一刀の旗が汜水関に挙がった翌日。
反西涼連合は汜水関を攻めるべく、進軍を開始した。
その陣容は、
先陣に孫堅。
その右翼に孔融。
左翼に陶謙。
中軍に曹操。
そして袁紹率いる本隊、
後曲に輜重隊の袁術軍。
といった具合である。
そして関の一里(五百m)ほど手前に来たときだった。
関の門が開き、中から軍勢が出てきた。
その数、一万五千。
それを率いるは、
董卓軍所属、張遼、華雄。
馬騰軍所属、馬超、馬岱。
そして幽州軍、一刀と愛紗。
関の前にて対峙する両軍。
場に緊張が満ちる中、張遼が一歩踏み出す。
「よお聞けや、叛軍ども!!うちは張文遠!!畏れ多くも帝に弓引くアホたれどもに天誅を与えるものや!!」
張遼の名乗りに、反西涼軍の孫堅が前に出る。
「我こそは孫文台!我らは帝に弓引くにあらず!帝の名を借り、暴政を働く董卓・馬騰に対し、我らこそが天誅を与えるのだ!!」
孫堅の反論に、今度は華雄が一歩を踏み出す。
「笑止!かような流言に踊らされるものに、天はけして味方せぬわ!!」
さらに、馬超もそれに続く。
「華雄将軍の言うとおり!ただ己の名声のために、董相国や母上を利用するやつは、この西涼の錦馬超が粉砕してやる!!」
「小娘どもがよくも吠える。ならば我ら孫呉の兵の力、とくと味わうがよい!!全軍、抜刀せよ!!」
おおーーーーーーー!!!
孫堅軍の兵たちが、意気高く声を上げる。
「うちらも行くで!!華雄隊はうちと正面の孫軍にあたる!翠、蒲公英は右翼の孔融軍に!一刀と愛紗は左翼の陶謙軍や!!全軍・・・突撃ぃーーー!!!」
おおーーーーーーー!!!
激闘の火蓋が、切って落とされた。
「・・・解せないわね」
「華琳さま?」
曹操が漏らした一言に、フードをかぶった少女が反応する。
「前曲も左翼も右翼も、それぞれ二万近い兵を率いているのに、向こうは少ない兵をさらに分断して当たってる。・・・桂花、あなたはどう見るかしら?」
曹操に問われた少女、曹軍一の軍師である荀彧は、少し思考を巡らせた後、
「・・・陽動ではないかと。幽州軍を率いるはずの公孫賛の旗が見当たりませんから、どこかしらに伏しているかと」
「そうね。だとすれば、麗羽の本陣狙いかしら」
「おそらく」
「・・・秋蘭!」
「は」
弓を携えた女性、夏候淵が、曹操の傍による。
「聞くかどうかわからないけど、麗羽に伝達を。伏兵が付近にいるかもしれない。斥候を放って調べるようにと。桂花、念のためこちらでも斥候を放って頂戴」
「「御意」」
曹操の命を受けて、駆け出す二人。
(・・・策を練ったとしたら、一刀・・・いえ、桃香かしら。・・・でも、私に一度も勝てなかったあなたたちでは、勝負は目に見えてるわよ?)
クスリ、と笑う曹操であった。
その頃前曲では。
「うおらーーーー!!」
「なんのぉ!!」
ガキイッ!!
何十合めかの剣戟音。
華雄と孫堅が、一騎打ちの真っ最中であった。
「やるではないか、孫堅!江東の虎の名は伊達ではないな!!」
「貴様もな、華雄。・・・うわさでは唯の猪だと聞いていたが、どうしてどうして、噂は当てにならんものだ」
「ならばなぜ、その当てにならん噂に乗った!!」
「それを貴様に話す必要はない!!」
再び激突する両者。
同じころ、右翼では。
「せいりゃー!!」
「なめるな!!」
翠-馬超の槍を紙一重でかわす、黒髪の女性。
「くっ!今のをよけやがるとはな!!名前ぐらいは聞いといてやる、何者だ!」
「あたしの名は太史子義。孫文台が配下だ」
「はあ?何で孫堅の部下が孔融軍にいるんだよ?」
「主命だ。それに、以前少しだけ世話になったことがあるのでな。義理返しといったところだ」
「そうかよ。なら、その義理堅さを後悔させてやる!!」
「やれるものなら!!」
さらに、こちらは左翼。
「そらそらそらーーー!!」
「・・・あたらないよ、そんな腕じゃね」
褐色の肌の女性の連撃を、こともなげにかわす一刀。
「くっ!・・・まるで母様とやってるみたい。・・・強いわね、あなた」
「あの孫文台と同格扱いとは光栄だね。確か、蓮華のお姉さん、だっけ」
「ええ、孫伯符よ。・・・さ、続けましょうか」
再び剣を構える孫策。
「いいよ。たっぷりと付き合ってあげる。・・・そう、たっぷりと、ね」
その戦場を関からみつめる人物がいた。
桃香である。
「・・・そろそろ限界かな?ねねちゃん、こっちのほうは?」
横に立つ少女に問いかける桃香。
「こちらはすべて終わりましたのです。後は合図を送るだけなのです」
答える少女。
「じゃあ、撤退の合図を。・・・わたしたちも、ね」
「はいなのです!!」
じゃーーーん!じゃーーーーん!じゃーーーーん!!
