No.165428

とある科学の幻曲奏者~シンフォニスト~

ゆーたんさん

総人口230万人の8割が学生の学園都市。そこでは学生全員を対象にした超能力開発実験が行われており、全ての学生はレベル0(無能力者)からレベル5(超能力者)の6段階に分けられた、超能力が科学的に証明された世界。その学園都市のとある学校兼研究機関にて、AIM拡散力場を刺激・反応変化させる能力者が現れた。三橋エレナ・・それが彼女の名前である。彼女の担当者の死、逃げ出した彼女が出会ったのは一人の無能力者だった。

調子に乗って2作品目(汗)
第1巻(笑)

2010-08-13 09:54:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:906   閲覧ユーザー数:866

S1 襲撃の夜

 

 

総人口230万人の8割が学生の学園都市。そこでは学生全員を対象にした超能力開発実験が行われており、全ての学生はレベル0(無能力者)からレベル5(超能力者)の6段階に分けられ、様々な能力を開花させている。超能力が科学的に証明された世界。科学力が外界の十数年以上も先に進んでおり、強固な外壁と防備力によって外界から隔離されている。

 

23に分けられた学区と呼ばれる区画。ある学区のはずれに、スキルアウトと呼ばれる不良たちがたまりばとしている場所がある。いつもは仲間でにぎわうこの空間も今日で終わりになった。電気の通っていないこの場所は、ドラム缶に可燃物をいれその炎が唯一の明かり。いつもはその周りを囲うように集い、話したり騒いだり・・ただ今日に限って光景が違った。

「はぁ・・はぁ・・・」

息を切らしこのままビル群を奥へ奥へと走っている。ドラム缶の火の明かりは完全に届かず、所々は夜空の星や月の明かりも届かない場所もある。

「な、なんだよ」

誰にいうでもない、今起きている事態が彼にとっては信じられない事である。影に潜み自分が走ってきた道の様子を探る。視界はそれほど良くないが、人影や物の判断が出来るくらいの明かりはある。

「っはぁ・・はぁ・・巻いたか・・・」

ふぅっと大きく息を吐き出し、自分が身体を隠している建物の間の細い道を奥へと歩いていく。ここで過ごすようになって数ヶ月。ここらの通りの事は少しは詳しくなっているため、見つからずに元の場所へと戻る事もできる・・と確信していた。しかしその確信は次の瞬間粉々に崩れ去る事にある。

 

カシャンカシャン

 

「ひっ」

金属音が聞こえてくる。それは今自分が向かおうとしていた奥から、こちらへと近づいてくるように徐々に大きくなる。

「な・・なんだ・・・なんなんだよ」

その後彼が声を出すことはなかった。

 

「これで3件目ですわね」

第7学区にある第一七七支部で、ツインテールの少女はweb上のニュースを見てつぶやく。それを後ろから造花の髪飾りをつけた少女が覗き込む。

「うわ、ここの学区に近くじゃないですか」

「初春、もしかしたらこの学区でも起こるかも知れませんわよ」

「ええ怖い事言わないでくださいよ、白井さん」

ツインテールの少女、白井黒子(しらい くろこ)。志願した学生より選抜された、学園都市の治安維持機関『風紀委員(ジャッジメント)』の第一七七支部にて活動している彼女は、造花の花飾りをつけた初春(ういはる) 飾利(かざり)をパートナーとし共に活動している。生徒の能力レベルを問わず風紀委員になる事も可能であるが、白井 黒子はレベル4の空間移動能力(テレポート)の使い手で、同等の能力を持つものは数少ない。初春 飾利はレベルは1と低いものの、彼女は特殊なスキルとして超一流のハッカーでもある。彼女の情報収集および伝達能力の高さでバックアップはおろか、一部では密かに恐れられている。

そんな彼女らが見ているのは1つのニュース。スキルアウトと呼ばれる、能力開発に行き詰まり学校へ行かなくなった不良たちが、襲撃されるという事件が最近世間を騒がせている。不思議な事は現場それぞれで外傷が違うと言うことであり、刃で切り付けられた者もいればひどい火傷を負っている者もいる。

「それにしても不思議なのは、外傷もなく絶命している被害者もいるみたいですわ」

「謎が謎を呼ぶ・・・これ・・佐天さんが好きそうな話題じゃないですか」

「ほんとですわね」

その人物を思い描き黒子は笑っていると、勢いよく事務所のドアが開けられる。

「こんにはー。初春いますかー?」

「あら、噂をすれば」

「いらっしゃい佐天さん」

そう言って初春は入り口で出迎える。

佐天(さてん) 涙子(るいこ)、自他共に認める初春の親友。長い黒髪に、白梅の花飾りをつけている少女。年の割りに黒子や初春より発育が良く将来が楽しみに思わせてくれる。レベル0ではあるが非常に行動力がある。風紀委員ではないがちょくちょく遊びに来ている。

 

バサァ

 

ひらひらと制服のスカートがめくられる。本日は学校後のため初春は制服のセーラー服に身包む。初春と涙子の通う柵川中学の制服はセーラー服でスカートは紺色、涙子は一度自宅に戻ったらしく、ディアード仕様のキャミソールにジーンズといった格好をしている。一方黒子の学校は23に区分けされた学区の第7学区にある世界有数のお嬢様学校、常盤台中学に通っている。規則が厳しく外出にも制服着用と、私服は寮の室内くらいでしか着る事はない。常盤台は学園都市ないでも5本の指に入る私立の名門校で、レベル3以上でなければ、どんな令嬢でもお姫様でも入れないほど入学には厳しい条件がある。もちろん英才教育な学校なため、全員頭が良いのは言うまでもない。

 

めくられたスカートを慌てておさえ、顔を真っ赤にしながら涙子に抗議する。

「な、何してるんですか!めくらないでくださいよ、佐天さん」

顔を真っ赤にしながら佐天に対してわめく。はいはい、といつものように悪気のない涙子。その様子を見ながら黒子は微笑む。

「し、白井さんも笑ってないで何か言って下さいよ」

「仲良しですこと。私もやってみようかしら?」

「あ、それいいですね」

楽しそうに両手をパチンと会わせ、黒子といたずらを企むにやりとした笑みを浮かべ、初春を見る。

「あら、楽しそうね」

いつのまにかドアからセミロングのヘアースタイルにメガネをかけ、制服の上からでもわかるプロポーションの持ち主の女性が自分の席らしいところへ荷物を置いた。

「固法さんもめくってみます?初春の」

「わー、わー。何言ってるんですか佐天さん」

「あ、あはは。私は遠慮しておくわ」

少しだけ引きつった笑いをしながら、いつものように冷蔵庫からムサシノというメーカーの牛乳をコップに注ぐ。

固法(このり) 美偉(みい)は黒子と初春の先輩にあたり、黒子に至っては新人研修の担当者ということから、頭が上がらない。レベル3の能力者であり透視系能力(クレアボイアンス)の使い手であり、犯人の隠し持つ武器を発見したり、建物や道路の死角なども透視できる。なかなかブランド品にミーハーだが、頼れる切れ者である。

