No.157716

真・恋姫†無双【黄巾編】 董卓√ ~風と歩み~ 第七話 ~偽善の価値~

GILLさん

GILL(ギル)と名乗る作者です。
ようやく第七話が完成しました・・・。 長かった。
今回は、1ページの文字数が異常に多いと思います。
その辺りは、飽きずに読んで頂ければ幸いです。
拙い文ですが、見てやってください。

続きを表示

2010-07-14 21:51:10 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:5265   閲覧ユーザー数:4456

 はじめに

 

 GILL(ギル)と名乗る作者です。

 

 この作品は、真・恋姫†無双のみプレイした自分が

 

 『俺は、風が大好きなんだ!!』

 

 と、いう感じでタイトル通り【~IF~】『もし、風達と一刀が同行したら・・・』

 

 という妄想がタップリの作品です。

 

 でも、作者は風以外に目が入っていないので、もしかしたらキャラが変わっている可能性も出てきます。

 

 そして、オリジナルのキャラクターも出すかもしれません。

 

 ですから、『あ、そういう系のSSマジ勘弁』という方はお控えください。

 

 それでも、『別に良いよ』という方は是非とも読んでやってください。

 

 それでは、ご覧ください!

 ……朝、目を覚めればいつもの天井が見える。

 唯、いつもと違うのは……隣に、自分が愛した少女が可愛い寝息をたてて寝ていた。

 

 「―――おはよう、風」

 

 しばらくは起きないであろう彼女に、声を掛ける。

 返ってきたのは、さっきよりも少し大きな寝息だ。

 

 「……」

 

 沈黙が支配する部屋。 割と居心地は悪くない。

 むしろ、少し……安心するような――落ち着ける空間だ。

 

 「……う……ぅん」

 

 風の小言が聞こえる。

 ……一体、どんな夢を見ているんだろうな。

 

 そう考える前に、俺の手は無意識のうちに風の髪に触れて、撫でていた。

 

 「……すぅ……ぅん」

 

 小言を聞くたびに、風の寝顔が綺麗に見えてくる。

 これを見ているだけで、今日も一日……幸福に生きて行けるような気がしてきた。

 

 「―――っと、そうだった」

 

 今日、俺は朝議に出なければならない。

 昨日、多分賈詡が必死に部隊の編成と、兵をかき集めてくれたはずだ。

 それなのに、こんな事で賈詡の努力を無駄にしたくない。

 

 「―――それじゃ、行ってくるよ。 風」

 

 もうひと撫でした後、俺は支度を済ませ、朝議に向かった。

 

 

 

 「―――――お兄さんは、優しすぎるのですよ。 ……バカ」

 

 一刀が去った部屋に、一つの呟きが響いた。

 「ごめんっ! 遅れた!」

 

 慌てて、軍議室に飛び込んできた。

 支度を整えて……と、いう割に寝癖は立ったまま、服も乱れている。

 なんとも、情けない姿の登場であった。

 

 「……おはよう。――ふぁぁ……」

 「おはよう、北郷! 昨日は良く眠れたか?」

 

 対称的な二人。 眠そうな賈詡、元気ハツラツな華雄。

 

 「お、おはよう。 華雄も元気そうで何より……」

 

 と、華雄に声を掛けたが、その言葉が引き金になったのか、賈詡が物凄い勢いで此方を睨んできた。

 

 「ちょっと……。 昨日の晩、寝ずに部隊の編成に努めたボクには掛ける声は無いの?」

 

 やけに、不機嫌な賈詡。

 うん。 やっぱり、カルシウムと寝不足はストレスの元だよね。

 今なら、どこかの偉い学者さんが言った言葉が理解出来そうで、出来ない。

 

 「いや、よく頑張ってくれたよ。 ありがと、賈詡」

 

 とりあえず、ここは笑顔だ。

 感謝の意を込めて、笑顔で癒そう! 多分、俺にはこれが限界です。

 

 「……。 べ、別に……そ、そう! ボクはボクなりに頑張った! それだけよ!」

 「うん。 だから……ありがとう!」

 「~~~~~~~~~~っ!!」

 

 顔を真赤に染める賈詡……っていうか、赤過ぎないか?

