれます。

そして、あの時三人での演舞で繋がった想いは、

あの人達と共に滅ぶ事しか、考えていなかった私達を救ってくれた時の想いは、

確かに私達の中で息づいています。

 

御主人様の人並はずれた能力や、表面的な優しさ、

そんなものは、ただの装飾品でしかありません。

そんなもので、あの人を見るような人には、御主人様の傍にいる資格はありませんね~。

翡翠さんが、御主人様の茶館時代、毎日お迎えに行っていた気持ちが分かります。

え~~い、この幸せ者の、犯罪者っ、

と、まぁそれは置いておいて、あの人の本当の魅力は、そんな物ではありません。

 

その在り方が、

その生き方が、

とても眩しいのです。

 

泥に塗れようと、

悲しみに押し潰されようと、

罪に斬り刻まれていようと、

涙で顔を崩されようと、

 

それでも歩み続ける

その姿が、

その魂が、

とても哀しく、

そして美しく、

見る者の魂を震わせます。

 

孫呉の皆さんが、あれだけ変わられた訳が分かります。

御主人様を前に、きっと誰も変わらずに、いられないのでしょう。

美羽様も私も、この方なら、全てお預けしても良いと思いました。

 

でも、この方の心に私達は居ません。

あの時三人での演舞で繋がった想いも、

御主人様にとって、今は『 家族との繋がり 』としか思っていないのでしょう。

御主人様の心には、もう住んでいる方達が居ます。

御主人様は、その事に全然気が付いていません。

あれだけ分かりやすいのに、本当にとんでもない朴念仁です。

一度その頭を開いて見てみたいものですねぇ。

きっと、『朴念仁』『超鈍感』と書かれた木簡が入っているかもしれませんね。

 

そして、私達がそこに割入る事が出来ない事は、直ぐに分かりました。

それをしてしまえば、御主人様は傷付いてしまうからです。

少なくとも、当分は無理だと言う事だけは確かです。

 

御主人様の心に住む人、

明命さん、

翡翠さん、

そして……まぁこの方は、あれだけ御主人様に惹かれていながら、御自身でも気が付いていないので、いいえ、気が付かない振りをしているので、今は放っておきましょう。

とにかく、この二人を応援する事にしました。

それが御主人様の危い心を助ける、一番の方法と分かるからです。

だから、

 

 

 

 

 

「次は、どんな手で、御主人様を困らせましょう。 ふふふっ、楽しみですね」

 

 

 

翡翠視点:

 

 

「ふぅ~~っ」

 

こきっ

こきっ

 

書き終えた竹簡に、最後に印を押し、私は肩を解しながら一休憩します。

治める領土が急増し、此処三日、家に帰る暇も無いくらい忙しい中、

私は雪蓮様に頼まれた幾つかの手続きのための、許可書や命令書等を書き終えた所です。

正直、こういった雑務はもう少し経ってからにしたいのですが、

もとは一刀君の頼みなので、そう言う訳には行きません。

 

孫呉の独立のためのこの間の戦、

一番の戦功は間違いなく一刀君です。

あれだけ被害を抑えれた戦果は、他国に侵略の隙を与える事なく、

逆に、群雄割拠の御時勢と言う事もあり、孫呉の傘下に自ら入ろうとする小国が多数あるくらいです。

それに、今までは表沙汰に出来なかった事もありますが、

汜水関、虎牢関での戦功も考えれば、一刀君の戦功による褒賞は、かなりの物になります。

もっとも、一刀君にとって、戦で褒賞と言われても、少しも嬉しくないでしょう。

一刀君にとっては、辛い事でしかないからです。

 

ですから冥琳様と相談して、金子としての褒賞は私が預かり、一刀君が必要な時に渡す事にしました。

そして、金子で払いきれない分は、一刀君の頼みをなるべく叶えるように配慮する事にしました。

ですから、一刀君には、基本的に将としての給金を月々渡す事にしています。

この間も金欠のような事を言っていましたから、先日渡した先月分の給金は、一刀君にとって渡りに船だったようです。

まったく、雪蓮様から渡された、あれだけの支度金を、何に使ったんでしょう?

 

それに、今回の頼み事も妙なものです。

一つは、各地にある孫家の荘園、特に果実を作っている所へ、定期的に美羽ちゃん達に出入りさせ、やる事に協力する様にと言う事です。 これは、蜂養と果実の実りを良くするためと聞いています。

問題は次からです。

海岸沿いの湾の土地の使用と、そこでの建設工事の許可と言うものです。

一刀君が指定した湾は、湾とは名ばかりで、湾の出口は隆起した岩で、船が出入りする事も出来ず。

その上、突出した場所にあるため、陸からも行きにくい場所で、陸に繋がっているものの、孤島と言ってもおかしくない場所です。 漁師すらも使っていない場所ですので、これは何の問題もありませんが、いったい何をするつもりなのでしょう。