「そうえいば固法先輩はこの事件、ご存知で?」

「ああ、最近いろいろ取り上げられてるわね」

そう言って固法はコップの牛乳をグイっと喉へ流し込む。小さくプハァと聞こえたが三人はあえてツッコまない事にした。

 

プルルルル

 

「はい、こちら風紀委員第一七七支部白井です」

事務所の机に置いてある白い電話を黒子が取る。

「はい・・・はい・・・わかりました」

そういって静かに受話器を置く。

「白井さん?どうかしました?」

白井は風紀委員の盾のマークが入った腕章をつけながら、

「また被害者が出たみたいですの。行きますわよ初春」

「あ、待ってくださいよー。白井さーん」

そう言って二人が事務所から飛び出していく。

「いってらっしゃーい」

そう言って涙子は元気良く送り出した。

 

現場についた時には救急車や警備員(アンチスキル)と呼ばれる学園都市の教師および大人達による風紀委員と並ぶ治安維持機関。学生中心のため、危険および重要な任務につかされない風紀委員と違い、そういった任務を負かされる機関である。すでに警備員によって現場検証等開始されており、周囲の人だかりも的確な対応によって流れていく。黒子は警備員に状況を確認すると今回の被害者は一人だけ。通報者の証言では女の子をナンパしていたところ、突然わめきだししばらくして絶命、当のナンパされた女のは気づいたらいなくなっていたらしいとの事。

「ついにこの学区にも着ましたのね・・・」

黒子は足取りのつかめぬこの事件に、不安を抱いていた。

S2 手がかり

 

 

「くーろこ」

不意に美琴が後ろから抱き着いてくる。耳元にわざと掛かるように、息を吹きかける。

「あぁぁん、お姉様。いったいどうしたんですの?」

「べ・つ・に」

人差し指で黒子のボディラインをゆっくりなぞりつつ、甘くささやく様に黒子の耳を蹂躙する。

(お、おおおお姉様。これはもしかして・・もしかして・・ついに、やっとわたくしの愛を受けとめてくださるのですね・・・。黒子は・・・黒子は・・・)

「どうしたの?早くこっちへきなさい」

いつの間にか真っ白なベッドの上に横たわりながら、自分の横のスペースに誘うように手でベットをぽんぽんと叩く。

「お姉様・・黒子は、黒子は・・・すべてを差し上げますわー」

黒子は美琴の隣へとダイブした。

 

 

「うぅん、あぁ」

ギシギシギシギシ

深夜の室内にベットのスプリングが激しくきしむ音が響く。

「おーねっさまー。激しすぎますのぉん、あぁぁあぁぁひぃ」

「うっさいわー」

 

ゴン

 

鈍い音と共に黒子は目を覚ました。

「あ・・あら」

激痛の走る頭をさすりながら隣のベットを見る。

「ゆ・・・夢でしたのね」

そして再び眠りについた。

 

「あーっもう。あんたのせいで遅刻じゃない」

翌朝、二人はすっかり寝坊した。

「そういうお姉様こそ、ぐっすりお休みでしわよ」

「それは」

いつもの他愛の無いやり取りをしながら、急いで寮を出発した。

 

 

 

 

 

三回目のスキルアウト襲撃事件を知ったのは、初春からのメールだった。下校後すぐに第一七七支部へ向かった黒子は、着くと同時に三回目の詳細な情報を確認する。固法はじかに現場にて手信号で交通整理を行っており、現場の状況も警備員から直接聞いていた。今回襲撃されたのは全部で5人であり、体は切り刻まれていた。しかしどれも致命的な傷跡は無く、全員がすべてショック死というのが最終的な死因らしい。

「いずれも犯行は夜で・・・犯人の断定は難航しそうですわね」

「ふっふっふ」

両手に腰をあて得意げに初春は笑い出した。いつもとは違う雰囲気に黒子は若干押されぎみに上体をそらす。

「見てください・・これですこれ」

そういって初春がしめしたのはとあるweb掲示板であった。

「XYZ?」

「はて?どこかで聞いたような名前ですわね」

「あ、あわわわ。こっちですこっち」

顔をまっかにさせ慌てて別のウィンドウを表示させる。初春の慌てぶりに追求したかった二人だが、とりあえずそれは置いておく事で同意した。一瞬のアイコンタクトである。

「断罪人(エクスキューショナー)?」

「断罪人とはまた・・・」

「ここの掲示板で断罪人・・・正式には執行人ていうのに依頼の書き込みをすると、本当に依頼を請け負ってくれるみたいです」

いろいろリンク先を確認して見るも、依頼を請け負う事とそれに対しての規約等の細かいページが数ページある存在している。

「ただ・・」

黒子が掲示板のページを再度表示させる。

「書き込みの日付・・・2年前で止まってますわね」

「ほんとだ・・・良く気づきましたね白井さん。私見落としてました」

初春はそのページをくまなく確認し出す。そしてある事に気づいた。

「このページ、掲示板ぽいですけどただのページです。書き込みの機能ないみたいです」

「どういうことですの?」

「わかりません。なにかあるのかもしれません・・・ソースにすごいフェイクが混ざってて・・・」

黒子を凌駕する速度で処理を開始する。フェイクと行った余分な文字と記号を徐々に取り除いていく。

「なにがあるのかしら」

固法は険しい顔をして思考をめぐらす。

「それはきっと初春が証明してくれますわ」

そういってPCのモニタを除くと、先ほどごちゃごちゃしていたソースがきれいに露呈してきている。

「わかりました。ここに・・隠しリンクが・・」

クリックするとメールの送信画面が表示された。文面の部分には、テンプレートのように記入項目が表示されている。

「これで足取りがつかめるかもしれませんね」

「でも危険ね。ここを警備員に情報提供しておいたほうがいいかも」

「そ、そうですね。では提供するためのデータをまとめておきます」

「お願いね。私の方でも一度連絡をしておくわ」

「それでは私は、警邏に行ってまいりますわ」

「白井さん、無理したらだめよ。何かあったら私たちか警備員に連絡を」

わかりました、と頷いて黒子は支部から出て行った。

 

