No.153571

恋姫異聞録70  定軍山編 -修羅の軍-

絶影さん

恋姫異聞録70

ついに70話です
気がつけばこんなに長い御話になってしまっています

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2010-06-26 23:50:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:12214   閲覧ユーザー数:9430

長安、兵舎の一室。

 

薄暗く、光は僅かに開いた窓から差し込むだけ。部屋には何一つ無く

 

静寂に包まれる部屋の中心で床には薄い布を一枚敷き、座禅を組み、静かに瞑想をする男

 

「・・・・・・」

 

静かに瞼を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返す男の頭には、愛する妻が目の前で傷つき倒れ、命を落とす場面が何度も繰り返し

湧き上がる。その度にユラリと男の身体から怒気と殺気が漏れ出し、まるで熱を発しているように空気が揺らぐ

 

そして閉じられた瞼からは涙が一筋頬を伝う

 

そうだ・・・これが苦しみ怒りそして悲しみだ・・・兵として理想の為に立ち、死して家族は涙を流す

俺の身体に入り込む全ての暗い感情は皆の願いだ、理想を、平穏を求める皆の願い・・・俺は願いと共に、怒りと共に戦う

たとえ敵だとしても願いは同じ。全ての業を刈り取り背負い友の、そして皆の願いをかなえる。

 

身体から漏れ出す怒気と殺気は一瞬にしてその身体に入り込み

部屋の空気は静寂と共に冬の空気のように、冷たく凛とした空気が張り詰める

 

ゆっくり開かれた男の瞳には濁りの色は消えうせ、代わりに美しく澄んだ清流のような瞳を称える

 

ガチャ

 

静寂を破るように部屋の戸が開き、そこからは美しい蒼の装備に身を包む凛々しき姿の秋蘭がゆっくりと入ってくる

 

「そろそろ皆の準備が終わるぞ」

 

「うん、今行くよ」

 

「・・・あっ」

 

優しく微笑み返事を返す男の瞳を見た秋蘭は一瞬頬を赤くしてしまう、何時もにまして優しく柔らかい空気が男の身体を包み

部屋を包む空気は先ほどとは一変して暖かい春の日差しのように、そして確実に感じる『守る』という強い意思

 

そんな空気に当てられ、いつの間にか自然に秋蘭は男に倒れ込むように抱き着いていた。そしてそんなことをしている

自分に驚いていると優しく男の掌が頭を撫で、驚いた顔は笑みに変わり強く抱きしめていた

 

「何故だろう、何時もよりずっと安心できる」

 

「・・・そうか」

 

「ああ・・・」

 

頬を染めたまま名残惜しそうに身体をゆっくり離し、立ち上がって男の手を掴み引き上げる

 

「行こうか」

 

男は頷き、秋蘭は手を引いて部屋から出ると、静寂と暖かい空気に包まれた部屋を軽く振り返り

嬉しそうに口元を笑みに変え、男と兵達の元へと歩を進めた

 

 

 

 

「真桜の工作隊に統亞達を入れる。頼んだわよ」

 

「ああ任せておけ。真桜」

 

「了解や!」

 

慌しく装備を整える兵士達、詠は指示を出し武装や策の道具を次々に兵達に運ばせていく

風も指示を飛ばし、凪達の率いる兵達の装備を整え順調に準備を整えて行った

 

「それで?あの馬鹿な試みは何処までいったの?」

 

不意に詠は男の隣に立ち、顔を見上げて男を含みの有る笑顔で見つめる

 

「まだ三割だ、だが凪と真桜、沙和は終わった。実戦で使える」

 

「ふ~ん、それがどういったものか解らないけれど、使えるなら良いわ。期待してる」

 

「期待は裏切らないよ。俺は色々と解ってきたからな」

 

今までと違い、更に温かみを増した男の気配と自信のある横顔に詠は横目でニヤリと笑うと

また兵士達に指示を飛ばし始めたさまざまな道具を運び、次々に荷車に積んでいく

そして数人分の黒い衣服を積み込んでいく

 

「後続は私に任せておけ、あまり無茶はするなよ」

 

「有り難う、大丈夫だよ」

 

先程感じ、今も男を纏う空気に大きい安心を覚えながらも身を案じ、声をかける秋蘭に男は優しく頬を撫でて返す

 

「そうだ服、有り難う。急いで作ってくれたんだろう?」

 

「それほど苦ではなかったさ、一度作った形だからな」

 

そういって秋蘭は男の手をそっと後ろから優しく握り締める。そして何時ものように軽く見上げて微笑み、男の肩に

頭を持たれかけた

 

許昌で作戦の説明後、男と娘で一緒に黒い布を買い集め手早く布を縫い合わせ、3日ほどで仕上げてしまった

あまりの速さに戦の準備の為、屋敷に通っていた詠と風が統一後、服屋をやったらどうだと進めたほどだった

 

男は肩にもたれかかる秋蘭を優しい眼で見つめながら、ふと夢のことを思い出した。

そういえば色々とあって秋蘭に夢のことを話していなかった、最後まで見たのだからどんな最後であったとしても

秋蘭にだけは言わなくては、もしかしたら悲しんでしまうだろうか?

