「さて、何がどうして、輝里、徐元直に恨まれているのか、話してもらいましょうか、劉伯安殿」
幽州軍の天幕内にて、その場にいる一同の視線が、中央に正座する男、幽州の牧・劉虞伯安に集まる。
「わ、わしは別になにもしておらん!あの娘の母親をちょっとばかり、口説いただけじゃ」
「徐苑さんを?」
「・・・母御のこともご存知で?」
なぜか一刀をじと目で見る愛紗。
「う、うん。輝里は洛陽での私塾時代の後輩だったんだ。お母さんにも、みんなでお世話になった。な、桃香、白蓮」
「そうだな。しかし輝里か。そういえば、あいつはやけに一刀になついていたな」
「そうだったね。いっつも、カズくん、カズくん、って後ろをついてまわってたっけ」
懐かしそうな表情の白蓮と、じと目で一刀をにらむ桃香。
(桃香おねえちゃん、目が怖いのだ)
(嫉妬の女帝はけんざいか)
「そういえば、輝里は私塾に入って一年程度で退塾したけど。・・・まさか?」
ぎろりと、劉虞をにらむ一刀。
「し、知らん!!わしはただ」
「ただ?」
「苑殿に一言言うただけじゃ。娘御は可愛い盛りだの、と」
「・・・情けないな、同じ漢王室の血を引くものとしては」
はあ~~、と深いため息をつく一刀。
「でも、私塾を辞めることになったぐらいで、ここまで恨むものかな?」
疑問を口にする桃香。
その言葉を聞いて、ビクッ!!と、体を震わす劉虞。
「まだ何かあるのか?」
「・・・何もない!何もないぞ!!苑殿が勝手に首を吊っただけじゃ!!わしは何も『ドガッ!!』はがあっ!!」
一刀のこぶしを食らって吹っ飛ぶ劉虞。
「この腐れ外道が」
「一刀、気持ちはわかるが、殺すなよ」
一刀を抑える白蓮。
「・・・わかってるさ。さて、輝里がこの馬鹿を恨む理由はわかった。で、これからどうするかなんだけど、愛紗、斥候は?」
「戻っています。周囲に伏兵などは見当たらないそうです」
「周辺の邑に被害は?」
「ないそうです」
「そうか」
「どうする、劉翔」
華雄の問いに、一刀は
「こいつの首を輝里にわたせば事は簡単だけど、こんなのでも一応州の牧だ。きちんと法に則った上で裁くべきだろ」
「じゃあ、どうするのだ?」
鈴々が丈八蛇矛を背に、一刀に問いかける。
「正面突破は下策も下策だしな」
「・・・へ~~~~」
華雄の発言に、感心した表情を向ける白蓮。
「何だ白蓮、その顔は?」
「いや!べつになんでも!!」
「・・・それで、どうしますか、義兄うえ?」
愛紗の言に一刀は。
「・・・・・・・・・一寸、話してみたいな、輝里と」
それからしばらくして、日没間近の城門前。
五千の兵をともなって、城から出てきた輝里と、縛り上げて猿轡をかました劉虞をつれた一刀が、対峙していた。
「輝里!要求どおり、こいつは引き渡す!」
「・・・わたしは首を差し出せ、と言った筈だけど?」
「徐苑さんの仇なんだろう?なら、君のその手で首を取ればいい。俺たちは邪魔はしない」
そう言って、劉虞を連れて輝里の方へと近づく一刀。
「むーーー!!むむーーーー!!」
声にならない声を上げる劉虞。
その劉虞に、剣を向ける輝里。
「な、輝里。少しだけ、話を聞いていいかな?」
「・・・なに?時間稼ぎ?」
「違うよ。・・・なあ、輝里。こいつを斬ってから、お前はどうする気だ?」
「・・・・・」
「こんなのでも一応は幽州の牧だ。そして俺たちは、その下にいる者として、お前を捕らえるか、討たざるを得なくなる」
無言のまま、微動だにしない輝里。
「そんな悲しいことを俺たちにさせるのか?一年あまりとはいえ、兄妹の様に過ごした俺や、桃香、白蓮に」
「・・・ならどうしろって言うの?法にでも任せろと?ふざけないでよ!!母さんが死んだ時、その法に守られたのはこいつの方だった!!何の罪にも問われず、それどころか、ぬけぬけと州牧になんかなって、ぬくぬくと生きてんのよ!!」
