No.158611

真・恋姫無双 蒼天の御遣い18

0157さん

長らく投稿を空けてしまい、真に申し訳ありませんでした。

とりあえずリハビリとして、短いですが続編を投稿させていただきます。

もうお気づきの方もいるかもしれませんが、私はフラグを立てるのが大好きです。

続きを表示

2010-07-18 06:55:11 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:54260   閲覧ユーザー数:31039

 

「うわー・・・・・・大きいお邸(やしき)・・・」

 

桃香は眼前にそびえる雄大な邸を見てそうつぶやいた。

 

「このお邸は王の方や地方の高級官吏たちが洛陽に滞在してもらうために建てられたものなんですよ、桃香さま」

 

「すっごいねー、こんな大きなお邸を使わせてもらってるなんて」

 

「まぁ、北郷殿がこれまで立てられた功績を考えれば、これぐらいの待遇は当然のことでしょう」

 

星の言葉に桃香はうんうんと納得したようにうなずく。

 

桃香、朱里、星の三人の目前にある邸こそ、北郷一刀が現在、住居としている邸であった。

 

虎牢関での一件の後、桃香たちを含めた連合軍は一度、それぞれの所領へ軍を戻すこととなった。

 

そしてそのすぐ後、朝廷からそれぞれの領主の元に書簡が届いた。

 

その内容は連合軍に関してのこととか色々あったが、かいつまむと、『劉協が帝位に就いてその式典を開くので、参加するならどうぞ来てください』といった内容だった。

 

桃香はその誘いに二つ返事で参加することに決めた。

 

そして、すぐさま準備を整えて領地を出発したおかげか、割と早く洛陽に到着した桃香がある噂・・・もとい、情報を知ることになる。

 

いわく、『天の御遣い』がこの洛陽に滞在しているとのこと。

 

それを知った桃香たちは、かねてから考えていた北郷一刀との同盟を実現させるため、一刀の居場所を探し出し、一刀へ会談の席を申し出るために使者を送った。

 

そしてその返事は快諾されることになる。帰ってきた使者が教えられた場所と日時を告げることでそれは実現した。

 

そういった経緯により、こうして門の前まで来た桃香たちは門を叩くことでその来訪を告げる。

 

しばらくすると門が開き、そこから出てきた少女が桃香たちを認識すると丁寧な所作で頭を下げた。

 

「劉備様とお付の方たちであられますね?ようこそいらっしゃいました。わたくしの名は徐晃、字は公明と申します。北郷一刀さまの家臣をさせていただいる者です」

 

「ご、ご丁寧にどうも・・・わ、私が劉備です・・・」

 

「しょ、諸葛亮と申します」

 

「趙雲だ。それでは徐晃、案内をしてくれぬか?」

 

「はい、ではこちらへついて来てください」

 

やや気後れした風な桃香と朱里をさして気にせず、菖蒲はにこやかな笑みを浮かべて案内をした。

 

菖蒲を後をついていく桃香たちは、目の前を歩く菖蒲を見て小声で話し始めた。

 

(朱里ちゃん朱里ちゃん!あの徐晃さんって人すごい綺麗だよね。いったいどこのお嬢様かと思っちゃったよ)

 

(きっと名のある家の出なのでしょう、桃香さま)

 

(ふむ・・・あの娘、中々の腕前でしょうな。さすが北郷殿。雫といい、良い人材が集まっておられる)

 

ひそひそと桃香たちが話し合っているうちに、菖蒲は一つの部屋の前に立ち止まった。どうやらこの部屋のようだ。

 

菖蒲が部屋の扉を開け、桃香たちに中に入るように促す。桃香たちが部屋の中に入ると、一人の青年がその部屋の中央にある卓に座って待っていた。

 

「やぁ、よく来たね。歓迎するよ劉備さん」

 

(この人が北郷さん・・・・・・)

 

桃香は自分たちを出迎えた人物を見てぼんやりと思った。

 

虎牢関で見たときの一刀は、単騎で両陣営のただ中に飛び出し、それでいてひるむことなく堂々と両軍に戦いの無意味さを主張したあの姿が今でも目に焼きついている。

 

そして今目の前にいる人好きのする穏やかな笑みを浮かべて自分たちを出迎えたこの姿を見て、てっきりもっと毅然とした人だろうと思っていた桃香は肩の力が少し抜けたのを自覚した。

 

「は、はじめまして!わ、私が劉備、字が玄徳と申します!ほ、本日はこのような席にお招きいただき、まことに――――」

 

