No.161274

変わり往くこの世界 8

御尾 樹さん

2010-07-28 08:18:26 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:506   閲覧ユーザー数:486

 セイヴァートの若い騎士達が、隻眼の女王に良い所を見せようとしてるのだろうか。

  各々の武器を持って森からヒュドラを誘い出そうとしている…が。

  「功名心が表に出過ぎていますね…」

 お?俺の心中察したのか相槌を打ちながら、これまた女?みたいな男…?判らないが、

  そいつが隣から声をかけてきた。茶色に肩ぐらいまであるストレートの髪。

  容姿は一言で言えば、エルフみたいに整っているが、耳は流石に長くない。

 どこかで見た…ああ。リフィルについてた4騎士の一人。弓使ってた奴だな。

  どうやら、俺と同じ事を考えているらしく、アルヴァの強過ぎる存在感か逆に

  連携を乱す原因になってそうだと。確かに纏まりがなくなってるな…。

  彼?の方へ向いて頷くと、彼は俺の方へと視線を向けて頭を下げてきた。

 どうやら先程のリフィルへの援護射撃が俺だと判っている様だ。

  礼ならコイツにいってくれと、クロスボウを軽く振ると…少し笑いながらそうですねと。

 うーん、喰えない奴っぽそうだ。おっと…無駄話してる場合じゃないな。

  そのリフィル本人もた無茶してそうだ。残りの3人引き連れてここから近い場所から

  顔を出しているヒュドラを誘い出そうとしている。武器性能的に、似たようなものか

  俺と彼はその位置から、危なそうな奴らを援護射撃している。

 口を開けて喰いかかろうとするヒュドラの目や額目掛けて撃ち、兎に角攻撃を妨害する。

  そして、段々と誘いだされて出てきた数は…20はいないかこれ。

 予想以上に隠れていた様だ。それも纏めて出してきた…セドニー達が大変だぞこりゃ。

  「これはセドニー殿も大変でしょう。私もリフィル様の元に向かいます」

 そういうと、名も知らない弓使いは足早に行ってしまった。

  まぁ、リフィル+あの4人ならヒュドラと戦えるんだろうと踏んでいいか。

 俺はそのまま、危なそうな奴の援護射撃を行いつつ後退していく。

  流石に相手が相手なのか、何人も喰われたり尾撃で弾き飛ばされたり、

  誘い出す間に結構な数の若い騎士達が命を落とす事になる。

 流石に全てを守りきれる筈も無い。それは判っているが、

  このアイシクルフィアの機能をもっと使いこなしていれば、

   死者はかなり減らせたと、後の俺が後悔する事とは露にも思っていなかった。

 多くの死者を出しつつも、セドニー達の待ち構える場所へと誘い出す事に成功し、

  待っていたとばかりにセドニー達が前へ出て、ヒュドラにいくつかに分かれて

  突撃していく。セドニーの方はどう考えても問題無いだろうが…。

 俺は、間違いなくやるだろうと思ってリフィルの方へと視線を移す。

  案の定、後退した若い騎士達の中にはおらず、20体のヒュドラの内の一体。

  そこにあの4騎士を連れて突っ込んでいる。やるとは思ったが…。

 慌ててそこまで俺も駆け寄っていき、威力が損なわれない距離で周囲の安全を

  確認した後、クロスボウを身構える。 そんな心配を他所に一番先に飛び出した

  のが、4騎士の中で一番年長だろう、背中のマントに隠れて見えなかったが…。

  これまた大きい盾。タワーシールドと言うのだろうか、それを身構えてヒュドラの

  攻撃を一身に受け、先程の弓使いがその攻撃を出来る限り妨害。

  一際大きい男が大きな槌でヒュドラの頭部を叩き脳震盪を起こさせているのだろうか。

  叩かれた頭が力なく地面に落ちた所を、リフィルと短剣を持った小柄な男が確実に

  仕留めている。思ったより安心していいようだ…って、ぬぉ!?