 

 

 

 

「ま、まってくれよ」

壁際に追い詰められた青年は目の前の存在に懇願する。掌を向け敵意が無い事を相手にジェスチャーする。ただ青年の面前には闇が広がっており、青年が立っているいちにある外灯は青年を明るく照らしだすため、余計にまわりの闇が濃く感じる。

「ハープはどこ?」

正面からの声に青年は答える、知らない、と。

「ハープを渡せ」

別方向からの声に慌てて、そのほうへ向く。しかし闇が深いためなにがいるのか全く見えない。

「ほ、ほんとだ。ほんとに知らない。ハープなんて知らない」

がくがくと震えだす足だが、壁に背中をあずけなんとか立つ事を保っている。

「隠すとためにならない」

「ま、あなたももう用済み。知らないなら消えて」

「う、噂はほんとだったのか・・・。あんたらがアンサンブルマイスター」

「あなたのようなクズに覚えていただいてるなんて、光栄ね」

「四人の幻曲奏者(シンフォニスト)」

その言葉を最後に彼は、翌朝通行人の通報により発見される事となる。

 

ピリリリ

 

鳴り出した携帯の通話ボタンを押す。

「はい・・はい・・・わかりました」

短い通話を終え絶命した彼をその場に残し、この場を後にした。

「先生からの連絡。ハープはこの男が持っている」

先生と呼ばれた電話の主。携帯に目標の男の写真が転送されて来る。

サイドは黒髪で短髪のように短く、上は金髪というより茶系に近い色をしておりショートより少し短めの長さの髪を横に流している。全員の端末にてこれを確認し闇の中へ消えていく。かすかな旋律を残して。

S3 二人

 

 

「風紀委員(ジャッジメント)ですの」

そういって黒子は腕章を見せ名乗りを上げる。現場に到着したときは、伸された不良数名と鬼気とした男が1名。その男は息も乱しておらず伸された不良が呻きを漏らす。男はゆっくりと振り向き、腕章を見た瞬間げっと聞こえるような表情で硬直した。

「最上(もがみ)さん、おまた・・せ・・」

その彼に右手に少し高級そうな、しかしよく使い込まれている鞄をもって走りよってくる少女は、最上と呼んだ男の固まった表情を見て声を押し殺すように震え始める。

「ぷぷ・・・ぷくく」

「エレナ笑うなよ」

切なそうな表情で笑いをこらえている少女へ言った。明るい茶色のセミロングの髪に、巻き髪のパーマを当てられているうえに、顔立ちは上品でどこかのお嬢様ともいえそうな雰囲気をかもし出している。

「だって・・その表情」

笑われている彼は、横は黒髪短髪で、上は金髪というより茶系に近い色をしている。下がってきた前髪をかきあげる。そんなに長くないため、かきあげてもすぐにさがってしまうのだが。

「え・・っと・・・通報にあった暴漢は、伸びているこの方達ですわね」

ひくひくと地面に伏している彼らに目を配らせる。やれやれと思い一つため息をつく。

「エレナ・・・」

「はい?」

「走るぞ」

「ええ?ちょっと」

そういって走り出した最上の後ろを追う様にエレナも走り出した。

「ちょっと、おまちなさいな・・って。この方達の処理をしませんとですわね」

携帯を取り出し警備員(アンチスキル)へ連絡した。

 

 

 

 

 

「あいつ、派手にやりすぎじゃん」

黒子からの連絡で小隊で現場に駆けつけた警備員(アンチスキル)の隊長格を担っている、黄泉川(よみかわ) 愛穂(あいほ)は呆れたように言った。紺色のお尻まで届くほどの特徴あるロングヘアを後ろで一つに縛っており、抜群のプロポーションをもっているが、今はそのラインが武装した警備員の服装に隠れてしまっている。現場にて隊員に的確に支持しつつ、頭をかきながら書類に状況を記載していく。

「あの~」

黒子の呼びかけに書いている手を止めて、黒子の方へ顔を向ける。

「ん?ああ、ご苦労だったじゃん。あとはこっちでやるから、もう帰っていいじゃん」

そう言って書類に視線を戻すも、黒子の再度の呼びかけに今度は書類に書くのをとめない。

「ん~どうしたじゃん?」

「例の男性について何かご存知ですの?」

「ん?ああ、最上の事か?あいつはヤンチャだからな。警備員で知らないやつはいないじゃん」

「え・・えと・・いったい・・・」

ますます謎が増した返答にトーンがさがる。

「お前んとこの花飾りに、バンクで見てもらえじゃん。名前は最上(もがみ) 天成(てんせい)。これがやつの名前じゃん」

メガネをかけた女性の警備員に呼ばれ、現場の最終確認し警備員の専用車両へ乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「白井さんでましたよ」

こっそりと初春のハッキング能力でバンクのデータへアクセスする。

「ありがとう初春・・最上天成・・レベル0」

レベル0・・無能力者と言うことは別段学園都市では普通で、学生の約6割は無能力者である。黒子が気になったのは別の欄内の情報。

「風紀委員(ジャッジメント)ですのね・・・第171支部所属」

「白井さん、この人がどうしたんですか」

「ええ、この間の暴漢を」

「あら?またバンクデータみてるのね」

そう言って牛乳を入れたコップを片手に、固法が覗き込んでくる。

「あ、最上君じゃない。またなんかやったの?」

「また?固法先輩ご存知なんですの?」

固法は少し笑いながら一口牛乳を飲む。

「彼、昔に知り合ったのよ」

「それって」

白井は少し言いづらそうに固法から視線をはずす。

「ええ、私がやんちゃだったときね。先輩もね、彼の事は認めてたのよね。でも結局、彼はいつの間にか風紀委員になっててね」

何かを思い出したように固法は、ぷっと声を漏らす。

「彼が風紀委員になった理由がね、先輩も含めて合法的にケンカするためだって」

「はい?」

「単純でしょ。でも最近はまじめに風紀委員の仕事してるって聞いたけど」

そういって固法は上に視線を上げながら下唇に人差し指を当てている。

「私はてっきり、スキルアウトかと思いましたわ」

「たしかに、彼もなじみのメンバーはまだいるようだけど・・・」

「そういえば、一緒にいた少女・・どこかで・・・」

そう言って黒子はもう一度初春とバンクを検索し始めた。

S4 天成さん

 