 

 「ちょ、ちょっと顔。 洗ってくる!!」

 

 と、叫んだ後に、賈詡は多分洗面所に向かった。

 ――――俺、何か悪い事言ったかなぁ?

 

 「……ほぅ。 ふふ。 自覚が無いのは恐ろしい事だ」

 

 やれやれ、と言わんばかりに首を横に振る華雄。

 何ですと!? 俺が無自覚で女の子を傷つけたのか!?

 この、北郷一刀……男として、一生の不覚!!

 

 「安心しろ、北郷。 お前は女を泣かすような真似はしていない。と、いうより……賈詡を泣かしたのなら、私が即座に切っている。 安心しろ!」

 

 はっはっは。 と、大きく笑いながら俺の背中をバシバシ叩く華雄。

 ……っていうか、人の心を勝手に読むな!

 ……っていうか、即座に切るって理不尽だよね!? 弁解の余地を与えてくれよ!

 

 ……と、いう感じに、ちょっとした寸劇をしている内に、賈詡が戻ってきた。

 顔が濡れているからして、本当に顔を洗ってきたんだと、確認できた。

 「―――それじゃ、編成した部隊と、作戦の概要を再確認するわよ」

 

 小さく……しかし、はっきりと頷く俺と華雄。

 緊張感が俺の心を縛る。 そう、俺は今日……人を殺す。

 

 ひょっとして、手遅れなのかもしれない。

 

 一度、覚えてしまった快楽から抜け出す事は……出来ないのかもしれない。

 『仕方ないって』 『誰かを守る為なら、別に良いじゃないか』

 そんな声を掛けてくれる人も居るかもしれない。

 

 でも、だからといって……人を殺して良い理由じゃない。

 人の命は軽くない。 けど、今の時代に……そんな戯言は聞けない事も解っている。

 どうしたら良いのだろう。

 

 もしも、俺が……何かを救えるなら……傲慢かもしれないけど、皆を護りたい。

 味方だろうが、敵だろうが、賊だろうが、民だろうが、……皆を護りたい。

 甘い。 甘すぎる。

 

 でも、……それでも、救いたい。

 もしも、神様が居るなら……俺は、聞きたい。

 『こんな俺を……まだ、許してくれますか? 誰かを救う権利は……在りますか?』

 

 ―――賈詡の口が動く。

 華雄が、真剣にそれを聞く。

 流れる言葉と時間が俺を過ぎ、去っていく。

 

 でも、流されないように……必死に、言葉を受け止めてみる。

 

 用意できた兵数は、約2000人

 その内、防衛役に回る華雄は……約1000人の兵を連れていく。

 念のために、400人ずつ、2隊に分けて、挟撃隊を編成。

 そして、『あの役』に回る俺は……たった200人を連れていく。

 

 初めから、覚悟の上だったけど、少し……心許ないな。

 

 『せめて、私も……門前まで連れていってください!』

 

 意外な人物から、励まされたような気がした―――。

 「ゆ、月! 何を言っているの!??」

 

 扉を勢いよく開き、息を切らしながら……董卓がこちらを睨んでいた。

 

 「詠ちゃん……酷いよ。 私には内緒で……皆さんを戦いに出すなんて」

 「で、でも! 月に余計な心配をしてほしくないの! お願い、解ってよ!」

 

 賈詡が、一生懸命に董卓を説得している。 ……かなり焦っているな。

 董卓は、目の端に涙を溜めている。 それでも、睨み続けている。

 

 「詠ちゃんこそ……なんで解ってくれないの? 私は……皆の王なんだよ?」

 「それは……そうだけど」

 

 董卓の言葉に、賈詡は項垂れてしまう。

 それもそのはず。 彼女は、正真正銘……『王』だ。

 

 それでも、自分が一番守ってあげたい人に……泣いて欲しくない賈詡の気持ちも解る。

 華雄や俺……否、董卓軍に所属する兵士は、皆不老不死なんかじゃない。

 だから、戦をすれば、ひょっとしたら……死ぬかもしれない。

 