戦場に響く銅鑼の音。
「!合図や!!退くで、華雄!!」
「応!!勝負は預けるぞ、孫堅!!」
「逃げるか、華雄!!貴様、それでも武人か!?」
「ふ。・・・武人である前に、私は将なのでな!!」
同じく左軍。
「おねえさま、合図だよ!!」
「よっしゃ!!退くぞ、蒲公英!!」
「おのれ、逃がすか!!」
翠に掴みかかろうとする太史慈。
「へへっ!!あ-ばよ!!」
だが、一瞬早く、馬首を返し、馬を走らせる翠。
「くそっ!・・・大笑いする雪蓮の顔が目にみえてくる・・・。あ~~、もう!!」
地団駄を踏む太史慈であった。
そして左軍でも。
「義兄上!!」
「というわけだ。またね、伯符さん」
きびすを返し、駆け出す一刀。
孫策は追わなかった。いや、追えなかった。すでに疲労が足に来ていたから。
「・・・蓮華、あなたの幼馴染君は、とんでもない化け物ね。・・・ちょっとほしいかも」
「そう、撤退したの」
「はい」
(伏兵もなかったし、いったい何を考えてるの、一刀、桃香)
歯噛みする曹操。
一刀のことも、桃香のことも、よく知っている。そのつもりだった。けど今回は全く読めない。
(・・・あるとすれば、あとは時間稼ぎ?だとしても何のために・・・)
「華琳さま」
「・・・なに?秋蘭」
夏候淵が、思考中の曹操に寄ってくる。
「孫堅軍が関への攻撃を開始したようです」
「・・・そう」
気のない返事をする曹操。
「ただ、関からの反撃が全く無いそうです」
「!!・・・まさか。春蘭!秋蘭!桂花!今すぐ全軍に関への総攻撃を命じなさい!!」
夏候淵の報告を聞き、何かに気づいたように、命令を出す曹操。
「「「ぎ、御意!!」」」
曹操の命令を受け、走り出す三人。
(・・・もう、遅いかもしれないけど)
そして、それから数刻もしないうちに、孫堅軍が関の門を突破。内部に突入した。
だが。
「そう。・・・もぬけの空だったのね」
「はい。糧食もすべて空。水源もすべて潰されていたそうです」
「・・・やられたわね」
(最初から汜水は捨てる気だったわけ。・・・やってくれるじゃない、桃香のくせに)
「袁紹さまからは、今後は汜水を拠点に虎狼関攻めを行うと、通達が来ています。糧食と水はすべて、汜水に運び込ませるそうです」
「・・・それしかないわね」
(そう、私たちはそうするしかない。・・・それが狙いだとすれば)
曹操はおもむろに立ち上がり、天幕の外へ出る。
「華琳さま?どちらへ?」
荀彧が曹操に声をかける。
「少し夜風に当たってくるわ。・・・一人にしておいて」
「はあ」
天幕の外はすっかり夜の帳が降りていた。辺りは篝火に照らされている。
「・・・あなたの狙いは解ったわよ、桃香。さあ、来るがいいわ、一刀。私はここであなたを待っててあげる。あなたたちの思惑通り、ね」
曹操は天を見上げる。
その顔は、満面の笑み。
「フフ、ウフフ、アハハハハハハハハ!!」
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第十話、汜水関戦です。
いやもう、疲れました。
書き直してはまた書き直しの繰り返し。
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