工事費も何故か私に言わず、雪蓮様の許可を得て『天の御遣い』の名で、彼方此方から借り入れているようですし……心配です。雪蓮様と冥琳様は全容を聞いているようですが、

 

『 上手く行くか分からない状態で話せないわ。 翡翠も追及したりしないようにね♪ 』

 

と、なぜか楽しげです。

冥琳様も、

 

『 手法としては面白い、試す価値はある。

  何、上手く行かなければ、北郷に貸しを一つ返す事になる。

  どちらに転んでも、我等にとって利はあるさ 』

 

……つまり失敗したら、一刀君の負債は私が預かっている貯蓄から、

それでも足りなければ、国庫からと言う事ですよね(汗

 

「……い・胃が痛いです」

 

 

そう言えば、この間も私が少し留守にしている間に、雪蓮様と一刀君(一刀君は無罪を主張しています)が城中を巻き込んで、大騒ぎを起こしたらしいですし、………一刀君が元気になり、色々頑張ってくれているのは嬉しいですが、何か、いろいろ問題も増えたような気もします。

 

 

 

 

『 ほう、今夜も泊まるつもりか?

  その様に呑気な事をしていて、あやつを何処かの二人に取られても知らぬぞ 』

 

と冥琳様に言われた事もあり、三日振りに帰宅できる事になりました。

一刀君の事ですから、その心配は無いと思いたいのですが………確かに呑気な事をしていて良い時ではありません。

ちなみに残った仕事は、冥琳様が幾つか選び、

 

『 これくらいの物なら、亞莎にやらせても構わぬだろう 』

 

と、帰り際の亞莎ちゃんに渡していました。

…………今度差し入れを持って行ってあげましょう。

 

そして家の門をくぐると、

 

「おぉぉぉ、本当にあれだけの薪で、湯が沸いたのじゃ。 主様凄いのじゃ」

 

そんな美羽ちゃんの興奮した声が聞こえてきます。

……一体何なんでしょう?

声をした方向に足を向けると……確かこっちは

 

「翡翠おかえり、ちょうどよかった、風呂の湯が沸いたから、後で入るといいよ」

「一刀君これは?」

 

私は、先日と大きく変わった風呂場の外の光景に、一刀君に説明を求めました。

 

一刀君の説明では、風呂の窯口を効率の良いものに変えたそうです。

窯の中で、銅でできた幾つかの管に水を通す事で、今までの十分の一くらいの薪で済むそうです。

そして、水汲みにしても、"手押しぽんぷ"とか言うもので、簡単に水を井戸から組み上げる事が出来るようです。

私達が毎日お風呂が入れるように、雪蓮様に渡された支度金の残りで、これらを用意させていたそうです。

 

正直とても嬉しいです。

温かい湯に毎日入れるのもそうですが、

一刀君の心遣いが、

一刀君が変な事に、お金を使っていなかった事が嬉しく思います。

でも……、

 

「一刀君、これに掛ったお金と、職人を教えてください」

「えっ? あの、翡翠何か怒っていない?」

 

一刀君が私の言葉と様子に驚きます。

別に本当に怒っている訳ではありませんが、これは一刀君にきちんと言わなければいけないい事です。

一刀君の天の技術は、私達孫呉が独占し、少しづつ民に還元しなければいけない事、

その為には関わった職人や技術者は選定し、監視下に置かなければいけません。

お金に関してもそうです。

今回は自宅でですが、この技術はかなり使えるものです。

掛かった費用は、実用試験として、技術開発費から落とす事は可能です。

 

 

 

 

結局、一刀君もある程度分かっていたらしく、今回関わった職人達は、城の出入りしている者達で、

それなりに言い含めてあるようです。 明日にでも再度通達すれば済む人達でした。

お金に関しても、個人宅としてはかなり高価ですが、薪代や手間を考えれば数年で元は取れそうな金額です。

何より、毎日温かい湯に入れる事を思えば、これくらいの出費は仕方ないと思えます。

特に手押しぽんぷは、素晴らしいものです。

これで、二十五尺くらいの深さまで、水をかなりの速さで汲み上げる事が出来ると言うのですから、初期投資は掛りますが、労力と長い目で見れば、とても有意義なものです。

 

早速、湯に浸からせて貰い。

一刀君とそう言った細かい話をしました。

明命ちゃんも既に入り終え、数日振りに三人揃って、

さして意味のない雑談を、一刀君の淹れてくれたお茶を飲みながら、楽しみます。

むろん、私も明命ちゃんも、それで終わらせるつもりはありません。

雑談をしながら、自然を装って、長椅子に座っている一刀君の横に座り、

 

ふわっ

 

そう、まだ乾ききっていない髪を漂わせながら、一刀君の肩にもたれ掛ります。

 

「あ・あの翡翠?」

「うん、……一刀君の肩、温かいです」

「いや、あの・その寒いなら・」

「この温もりが良いんです♪」

 