 

「あのな・・・ばたばたしていて話すのを忘れていたんだが」

 

「どうした?」

 

「夢の終わりを見た。俺は事故にあって死んだようだ」

 

「・・・そうか」

 

男から己が死んだと口にされて、少しだけ驚いた表情を見せたが直ぐに何事も無かった用に表情を戻し、また男の肩に

もたれかかる。

 

「今ここに居るのが私の現実だ、天の国でどのような最後を迎えても今此処で私の隣に居るのが夢で無ければ良い」

 

「・・・有り難う。俺の天命は此処に有る。俺は消えたりしない」

 

それで十分だと秋蘭はまぶたを閉じて頷く、男もまた前よりも増した強い意思を眼に宿し兵たちを見ていた

 

「それで?夢は叶ったのか?」

 

「ああ、俺の夢は叶ったよ」

 

「ならば戦に勝って祝いの宴を開くとしよう」そう言って、柔らかく笑いかけてくれた

 

有り難う・・・俺の生きる意味、存在する意味は此処に有る。元の世界で恩を返すことが出来なかった祖父や祖母

今度こそ俺は、生きる意味をくれたこの人と娘を守る為に戦い、生き残る。それこそが春蘭、華琳、そして秋蘭に

恩を返すことになるのだから

 

風はそんな二人の前にテクテクと歩み寄り、詠や凪達将も男の前へと走りよってくる

 

「お兄さん、準備は整いましたよー」

 

「こっちも何時でもいけるわよ」

 

目の前には美しく整列し、槍を持ち、蒼を基調とした鎧をその身に纏い、気高く誇り高い魏の兵士が雄雄しく立ち並ぶ

 

「敵への警告は?」

 

一つ頷いた風はゆっくりと何時もの調子で報告をし始める

 

「先ほど伝令さんからの報告で、韓遂さんから御返事が来ました。一言『望む所だ』と」

 

「そうか、俺達を卑劣な手で打ち破れると思ったことを後悔させてやろう、皆俺と共に戦ってくれ」

 

         【おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!】

 

兵達は男の言葉に呼応し、雄叫びの様な声を上げ答えた。緊張感と共に士気が上がっていくのが手に取るように感じられる

熱を持った空気が流れ、兵達は高揚していく

 

風は柔らかく微笑み、依然とは比べ物にならない静かで柔らかい空気を纏う男の姿を嬉しそうに見ていた

 

「・・・お兄さんは真名の通りになったようですねー」

 

「ん?」

 

軽く頸を捻る男に風は口元に手を当てて柔らかく微笑み、見上げた

 

「ようやくお兄さんと風で風雲になれるということですよ」

 

「風雲・・・」

 

「はいー、お兄さんの真名を叢雲と名付けた時からお兄さんと風、そして詠ちゃんが組むの偶然ではなく必然

臥龍である華琳を呼び起こし、龍は風と雲に乗り空を翔け天に昇る」

 

詠も照れくさそうに男を見ずに頬を赤く染めそっぽを向きながら風の言葉に口添えする

 

「僕の真名は詠、舞いつつ詩句を唱えるのという意味よ。

 

それに詠雲は【帝郷白雲起. 飛蓋上天衛. 帯月綺羅映. 従風枝葉敷】と詠われた

 

アンタと僕は恐ろしさ、美しさ、広がり続ける自由と生命力の意味を持つ、此処に降った時にアンタと組む事は決まっていた」

 

真剣な眼差しを男に向けて話す風と詠の言葉に将兵達は驚き、言葉を失ってしまう。魏でも高い評価を受ける二人の軍師に

自分達の総大将は大きな評価と信頼を目の前で口に出され、皆はざわつき始め兵士達を包む熱気は更に熱く心を燃やす

 

「雲とは本来荒唐無稽、神出鬼没、恐ろしさと神秘の象徴。なのにもかかわらず恵みの雨を降らせ大地を潤す」

 

「天にも属さず、地にも属さず。どの世界にも飲み込まれない強烈な力強さを備えるもの」

 

          