 唯でさえ、誰であろうと人が死ぬ度に涙を流す心優しい董卓が、大きな戦いが有るなんて知ったら、泣かないはずが無い。

 

 「お願いだよ、詠ちゃん。 これ以上、私に隠さないで……。 もう、知らない内に、誰かが死ぬのは……もう、嫌だよ……」

 「月……。 でも、ボクは……それでも、月にっ!!」

 

 会話が重なる度に、お互いがお互い……泣き崩れていく。

 見てられないと、言わんばかりに……華雄は目を逸らす。 ……彼女にも目の端に涙が溜まっていた。

 

 やっぱり、覚悟決めないと。

 こんなに、小さな女の子が傷つくなら……俺は罪を被る。

 

 「泣かないで、賈詡。 董卓様も、どうか……俺の言葉を聞いてください。 ――泣き止んでください」

 「「っ!??」」

 

 突然の、俺の言葉に……驚きながらも、必死に耳を傾けてくれる彼女達。

 流れる雫を、一生懸命に拭いながら、俺の顔を見つめてくれる。

 

 「賈詡。 もう、どの道、董卓様はこの戦いを知ってしまった。 なら、門前までなら……連れていっても良いんじゃないかな?」

 「な……。 貴方まで、どうして……解ってくれないの!」

 

 耳まで、真赤に染める賈詡。

 恥ずかしい……などという感情では無く、単純な怒りの表情。

 

 「大丈夫」

 

 ただ一言、強く、深く、はっきりと、彼は彼女達に語る。

 

 「な、何が……何が大丈夫なのよ」

 「この戦いは、俺が出した策だ。 ……だから、約束する。 誰も、悲しませないって」

 「……ほ、本当ですか? 北郷さん」

 

 未だに、涙を拭えないでいる董卓が、潤んだ瞳で見上げてくる。

 

 「自分の言った言葉は、最後まで責任を取る。 それが、普通だからね」

 

 彼の言葉は、彼女達の心に響く。

 いつしか、二人の涙は乾いて、表情は明るく、緩んでいた――。

 やっとの思いで、董卓の説得に成功した俺だが、時間はそんな俺の努力も理解せず、世界を動かす。

 ようやく、俺が董卓を鎮めたかと思うと、息を切らした兵士から『賊が近づいている』という情報を得た。

 

 当然、もう時間の余裕はこちらには残っていない。

 軍議は中断。 急いで戦闘準備をする。

 

 ――――そして、俺達は門前までやってきた。

 

 「……すみません。 私の我侭に、皆さんを焦らせてしまって」

 

 董卓が俯きながら、呟く。

 ……きっと、後悔しているんだと思う。

 自分の所為で、俺達に迷惑を掛けているって……後悔している。

 

 「大丈夫。 まだ、天水(ここ)は平和だから……まだ、大丈夫」

 「……北郷さん」

 

 本当に? と、訴えてくる彼女の瞳に、俺は無意識の内に彼女の頭に手を乗せていた。

 

 「だから……今は、『王』として……皆にしてあげられる事を、してください」

 「……解りました」

 

 そう呟くと、彼女は多くの兵士達の目の前に立った。

 

 「……今まで、私は何も知りませんでした。 私の知らない内に、戦いがあって……沢山、人が死んで……誰かが、悲しんで」

 

 兵士が全員、董卓に真っ直ぐな瞳を向ける。

 それを、彼女は……必死に受け止める。

 

 「そして、また……大きな戦があります。 だから、私は……今度こそ、皆の『王』として、皆さんの勝利を信じて天水(ここ)で待っています! だから、皆さんも……約束してください!」

 

 大きく息継ぎをし、再び目前の兵士達を見下ろす。

 

 「皆さんは、私達の大事な仲間……『家族』です! だから、無事に……帰ってきてください! 貴方達は、決して……一人じゃありませんから!!」

 

 『『『オオオオオオォォォォォーーーーーーッ!!』』』

 

 少しの沈黙の後……天水が揺れるような錯覚を感じさせる程の、大きな雄叫びが響いた。

 