 そんな観戦決め込んでいた、俺の足元に影が落ちてくる。確認するや否や、

  慌てて右に飛びのくと、鈍い音とともに大きい土煙があがる。

 どうやらこっちにも来たようだな…。 周囲を見回すと俺一人…か。

  クリスもいるし、何とかなるだろうとそのまま転がりながら立ち上がり、姿勢を整え

  クロスボウを構える。

  「クリス、これなら迫撃使えないのか?」

 慌てて口に出すが、状況的に推奨しませんと。またかよ! 全く。

  仕方なく散弾に弾を変えてもらい、少し距離を置き、走り回りながら頭を狙って撃つが、

  外皮が硬いのか爆散するどころか貫通もせず。 が、一応ダメージはある様で

  苦しんではいる。 うん、なんとかいけそうだ。

  ひたすらヒュドラの周りを走り、頭部を狙って撃ち続け、一つ二つと確実に頭を地面の

  土を舐めさせていき、ついに三つ目の頭も土を舐めた。

 大きく息を吐いて、額の汗を左腕で拭うと周囲を確認する。

  どうやら形勢は悪くない様だ。 セドニーやリフィル。経験を積んだ騎士達によりどんどん

  倒されていく。 これなら…。

  「三時の方向の森に人影を確認」

 ん? 人影? クリスの言った方向を見てみると…うげ。ガイアスかよ。

  またしても、この状況を愉しそうに…いや俺を見てる? 一体なんだってんだ。

  「上空に巨大飛行生物の反応があります」

 ちょっと待て、上空? 上を見上げると、うーわー…。空飛ぶトカゲったらもう。

  こいつは一旦引いた方がよくないか、今までの奴とは格が違うだろアレは。

 悩む俺を他所に、突如として空から巨大な火の玉の様な物が幾つも空気を焼き、引き裂いて

  落ち、地面を抉り吹き飛ばしてしまう。 それに巻き込まれた味方もいたのか騎士達が

  巻き上がった砂煙の中四方八方に逃げ回っている。

  おいおい…あんな上空に飛んでいる奴どうやって。

 流石にアイシクルフィアでも届く事は出来ても、ましてやドラゴン相手に効く様な威力は

  望めないだろう…って、うおぉっ!! 俺の方にも火の玉が降ってきたので上を見ながら

  全力で走って逃げるも、直撃は避けたが爆風に巻き込まれて見事に吹っ飛ばされた。

 地面に頭や背中・腰を強打しつつ転がり、舞い上がる砂煙に目を覆い声を上げる。

  「げほっ…くそ。なんてもん造ってんだよ!」

 どこからともなくこみ上げた感情からか、

 最早それは爆撃機ともいえる生物に対し怒り、地面に左拳を突き立てた瞬間、

  傍に居てのか誰かに抱え上げられ、走り出した様だ。

 煙から出て、視界が戻った途端、目に入ったのはヒュドラの口。

  そして、その口に左腕だろうソレが振りかざした武器ごと喰い千切られ、

  血が脈打つ様に大量に出てきた。誰か?それよりもその左肩だろう

  ソコから下が喰い千切られ、大量の出血を伴ってる。そこから目が離れない。

 我を忘れるとでもいうのだろうか、そんな状態に陥る俺を

  叱咤する様な、聞き慣れた低く鈍い声。どうやらセドニーの様だ。

 待て、だとすると左腕を失ったのは…。なんて事だ。よりによって主力といっていい奴の

  腕を…畜生。我に返った俺はセドニーの肩に捕まりながら周囲のヒュドラを撃ち、

  退路を確保する。 そして森の奥へと逃げたのだろう恐らくは遺跡か。

  アルヴァ達もそこへ向かったと思っていいだろう。それをセドニーに伝えると、

 黙って頷くと、更に足を速めて走り出した。…が、更に増す出血量が見ていられない。

  自分の上着を破り、抱えられながら、彼の左脇を破った服で縛り止血しつつ遺跡へと。

 

 