 

「三橋(みつはし)エレナ。讃陽音楽学校中等部3年・・・感応系能力者レベル3」

翌日、黒子は初春に頼んで現場にいたもう一人の人物、エレナという名前からバンクデータを抽出させ、顔を覚えているため意外と早く発見できた。

「白井さん、この人なんですか?」

「ええ。たしかに現場にいたのはこの方ですわ」

黒子はバンクの写真を再度確認する。明るい茶色のセミロングの髪、少し巻き髪なのがお嬢様みたいな雰囲気を醸し出している。

「この方、捜索願がでてましたわね」

「えーとこれですね」

すぐさま別のウィンドウにデータを表示する。

「たしかに四矢峪学園から提出された捜索依頼ですわね。えーと捜索依頼が出されたのは」

「2週間くらい前みたいですね

「2週間?」

黒子はその言葉になにか引っかかりを覚えた。

「それって」

「どうかしましたか?白井さん」

「初春、すぐさま襲撃事件の過去のデータを」

「はい。これです」

「やっぱりですの」

過去のデータを確認して行く。すべての日付を確認し、黒子はある仮説へたどり着く。

「この方の捜索依頼が2週間前。スキルアウト襲撃事件も2週間前。何か裏があると思いますの」

「調べて見る価値はありそうですね」

そう言って初春は再びパソコンの方へ向きなおした。

 

 

 

 

「すー・・・すー・・・」

教室の机に突っ伏して、規則正しい寝息を立てて気持ちよさそうにしている。窓際の席、それが彼の勝ち取った王者の席・・・と彼自身は思っているのだが。

「最上・・おきろぉ」

これが授業中でなければいいのだが。

「すー・・・すー・・・」

教師の言葉が聞こえてないのか、かまわず彼は夢の中へ。

割と温厚なのだが居眠りの生徒に対して、必殺技をもつこの教師の授業では、居眠りの生徒が極端に少ないのだが、彼はその中に漏れ居眠りが出来る存在である。

「覚悟しろ・・・」

教師は持っていたチョークを親指で上にはじき上げる。クルクルと回転し落下するチョークに狙いを定める。ピリピリとしたオーラを醸し出しつつ、狙いを天成へつける。

(で・・でるぞ・・・)

教室の生徒の思考がリンクする。

「超白墨砲(チョークガン)」

スパン、と気持ちのいい音と共にチョークがまっすぐ天成の頭めがけて飛んでいく。教師の脳内では、そのチョークは音速の壁を声まるで超電磁砲(レールガン)のように見えている。鈍い音と共に直撃したチョークはその威力を、すべて天成の頭に伝え床に落下する。

「っっつ」

あまりの激痛にその部分を急いでさする天成の目には、涙がうっすら浮かんでいた。しばらくさすっていた天成は、チョークを拾いゆらりと席を立つ。そのままふらふらとしながら教師のほうへ歩き始めた。教室の誰もが言葉を失い彼の動向を見つめる。そして彼は教師の前に立ち鋭い眼光で睨みつける。

「これを解いてみろ」

その眼光に臆する事無く教師は黒板を軽く叩く。眼光の先を黒板に書かれている問題へ向ける。暫く硬直したのち、拾ったチョークで答えを書き始める。そして書き終えた天成はそのチョークを教師へ渡し、自分の席へと戻った。

「最上、お前できるのに居眠りばかりだから、成績3しかだせないのだよ。もっとしっかりしてくれよ」

「へーい・・・」

そういってまた彼は机に突っ伏した。

「最上~」

教師の泣きそうな声が聞こえたが無視することにした。

この授業が今日最後の授業の為、気づいたときにはHRが終了していた。最上に近づいた担任は、持っていた名簿で頭を軽く叩く。

「最上、おまえもうちょっと授業態度なんとかならないか?」

成績は非常に優秀で風紀委員としても、割とまじめにこなしている。ただこのままではいい大学が紹介できないぞと2年になった時からさんざ言い続けていた。

「そんな事いっても住谷ちゃん、警邏で眠いんだよ」

このクラスの担任、住谷(すみや)久英(ひさひで)をちゃん付けで呼ぶのは天成だけである。

「わかってるがな・・・とりあえず学校側としては襲撃事件が多いから早く帰宅すること。あまり無理はしないでくれよ」

「わーってるって」

住谷は1年の時も担任であり、いろいろ面倒をかけているので心の中では頭があがらない。

(すでに巻き込まれてる・・・なーんていえないな)

そう思いながら取り出した携帯にメールが1通受信していた。

「エレナ・・・あいつ」

鞄を持ち急いで校門へ向かった。

 

「あ、天成さん」

男子がチラチラと見たり様子を伺っていたが、天成のツレとわかるとそそくさと散っていった。

「お前・・立場わかってるか?」

「わかってますよ。天成さんに守ってもらうお姫様です」

「いや確かにそうだが・・」

時々論点や答えがずれた事を言い出すエレナに、半ばあきれつつ、「まあいっか」と伝えた。

「俺の部屋からここまで来るまでに、つけられたりは?」

「大丈夫だと思います。声をかけて来た男の人はいましたが」

「どんなやつ?」

「学生さんですね。遊ぼうとかお茶がどうとか言ってました」

それを聞いて天成は安心した。ただのナンパだったからだ。現在の彼らはナンパくらいかわいいものと思えるくらい、なんかに巻き込まれていた。それは彼女を助けたあの日から始まった。

S5 幻曲奏者(シンフォニスト)

 

 

パチパチパチ、とホールに響く拍手喝采。その拍手はステージ上にいる一人の少女へ向けられている。少女は拍手を送る観客一人一人を見るように、ゆっくりと顔全体を動かす。

 

学園都市にはさまざまな教育機関や研究所があるが、その中で讃陽音楽学校と呼ばれる音楽に優れたものが迎え入れられる学校がある。中学高校大学とエスカレータ式が特徴で、音楽に優れていれば能力レベルに限らず、入学できるのが特徴だ。そして特に学校側で優秀と認められた数名は、個別に担当が専属でつき1教室が与えられる。別名特進クラスというのがある。

 

その特進クラスの一人がこの少女、三橋エレナであった。

 

