No.153819

真・恋姫†無双~外史を渡る者~「蜀編Ⅳ」

先の戦いを脱した一刀達だったが、五胡はすぐそこまで迫って来ていた!!

果たしてこの苦境を抜けることはできるのか!?

蜀編最終回

2010-06-27 21:39:39 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:2369   閲覧ユーザー数:1931

撤退してから早くも二日が経過した。

 

一刀達一行はなんとか無事に別の城に到着した。

 

幸い、城内には兵糧が確保されており、籠城には困らなかった。

 

しかし、敵に見つからないようにと火は炊かない、物音はたてない、など緊張は続いている。

無理な撤退と未だ続く緊張感に兵の士気は下がる一方。

 

だが、敵に見つかっていないのを見ると今の苦労は決して無駄ではなかった。

 

愛「さて、皆に集まって貰ったのは他でもない」

 

城内の一室で愛紗、桔梗、魏延、一刀の四人は籠城する城を中心とした地図を広げ、軍議をしていた。

 

愛「桃香様達からの援軍が来るまでの間、いかにこの苦境を乗り切るかだ」

 

桔「うむ…

幸い、未だ敵にここは察知されておらぬがいつまで続くかわからん…」

 

愛「うむ

今は兵達も落ち着いているが、混乱が広がるのも時間の問題か…」

 

北「成都からここまでって、どれぐらいかな?」

 

愛「向こうで早馬を出して二日…

朱里や雛里が居るのでここに撤退したと悟るだろうから…明日か明後日だろうな」

 

北「なら勝負は明日から明後日にかけてだな」

 

愛「それまで保たせるしかあるまい

では、今後だが―」

 

愛紗は地図に目をやり、攻められた場合の各自の配置を確認する。

 

この城を中心とし南から東側には険しい道があり、軍が進行出来る道ではない。

北側は大地が広がり間違いなく戦地になるのは北側。

西側には成都へと続く細い林道がある。

 

愛「西側の守りは桔梗に任せよう

援軍が来るのは恐らく西側だ、頼んだぞ」

 

桔「おうさ!」

 

愛「焔耶、北郷殿、私は城に残り臨機応変に対応だ」

 

北「わかった」

 

魏「承知した」

軍議が終わり、一刀は城内をブラブラと歩いていた。

城の中で目につくのは疲れ果て、うなだれる兵達の姿だった。

 

そんな光景を横目にでやり過ごし、城壁に上がると

魏延が鈍砕骨を片手に遥か彼方へと続く大地を見ていた。

 

北「よぅ!」

 

魏「ん?

なんだ、貴様か…何か用か?」

 

北「用って程じゃないけどさ…

隣、いいかな?」

 

魏「…好きにしろ」

 

立ってる魏延の横に一刀は腰を下ろした。

 

北「腕、大丈夫か?」

 

魏「あぁ…

武器は握れるし、闘える、問題ない」

 

そう言う魏延だが、手と鈍砕骨は包帯巻き付けていた。

その手を見る一刀は魏延が無理していると気がついた。

 

魏「お、おぃ…」

 

北「ん?」

 

魏「ま、前は世話になったな…」

 

北「え?」

 

魏「わ、私が落ちた時だ」

 

北「別に気にするなよ

俺は俺の出来る事をしただけさ

それに桃香に魏延を含むみんな事を頼まれたしな」

 

魏「…焔耶だ」

 

北「ん?」

 

焔「我が真名は焔耶だ

お、お前に預けるっ!」

 

北「ありがとう…焔耶」

 

焔「…ッ///

ふ、ふんっ!私は休む!お前も夜更かしして明日足手まといになるなよ!」

 

顔を赤くして、焔耶は鈍砕骨を抱えて城壁を後にした。

一刀は鼻でクスッと笑いその姿を見送った。

 

北「華琳…

俺、なんとかやってけてるぞ…」

 

空を見上げ、そんな事を呟いた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

秋「華琳様、お茶が入りましたよ」

 

華「ありがとう秋蘭」

 

自室にて桂花と秋蘭の三人で書類仕事に勤しむ華琳。

秋蘭が休憩の為に煎れた茶を飲もうと茶器に手をのばすと…

 

―ピキッ!

 

華「え?」

 

急に茶器にヒビが入る。

慌てる二人をよそに華琳はそのヒビを見て不安になった。

 

華(一刀…?)