           【それこそが叢雲そして率いるは誇り高き雲の兵】

 

 

二人の声が重なり、発せられた言葉に反応するように将兵たちから怒号のような声が上がる

男を総大将とする後に舞王率いる修羅の軍と呼ばれる覇王の影の軍が誕生した瞬間であった

 

 

「僕達は生きる為、簡単に負けたりしないわ、アンタの雨は兵達に安心を与える。民に近い将はアンタ以外に居ない」

 

「安心できると言う事はそれだけの信頼が有るということ、こらから更に大変ですよーお兄さん」

 

男は微笑見ながら話す二人の軍師の言葉に力強く頷き、秋蘭に優しく握られた手を握り返す。

 

信頼か、ならば俺は皆の信頼も背負い皆と共に華琳を天へと導く、そして平穏をこの手に

 

男は空いた手を握り締め見つめる。そして兵達に視線を移し、先ほどと同じように澄んだ美しい眼差しを向けた

 

俺は今よりももっと大きく、強くならなければ。皆を率いる俺が負ければあんな悲しみを負う兄弟が、家族が

出来てしまうんだ、友との約束を、理想を叶える為に俺は負けるわけには行かない

 

「出撃する、真桜」

 

「了解!アンタ等気張りやっ!!」

 

【応っ!】

 

黒い外套を纏い、男は馬に跨る。秋蘭は男から渡された蒼い外套を纏い、馬上で笑いかける男を優しく見上げる

兵達も装備と荷物を持ち、真桜は兵達の先頭に立つ

 

「輜重隊と皆を頼んだ」

 

「ああ、任せておけ。魏を背負うこの外套が目印だ、後続は私に続け」

 

軽く男の手を握り、身を翻すと秋蘭は後続の兵を纏め馬に騎乗する。将兵はその号令に従い美しい列を作り

先頭に立つ秋蘭の後に並んでいく

 

男は秋蘭達に手を振ると馬の腹を蹴り、兵を前進させ城から出発した。兵達の足取りは力強く大地を踏みしめ

瞳には男と同じ強い意思を灯して

 

 

 

「隊長、斥候の報告やと敵はまだこっちに来るのは時間がかかるようやで」

 

「風の計算どおりだな。予定通り行くぞ、此処に陣を立てる。統亞、何人か選別して着いて来い」

 

「はっ!」

 

俺は馬から下りて黒い外套をしっかりと着込み、黒い布を顔に巻きつける。兵達数名も鎧を脱ぎ黒い服を着込み

縄や鉈を持ち、剣や槍を置いていく。俺も腰の剣を兵に預け、望遠鏡と鉈と縄を持ち山の中へと入っていく

 

「隊長、うちも行くで」

 

「当たり前だ、真桜は俺と組む。統亞、二人一組で散れ」

 

「了解いたしました」

 

統亞は返事をすると目線で仲間に合図をし、散っていく。選別したのは元黒山賊、今回の作戦にはもってこいの人選だ

古参だけあって俺が多く言わずとも理解し付いてきてくれる、頼もしいやつらだ

 

「やっぱり隊長早いっ!」

 

「転ぶなよ」

 

にこりと笑いかけ、足音も立てずに木々の間を走りぬけていく、舞で鍛えた足捌きと柔らかい踏み込みで

足音を消し、真桜を横目で確認しながら山の中腹まで差し掛かると俺は手ごろな木に素早く登り、望遠鏡で敵の接近を確認した

 

「ここらでエエですか?」

 

「ああ、始めてくれ」

 

敵はまだ来ていない、これならば十分にやれそうだ。敵の斥候も俺達の存在には簡単に気がつかないだろう。

陣を設営している場所は大きく動いているが、俺たち少数の兵は元黒山賊。森に溶け込むのはお手の物だからな

 

木の下では真桜が気配を殺しながら縄を下ろし、鉈で落ちている木を削り縛っていく。男も周りをあらかた確認し

スルスルと木から下りると真桜と同じように木を削り始める

 

「良い縄だな、細くても十分強度が有る」

 

「せやろ?色も緑に塗っておいたんや、ぱっと見わかりずらいで」

 

自慢げにニヒヒと笑顔を向ける真桜の頭を優しく撫でると、嬉しそうに眼を細めて喜びながら手早く縄を木に巻きつけていく

 

「こんなもんかな?」

 

「十分だ、次は向こうだ」

 

男は更に山を走り、木の上に上り敵の接近を確認しながら作業を続けていく。真桜も必死に走り、追いつくとすぐさま

巻き纏めた縄を下ろし、竹や木を切り落とし縄を巻きつけていく。

 

「昭様」

 