遺跡の入り口へとやってきた俺達の目に入ったのは、心配そうに周囲を見回している

  アルヴァだった。そこへと駆け寄ったセドニーは俺を下ろして片膝を突く。

 片腕を喰い千切られて尚、人間一人担いで全力で走る。何と人間離れした体力と精神力か。

  それでもやはり人間だろう事は疲労しきった彼の姿を見れば判る。

  状況を聞く前に、遺跡の中にと言われ俺はセドニーに肩を貸し中へと入っていく。

 アルヴァはどうやら他にまだ逃げてくる連中がいるからだろうか、外で待機している。

  中へ入ると、アリアやリフィル、アルバート。あの4騎士にセイヴァートの連中もいる。

 俺が入ってくると、リフィルが駆け寄ってきて心配そうにセドニーの失った左腕を

  見て声をかけたが、問題無いとばかりに立ち上がる爺さん。 

 で、その怪我の原因が俺だろうと悟ったか、睨まれる俺。まぁ、その通りだ。

  責められても仕方ない…な。それを察したのか視線を遮る様に割って入ったのがアリア。

 何かというと、あの火の玉がどこからと。ああ、恐らく現状知り得る限りで最も厄介な

  生物連れてきた様だ…と。生物なのかすら判らないが。

 強靭な巨体と飛行能力。それに火炎や毒…種類によって様々なモノを口から吐く厄介な

  化物だろうと。それを聞いた途端、辺りが一瞬ざわめいたかと思えば静まり返った。

 暗いので良くわからないが、恐らくはこの場に居る全員が絶望とかそういった感情を

  露にしているだろう…。そんな化物相手に、こちらは主力を欠いたといっていいだろう、

  セドニーの負傷。…俺の所為だが。

 どうする…せめてリフィルがあの剣を手に入れたら、事態は好転するかも知れない。

  何故か…? さっきの地響きの主がアイツだったとしたら、定期的に地面に下りないと

  ずっと飛んでは居られない。そう思えるわけだ。 だもので下りて来た所を…。

 残念だが、対処法は思いついても決め手に欠ける現状…手詰まりだ。

  迫撃…そういやそれがまだあったな。確か命中率が低く。弾の速度が遅く弧を描いて飛ぶ

  砲撃だったか? クリスの言う迫撃がそれとは限らないが…そうだ。

 俺はクリスに先程の化物に何か良いモノは無いかと尋ねると、迫撃型と言う物を勧められた。

  「対巨大生物用です。但し、一度使用すると本体の再起動に1200秒要します」

 一発限り…か。

  「使用警告。半径10m以内、使用者以外に被害を及ぼす可能性が高く、

    使用時には周囲に注意して下さい」

 一体どんなモノ撃ち出すってんだそりゃ。 遺跡内の隅でクリスに聞いていた俺に、

  外に居たアルヴァがいつの間にか傍で聞いていたのか、声をかけてきた。

 内容は、現状ソイツに致命傷を与えられるのは俺だけで、それがどう言う事か

  判るな、と。…俺に先陣に立てと。いや、先陣どころか一人であの化物に突っ込まない

  といけないぞ。迫撃型とやらを使うとしたら。 やるしかない…か。

 俺はアルヴァの目を見て頷き、入り口の方へと。そこの入り口に立っていたのは、

  あの4騎士の内の一人。弓使いの…名前も知らない女みたいな…女だろうか。

 肌がどうみても男とは思えないが、厚手の服の所為で性別が判別し難いわけで。

  「どんな生物にも死角は存在しますよ。獲物をきっちりと観察した上で

    狙いを定めて仕留めます」

 どうやら元々狩人らしく、弓の扱い方というよりも狩り方だろうか、確かにその通り

  だろう。軽く頭を下げて礼をすると俺は入り口を出て行った。