明るい茶色の髪がライトアップされより明るく見える。うっすらと汗を浮かべている彼女は、一礼をして袖に下がった。

「エレナお疲れ様」

ピシっとスーツをきた女性が出迎えた。セミロングのストレートの青髪にメガネが印象的名女性。目元はやさしく彼女に微笑まれると、エレナ自身もとても嬉しく感じている。

「先生、どうでしたか?」

「久々に大きなホールだから緊張してたわね。最初の方、音が上づいてたわ・・・でも誤差の範囲よ」

そういって優しく微笑み優しく抱き締める。

「今日は学園都市内の生徒さんばかりだけど、この間講師に行った常盤台中学の生徒さん達もいたから緊張したのかしら?」

「はい、私が受け持った方たちがいたので・・でも次こそは」

「ふふ、そうね。でも今日は早く寝なさい。明日は能力の方のチェックをするから」

「わかりました」

控え室に戻ってきた二人は、帰り支度を始める。エレナは衣装を着替え学校の制服に着替える。キャメル色のブレザーにホワイトのブラウス、ネイビーブルーのチェックのスカートが讃陽音楽学校指定の制服。先生と呼ばれた女性はエレナが使った楽器をケースにしまう。その後は控え室にきた関係者各位に挨拶をし、関係者口の方へ向かった。関係者口の扉を開けると車がすでに待機しており、エレナは手前のドアから後部座席へ乗り、先生は反対側のドアから後部座席へ乗り込んだ。そしてゆっくりと車が走り出し、会場を後にした。

 

 

 

 

「先生」

「どうしたの?」

「私の力って・・・なんなのかな?」

エレナは俯きながら質問する。そんなエレナの頭に手を回し自分の方へ引き寄せる。

「どうしたの?自分の力が怖い?」

「うん・・・」

「大丈夫よ。きちんと能力を把握すれば大丈夫」

そういっていっそう抱きしめる力を強める。

「できれば使いたくない。今日の演奏のように、誰もを癒すために使いたい」

「そうよ。エレナの力は癒すためよ。あれは・・・守るために使いなさい。大切な人を・・・」

そういってエレナの目を見つめる。

「あれは大切な人を守るためのモノ・・・あんな使い方は」

そういって視線をエレナからはずし、悔やむような表情を浮かべた。

「せ、先生?」

直後、キキーというタイヤ音と共に体が前に押される。先生はエレナをかばうように、前方を確認する。急停止した車のヘッドライトの先に、人の足が確認できる。運転手もあまりの事に驚いているらしく、体が強張っている。オートマのギアをPにいれ、降りるためにドアの部に手を添える。

 

ガシャーン

 

運転席のガラスが破られ、窓から運転手が引きずりおろされる。

「いや・・」

あまりの出来事に、エレナは震えだす。

「エレナ・・・大丈夫よ」

そういって優しく背中をなでる。徐々に震えのとれてきたエレナは、先生の顔を見る。いつもどおりの優しい微笑みが向けられていた。

「私が先に降りるから、合図するまで待ってて」

そう言って先生は後部座席のドアを勢い良く開ける。ドアの前にいたものを弾き飛ばし、周囲を確認する。

「香奈(かな)先生」

車内のでエレナは叫ぶが、香奈は反応する事無く周囲を見回す。

(狙いはエレナか・・・)

そういって間合いをとりながら、数名の黒服の男が香奈の周りを囲む。

「作磨の差し金・・・って答えないわよね」

言い終わると同時に足の裏から爆発てきな加速を生み出し、黒服達へ攻撃を仕掛ける。エレナの担任を務める香奈は、不足の事態に対応できるよう護身術を身につけ、さらにレベル3の能力者でもあった。

「ったく」

香奈の能力は衝撃(インパクト)を生み出す能力で、手や足、肩等の体の一部から発することができる。普通の打撃に衝撃の威力も合わせられる、接近戦特化の能力を有している。

黒服の男達は無能力者なのだが、それでも体術や格闘術には覚えのあるもの達なのだが、能力をプラスした香奈の前に次々に、倒されていく。

「エレナ」

その叫びと共にエレナは車から飛び出し香奈の後ろへまわる。

「エレナ・・そのまま後ろへ」

「はい」

背後にも気にしつつ、徐々に後退を始める。黒服も一定の間合いを保ちつつ。前進する。

「もういい・・私たちがやる」

そう言って黒服達を横にどかせて、声の主が姿を見せる。

「やっぱり作磨んとこの・・・」

黒服をどかせ出現れたのは四人の少女。黒服は少女たちの後方へと姿を下げる。

「あなたは、計画に対し著しく遅れをとっている。用済みです」

そう言って四人はそれぞれ構えをとる。

「ヴァイオリニスト・・・・」

そう言って警戒をよりいっそう強める。構えをとる少女達は、楽器を手にしてないのだが、香奈もエレナも表情は強張っている。

「せ、先生」

「大丈夫よ・・・エレナ。あなただけは」

「え・・先生」

「恐怖につぶされてしまえ」

少女立ちはヴァイオリンを弾くように右手を動かし、弦を押さえるように左手の指を動かす。何も無いその場から、徐々にかすかに音色が聞こえだす。徐々に音が大きくなっていく。

「う・・」

「うう」

徐々に頭の中で音が大きくなる。

「く・・・あ・・あああ・・・いやあああ」

香奈は頭を押さえ、悲鳴をあげ地面に膝をつく。

「せ・・先生」

エレナは持っていたケースを下に置き、何も無い状態で構えをとる。左右の手と指を動かしエレナも音を奏で始める。

「エ・・レナ」

緩やかで穏やかな音。すべてに癒しを与えるような温かみのある音色を奏でる。

「先生」

少女たちとエレナの音がぶつかり、音と音が相殺して行く。少女たちの手の動きはAIM拡散力場を刺激し、その振動が鼓膜を伝わり音色のように聞こえる。刺激を受けた拡散力場は、徐々に反応変化して行く。エレナの手の動きにハープのような形に反応変化する。少女たちの手元には、ヴァイオリンのような形に反応変化する。

「くっ」

AIM拡散力場を刺激するときに発生する振動がぶつかる。お互いの集中力、演奏力すべてをぶつけていく。

「めざわりね。・・・これで終わりにしてあげる」

四人の少女達は曲調を変える。先ほどよりも強烈に拡散力場を刺激する。刺激された力場は形状を形成し、質量を生み出し反応変化する。少女たちの前には、黒いフードをかぶり、大きな鎌を手に持つ骸骨の顔を持つそれが現れる。