それから一夜明け…

 

日が昇ると同時に五胡の軍団が太陽と共に遥か彼方から数を増して、進行してきた。

 

城壁にてその軍団を見つめる一刀と愛紗はその量に驚愕した。

 

北「明日まで保つかな…」

 

愛「保たせるしかあるまい…

我々は弱音を吐く訳にはいかないのだ」

 

北「だね…下に降りて準備するよ」

 

愛「あぁ…」

 

愛紗は一刀を横目に見送り、迫り来る大軍にグッと拳を握った。

 

下に降りた一刀は豪天砲を抱えて、勇ましく持ち場に向かう桔梗と出会った。

 

北「桔梗さん!」

 

桔「北郷殿か、いかがなされた?」

 

北「準備にね

桔梗さんは落ち着いてるね」

 

桔「うむ

焦る気持ちは分かるが、将たるものいかなる時も冷静さを失ってはならん」

 

北「そ、そうか…」

 

桔「華琳殿もそうしていたであろう?」

 

北「あぁ…そうだね」

 

桔「では、わしは持ち場に着く後は任せたぞ」

 

北「わかった、気を付けて!」

 

一刀は桔梗の勇ましい背中を見送り戦の準備を始めた。

 

北「戦況は?」

 

桔梗を見送り、城壁に昇る一刀は愛紗と焔耶のもとに行き戦況を聞いた。

 

愛「まだ動きはないな…逆に静かで怖いな」

 

北「まだ動きなしか…」

 

焔「ん…?!

見ろ!敵が動いたぞ!!」

 

焔耶が指差した方向を見ると大軍から突出する少数隊が城に向かって来た。

 

愛「一気に来るかと思ったのだが…よし、こちらは奴らの動きを見る」

 

愛紗の指示で籠城を選択

以前のように討って出ることはしなかった。

 

だが、かと言って全く抵抗しないわけではない

城壁の上から弓を構え、矢を射る。

 

愛「北郷殿、弓は使えるか?」

 

北「一応な…

前に秋蘭に基礎だけ教わったよ」

 

愛「射れるだけで結構ですよ

乱戦になりますからね

よし、各員構えろ!

………今だっ!放て!!」

 

迫り来る敵に城壁から矢の雨を放つ。

桔「向こうは派手にやっておるな…」

 

西側に構える桔梗は北側から聞こえる兵達の声に、喧嘩師としての血が騒ぎ出していた。

その様子見ていた兵士は桔梗を抑えた。

 

「厳顔様、ここは堪えて下さいよ」

 

桔「分かっとるわぃ…だがな、若い奴らが戦っておるのにわしは待機とはなぁ…」

 

桔梗は頭ではわかっているのだが納得がいかないらしい。

 

その頃、北側では…

 

 

愛「撃てっ!撃てぇーっ!!

矢を残すな!一矢で仕留める覚悟で放て!」

 

間髪入れずに矢を放つ一刀達

城壁から敵軍の動きを見る一刀は次第に敵が後退していってることに気が付いた。

 

北「妙だな…なんで敵が下がるんだ…」

 

「関羽将軍!

敵軍、後続が迫って来ています」

 

愛「くっ…やはりか…数は?!」

 

「それが先程と数はかわらないようです」

 

北「なんで一気に来ないんだ?」

 

一刀は城壁から下をのぞくと城門前の敵の数が先程より明らかに減っているのに気が付いた。

それと同様に攻撃も弱まっていた。

 

愛「よし、先程と同様に打ち続けるぞ!」

 

愛紗は兵に指示を出し、弓での攻撃を続けた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

徐「甄姫、お主の思惑通りか?」

 

甄「当然ですわ!

まぁ、探すのに手間を掛けたのはやむを得ないですけど」

 

徐「まぁ、仕方あるまい…

あの方の言う通り、魔王は頭がキレるからな…あの劉旗には騙されたな…」

 

甄「全くですわ…

で・す・け・ど・今回の戦いに死角はありませんわ

林道には策を二重に配していますし」

 

徐「ふん…では儂は高みの見物といくかの」

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

西側の守備に着く桔梗の隊は援軍が来る林道に伏兵の姿を発見した。

「報告!

西側林道に敵の伏兵を確認しました!」

 

桔「なんだと!?

えぇい…このままでは援軍の到着が遅れる…いや、それどころか援軍が危うい…

愛紗に伝令を放て、儂等は林道の伏兵を討つと!」

 

「はっ!」

 

兵が走っていく姿を見送り、桔梗は豪天砲を掲げ、兵を鼓舞した。

 

桔「厳顔隊!

林道の伏兵を討ち貫くぞ!

儂を含め、少数編成で良い

残りは引き続き西側の守りを続けよ!」

 

「「「「「応っ!」」」」」

 

兵達の勇ましい声が響き、桔梗は馬に跨り林道を目指した。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

愛「そうか、桔梗が動いたか…分かった引き続き、連絡を欠かさないでくれ」

 

「はっ!」

 

桔梗から放たれた伝令の連絡を受けた愛紗

相変わらず、北側の攻めは激しく桔梗の対応に助けられた。

 

林道に入った、桔梗と少数の兵は木々に隠れる伏兵を撃破していった。

 

桔「我が豪天砲を食らうがいいっ!」

 

轟音が林道に響き、敵を次々と撃破する。

全弾討ち尽くした豪天砲に次弾を込めようとした時…

 

「今だっ!厳顔を討ち取れ!!」

 

木々に隠れていた兵が、桔梗達の前に現れたのだ。

そこで桔梗は自らが策に掛かった事に悟った

最初の敵は桔梗の豪天砲を討ち尽くさせる為の伏兵

次に来たのは桔梗を討ち取るための伏兵だったのだ。

 

桔「ちぃっ!」

 

「厳顔の豪天砲は撃てん!