早口でまくし立てる輝里。
その目に涙が滲み出す。
「母さんが死んだ後、わたしは親戚中をたらいまわしにされた!!厄介者としてね!!最後は危うく野たれ死ぬとこだった!!森の中に捨てられてね!!」
「輝里・・・」
「輝里ちゃん・・・」
誰もかも、何も答えられずにいた。今までの鬱憤を晴らすかのような、輝里の悲痛な叫びに。
「・・・もしあの時、水鏡先生たちに出会わなければ、確実に母さんのところに行ってた。・・・先生のところで生活しながらも、こいつの事だけは、けしてわすれなかった。いつかこの手でこいつを殺す、それだけが私の生きている意味だった。・・・なのに」
顔を上げ、大粒の涙を流しながら、一刀たちを見やる輝里。
「なのになんで!!カズくんも!とうかちゃんも!白蓮姉ェも!!何でそれを崩そうとするの!!何で私なんかを気遣ってくれるの!!」
「・・・大切な妹、だからな」
「!!」
「そうだよ。輝里ちゃんは、私たちの大事な妹だよ。昔も、今も」
「そうさ。ここにいない、華琳や麗羽、蓮華だって、そう思ってるさ。みんな、お前を大事な妹だと、思っているさ」
一刀に次いで、桃香と白蓮が、口をそろえて、輝里を諭す。
「う、う、う、う、うあああああああっっっ!!!!!!!!」
叫びながら、輝里が剣を振りあげ、そして、劉虞に思い切り、振り下ろす。
「「「「!!!!!」」」」
ザシッ!!
と、その剣は劉虞ではなく、横の地面を穿った。
「輝里・・・」
「カズくん・・・とうかちゃん・・・白蓮姉ェ・・・。私、わた、し、うわあああああああん!!」
からん、と。輝里がその手に持っていた剣が落ちる。
そして、輝里は一刀にしがみついて泣きじゃくる。
「つらかったな・・・。うん、好きなだけ泣いていいよ」
「ふえええええええええん!!!!」
「よかった・・・輝里ちゃん」
「・・・やきもち焼かないのか?」
「・・・私だって空気ぐらい読みます」
「くくく」
「なによー。白蓮ちゃんの意地悪」
空気が和みつつある。
そのときだった。
「ぎやあああああああ!!!!」
「「「「!!!!」」」」
突然に響く、劉虞の悲鳴。
振り向いた一刀たちが見たのは、巨大な長刀で体を切り裂かれた劉虞と、
そのそばに立つ一人の男。
一刀たちは、その顔に見覚えがあった。
「お、おまえ!!どうしてここにいる!!」
白蓮の問いに、男は憎憎しげに答える。
「・・・どうして、だ?ふん、牢を破ってに決まってるだろうが。この馬鹿が」
その形相は、かつて一刀たちが見た男のものとは程遠く、歪んでいた。
かつて、桃香の名をかたり、愛紗たちを騙し、そして、白蓮によって、北平に投獄されているはずの、その男。
「・・・しぶとさだけは一流だな、え?このななし野郎」
日はもうすぐ暮れようとしていた。
あとがき。
さて、七話改め、六話の後編です。
台詞ばっかりで疲れた。
輝里の過去を中心に話を進めました。
いかがでしたでしょうか。
「ていうか作者、もうひとつは進める気ないの?」
あれ、輝里。
「あれ、輝里。じゃないわよ。躑躅さんも由も、そうとう暇もてあましてたけど」
当分未定。二人にはうまく言っといて。そのうちこっちで出番があるから。
「・・・ほんとーに?」
・・・たぶんね。
さて、最後の最後に悪役が一名復活。
憎まれっ子世にはばかる、ってやつです。
その目的は何か。
次回それが明らかに。
ではまた次回、第七話にて。
コメントお待ちしてます。
それでは。
「再見~」
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刀香譚更新です。
前回のあとがきで、今回を七話にすると書きましたが、
つながり的に後編としました。
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