 先ずは、攻めるのではなく、観察する事…か。 よし。

  上空に注意しながら、遺跡外に出て木々に隠れつつ先程の飛んでいる奴を捜し歩き

  木々が遮って確認し難いが、確かに上空を周回している奴を見つけ出した。

 暫く木々に隠れつつ見ていると、急に高度を下げて地面に急降下していき…。

  先程の地響きと縦揺れが起こった。…どうやら地響きの主はこいつと断定していいだろう。

  そして、定期的に地面に下りて何かしている。そう確信して良い。

 今度はその何かを探る必要が…しかしどこに下りてくるのかが判らないな。

  そこが問題だ。下りてくる場所が判らなければ先手を打とうにも打てない。

 一度、遺跡に戻りその傍にある崖をよじ登り、ひたすら高い所を目指す。

  崖の上に辿り着き、村やある程度遠くまで見渡せる位置に生えている草むら。

 そこに身を隠し、例のスコープの様なもので遠くを見る。これなら気付かれずに

  何か判るかもしれない。時間はクリスに計って貰う事にし、二度・三度と

  あの化物が下りてくるのを待った。四度目で、ついに下りてくる理由が、

  その巨体を飛ばせ続けるだけの耐久力が翼には無い。と、言う事が判った。

 …正確にはクリスが教えてくれたのだが。滞空時間は30分程、それも一度降りた所を

  いくつかに分けて降りてきている様だ。 ともすれば、どれか一つで待ち伏せすれば

  先手を打てる…と。ふむ、勝機が僅かながら見えたのか少し口元がにやけた。

  「推定、全長20m 体重15t前後。該当データは無し。

    火炎弾を口内から噴出。広範囲による高熱ガスの恐れも考えられます」

 本当に便利だな。…ってもまぁ。判りきった事だが。

  さて、流石に死角まで判らないが、羽を休めている間は飛べないだろう。

  そこを突けばなんとかなるか…。

  「現戦力における敵対象に対する勝率…12%」

 これは酷い。ほぼ確実に負けるじゃないか。どうするんだとちょっとだけ愚痴を

  クリスに零したりと、クロスボウをコンコンと叩いてみる。

  「但し、カイリス少将…いえ。正式コードIF-00000 機種名 ゼロブランド。

    使用可能の場合に限り、勝率95%」

 …。それだけ能力差があるってのかよ。不服そうにクリスの方を見ると、

  それを察したのか、今作戦に必要なのは近距離戦闘における単体攻撃力であり、

  中距離・戦闘支援のアイシクルフィアでは不向だと。

  その上、聞いた所によると、フランヴェールとアイシクルフィア。

  それまでの武器はそれぞれ共通の欠点がある試作型の様なもので、

  ゼロブランドと呼ばれたソレが、欠点を克服した完成型だと言う事も教えてくれた。

 う…羨ましくなんかないぞ! 試作型だからいいんだ試作型だから。と誰に何を言いたい

  のか、地面を叩きつつ自分に言い聞かせる俺。

  …ん? 共通弱点?聞いた方がいいな、再び尋ねると、

  高威力の攻撃を使用するのに、充填時間が長く、使用後に全システムがシャットダウン

  するらしい。…ああ1200秒か。で、その弱点を何らかの形で克服して完成したのが、

 ゼロブランドと。ゼロ…絶対零度といった意味合いだろうか。

  何かまたとんでもな凍結能力持ってそうだが、当の本人がリフィルを認めてくれないからな。

 なんとか12%に頼るしかない…か。 俺は草むらから立ち上がり、崖をゆっくりと滑り降り、

  再び遺跡内部へと。

 

 