「私の幻曲(シンフォニー)・・・死神、いや断罪者(エクスキューショナー)」

カシャンという音と同時に、それが地面に降り立つ。本来この世に在らざる姿を持つモノが赤い眼光を光らせがエレナと香奈をその視界に捉えた。

S6 鬼神

 

 

「エレナ」

叫んだ香奈はエレナを抱きしめ後方へ飛び込む。

ヒュン、という風を切る音と共に、先ほど二人がいた地面に一筋の傷が刻まれた。振りぬいた鎌を肩に掛け、カシャンという音と共に二人のほうへ近づく。

「ハープをこちらへ」

ソレを発生させるまでは、激しく刺激させるため奏でていたが今はゆっくりと演奏をしている。そして少女達の指の動きにあわせ、断罪者が動きだす。

「エレナ逃げて・・・」

「でも先生」

涙を流しながら香奈の手を強く握り締める。こんな状況でもいつもと変わらず、エレナへ笑顔を向ける。

「今捕まったら・・またあんな事を」

言いかけてエレナを突き飛ばす。その瞬間振り拭かれた鎌の先端が、香奈の胴体を貫く。

「ぐぶっ」

胃から逆流した血が口から滴り落ちる。

「に・・げ・・・」

ごみを払うように鎌から香奈を放り投げる。ドサ、という音と共に香奈は横たわる。そのまま動かないまま、道路には赤い液が染み込んでいく。

「せんせぇ!!」

悲痛の叫びも、香奈は応えない。

「ハープを確保しろ」

「いやぁ・・先生。いやああああ」

 

 

 

 

「ったく」

そうぼやきながら金色に近い茶髪の頭をかく。サイドは黒髪の短髪という奇抜な髪型の彼はぶつくさと街を歩いていた。あたりはすっかり夕暮れ・・よりも少し日が傾いており、紺色の空が橙の空を飲み込もうとしていた。彼は第171支部の風紀委員(ジャッジメント)なのだが、今もだが昔からやんちゃでありその時の知り合いの店で、スキルアウトと呼ばれる不良が暴れていると連絡があったのでやってきた。管轄外の地域だが、晩飯をごちそうするという報酬に乗せられ撃退していた。

「まぁ、ハンバーグがうまかったからいっか」

下校時刻を越えているため、買い物をしている学生達の姿が多い。カップルや4人組の少女達が和気藹々と楽しそうに会話している。

「もう、お姉様ったら。その話は」

「えーいいじゃないのよ」

「でもでも素敵な話じゃないですか。白井さん」

「そーですよ。それにその話を仁科さんに聞かせてあげられたら」

「あななのあなななあの」

そんな会話を聞き流しつつ、携帯を開く。

 

メール会員になっているスーパーのメールマガジンが届いていた。

「お、今日のお買い得か」

今日の献立を考えつつ、彼はスーパーへと向かうことにした。しかしその直後携帯がタイミング悪くなった。着信元は第171支部。

「はいこちら、最上です」

「最上さん、今通報があって女性が暴行されそうらしいと」

「場所は・・・わかった。警備員には連絡しておけよ」

そういって電話を切り、最上天成は現場へ急いだ。現場付近へ来る頃にはすっかり当たりは暗かった。空は紺に染まり山の淵に最後の橙を残している。「いやー」という声の後に、前方から走ってくる人影が1つ・・・そしてそれを追う影が4つ見える。

「ふぅ。愛車があればもっと早かったか」

オイル交換の為にバイクを預けている為、ここまで走って来ていた。軽く息を整えながらぼやきつつ、人影のほうへ向かう。

「きゃっ」

躓いた拍子に、彼女は地面に倒れこんだ。それでも必死に逃げようともがくが、膝を強く打ったのか右足を引きずっている。自分を追ってきた黒服達をみながら、左足と手で後ずさる。追い詰められた彼女の背中には、ガードレールが彼女の退路を断った。

「おい、風紀委員(ジャッジメント)だ」

そういって天成は右腕につけた風紀委員の腕章を見せる。黒服達の視線が一斉に天成のほうへ顔を向ける。

「うわ~。コテコテな展開に、俺は胸を高鳴らせちゃうなぁ」

そういって追われていた少女を見る。大切そうにケースを抱きしめ、おびえた様な表情で天成と黒服を見ている。少女の着ている制服は赤い染みが付着しているのが確認できた。なんとなくやばそうだと事態を把握し、彼女のほうへ歩み寄る。それを遮るように黒服達が前へ出てくる。

「あー、あんたらさ・・・警備員(アンチスキル)がくるからおとなしくしてくんない?」

やれやれといった表情で、めんどくさそうに黒服を見る天成だったが、彼らのサングラス越しの表情からにじみ出る殺気をひしひしと肌で感じていた。

「ほら」

くいくいっと指でかかってこいと合図する。風紀委員だがまだ学生の彼の挑発に、露骨に感情を爆発させる黒服はいなかったのだが、それをきっかけに彼を囲うように間合いを取る。少女から意識が外れたことを確認し、天成は肩の力を抜く。自然体のまま周囲の感覚を研ぎ澄ませる。黒服は構えをとりこちらとの間合い、タイミングを計っている。

ゴッ、と鈍い音と共に天成の右拳がし右斜め前の黒服の顔面にめり込む。黒服の間をはずした一撃に、成すすべなく拳を叩き込まれた黒服は、地面に横たわった。

「ほい、一人」

均衡を保った一発で黒服一人は地に倒れた。それで陣形も緊迫の糸もとれたのか、黒服が天成に攻撃を仕掛けてくる。黒服の放たれた右拳を左によけ、そのままがら空きの内臓部分に右拳を打ち込む。打ち込まれた部分を押さえ、倒れる黒服の左からきた黒服が、頭をめがけて左足の蹴りを繰り出す。蹴りが届く前に軸足を払い、仰向けに倒れた所に顔めがけて左拳をつき降ろす。道路を背にしているため、衝撃がそのまま脳を突き抜け、三人目が沈黙する。

「ほら、もうおとなしくしない?」

そういって退屈そうに後頭部をぐしぐしっと触りあくびをした。

「ふぉーふんの?」

その天成の言葉にかぶさる様に、警備員の車のサイレンの音が聞こえてくる。徐々に大きくなっていく音に、黒服は「おぼえてろ」なんてありきたりな台詞を言うでもなくこの場から走り去っていった。

「やれやれ」

その後姿を見送りながら、少女のほうへ体を向けた。

「そーいやな・・・あれ?」

先ほどの少女の姿はなく、周辺を捜しては見たが結局見つからなかった。

 