 「―――北郷さん。 私は、何もできないけど……ちゃんと、帰ってきてくださいね」

 「あぁ。 約束……するよ」

 

 ついつい、目を背けてしまう。 ―――約束を……破りそうで、恐かったから。

 

 ……向こうから、賈詡が走ってくる。

 

 「それと……これからは、私の事……月って、呼んでください」

 「……月って、意外と……ズルいんだね。 真名を……渡されたら、死んでも……死にきれないよ……」

 

 一瞬で理解した。

 何故、月がいきなり真名を預けたか。 それは……自分の存在――『命』を預けるって意味で、必ず……約束を――生きて戻ってこいって意味だろう。

 本当に、ズル賢い。

 不意を突かれたっていうか……隙を狙われたっていうか。 ―――それでも――

 

 「……ありがとう。 月」

 

 俺に、新たな……生きる目標を作ってくれた……。 月達は、絶対に死なせない!

 

 ――――それでも、俺は……生きたいと、願った―――。

 「――――そう。 月が、アンタに真名を」

 「やっぱり、不味かったかな?」

 

 難しい顔をする賈詡。 でも、月は渡すの一点張りで……所謂、頑固だ。

 

 「例え、不味かったとしても……月が決めちゃったなら、どうしようも無いじゃない」

 

 頭を抱えながら、大きく溜息を着く賈詡。

 その言葉を聞いた月は、華やかに『笑顔』が咲いて……。

 

 「ありがとう! 詠ちゃん、だーい好きっ!」

 

 このように、賈詡に抱きついて……。

 

 「だ、だから! 月!! 皆見てるってぇぇーー!!」

 

 ……と、いう感じのやり取りに、数人の兵士が笑いを吹き出したり、腹を抑える兵士も出てきて……さっきの緊張感が台無しだ。

 ―――でも、こっちの方が、良いのかも。

 

 そんな事を渋々と考えていたら、賈詡がやってきた。

 

 「と、取り敢えず……オホン。 月が真名を渡したのなら、ボクも渡すわ」

 「……良いの?」

 「だって、仕方ないじゃない! ……月が認めたなら」

 

 目を逸らす賈詡。

 

 「……なら、いいよ」

 「――え?」

 「『仕方がない』? ふざけないで。 真名っていうのは……自分の存在を表すようなものなんでしょ?」

 「そ、そうだけど――」

 「なら、どうして軽く扱うの? 仕方が無いって、それで良いの? 命より重いものなのに……」

 

 真名は、その人の存在を表す。 故に、他人が勝手に呼べば、殺されても当然。

 とても、とても重いもの。 それなのに……どうして、仕方がないから、といって預ける事が出来るのだろうか? 俺には、解らない。

 

 「……わけ……じゃない」

 「―――え?」

 「そんなわけ……無いじゃない!!」

 

 賈詡が、耳まで赤く染めて、叫んだ。

 

 「な、何を……」

 「アンタ! 本気で、そう思っていると思っているの!? そんなわけないじゃない! どうして、解ってくれないの! バカ!!」

 「え? え? えぇ!??」

 

 わけが解らない。

 仕方がないから、真名を渡すんじゃないのか?

 

 「ボクは、アンタに渡したいから……渡すの!!」

 

 賈詡の声が響く。

 それを聞いた、月は……思わず笑っていた。

 月の笑い声を聞いた賈詡は、しまった!と、言わんばかりに、顔を真赤に染めていた。

 

 「……解った。 賈詡が、そう言うなら……受け取るよ。 真名」

 「~~っ! 最初から、そう言えば良いの! ボクの真名は、詠! 忘れたら、許さないからね!」

 「あぁ。 その真名、確かに受け取ったよ」

 

 ――――そして、俺達は……月と詠、民達に見送られ、出発した。

 「さて……と。 ここが、例の場所か」

 「―――ようやく、風の出番ですかー」

 

 何処から沸いて出たのか。 何故、今まで姿を現さなかったのか。Etc……

 そんな疑問は、取り敢えず流す。 そうじゃないと、頭の要領限界を越えてしまいそうだ。 そうしたら、戦うどころでは無いのである!