囲んで叩き潰せ!!」

 

さらに数を増す伏兵に豪天砲を封じられた桔梗は苦戦をしいられた。

 

桔「おぃ、お前!

城に戻り愛紗に兵を借りてこい!」

 

近くにいた兵士に指示を出す桔梗

兵士は城に戻ろうと駆け出すと敵兵がその兵士に切りかかった。

 

「行かせるか!」

 

「ひぃ!」

 

桔「どけぇっ!!」

 

豪天砲の先端の刀で兵を退けた。

 

桔「行けっ!」

 

「は、はっ!」

愛「撃て!撃てー!!」

 

北側で矢の攻撃を続ける愛紗達

しかし、連続的な攻撃と休む間のない敵の攻撃に矢がつき掛けていた。

 

「報告!

敵の後続隊、接近!

数は先程と同数!!」

 

愛「なんだと!?」

 

「関羽様!

このままでは矢がつきてしまいます!」

 

北「…待てよ」

 

何かを思い出した一刀が下を覗くと、先程同様に兵の数が少しづつ後退しているのが目についた

その一連の行動を見てある事を思い出した。

 

北「…洛陽戦…

愛紗さん!洛陽戦だよ!」

 

愛「え?」

 

焔「何の話だ?」

 

北「そうか、焔耶は反董卓連合の時には居なかったし、その後の蜀と魏の戦いも居なかったんだな…」

 

焔「だから何の話だ!」

 

北「華琳が洛陽攻略の時に使った策だよ

隊を少数に分けて間髪入れずに攻撃をする…休む暇も策を労する時間も与えない策だ」

 

愛「あれか!」

 

洛陽攻略の策

華琳が反董卓連合の時に一刀のコンビニの話しから作った策で、相手に一日中、間髪入れずに攻める事で、気力と体力を奪い相手を消耗させ、決戦を仕掛けさせる。

さらに決戦を仕掛けても相手は気力も体力も残っていない状態なので、勝率が上がると言う策のこと。

 

焔「なぜそう言い切れる?」

 

北「あれを見てくれ」

 

焔耶と一緒に城壁から下を覗き説明した。

 

北「まず、城門前に居る敵兵がどんどん後退してるのがわかるだろ?」

 

焔「あぁ」

 

北「あれは、後続隊と入れ替わる準備をしてるんだよ

最初と二回目の攻撃は後続隊が来たのに勢いが変わらなかっただろ?」

 

焔「言われてみれば…」

 

北「と、なると考えられるのは恐らく今言った通りの策だろう…

だけど、この策を考えた奴はそうとうタチが悪いな…わざわざ城門に少人数残して本当に隙がないぜ…」

愛「どちらにしても、このままでは不味い…」

 

と、そこに三人を絶望に追いやる知らせが入る。

 

「か、関羽将軍!」

 

駆け込んで来た兵士は息を切らし、怪我をしていた。

 

愛「どうした!?」

 

「げ、厳顔様が…伏兵に合い、西側林道で苦戦中です」

 

愛「なに?!」

 

焔「桔梗様が…」

 

北「…苦戦…」

 

駆け込んで来た兵士は桔梗が伝令を託した兵士だった

さらに愛紗に「至急援軍を」と頼むが愛紗は今、置かれている状況に援軍が出せないことなどすぐに分かった。

 

焔「どうするだ愛紗!」

 

愛「今考えている…」

 

焔「くっ…」

 

北「愛紗さん…可能性は低いが突破口はあるよ」

 

愛「本当ですか!?」

 

北「だけど、死ぬ可能性も少なくない…

いや、むしろ死ぬ可能性の方が高い」

 

愛「それはどんな策ですか?!」

 

一刀は重い口を開いた。

 

北「まず、怪我人や負傷者を西側に荷車などで送る

俺達は北側に敵兵の入れ替えで攻めが弱まる、所に討って出て西に走る」

 

焔「それなら我々も西側に最初から行った方がいいんじゃないか?」

 

北「昨日の軍議の時に地図を見たら、林道はそれほど大きな道じゃなかった

桔梗さんは危ういけど、一斉に西側に行ったら、動きが鈍くなる

それに俺達が北側の殿を受け持たなかったら北側からの猛攻で苦戦…最悪…全滅だ

だから攻撃が緩む隙に俺達が奮戦、数隊は西に走り桔梗さんを救出、俺達は頃合いを見て西側に走り一気に林道を突破するんだ」

 

愛「だが、それでは北側を受け持つ我らは…」

 

北「…危ないよ

途中で敵部隊が来たら一気に攻められる

だけど、可能性は0じゃない

どうせここに居てもこれ以上籠城なんか出来ない

だったら…」

 

愛「……分かった

各員に通達!

我らはこれより麦城を抜ける!

怪我人は荷車に移し、西門へ!

戦える者は我が旗に集え!」

慌ただしく動く城内。

一刀の策を実行する事になった面々は言われた通りに準備をしていた。

 

北「焔耶、包帯まだある?」

 

焔「あぁ…これでいいか?」

 

懐から包帯を取り出し一刀に投げつける

一刀はそれを片手で受け取ると刀を抜き、利き腕である右手と刀を包帯で巻いた。

 

北「これで…よし!」

 

焔「む?それは何だ?」

 

北「願掛けかな?