一刀君は、私の態度に、顔を少し赤らめながら、何か言い出しますが、この際無視しちゃいます。

 

「じゃあ私も」

「ちょっ、明命っ」

 

どうやら明命ちゃんが反対側に、回ったようです。

私達は、一刀君が恥ずかしがるのを無視して甘えます。

そうして一刀君に甘えながら、雑談を続けます。

一刀君は私達二人にくっつかれて、視線が落ち着かないようですが、

私と明命ちゃんにとって、穏やかで幸せな時間が流れて行きます。

 

とくんっ、とくんっ

 

と一刀君の鼓動が、一刀君に触れている場所から伝わってきます。

一刀君は私達の湯上りの雰囲気に、

一刀君が今回作ってくれた『 石鹸 』の香りに、

一刀君の胸の鼓動が、早くなっているのが分かります。

 

ふふっ、こんなに胸の鼓動を分かるようにしておきながら、

必死に気にしないように、気が付かないように我慢している姿が、

そして、恥ずかしがっている姿が、とても可愛いです。

 

このまま二人で押し倒したら、一刀君はどんな反応するでしょうか?

でも残念ながら、私達からそれをする訳には行きません。

……そうですね、あの本に書かれていたように、

このまま指で、一刀君の胸を擽ると言うのも良いかもしれません。

 

 

 

 

どたどたっ

 

「ぬぉぉぉ、もうそれは嫌なのじゃ」

「待ってください美羽様、きちんと目を瞑っておけば痛くありませんから」

「ずっとなど無理なのじゃ」

 

そんな、騒がしい声と音が、聞こえてきます。

 

どたどたっ

 

「綺麗になって、良い香りもするんですから、我儘言わないでくださいよ」

「目に染みるのは嫌なのじゃ~っ」

 

せっかく良い雰囲気になってきたと言うのに、あの二人は今度は何をやらかしているんでしょう。

そう体を起こした時でした。

 

「助けてくれたもう」

「ち・ちょっ」

 

美羽ちゃんが、部屋に飛び込んできます。

しかも、その身に何一つ身に付けていません。

そして美羽の後を追う様に七乃ちゃんが、

 

「美羽様、逃げないでくだ…あっ…きゃっ!…」

 

美羽ちゃん同様の姿で、飛び込んで来たのですが、一刀君に気が付くなり、そそくさと廊下へ逃げ出します。

そして顔だけ出して、

 

「えーーと、見えちゃいました?」

 

なんて顔を朱に染めながら言ってきます。

状況は大体分かりました。

どうやら、美羽ちゃんが慣れない石鹸に、入浴中にもかかわらず逃げ出してきたようです。

ですが、このままにしておく訳には行きません。

 

「明命ちゃん」

「はい」

 

私の言葉に、明命ちゃんは美羽ちゃんを素早く捕まえ、一刀君から隠すように七乃ちゃんに引き渡します。

 

「し・失礼しましたーー」

 

と、さすがの七乃ちゃんも、慌てて美羽ちゃんを引き連れ、風呂場に戻っていきます。

さて、問題は……、

 

がしっ

 

私は今の出来事に固まっている一刀君の腕を、そのまま腕を組むようにして押さえます。

反対側も、明命ちゃんが抑えてくれます。

どうやら考えている事は同じ様ですね。

一刀君が、そんな私達の態度に慌てますが、もう遅いです。

私は空いている方の手で、手拭きを取り出し、一刀君の鼻から零れている赤いものを拭き取ってあげます。

そして、にっこりと笑みを浮かべながら、

 

「さて一刀君、一つ確認したいのですが」

「一刀さんは、どっちの裸を見て鼻血を出したんですか?」

「いや、今のは油断していたというか……」

 

ふ~~ん、………油断ですか、

ますます聞き捨てなりませんね。

この際、一刀君の好みをはっきり知りたいです。

だから、

 

「美羽ちゃんにですか?」

「それとも七乃にですか?」

「な・何でそう言う事に・」

「「どっち、なんですかっ!?」」

 

 

 

 

 

 

「か・かんべんしてくれぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ」

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第75話 ~ 悩みに舞う花の想いに、刃はひたすら己を律する ~を此処にお送りしました。

 

今回は、美羽を除くあの屋敷に住む乙女達の視点で書いてみました。

今回一番悩んだのが、七乃視点です。

何からしく無い様な、らしくあるような感じが抜けないです。

やはり、萌将伝をやっていないのが効いているのか(違w

まぁ今回は、種蒔きと繋ぎみたいな話なので、あまり気にせずにいて下さると助かります。

その分、次回は力入れます m(_ _)m

なにせ………それは、次回のお楽しみと言う事で♪

 

FALANDIA様が、この外史の一刀を書いてくださいましたので、ぜひ皆様見てください。

かっこ良いですよぉ♪

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
175
17

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択