「あ、そこまででいいよ」

 

桃香が朱里に教えてもらった失礼にならない挨拶をしようとしたら一刀に制された。

 

「え?」

 

「そこまで堅苦しくしなくってもいいってこと。別に俺は特別偉い人でも何でもないんだから」

 

「で、ですけど・・・」

 

「とりあえず、立ってるのもなんだから席に着こうか。菖蒲、お茶とお茶菓子の用意をお願い」

 

「かしこ参りました、ご主人様」

 

菖蒲がそっと静かに礼をして退室していき、桃香と朱里は落ち着かなそうに、星は平然として卓に着いた。

 

「挨拶が遅れたね。俺が北郷一刀。姓が北郷、名は一刀、字と真名が無い。だから俺のことは好きに呼んでくれて構わないよ。そっちの君は?」

 

もはや定番と言っていいほどの挨拶をした一刀は視線を朱里の方へと向けた。

 

「はわっ!?・・・わ、私の名は諸葛亮ですっ!ほ、本日はお日柄も良くっ・・・・・・!」

 

何やら緊張して妙なこと口走る朱里。

 

「北郷殿、拙者には何も聞いてくださらぬのか?」

 

「それは今更なんじゃないか?・・・久しぶり星、元気にしてた?」

 

「うむ。北郷殿も息災なようで何よりだ。・・・して、北郷殿、雫は?ここにはおらぬようだが、今はどうしておられる?」

 

「すぐに分かるよ」

 

一刀と星が再開の言葉を交わすと、一刀の言うとおり、再び扉が開き、そこから雫が現れた。

 

「一刀様、お茶とお茶菓子をお持ちしました」

 

雫はお茶を入れる急須(きゅうす)やカップ、茶菓子を載せた台車を押して、甘くてこうばしい匂いと共に入ってくる。

 

「雫ちゃん・・・」

 

朱里が驚きと喜びをないまぜにした表情で雫の名を呼んだ。

 

対して雫も朱里の姿を認めると、表情こそ変わらないものの、身にまとう雰囲気が幾分やわらかくなった。

 

「朱里・・・久しぶりですね。雛里は元気にしていますか?」

 

「うん、私たちは特に変わりないよ。雫ちゃんは・・・なんだか少し変わった気がするね?」

 

「そうでしょうか?」

 

「雰囲気が前より少し大人っぽくなったような・・・って何を言ってるんだろうね?雫ちゃんは私よりも断然大人っぽい・・・・・・うぅっ・・・」

 

「・・・?」

 

何やら盛大に自爆って崩れ落ちた朱里を見て雫は首をかしげた。

 

「まぁ、軍師殿の苦悩や積もる話もあるだろうが、ひとまず紹介するとしよう。雫よ、こちらが我等が主の劉備さまだ」

 

「はじめまして、私は劉備といいます」

 

「ご丁寧に、どうも痛み入ります。私は徐庶と申します。まずは大したおもてなしではありませんがどうぞこちらを召し上がってください」

 

そう言うと雫は菓子の乗った皿を卓に置き、茶の支度をする。

 

「良い匂い・・・・・・これはなんて言うお菓子なんですか?」

 

桃香が目を輝かせながら尋ねた。

 

「これはクッキーっていう俺がいた世界のお菓子だよ。雫に再現してもらったんだ」

 

「ほほう?天の国の菓子とは、なかなか興味深い」

 

星が早速クッキーを一つつまんでしげしげと眺めた。

 

桃香と朱里の二人もクッキーを手に取り、それぞれ口にはこんだ。

 

「わ~っ!とっても美味しいよこれ!」

 

「うむ。外はサクッとしていながら中はしっとりとしていて、かなり美味であるな。流石は天の国の菓子といったところか」

 

二人がクッキーを絶賛していると、朱里はいささか落ち込んだような表情でつぶやいた。

 

「美味しい・・・・・・雫ちゃん、また腕を上げましたか?やっと追いついてきたと思ったのに・・・」

 

「朱里、これはそういうお菓子なのです。だから朱里も同じように作ればこれぐらいのものは出来るはずです」

 

「そうなのですかな、北郷殿?」

 

「いや、俺の国でもこれほどのものはそうそうないんじゃないかな?それに、俺はこの中にしっとりした食感を出すやつは教えてないんだ」

 

星の問いにそう答えて、一刀はクッキーを一つ手に取り、口に運んだ。

 

「・・・うん、やっぱりよく出来てる。美味しいよ、雫」

 