怪我しても最後まで戦う的な?」

 

焔「あ?」

 

北「俺も良く知らないんだけど…昔の人はよくしていた…ような」

 

焔「ふん…胡散臭い願掛けだな」

 

北「ま、気持ちの問題さ」

 

愛「二人とも!

準備が出来たぞ!!」

 

城壁から降りた二人は愛紗がまとめた隊に加わった。

そこには一刀が予想したより少ない兵達が立っていた。

 

北「これだけか…」

 

愛「うむ…怪我人が思ったより多くてな…不味いですか?」

 

北「いや、ようはタイミングの問題さ…」

 

愛「たい、みんぐ?」

 

北「時期って奴だよ…」

 

愛「はぁ…」

 

北「よし…行こう!」

 

愛「はっ!

皆の者!我らはこれより修羅道に入る!

敵は多く強大だ!

しかし、その修羅道を越え、敵を討ち倒せば光がある!

皆の奮然が未来を切り開くのだ!

各自、奮起せよ!

皆の命…私に預けてくれ!!」

 

「「「「「応ーっ!!」」」」」

 

そして、戦闘準備をして

突撃のタイミングを見計らった。

策を考えた一刀が城壁から下を見つめていた。

 

北「……ッ!

今だっ!愛紗さん!!」

 

愛「承知!

全軍!突撃ー!!」

 

門を開け、血気盛んに愛紗の部隊が突撃していく

前線で戦っていた敵は突然現れた愛紗の部隊に混乱した。

 

愛「無理に戦うな!

突破するだけを考えろ!!」

 

焔「邪魔だ!」

 

愛「焔耶

我らは殿を受け持つぞ!」

 

焔「承知!」

城壁から降り、愛紗達と合流した一刀は急に吐き気に襲われた。

一刀は先の乱世でも戦場には立ったいた

しかし、それは常に誰かが傍らにいた。

 

だが、今は誰も居ない。

命を賭ける戦場に立った一刀は不安と恐怖が重なり、吐き気として現れたのだった。

 

北(これが戦場…)

 

「死ね!」

 

そこに放心状態の一刀に敵が切りかかる。

 

焔「北郷!」

 

切りかかる敵兵を鈍砕骨が粉砕する。

 

焔「何を呆けている!」

 

北「わりぃ…」

 

焔「ここは戦場だ!

一緒の隙で命を失うのだぞ!」

 

北「…そうだな…

焔耶、一発殴ってくれ」

 

焔「ん?」

 

北「気合いと覚悟が足らない…頼む!」

 

焔「分かった…はぁっ!」

 

一刀の頬に焔耶の拳が炸裂する。

その一撃で倒れてしまいそうになるが、足を出して体制を維持した。

 

北「…っしゃ!気合い入った!!

行くぜ!!」

 

焔「あぁ!」

 

一刀の覚悟。

それは人を斬る事ではなかった。

 

敵と対峙する一刀は得意の居合い抜きで鎧に生じる僅かな隙間に峰打ちを叩き込み、ひるんだ所に顎や脇、みぞ打ちを入れ戦う力を奪う。

 

人を殺す覚悟より、人を殺さず守る覚悟。

それが星との一騎打ちで見いだした一刀の戦い方だった。

 

愛「怯むな!

前に進む事だけを考えろ!!」

 

北「愛紗さん!戦況は?!」

 

愛「あぁ、ある程度の兵達は西に流れた

後は我らだけです」

 

北「なるほど…なっ!」

 

背中合わせに語る二人に無粋に割って入る敵兵をはじき飛ばす。

そこに焔耶がやって来た。

 

焔「愛紗!頃合いだ!」

 

愛「よし!

北郷殿、我らも参りましょう」

 

北「おぅ」

 

?「なるほど…そう言う事か」

 

三人が駆け出そうとしたその時、砂塵の中から棍棒が破城鎚のように飛び出して来た。

愛「ぐっ…!」

 

とっさに偃月刀で防いだ愛紗だったが、強襲だった為体が圧されてしまう。

 

北「愛紗さん!」

焔「愛紗!」

 

砂塵が止むと棍棒から腕と、徐々に姿を表した。

 

愛「やはり、お主か…徐晃」

 

徐「兵の混乱に気付いて前に来てみたらこの騒ぎ…だが、ツいているようだ

あの関雲長との決着がつくのだからな」

 

北(不味い…徐晃が出て来ることは計算外だ)

 

愛「一刀殿、焔耶…先に行って下さい。」

 

北「何を言ってるんですか!?

愛紗さん一人でどうにかなる相手ではないだろ!」

 

愛「ここは私が受け持ちます…二人は桔梗を」

 

焔「愛紗…」

 

愛「大丈夫だ…

我が名は関雲長!

桃香様のもとに帰るまで死にはしない!!