薄暗い遺跡内部へと戻ると、俺を待っていたかの様にアルヴァが歩み寄ってきた。

  どうやら、何か倒し方でも見つけてきたかと期待しての事らしいが…。

 正直な所、負ける可能性の方が高過ぎて、話にならない。この事だけはキッパリと伝え、

  そして、奥でセドニーを介抱しているリフィルに移すと…。

  「そうか、やはりリフィルが鍵か…」

 黙って頷くと、判った事を全て彼女に話す。だけどまぁ、いかんせんリフィルの性格が

  危なっかしいと、相手さん向けいれてくれないんだよなぁ。

 互いにそれが判っているのか、顔を見合わせて肩を落とす。 …。

  仕方ないとばかりに、場に居る人達で戦える者は表に…と。 

 そういや、あのドラゴンだろう爆撃受けたんだ、それなりに被害がある筈。

  この狭い通路に収まりきるだけの人数になってるというだけで、かなりの被害を

  受けたというのは判る。 外に出て集まったのは、僅か50という所。

 出てこれたのは、皆して若い者達ばかりの様だ。 流石のアルヴァも手詰まりな表情を

  …見せてないな。 見せたら駄目なのだろうか。そうだな、勝てると思わせるべき

  なのだろう。…っておい。セドニーまで出てきたぞ。リフィルが必死に止めてるが、

  どうしても行くと言ってきかないようだ。原因作ったの俺だしな、余り強くは言えない。

 ともあれ、集まったこの50人で恐らくドラゴンだろうソレを倒す必要ありと。

  ん? アルヴァがリフィルに歩み寄って…成る程。そりゃそうだ。

 彼女には遺跡内部で待機、もしもの時はここから離れてアンシュパイクなりに逃げ延びろと。

  今は無理でも、いつかは認めて貰えるだろうしな。それでいいだろう。

 何か俺の死亡フラグが立ってる気がしなくもないが…。

  一通り、作戦というかまぁ、不意打ちかける方法を伝えると、あのドラゴンの休む場所の

  一つがここからわりと近い所にあるので、そこで待ち、俺が先制の一撃叩き込んだ後で

  畳み掛けると。作戦も糞も無いな。ゴリ押しに近いソレしか方法が無い。

 俺達は、隠れる様に木々を移動して、奴が羽を休めるその一角周辺へと身を潜めた。

 待つ事約一時間と少し。空を切る音と共に、轟音と言えばいいのか着地音が地響きとなって

  響き渡り、砂煙を上げた。

 先に周囲に味方を遠ざけていた俺は、一度周囲を確認すると…。

  「迫撃型展開…対凍結対衝撃ジェル生成完了」

 ジェルって…うわっ何かヌルヌルしたものが、クロスボウから出て…うっぷ。

  腕から肩、全身へと纏わり突いてきた。何か気温が低いのに寒さが全く感じられないぞ。

 見た感じ透明で何も付いてない様に見えるが、明らかに粘着性が若干あるものが全身に。

  ちょっと…気持ち悪い…です。 そのジェルに気を取られている内に、クロスボウが

  上下に開いて…何か口開いた様になってるんですが。

  「空気中冷気・水分を収束中。充填完了まで360秒。射出時に激しい照準のズレが生じ、

   前方より強力な風圧を伴います。気をつけてください」

 良し判った!…なワケないだろう。 聞いて無いぞ照準ズレるとか風圧とか!