「ちわー、黄泉川さん」

天成が黒服達を伸した場所から、離れたところに止まった警備員の車のところまで、倒した黒服を引きずってきた。お尻くらいまである長い髪を後ろでまとめた女性、黄泉川は天成の姿をみるなり「またか」といった表情でため息をついた。

「ちょっと、ひどいんじゃない?ほらこいつら」

そういって引きずってきた黒服を地面に寝かせた。

「てかなんかあったの?」

「ああ。女性が一人ここでな・・・」

視線を移すと死体袋が数人で車の中へ運ばれていく。視線を手前に向けると、自分が倒したような黒服の男が数人倒れていた。

「こいつらが?」

「さあな。ほらこの件はあとはうちらがやるじゃん。風紀委員(ジャッジメント)のお前はこれ書いて帰るじゃん」

「はいはい」

そういって手渡されたに書類、駆けつけてからの事を記載し黄泉川に渡した。

「お疲れじゃん。あとはこっちでやるから」

それじゃ、と片手をあげ天成は現場を後にした。バイクがないため歩きで帰宅している天成は、無理言って車で送ってもらえばよかったと少し後悔していた。

 

 

 

 

 

ブオオオオオン

 

車のエンジンが吼える。

(やれやれスキルアウトか?)

そう思って振り向いた先には、一台の車とそのヘッドライトに映し出される人影。何かを感じ急いでそちらに走り出す。人影は左右に走り車から逃げるように走っている。キュッキュタイヤの音をさせながら、後ろの車は前の人影の後ろを追いかけている。

「ちっ」

その人影を抱きとめて車のボンネットを蹴りあげ、車を飛び越える。キュキューとタイヤから煙をだし、車が横滑りしている。

「おまえ」

抱きとめていたのは先ほど追われていた少女だった。会話が出来ないくらい息を乱し天成の腕を強く握る。

「何で追われてんのかねぇ」

ブオオンとアクセルでエンジンを吹かす音。強く握っている彼女の頭を軽く撫でる。その瞬間ふっと手の力が抜けたので、少女をそっと横の歩道に座らせる。

ブオオンブオオンと2度アクセルを踏み、車が吼えている。

「これ預けるからな」

そういって制服の上着を彼女にそっと掛けた。

「車かぁ」

そう言って左半身を前にだし腰を落とす。もっとも力が入る位置に足を開き呼吸を整える。キュルルルと車が急加速時に発生するホイルスピンの音を鳴らし、車が徐々にこちらへ向かってきている。

「女の子を泣かせるやつは・・・」

ふん、という気合と共力をこめる。ぎちぎちとワイシャツが悲鳴をあげ、両腕の筋肉が盛り上がる。ピチピチと音を悲鳴をあげ繊維が伸びていく。ブチという音と共に切れた袖口から、引き締まり筋肉が隆々とした腕が見える。胸や腹筋、体全体の筋肉もそれに呼応するように隆々としていく。彼の体から発せられた気を纏い、彼の存在をより大きくさせる。存在しないはずの風を、間近で見ている彼女は感じていた。彼が発する気が、周囲の空気を巻き込み彼に渦巻くよう吹く。一般的な比率での隆々たる様だが、今の彼女にはとても大きく感じる。それは車にのっている者もソレを感じている。鬼神の如き眼光を光らせ、突進してくる車に拳を突き出す。右足を前に出し左足で踏み込む。

 

ドガン

 

突き出された右と左の拳は、車のフロント部分に衝撃を与えへこませる。まるで壁にでもぶつかったような衝撃を受けた車は、リア部分が跳ね上がり回転するように天成の頭の上のさらに上を飛んでいく。

 

ガシャン

 

という音と共に屋根側から落ちた車はその動きをとめた。

「よぉ、大丈夫か」

そう言って少女の前にかがんだ天成は、彼女へ手を差し出す。

「あなたは?」

「俺は風紀委員(ジャッジメント)の、最上(もがみ)天成(てんせい)だ」

「あたしはエレナ。三橋(みつはし)エレナよ」

エレナは差し出された天成の手にそっと触れた。

S7 お願い

 

 

「んあ~」

大きな欠伸と大きな伸びで、今日一日の開始を体に伝える。しかし頭は正直で体には二度寝の信号を送る。そのまま肌がけに手を伸ばす。

 

むにゅ

 

(むにゅ?)

手の先を見ると自分の横ですやすや眠る少女。その少女の胸に手がジャストフィットしている。

(ふむ・・・Cか・・・)

何度か感触を楽しみつつ触診にてサイズを触測する。

「えっち」

ぼそっと聞こえた声に少女の顔を見ると、眠たそうな目をしながらこちらに視線を向けている。心なしか頬を膨らませている気がしなくもないが・・。

「うわっ起きてたのか」

「それは胸をそんなに揉まれたら、誰でも起きますよ」

そういって1つ欠伸をする。年相応な可愛い欠伸である。

「てかなんで俺の横にいるんだ」

「なんでもです。それでも私の胸を触った事には変わりません。」

「いや・・、まあ・・・すまねぇ」

「いいですよ。これ貸し1つですからね」

そういって微笑む彼女に、天成は「はい」と返事するしかなかった。

「おやっさんと女将さんには報告しないと」

そういった彼女の肩を両手でガシっと掴む。

「な、なにが望みだ」

「そうですねぇ」

そう言って人指し指を下唇に添えて、うーんと唸っている。

「この間のお願い、聞いてくださいね」

そう言って天使のように微笑んだ笑顔は、天成には悪魔の微笑にも見えた。

「この間の・・・ねぇ」

 

 

 

 

 

「あたしはエレナ。三橋(みつはし)エレナよ」

そう言って天成の手握り立ち上がる。ずいぶん汚れているがスカートの辺りを叩き、砂を下に落とす。

「ちょっと待ってな。今警備員(アンチスキル)呼ぶからさ」

携帯を取り出した天成の手を、エレナは掴みそれを拒む。

「だめ!」

そう言って天成に携帯を使わせないように、しっかりと腕に体を抱きつかせる。

「えっと・・・・」

あまりの事に困った反面、発育のいい胸の感触にウキウキしていた。

(なかなか・・・あるな)

そんな事をよそに、エレナは真剣な顔で天成に顔を向けた。その目があまりにも真剣で怯えていて澄んでいて、天成は無意識に見とれていた。

「あの・・ありがとうございました。ほんと・・ごめんなさい」

そういって天成に一礼すると、道路に落としていたケースを拾いいそいそと走り去ってしまった。天成はその後ろ姿を見つめていた。見えなくなってから、思い出したように携帯で警備員(アンチスキル)へ連絡をした。やってきた黄泉川に、ため息といろいろぐちぐち言われたのは言うまでも無い。