二人共行け!」

 

北「くっ!」

 

焔「行くぞ北郷!」

 

愛紗を残し、二人は走って行った。

 

徐「はっ…死なないとは大言壮語だな、関羽」

 

愛「大言壮語かどうか、試してみるがいい!

はあぁぁぁっ!!」

 

偃月刀を構え、矢のごとくスピードで徐晃と距離を詰める。

 

槍の間合いに徐晃を入れると横なぎの一閃を放つ。

 

徐「遅い!」

 

愛「なっ!?」

 

徐晃はその一撃を飛んで避け、空中でバランスを取り棍棒で連打を放つ。

 

愛「くっ…!」

 

すぐに偃月刀を構え直し、連打を全て弾き飛ばす

最後の一撃を弾くと一旦、距離を離す。

 

愛(なんという一撃…力が分散することなく一撃一撃が重い)

 

徐(さすがは軍神と言われるだけはあるな…

あの連打を全て見切るとはな)

 

互いにお互いを認め合いながらも、次の一撃のタイミングを見計らったいた。

 

徐「関羽よ!

儂は勝ちに行かせて貰うぞ」

徐「せいっ!」

 

徐晃は地面を叩きつけ砂塵を巻き起こす。

砂塵は愛紗と徐晃との間に発生し、互いに姿が見えなくなる。

 

愛「何をする気だ…」

 

身構え、出方を見る愛紗

その時、砂塵を突き、棍棒が愛紗に放たれる。

とっさの攻撃に困惑する愛紗だったが難無くこれを防ぐ。

 

愛「そこか!」

 

砂塵を切り裂くが、砂塵の奧に徐晃はいない

すると後から再び轟音と砂塵が立ち上る。

さらに砂塵は後方だけではなく愛紗を取り囲むように発生し、あっという間に愛紗は砂塵の壁の中に閉じこめられてしまう。

 

愛「ぐっ…!」

 

徐「ふふ…どうじゃ、砂塵結界は?」

 

愛「結界だと…抜かすな

これではお主と私、互いに見えないではないか」

 

徐「それはどうかな…?」

 

愛紗は気を張り詰めらせ、砂塵に隠れる徐晃を探すが

砂塵を突き抜き、棍棒が愛紗に放たれた。

 

愛「なに!?」

 

とっさに身をかわし棍棒を避ける。

しかし、今度は体制が整う前に愛紗の背後や左右から攻撃が飛んでくる。

 

愛(馬鹿な…なぜこれほどまで正確に打ち込めるのだ?!)

 

今度は愛紗が偃月刀を振るい砂塵を切り裂くが、煙を裂くようで手応えがない。

そうこうしていると背後から強烈な一撃をくらって、倒れてしまう。

 

愛「がっ!」

 

徐「手応えありじゃな」

 

呼吸が乱れる愛紗の前に砂塵の中から出て来た。

 

愛「なぜ…あれほど、正確に…打ち込めるのだ?」

 

戦「儂は砂と風を読むのに長けていてな、微かに動く砂を読み攻撃を打ち込めるのだよ

まぁ、お主はむやみやたらに偃月刀を振るうので位置を読むのは容易いがな」

 

愛「くそ…」

 

徐「安心しろ…お主だけが死ぬのではない

あの弓使いや、鉄砕娘に魔王もお主の後を追うさ」

徐晃の言葉に愛紗は躍起になり偃月刀を振るうが、状況は変わらなかった。

 

一時的に姿を表した徐晃だったが、また砂塵を起こし姿を隠し愛紗に攻撃を与える

愛紗はただ気合いのみで徐晃の攻撃を耐えるが、猛攻になす術がなくダメージだけが体に蓄積されていった。

 

そして、ついに愛紗は膝をついてしまう。

 

愛「はぁ…はぁ…」

 

徐「もう、とどめと行くか…」

 

愛「ぐっ…!」

 

砂塵から姿を表す徐晃は愛紗の前に立ち、彼女を見下した。

 

徐「睨んだとて、戦況は変わらんよ…

死ね」

 

愛(桃香様…みんな…申し訳ない…)

 

棍棒を振り上げ、最後の一撃を放たれるが…

 

 

 

 

 

 

 

北「はぁっ!」

 

 

 

 

 

 

突如、砂塵を裂き一刀が居合い切りを放ち、徐晃の棍棒を止めた。

 

徐「貴様は!?」

 

北「焔耶!」

 

焔「うおぉぉっ!」

 

今度は徐晃の背後から焔耶が現れ、鈍砕骨を放つ。

 

徐「ちっ…!」

 

もう片方の棍棒での鈍砕骨を弾き飛ばし、二人から距離を取る。

 

愛「北郷殿…なぜ戻って来た…?」

 

北「俺は桃香に君達を任された

だからだ」

 

愛「しかし、桔梗は…」

 

北「桔梗さんも助ける

愛紗さんも焔耶も…兵達みんなもだ!」

 

愛「北郷殿…」

 

焔「愛紗、無事か?!」

 

愛「大事ない…」

 

手を貸そうとする焔耶を止め、偃月刀を杖変わりにしてヨロヨロと立ち上がる。

 

徐「全く…武人の戦いに横やりとはな」

 

北「俺はみんなを守りたいだけだ

それで別に文句を言われても構わない!」

 

焔「お前には私も因縁がある…悪いが相手をしてもらうぞ」

 

徐「全く何奴もこいつも

…興がそがれたよ!」

 

北(―ゾクッ!)