  何か、口を開いて出来た様な射出口だろうか、そこの手前の空間が歪んで見える

  のは気のせいだろうか。それどころか周囲の地面と木が少し凍ってる様に…。

  「充填90%…構えて下さい」

 お、とと。どうやら形状的に小型のランチャーみたいに見えなくも無くで…、

  肩に背負い、右手を外に回してトリガーに指をかけ、顔を砲身と呼べばいいのか、

  それに近づけ左目を瞑る。

  「充填95%…照準、合わせ」

 ズレるんだろう? まぁ、下りて来た茶色く体が大きいな、ワイバーンと思ったが、

  別の種類の様だ。そいつの頭部に射出口を静かに向ける。

  「充填100%…撃ち方、始め」

 いいのか?やっちゃっていいのかよ? 少し戸惑いながら、おそるおそるトリガーを

  引いた瞬間。SLの汽笛よりも大きい耳を劈く様な轟音と共に、

  射出口少し手前の空間に波紋の様なものが

  いくつも波立ち、氷塊でも出るのかとおもいきや、冷凍銃といえばいいのか、

  レーザーキャノンとでも言えばいいのか。極太の白いソレが周囲の木々、

  地面、大気すら凍りつかせてドラゴンだろうソレに一直線に向かっていった…筈。

 筈。といったのは、打ち出した衝撃というのか、空間が波打つ程の衝撃からくる風圧

  とでも言えば良いのか、それに巻き込まれて相当後ろに吹き飛ばされ、木に背中から

  激突していた。 確かにこれはあの時には不向きだわな…。

 次はどうしたらいいか…クリスに尋ねると、反応が無い。…そういやシステムの再起動

  に1200秒かかるといってたな。 その間、俺は何も出来そうにないが…。

  激突した衝撃からか、少し眩暈を覚えるが立ち上がり砂煙の上がっている方向を

  見ると、どうやら当たってはいるらしく、何か痛々しい叫び声の様なものが聞こえ、

 場に居るだろう全員が砂煙が晴れるのを待った。

  砂煙が晴れる…というよりは、痛みからか暴れ狂う茶色い竜が砂煙を払い、周りの木々

  を薙ぎ倒して転がり続けている。どうやら頭に命中はしなかったが

  翼を一つ打ち抜いたらしく、その翼の根元に至るまで凍りつき、 

  暴れる衝撃で砕け散っていく。 飛行能力は何とか奪えた様で…お?

 勝機とばかりに、セドニー・アルヴァにあの4騎士も含め若い騎士達が攻め込んで…コラ!

  こっそり何混ざってんだお前! あろうことか後方でリフィルまでいやがる!

 とことん言う事聞かん奴だなおい!! 全く、どうしようもないぞ。

  セドニー達は気付いて無いし、こっちもコッチで…嘘だろう。

 片手になったとはいえ、あのセドニーの戦斧を弾き返す皮膚というか鱗というか。

  だーっ。もう、取り合えずリフィルを連れ戻すか! 慌てて飛び出し暴れ狂う竜の

  所へと。

 

 

巨大な尾が上下左右と地面や木を打ち、腕や足もそれに混じって時折襲ってくる。

  どうやら完全に我を失っている様で、火を吐く素振りは見せない。

 一気に攻め討つなら今この時しか無いだろう。それはこの場の全員が判っているだろう事。

  然し、あの竜に対して有効な決め手が欠けている現状、どうしようもない気がする。

 まだアイシクルフィアの再起動も終わらず。仮に終わったとしても、充填時間を竜が

  ボケッと待つとは思えない。あのレーザー砲みたいなものは使用不可と見た方がいいな。

 外皮が硬いというか、背に面している部分が硬いのだろう。それを幾度かの攻撃で悟った

  のか、セドニーは攻撃目標を腹に定め始めた。…そりゃ腹は柔らかいだろうが、

  危な過ぎるだろうソレに続く若い騎士達。 腹に辿り着く前に何人もの騎士達が

  尾や手足に阻まれ絶命していく。 そんな現状にようやく届いた俺は、リフィルが

  同じくして腹へと行こうとする所を腕を掴んで止めるが…。

  「離せ!」

 離せじゃねぇ!この我侭姫さん!! 流石の俺も頭にきたのか、軽く左手で彼女の頬を叩く。

  おもっきりにらめつけてきたが、知ったこっちゃ無い。無理矢理にでも連れ戻そうと

 彼女を羽交い絞めにして、ずりずりと竜から遠ざかる俺に一つの声が浴びせられた。

  「危ない!」

 ただ、その一言だが、何に対してか瞬時に理解した竜の口がこちらに開き、熱気からか

  口元が歪んで見える。…その直後、俺とリフィルは何かに弾き飛ばされた痛みを覚え、

 同時に、この場に居るはずが無い人物が槍で俺達を払い飛ばした事を理解した。

  瞬間…目の前に高温のガスだろうか、その人物を巻き込んでその先の木々までも

  焼き払い消し炭にしてしまった。

 俺達を払い飛ばし助けた者は、骨も残らず消し炭となり、その様を目を丸くして見ていた

  俺とリフィルは互いにその場で、崩れる様にへたり込み。

 何も考えられず、ただ…彼女が居た場所。焼け爛れ、

  削り取られた様な地面を力なく、見つめていた。

 

 


 
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