放課後人気のない教室で、恭介は一人、自分の席で
漫画雑誌を読みふけっている。そこにガララと音を立
て、謙吾が理樹を引っ張って入ってきた。
「恭介大変だ!理樹が変なんだ!」
「理樹が……?どこが?」
「ちょっと見てくれ」
「理樹ちゃんですのよ!」
「……元気そうじゃないか。なぁ、理樹」
「本当にそう思うか?この格好をよく見ろ!」
理樹はスカートを軽く持ち上げ、恭介に向かってお
姫様のように頭を下げて見せた。そう、理樹は女子の
制服を着ているのだ。
「可愛いじゃないか。すごく似合ってるぞ」
「理樹ちゃんですのよ!」
恭介にほめられ、理樹は胸の前で手を合わせ、飛び
跳ねて喜んでいる。
「はっはっは、無邪気に喜んでるな。なんだよ謙吾、
どこがおかしいんだ?」
「……いいか、恭介。理樹は女子の制服を着ているんだぞ?ニーソックスまでしっかり
とはきこなし、おまけにパンツは縞パンだ!」
「見たのか?」
「理樹ちゃんですのよ!」
「見・え・た!んだ!誰が好き好んで女装した男の下着を見るか!」
「女なら、見るんだな」
「理樹ちゃんですのよ~」
「ま、どうせ来ヶ谷のいたずらだろ。似合っているし、本人も満足そうだし、別に構わ
ないだろ」
「他にもある!お前気がつかないのか?理樹はさっきから、理樹ちゃんですのよ、とし
か言ってないんだぞ?」
「どうやら謙吾はおかしくなったみたいだな」
「おかしいのはお前たちだろう!」
「……理樹ちゃんですのよ?」
「さぁな。どうして急に怒り出したのか、俺にもわからん」
「どうなってるんだこいつらは……」
その時だ。がららと音を立ててドアを開け、教室に鈴が入ってきた。
「鈴!いいところに来た!二人の様子が変なんだ!」
「鈴ちゃんですのよ?」
「お前もか!最早どうなっているんだこの学校は!」
「うっ!」
と、突然恭介は呻き、胸を押さえた。
「どうした恭介!」
「きょ……恭ちゃんですのよ!」
三人が心配そうに近寄ると、胸を押さえた恭介は苦しそうにそう声を発した。
「かっ、感染した!」
謙吾は驚き、小さく跳びのくと、不意に教室のドアが開きわらわらとたくさんの人間
が入ってきた。「はるちゃんですのよ」「唯ちゃんですのよ」「こまりまっくすなのだわ」
「真人ちゃんですのよ」。口々に「~ですのよ」と言いながら、教室中を埋め尽くす勢い
で生徒たちが入ってくる。教室の中で一人正気を保った謙吾は、あっという間に「です
のよ」集団に囲まれてしまった。
「うわあああ!く、くるなぁぁぁああ!」
ですのよ~ですのよ~と、まるでうーうー呻くゲームの中のゾンビのように、彼らは
生者(?)である謙吾をめがけてにじり寄ってきていた。抵抗もむなしく、謙吾はです
のよたちに飲み込まれ、その姿は見えなくなった。
人類はこうして、謎の「ですのよウィルス」に侵され、近代文明は滅亡した。
「というのを思いついたんだが、どうだ?鈴」
「……面白くない」
自慢げな顔で言う恭介を、鈴はばっさりと切って捨てた。そりゃそーである。そんな
こと、あるはずがないのである。
がららとドアが開いて、理樹が室内に入ってきた。
「お、理樹。いいところに来た。ちょっと聞いてくれないか?」
「理樹ちゃんですのよ?」
「……は?」
人類は謎の「ですのよウィルス」に侵され、近代文明は滅亡する……。
かもしれないんですのよ。
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理樹ちゃんですのよ。
小ネタをたくさん仕込んでたんだけど、容量の都合上カットせざるを得なかったんですのよ。
理樹ちゃんですのよ。