「・・・・・・・・・そうですか。気に入っていただけて何よりです」

 

(雫ちゃん・・・嬉しいんだ、北郷さんに褒められて)

 

はた目ではごく普通に返した雫であったが、水鏡先生の下で学んでいた頃からの付き合いである朱里には、雫が喜んでいるだろうことが分かった。

 

一刀はそれが分かっているのかいないのか、微かに笑みを浮かべてお茶を飲んだ。そして空なった茶器を置くと、雫がさりげなく新しいお茶を入れる。

 

「ありがとう、雫」

 

「・・・いえ」

 

朱里は思わず感嘆のため息が出そうになる。なんてお似合いな二人なんだろう・・・

 

それが主従のものにしろ、男女のそれにしろ、理想的な関係とはこういうものを指すのではないだろうか?朱里は憧れと、そしてほんの少しの羨望(せんぼう)が入り混じった目で二人を見た。

 

(良かった・・・雫ちゃんが幸せそうで・・・)

 

この姿を見れただけでも、こうしてここに連れて来させてもらった甲斐はあるだろう、と朱里は密かに心の中で親友を祝福した。

 

 

「さて、それじゃあ本題に入ろうか」

 

コトリ、一刀が茶器を置きながら尋ねた。

 

「え?・・・・・・あっ・・・そ、そうですね」

 

クッキーに夢中になっていて一瞬、何のことだか忘れていた桃香だったが、すぐさまここに来た理由を思い出した。

 

「君たちは同盟の申し入れをしにやってきた。・・・これで合っているかな?」

 

「はい。私は皆が笑って暮らせる世の中にしたいと常々思っていました。力のない人たちばかりが虐(しいた)げられる・・・そんなのは間違っていると思います」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「北郷さんもその思いは同じはずだと思っています。だからお互い協力してその理想を実現するべきだと思うんです」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「だから北郷さん、良ければ私たちと同盟を結んでくれませんか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・あ、あの・・・北郷さん?」

 

うなずくでもなく、話すでもない一刀の様子に桃香は思わず声をかけてしまう。

 

「・・・・・・一つだけ聞いてもいいかな?劉備さん、君は黄巾の乱・・・それについてどう思う?」

 

「黄巾の乱・・・ですか?そうですね、えっと・・・・・・乱を起こした人たちにも同情すべき点があるのかもしれません。だけど、それはやってはいけない行為を正当化することにはならないと私は思います」

 

唐突な質問だったが桃香は迷わずに自分の思いを口にした。

 

「・・・そうか」

 

「・・・?」

 

一刀の短い反応に桃香は思わず首をかしげた。何かおかしなことを言っただろうか?

 

一刀はしばらくの間に考えをまとめ、そして不意にうなずくと桃香を見た。

 

「じゃあ、同盟に関しての俺の答えを言おうか。・・・・・・・・・君たちとは同盟は結べない」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

つかの間のあいだ、部屋の中では奇妙な静寂が場を支配した。

 

「・・・どうしてって顔をしてるね。理由を聞きたい?」

 

「・・・はい、聞かせてもらえませんか?」

 

「理由は至って簡単。今の君では同盟者にたり得ないからだ」

 

一刀のあまりな言いように、朱里は声上げようと立とうとするが、それを星に制された

 

「それは・・・・・・私がもっと大きな勢力をつくって偉くならないと駄目っていうことですか?」

 

「違う、そういう意味じゃないんだ。・・・そうだね、これから言う話はあくまで例え話だ。それを踏まえた上で正直に答えてくれないか?」

 

「・・・?・・・はい、わかりました」

 

「君には確か関羽と張飛っていう二人の義姉妹がいるね?」

 

質問の意図が読めないまま、桃香は微かにうなずいた。

 

「君たちがとある勢力と戦争することになったとしよう」

 

「・・・はい」

 

「その戦争中、その二人のうちのどちらか、もしくは両方が殺されてしまったら君はどうする?」

 

「っ!?」

 

驚きのあまり、桃香は思わず手を口に当ててしまう。

 

「そ、そんなっ!?愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが死ぬなんて・・・そんなことは絶対にありえませんっ!」

 

「だから言っただろう、例え話だって。・・・答えてくれないか?『もし』、誰かが君の姉妹を殺してしまったとしたら・・・君はそいつの事をどう思う?」

 

あくまで例え話だと強調する一刀に、桃香の心中は動揺と混乱が渦巻きながらも絞り出すような声で答える。

 