 

徐晃の「興がそがれた」その一言を聞いた途端、一刀は徐晃から発せられる殺気に体を身震いさせた。

そして、その刹那、徐晃の姿は一瞬視界から消える。

徐「邪魔だ」

 

視界から消えた徐晃を次に捉えたのは、一刀の目の前

棍棒から突きが放たれるのを目視した一刀は刀で抑えるが、まるで大砲を食らったかのような衝撃を体全体から受け、吹き飛ばされてしまう。

 

北「(抑え…き、れ…)

うあぁあぁぁぁっ!」

 

一刀の体は数メートル先の麦城の壁にぶつかる。

 

焔「北郷!」

 

愛「焔耶!前だ!!」

 

徐「…どけ」

 

焔「なっ!?」

 

今度は一刀の隣に立って、鈍骨砕を構える焔耶に棍棒で構えを解き、無防備なった懐に肘打ちと棍棒で腹を打ち、肩に蹴りを放ち焔耶を地に倒す。

 

焔「ぐはぁっ!」

 

愛「貴様ー!!」

 

力を振り絞り、渾身の一撃を放つ愛紗

しかし、今の化け物じみた徐晃の前に愛紗の攻撃は火に油を注ぐだけ

その一撃を軽く弾くと棍棒で脇腹を叩く。

 

愛(さっきまでの攻撃とは比べものにならない!)

 

一瞬

たった一瞬で三人は徐晃に倒されてしまった。

 

徐「邪魔者どもが…」

 

焔「くそ…」

 

徐「黙れ…」

 

焔「ぐはぁっ!」

 

地に仰向けで倒れる焔耶の腹部を踏みつける徐晃の眼光は鋭く、そして殺意に満ちていた。

 

北「…くっ!」

 

そこに一刀が徐晃を間合いに入れ、居合い切りを放とうとするが徐晃が棍棒を突きだす。

それを星との戦いでも使った体を回転させる技で棍棒をかわし、その回転の勢いを活かした居合いを放つ。

 

徐「遅い」

 

だが、全てを見切っていたように徐晃が手の甲で一刀の刀を止める。

 

徐「邪魔だ」

 

もう片方の棍棒で一刀の腹に一撃を入れる。

 

北「うぐ…!」

 

徐「…どけ」

 

さらに脇腹を棍棒で叩く。

骨がきしむ音とともに一刀はその場に倒れる。

 

焔「ほ、北郷…」

 

北(骨が何本かいった…一方的だ…活路がねぇ)

徐「貴様に全てを守るなど出来はしないのだ…

今頃あの弓使いも、あの世さ」

 

戦華の言葉に反発する三人だったが、その言葉は当たっていた。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

桔梗は手連れの兵を失い、次第に追い込まれていた。

豪天砲に次弾を詰める事も出来ず、敵兵の猛攻に圧されていた。

 

桔(儂もここまでか…)

 

周りには数十人ほどの敵兵

間合いをジリジリと詰めてくる。

 

桔「(戦場で死ねるだけましか…だが!)

この厳顔!ただでは死なぬ!!

一兵も多くともに地獄に連れて行くわぃ!

さぁ!よく見よ!

これが喧嘩師の最後の戦ぞっ!!」

 

豪天砲の刃を敵兵に向け、突撃を仕掛ける桔梗だが、桔梗が斬りつける前に次々に敵兵が倒れていった。

 

?「危なかったわね、桔梗…」

 

桔「お、お前は…!?」

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

一方、一刀はボロボロになりながらも戦華に向かって行った。

しかし、力の差は歴然

一刀は無駄に怪我をするだけだった。

 

徐「止めておけ」

 

北「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

何度も何度も倒される一刀だったが、何度も何度も怪我を抑えながら立ち上がった。

 

徐「何故そうまでして抗う?」

 

北「信じ、てる…からだ」

 

徐「信じる?何を信じるのだ?」

 

北「みんなが来て…お前達に勝てるって…」

 

徐「愚かな…

林道には伏兵、あの弓使いも今頃は…」

 

北「どうかな?」

 

徐「…」

 

北「お前達の…敗因を…教えて、やるよ」

 

徐「ん?」

 

北「それはな…蜀の力を見くびった事だ!」

 

?「そう言うことだ!」

 

?「っしゃおらぁぁぁぁっ!」

 

徐「何!?」

 

一刀が言葉を言い終えたその時、左右から二本の槍が徐晃を挟撃する。

それを後ろに下がり、避けた徐晃は槍の持ち主を見て驚愕した。

 

徐「馬鹿な…!」

 

星「蜀の五虎将が一人!

常山の趙子龍!ここに参上!!」

 

翠「同じく蜀の五虎将が一人!