 

 「風。 作戦の概要は……知ってるよね?」

 「はい。 大体は解っていますよー」

 

 流石……としか言い様が無い。

 風の言葉に不信を抱かないのは、理解しているからだ。

 風は、たまに軍議中に昼寝をしているが、内容はしっかり記憶し、理解している。

 そのため、自分自身の意見をハッキリと言えるのだ。

 

 「それじゃ、華雄の部隊を先行させたから、風を後方待機で良い?」

 「構いませんけど……お兄さん」

 

 風の瞳が俺を覗き込む、言いたい事が解った俺は、先に返事を返しておく。

 

 「解ってる。 ちゃんと帰ってくるよ」

 

 ―――そう言ってみせる。 ――約束したから。  ―皆と。

 風の頭を撫でる。 髪の間から、風独特の香りが漂ってきた。 ――少し、落ち着けた気がした。

 

 

 

 ―――あの後、俺は200人の董卓軍精鋭隊を引き連れ、森が深い所を重点的に進軍していた。 賈詡推奨もあって、指示を的確に果たしている。

 

 ……急に足場が坂になった。 恐らく、俺達は谷の上に上っている途中だろう。

 慎重に動く……そう、これは隠密行動。 何時、何処で、敵の斥候が潜んでいるのか、解らない。 だからこそ、戦場においては、焦ってしまえば負けてしまう。

 

 

 ―――もう、華雄達のところは戦いが始まっているだろう。

 それでも、焦るわけにはいかない。

 

 

 やがて、坂を上る違和感が無くなってきた。

 谷の上へ、到着したのだろう。 しかし、ここからが正念場だ―――。

 賊(頭)視点

 

 ―――目の前に起きている戦を眺める。

 

 ……アホらしい。 馬鹿げているぜ、まったく。

 

 大人しく、降伏していれば生かしておいたのに、どうして諦めないのかね?

 お前らだって、本当は絶望してるんだろ?こんな腐った世の中に。

 喰うか喰われるか、生きるか死ぬか、奪うか獲られるか。

 

 大体、賊が全員悪人だって、誰が決め付けたよ?

 今の……都に寄生している腐った役人の顔を見て、その口かよ? オイ。

 やり方違うだけで、何も変わりはしないだろうが。

 

 役人と賊の違い……それは、『税金』という名の建前だ。

 どっちにしろ、役人は全員、民から吸い取っているんだよ、『命』をな。

 俺達は、堂々と……民から奪う。 勿論、単なる『八つ当たり』だよ。

 

 俺が仕切っている集団の殆どは、邑を役人に焼かれた男や、妻を役人に奪われた男。

 ……んで、焼かれた邑の孤児……男三昧で構成されている。

 勿論、俺達が明日を生き抜く術だって持ってない。

 土地も、金も、道具も、……生きがいも。

 

 だから、自暴自棄になって……奪ってやった。 他の……平凡な幸福を感じている奴らからな。 だから、『八つ当たり』なんだよ。

 

 ――――俺は、何処にでも在りそうな邑の一人っ子だった。

 父親は農業を努め、母親は一生懸命に俺を育ててくれた。

 ―――嬉しかった。 俺は、そんな親に恩返しをしたかった、それだけなのに。

 

 そんなある日、家に役人と数人の兵士がやってきた。

 兵士はすぐさま父親を抑え、役人は母親の方へと寄ってきた。

 突然の事で、何が何だか解らなかったけど、俺はその役人に立ち向かった――母を守る為に。

 

 でも、所詮は子供……敵うはずもなく、俺は手が空いていた兵士一人に抑えられた。

 役人のクソッタレは、俺の母親が綺麗に見えて、どうしても自分のモノにしたかったらしい。 だから、『一緒に来れば、裕福な暮らしができる』等、数々の言葉で母を誘った。

 

 確かに、あの時の生活は、決して貧しくないとは言い切れない。

 けど、母は……断った。 最後まで、自分が愛した男に付いていくと、断ったんだ。

 