『何故か』は知らないが、思わず頭の中でよぎってしまったのだ。――――――志(こころざし)半ばで果ててしまった二人の姉妹の姿が・・・

 

「・・・・・・・・・・・・許せません・・・」

 

「許せないから?許せないならどうしたい?」

 

「・・・・・・・・・仇を討ちたいです・・・」

 

「では、その仇を討つために君はどうする?」

 

「・・・・・・それはっ――!」

 

「っ!?いけませんっ、桃香さまっ!!」

 

今まで口を挟まなかった朱里だったが思わず叫んでしまった。この先は言わせてはいけない。言ってしまったらそれが現実のものとなってしまう。そんな酷い強迫観念にかられてしまったのだ。

 

そしてそれによって桃香も気が付いた・・・そして気が付かされてしまった。

 

(私は今、何て・・・『何を』言おうとしたの!?)

 

普段の自分からはあり得ないような言葉が頭の中で浮かんでしまい、桃香は愕然(がくぜん)としながらも、寒さにこらえるかのように身震いしながら両腕を抱きすくめた。

 

「・・・それが理由だよ、劉備さん。『もし』そうなったとしたら君はどうするんだ?その仇を討つために、いったいどれほどの犠牲を払うつもりなんだ?」

 

「そんな・・・・・・私は・・・私は・・・・・・」

 

今にも泣き出しそうな桃香の様子に、唐突に朱里が立ち上がった。

 

「ほ、北郷さんっ!も、申し訳ありませんがここらでお暇(いとま)をしてもよろしいでしょうか!?」

 

「ああ、構わないよ。・・・雫、彼女たちの見送りを頼む」

 

「・・・かしこ参りました、一刀様」

 

一刀からの承諾を得た朱里は、すぐさま桃香を連れて部屋から出ようとする。

 

「朱里よ、私はもうしばらく北郷殿と話をしておきたい。桃香さまを頼めるか?」

 

「・・・・・・はい、分かりました星さん」

 

「すまない。話を終えたら私もすぐに向かう、それまで桃香さまのことを頼んだぞ」

 

「お任せください。・・・では北郷さん、美味しいお茶とお茶菓子をありがとうございます。それでは失礼します」

 

そう言って朱里は沈んだ面持ちでうなだれたままの桃香を連れて、雫と共に部屋を出て行った。

 

そうして残された二人にわずかな沈黙が漂っていたが、すぐさま星が話を切り出す。

 

「・・・北郷殿、先ほどの質問は酷く意地の悪いものではござらなかったか?」

 

「・・・・・・そうだね。彼女を見ていてすごい罪悪感がわいたよ・・・」

 

「では何故あのようなことを申された?同盟の話を断りたいのであれば、何もあのように言わなくても、いかようにでもあるではないか」

 

「・・・星はさっきの劉備さんを見てどう思った?」

 

やや問い詰めるかのように尋ねた星は、先ほど、普段の主らしからぬ桃香の様子を思い出し、一刀の質問に答えた。

 

「・・・・・・別段、おかしなことでもなかろう。桃香さまにとって、愛紗と鈴々は己の一部にも等しい大切な義姉妹なのだ。その二人が殺されてしまったら、仇を取りたいと思うのも至極当然のことではないか」

 

「そうだね。・・・だけど星、彼女が理想とする道はその『当然』のことすら出来なくなることなんだよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「そして何より問題なのが・・・彼女自身そのことに気づいていないことなんだ」

 

先ほどの『二人が死んだら』を聞いた時の桃香の反応。あれはその可能性すら考えたことがなかったのだろう。

 

しかし、その可能性はあり得ないことでは絶対ないのだ。少なくとも史実を知っている一刀にとっては。

 

実際にそうなってしまった場合、彼女は恐らく破滅の道を歩んでしまうかも知れない。それだけは避けなければならなかった。

 

「・・・なるほど。つまり貴殿は桃香さまの為に悪者を演じてくださったわけか」

 

星は想像してみた。突然、知らされる義姉妹の訃報。それを聞き、先ほどのように悲しみと怒りに打ち震える桃香。

 

桃香は仇を討つべく動くだろう。たとえいかなる事情があったとしてもそれは誰にも止めることは出来ない。恐らくこの私でさえも。

 

最初はそれでもいいのかも知れない。しかしふとした瞬間、桃香は気づいてしまうだろう。それが自分の理想とは大きくかけ離れたものであるということを。

 

桃香は深く嘆き、悲しみ、そして絶望してしまうだろう。そして失意のうちに倒れ、そして・・・・・・

 