木の上で望遠鏡を覗き周りを確認していると、足元から統亞の小さく呼ぶ声が聞こえ、下を向くと散っていた兵達が

全員集まっていた。男は木をすべるように降り、音も無く地面に着地すると真桜の頭をまたひとなで

 

「速いな、それに俺の位置も良く解ったものだ」

 

「ええ、我等は元々こういったことが得意ですから、位置も全員で確認しながら移動を」

 

「流石だな。真桜、終わったか?」

 

「終わったで、ほんなら帰りますか」

 

男は皆に微笑み、皆も男に微笑みかけ。男は自陣へと走り音も無く山を駆け抜け、山を抜け出す

 

自陣の設営は既に終わっており、後から来た秋蘭達は既に輜重隊を陣に入れ武装を整えていた

 

「帰ってきたか」

 

「只今、敵は?」

 

「斥候の報告だと後数刻で黙認できるそうだ」

 

森から出てきた男の姿を確認し、男も秋蘭の姿を確認すると外套を素早く脱ぎ、男に蒼く美しい外套を手渡す

男も黒の外套を秋蘭に手渡し、蒼い外套を纏う

 

「二度ほど着て解ったがそれは私が着るには少々重いようだ」

 

「そうか?秋蘭の防具よりは軽いと思うんだが」

 

「そうじゃない、背中の魏には沢山の人の想いが詰まっている」

 

「俺一人じゃ着れないさ」そういうと男は秋蘭の頬を撫でる。「秋蘭が支えてくれるから着れるんだ」と眼で答え

秋蘭は頬に添えられた手に手を添えて軽く頷く

 

「まったく、こんな所まできて何してんのよ。さっさと兵を動かすわよ!!」

 

「ゴメン、一馬、風を頼んだ。凪達は風の指揮に従え」

 

【了解!】

 

男は軽く笑い、詠に言葉を返す。雰囲気ががらりと変わり、戦場なのに柔らかく暖かい空気を感じてしまう友に

詠は少しドキリとしてしまう

 

・・・なんなのよ、随分と変わったじゃない!それが悪い方向じゃなく兵士にも影響を与えるほど良い方向に

前回の戦から戻って部屋で瞑想や武官全てと手合わせなんて無茶やって、少し心配だったけれど全く心配なんて必要

無かったわね

 

暖かく力強い父親のような男の雰囲気にただただ驚き、言葉を返せず。変わりに笑顔を返していた

 

「隊を二つに分ける。風を指揮官とした隊は左の山岳地帯に兵を移動させよ。俺たちはこのままだ」

 

「はいー、それでは一馬君、よろしくお願いしますね」

 

「了解いたしました、行きましょう皆さん」

 

一馬は風を馬に引き上げると、凪達と共に軽装の歩兵達と森の中へと入っていく

それを見送りながら、俺と秋蘭、詠は兵に旗と装備を整えさせる

 

風達は左に移動させた、兵も多くを風達に連れて行かせた。俺たちは予定の通り三分の一の兵士で敵を迎え撃つ

その代わり兵を多く見せる為にこちらの旗は多く立てる。斥候にも表面だけ多く兵を見せる為に前曲は兵士を集中させ

後ろ曲は旗と数名の兵だけだ

 

「さて、僕の策と老兵の経験、どちらが上か勝負よ」

 

詠は目を鋭く光らせ、乾いた唇をひと舐めし、指先を服の裾で軽くこする

次第に口の端は釣りあがり、悪い笑顔といったものになっていく

 

「嬉しそうだな」

 

「そりゃね・・・軍師なんてのは元々策を考えるのが大好きな人種なのよ。勝ってなんぼの職業だからね」

 

こういう時の詠は頼もしいが、無徒たちには見せられないな。これが聖女の本性だと知ったらどれほどがっかりすることか

なんというか、笑い方がそのまま悪人面だからなぁ。月も見た事は無いだろうな、きっと絶対に見せたりはしないだろうから

 

「アンタ今物凄い失礼なこと考えたでしょう?」

 

「応、月には見せられん顔をしていると考えていた」

 

「・・・月に言ったら解ってるわよね」

 

そういった詠はさっきよりもずっと悪い悪人の、それもラスボスのような恐ろしい笑顔を向けて俺に笑いかけてきた

言えるわけ無いだろう、何せ月は信じないだろうし、言ったら俺はきっと人には言えない酷いことになるはずだ

軍師に知恵で勝てるわけが無いだろう

 

「解ってるよ。それよりもそろそろ来るぞ、伝令が走ってきてる」

 

「ええ、気を抜かないでね。予想外のことをしてくる事も有るだろうし」

 