 しかし、その言葉が役人を怒らせた。

 ―――結果、俺の父は、母と俺の目の前で……邑の全員の前で、公開処刑をされた。

 あの時は、自分の無力さに自分自身を憎んだ。

 ―――『恩返し』? 笑わせるなよ。 寝言は寝てから言えよ。

 

 だけど、役人のクソッタレは、これだけじゃ満足しなかった。

 ……今度は、俺の母を……犯した……邑の皆の前で。

 

 ――――その後の記憶は無い。

 けど、気づいたら……俺以外の人間は、皆血まみれで、手に一本の剣があった。

 ……多分、俺が全員殺した。

 

 『黙って、助けもせず、権力に怯える邑の皆が許せなかった』

 

 『自分の欲望の為に、自分の大切な人を弄んだ役人が許せなかった』

 

 『だけど、俺は……なんで、母までも……殺してしまったのだろう』

 

 ――――そんな自分が……許せなかった。

 華雄視点

 

 防衛戦が始まって、半刻ぐらいが経っただろうか。

 未だに、敵の攻撃が止まずにいた。

 

 「はぁぁーーーーーーっ!」

 

 得物の『金剛爆斧』を横に振り払う。 数人の賊が吹っ飛ぶ。

 ふふ。 密かに張遼に稽古をつけてもらって正解だったな。

 唯、闇雲に最強である呂布に稽古をしてもらっても意味が無い。

 

 まず、私は戦闘術より、技術を学んだ方が良いという、程昱の助言が私を変えてくれた。

 

 それに、張遼は個人の武だけでは無く、用兵術も心得ている。

 あの時の私には、状況を見定める冷静さと、兵を上手く扱う技術に欠けていた。

 彼女……張遼は、そんな私が求める……師匠だったのかもしれない。

 

 勿論、私だって苦労はしたさ……。

 まずは、私に対する『罵倒』の数々。

 最初から、私は張遼に仕込まれたな。 当然、罵倒に耐えられるはずもなく、私は怒り狂った。 その度に、張遼の得物で体中痣だらけになったのは、ここだけの話だ。

 

 三日三晩、寝ずに罵倒の数々に耐えた私は……晴れて、次の段階に進む事が出来た。

 

 そう、それは……私が大の苦手とする……『戦略』の知識を学ぶ事だった。

 これには、流石に参ったさ。

 三日三晩、書物と睨めっこなんて……私の精神が壊れそうになったよ。

 張遼? アイツは、その間……三日分の睡眠をとっていたさ……。 酒に浸りながら。

 

 そして、最後の一日は……張遼の一騎打ちによる模擬戦闘だ。

 

 戦闘が始まって直ぐに、私は自分自身への違和感に気が付いた。

 

 ―――『いつもとは、違う戦い方をしている』―――。

 

 以前の私なら、迷わず自分の武を信じて突っ込んでいただろう。

 しかし、今の私は……相手の出方を待っている。

 ――――その時、初めて……自分自身の『成長』に確信を持てた……。

 

 

 「でぇぇいやぁーーーーーーっ!」

 

 今の私は……確実に冷静だ。

 向かってくる敵など、所詮は賊。 見切るのは容易い。

 

 兵にしても、槍と盾を持たせて、五列横隊に並ばせる。

 そして、五人ずつが防御の層として、壁を作る。

 

 一定時間経てば、私が指示を出して、最前列の奴は最後列へ引っ込める。

 そして、新しい層を引っ張り出す。 ―――それの繰り返しだ。

 

 「しかし……遅いな……っ! ほん……ごう、はっ!!」

 

 私とて、立派な人間だ。 疲労ぐらいはする。

 足が震え、眠気に目が支配され、視界が霞む。

 

 ―――――チッ! こんな事なら、仮眠の一つは取るべきだった!

 

 視界が霞んでいる所為で、一人の賊の突進を捉える事が出来なかった。

 思考もよく回らないのか、私は防御以外の事が考えられなかった―――。 その時。

 

 「……?」

 

 突っ込んできたはずの賊が退いていく。

 それに……向こう側がやけに騒がしい。 これは……『混乱』!??