錦馬超!推参!!」

愛「星…翠…!」

 

翠「へへっ!待たせたな、愛紗!」

 

星「後は私達に任せておけ!」

 

愛「いや、お前達!

桔梗が伏兵に合って…」

 

桔「わしがどうした?」

 

愛「え?」

 

焔「桔梗様!」

 

愛紗が目を向けるとそこには紫苑に肩を借りた桔梗と桃香、桃香を守るように鈴々、さらに雛里と朱里が立っていた。

 

愛「桃香様!」

 

北「みんな…」

 

朱「皆さん!

一気に五胡陣営を叩きます!」

 

雛「敵本陣はすでに鈴々ちゃん、蒲公英ちゃん、恋さんが向かってます

皆さんは残る部隊を叩いて下さい」

 

向かって来る敵部隊は士気上々の蜀軍が向かい討つ。

さらに敵本陣には別働隊と、すでに攻守は逆転していた。

 

徐「まさか、既に我らが本陣にだと!?」

 

桃「これがうちのはわわ、あわわ軍師の力何だよ」

 

朱「はわわ~」

雛「あわわ~」

 

北「形成逆転だな、徐晃…」

 

徐「くっくっくっ…

まっこと見事よな!いいだろぅ!この徐公明、お主等と合いまみえん!!」

 

棍棒を構え、臨戦態勢の徐晃に対する星、翠の二名も槍を構える。

 

後ろに構える紫苑は桔梗を桃香に預け、矢を引き援護に回れるようにする。

 

甄「戦華さーん!」

 

その一触即発状態の所に戦場には似使わない、ヒール音を鳴らし女性が一刀達の前に現れた。

歳は紫苑や桔梗に近いだろう、頭に派手な髪飾りを乗せ、服は紫をベースにした露出度の高いチャイナ服を着ている。

 

徐「甄か…今は忙しいんだ」

 

甄「何を言ってますの?さっさと撤退しますわよ」

 

徐「なに?」

 

甄「本陣は呂布や張飛が大暴れして、前線は総崩れ

あのお方が戻れと言っておりますわ」

 

徐「ちっ…」

 

やり切れなさそうに棍棒を下げ構え解く徐晃に一刀は以前祇針に投げかけた問いを聞いた。

北「待て!

お前達は何で俺達に戦いを挑むんだ!

それに魔と覇とはどういう事だ!」

 

徐「…魔と覇、お主で考えてみるがいい」

 

甄「さようなら~

それと、私の名は甄姫、覚えといて下さいね~」

 

ツカツカと前に出る甄姫は名をあかして戦華と共にいつもの用に消えた。

 

北(魔王北郷…魔っての俺の事か…

…ってあれ?

俺、傷だらけで…貧血か?)

 

桃「北郷さん、大丈夫」

 

北「…桃香…」

 

フラフラする一刀の前に桃香が心配してやって来る。

 

桃「北郷さん?」

 

北(やば…限…界…)

 

一刀は前のめりに倒れ、桃香の胸に顔をうずめる。

 

桃「はにゃ!?」

 

愛「ほ、北郷殿!?」

 

星「あんずるな、疲労と緊張が途切れたんだろう」

 

星が一刀の顔を覗く込むと顔色見てそう言った。

桃香はそれを聞いて、安心して一刀をそっと抱きしめた。

 

桃「お疲れ様、北郷さん」

 

残る敵部隊は諸葛亮と鳳統の指示のもと、援軍の蜀軍が撃破する。

 

敵本陣攻略は数刻で終わる。

恋を筆頭に暴れたりない、翠と鈴々が前線に飛び出し敵軍を撃破する。

途中、「出番なぁ~い!」と蒲公英が膨れて帰って来る。

怪我人の簡単な治療を城内で済ませ、馬車に一刀と愛紗、焔耶に桔梗を乗せると前線での戦闘も終わり、みんなで成都を帰還する。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

その晩

一刀が目を覚ますとベッドの上にいた。

 

一刀は搬送中も気絶した状態で成都に帰ってから誰かにベッドに寝かされたようだった。

 

北「あぁ…窓が暗いや…」

 

朝から戦闘だった一刀は夜になっていたのを見て、自分が生きているのを確信した。

 

寝ぼけた目をこすりながら、一刀が部屋を出ると庭に桃香の姿を確認し、庭に出た。

 

北「桃香!」

桃「あ、北郷さん!

起きたの?」

 

北「あぁ、心配かけた…のかな?」

 

桃「へへっ…

うん、とーっても心配したよ!」

 

クスッと笑う桃香は頬を膨らませ、いたずらっぽく言った。

 

北「悪い悪い…」

 

桃「北郷さん、みんなを守ってくれたんだってね?