「大丈夫だ、今までと昭は違う。何が起きても冷静に対処できるだろう」

 

秋蘭はそういうと、男の隣で弓を握り矢筒を腰につけ戦いの備えをしていく。秋蘭の言葉に詠も先ほど感じたのは

間違いじゃない、秋蘭が感じるほどなのだからと男の変化に更に確信を持ち、走ってきた伝令兵の言葉に耳を傾けた

 

 

 

 

 

 

 

「銅心様、敵は先に陣を張って待ち構えていたようですわね」

 

「今回は向こうから戦を仕掛けてきたと言うのに、このような所で待ち構えるとは何か仕掛けておるかも知れんな」

 

馬を下り、弓を構える黄忠。そして同じく下馬し銃器のような槍とも銃ともいいがたく、一目で重装備な武器と解る

鉄塊を片手で振り回し、華奢な肩にずしりと乗せて笑う厳顔

 

「桔梗殿が仰るとおり、敵は何かを仕掛けているだろう。斥候の話では兵は我等より多い、そして左の舞王の方が

旗が多いようだ」

 

やはりまた来ているのね舞王、前回の戦いでは彼のことが良く解らなかった。一体どちらが彼なのか、ただの獣のような将

をあの曹操が重要視するわけが無い、あの後の冷静で強い意思を持つのが本当の彼ならば気を抜くことなどできはしない

 

ふと噛まれた腕がジクジクと痛み出す。傷痕も無く治ったというのにあの時叩きつけられた殺意を思い出し反応するように

あの時叩きつけられた恐ろしいまでの殺気は紫苑の心に恐怖と言う深い傷跡を残していた

 

腕を見つめ、下を向き暗い顔をする黄忠にカラカラと厳顔は笑いながら肩を軽く叩いた

 

「舞王のことか?心配する事は無い、銅心殿からも話しは聞いたのだろう?」

 

「ええ、二度ほどお会いした事が有ると。その時はあの馬騰様が認めるほどの人だったと仰っていたわ」

 

「ならばわしらは英雄の目を信じ、覇者と戦うほどの気概で行けば良い

最初から大きい相手と思っておけば、喧嘩も楽しめると言うものよ。ただ想像よりも小さな男なら落胆も大きいがな」

 

そういって笑う厳顔につられ、黄忠も軽く笑う。その隣で韓遂も軽く笑いながら敵の旗を見ていた

 

槍の端を握り、右、左と穂先をゆらゆらさせ、敵の旗を見ながら笑みは一層濃くなっていく

 

右も左も面白そうだ・・・クックックッ、相変わらず貴様らは俺を楽しませてくれるのだな。流石は覇王よ

だが左は少々つまらなそうに感じる。兵は舞王の方が多いのだがな、牙門旗を見るに疾風に加えあの将三人は

面白そうだ、俺はあれを喰らうとしよう

 

「御二人、すまんが俺は右を喰らわせて貰う」

 

「はっはっはっ、ずるいのぉ、あちらのほうが面白そうだとわしも考えておったのに」

 

「桔梗殿は紫苑殿とご一緒がよかろう?紫苑殿は考え事が有るようだからな」

 

韓遂は槍をクルリと一つ回し、地に突き刺す。厳顔は韓遂の言葉に「美味そうな獲物を取られた」と言って黄忠に

笑顔を向けた。黄忠はその笑顔と韓遂の気遣いに安心したのか、弓を強く握り笑顔で返した

 

そうね、今は戦いに集中しなければ。舞王がどんな人物だって構わないわ、桔梗も銅心様も共に戦ってくれるのだから

私は私のするべきことをするだけ、新城を守り抜き定軍山を手に入れる。いいえ、手に入れられなくとも新城だけは

守らなければ、あそこには璃々がいるのだから

 

 

 

 

 

 

男から渡された望遠鏡で木の上から敵を確認する風の眼に、韓の旗を持ちこちらに進んでくる兵士達が見えた

真直ぐにこちらに向かい進み、残りの黄と厳の旗は叢の旗へと進軍してくる

 

「きましたねー、それでは全ての兵は遊撃態勢でお願いします」

 

「了解です。行くぞ真桜、沙和」

 

凪達は返事をすると各自兵を引き連れ散開していく、風は木から下りる事はせず。一緒に上ってきた一馬に煙矢を

持たせじっくりと敵の動きを観察していく

 

もしかしたら詠ちゃんの策は破られてしまうかも知れませんねぇ。あの厳顔と言う将の持つ武器がとても

気になる所です。初めて見るものですが、風の考えるよな物であれば面倒なことになるかもしれません

 

 

 

 


 
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