 

 

「黄泉川ちゃん・・あんなに言わなくても」

そう言って第7学区にある酒屋の外階段を上って行く。現在は住み込みでここの酒屋の手伝いをしつつ、学校に風紀委員(ジャッジメント)にとこなしている。荒れていた中学時代にここのおやっさんに連れてこられたのがきっかけだった。もともと住み込み用として作られているため、暮らすための環境はすべて整っている。ただ夕飯等は間に合えばおやっさんや女将さんと一緒に食べるため、キッチンはほとんど使った事はない。

「つかれたなぁ・・こんな日は早く寝てっと・・・」

ポケットから鍵を取り出しドアの鍵穴に挿した所で、背後に視線を感じる。ゆっくりと鍵を抜き、すばやく背後へ向き直るとそこには先ほど助けた少女が立っていた。そしてかすかに聞こえる音色。彼女の手の動きに合わせぼんやりと、ハープのようなモノがはっきりと形どられていく。そして彼女の引くハーブから青白い帯が空へ伸びて行く。幾重にも重なったその帯はやがて一つの形を形成していく。

「な・・・」

「天成さん・・これが私の能力です」

幾重に重なった帯が真ん中から左右に開かれる。中から出てきたのは白銀の甲冑に身を包んだ人型のソレ。羽飾りのついた兜は目元まで隠し、さらされた口元や鼻筋は女性らしさを感じさせる。胸元の膨らんだ甲冑から女性と言う事を確信させ、白銀の肩当てと篭手が神々しさをさらに彩る。腰から伸びたスリットの入った膝下の丈のスカート、脛から下を守る白銀のグリーブ。そして腰くらいまでの長さの銀色の細い髪が空中に波を打っている。腰に当てられた鞘にはシンプルな形の柄があり、女性騎士を思わせるソレに・・・エレナの生み出した騎士から目が離せないでいた。

「こ・・れは?」

「円卓の戦乙女(ヴァルキリー・オブ・ジ・ラウンド)」

「戦乙女(ヴァルキリー)・・・」

戦乙女と呼ばれたソレは、天成の前に降り立つ。カシャンという金属がコンクリートに触れた音と共に、天成の目の前にはソレが・・。伸ばされた手が天成の頬に触れる。触れられている・・その感覚はある。だがやはりこの世のモノとは違うような肌触り。ぬくもりも無い、ただそこにあるソレが当たっていると目が認識しているに過ぎない。

「これは学園都市全域に存在する、AIM拡散力場を私の能力で質量を持たせたのです」

「AIM拡散力場?」

たしかそんな言葉をいつぞやの事件の時に、風紀委員と警備員で行った合同会議の時に、どっかのお偉いさんが口にした単語だったが・・・。

「AIM拡散力場とは、能力者が無意識に・・無自覚に発している人間の感覚では感知できない、微弱な力のフィールドみたいなものです」

「それが・・これなのか?」

そう言って戦乙女を上から下まで視線を動かす。

「そうです。いま私の能力・・・それで刺激し反応変化させて質量を持たせています。だから天成さんにも見えますし触る事も出来ます」

「でも・・こんな能力聞いたこと無いぞ」

「そうです。私の通う讃陽音楽学校で、この能力を使えるのはたった数名しかいません」

「だから狙われてたのか」

エレナは頷く。

「この能力の副産物として、拡散力場を刺激した時に発生する振動が、人には音色として認識されます。この音色を使えば幻覚を見せることも出来るんです」

エレナは俯いたまま、手を止める。刺激が無くなった戦乙女は、質量を失い粒子が手足の先から拡散して行く。ただのAIM拡散力場になったそれは、天成の視覚から消えていた。

「私・・音楽が大好きなんです。先生に教わったヴァイオリンも、ハープと呼ばれている私の能力も、音色で人々の喜ぶ顔が見たいんです。だからあんな事・・・もうしたくありません」

そういったエレナの瞳から雫が流れ出る。コンクリートにしみこんだその雫をに気づいた天成は、彼女に歩み寄る。

「だから・・・」

顔を上げたエレナの目から涙があふれ出ている。

「大好きな音楽を守るために・・・・先生の仇を討つために。こんな思いをするのも私で終わりにするために」

そういって天成の胸に額をくっつける。

「私・・・私に、力を貸してください」

そういった彼女は、そのまま体を預けてくる。がくっとなった体を慌てて天成は抱き止める。

「気を・・失っちまったのか」

そういって彼女を背負って、家のドアの鍵を開けた。

 

 

 

 

「嫌だといった・・ら?」

「おやっさーん、女将さーん」

だわわわ、とあわててエレナの口を手で押さえる。苦しいと天成の手をパチパチ叩く。手を離すと、ぷはぁーっと息を吸い込んだ。

「私を殺す気ですか?」

「それより・・脅すのは悪趣味だな」

「いいえ、あくまでも自主的にして欲しいですけれど・・・」

「とんだお嬢様を拾っちまったな」

「先生の・・・影響だもん」

「まぁ関わっちまったからな。何があったのか・・・きちんと聞かせてもおうか」

学校の事、先生の事、初めて会った時の事、それらを話始めたところで、下から二人を呼ぶ女性の声が聞こえた。やれやれ、と苦笑いしエレナに一緒に下の階へ向かった。

S8 目的

 

 

「・・・という感じです」

今日は学校を久々にサボリ、自宅でエレナの話を聞いていた。

あの日香奈が殺された事。それを襲ったのが同じ特別クラスの生徒だと言う事。香奈が言っていた作磨の事。

「その作磨ってやつが、エレナの先生を襲わせたのか」

こくりとエレナは頷いた。あの時の香奈の姿を思い出し、エレナは目に涙をためていた。それを指で掬い天成のへ視線を戻す。

「私を狙うのはきっと・・私が一人で反応変化させることのできる力を持っているからだと思います」

「でもあの時襲った生徒ってのは4人て言ってたよな」

「あの子達は4人揃わないと反応変化させられないと先生は言ってました」

「なるほど。だから一人で反応変化できるお前が欲しかった。だからお前の先生を襲ったって事か」

「たぶん・・。香奈先生は私の能力を使った戦闘訓練は、極力しないようにしてたみたいです


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