『何故か』そんな未来を想像できた星は思わず顔をしかめた。いくらなんでもそんな結末は悲しすぎる。

 

「・・・すまない北郷殿。貴殿のおかげで我らはその『ありえるかもしれない』未来を知ることが出来た。礼を言わせて欲しい」

 

「礼なんていらないよ。俺はあくまで『可能性』の話をしただけなんだから」

 

そう、確かにこれは可能性の話だ。しかし、それは『ただの』で済ませられるほどの話ではないだろう。

 

たとえわずかな可能性であろうとそれだけは決して起こしてはならない。星は瞳に決意の色をにじませると席を立った。

 

「では北郷殿。済まぬが私もこれで失礼させていただく」

 

「ああ」

 

短く言葉を交わすと星は部屋から去っていった。

 

一刀はそのまま部屋の中で一人、先ほどの会話を思い、そして反芻(はんすう)し、願った。

 

『同情すべき点があるのかもしれない。だけど、それはやってはいけない行為を正当化することにはならない』・・・・・・それは正論であり、彼女の本心でもあるのだろう。しかし、その言葉が時として自分にも返ってくるということを知って欲しい。

 

そして、どうか気づいて欲しい。それを知ってなお前に進むことが出来る意思の強さこそが、あらゆる逆境をはね除け、理想をつかむことが出来る唯一の可能性だということに・・・・・・

 

「お人好しだねぇ主も。そんなにあの劉備って娘が気に入ったのかい?」

 

一刀は突然声をかけられた。声のした方に顔を向けると、そこには悠がいた。悠は外の窓から上半身を乗り出してこちらを見ている。

 

「気に入ってる・・・か。そうだね、もしかしたらそうなのかもしれない。彼女と話をしていると何だか力になってあげたいって、そんな気持ちになるんだ」

 

「なるほどねぇ・・・ま、気持ちは分からないでもないか。あたしもあんな見事な胸の持ち主に『力になってください♪(は~と)』って頼まれたら、一も二もなく襲い掛かっちゃうだろうし」

 

「・・・悠」

 

一刀は半ば呆れた声を出しながらも、念のために釘を刺しておく。もしかしたら悠は『落ち込んだ桃香を元気付けに行く』という名目で彼女にセクハラを働きに行くかもしれない。こいつは一度こうすると決めたら、周りのことなどかんがみずに即実行に移ってしまう奴なのだ。

 

「分かってるよ。流石にあたしも場の空気は読むさ。・・・よっと」

 

悠は身軽に窓わくを飛び越えて部屋の中へ入った。

 

「それで悠、どうだった?」

 

「ああ、やっぱりいたよ。裏庭に二人ほどな。一応、言いつけ通り、殺さずに捕まえておいたぜ」

 

「そうか・・・ありがとう、悠」

 

「にしても主は人気者だねぇ。ここのところ、ほとんど毎日誰かが訪ねて来てるじゃないか。表も裏も」

 

「まぁ、表からはともかく、裏からはね・・・。別にやましいことをしているわけではないけど、気分のいいものじゃないし」

 

「仕方ないんじゃないか?人づてから聞いた話だけど、何でも虎牢関に集まった両軍の前で派手な大立ち回りをやったそうじゃないか?そんな奴のことを気にするなって言うほうが無茶だろ」

 

一刀は暗鬱(あんうつ)とした表情で頭を抱えた。確かにあんな大勢の人の前であんなことすれば、それは有名にもなるだろう。

 

後悔はしていない・・・していないのだが、もっと穏便に、なおかつ目立たないで事を収めることは出来なかったのだろうかと、今更ながらに一刀は思った。

 

「ま、安心しな主。流石にこれだけ捕まえれば向こうも警戒するだろうし、もうすぐ新しい皇帝の就任式が開かれるから、こっちにかまけている暇もなくなるさ」

 

「・・・・・・うん。そうだね」

 

それにしても悠はすごい。武芸は非凡なものを持っているし、頭も回る。そしてこうした裏仕事までこなすなんて、菖蒲とはまた違うタイプの万能的な将だ。

 

これであの女癖?の悪さがなければ言うことはないんだが・・・・・・

 

「なぁ、主」

 

「ん?」

 

「やっぱりあの劉備って娘に会いに行っちゃ駄目か?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あえて何をしに行くかは聞くまい。

 

「・・・駄目だ」

 

「ちぇっ」

 

これは一刀と桃香が初めて出会い、そして後に、桃香に多大なる影響を与えた、そんな日であった。

 

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
271
61

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択