愛紗ちゃんが言ってたよ、「北郷殿は信に値する人物だー」ってね」

 

北「はは…愛紗さんにそう言われれば大丈夫だな

だけど俺、みんなに守られてたんだと思うけど」

 

桃「うぅん…北郷さんはみんなを助けてくれた

最後だって、あんなにボロボロになっても敵に向かって行ってた」

 

北「あれは…必死だったんだよね…」

 

桃「北郷さん…」

 

北「え…?」

 

一瞬の不意を付かれ、一刀は桃香に唇を奪われた。

 

北「桃、香…?」

 

桃「ありがとう、私の大切な人を守ってくれて…これは…お礼と私の気持ち」

 

北「桃香…」

 

桃「北郷さん…ここに残らない?」

 

北「え?」

 

桃「北郷さんがここに居てくれれば、みんな喜ぶし

別に華琳さんのところじゃなくてもいいんじゃないかな?」

 

北「…ありがとう」

 

桃「じゃあ!」

 

北「けど、ごめん…

俺は華琳のそばに居たいんだ

あの背中を見ていたいんだ

だから俺は魏に帰る」

 

桃「そっか…うん、そうだよね!

ごめんね、変な事言って!

じゃあ、お休み!」

 

北「あ、桃香!」

 

一刀から逃げるように桃香は走って行った

一刀は桃香の後姿を見て、少々複雑な気持ちになった。

 

 

 

しばらく走った桃香は廊下の手すりに手をつき、息を整えた。

 

桃「あうぅ~~…

変な事言っちゃったよ~

それに…ふえぇ~~…」

 

先ほどの一刀との口付けを思い出し、頭から「ボンッ!」と音を出して顔を真っ赤にした。

星「おやおや、桃香様の顔がまるで桃の様に熟れておりますな…

食べてしまおぅ…ムチュー」

 

桃「あわわ!星ちゃん!」

 

徳利を片手に顔をほんのり赤く染めた星が桃香に絡み付き頬に唇を寄せる

その吐息からは酒の匂いがこぼれる

ギリギリで星の体を止める。

 

桃「せ、星ちゃん!?酔ってるの?」

 

星「ん?

先ほどの男と女の絡みを肴に一献頂きましたゆえ」

 

桃「はわわ!」

 

星「あなたはうちの軍師ですか…」

 

桃「いつから見てたの!?

どの辺から!どこから!」

 

星「落ち着きなされ…

はい、ヒーヒーフー、どうぞ」

 

桃「ヒーヒー…フー?」

 

星「はい、もう一度」

 

桃「ヒーヒーフー…

これって意味あるの?」

 

星「ネタゆえ、特に意味はありませぬ」

 

桃「なんなの…」

 

星「さて、では話しを聞くとしましょう」

 

星「それで、どういう展開であのようになりました?」

 

桃「本当に聞くんだ…」

 

星「当然です

ネタのページは終わりましたゆえ」

 

桃「実は…」

 

先ほどの一連の流れをあらかた説明する桃香

星は徳利の酒をチビチビと飲みながら話しを聞いている。

 

桃「と、言う訳なの…」

 

星「なるほど…桃香様は北郷殿に惚れたのですね」

 

桃「ほ、ほほほほ、惚れ…!?」

 

星「良いではありませぬか、北郷殿はなかなか見所のあるお方

それに、あの華琳殿も一目置く方ですぞ」

 

桃「そこが問題何だよね…」

 

星「覇王の男に惚れた事がですかな?

何をおっしゃるかと思えば…」

 

桃「ほ、へ?」

 

星「確かに北郷殿と華琳殿が過ごした年月に比べれば、桃香様の月日では適うはずもありませぬ」

桃「…」

 

ズバッと来る星の言葉に桃香は顔を沈めた。

 

星「しかし、月日がなんです年月がなんぼの物です

そんな物、桃香様自身の北郷殿に対する思いで越えればよい」

 

桃「私の…思い」

 

星「左様…しかし、夢を叶える為に力をくれた覇王が恋敵とは…さてさて難儀ですな」

 

桃「…」

 

星「しかし、愛は自由…恋に王も覇王も関係ありません…

良いではありませぬか、まだその恋に終止符を打つのは早すぎますぞ」

 

桃「そうかな?」

 

星「えぇ、あなたはまだ北郷殿に思いを伝えてはいないのでありましょ

北郷殿は魏に帰ると言っただけ

覇王がなんですか?桃香様はその覇王に完全勝利こそは無くとも闘いを挑んでいたではありませぬか」

 

桃「星ちゃん…」

 

星「今一度、戦ってみてはいかがですか?」

 

桃「闘う…」

 

星「うむ…

桃香様が恋に進むなら、道中の敵はこの趙子龍が打ち倒しましょう」

 

桃「クス…」

 

星「ですが、最初と最後の道を切り開くのはあなたです」

 

桃「…うん!私、頑張るよ!」

 

星からの言葉に桃香は先ほどとはうって変わり、顔はパッと晴れていた。

 

星「よい顔になりましたな…それでこそ、桃香様です」

 

桃「ありがとう、星ちゃん…

じゃあ、私も寝るね!

星ちゃんも飲みすぎないで早く寝てね!」

 

何か吹っ切れたように桃香の足は軽く、ハズんでいた。

その後姿を見送る星は不意に空を見上げるとまん丸の月が浮かんでいた。

 

星「見事な月よなぁ…」

 

徳利からついだ酒を一気に飲み干し、星は月にこんな事をつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

星「迷える者に、天の導きを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜀編-完-


 
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