 

 「で、伝令は居るか!?」

 「は、ここに!」

 「『強襲』成功だ。 と、程昱に伝えろ!」

 「御意!!」

 

 ふふ。 北郷め、遅いぞ……。 そんなにノロマでは、女は振り向いてはくれんぞ?

 

 ニヤリと笑う私は、いつしか遠くを見渡していた―――。

 そう、一刀が担っていた『あの役』とは、賊の首領強襲部隊の事だった。

 

 一刀の考えでは、4000人近くの人数を統べるには、やはり首領は欠かせない人材である。

 そのために、戦を仕掛けてくるならば、必ず何処かに本陣があると踏んだ。

 このような突破戦では、勿論。 総大将は常に本陣で構えるのが普通。

 ならば、谷を突破する集団とは別の集団が砂漠の平原の何処かにあるはずと、考えた。

 

 本来ならば、谷の上からの傾れる奇襲が妥当だろう。

 相手は賊。 策もろくに無いだろうと考えるのが普通だろう。

 しかし、一刀は『過去に何度かここに攻めてきた事がある集団』という言葉が引っ掛かっていた。

 そして、過去の戦闘記録で、相手は他の賊より連携が取れている事が判明。

 ならば、指揮を執っている人間が居るはずだ、という考えに至った。

 

 「ふーん。 ここを見つけ出したって事は、アンタは俺達が唯の烏合の衆では無いって考えたわけだ?」

 

 そして、現在。

 賊の頭と思われる人物と一刀が一騎打ちで対面している。

 精鋭隊の皆は、周りの賊と交戦中である。 しかし、勝敗は歴然としていた。

 

 「悠々と会話をしてあげられるほど、俺達に時間の余裕は無いんだ。 できれば、投降してくれると助かるんだけど」

 

 そう、俺達に時間の余裕は無い。

 今でも、華雄が天水を守る為に必死に戦っている。だから、俺も……俺なりに、早々に決着を付ける。

 

 「……はっ! 偉そうに……。 単に自分が傷つくのが恐いから、言葉で脅しているんだろ? 俺達にそんな小細工が通用すると思っているのか?」

 

 頭らしき少年が懐から剣を取り出して、肩に乗せる。

 ……よく見ると、歳は俺と同じくらいに見える。しかも、間違いなく……美少年と呼ばれるに相応しい顔立ちだ。

 ……目の下には漆黒とも言える、隈が深く刻まれている。

 目は赤く充血しており、身体はかなりやつれている。……かなりの重症だ。

 

 「―――――っ!!」

 

 何を言っても無駄だろうと、感じた俺は、無言で突っ込んだ―――。

 「おいおい。 仕掛けておきながら、その程度かよ!!?」

 

 目の前に、降り注ぐ剣戟。

 相手は、乱暴に剣を振り回しているように見えるが……確実に急所を狙っている。

 ……厄介だ。 彼は、無意識の内に……当たれば致命傷になる部分を重点的に攻めている。 恐らく、今までの経験が身体に染み付いているのだろう。

 

 「やっぱり、誰もがそうなんだよ! 所詮は綺麗事しか言えない、臆病者なんだよ!!」

 

 彼が言葉を口にする度、剣に感情が乗せられるかのように、重くなる。

 直接、拳に装着する俺の装備では……防げるのにも、限界がある。それに、もう手が痺れてきている。

 

 「何も知らないくせに、知った風な口を聞いて、全てを解ったような気で居る!!」

 

 剣が振り回される度に、少しずつ……しかし、確実に切れていく俺の服。

 身体に刻まれていく、無数の傷跡。 身体中が熱い……きっと、切られ続けた所為だろう。

 

 彼の瞳を覗いた。

 とても、悲しく、悔しく、憎い……。 見ただけで、目を逸らしたくなるような瞳だ。

 

 「なら……君達はっ! 何を……くっ!……知って欲しかった!!?」

 「知ってもらう気なんてねーよ!! どうせ理解されない……。 だから、賊なんて呼ばれているんだよ!!」

 「なら……俺達は君達の事なんて知らない! 解ろうともしない!! 解りたくもない!!」

 「―――――っ!!」

 

 彼の剣戟に、一つの隙が見えた。

 すかさず、俺は彼の剣を弾いて、距離を取った。

 

