No.156591

さみしげなさざなみ

イツミンさん

さみしげなさざなみ
ささかまのおさしみ

とかでしたっけ?

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2010-07-10 03:11:24 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2769   閲覧ユーザー数:2699

 困った―――

 まったく―――

 

 名前が思い出せない―――

 

 棗さんが毎度毎度名前を大いに間違ってくれたから

か、自分自身で自分の名前がわからなくなってしまい

ましたわ!なんという失態かしら……。あり得ますこ

と?自分で自分の名前を、記憶の彼方遠くに追いやっ

てしまうということが!

 ……あり得ますのね。

 そう、そうよ。わたくし自身がこうして名前をすっ

かりぽっかり失念してしまっているのだから、あり得

ますのね。ですけど!全部の責任がわたくしにあるわ

けではありませんわ。あのおばか一味がいけないんで

すのよ!

 しかし……、本当にわたくしはいったいどんな名前

だったのかしら?たしか……サ行がやたらめったら多い名前ではありませんこと?さみ

……しげな……さざなみ……。違う!絶対これは違いますわ!寂重さん?……あり得る

かもしれませんわね。

 いや、それはどうでもいいんですのよ。架空の、ありもしない名前なんてどうだって

いいんですわ。肝心なのは、わたくしの名前ですわね。

 そうだ。どなたかから聞き出せばいいんですわ。確かどこかの芸人が、「怪しまれず

に忘れちゃった人の名前を聞き出す方法」をテレビで言っていましたわね。あれはなん

だったかしら……。そう!「そういえば携帯電話に登録し忘れちゃったんですけど、番

号と名前教えてもらえます?」ですわ!そこで相手が「やだな、忘れちゃったんですか?

山本ですよ」と言った瞬間、すかさず「下の名前ですよ。聞いてませんでしたよね?」

って言うんですわ!こうすれば、「あれ?この人俺の名前忘れちゃったのかな?」と思わ

れることなく、上も下も名前を聞き出すことが出来ますわ!こうすれば自分の名前を思

い出すことが出来……るかー!

 これは相手の名前を聞き出す方法ですわ!

 わたくしは自分の名前を思い出したいんですの!「忘れちゃったんですか?」「いやで

すわ。私の名前を知りたいんですのよ」って言わなければなりませんの?そんなもの、

ただのおばかさんではありませんこと!自分の名前を思い出せないなんておばかさんの

極みみたいなこと、他の方に知られたくないからこそこっそり解決しようとしているの

に、自ら「わたくしの名前はなんでしたかしら?」だなんて、口が裂けても言えません

わ。言ってしまえば光の速さで噂になって、「あのこ自分の名前忘れたんだって」「やっ

だー、ばっかみたーい」なんて話になってしまいますわ!

 わたくしの名前……。本当になんだったかしら?サ行が多い……。最高の女王様!こ

れはかなりいい線にいっている名前なのではありませんこと?わたくしの高潔さと気高

さをこれでもかと表していますもの!そうよ、これがわたくしの名前!では……ありま

せんわね。どこの誰が可愛い娘に「最高の女王だ!」なんて名前をつけるのかしら。可

愛がりが過ぎて別の意味の可愛がりになっていますわよ。

 ああもう、全く思い出せませんわ。

 大体わたくしは、なぜ棗さんが呼んでいたおかしな名前を次々と受け止めてきたのか

しら。棗さんたちが編み出した面白おかしい名前を享受してきたからこそ、本当の名前

を忘れてしまったのではありませんこと?忘れてしまったのはわたくしの失態ですけど、

原因はあの方たちにありますのね。それは間違いありませんわ。

 しかし……、思い起こせばどういうことかしら?わたくしここ最近、一度も本名で呼

ばれていませんわね。それなのに、わたくしがわたくしとしてこの場に存在しているこ

とに、全く疑いの余地がありませんわ。

 そう、名前を忘れても、わたくしはわたくしとしてここにいる!

 名前を持たない一人の美しい女子高生として、確かにここに存在していますのね!

 そうですわ。名前など、その程度のものなのですわ。名前なんて、ただ個人を個人と

して定義するのに便利なだけの、ただの記号なのですわ!本当にわたくしをわたくしと

定義付けているのは、この美貌と、カリスマ性と、冴え渡る頭脳に他ありませんもの!

 そう!そうよ!!

 わたくしはどうやら、本当にあの一味の方々ように、おばかさんになりかけていたよ

うですわね。わたくしがわたくしであるのは、わたくしの持つさまざまな類まれなる優

れた要素からなのですわ!

 名前などが、わたくしをわたくしにしているのではない!

 わたくしがわたくしであるから、わたくしなのですわ!

 ああ、目からうろこが落ちるよう……。

 

 長い時間悩んだけれど、名前なんて、覚えていなければそれでもいいことですのね!

 

「あ、佐々美様、ソフトボール部の練習、はじまりますよ」

「……ちょっとあなた、私の悩んでいた時間返してくださいます?」

 


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