 「俺は、俺が護りたいと願った人達全ての為に戦っている」

 「はっ! そんなの単なる偽善じゃねーか! 護る為に誰かを傷つける!そうだろ!?」

 「そうだね。 ……でも、こんな時代に絶望しても、何も……無いよ?」

 

 少なくとも……俺は、そう思っている。

 

 「だから!! 俺達は……もう、疲れたんだよ……」

 

 項垂れる少年。

 彼から、生気が感じられない。

 

 「だから……もう……こうするしか!!」

 

 剣を突き立て、突っ込んでくる。 ……なら、俺は―――

 

 「解るよ。 まだ、君達が戦っているのは、諦めたくないんだよね」

 

 ――――拳を構え……突っ込む。

 

 「だったら、さ……。 もう少し――――」

 

 

 『―――もう少しだけ……頑張ろう……ね?』

 互いの、渾身の突撃。

 一刀の得物『獅子王』と少年の剣がぶつかり、互いが砕け散った。

 それでも、一刀は真っ直ぐと、少年の顔面を殴った。

 

 「まだ、全てを投げ出すのは……早いよ」

 

 肩で呼吸する一刀。

 右手からは、血が流れている。

 恐らく、衝撃に耐えられずに、内部出血が溢れたと思われる。

 

 「なら……どうしろって言うんだよ……偽善者!」

 

 砂漠の上で、仰向けに大の字で倒れている少年。

 

 「それは、君が決める事だよ。 確かに、俺は偽善者なのかもしれない。 ……けど、これは間違いなく言える。 偽善でも……誰かは『救える』」

 「――――――っ!??」

 「偽善でも……俺は、間違いなく誰かを救える。 だから、俺は偽善者と罵られても、戦う。 ……護りたい、大好きな人が……居るからね」

 

 思い描く一人の少女。

 俺を支えてくれると言った少女。

 彼女の笑顔が見られるなら、俺は……偽善を貫き通す。

 だから、今は……彼女が笑顔のままでいる事を願い続ける。 ……彼女の日輪として。

 

 「そして、俺は君に偽善を施すよ。 ……命は置いていく。 だから、生き延びてくれ」

 「か、勝手な……自己満足な善処だな」

 

 呼吸が困難か、彼の言葉は上手く続かない。

 その時、太陽の光が……一刀の服を輝かせる。

 

 「だって、俺は……『偽善者(陽の御遣い)』だからね」

 

 彼にとっては、小さな……それでも、強く輝く太陽が、自分の目の前に在ると、見えたのだろうか。

 その瞳に、輝きが宿ったように、光る。

 

 「それじゃ! ――――――――幸運を!!」

 

 そして、一刀は残存兵を纏めて、皆の待つ場所へと帰っていった――――。

 あとがき

 

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!!

 

 今回は、前回と違い、長かったです・・・ハイ。

 しかも、1ページ1ページの文字数が異常に多いです、スイマセン。

 

 さて、ちょっとした言い訳です。

 更新が遅れた理由は、戦略と戦闘シーンを細かく書くのに時間が掛かりました。

 果たして、戦闘の風景が皆様に伝わるかどうか・・・心配ですね。

 そして、戦略については、どうでしょうか? 斬新なアイデアでしたか?

 発想が面白いと言って頂ければ、無い頭を絞った甲斐があります!

 

 ですので、コメント頂ければ嬉しいです!!

 

 それでは、次の更新まで

 See you again!!

 

 

 

 仰向けに、日輪を見上げる一人の少年。

 

 「母さん。 俺は……一体、どうしたら良いのでしょうか」

 

 太陽に向かい、救いを求めるかのように、手を伸ばす。

 

 ―――母さん。 俺はまだ、世界と向き合えますか?

 

 ―――母さん。 こんな自分を……許してくれますか?

 

 ―――母さん。 こんな風になった俺を、信じてくれますか?

 

 

 自分を透きぬける風が、妙に……心地好かったのは、何故だろう。

 今なら……昔に失くしてしまった『笑顔』を取り戻せる気がする。

 

 

 


 
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